このページのまとめ
- 適格株式移転とは、税制上の優遇措置を受ける要件を満たした株式移転のこと
- 適格株式移転の要件を満たすと、円滑に組織再編を進められる可能性がある
- 適格株式移転は、会社同士の関係性に基づき3つの方法に大別される
- 支配関係が弱くなるにつれ、適格株式移転の要件の数が増える
M&Aの手段として株式移転を検討中で、適格株式移転の要件が知りたいとお考えの経営者の方もいるのではないでしょうか。適格株式移転とは、税制上の優遇措置を受ける要件を満たした株式移転のことです。
本コラムでは、適格株式移転の要件や注意点、税務処理などを解説します。株式移転の3つの方法もご紹介するため、株式移転の概要やその要件について理解を深めるために、ぜひ参考にしてください。
目次
適格株式移転の概要
適格株式移転とは、株式移転を実施する際に、税制上の優遇措置を受ける要件を満たしていることを指します。そもそも株式移転とは、組織再編の手法の1つで、既存の1社もしくは複数の株式会社が新規に親会社を設立し、その完全親会社に株式をすべて移転し完全子会社となることです。
一般的に、株式移転にあたっては税金が発生します。しかし、適格株式移転の条件を満たすと課税されないか、税金が優遇される点が最大のメリットです。
なお、株式移転の実施後に既存の株式会社の株式をすべて保有する新設法人のことを、「株式移転完全親法人」と呼びます。一方、株式移転の実施後に完全子会社となる既存の株式会社は、「株式移転完全子法人」といわれます。
株式移転と株式交換の違い
株式移転が新しく完全親会社を設立し、既存の株式会社は完全子会社となるのに対し、株式交換は、支配関係や提携関係にある相手企業を100%完全子会社化する組織再編の手法です。また、株式移転は新しく設立した完全親会社にすべての株式を移転する一方で、株式交換は既存の企業同士で株式を交換する点も違いといえるでしょう。
会社法上の取り扱いも異なり、株式移転は組織再編行為のうち「新設型再編」ですが、株式交換は「吸収型再編」に該当します。
そのほか、株式交換では子会社化された企業の法人格は吸収されることが多いですが、株式移転によって完全親子関係が成立した場合は、子会社の法人格を残す傾向にあります。
適格株式移転が行われる状況
適格株式移転が認められると、株式の移転時に税制上の優遇措置を受けられるため、企業や株主の納得感を得られやすく、円滑に組織再編を進めることが可能です。
また、連結納税制度によるメリットを享受することを目的として、株式移転後に持株会社化を行うこともあります。連結納税制度とは、完全親会社とその完全支配下にある企業グループを1つの納税単位とみなして、法人税を計算する制度です。連結納税によって、完全親会社の繰越欠損金をグループ内で適用し、納税額を軽減することが可能です。
株式移転の3つの方法
株式移転は、会社同士の関係性に基づき、次の3つの方法に大別されます。完全親会社の支配率が低下するほど、適格要件が追加されていくイメージです。
- 完全支配関係となる株式移転
- 支配関係となる株式移転
- 支配関係のない企業同士での株式移転
順番に確認していきましょう。
1.完全支配関係となる株式移転
「完全支配関係」とは、1つの株式会社あるいはグループ内の子会社同士が新規の完全親会社に株式移転を行い、発行済株式のうち除外株式以外のすべてを完全親会社に移転するケースを指します。「100%グループ関係」ともいいます。
完全支配関係は法人税法上の定義であり、会社法や企業会計基準とは異なることに注意しましょう。
2.支配関係となる株式移転
「支配関係」には、完全支配支配関係と同様に新規の完全親会社に株式移転を行い、完全親会社と完全子会社の関係であるものの、持ち株が50%〜100%未満のケースが該当します。
3.支配関係のない企業同士での株式移転
経営統合などでは、前述の支配関係にはない企業同士で、株式移転が行われます。具体的には、支配率が50%未満、または共同事業が目的のケースが該当します。
完全支配関係内再編における適格株式移転の要件
完全支配関係にある企業同士の再編における、適格株式移転の要件は、以下の2点です。
- 親会社から株式以外の交付を受けない
- 完全支配関係が維持される
それぞれ解説していきます。
親会社から株式以外の交付を受けない
税制上の優遇措置を受けられる適格株式移転の要件として、「完全子会社は、完全親会社から株式以外の交付を受けない」ことが挙げられます。ただし、完全子会社が株式以外の交付を受けても適格要件と認められる例外が、以下のケースです。
- 交付する株式に端数が生じる場合に、端株を現金で買取する代金
- 企業再編に反対する株主が買取請求を行った場合の買取代金
完全支配関係が維持される
株式交換前の完全支配関係が株式移転後も維持される場合は、適格株式移転の要件を満たしたと認められ、税制上の優遇措置を受けられます。後述しますが、この株式継続保有要件は完全支配関係だけでなく、支配関係や支配関係のない共同事業目的での関係においても必須です。
支配関係内再編における適格株式移転の要件
支配関係にある企業同士の再編に必要な適格株式移転の要件は、以下のとおりです。
