M&Aの現状とは?市場規模や件数の推移、今後の動向について解説
2024年2月29日
このページのまとめ
- 国内のM&Aの件数は増加傾向で推移している
- 国内経済の縮小や事業承継問題などを背景に、今後も増加する見込み
- M&Aを実施する際は、注力事業の見直しとタイミングの見極めがポイント
M&Aを検討中で、国内のM&Aの現状に興味・関心をお持ちの経営者の方もいるのではないでしょうか。M&Aの件数は増加傾向で推移しており、2022年には過去最高の4,304件を記録しています。
本コラムでは、国内のM&Aの現状として、市場規模や件数の推移などを解説します。M&A市場が拡大傾向にある背景や、今後の動向予測に関してもお伝えするため、M&Aの現状への理解を深めるために、ぜひ参考にしてください。
目次
日本国内のM&Aの現状
中小企業庁の「2023年度版中小企業白書・小規模企業白書」によると、M&Aの件数は増加傾向で推移しており、2022年には過去最高の4,304件となりました。
この数字は公表されている件数のみであるため、未公表のM&Aも一定数存在することを想定すると、日本国内でのM&Aはさらに活発化していることが推測されます。
日本国内のM&Aの件数は、統計が始まった1985年以降から、バブル崩壊やリーマンショックなどの不況に見舞われた時期を除くと、増加し続けている点が特徴です。1985年には約260件だった件数が、2022年には16倍以上に拡大しています。
国内企業同士のM&A
国内企業同士、つまりIN-INの形態でのM&A件数は、先ほど確認した全体の件数と同様に、増加傾向にあります。2021年時点で、全体のうち国内企業同士のM&Aが占める割合は約80%です。
業界別にみるとM&A件数が増加しているのは次の業界であり、その中でも特に増加が目立つのは、医療業界です。代表的なM&Aとしては、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの買収や、富士フイルムによる和光純薬工業の買収などが挙げられるでしょう。
- 医療業界
- IT業界
- ソフトウェア業界
- 食品業界
- 調剤薬局およびドラッグストア業界
- 建設業界
- 製造業界
- 運送業界
また、近年ではベンチャー企業のM&Aも盛んに行われています。
国内企業と海外企業とのM&A
日本国内のM&Aには国内企業同士のM&Aだけでなく、「国内企業が海外企業を買収」および「海外企業が国内企業を買収」するM&A、いわゆるクロスボーダーM&Aも含まれます。いずれも増加傾向にある点を押さえておきましょう。
国内企業から海外企業へのクロスボーダーM&Aの件数は、日本国内のM&A件数のうち約15~20%程度と少数です。しかし、M&Aの成立金額は日本企業間のM&Aよりも高くなっています。日本企業間のM&Aは中小企業を中心とする小規模なものが多いのに対し、日本の大手企業が海外の大手企業をM&Aするケースが多いためです。
日本企業は、主に海外事業展開への足がかりの形成や、海外企業が保有する高度な技術などの経営資源の取り込みなどを目的として、海外企業を買収します。
また、海外企業から日本企業を買収するM&Aの件数は、極めて少数です。業績不振に陥った日本の大手企業を海外の企業が買収するケースなどが多いため、M&Aの成立金額は、年によって大きな変動がみられます。
参照元:中小企業庁「2023年度版中小企業白書・小規模企業白書」
経済に影響を与えた事象とM&A件数の関係
ここからは、経済に大きな打撃を与えた事象である「リーマンショック」と「新型コロナウィルス」と、M&Aの件数の関係を確認していきましょう。
リーマンショック
2008年9月に起きたリーマンショックはM&Aの件数にも影響を及ぼし、2009年および2010年はM&A全体の件数、金額ともに大きく減少しました。
リーマンショック以前の2000年~2003年は目立った変化はなく1700件前後で推移し、その後大幅に増加しましたが、リーマンショック後の2011年には増加前と同水準の1,687件にまで落ち込みます。
新型コロナウイルス
コロナ禍となった2020年の国内のM&A件数は3,730件と、前年の4,088件を大幅に下回りました。
日本企業同士のM&Aの件数は2%程度減ったのに対し、海外企業が関わるM&Aの減少は30%程度と、減少幅は約15倍に上りました。先の見通しが不透明な状況において、海外企業との再編を見送った国内企業が多かったと推測されます。
国内M&A市場が拡大している理由
国内のM&A市場が拡大している要因としては、まず、少子高齢化に伴い日本国内市場が縮小傾向にあることが挙げられるでしょう。縮小する国内市場への対抗策として、事業の「集約化」と「グローバル化」の必要性を認識し、アクションを起こしてきた大企業は少なくありません。
たとえば、百貨店やコンビニエンスストアは、統合による業界再編を進めてきました。また、一部の大企業はクロスボーダー型M&Aを実施し、海外進出を実現しています。
一方、中小企業においても、M&Aの件数が増加しています。以下に挙げた「M&Aを行う理由」は、大企業にあてはまる内容もありますが、主に中小企業が抱える問題が背景にあるといえるでしょう。
