このページのまとめ
- 減損処理は上場企業・大企業に義務付けられている
- 減損処理の対象は貸借対照表で「固定資産」に区分されているもの
- 減損があり投資した資金を回収できないと判断された際に減損処理を実施する
- 減損処理が発生することにより資金繰りに影響が出る可能性がある
減損処理とは、固定資産の帳簿上の価額を切り下げ、それを損失として処理することです。資産の簿価を下げる点においては、減価償却と似ている会計処理であるため、誤解を招きやすいのですが、会計処理の目的や考え方は大きく異なります。
今回は減損処理について、処理の内容から、実際に減損処理をする際の流れ、会計処理、そして、処理を行う際に注意すべきポイントなどについても詳しく解説していきます。
目次
減損処理とは
減損処理、または減損会計とは、固定資産に関する会計処理の1つです。この処理は、企業が固定資産を購入した後、その資産の収益性が低下し投資金額の回収が困難になった場合に適用されます。具体的には、固定資産の価値を回収可能額まで引き下げ、その損失を財務諸表に計上する方法です。つまり、資産の簿価を減少させ、その損失を計上する処理のことです。
固定資産への投資は通常、投資額以上の収益を期待して行われますが、市場環境の変化や企業収益の悪化などにより、投資した金額よりも低いリターンしか得られない場合があります。このような状況が明確になったとき、企業は速やかに減損処理を行う必要が出てきます。
減損処理を実施する際には、会計基準に従って慎重に進める必要があります。この処理は高度な判断と複雑な計算を要するため、公認会計士が指導し、監査の対象とします。
企業が減損処理を行う理由
減損処理は財務諸表の資産を「あるべき姿」に修正し、より正確なものにするための手段です。
2006年3月決算期以降、上場企業や大企業にはこの処理が義務付けられています。この変更は特に固定資産を多く保有する不動産業、小売業、鉄道事業などに大きな影響を与えました。
適切に減損処理が行われない場合、バランスシート上の固定資産の簿価が、実際の価値とかけ離れてしまいます。これにより、企業の真の経営状態が決算書類に正確に反映されなくなり、投資家が適切な投資判断を行うことが困難になるおそれがあります。
一方で、企業にとっては、財務諸表が正確になることで、経営計画や事業計画が現実の経営状況に即したものになります。また、減損処理を活用して事業用資産の選別を継続的に行うことで、資産効率の高い経営が可能になるという利点もあります。
減損処理の対象となる固定資産
減損会計の対象となるのは、貸借対照表で「固定資産」に区分されているものです。
しかし、注意が必要なのは、すべての固定資産が減損処理の対象となるわけではないことです。
ここでは、減損処理の対象となる固定資産にはどのようなものがあるのか説明します。
1.無形固定資産
形のある有形固定資産とは異なり、形はないけれどもその資産を活用することで収益に貢献するものが「無形固定資産」です。
無形固定資産には、次のものがあります。
- ソフトウェア
- 特許権や借地権
- 商標権やのれんなど
「のれん」はM&Aに伴って生じる資産で、買収された企業の実際の買収価格とその企業の純資産との差額によって測定します。概念としては、買収された企業の収益力やブランド価値を示すものです。
のれんの減損処理が行われるということは、M&Aが事実上失敗したことを意味します。通常のM&Aでは、買収価格に「のれん代」と呼ばれる金額が含まれており、その企業の将来のキャッシュ・フローの割引現在価値が反映されています。
ただし、のれんの金額は将来のキャッシュ・フローの見通しに基づいて算出されるため、実際の価値や収益性とは異なる結果に終わることが多いのです。また、割引現在価値の計算にも、要求利回りの測定など主観的な要素が伴います。そのため、M&Aの投資回収額が事前の予想よりも低い場合、のれんの回収が難しくなる可能性があります。
このような状況となり、のれんが回収できない見込みが出てきたら、速やかに「のれん」の減損処理を行い、特別損失を損益計算書に計上します。これは、M&Aの投資が期待どおりに収益を上げられなかったことを正確に反映し、企業の財務状況を透明化する重要なステップとなるでしょう。
このような事態を避けるためには、公認会計士やM&A仲介業者の指導を受けた方がいいでしょう。
2.有形固定資産
有形固定資産とは、形のある資産のことで、企業が長期にわたって、営業活動のために使う固定資産です。
有形固定資産には次のものがあります。
土地 | 工場用地や店舗用地など |
建物 | 事務所や工場、倉庫など |
機械装置 | パソコンや冷蔵庫などの店舗の厨房機器など |
構築物 | 塀や花壇など |
車両運搬具 | 社用車や事業用のトラックなど |
企業が新たな事業投資を行う際、通常、土地や建物の購入、新しい設備の購入などが行われます。しかし、事業が期待どおりに進展しない場合、その事業からの収益性が予想よりも低い場合、購入した資産から予想した収益を得るのが難しく、投資額の回収が見込めない状況が生じることがあります。このような状況に対処するために、減損処理が行われます。