- 親会社から株式以外の交付を受けない
- 支配関係が維持される
- 80%以上の従業員が在籍し続ける
- 事業を継続する
支配関係内再編においては、これらすべての要件を満たしている必要があります。順番に確認していきましょう。
親会社から株式以外の交付を受けない
完全支配関係でお伝えした内容と同じように、適格株式移転の要件をクリアするためには、基本的に完全親会社が完全子会社に対して交付が認められるのは株式のみとされます。ただし、完全支配関係の場合と同じように、以下のケースは例外です。
- 交付する株式に端数が生じる場合に、端株を現金で買取する代金
- 企業再編に反対する株主が買取請求を行った場合の買取代
支配関係が維持される
完全親会社の持ち株が50%超から100%未満の支配関係においても、株式移転前の完全親子会社と完全子会社の関係性が維持されなければなりません。
80%以上の従業員が在籍し続ける
支配関係内再編における、適格株式移転の要件として、おおむね80%以上の従業員が株式移転後も在籍し続けることが挙げられます。
企業の組織再編は、それを受け入れられない従業員が離職してしまうリスクを伴うものです。しかし、株式移転の適格要件を満たすには、大半の従業員が企業に残る必要があります。
ただし、おおむね80%以上の従業員が引き続き在籍する見込みがあれば要件を満たすため、80%に若干未達であっても問題ないとされます。
事業を継続する
支配関係の場合、適格株式移転の要件を満たすには、株式移転前の完全子会社となる企業の事業を株式移転後も継続しなければいけません。たとえば、株式移転前の事業が通信情報業であった場合、株式移転後も変わらず通信情報業を行うことが求められます。
支配関係のない企業間での適格株式移転の要件
互いに独立した企業同士や、共同で事業を運営している企業などの間で適格株式移転の適用を受けるには、以下の要件すべてに該当している必要があります。
- 親会社から株式以外の交付を受けない
- 株式移転後も親会社と子会社の支配関係が継続する
- 子会社株主は株式移転後に親会社の株式を継続保有する
- 80%以上の従業員が在籍し続ける
- 事業を継続する
- 子会社となる企業同士の事業に関連性がある
- 子会社同士が同規模、あるいは特定役員は1人以上残る
前述のとおり、完全親会社による支配率が低くなるにつれ、要件をクリアするハードルが高くなっているのがわかるでしょう。
また、そもそも企業間の資本関係がない、あるいは小さい場合、それぞれの意向が対立する可能性が高まります。それにより、適格株式移転の要件をクリアすることも難しくなる傾向にあります。それぞれの内容をみていきましょう。
親会社から株式以外の交付を受けない
支配関係のない企業間でも、完全子会社が完全親会社から株式以外の交付を受けないことが、適格株式移転の要件とされます。端株を現金で買取する代金や、企業再編に反対する株主が買取請求をした場合の買取代は例外とされることも、おさえておきましょう。
株式移転後も親会社と子会社の支配関係が継続する
株式移転後も、完全親会社と完全子会社の支配関係が維持されることが見込まれる必要があります。
子会社株主は株式移転後に親会社の株式を継続保有する
完全子会社となる企業の20%以上の株式を保有する株主は、完全親会社から交付される株式をそのまま保有していなければなりません。
株主が完全子会社となる企業に思い入れがあるような場合は、親会社から株式が交付されるようになってしまうと、株式を保有し続ける理由に欠けるため、手放す判断をする可能性もあるでしょう。しかし、完全子会社の株主は新設された完全親会社の株を譲渡することなく、保有し続ける必要があります。
80%以上の従業員が在籍し続ける
支配関係のない場合でも、株式移転後もおおむね80%以上の従業員が継続して同じ事業に従事する見込みであることが必須です。
株式移転の前後で従業員の人数を厳密に把握することが困難なケースも、見受けられます。そのため、厳密に80%以上の従業員の在籍を求めるわけではない点も、ここまでお伝えしてきた、より支配関係が強いケースと同様です。
企業再編を機に、自己都合で退職を選ぶ従業員が出る可能性もあります。もともと従業員が少ない中小企業などでは、数人が退職することで80%を大きく割り込むこともあるため、注意が必要です。
事業を継続する
支配関係のない企業間の株式移転においても、完全子会社の事業内容を変更せず、継続しなければなりません。
子会社となる企業同士の事業に関連性がある
完全子会社となる企業が同業種である、あるいは事業を営むうえで不可欠な関係性にある必要があるといった状況が求められます。
子会社同士が同規模、あるいは特定役員は1人以上残る
支配関係のない企業間においては、適格株式要件である「子会社同士が同等程度の規模である」、あるいは「子会社に特定役員が1人以上残る」のいずれかに当てはまっている必要があります。特定役員とは、社長・代表取締役・専務取締役など、自社の経営に直接関わる役員のことであり、社外役員などの外部人材はあてはまりません。
