株式交換における組織再編税制のポイントや会計・税務の処理方法を解説

2024年2月8日

株式交換における組織再編税制のポイントや会計・税務の処理方法を解説

このページのまとめ

  • 株式交換とは、企業が他社の株式を100%取得して完全子会社にする手法
  • 株式交換は子会社の独立性の維持、買収時に現金を支払う必要がないなどのメリットがある
  • 適格株式交換の際は原則として課税が発生しない
  • 非適格株式交換の場合は要件が適用された場合に子会社・子会社の株主に課税が発生する
  • 株式交換の際には所得税・登録免許税・印紙税などの税金が発生する

企業のグループ内再編・M&Aによる組織再編の手法のひとつに「株式交換」があります。
これは、株式を交換することで、親会社と完全子会社という関係が生じ、事業拡大や事業効率の向上だけでなく、様々な節税効果が得られます。M&Aを実行するならば、株式交換について知っておくことは不可欠でしょう。

そこで、この記事では、株式交換の基本的な考え方から、手続きの方法、メリットやデメリットなどを分かりやすく整理します。また、株式交換の具体的な流れや、税務処理について説明します。さらには、最近の株式交換を活用したM&A事例も紹介します。ぜひ参考にしてください。

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株式交換とは

株式交換とは、ある企業が他社の株式を100%取得し、その企業を完全子会社として支配する手法です。この過程で、株式を取得する企業は、その対価として自社株式を他社株主(子会社化する会社の株主)に交付します。

この方法によって、株式を取得した企業は、株式を譲渡した企業を完全な子会社化することができます。この場合、株式を取得した企業は「完全親会社」と呼ばれ、譲渡された企業は「完全子会社」となります。

株式交換による完全親会社化は、企業再編・M&Aの一形態であり、経営資源の集中や効率化、経営戦略の統一などを目的として行われます。

株式交換とは組織再編行為の1つ

組織再編とは、企業が事業構造を変更または再編するさまざまな手法を指します。たとえば、事業の一部を他社に譲渡する、子会社を設立して事業の一部を移転するなどの方法があります。これにより、企業は事業の効率化や戦略的な経営資源の再配置を図ることができます。

組織再編行為には、株式交換のほかに、合弁、会社分割、株式移転、株式交付などが含まれます。これらの手法はそれぞれ異なる特徴と手続きを持ちます。

株式交換は、これら組織再編手法の1つであり、同時にM&Aの手法の一つでもあります。組織再編手法は、特定の目的や状況に応じて選択され、企業の長期的な競争力を強化する重要な役割を果たします。

株式交換の実務の特徴

株式交換にはいくつかの特徴があり、特に上場企業においてはその利用が多く見られます。その主な特徴の1つとして、上場企業が関与する場合の利便性が挙げられます。

上場企業の株式は公開市場で自由に売買されており、その流動性が高いことから、株式交換の際に譲受企業が自社の株式を対価として交付すると、これらの株式を比較的容易に現金化することが可能です。この流動性は、株式交換を実施する上での大きな利点となります。それゆえ、M&Aの譲受側がこの上場株式を対価として受け取ることに合意するケースが多くなります。

株式交換は、M&Aの対象となる非上場企業にとっても魅力的です。なぜなら、上場企業の傘下にあることで経営基盤が安定するからです。

株式交換は、企業経営者が自社株対策として持株会社を設立する際にも利用される組織再編手法です。持株会社を設立することは、非上場株式の相続税評価を引き下げる効果があります。これは、経営者や株主にとって重要な税務上のメリットです。

持株会社を設立し、その持株会社が非上場企業の株式を保有する構造にすることで、相続税評価額が下がることがあります。持株会社自体が非上場であっても、その評価方法には、株主にとって有利な相続税法の評価が行われ、相続税や贈与税の負担が軽減される可能性があるからです。

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M&Aにおいて株式交換が選択される理由

株式交換は、実務手続きが容易であることもあり、子会社買収などのM&A手法として選ばれるケースが増加しています。株式交換がM&A手法として選択される主な理由は以下の3つです。

  • 株主全員の同意を得なくてもM&Aを実施できる
  • 子会社の独立性を維持できる
  • 買収時に現金を支払う必要がない

以下で、それぞれについて詳しく解説します。

株主全員の同意を得なくてもM&Aを実施できる

株式交換では、株主全員の同意を得なくてもM&Aを実施することが可能です。このプロセスは、株式交換の当事者である両企業が、譲渡側の会社の全株式を譲受し側の会社が取得するという株主総会の特別決議に基づきます。株主総会において、議決権の3分の2以上の賛同が得られれば、株式交換を実施できます。

