このページのまとめ
- 事業譲渡は後継者問題や資金力不足など経営者の悩みを解決できる方法である
- 競争が激化している飲食業界では同業間での事業譲渡が頻繁に行われている
- M&A仲介会社や公的機関など事業譲渡に関する相談先は複数ある
後継者問題や資金不足などの理由で、飲食店の経営を継続できない経営者も少なくありません。特に、新型コロナが流行した2020年以降は、感染対策として外出を控える人が増えました。新型コロナが落ち着いても客足は伸びず、売上が停滞する飲食店も多いです。
このような状況を打開するべく、事業譲渡を検討する経営者が増えています。本コラムでは、飲食店が事業譲渡を行うメリットや成功させるポイントについて解説します。
目次
飲食店が事業譲渡を行う理由は?
飲食店の経営者が事業譲渡を行う主な理由には、次のようなことが挙げられます。
- 後継者を用意できない
- 資金が足りず経営を継続できない
- 経営者が体調を崩した
- 譲渡で資金を得るため
- 大手企業やグループの傘下に入るため
それぞれの理由について詳しく解説します。
1.後継者を用意できない
飲食店の経営者が事業譲渡を行う理由として、お店を引き継いでくれる後継者がいないことが挙げられます。後継者不在は飲食店に限ったことではなく、あらゆる分野の経営者が直面する問題です。後継者不在で事業継続が困難になり、黒字経営でも廃業に追い込まれる飲食店もあります。
身内や従業員に飲食店を承継できない場合、事業譲渡で後継者を選定することが可能です。廃業すると従業員やお客様に迷惑をかけるため、第三者を後継者にして事業存続を図る経営者が増えています。少子高齢化で後継者問題が深刻化するなか、いかに後継者を見つけられるかが重要な課題です。
2.資金が足りず経営を継続できない
飲食店の経営者が事業譲渡を行う理由に、資金力不足で経営を存続できないことが挙げられます。飲食店は、比較的参入障壁が低い業界です。参入障壁が低いということは、それだけ新規参入者が増えやすく、業界の競争が激化しやすくなるといった側面があります。
中小企業庁が発表した2021年版小規模企業白書「第3節 開廃業の状況」を見ると、飲食店は他の業種に比べて廃業率が高い業界です。運営の難易度が高い状況下で、不安定な経営に悩まされている経営者は少なくありません。安定した企業への事業譲渡を行い、資金力不足の問題を解決しようとする経営者もいます。
参照元:中小企業庁2021年版小規模企業白書「第3節 開廃業の状況」
3.経営者が体調を崩した
経営者が体調不良で経営継続が困難な場合に、事業譲渡を行う事例があります。一時的な体調不良であれば、臨時休業で対応することが可能です。しかし、経営者が慢性的な体調不良に悩まされている場合は、たとえ回復しても再度体調を崩す可能性があります。
特に個人事業主は、何度も休業すると客足が遠のき、経営が不安定になるケースも少なくありません。経営者が体調を崩して店舗運営の継続が困難なときは、後継者や従業員に事業を引き継いでもらう、または事業譲渡により後継者を見つけることが必要です。
4.譲渡で資金を得るため
飲食店の事業譲渡を行うと、譲渡利益を得られます。譲渡利益とは、売却価格から税金と消費税を差し引いた金額のことです。経営者が高齢者である場合、老後に備えて不自由なく暮らせるだけの資金を確保したいと考える方もいます。
ほかにも、事業譲渡で得たお金を新たな事業に投資したいと考える経営者もいます。飲食店の立地が良かったり使用年数が短かったりする場合、高値で譲渡できるケースも多いです。まとまった資金が必要な場合、事業譲渡して譲渡利益を獲得することも有力な選択肢になります。
5.大手企業やグループの傘下に入るため
大手企業やグループの傘下に入る目的で、事業譲渡を行う経営者も多いです。飲食店は廃業率が高い業界ですが、困難な状況下でも、競合他社との差別化を図りながら売上を伸ばす飲食店もあります。
この勢いで売上を伸ばせればよいですが、個人事業や中小企業の場合、ある程度売上が伸びるとそれ以上の発展が難しくなるケースが多いです。大手グループの傘下に入れば、発展につなげられる可能性があります。さらなる発展を目指して、事業譲渡を決断する経営者も少なくありません。
飲食店が事業譲渡を行うメリット・デメリット
後継者問題や資金不足などの理由で、飲食店の事業譲渡を決断する経営者もいます。事業譲渡は多くのメリットがある一方、考慮すべきデメリットがあるのも事実です。飲食店が事業譲渡を行うメリットとデメリットについて詳しく解説します。
