TOB(公開買付け)をめぐる規制|5%ルールや1/3ルールとは?

2024年2月13日

TOB(公開買付け)をめぐる規制|5%ルールや1/3ルールとは?

このページのまとめ

  • TOBでは開始公告や説明書の交付、意見表明などの手続きを遂行する
  • 一定の条件に合致する場合はTOBが義務付けられる
  • TOBの規制として、1/3ルールや5%ルールなどがある
  • TOB規制に違反した場合、刑事責任や課徴金の対象となり得る
  • M&Aの多様化などの影響により、適用範囲の見直しなどが課題となっている

TOBの規制としては、1/3ルールや5%ルールが代表的です。また、急速な買付けや特定売買等も義務的公開買付けの対象として規制されています。違反した場合には、刑事責任や課徴金の対象となり得ます。ただし、条件に合致する場合でも「担保権の実行による特定買付け」など、一部の状況ではTOB規制の適用除外となります。TOB規制の仕組みや具体的な条件を諸外国と比較しつつ解説します。

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TOB(公開買付け)の概要

はじめに、TOB(公開買付け)の意味や目的、種類を解説します。

TOB(公開買付け)とは

金融庁「公開買付(TOB)制度の概要」によると、TOB(Take Over Bid)とは「買付者が買付期間や買付数量、買付価格などを事前に開示した上で、証券取引所の市場外で株式の大量買付けを遂行するM&A手法」です。株式公開買付けや単純に公開買付けと呼ばれることもあります。

TOBにおける特徴の1つに、市場の株価と比べて高い価格で株式を買付けられる点が挙げられます。TOBによって大量の株式を買い集めるには、多くの株主から株式の売却に同意してもらわなくてはなりません。

そのため、市場の株価に「買収プレミアム」と呼ばれる上乗せが行われるケースが大半です。なお、買収プレミアムは一般的に直近株価の20〜40%と言われています。

※参照元:金融庁「公開買付(TOB)制度の概要

TOBの実施目的

TOBは、主に買収対象企業の経営権(支配権)を獲得する目的で遂行されます。会社法の規定により、株式会社においては保有する議決権(≒株式)の割合が大きいほど、行使できる権限も大きくなります。たとえば議決権の過半数を獲得すると、「役員の選任・解任」や「役員報酬の決定」といった内容を普通決議によって単独可決できます(「会社法」第309条第1項)。

この仕組みにより、一般的には議決権の過半数(または特別決議を単独可決できる2/3超)の獲得により、会社の経営権を獲得(子会社化)したとみなされます。

しかし、市場内で大量に株式を獲得しようとすると、株価の上昇によって買収金額が高騰する可能性があります。そこで、上場企業の経営権獲得を図る際には、TOB(公開買付け)の手法を用いるケースが多くなるのです。

※参照元:e-Gov「会社法」第309条第1項

TOBの種類

TOBは、大きく「友好的TOB」と「敵対的TOB」の2種類に分けられます。

友好的TOBとは、買収される側の経営陣から同意を得た上で遂行するTOBです。主に、売り手側の希望によって行われる子会社化や、グループ企業の完全子会社化などは友好的なTOBとなります。

一方で敵対的TOBは、経営陣から同意を得ずに強行するTOBです。主に、競合企業の買収を図る場合に敵対的なTOBとなる傾向があります。

敵対的TOBは、買収される側の経営陣にとっては好ましくありません。そのため、「ポイズンピル」や「ゴールデンパラシュート」などの買収防衛策を行使し、TOBの成立を阻止しようとすることが一般的です。

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TOB(公開買付け)のプロセス・手続き

TOBは、一般的に以下の流れで遂行されます。

開始公告および届出書の提出、説明書の交付

はじめに、買付けの遂行者(公開買付者)が「公開買付開始公告」を行います。具体的には、買付価格や目的などの項目を公告します(「金融商品取引法」第27条の3)。公告は、日刊紙への掲載または電子公告(EDINET)によって行われます。

また、公告と同日中に内閣総理大臣に対して「公開買付届出書」を提出し、公開買付けが開始されます。届出書の提出後、直ちに公開買付届出書の写しを株券等の発行者や証券取引所に送付する必要もあります(「金融商品取引法」第27条の3)。