上場企業を完全子会社化するケースで、もし3分の2以上の賛同を得ることが難しい場合は、最初にTOB(公開買い付け)を行い、必要な議決権の割合を確保した後で株式交換を進める方法があります。これにより、株式交換をスムーズに進めることができます。

また、株式交換に反対している株主には、特定の権利が与えられています。これらの株主は、会社に対して自身の株式を買い取るよう請求することが可能です。この権利は、株主が自身の意思に反する株式交換による影響から保護されるためのものです。

このように、株式交換は株主全員の同意を必要とせずにM&Aを実施できる柔軟な手段です。しかし、反対する株主の権利を考慮し、適切な手続きを踏むことが重要となります。

子会社の独立をそのままにできる

株式交換は、譲渡側の会社(子会社)の独立性を維持することが可能なM&A手法です。このプロセスでは、子会社の株主が変わるのみで、会社自体の法人格や独立性はそのまま保持されます。結果として、子会社は以前と同じ会社名を使用し続けることができます。

株式交換によるこのような独立性の維持は、M&Aに伴う従業員や取引先の不安や抵抗感を抑える効果があります。従業員や取引先は、会社が完全に統合されることによる大きな変化や不確実性を感じることが少なくなり、事業の継続性や安定性が保たれます。

会社買収時に現金を支払う必要がない

株式交換は、会社買収を行う際に現金を直接支払う必要がないという大きな特徴とメリットを持っています。通常の会社買収では、譲受側が譲渡側の発行済み株式全てを購入するために多額の現金が必要になりますが、株式交換ではこの要件がありません。

株式交換の場合、譲受側企業は自社の株式を使用して、対象となる会社の株式と交換することができます。これにより、大規模な現金支出をせずに買収を行うことが可能になり、特に資金調達が困難な企業にとっては大きな利点となります。

さらに、「三角株式交換」と呼ばれる方法を用いることも可能です。これは、買収側企業がその親会社の株式を交付して対象となる会社の株式と交換する方法です。このM&A手法は、買収側企業自体が資金を直接支出することなく、親会社の資源を活用して買収を実現するための効果的な方法です。

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株式交換時に注意すべき税務上のポイント

株式交換では、譲受側と譲渡側企業の株主が、お互いに株式を交付するため、それぞれの株主も当事者ということです。株式交換の税務は、親会社とその株主、そして子会社とその株主、四者の立場で考えなければいけません。

以下で、税務上のポイントについて確認していきます。

適格株式交換か非適格株式か

株式交換を行う際、税務上の扱いは、適格要件を満たしているかどうかによって大きく異なります。この点は、株式交換によって100%完全子会社になる会社の株主にとって特に重要です。課税があるかないかが決まるからです。

税法上、株式交換は「適格株式交換」と「非適格株式交換」とに分類されます。適格要件を満たせば、課税は将来に繰り延べられ(含み益が温存され)、株式交換を実施したタイミングでは課税を無しとすることができます。

課税
適格株式交換課税なし(将来の売却時まで繰り延べ)
非適格株式交換課税あり(完全子会社・完全子会社の株主)

また、適格株式の適格要件は以下のとおりです。

  • グループ内企業の資本の組み替え
  • 子会社の完全子会社化
  • 規模が似た会社同士の株式交換
  • 企業を融合する方法としての株式交換
  • スクイーズアウト(少数株主を強制排除)としての株式交換

適格要件は、適格株式交換として認められ、課税の繰り延べの特典を受けるためには必要な条件です。しっかりと確認しておきましょう。

課税されるのは親会社か子会社か

組織再編税制が適用され課税となったり非課税になったりするのは、親会社でしょうか、子会社でしょうか。税務上の取り扱いが悩ましいところです。

親会社については、適格株式交換、非適格株式交換いずれの場合でも、税金はかかりません。
一方、子会社については、非適格株式交換の場合には、要件を満たすかどうかによって、課税されることがあります。すなわち、資産の時価評価し、含み益に対して法人税等が課されるということです。

課税
完全親会社課税なし
完全子会社課税あり(非適格株式交換の場合)