メリット
事業譲渡を行うメリットは、以下のとおりです。
- 飲食店を存続できる
- 株式を必要としない
- 譲渡先を見つけやすい
事業譲渡により、これまで経営してきた飲食店を存続できるメリットがあります。後継者問題や資金不足などで経営継続が難しい場合、廃業に追い込まれる経営者は少なくありません。しかし、事業譲渡を選択すれば、後継者がいなくても事業承継が実現して飲食店を存続できます。
また、事業譲渡は会社の法人格を残した状態で、個別の資産を譲渡先に引き継いでもらうことになります。資産として譲渡できるため、株式を必要としないのも事業譲渡のメリットです。
さらに、株式譲渡に比べると、事業譲渡は譲渡先を見つけやすいメリットもあります。株式譲渡の場合、買い手は資産と一緒に負債も引き継がなければいけません。一方、事業譲渡は、特定の事業のみ譲渡できるため、買い手にとって必要な事業を選択できることから譲渡先が見つかりやすいです。
デメリット
事業譲渡を行うデメリットは、以下のとおりです。
- 複雑で手間がかかる
- 許認可の取り直しが必要
事業譲渡は、手続きが複雑で手間がかかるデメリットがあります。事業譲渡の手続きが複雑で手間がかかるのは、譲渡する資産を個別に売買する必要があるためです。事業譲渡の手続き期間は、株式譲渡より長くなるケースもあります。
また、飲食店の事業譲渡の場合、許認可の取り直しが必要です。事業譲渡を行うと経営者が変わるため、許認可が白紙になります。事業を引き継いだ買い手は、白紙になった許認可に再度申請しなければいけません。計画的に進めないと、営業開始するまでに時間がかかる場合があります。
飲食店のM&A・事業譲渡の事例
飲食店の事業譲渡における企業の成功事例には、次のようなものが挙げられます。
- ゼンショーホールディングスの買収事例
- 吉野家ホールディングスの売却事例
- サトレストランシステムズの売却事例
それぞれの事例について詳しく解説します。
ゼンショーホールディングスの買収事例
ゼンショーホールディングスは、牛丼チェーン「すき家」をはじめ、「ジョリーパスタ」や「はま寿司」などの飲食店を経営する企業です。
2023年6月13日、ゼンショーホールディングスは、北米や英国で寿司チェーンを手掛けるスノーフォックス・トップコを買収すると発表しました。買収の理由は、日本食が強いスノーフォックスを傘下に加え、コロナ禍後の経済再開で需要回復が見込まれる海外の外食事業拡大を目指すためです。
参照元:ゼンショーホールディングス「SnowFox Topco Limitedの株式取得(子会社化)に関するお知らせ 」
吉野家ホールディングスの売却事例
吉野家ホールディングスは、外食事業を中心に国内トップブランドを数多く有する企業です。2020年2月29日、「ステーキのどん」や「フォルクス」などを展開する完全子会社のアークミールを、関東圏に160店超を展開する焼肉レストランである安楽亭に売却しました。
アークミールは競争の激化により、2019年2月期に9億円の営業赤字を計上しています。吉野家ホールディングスは、不採算事業を切り離し、主力事業に資源を集中するために売却を決断しました。
参照元:安楽亭「株式会社アークミールの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
サトレストランシステムズの売却事例
サトレストランシステムズは、和食レストラン「和食さと」を運営する企業です。2017年4月、すし主体の和食店「すし半」を、懐石料理を中心とした和食レストランを展開する梅の花に売却しました。
売却の理由は、「和食さと」との差別化が難しく、事業拡大は困難であると判断したためです。サトレストランシステムズは、今後天丼など低価格業態への投資を強化していきます。
参照元:サトレストランシステムズ「会社分割による新会社への当社のすし半事業の承継、当該新会社の株式譲渡に関する基本合意締結のお知らせ」
飲食店が事業譲渡を成功させるポイント
飲食店の事業譲渡を成功させるポイントには、次のようなことが挙げられます。
- 譲渡先について調査する
- 事業譲渡の目的を再検討する
- 譲歩できる部分とできない部分を明確にする
- 開示する情報は正確にする
- 専門家と相談して進める
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