加えて、届出書に記載すべき事項や投資家保護のために必要な事項を記載した「公開買付説明書」を作成し、あらかじめまたは同時に売り手である応募株主等に対して交付することが求められます(「金融商品取引法」第27条の9)。

※参照元:e-Gov「金融商品取引法」第27条の3、9

意見表明および公開買付者に対する質問・回答

TOBを受けて買収対象企業は、公開買付けの開始公告日から10営業日以内に「意見表明報告書」を内閣総理大臣に提出します(「金融商品取引法」第27条の10)。また、意見表明報告書の写しを公開買付者や証券取引所にも提出します。
意見表明報告書には、TOBに対する意思の他に、公開買付者に対する質問も記載されます。

公開買付者は、質問が記載された意見表明報告書(写し)を受け取った日から5営業日以内に、質問への回答を記載した書類(「対質問回答報告書」)を内閣総理大臣に、その写しを対象者および証券取引所に提出する必要があります(「金融商品取引法」第27条の10)。

※参照元:e-Gov「金融商品取引法」第27条の10

公開買付けの条件変更など

買付条件の変更や訂正、撤回などが生じた場合には、必要に応じて金融商品取引法に基づいた手続きが求められます。

結果の公告および報告書の提出

問題なくTOBが遂行された場合、公開買付者は公開買付期間末日の翌日に、公開買付けの結果を公告または公表します(「金融商品取引法」第27条の13)。具体的には、公開買付けに関する応募株券等の数やその他内閣府令で定められた事項を明らかにします。

この内容を記載した「公開買付報告書」を作成し、公開買付結果の公告日に内閣総理大臣へと提出する必要があります(「金融商品取引法」第27条の13)。その写しを対象会社と証券取引所にも送付します。

加えて公開買付期間終了後、遅滞なく買付通知書を応募株主等に送付することも求められます(「金融商品取引法施行令」第8条第5項)。買付通知書には、買付株券数などを記載します。

※参照元: 
e-Gov「金融商品取引法」第27条の13
e-Gov「金融商品取引法施行令」第8条第5項

決済

最後に、代金の授受および株式の受渡しが遂行されます。以上で、TOBの手続きは完了となります。

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義務的公開買付け制度とは

TOBの遂行は、少なからず株主や投資家に影響を与えます。場合によっては、莫大な損失を被る投資家が出てくる事態も想定されます。

そのため、投資家保護の一環として、日本国内ではTOBに関してさまざまな規制・ルールが定められています。その骨格を担うのが「義務的公開買付け制度」です。

この章では、義務的公開買付け制度の概要や目的を解説します。

義務的公開買付けとは

義務的公開買付けとは、一定の条件に合致する場合に、法律によってTOBの手段を用いることが義務付けられた買付けのことです(「金融商品取引法」第27条の2)。つまり、金融商品取引法に定められた条件に合致する買付けを遂行する場合には、必ずTOBのプロセスを経る必要があるのです。秘密裏に株式を買い集めるなどの行為は認められません。

具体的なものに、1/3ルールや5%ルールがあります(詳しくは後述)。

※参照元:e-Gov「金融商品取引法」第27条の2

義務的公開買付けの目的

義務的公開買付けの制度が設けられている目的は、株主間の平等性確保を図ることです。

情報が非公開の状態で株式の買い集めが行われると、買い手側にとって都合が良い特定の株主のみが優遇されてしまう事態となり得ます。一般の株主は買収に対して十分な情報を与えられないため、買収者が示す条件の良し悪しを正確に判断することが難しいでしょう。その結果、一般の株主は安い金額で株式を売却する事態となり得ます。

また、株価の上昇に伴って株式の買い集めを知らない一般投資家が損をするリスクもあります。最悪の場合、将来的に買収された会社の株式が非公開化された際に、株式売却によって現金化できない投資家が出てくる事態も考えられます。

上記のとおり、株式の買い集めがクローズドな環境で行われると、株主間で不平等が生じたり、一部の株主が著しく不利益を被ったりするリスクがあります。こうした事態を許容することで、株式市場全体の透明性が損なわれてしまうおそれがあります。