課税されるのは親会社の株主か子会社の株主か

会社だけでなく、株主の課税も重要な論点です。
親会社の株主については、適格株式交換、非適格株式交換いずれの場合でも、税金はかかりません。
一方、子会社の株主については、非適格株式交換の場合には、要件を満たすかどうかによって、課税されることがあります。すなわち、受け取った親会社株式を時価評価し、受け取った収入額とみなすことで、所得税等が課されるということです。

課税
親会社の株主課税なし
子会社の株主課税あり(非適格株式交換の場合)

親会社であれば会社・株主ともに非課税で、子会社は会社・株主ともに要件が適用された場合に課税されるということです。

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株式交換を行った際に発生する税金の種類

この章では、株式交換において発生する税金について説明します。適格株式交換なのか、それとも非適格株式交換なのかによって、課税されるか否かが変わりますが、同時にどの種類の税金なのか、確認しておく必要があります。

適格株式交換において発生する税金

適格株式交換では、完全親会社・完全子会社、およびそれらの株主には原則として課税が発生しません。このため、株式交換を行う際には、適格要件を満たすようにして適格株式交換を実施することが望ましいでしょう。

適格株式交換では以下のような税務上のメリットがあります。

  • 完全親会社において株式交換による含み益に対する課税が繰り延べされること
  • 完全子会社において資産の時価評価による課税が繰り延べられること
  • 子会社の株主において株式譲渡益に対する課税が繰り延べられること

しかし、反対意見がある場合にスクイーズ・アウト(少数株主の強制排除)を行った際には、現金などで対価を支払うことになり、株主が株式を譲渡することになります。
ただし、スクイーズアウトが行われると、少数株主に譲渡益が発生し、その結果として課税が生じることがあります。このため、スクイーズ・アウトトの可能性を事前に考慮し、少数株主に対して適切な対応策を提供することが重要です。

非適格株式交換において発生する税金

非適格株式交換では、課税されるケースが存在しますが、必ずしもすべての場合に課税が発生するわけではありません。非適格株式交換の税務処理は複数のものがあります。

非適格株式交換でも、完全親会社とその株主には通常、課税されません。

非適格株式交換では、完全子会社とその株主に対する課税は、特定の条件に応じて異なります。条件次第で課税されない場合もあります。その条件として、非適格株式交換の対価が株式のみか、それ以外の資産も含まれているかによって税務処理が異なります。

株式交換によって株式譲渡益が発生した場合、株主は所得税(20.315%)を支払う必要があります。また、会社の場合、発生した譲渡益は他の損益と合わせて法人税の対象となります。

一方で完全子会社において時価評価された結果として生じた損益について、法人税等の対象となります。この場合、時価評価の対象となる資産は、固定資産、土地等、金銭債権、有価証券、繰延資産です。ただし、帳簿価額1,000万円未満の資産、含み損益1,000未満については時価評価しないことができます。

非適格株式交換の税務上の影響は、具体的な取引の条件や状況によって変わるため、税理士や公認会計士などの専門家に相談することが重要です。

参照:国税庁「株式・配当・利子と税

消費税

株式交換は、消費税法上「有価証券の譲渡」に該当し、非課税取引とされます。消費税は物品やサービスの提供に対して課される税金ですが、有価証券の譲渡はそれに該当せず、消費税の対象外なのです。

ただし、消費税の課税売上の計算においては、特定の配慮が必要です。
課税売上の割合が95%であれば、仕入れに係る消費税の全額について仕入税額控除することができますから、株式交換における譲渡価額の課税売上の5%の範囲内に収めることが望ましいでしょう。
非課税取引の割合が高まり過ぎることによって消費税の負担が増加する可能性があることに注意が必要です。

登録免許税と印紙税

株式交換に関連して生じる税金として、登録免許税と印紙税があります。

株式交換により資本金が増加した場合、その増加した資本金額に基づいて登録免許税が課されます。この税率は0.7%です。登録免許税は、企業が法的な手続きを行う際に発生する税金ですが、株式交換による資本金の増加は、会社登記簿の変更を伴うため、この登録免許税が発生します。

印紙税は、契約書や譲渡書などの一定の文書に対して課税されます。株式交換の際には、完全親会社の資本金額などに応じて印紙税が課される場合があります。特に株式交換契約書や株式譲渡契約書などの重要な文書には、収入印紙の貼り付けが必要となる可能性があります。