- 事業規模の拡大のため
- 経営立て直しのため
- 設備の老朽化
- 後継者不在のため
- 労働人口の減少による人手不足のため
それぞれの内容を確認していきましょう。
1.事業規模の拡大のため
M&Aは、事業規模の拡大のための手段の1つです。通常、事業拡大を行うには、設備やノウハウなどの経営資源を新たに確保しなければなりません。しかし、これらの経営資源を集めるためには、資金はもちろん、時間やコストを投下することが求められます。特に中小企業では、事業拡大のための経営資源の獲得が困難なケースがほとんどです。
M&Aを行うことで、短期間のうちに他社の保有する施設や人材、ノウハウなどを得られます。また、自社の事業との相乗効果が期待できる企業を買収することで、自社の事業の発展を目指せることも、M&Aが増加している要因といえるでしょう。
2.経営立て直しのため
経営の立て直しのために、M&Aによる不採算事業の売却を選択するケースもあります。不採算事業を抱え続けることで、経営不振に陥る可能性が高まるためです。
M&Aによる不採算事業の売却に踏み切り、成長が期待できる事業に限りあるリソースを集中投下することで、経営の立て直しを図りやすくなります。
3.設備の老朽化
保有する設備の老朽化も、M&Aを選択するきっかけの1つです。設備の老朽化がすすむと、生産性が伸び悩んでくる可能性が高くなるはずです。しかし、設備投資を行うためには、資金が必要になります。施設の老朽化を理由としてM&Aを行う企業が増えることで、M&A市場の拡大につながります。
なお、設備の老朽化が著しい場合、M&Aに際してマイナスの評価になることがあるため、売却前に設備のチェックをしておくことがおすすめです。
4.後継者不在のため
M&A市場の拡大の背景には、特に多くの中小企業が抱える、後継者不在の問題があると考えられます。全国の企業の社長の高齢化に伴い後継者不足が深刻化しており、後継者がいないために廃業する企業の約6割は、黒字廃業とされています。
M&Aを実施することで、この後継者不在問題を解決することが可能です。M&Aで名乗りをあげた新たな後継者に企業を任せられれば、従業員の雇用や取引先との契約が継続される可能性が高いといえるでしょう。そのため、従業員や取引先へのマイナスの影響を最低限に抑えられます。
5.労働人口の減少による人手不足のため
人手不足を解消するためのM&Aも、増加傾向にあります。少子高齢化によって働き手が不足している状況の中、人材を確保するためには、コストと時間をかけなければなりません。さらに、集めた人材に対する継続的な教育が求められるほか、定着率を上げるためのフォロー体制の整備も不可欠です。しかし、多くの中小企業はそういった対応を取ることが困難です。
M&Aによって、質の高い従業員が多く在籍する企業を自社グループの傘下に迎え入れることで、人手不足の解消が期待できます。
国内M&Aの事例
ここでは、次の4つの国内M&Aの事例をご紹介します。
- ニトリホールディングスが島忠を子会社化
- GMOインターネットがOMAKASEを子会社化
- 大王製紙と丸紅がSanther社を子会社化
- シャープがNDSを子会社化
順番に確認していきましょう。
1.ニトリホールディングスが島忠を子会社化
株式会社ニトリホールディングスは、2020年12月に株式会社島忠の株式の公開買付(TOB)を行い、子会社化しました。ニトリホールディングスと島忠は、家具やインテリア用品を取り扱う同業であり、島忠はホームセンター「島忠」「HOME’S」を運営することでも知られています。
当初、同業大手のDCMホールディングスが友好的に島忠へのTOBを進めていましたが、その直後、ニトリホールディングスが敵対的TOBを仕掛けることを表明します。ニトリホールディングスがDCMホールディングスよりも高い買収額を提示すると、最終的に島忠はDCMへの同意を撤回し、ニトリホールディングスのTOBに同意しました。
ニトリホールディングスのこのM&Aのねらいは、ホームセンター事業への新規参入と、島忠が首都圏に持つ店舗網の獲得といわれています。
参照元:株式会社ニトリホールディングス「株式会社島忠(8184)に対する公開買付けの開始 及び 同社との間の経営統合契約の締結に関するお知らせ」
2.GMOインターネットがOMAKASEを子会社化
インターネット事業を手掛けるGMOインターネットは、2021年に飲食店・レストランの予約管理サービスを提供するOMAKASEを、株式交付の手法によって子会社化しました。以前から、自社株式を用いたM&Aの手法として株式交換がありましたが、100%子会社化するケース以外は使用できない制度でした。
しかし、株式交付制度を利用すると、100%子会社化しない買収であっても、自社株式を活用してM&Aを実行できます。
この買収の目的は、GMOインターネットのEC支援・決済などに関するノウハウと、OMAKASEの顧客基盤や予約管理サイトの運営ノウハウを融合させ、企業価値を向上させることとされています。
