事業承継の借入金対策とは?経営者保証の取り扱いや関連する制度も解説

2024年2月21日

事業承継の借入金対策とは?経営者保証の取り扱いや関連する制度も解説

このページのまとめ

  • 借入金のある状態での事業承継では、基本的に後継者は借入金も引き継ぐ
  • 事業承継後も、旧経営者の連帯保証は外れにくい
  • 事業承継に際して役員借入金を減らす、後継者の個人資産を増やすなどの対策が必要
  • 活用できる制度に「事業承継特別保証制度」や「経営者保証ガイドライン」などがある

借入金がある状態での事業承継を検討中の経営者の方もいるのではないでしょうか。事業承継の際、後継者は会社や株式だけでなく借入金も引き継ぐことに注意が必要です。

本コラムでは、借入金のある事業承継で懸念される点や、事業承継に際して講じておきたい借入金対策などをまとめました。活用できる制度などもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

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事業承継における借入金の4つの問題点

借入金とは、他者から借りたお金のことで、負債ともいいます。
借入金がある状態で事業承継を行う場合、以下のような点が懸念されます。

  • 後継者に大きな負担がかかる場合がある
  • 後継者が連帯保証を引き継ぐことがある
  • 経営者の連帯保証は外れにくい
  • 後継者が見つかりにくくなる

それぞれの問題点について解説します。

後継者に大きな負担がかかる場合がある

後継者が事業承継によって借入金も引き継ぐことで、後継者に大きな負担がかかることは問題点の一つです。

借入金がある状態での事業継承では、後継者が借入金も引き継ぐのが原則です。親族内承継であっても、親族以外に引き継ぐ親族外承継であってもそれは変わりません。

特に注意が必要なのは、事業承継した後に金融機関の融資の姿勢が急変し、借入金の一括返済を求められるケースです。このようなケースがあるため、多額の借入金があるにもかかわらず、何の対策も講じないまま事業承継をすることは避けたほうが賢明です。借入金を返済できずに、倒産や廃業となるリスクが高まります。

後継者が連帯保証を引き継ぐことがある

経営者が金融機関から借り入れを行い連帯保証を提供している場合、後継者は連帯保証も引き継ぐことになります。

会社が借り入れをする際は、経営者と金融機関の間で保証契約を結ぶのが一般的です。保証契約によって、万が一会社からの返済が滞った場合に、経営者は個人的に返済をしなければならなくなります。つまり、会社の連帯保証人になることを意味します。連帯保証とは、主債務者に財産があるか否かにかかわらず、当該債務について保証契約を結んだいわゆる連帯保証人が、主債務者と同一の債務履行責任を負う制度のことです。

後継者個人が借金を負う可能性があるというリスクを考慮しておきましょう。

経営者の連帯保証は外れにくい

後継者が連帯保証を引き継いだとしても、旧経営者が連帯保証から外れるわけではありません。原則、連帯保証人は旧経営者から後継者に「変更」になるのではなく、後継者が「追加」になります。後継者に十分な資産があるとは限らないためです。

そのため、借入金がある事業を承継する場合は、旧経営者の連帯保証への対策も欠かせません。

後継者が見つかりにくくなる

借入金がある状態で事業承継を行う場合は、後継者のなり手が見つかりにくくなるでしょう。
前述のように、個人が借入金返済の義務を負うリスクがあるため、後継者が資産を持たない場合には大きな負担になるためです。

事業承継によって会社の経営権や株式、不動産などの多額の資産を手に入れられるものの、個人的に借金を負う可能性があることは、事業承継を躊躇する大きな理由になり得ます。

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事業承継で検討したい8つの借入金対策

ここまでお伝えしてきたとおり、借入金を抱えながらの事業承継は、後継者に大きな負担を強いるなどリスクがあります。そのため、何らかの借入金対策を講じる必要があるでしょう。
事業承継の借入金対策としておすすめなのは、以下の8つです。

  1. 経営改善によって借入金を減らす
  2. 借入金の相続について金融機関に相談する
  3. 役員借入金を減らす
  4. 後継者の個人資産を増やす
  5. 分社化して承継させる
  6. DESを活用する
  7. 暦年贈与を利用する
  8. 法人向け生命保険を活用する

それぞれ解説します。

1.経営改善によって借入金を減らす

後継者の負担を減らすためには、経営改善によって、借入金を減らしておく必要があります。自社の経営課題を洗い出し、手を打てる項目には早めに対応しましょう。経営改善を行い、資金繰りの改善や借入金の圧縮を進めます。

財務状況を改善できれば、後継者の負担の軽減だけでなく金融機関との交渉を有利に進めやすくなったり、事業承継を機とした事業の発展につながったりするでしょう。
資金繰りの戦略を立てる際は、専門家を活用することがおすすめです。資金繰りの相談先としては、税理士や会計士、商工会議所などが挙げられます。