そこで、株主間の情報格差や不利益を被る事態を回避する目的で、一定規模以上の買い集めに対してはTOBを義務付ける制度が設けられました。TOBを義務付けられることにより、情報が幅広く一般投資家や既存株主の間で共有されることになります。その結果、一部の株主が不利益を被ったり、株式の売却チャンスを逃したりする事態を防げるのです。

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義務的公開買付け制度の骨格を担う規制

義務的公開買付け制度の骨格を担う規制として「1/3ルール」と「5%ルール」があります。これら2つの規制に該当する買付けでは、TOBの遂行が義務となります。この章では、「1/3ルール」と「5%ルール」について詳しく解説します。また、TOB規制の適用対象外となる主な条件もまとめました。

1/3ルールとは

1/3ルールとは、取引市場外において著しく少数の者から買付けを遂行し、買付け後に株券等の所有割合が1/3を超える場合、TOBの遂行を義務付けるルールです(「金融商品取引法」第27条の2)。具体的には、「60日間」に「10名以内」からの買付けを遂行し、結果的に株券等の所有割合が1/3を超える場合となります。

なお、株券等の所有割合に関しては、原則として議決権ベースで計算することになります(5%ルールも同様)。基本的には、総議決権(≒発行済株式総数)に占める所有割合です。

また、金融商品取引法では「買付ける前の株券等所有割合」に関して特段の定めが設けられていない点にも注意が必要です。つまり、新たに1/3を超えるケースだけでなく、すでに1/3を超える株券等を所有している者が追加で買付ける場合でも、1/3ルールが適用されるのです。

※参照元:e-Gov「金融商品取引法」第27条の2

5%ルールとは

5%ルールとは、取引市場外での買付け等によって株券等所有割合が5%を超える場合にTOBの遂行を義務付けるルールです(「金融商品取引法」第27条の2)。ただし、買付けを遂行する人数が60日間に10人以下の場合では、5%ルールは適用対象外となります。

※参照元:e-Gov「金融商品取引法」第27条の2

TOB規制の適用除外となる条件とは

上記に該当する買付けであっても、投資家に与える影響が小さいと考えられるものに関してはTOB規制の適用が除外されています。具体的には、「金融商品取引法」第27条の2および「融商品取引法施行令」第6条の2の規定により、主に以下に関してはTOB規制の対象外となっています。

  • 新株予約権の行使による株券等の買付け(一部除く)
  • 特別関係者から遂行する株券等の買付け
  • 株式の割当てを受ける権利の行使による株券等の買付け
  • ETFをはじめとした受益証券と現物株式との交換
  • 自己と特別関係者で1/2を超える議決権を所有している会社の株券等の買付け(例外あり)
  • 企業グループ内において1/3を超える議決権を所有する会社の株券等に関する移動
  • 兄弟会社などからの買付け
  • 担保権の実行による特定買付け
  • 事業譲受
  • 株券等の売り出しに応じて遂行する株券等の買付け

※参照元: 
e-Gov「金融商品取引法」第27条の2
e-Gov「金融商品取引法施行令」第6条の2

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TOBに関するその他の義務的公開買付け

上記に挙げたものとは別に、以下も義務的公開買付けの対象です。基本的には、前述した5%ルールや1/3ルールを補完する規制内容となっています。

急速な買付け

下記の条件をすべてに該当する買付けは「急速な買付け」としてTOB規制を受けます(「金融商品取引法」第27条の2、「金融商品取引法施行令」第7条)。

  • 3ヶ月間に発行済株式総数の10%を超える株式を獲得(※1)
  • そのうち、発行済株式総数の5%を超える株式に関して、市場外または特定売買等による株券等の買付け等によって獲得している(※2)
  • 買付けまたは新株発行による獲得
  • 獲得の結果、持株比率が1/3を超える

※1 「10%超の取得」では、株券等の買付け等または新規発行取得による取得が対象
※2 「5%超の取得」では、市場外(公開買付けを除く)または立会外取引による取得のみが対象

急速な買付けに関する規制は、第三者割当増資などの手段を組み合わせることで、TOBの規制をくぐり抜けようとする動きを防ぐ目的で導入されています。たとえば、市場内での取引によって3分の1超の保有割合となる場合、前述した1/3ルールは適用されません。