参照元:GMOインターネット株式会社「人気飲食店の予約管理サービスを展開する 株式会社 OMAKASE の株式交付(簡易株式交付)による子会社化に関するお知らせ」
3.大王製紙と丸紅がSanther社を子会社化
2020年2月に、大王製紙株式会社と丸紅株式会社が、ブラジルの衛生用品メーカーであるSanther社を子会社化しました。大王製紙は「エリエール」をはじめとする紙の綜合メーカーであり、丸紅はエネルギーや食料などを手掛ける総合商社です。
ブラジルは人口増加と経済成長が著しく、衛生用品の需要も高まっているため、進出に成功すれば大きな事業拡大が見込まれます。大王製紙は長期経営計画において海外売上比率の拡大を掲げており、ブラジル進出を足がかりとして、南米に進出し事業拡大を目指すとされます。
参照元:大王製紙株式会社/丸紅株式会社「ブラジル衛生用品メーカーSanther 社の株式取得(子会社化)完了に関するお知らせ (開示事項の経過) 」
4.シャープがNDSを子会社化
総合電機メーカーであるシャープ株式会社は2020年11月に、モニターやプロジェクターなどを取り扱う、NECディスプレイソリューションズ株式会社(NDS)を子会社化しました。
シャープは国内市場に強く、NECディスプレイソリューションズは海外市場に強いという両社の相互補完的な強みを活かし、連携することで効率の良い事業拡大が見込めます。
参照元:シャープNECディスプレイソリューションズ株式会社「新生「シャープNECディスプレイソリューションズ」が事業開始」
国内M&A市場の今後の展望
拡大傾向にある国内M&A市場ですが、M&Aの国内件数は国内経済の縮小や人手不足、中小企業の事業承継問題などを背景に、今後も増加していくことが見込まれます。
国内経済が縮小することへの懸念から、より大きな市場を獲得するために海外展開を図る企業も増えています。海外拠点を得るための手段としても、M&Aが利用されていくでしょう。
そのほか、M&Aをイグジットとして定めるベンチャー・スタートアップ企業も増えつつあります。短期間で企業を成長させM&Aで高額売却を行い、投資資本の回収を目指す手法です。現状では、IT分野の企業に多くみられます。
M&Aは、今後も経営戦略の1つとして、さまざまな形で活用されていくことが想定されます。
M&Aを検討する際のポイント
M&Aを検討する際に意識したいポイントは、以下の2点です。
- 事業計画と注力したい事業の見直し
- タイミングの見極め
1つずつ解説していきます。
事業計画と注力したい事業の見直し
M&Aを検討する際は、まず事業計画を精査し、注力していきたい事業を絞り込む必要があります。いわゆる「選択と集中」です。中核となる事業の見極めを行い、組織内の経営資源を集中的に投下します。
具体的には、不採算事業をM&Aで売却したり、力を入れていきたい事業を買収し拡大していきます。これらの取り組みは、経営の効率化や企業価値の向上につながるでしょう。
タイミングの見極め
M&Aの成功率は、タイミングによって大きく左右されます。そのため、タイミングの見極めが非常に重要です。たとえば、売り手側の企業がM&Aを仕掛けるのにもっとも適したタイミングは、売却するには惜しいと感じられる、余力を残している時期とされます。
しかし、余力があるからと売却を先延ばしにした結果、業績が下がり始めると企業価値は下がり、買い手がつきにくくなります。買い手側からすると、黒字化の見込みがないような企業を高額で買収するメリットは、ほぼないためです。
また、業界再編や景気の改善によりM&Aの需要が高まっている時期も、売却に適したタイミングです。この場合も、売却価格がさらに高騰するのを待っていると、あっという間に需要のピークが収まってしまう場合があるため、注意しましょう。
自社の経営状態や業界の動向を常にチェックし、ベストなタイミングを見極めることが、M&Aを成功させる鍵といえます。
まとめ
M&Aの件数は増加傾向で推移しており、2022年には過去最高の4,304件となりました。M&Aの国内件数は、今後も増加していくことが見込まれます。国内経済の縮小や人手不足、中小企業の事業承継問題などを背景に、経営戦略の1つとして活用されていくことが推測されるためです。
実際にM&Aを行う際は、事業計画を精査し、注力していきたい事業を絞り込む必要があります。また、実施するタイミングによって成功率が大きく左右されるため、タイミングの見極めが非常に重要です。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。経験豊富なコンサルタントが御社の状況や希望条件を丁寧にヒアリングし、適切なスキーム策定や交渉、契約書作成など、M&Aのあらゆるプロセスをご支援いたします。
料金体系はM&Aご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です。M&Aのご成約まで、無料で利用できます(譲受会社のみ中間金あり)。ご相談も無料です。M&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にご連絡ください。