2.借入金の相続について金融機関に相談する

相続が発生した場合、債務は法定相続分の割合に応じて相続されます。
もし事業資産を後継者にのみ引き継ぐことにしていて、債務だけをほかの相続人も引き継ぐことになった場合、ほかの相続人は不満を持つでしょう。後継者とその他の相続人との間で軋轢が生じてしまう可能性もあります。

そのような事態にさせないために、生前に金融機関に相談しましょう。金融機関に相談し、事業資産も債務も後継者1人にのみ引き継がせてください。

3.役員借入金を減らす

役員借入金を減らすことで、直接的に会社の借入金を減らせるだけでなく、相続税の圧縮により後継者の負担の軽減にもつながります。

役員借入金とは、社長をはじめとした役員が、会社に対して貸し付けている個人資産を指します。役員借入金は、貸している役員からするとプラスの財産という扱いです。そのため、役員借入金の金額が多いと、相続の際に後継者が負担する相続税額が大きくなってしまいます。
役員借入金を減らすことによって相続税の圧縮ができるため、後継者の負担軽減に寄与します。

役員借入金を減らすのに有効な対策としては、以下のような方法が挙げられます。

  • 役員報酬を減らして役員借入金の返済に充てる
  • 役員が貸付金債権を放棄する

1つ目は役員報酬を減額し、その分を役員から借り入れた分の返済に充てる方法です。借入金額が減少すると同時に、相続税の減額が可能です。また、役員借入金の弁済金は所得税や住民税の課税の対象ではないため、役員にとっては節税効果が見込めます。

2つ目は、役員が貸付金債権を放棄する方法です。債務超過の状態で、実質的に役員借入金の返済が難しい場合に検討しましょう。貸付金債権の放棄は、役員が会社に対し、貸付金の免除について記載した内容証明便を出して行います。

ただし、この方法によって役員借入金を減らした場合、会社側は債務免除益が発生し、法人税の課税対象となることに注意が必要です。

4.後継者の個人資産を増やす

後継者の個人資産を増やしておくことも、借入金のある事業継承において有効な対策の1つです。
後継者が十分な資産を保有していれば、負債である借入金を引き継いでも、返済できずに倒産や廃業となるリスクを抑えられるためです。

中小企業では、経営が苦しくなると経営者の個人資産から資金調達するケースも珍しくありません。後継者にこういった状況を理解してもらい、早い段階から個人資産を確保しておくように働きかけることが大切です。

しかし、一個人が会社の負債を背負えるほどの資産を持っていることはほとんど無いでしょう。後継者の個人資産を事前に増やすには、事業承継の前に後継者を重要な役職に就任させ、十分な報酬を出しておくといった選択肢があります。

また親族や子どもに事業承継する場合は、生前贈与制度を活用して少しずつ会社の株式を譲っていく方法もあります。ただし、生前贈与で株式譲渡を行う場合は、後継者以外の親族からの納得を得られるよう、譲渡する意図を説明しておきましょう。

5.分社化して承継させる

借入金のある事業継承を行う際の有効な対策として、分社化が挙げられます。
分社化とは、事業の一部を切り離し、独立した会社を作ることです。分社化では、「事業譲渡」や「会社分割」などの手法を用います。
事業承継後も収益を生み出すことが期待できる事業のみを分社化することで、負担しなければならない負債を軽減できます。

分社化を行うときは、残された会社の資産と負債のバランスが悪くならないように注意しましょう。

6.DESを活用する

DES(デット・エクイティ・スワップ)を活用するのも、事業承継において効果的な借入金対策です。DESとは、借入金の一部を株式に切り替える方法で、過剰債務を抱える会社の再建手段として利用されます。
DESを活用すれば借入金を減らすことができて、後継者の負担を軽くできます。
ただし、課税が変動する可能性があるため注意が必要です。実施する前に税理士などの専門家に相談し、確認しておきましょう。

7.暦年贈与を利用する

暦年贈与の制度を活用して役員借入金を減らすことも、事業承継における借入金対策の1つです。役員の会社に対する貸付金の分を暦年贈与する方法です。年間110万円までは非課税で、後継者に贈与できます。前述のとおり、役員借入金は会社への債権であるため、相続による事業継承の際には相続税の対象になります。そのため、事前に軽減しておくと後継者の負担を軽減できるでしょう。

ただし、毎年決まった金額を暦年贈与すると、税務署から計画的贈与とみなされる可能性があります。計画的贈与とみなされると相続税の対象となるため注意が必要です。

8.法人向け生命保険を活用する

法人向け生命保険を活用する方法もあります。被相続人である現経営者を被保険者として、会社あるいは後継者を受取人にしておくと、経営者の死亡時に保険金を受け取れます。保険金としてある程度現金を受け取れるようにしておけば、そのお金を借入金の圧縮や資金繰りの改善などに充てることが可能です。会社の万が一に備えることができます。

保険金は相続税における非課税枠により、相続税対策になる点がメリットです。さらに、原則として遺産分割の対象にならないため、後継者が事業を守るために必要な資金を確保するのに有効といえます。