極端な例ですが、28〜29%までを市場外取引で獲得し、その後は市場内で買い集めることでTOBを義務付けられずに済むことになってしまいます。

しかし、実質的には1/3ルールが適用される買付けと同質であるため、他の投資家や株主に不利益を与えるおそれがあります。そこで、急速な買付けを「義務的公開買付け」とすることで、1/3ルールをかいくぐるような行為をできなくしているのです。

※参照元: 
e-Gov「金融商品取引法」第27条の2
e-Gov「金融商品取引法施行令」第7条

特定売買等

特定売買等による買付けによって株券等の所有割合が1/3超となる場合も、TOBによる買付けが義務となります(「金融商品取引法」第27条の2)。特定売買等とは、金融庁「競売買の方法以外の方法による有価証券の売買等として内閣総理大臣が定めるもの」にあるように、電子取引ネットワークシステムであるToSTNeTやJ-NET、N-NETなどを通じた立会外取引が該当します。

取引市場内で行われる取引であるものの、実際には市場外で遂行する相対取引に近い性質を持っています。そのため、TOB規制をかいくぐる手段として用いられる事態を防ぐ目的で、義務的公開買付けの対象とされています。

※参照元: 
e-Gov「金融商品取引法」第27条の2
金融庁「競売買の方法以外の方法による有価証券の売買等として内閣総理大臣が定めるもの

対抗的な買付け

以下の条件をすべて満たした場合には、「対抗的な買付け」として義務的公開買付けの対象となります(「金融商品取引法」第27条の2、「金融商品取引法施行令」第7条)。

  • 敵対的買収者によってTOBが遂行されている
  • 持株比率が1/3を超えている者が遂行する
  • 敵対的TOBの期間中に5%を超える株式を獲得しようとする

つまり、敵対的買収者に対抗するために、他の有力な株主が大量の株式を獲得すると規制対象になります。

※参照元: 
e-Gov「金融商品取引法」第27条の2
e-Gov「金融商品取引法施行令」第7条

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TOBを実施する際の重要なルール

TOBを遂行する際には、ここまで述べた規制以外にも遵守すべきルールがあります。この章では、金融庁「第1回 金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ 参考資料」をもとに、TOBを遂行する上で特に重要であるルールを5つ解説します。

投資家への情報開示

前述のとおり、TOBの各種規制は「投資家間の平等性確保」が根底にあります。そのため、TOBを遂行する買付者には、公開買付届出書によって主に以下の情報開示が求められます。

  • 買付目的
  • 買付期間
  • 買付予定数量
  • 買付価格
  • 支配権獲得を予定している場合における経営方針
  • 経営参加を予定している場合における計画

TOBの期間

TOBの期間に関しては、20営業日〜60営業日の範囲で公開買付者が選択できます。

当初定めた期間の延長は可能ですが、原則として当初の期間と合わせて60営業日までとなります。ただし、「訂正届出書の提出に伴って期間延長が必要であるケース」など、例外的に60営業日を超えた延長が認められるケースもあります。

TOBの撤回

公開買付開始公告後、申込みを撤回することは原則として認められません。ただし、「1.TOBの目的達成に重大な支障をきたす事情が生じた場合」または「2.政令で定める重要な事情の変更が生じた場合」に関しては容認される可能性があります。

1の具体例としては、買付の対象企業において、合併や事業譲渡などの決定が行われたケース、破産手続きや上場廃止などが発生したケースなどが挙げられます。2の具体例としては、公開買付者の死亡や解散、後見開始の審判を受けたことなどが該当します。

買付条件の変更

買付価格の引き下げなど、株主にとって不利な方向での条件変更は原則として禁止されています。ただし、対象者が株式分割や株式・新株予約権の無償割当てをする際に、買付価格の引き下げがある旨の条件が記載されている場合に限り、例外的に引き下げが可能となります。

引き下げ可能額(下限)は、各ケースで以下のとおり定められています。

  • 株式分割:変更前の買付価格×(1÷分割前の1株に係る分割後の株式数)
  • 無償割当て:変更前の買付価格×(1÷1株あたり割当てられる株式数)

公平な売却チャンスの確保

公平な売却チャンスを投資家に与える目的から、以下のルールが定められています。

  • 買付価格はすべての応募株主等に均一でなくてはならない
  • TOBの期間中、TOB以外による買付け(別途買付け)は原則禁止

※参照元:金融庁「第1回 金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ 参考資料

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TOB規制・ルールに違反するとどうなる?