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株式交換を行った際の実務における税務の処理方法

株式交換が実施された場合には、税務の処理方法は、株式交換が「適格株式」なのか「非適格株式」なのかによって異なってきます。以下に、適格株式交換の場合と、非適格株式交換の場合で何が異なってくるのか説明します。

適格株式交換の場合の税務処理

適格株式交換の場合、税務処理は以下のように行われます。
株式の取得価額については、完全子会社の株主の人数に基づき株式取得価額の算出方法が異なります。

株主が50名未満の場合ですが、子会社の株式の取得原価は株式交換直前に子会社の株主の帳簿価額を引き継ぎます。これは、小規模な子会社に対して、よりシンプルな税務処理を可能にするためです。

株主が50名以上の場合ですが、子会社の株式の取得原価は、次の計算式に基づいて算定されます。

取得原価=子会社の前事業年度の純資産額×交換された株式の割合

この計算によれば、子会社の財務内容と株式交換における相対的な時価(株式価値)が反映されることになります。

なお、もし増資や配当が行われている場合、純資産額を調整する必要があります。これは、子会社の財務状態に発生した変動を反映するためです。

非適格株式交換の場合の会社の税務処理

非適格株式交換の場合、税務処理は以下のように行います。
株式の取得価額については、子会社株式の時価とします。
ここでの時価は市場価値や相続税評価額などによって算定され、実際の価値を反映させようとします。
時価に基づく取得価額の算定方法については、通常、独立した評価機関によって評価を依存します。この取得原価は、将来的な譲渡益や損失を算出する基礎となり、法人税や所得税の計算に大きな影響を与えるため、極めて重要なものです。

また、算定された時価は、資本金や資本積立金などの金額として計上されます。これにより、子会社の資本と利益の構造が変化します。

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株式交換を行った際の実務における会計上の処理方法

税務上の処理と区別する必要がありますが、会計上の処理方法についても、完全親会社なのか完全子会社なのか、また、完全親会社の株主なのか、完全子会社の株主なのかによって変わります。それぞれについての仕訳を簡単に説明します。

完全親会社の仕訳

まずは、完全親会社のケースで、適格株式交換の場合の仕訳です。非適格株式交換のケースでは、子会社の簿価純資産を取得価額とし、同額を資本金等の額として計上します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
完全子法人株式簿価資本金等の額簿価

次に、完全親会社で非適格株式交換の場合です。
非適格株式交換のケースでは、子会社株式の時価を取得価額とし、同額を資本金等の金額として計上します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
完全子法人株式時価資本金等の額時価

完全子会社の仕訳

次に、完全子会社のケースで、適格株式交換の場合の仕訳です。適格株式交換のケースでは、完全子会社では会計処理は発生しません。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
なしなしなしなし

次に、完全子会社のケースで、非適格株式交換の場合の仕訳です。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
時価評価資産時価評価損益含み損益額
その他の資産簿価

時価評価した結果としての損益は決算時に計上され、法人税等が課されます。

子会社の株主の仕訳

適格株式交換が行われたとき、子会社の株主の会計上の仕訳ですが、株式交換の対価が、株式のみの場合と、株式以外の対価がある場合(例えば、現金対価)に大別されます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
投資有価証券簿価付替子会社株式簿価

子会社の株主は、これまで持っていた子会社株式の消滅を認識した上で、新たに取得した親会社の株式を認識します。そのときの取得価額は、これまで持っていた子会社の帳簿価額と同額とします。簿価の付け替えのイメージです。みなし配当や源泉徴収は発生しません。
また、取得する際に必要となった費用がある場合には、取得価額に加算します。

次に、株式交換の対価として、現金など株式以外のものがある場合の仕訳は、以下のとおりとなります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
受け取った対価時価子法人株式簿価
譲渡損益差額

子会社の株主は、これまで持っていた子会社株式の消滅を認識した上で、受け取った対価を時価で資産計上します。そして、それらの差額を譲渡損益に計上します。

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株式交換と繰越欠損金の関係について

繰越欠損金は、税務上の概念で、ある事業年度の赤字(欠損金)が翌事業年度以降に繰り越されることを指します。具体的には、企業が1年間の事業活動で損失を出した場合、その損失額が次の事業年度へと持ち越されるのです。
この持ち越された損失額を「繰越欠損金」と呼びます。繰越欠損金を繰り越すことができる期間は、2023年度であれば10年です(平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額の繰越期間は9年)。