なお、貸借対照表の資産には、リース資産や建設途中の資産(建設仮勘定)も含まれており、これらの資産についても減損処理の適用が考慮されます。減損処理は、資産の時価が簿価を下回る場合に行われ、企業の貸借対照表を適正なものに保つための重要な会計処理です。
3.投資などその他の資産
投資・その他資産とは、有形固定資産と無形固定資産に含まれない固定資産です。
以下のものがあります。
- 投資有価証券
- 関連会社株式
- 子会社株式
- 保険積立金
- 出資金
- 敷金・保証金
- 長期貸付金など
これらの資産の時価が、購入時よりも著しく下落し、回復する見込みがなく、回収が不可能であると判断できる場合には、減損処理を行う必要があります。
4.減損処理の対象とならない資産の種類
固定資産であっても、減損処理の対象として認められないものもあります
以下の資産には減損処理を行うことができません。
投資有価証券などの金融資産 | 「金融商品に係る会計基準」で規定 |
繰延税金資産 | 「税効果会計に係る会計基準」で計上 |
市場販売目的のソフトウェア | 「研究開発費等に係る会計基準」で「無形固定資産」として計上 |
前払年金費用 | 「退職給付に係る会計基準」で規定 |
経過勘定科目 | 長期前払利息等財務活動から生ずる損益に関連する |
これらの資産については、減損処理の会計基準とは別の会計基準に、価値が低下した場合の規定があるため、減損処理の対象外となります。これらに注意が必要です。
減損処理を行うタイミング
減損の事実が存在することを認識し、投資した資金が回収できないと判断される際に、減損処理が実施されます。ただし、この判断は主観的に行うのではなく、減損処理のプロセスが会計基準によって明確に規定されています。
したがって、減損処理が適切かどうかの判断は、会計基準に従うものとし、必要であると認識された場合にのみ減損処理が行われます。
このプロセスは、会計基準に基づいて資産の簿価と実際の時価を比較し、その差異が減損損失として計上する基準を満たすかどうかを判断するものです。会計基準に従って厳格な評価が行われ、減損処理を行うことが適切かどうか、客観的に判断されます。
以下のようなケースでは、「減損の兆候」があると判断されます。
- 赤字続きの経営
- 市場の悪化が著しい
- 固定資産の価値が大きく下落
- 固定資産を使用した事業の廃止
これらの兆候が見られたタイミングで、減損処理が必要となります。
自社の経営の状況や、固定資産自体には特に問題がなくても、外部経営環境の変化によって、減損処理が必要となることもありえます。
たとえば、景気後退によって、市場環境が著しく悪化して、市場規模が縮小し、当初予想していた売上を確保できなくなるようなケースがこれにあたります。
減損処理のメリット・デメリット
減損処理を行うことには、さまざまなメリット、そしてデメリットがあります。それらを説明いたします。
減損処理のメリット
まずは、減損処理を行うメリットについて確認します。減損処理のメリットは、減価償却費を減少させること、財務諸表が正確になることの2つです。それぞれについて説明します。
減価償却費を減らせる
減損処理のメリットとして第一に、減価償却費を削減できる点が挙げられます。
通常、企業は固定資産を取得した際に、一定期間にわたって減価償却費を計上しますが、減損処理を行うことで、固定資産の帳簿価値が減少し、それに伴う減価償却費も少なくなります。これにより、企業は毎期の支払費用を削減できます。
この結果、企業の収益性指標であるROE(自己資本利益率)やROA(総資本事業利益率)が向上します。
財務諸表が正確になる
減損処理は、固定資産の投資額が当初の予定どおりに回収できない場合に、取得価額を減額する会計処理です。この処理により、固定資産の帳簿価額を現実の時価に合致させ、財務諸表をより現実的で適正なものに調整します。結果として、収益や費用をより現実的に反映させることになるため、正確な財政状態及び経営成績を把握できるようになることが重要です。
減損処理を行った年度では、減損損失が発生しますが、翌年以降はより実態に即した形で損益計算書を作成できます。これにより、企業は収益性を適切に把握し、実際の経営状況に合わせた経営計画や事業計画を立案できるようになります。
減損処理のデメリット
減損処理には、デメリットもあります。業績悪化、債権者や投資家への説明です。
減損処理を行った会計年度の業績悪化
減損処理を行えば、会計帳簿上において単年度で大きな特別損失を計上するため、処理を行った年度の業績が急激に悪化したように見えます。
そのため、金融機関や投資家などによる評価が下がるおそれがあります。したがって、減損処理を行う際には慎重に検討し、正確な情報を提供することが重要です。
投資家や債権者に減損処理の説明が必要
減損処理は、事業投資やM&Aが失敗し、それに伴う損失を会計上で処理するために行われます。しかし、減損処理が発生した場合、経営陣は大株主、債権者、投資家などに対して、その理由や背後にある事情を説明し、理解を得る必要があります。
