このページのまとめ
- 相続税額は相続人全員の「課税遺産総額×法定相続分×相続税率」を合算して算出する
- 非上場株式の評価方法には大きく「原則的評価方式」と「配当還元方式」の2つがある
- 非上場株式の相続税は、事業承継税制や相続時精算課税制度などにより節税できる
- 非上場株式を相続する際には、会社に連絡をしてから名義書換請求を行う必要がある
相続財産に株式があった場合、相続税額の計算方法で悩む方も多いのではないでしょうか。相続税額を計算するには、まず株式の評価額を算出する必要があります。評価方法には類似業種比準方式などの種類があり、会社の規模などに応じて選択するのが重要です。
本記事では、株式の評価方法や相続税の計算方法について解説します。非上場株式の節税方法や事業承継のポイントについても説明するので、ぜひ参考にしてください。
目次
株式の相続税の計算方法
相続財産に株式が含まれる場合、相続税額は以下のような手順で計算します。
- 株式の評価額を算出する
- 相続税の課税価格を算出する
- 相続税の課税遺産総額を算出する
- 相続税の総額を算出する
- 各相続人の相続税額を算出する
ここでは、各手順の計算方法について説明します。
1.株式の評価額を算出する
まずは、株式の評価額を算出します。評価額の計算方法は上場株式か、非上場株式かで異なります。
上場株式の場合
上場株式を相続する場合、原則として金融商品取引所が公表している「課税時期の最終価格」をその上場株式の評価額とします。ただし、以下のいずれかのうち、課税時期の最終価格よりも評価額が低いものがある場合は、下記の金額が上場株式の評価額となります。
- 課税時期の属する月の毎日の最終価格の月平均額
- 課税時期の属する月の前月の毎日の最終価格の月平均額
- 課税時期の属する月の前々月の毎日の最終価格の月平均額
非上場株式の場合
非上場株式を相続する場合、支配権の大きさや会社の規模によって算定方法が異なります。詳しい計算方法については後述しますが、支配権を有している同族株主等が相続する場合は原則的評価方法を使って算出するのが基本です。一方、それ以外の人が相続する場合は配当還元方式を使います。
2.相続税の課税価格を算出する
次に、相続税の課税価格を算出します。計算式は以下のとおりです。
相続財産+みなし相続財産+生前贈与加算+相続時精算課税制度利用分=相続税の課税対象財産
相続税の課税対象財産-非課税財産-借金・葬式費用=相続税の課税価格
まず株式の評価額、現金、預貯金、不動産の評価額、生命保険金など、相続財産やみなし相続財産などを全て足して、相続税の課税対象財産を計算します。それから生命保険金の非課税枠などの非課税財産や、借金・葬式費用などを引くことで、相続税の課税価格を算出することができます。
3.相続税の課税遺産総額を算出する
相続税の課税価格を算出したら、課税遺産総額を計算します。計算式は以下のとおりです。
相続税の課税価格-基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)=課税遺産総額
課税遺産総額とは、相続税の課税対象となる財産総額のことを指します。相続税の課税価格から基礎控除額を引くことで計算することが可能です。相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で決まります。たとえば、法定相続人が3人なら、基礎控除額は4,800万円となります。
4.相続税の総額を算出する
課税遺産総額を算出したら、相続税の総額を計算します。計算式は以下のとおりです。
課税遺産総額×法定相続分=法定相続分による各相続人の仮の取得金額
法定相続分による相続人の取得金額×相続税の税率-控除額=各相続人の仮の相続税額
各相続人の仮の相続税額の合計=相続税の総額
相続税の総額を算出する際は、まず民法上の相続人の取得割合である法定相続分をもとに、各相続人の仮の相続財産の取得金額を計算します。その仮の取得金額に相続税率を掛けてそれぞれの相続税額を計算し、それから各相続人の相続税額を全て合算して、相続税の総額を算出することになります。
所得税や法人税といった税目と異なり、「課税遺産総額×相続税率」といった単純な計算式で算出できるわけではないので注意しましょう。
相続税の税率と控除額税率
相続税の税率と控除額は、以下のとおりです。
法定相続分による相続人の取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参照元:国税庁「No.4155 相続税の税率」
5.各相続人の相続税額を算出する
相続税の総額を算出したら、各相続人の相続税額を計算します。計算式は以下のとおりです。
相続税の総額×実際の相続財産の取得割合=各相続人の相続税額
各相続人の相続税額-各種控除など=各相続人の相続税の納付額
各相続人の相続税額は、実際の相続財産の取得割合に応じて決まります。また、相続税の制度には配偶者控除、未成年者控除、障害者控除といった各種控除制度が設けられています。相続人は、自分の取得割合に応じた相続税額から、各種控除制度の金額を引いた相続税額を納付することになります。
非上場株式の評価額の計算方法