繰越欠損金の主な機能は、税負担の軽減です。企業が利益を上げた際、通常はその利益に対して税金が課せられますが、繰越欠損金がある場合、その金額を利益から差し引くことができます。これにより、実質的に課税対象となる利益が減少し、税金の負担が軽くなるのです。

適格株式交換の場合には、繰越欠損金の引き継ぎができますが、適格要件を満たしていない非適格株式交換の場合には、繰越欠損金の引き継ぎはできません。

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株式交換において必要な書類

株式交換ではさまざまな書類を準備しなければなりません。親会社と子会社が株式を交換するというだけであるため、商業登記が必要となるケースが多いです。しかし、商業登記が必要となるケースもいくつかありますので、注意が必要です。その際に、登記のための書類が必要となるのです。

株式交換に商業登記が必要なケース

株式交換の際の商業登記について、具体的なケースとその必要性を整理しましょう。

株式交換の際に、商業登記が必要となるのは、以下のケースです。

  • 現金を交付した場合
  • 新株を発行した場合
  • 親会社が子会社の新株予約権を承継した場合

新株を発行した場合ですが、新たな株式を発行することにより、企業の株式の総数が変動します。このような株式の増加は、商業登記に記録しなければいけません。

また、親会社が子会社の新株予約権を承継した場合についても、商業登記する必要があります。

これらのケースでは、株式交換の効力が発生した日から2週間以内に法務局への登記申請が義務付けられています。申請書は2週間を過ぎてからも提出できますが、遅延すると罰金が科せられることがあるため、期限内申請が重要です。

また、完全子会社の商業登記が必要な場合は、完全親会社の商業登記も同時に行う必要があるケースでは、注意が必要でしょう。

株式交換に必要な書類

株式交換では、ケースにより必要となる書類は異なりますが、主な書類は下記のとおりです。

  • 株式登記の申請書
  • 株式交換契約書
  • 株式交換契約を承認したときの株主総会の議事録
  • 親会社の登記事項証明書
  • 債権者保護手続きの書類
  • 株券提供公告の実施を証明する書類
  • 株主名簿
  • 資本金の計上証明書
  • 子会社の印鑑証明書
  • 司法書士への委任状

また、登記の申請書類に記載する主な内容は、以下のとおりです。

  • 商号
  • 住所
  • 登記の事由
  • 登記すべき事項
  • 登録免許税の額
  • 添付書類一覧
  • 申請内容

登記の事由は、このケースでは「株式交換」です。
登記すべき事項とは、発行済株式の総数や資本金の額、さらに新株予約権の消滅など、ケースによって異なります。
添付書類としては、株主総会議事録と株式交換契約書、または、それに関わる書類が必要です。
ちなみに、商業登記には、登録免許税がかかります。

株式交換の登記には専門知識が必要で、手続きも煩雑で面倒です。登記申請は司法書士の専門分野なので、手続きの代行を依頼すればスムーズに完了できます。できる限り早期に相談したほうがいいでしょう。

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株式交換の手続きの流れ

この章では、株式交換の手続きの流れについて詳しく解説します。
株式交換の手続きは非常に複雑ですので、M&A仲介業者や公認会計士のアドバイスを求めるほうがよいでしょう。

一般的な株式交換の手続きの流れは次の通りです。

  1. 取締役会で決議
  2. 株式交換契約の締結
  3. 事前開示書類の開示
  4. 株主総会で株式交換契約の承認
  5. 債権者保護の手続き
  6. 株券・新株予約権の証券提出手続き
  7. 株式交換の効力の発生
  8. 新株発行・設立・変更の登記申請
  9. 公正取引委員会への手続き
  10. 事後開示書類の開示

それぞれの手続きについて、以下で詳しく解説します。

1.取締役会で決議

株式交換における取締役会の決議プロセスについて、以下の手順で進めるのが一般的です。

まず、完全親会社と子会社は株式交換の契約内容を交渉して決定します。このステップでは、交換比率、条件、期日など、株式交換に関わるすべての重要な詳細を決めます。

交渉がまとまれば取締役会での決議です。契約内容について最終確定したら、完全親会社と子会社の双方の取締役会でそれを決議します。この決議は、株式交換の実施に向けての公式な承認手続きとなります。

取締役会がない場合には、取締役全員の過半数の賛同によって株式交換を承認します。また、取締役が1人だけの場合には、その1人の取締役の承認で株式交換が進行します。この場合、取締役の決定がそのまま会社の公式な決定となります。