前述した義務的公開買付けの対象となる場合、法律に則って正しく手続きを遂行する必要があります。法律で義務付けられている手続きを行わない、もしくは正しく行わない場合、刑事責任や課徴金、民事責任の対象となる可能性があります。

この章では、金融庁「第1回 金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ 参考資料」をもとに、TOB規制に違反した場合の処罰を詳しく解説します。

刑事責任

金融庁の資料によると、TOBの各種規制に違反した場合の主な罰則として、以下のとおり定められています。

  • 公開買付開始公告の未実施:5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または併科
  • 公開買付届出書の不提出:同上
  • 訂正届出書・対質問回答報告書の不提出:1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金または併科
  • 公開買付説明書の不交付:同上
  • 虚偽記載のある公開買付開始公告、公開買付届出書等の提出:10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金または併科
  • 買付条件等の変更・撤回規制違反:5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または併科
  • 別途買付けの禁止規制違反、買付条件に反する決済:1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金または併科

また、TOB規制への違反に関しては両罰規定も定められています。両罰規定とは、違反者のみならず、違反者が代表者や代理人などを務めている法人等にも罰金刑を科す規定です。たとえば、公開買付開始公告を遂行しない場合、法人等に対して5億円以下の罰金が科されます。

課徴金

TOB規制違反に関しては、刑事罰とは別に課徴金も科されます。各規制への違反に関する課徴金の金額は以下のとおりです。

  • 公開買付開始公告を遂行せずに株券を買付ける:買付け等総額の25%
  • 公開買付開始公告や公開買付届出書等に虚偽記載等がある:公開買付開始公告日の前日終値×買付株券等の数×25%
  • 公開買付届出書、対質問回答報告書等を提出しない:同上

民事責任

民事上の損害賠償責任に問われる可能性もあります。具体的には、主に以下のとおり各種TOB規制違反に対する損害賠償額が法定されています。

  • 別途買付けの禁止規制違反:(別途買付価格-公開買付価格)×応募株券等
  • 公開買付開始公告等の虚偽記載等:(当該契約による買付け等の価格-公開買付価格)×応募株券等の数(※1)
  • 買付条件に反する決済:(有利な買付価格-公開買付価格)×応募株券等(※2)

※1「TOB終了後にTOB以外の買付け等を遂行する契約」の存在を不記載の場合
※2有利買付けの場合

※参照元:金融庁「第1回 金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ 参考資料

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TOB規制をめぐる近年の動き・課題

TOBの規制をめぐっては、過去何回かにわたって改革が行われています。それに伴い、より投資家保護という目的を達成できる制度に近づいています。しかし一方で、環境変化に伴って新たな課題も生じてきました。

そこでこの章では、金融庁「第1回 金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ 事務局説明資料」をもとに、TOB規制をめぐる制度改正の経緯をおさらいしつつ、近年におけるTOBの課題を解説します。

TOB規制をめぐる制度改正の経緯

TOB(公開買付け)の制度は、1971年にアメリカの制度等を参考に導入されました。当時は、10%以上の株券等を所有することになるTOBを遂行する場合に、公開買付届出書の提出などを必要とする規制が設けられていました。

その後、1990年に大幅な改正が遂行されました。具体的には、前述した10%基準が5%基準に変更されたほか、イギリスの制度等を参考に、1/3ルールが新たに導入されました。ただし、当時の1/3ルールに関しては市場外取引のみが適用対象でした。また、全部買付義務を課さないなど、イギリスの制度等の一部は採用されませんでした。

市場環境の変化に伴い、2005〜2006年にも大幅な制度改正が行われました。具体的には、1/3ルールの適用対象に立会外市場内取引(ToSTNeT取引等)を新たに含めることになりました。また、株券等所有割合が2/3以上となるTOBについて全部買付義務が課されました。