ここでは、非上場株式の評価額の計算方法について説明します。
原則的評価方式
原則的評価方式は、非公開株式を発行している会社の経営支配力を有している同族株主等が、当該株式を相続した場合に用いられる評価方法です。原則的評価方式には、類似業種比準方式、純資産価額方式、併用方式の3種類があり、以下のように企業規模によって株式の評価方法は異なります。
企業規模 | 非公開株式の評価方法 |
大会社 | 原則:類似業種比準方式 例外:純資産価額方式 |
小会社 | 原則:純資産価額方式 例外:併用方式 |
中会社 | 原則:併用方式 例外:純資産価額方式 |
※企業規模は、従業員数、純資産価額、取引金額などによって判定される
※基本的には原則に従うが、例外による評価方法を選択することもできる
1.類似業種比準方式
類似業種比準方式は、大会社の非上場株式の評価額を算出するためによく用いられる方式です。類似業種の株価をもとに、一株あたりの配当金額、一株当たりの利益金額、純資産価額の3つを、自社の実質値と比準させて評価します。類似業種比準方式による評価額の計算式は、以下のとおりです。
評価対象会社の一株あたりの配当額÷類似業種の一株あたりの配当額=A
評価対象会社の一株あたりの利益金額÷類似業種の一株あたりの年利益金額=B
評価対象会社の一株あたりの純資産価額÷類似業種の一株あたりの純資産価額=C
類似業種の株価×{(A+B+C)÷3}×0.7=類似業種比準方式による株式の評価額
2.純資産価額方式
純資産価額方式は、小会社の非公開株式の評価額を算出するための方式のことです。会社の資産を相続税評価基準に従って評価替えし、その合計額から負債や法人税額等相当額などを引いた金額をもとに非公開株式を評価します。純資産価額方式による評価額の計算式は、以下のとおりです。
{(相続税評価額での純資産額-負債額)-(帳簿価額での純資産額-負債額)}×37%=A
(純資産額-負債額-A)÷(発行株式数-自己株式数)=純資産価額方式による株式の評価額
3.併用方式
併用方式とは、中会社の非公開株式の評価額を算出するための方式のことです。類似業種比準方式と純資産価額方式を併用した方式であり、計算式は以下のとおりとなります。なお、中会社は「中会社の大」「中会社の中」「中会社の小」に分けられ、それぞれウエイト(L)が異なります。
類似業種比準価額×L+純資産価額×(1-L)=併用方式による株式の評価額
※Lの数値…中会社の大:0.9、中会社の中:0.75、中会社の小:0.6
配当還元方式(特例的な評価方法)
配当還元方式とは、同族株主以外の人が株式を取得した際に用いられる特例的な評価方法です。株式を所有することで得られる年配当金額を、一定の利率(10%)で還元して元本である株式の価額を評価します。配当還元方式による評価額の計算式は、以下のとおりです。
{(直前期配当金額+直前々期配当金額)÷2}÷50円換算した発行済株式数=年配当金額
(年配当金額÷10%)×(1株あたりの資本金額等÷50円)=配当還元方式による評価額
非上場株式の相続税を節税するための方法
ここでは、非上場株式の相続税を節税するための方法について説明します。
1.法人版事業承継税制を活用する
法人版事業承継税制(非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等)とは、非上場株式を取得した後継者(相続人)が事業を継続することを条件に、相続税などの納付を猶予・免除する制度です。経営承継円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式を相続した場合に利用できます。
同制度には従来の一般措置に加え、平成30年度税制改正の際に創設された特例措置があります。特例措置の主な特徴は、全株式が同制度の対象になること、納税猶予割合が100%になることなどが挙げられます。なお、特例措置の適用期間は、2027年(令和9年)12月31日までとなっています。
一般措置 | 特例措置 | |
事前の計画策定等 | 不要 | 特例承継計画の提出 2024年3月31日まで |
適用期限 | なし | 2027年12月31日まで |
対象株数 | 総株式数の最大3分の2まで | 全株式 |
納税猶予割合 | 相続等:80% 贈与:100% | 100% |
承継パターン | 複数の株主から1人の後継者 | 複数の株主から最大3人の後継者 |
雇用確保要件 | 承継後5年間 (平均8割の雇用維持が必要) | 弾力化 |
事業継続が困難な場合の免除 | なし(猶予税額を納付) | 一定割合を免除 |
相続時精算課税の適用 | 原則通り | 60歳以上の贈与者から18歳以上の人への贈与でも可能 |
参照元:国税庁「No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」
2.相続時精算課税制度を活用する
相続時精算課税制度とは、贈与税の課税価額を最大2,500万円まで控除する代わりに、相続税を計算する際にその金額を持ち戻しする制度のことです。60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫に対して贈与する場合に利用でき、株式などまとまった財産を一度に贈与することができます。