2.株式交換契約の締結

株式交換契約の締結は、非常に重要なステップです。この段階では、完全親会社と子会社の間で正式な契約書が作成され、両社が合意した契約内容を文書化します。契約書には、企業の商号と住所、株式交換の対価、比率や新株の割当て、さらに株式交換が法的に効力を持つ日付が記載されます。

この契約書の作成には細心の注意が必要で、適法に作成されるべきです。株式交換の契約書は、将来の紛争を防ぐための法的な根拠となります。

3.事前開示書類の開示

株式交換契約が締結された後、重要なステップとして事前開示書類の開示が行われます。この書類は、株式交換に関わる重要な情報を株主や債権者に伝えるためのもので、株式交換契約の内容やその他関連する事項が記載されます。

通常、この事前開示書類は株主総会の2週間前までに開示されるのが一般的です。これは、株主が株主総会での決議を検討する際に十分な時間が必要だからです。株主はこの書類を参照し、株式交換に関する意思決定を行うことになります。

さらに、事前開示書類は本店に保管されることが求められ、効力発生日から少なくとも6ヶ月間はその場所に置かれる必要があります。この期間の保管は、株主や関連する第三者が後日でも情報を閲覧できるようにするための措置です。こうしたアクセスの可能性は、透明性を高め、企業の責任を明確にするために重要な役割を果たします。

4.株主総会で株式交換契約の承認

株式交換を実行するためには、株主会議での特別決議、すなわち株主総会での3分の2以上の承認が不可欠です。この承認は、株式交換の効力が発生する前日までに完了している必要があります。特別決議は基本的に必要ですが、特定の条件によっては例外が存在するため、注意が必要です。

5.債権者保護の手続き

株式交換の際、債権者の保護手続きは通常必要ありません。しかし、債権者が損害を被る可能性がある場合には、債権者保護のための特別な手続きが必要となります。そのような状況では、まず官報に公告を行うことが求められます。さらに、株式交換に関わる株主への個別の催告も必要になります。これらの手続きは、債権者の権利を保護し、株式交換が債権者に不利な影響を及ぼさないようにするために重要です。

6.株券・新株予約権の提出手続き

株式交換において完全親会社に株券や新株予約権を提出させる場合、その事実を文書化し、公に公告する必要があります。この公告は、交換の効力が発生する日の1カ月前までに完了している必要があります。この手続きは、株式交換に伴う法的な要件を満たし、関係者への情報提供を確実にするために重要です。

必要な書類は、各都道府県の官報販売所で入手可能です。また、インターネットを通じての購入も可能で、これにより手続きの便宜が図られます。

7.株式交換の効力の発生

株式交換が正式に効力を持つのは、定められた日に完全親会社が完全子会社の株式を取得した時点です。この時点で株式交換の効力が発生し、完全子会社は完全親会社の一部となります。このプロセスは、株式交換契約に記載されている条件や日付に基づいて行われ、法的な手続きが完了することで、完全親子会社の関係が正式に成立します。

8.新株発行・設立・変更の登記申請

株式交換が完了し効力が発生した後、関連する登記は2週間以内に完了させる必要があります。全てのケースで登記が必要というわけではありませんが、新株を発行したり、資本金額を変更したりする場合などは登記が必要となります。

9.公正取引委員会への手続き

上場企業の株式交換のように、統合される事業の規模が大きい場合には、完全親会社と子会社が市場において強い支配力を持つ可能性があります。このような場合、競争法規制の観点から、公正取引委員会に対して事前に届出することが必要になることがあります。

10.事後開示書類の開示

株式交換が完了した後、事後開示書類を開示し、保管する義務があります。これらの事後開示書類は、株式交換の効力が発生した後、迅速に作成し、企業の本店で6カ月間保管されます。

事後開示書類には、効力発生日、移動した株式の数(交換された株式の数量)、資本金や利益準備金の増減を記載します。

また、子会社が上場企業である場合、上場廃止に関する告知も文書に含める必要があります。これは、上場企業に対する規制および市場への情報開示要件を満たすためです。

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株式交換の事例

株式交換は、企業の規模や業界や業種を問わず、非常に多く実施されているM&A手法です。ここでは、実際に行われた、株式交換の事例を紹介します。

ヤマダホールディングスによる大塚家具の完全子会社化

家電製品の販売で知られる株式会社ヤマダホールディングスは、株式会社大塚家具の株式の51%以上を保有していましたが、株式交換を通じて残りの株式を取得し、大塚家具を完全子会社化しました。大塚家具は以前から親子対立による経営不振に悩まされていましたが、ヤマダホールディングスの完全子会社となることで、企業戦略の転換と新たな成長の機会を模索しています。