2006年以降、TOB規制をめぐる大きな改正はなされずに現在に至ります。

TOBをめぐる課題

近年における市場環境の変化として、以下の項目が挙げられます。

  • M&A(合併と買収)の多様化
  • 市場内取引等を通じた非友好的買収(敵対的買収)の増加

こうした市場変化を受けて、TOBをめぐって主に以下の課題が指摘されています。

  • 現行の規制では、投資判断に必要な情報・時間を一般株主に十分に与えられていない
  • 強圧性の問題(一般株主に売却へ向けた圧力が生じている)
  • 1/3より低い割合で特別決議について拒否権を獲得し得る

こうした課題を受けて、以下の対策を講じるべきという指摘がなされています。

  • TOB規制の適用範囲(市場内取引や第三者割当増資の取扱い、1/3ルールの閾値等)の見直し
  • TOBの強圧性を解消・低減させるための方策整備
  • TOB規制の柔軟化(個別事案ごとに例外的な取扱いを許容する制度の新設など)

※参照元:金融庁「第1回 金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ 事務局説明資料

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海外におけるTOB規制の概要

最後に、長島・大野・常松法律事務所「米英独仏における上場会社M&A制度・市場動向に関する調査報告書」をもとに、海外におけるTOB規制を解説します。この章では、代表的な事例として「イギリス」と「アメリカ」を取り上げた上で、特徴的な規制内容や日本との違いを解説します。

イギリス

前提として、イギリスにおける上場会社のM&Aでは、テイクオーバー・コードというルールが適用されます。このルールは、株主が平等な扱いを受けることを目的に設けられました。

イギリスにおけるTOBは、コードによってTOBの遂行が強制される「義務的公開買付け」と、任意に遂行を判断できる「任意的公開買付け」の2種類に分けられます。

義務的公開買付けは、「30%以上の議決権を獲得する場合」または「30%以上50%以下の議決権を有する者による追加獲得の場合」に適用されます。義務的公開買付けが適用される場合、原則として応募されたすべての株式を獲得する必要があります。部分的な買付けを遂行するには、テイクオーバー・パネル(上場会社の買収を自主的に監督する民間機関)の承認と独立した株主の過半数の賛成が求められます。

また、TOBの成立に必要な条件が満たされた場合、買付期間を14日間以上延長する必要があります。このルールがあるため、TOBの成立を知ってから応募することが可能となっています。

上記以外にも、イギリスにおけるTOB規制には以下の特徴があります。

  • 5%ルールはなし
  • 市場内取引や第三者割当増資(原則)も規制対象となっている
  • 最低価格規制が設けられている(原則、公表前12ヶ月以内に買付者が支払った最も高い価格が下限となる)
  • TOBを撤回するには、原則としてパネルの同意が必要

アメリカ

米英独仏における上場会社M&A制度・市場動向に関する調査報告書」によると、アメリカにおけるTOB規制は、主に証券取引所法(ウィリアムズ法)に基づいています。ただし、同法では公開買付け(TOB)を定義していないため、会社法など州法による違いはありますがTOBに該当するかどうかは裁判所が過去の判例に基づいて判断することになります。

アメリカにおけるTOB規制の主な特徴は以下のとおりです。

  • 5%ルールはあるものの1/3ルールはなし
  • 市場内取引が規制対象かどうかは個別の解釈による
  • 買付価格の下限に関する規制はない
  • 公開買付期間の延長は制限なく認められる
  • TOBの撤回が認められている

※参照元:長島・大野・常松法律事務所「米英独仏における上場会社M&A制度・市場動向に関する調査報告書

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まとめ

本稿では、TOBの規制内容や適用除外、諸外国の規制を解説しました。1/3ルールや5%ルールに該当する場合、TOBが義務付けられます。法律に基づいた手続きでTOBを遂行しないと、刑事責任や課徴金、民事責任の対象となり得るため注意が必要です。

また、近年はM&Aの多様化や敵対的買収の増加に伴い、TOB規制に新たな問題点(適用範囲の見直しなど)が浮かび上がっています。こうした動きを受けて、今後はより一層投資家の平等性確保に向けて、TOB規制の改革が行われると考えられます。

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