このようにメリットの多い法人向け生命保険ですが、長期間の契約が前提となることを認識しておく必要があります。

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借入金のある事業承継で活用したい制度・ローン

借入金のある事業承継で活用がおすすめなのは以下の制度・ローンです。

  • 事業承継特別保証制度
  • 経営承継借換関連保証制度
  • 経営者保証ガイドライン
  • 事業承継ローン

順番に解説します。

事業承継特別保証制度

事業承継特別保証制度とは、一定の要件を満たせば、事業承継時に経営者保証をつけずに融資を受けられ、また専門家による確認を受けた場合には、保証料率の割引が受けられる保証制度です。
経営者保証とは、中小企業が金融機関から借り入れをする際、経営者個人が会社の連帯保証人になることを指します。

経営者保証は、後継者が会社を継ぐ意志があったとしても、それを断念する大きな要因となっていました。そこで、後継者が経営者保証を負わずに事業承継できる制度を整える必要があるという国の判断のもと、2020年4月に事業承継特別保証制度がスタートしました。

利用できる上限額は2億8,000万円です。利用にあたっては、申込方法や申込資格などをチェックしておきましょう。

参照元:一般社団法人 全国信用保証協会連合会「事業承継特別保証」

経営承継借換関連保証制度

経営承継借換関連保証制度とは、経営者保証のある借入金を、経営者保証を不要とする融資に借り換えできる保証制度です。さらに、専門家による確認を受ければ、保証料率が大幅に削減できます。
保証限度額は、事業承継特別保証制度と同様に2億8,000万円です。申し込みにあたっての詳細は、近くの信用保証協会あるいは金融機関にお問い合わせください。

参照元:一般社団法人 全国信用保証協会連合会「経営承継借換関連保証制度」

経営者保証ガイドライン

ここまでお伝えしてきた、経営者保証なしで融資を受けられる制度や、経営者保証を不要とする融資に借り換えできる制度のほかに、金融機関が経営者保証を取り扱う際の基準を示したガイドラインもあります。

経営者保証ガイドラインには、「会社と経営者が明確に区分・分離されている場合は、経営者保証を求めない」といった内容が明記されています。さらに、2019年には特則として「前の経営者と後継者のいわゆる二重徴収を原則として禁止する」ことなどが、新たに盛り込まれました。

経営者保証ガイドラインには、法的な拘束力はありません。しかし、経営者保証の解除を後押しする存在であることは間違いありません。

参照元:中小企業庁「経営者保証のガイドライン」

事業承継ローン

事業承継ローンとは、事業承継をするために必要な資金を融資するローンで、国内の多くの金融機関が取り扱っています。
事業承継ローンを活用するメリットとしては、事業承継で必要な費用を分割で支払えることや、事業承継を機に行う新たな挑戦への資金が確保できる点などが挙げられます。

政府系金融機関である日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」が、代表的な事業承継ローンです。
融資金額の上限は7億2,000万円、最長返済期間は20年、融資利率の上限は2.5%です。ただし、資金の使い道によって、利率や返済期間が変動する場合があります。

民間の信用金庫や銀行が取り扱う事業承継ローンの名称は、「事業承継支援ローン」「事業承継応援ローン」「事業承継サポートローン」など、さまざまです。また、融資金額の限度や金利、返済期間もそれぞれ異なります。

参照元:日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金

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個人事業主が事業承継する場合の借入金の取り扱い

中小企業の事業承継においては、後継者が借入金を引き継ぐことが一般的です。
それに対して、借入金のある個人事業主が事業承継する場合は、後継者は借入金を引き継ぐか否かの選択をすることが可能です。

中小企業の場合は借入金の名義が企業であるため、企業の経営を引き継ぐ後継者が負債に対する責任を負います。一方、個人事業主の借入金の名義は、現経営者です。また事業承継に際しては、現経営者が廃業手続きを、後継者が開業手続きを行うため、事業の名義そのものが変更します。そのため、必ずしも後継者が現経営者名義である借入金を引き継ぐ必要はありません。

それでも、実際には借入金を引き継ぐケースが多くみられます。後継者に多額の資金があれば、借入金なしで事業を回すことも可能です。しかし、そうではない場合、後継者名義で新たに借り入れをしなければなりません。

現経営者は、借入実績や信用力があったために融資を受けられたとしても、借入実績がなく金融機関との関係性を築けていない後継者は、融資審査に通らない可能性があります。
そのため、個人事業主であっても、借入金も一緒に引き継ぐことが多いのが実態です。

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まとめ

借入金がある状態で事業承継をする場合、後継者が会社や株式とともに、借入金も引き継ぐのが一般的です。それによって、後継者に大きな負担がかかる点に注意しなければなりません。

事業承継前に経営改善によって借入金を減らしておく、役員借入金を減らす、後継者の個人資産を増やしておく、分社化して承継させるといった対策を講じましょう。

事業承継には親族に引き継ぐ方法のほかに、M&Aによって第三者に引き継いでもらう選択肢もあります。M&Aを実施する場合、専門家に相談することがおすすめです。

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