同制度は「一時的に株価が下がっている場合」や「将来、株式の値上がりが予想できる場合」に利用するのがおすすめです。持ち戻し金額は贈与時のものになるため、低い株価で贈与すれば相続税の課税対象財産を少なくできます。その結果、非上場株式にかかる相続税を節税するのに役立ちます。
3.株式の評価額を下げる
相続税を節税するために、株式(自社株)の評価額を下げることも考えられます。類似業種比準価額と純資産価額を下げる方法には、それぞれ以下のようなものが挙げられます。
種類 | 対策 |
類似業種比準価額 | 役員退職金を支給する 減価償却費を計上する 高収益部門を切り離す 資産の含み損を計上する 特別配当や記念配当を行う など |
純資産価額 | 役員退職金を支給する 不動産を購入しておく 発行株式数を増やす など |
なお、自社株の評価額を下げる場合、税務調査の際に租税回避行為とされるリスクがあります。節税対策を租税回避行為とさせないために、事業承継が得意な税理士に相談することをおすすめします。
非上場株式を相続する場合の手続き
非上場株式を相続する際は、以下の手順で行うのが一般的です。
- 会社に対して相続発生についての連絡をする
- 会社に対して株主名簿の名義書換請求を行う
非上場株式の相続が発生した場合は、まず当該会社の法務部などに連絡しましょう。これにより当該会社での株式の承継方法を知ることができます。その後、株式名義書換請求書、遺言書・遺産分割協議書、戸籍謄本類、印鑑証明書などを提出し、株主名簿の名義変更をするよう依頼をします。
また、非上場株式を相続した相続人は、当該株式を第三者に売却することも可能です。非上場株式を第三者に売却する場合、一般的には当該会社に対して株式譲渡承認請求を行う必要があります。会社から承認が得られれば、相続人から第三者に対して株式の譲渡を行うことができます。
事業承継時に円滑に株を相続するための対策
ここでは、円滑な事業承継を実現するための対策について説明します。
遺言書を作成する
事業承継を円滑に行うためには、遺言書を残すのがおすすめです。遺言書を残した場合、特定の相続人(後継者)に対して株式を集中して相続させることができます。また、相続人全員の同意がなければ遺産分割協議は行われないため、スムーズに事業承継の手続きに進むこともできるでしょう。
遺言書を作成する際の注意点は、遺留分に配慮することです。遺留分とは、民法で決められた一定の相続人に保障された最低限度の相続分を指します。遺言書で遺留分を侵害している場合、遺留分権利者から侵害者に対して、遺留分侵害額請求が行われる可能性があるため注意しなければなりません。
遺言書を作成する際は、弁護士や行政書士などに相談することをおすすめします。専門家に相談することで、遺留分にも配慮された有効な遺言書を作成することができるでしょう。
株式売買を行う
贈与や相続ではなく、株式売買による事業承継も選択肢の1つとして考えられます。株式売買を選択した場合、相続税や遺産分割に関するトラブルを避けることが可能です。しかし、株式を購入するための資金を後継者が用意する必要がある、不当に低い価格で売買すると贈与税が課されるなどの課題があります。
株式売買による事業承継を検討しているなら、経営承継円滑化法による金融支援の利用がおすすめです。金融支援の一種である日本政策金融公庫の事業承継資金を利用できれば、最大で7億2,000万円まで融資を受けられます。これにより売買による事業承継をスムーズに行えるようになります。
なお、事業承継を成功させるためには、株式譲渡だけでなく後継者の育成、株式の状況把握、株式譲渡のスキーム選択、外部環境・内部環境の分析などさまざまなことが必要になります。事業承継を円滑に進めたいなら、専門の公的機関やM&A仲介会社などに相談するのもおすすめです。
まとめ
相続税額の計算手順は、株式の評価額を含めた遺産総額の算出、相続税の課税価格の算出、課税遺産総額の算出、相続税総額の算出を行い、そのうえで各相続人の相続税額を算出することになります。
相続財産に株式がある場合、まず株式の評価額を算出する必要があります。評価方法は上場の有無や相続人の属性、会社の規模などによって異なり、類似業種比準方式、純資産価額方式、併用方式、配当還元方式の中から正しいものを選択して、株式の評価額を算定しなければなりません。
株式の相続税額は高額になる傾向があるため、法人版事業承継税や相続時精算課税制度などを活用して、できる限り相続税の負担を軽減するのが重要です。また、事業承継を円滑に進めるためには、遺言書を残すようにしたり、早期に株式売買などを行ったりするのがポイントになるでしょう。
相続税の申告・納付は相続人自身が行うこともできますが、より確実に行うなら税理士に相談するのがおすすめです。また、遺言書の作成については弁護士や行政書士などに相談し、事業承継やM&Aのサポートが必要ならM&A仲介会社に相談・依頼することを検討するのがよいでしょう。
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