1.譲渡先について調査する
飲食店の事業譲渡を行うと、今後の運営を譲渡先に任せることになります。競争が激化している飲食業界で、安定した経営を行うのは難しいです。経営方法を間違えると、譲渡後に廃業してしまう可能性もあります。経営していた飲食店に思い入れのある場合は、できる限り廃業は避けたいでしょう。
廃業という最悪の事態を避けるためにも、譲渡先について調べることが大切です。たとえば、買い手企業の経済状況や実績を調べてみましょう。ただし、目に見える情報だけがすべてとは限りません。直接買い手と話せる機会を設けて、経営を任せられる相手かどうか確認することが重要です。
2.事業譲渡の目的を再検討する
事業譲渡を行う場合、飲食店を譲渡する目的を明確にしておきましょう。
事業譲渡は必要な事業を選択して引き継ぐことができるため、株式譲渡と比べると譲渡先を見つけやすいです。しかし、買い手のニーズをうまく汲み取りながら、交渉を進めないと契約は成立しない場合があります。自分の都合を優先した目的を設定している場合は再検討しましょう。
また、事業譲渡の目的を明確にするのは売り手のためでもあります。譲渡先が決まり交渉が進み始めると、「もっと高く売れるのでは」など欲が出てくることがあります。これでは話が前に進まないため、軸となる目的をきちんと設定することが重要です。
3.譲歩できる部分とできない部分を明確にする
事業を第三者に引き継ぐ際は、自分が譲歩できる部分とできない部分を明確にすることが重要です。事業譲渡を進めるにあたって、買い手と条件が合致すれば問題なく交渉を進められます。しかし、売り手と買い手との条件が合致しない場合、交渉が難航して話が進まなくなるケースも多いです。
事業譲渡を円滑に進めるために、買い手の条件をすべて飲んで交渉を進める方法もあります。しかし、買い手の条件を受け入れすぎると、売り手が望む利益は得られないかもしれません。売り手として譲れない条件があるのであれば、買い手に受け入れられない考えを伝えることも必要です。交渉を行う前に譲れない条件を明確にし、事業譲渡の目的を果たせるように準備しましょう。
4.開示する情報は正確にする
事業譲渡において、必要な情報は正確に提示することが重要です。事業譲渡は株式譲渡と異なり、当事者が合意すれば売り手の負債を引き継ぐ必要はありません。しかし、事業譲渡により事業を承継するため、買い手は売り手の持つリスクに警戒するものです。
不正確な情報を提示すると買い手に不信感を与え、交渉が破綻する可能性もあります。信頼を損なわないためにも、正確な情報を開示することが求められます。
5.専門家と相談して進める
事業譲渡で疑問や不安なことがある場合は、専門家に相談することをおすすめします。特に、事業譲渡は専門的な知識が求められる場面が多いです。個人で進めるより、専門家の協力を得たほうがプロセスに費やす時間や労力を削減できます。無料で相談を受けてくれる相談先も多く存在するため、サポートが必要なときは気軽に連絡してみましょう。
事情譲渡の相談先は、M&A仲介会社や金融機関、弁護士、税理士などがあります。特に、M&A仲介会社は、豊富な知識と経験を有するプロが交渉成立までサポートしてくれます。また、自社にあう譲渡先も紹介してくれるため、納得いく成約が実現しやすいです。譲渡先の候補探しや契約交渉をスムーズに進めたい場合は、M&A仲介会社に相談してみましょう。
まとめ
後継者問題や資金不足などの理由で飲食店の経営を継続できない場合、廃業しないためには事業譲渡を行うのもひとつの選択です。事業譲渡を行うことで、これまで経営してきた飲食店を存続できます。また、事業譲渡は買い手が必要な事業を選択できることから、譲渡先を見つけやすいです。飲食店を経営し続けることが困難である場合は、事業譲渡を検討してみてはいかがでしょうか。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&Aの相談から成約まで一貫したサポートを提供しています。各領域に特化した専門コンサルタントが在籍しており、納得いく成約が実現可能です。また、完全成功報酬体系を採用しているため、M&A成約まで基本的に成功報酬は発生しません。(中間金のみ買手企業よりいただいております。)
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社では、無料相談を受け付けています。飲食店の事業譲渡を前向きに検討している方は、弊社にご相談ください。