「子会社同士が同等程度の規模である」ことは、完全子会社間の売上高や従業員数に5倍以上の規模感の違いがないことを意味します。子会社同士が同規模であるかどうか、また完全子会社化によって役員が全員刷新されていない、という状況のいずれかに該当する必要があります。
適格株式移転における注意点
前述のとおり、完全支配関係の企業間での株式移転では、企業グループを1つの納税単位とみなして法人税を計算する、連結納税制度を活用することが可能です。
連結納税制度は税務面のメリットが大きい反面、租税回避目的の利用に対して、厳しい規制が入ることが一般的です。また、完全親会社と完全子会社の状況によっては、デメリットにもなりうる点に注意しましょう。
たとえば、企業グループ内に中小企業がある場合、交際費の定額控除限度額などの中小企業向けの特例は、親会社の資本金によって適用の可否が決まります。親会社の資本金が1億円以上の場合は、連結納税のもとでは特例を受けられなくなる可能性があります。
また、連結納税は1度導入したら、途中でやめられないことも認識しておく必要があるでしょう。連結納税の導入を目的とした適格株式移転を検討している場合は、M&Aや税務などの専門家に相談し、サポートを受けることがおすすめです。
適格株式移転における税務処理
ここからは、「完全親会社」「完全子会社」「株式移転前の子会社の株主」のそれぞれにおける、適格株式移転の税務処理を解説していきます。
株式移転の税務は、適格株式移転にあたるか、非適格株式移転にあたるかで、課税上の取扱いが異なる点をおさえておきましょう。非適格株式移転とは、文字どおり適格要件を満たさない株式移転による組織再編のことです。原則通りに譲渡損益が認識されるため課税対象となるものが多く、税金対策となることは少ないのが特徴です。
完全親会社の場合
完全親会社が適格株式移転によって、完全子会社から株式を取得する際は、以下のように、完全子会社の株主の人数に応じて算出方法が変わります。
完全子会社の株主数が50人未満:簿価に株式取得でかかった費用などを加算して算出する
完全子会社の株主数が50人以上:簿価純資産に株式の取得にかかった費用などを加えて算出する
一方、非適格株式移転の場合、完全親会社の設立日の時価をもって完全親会社が取得する株式の取得価額を算出し、その額を資本金などとして増額します。
完全子会社の場合
適格株式移転では、完全子会社の資本金などは株式移転前から変動していません。そのため、税務処理は不要です。
非適格株式移転の場合、完全子会社では一部の資産を時価評価し、時価評価した資産を損益参入する必要があります。
株式移転前の子会社株主の場合
株式移転前の子会社株主に対する課税は、適格株式移転か非適格株式移転かによって、算出方法が変わるわけではありません。完全親会社から交付があったのが株式のみか、株式以外の交付があったかによって課税の有無が決まります。
完全子会社株主が交付を受けたのが株式のみのケースでは、簿価での引継ぎとなるため、株主は課税されません。一方、完全子会社株主が完全親会社から株式以外にも対価を受け取った場合は、株式以外の対価は時価で取得したものとみなされ、譲渡損益による課税が生じます。
まとめ
適格株式移転とは、株式移転を実施した際に、税制上の優遇措置を受ける要件を満たしていることを指す言葉です。そもそも株式移転とは、組織再編の手法の1つで、既存の1社もしくは複数の株式会社が新規に親会社を設立し、その完全親会社に株式をすべて移転することです。適格株式移転の要件を満たせば課税されない、もしくは課税額を抑えられるため、企業や株主の納得感を得られ、円滑に組織再編を進めやすくなります。
なお、株式移転は、「完全支配関係」「支配関係」「支配関係のない企業同士」の、会社同士の関係性に基づき3つの方法に大別されます。支配関係が弱くなるにつれ、適格株式移転の要件の数が増えていく点が特徴といえるでしょう。
連結納税制度によるメリットを享受することを目的として、株式移転後に持株会社化を行うこともあります。しかし、連結納税制度は、税務面のメリットが大きい一方で、租税回避目的の利用に対して厳しい規制が入ることが一般的です。
また、完全親会社と完全子会社の状況によっては、たとえば交際費の定額控除限度額などの中小企業向けの特例の対象から外れるなど、デメリットにもなりうる点にも注意しましょう。連結納税の導入を目的とした適格株式移転を検討している場合は、M&Aや税務などの専門家に相談し、サポートを受けることがおすすめです。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。経験豊富なコンサルタントが御社の状況や希望条件を丁寧にヒアリングし、適切なスキーム策定や交渉、契約書作成など、M&Aのあらゆるプロセスをご支援いたします。
料金体系はM&Aご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です。M&Aのご成約まで、無料で利用できます(譲受会社のみ中間金あり)。ご相談も無料です。M&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にご連絡ください。