参照:株式会社ヤマダホールディングス「株式会社ヤマダホールディングスによる株式会社大塚家具の完全子会社化に関する株式交換契約締結(簡易株式交換)のお知らせ

イオンによるダイエーの完全子会社化

2014年にイオン株式会社は株式交換を通じて、長年スーパーマーケット業界の先頭を走っていた株式会社ダイエーを完全子会社化しました。この動きは、スーパーマーケット業界において非常に大きな転換点となりました。

業績不振に苦しんでいたダイエーは、この株式交換を通じて早期の再建を目指しました。一方で、イオンはこの株式交換による子会社化を用いて、当時低迷していた自社のスーパーマーケット業務の刷新と強化を図ることを目的としました。この株式交換は、ダイエーの経営改善とともに、イオングループの市場でのポジション強化に寄与しました。

参照:イオン株式会社「イオン株式会社による株式会社ダイエーの株式交換による完全子会社化に関するお知らせ

三菱ケミカルホールディングスによる日本化成の完全子会社化

2016年に、株式会社三菱ケミカルホールディングスの子会社である三菱化学は、日本化成株式会社を株式交換によって完全子会社化しました。この株式交換の目的は、三菱グループ内での相乗効果を促進することにありました。

三菱化学と日本化成の統合によって、企業グループとしての経営資源や技術の効率的な活用、事業分野の拡大、および競争力の強化が期待されました。この株式交換は、三菱ケミカルホールディングスの市場でのポジションをさらに強化し、化学産業におけるリーダーシップを確固たるものにするために重要なステップでした。

参照:株式会社三菱ケミカルホールディングス「三菱化学株式会社による日本化成株式会社の株式交換による完全子会社化に関するお知らせ

オイシックスによる大地を守る会の完全子会社化

2017年、オイシックス株式会社は野菜宅配サービスで知られる「らでぃっしゅぼーや」ブランドを展開する株式会社大地を守る会と株式交換を行いました。この株式交換はその後、両社の合併による経営統合へと繋がりました。

オイシックスと大地を守る会は、この統合により、両社の経営資源を一体化し、野菜宅配サービス市場におけるシェアの拡大と収益性の向上を目指しました。株式交換後に行われた合併により、新会社「オイシックス・ラ・大地」が誕生し、両社の強みを活かした事業展開が進められました。このようなM&Aは、野菜宅配サービス業界における競争力を高め、さらなるビジネスチャンスの創出を目指すものです。

参照:オイシックス株式会社「オイシックスと大地を守る会 経営統合に向けた株式交換契約、承認のお知らせ

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株式交換を成功させるには信頼できるM&A仲介業者に相談するのがおすすめ

株式交換はM&Aの手法ですが、さまざまな要件が存在し、そのパターンも多岐にわたります。このプロセスは手続きが複雑であり、税務処理も含めて一般の知識では対処が困難なことが多いです。そのため、時間的、精神的な負担が大きいとされ、手続きに失敗すると企業価値の下落などのリスクも伴います。

株式交換を検討している企業には、実績豊富で信頼できるM&A仲介業者や公認会計士への相談が不可欠でしょう。

まとめ

この記事では、株式交換がM&Aの際に非常に有効な手法であることを紹介しました。組織再編やM&Aにおいて、株式交換は従業員の承継などの問題を避けられるため、トラブルが少ないM&A手法とされています。

また、株式交換は課税されない場合が多く(税制適格)、グループ企業の株式を効率的に動かすことが可能です。このため、資産管理会社の設立など、節税手段としても利用されることが増えており、今後もその利用は増加すると予想されます。

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監修者|岸田 康雄

監修者

岸田 康雄

国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)/公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/行政書士 平成28年度経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。 一橋大学大学院修了。中央青山監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、みずほ証券投資銀行部M&Aアドバイザリーグループ、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部不動産投資グループ、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント営業部などに在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のクロスボーダーM&Aまで、100件を超える事業承継とM&Aアドバイザリー業務を遂行した。現在は、相続税申告と相続・事業承継コンサルティング業務を提供している。