大株主、債権者、投資家が減損処理の発生を知ると、さまざまな影響が考えられます。
金融機関が融資を断る可能性や、投資家や大株主が株式を売却する可能性が高まることです。これによって、企業の資金繰りに悪影響が及ぶリスクが存在します。
したがって、減損処理が必要な場合、経営陣は投資家や債権者に対して減損処理を行う事情を説明し、透明性を保つことが重要です。信頼を維持して、企業経営のリスクを最小限に抑えるために、的確なコミュニケーションが求められます。
減損処理の流れ
減損処理には高度な専門知識が必要ですが、減損処理の全体像について大まかに把握しておく必要があります。減損損失は以下の流れで行っていきます。
1.固定資産のグループ分け
減損処理の最初のステップは、資産の対象を明確にするために資産のグループ分けを行うことです。これは通常、「資産のグルーピング」とも呼ばれます。
固定資産のグループ分けは、キャッシュを生み出す最小単位で行われる必要があります。例えば、製品は1つの機械だけでなく、生産ラインや工場全体で作られていることがあります。
したがって、相互に保管されている場合でも、それらをグループとして考慮する必要があります。つまり、損益を継続的に把握できるように、「本店」「支店」「工場」といった単位でグループ分けが行われます。
このグループ分けのプロセスにより、どの資産が減損の対象となるのかが明確化され、減損処理の対象が適切に設定されます。
2.減損の生じるサインを把握する
次に、グルーピングした単位ごとに、減損が生じている兆候(サイン)があるかを把握します。
減損の兆候には、以下の例が挙げられます。
- 2期連続で営業損益が赤字
- 景気後退などのために資産(おもに不動産)の価値が著しく下がった
- 稼働率が低下したことで、資産価値が著しく低下している
- 製品の価格が急落したり、技術が陳腐化したりすることなどによって、経営環境が著しく悪化した
減損の兆候が認められなければ、その資産(グループ)は、減損の処理対象ではありません。また、減損の兆候の確認や把握は必ず行うものではなく、「減損の兆候」について経営者がその判断を下します。
3.減損処理を行うか判断する
減損処理の次のステップは、特定の資産グループについて、減損処理を実施すべきかどうかを判断することです。
具体的には、その資産グループが将来にわたって得られるであろうキャッシュ・フローの総額を計算し、これを帳簿価額と比較します。この将来キャッシュ・フローを「割引前将来キャッシュ・フロー」と呼びます。
帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フローを比較した結果、割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回る場合、その資産グループは減損処理の対象となります。逆に、割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回らない場合、減損処理は行われません。
このプロセスにより、減損の必要性を適切に判断し、正確な減損処理を実施することが可能となります。
4.減損の計算を行う
減損処理を行うと判断した後は、減損損失がどのくらい発生しているのかを測定します。
具体的には、 固定資産の帳簿価額から、回収が可能な価額を差し引き、その差額を減損損失の金額とします。
計算式は以下のとおりです。
この際に、回収可能価額は、「使用価値」か「正味売却価額」のどちらか高い方で計算します。
「使用価値」とは、継続的に減損処理を行う資産グループを使用した場合と、資産を使用後に処分した場合に予測される「将来キャッシュ・フロー」の割引現在価値のことです。
使用価値は、次の計算式で求められます。
「正味売却価額」とは、資産グループの時価から、その資産を処分したときにかかるであろう費用額を差し引いて算出した金額のことです。計算式は以下のとおりです。
5.減損の会計処理を行う
減損の会計処理では、一定の条件のもとで、固定資産の帳簿価額を、回収できる見込みの価額まで減額する仕訳を行います。
減損の会計処理には2つの方法があります。「直接控除」で処理する方式と「間接控除」で処理する方式です。原則として「直接控除方式」が採用されますが、「間接控除方式」の選択も可能です。
直接控除方式
減損損失の金額を、建物や機械装置、車両などの資産の取得価額から直接マイナスする方法です。
仕訳例は以下のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
減損損失 | 800 | 土地 | 400 |
建物 | 300 | ||
機械装置 | 100 |
減損損失は、損益計算書では特別損失として計上します。
間接控除方式
関節控除方式では、資産の取得価額と過去に減損した金額の両方を表示します。
記載方法は、取得価額から直接減らさないで、「減損損失累計額」という勘定科目を、資産の取得価額に併記します。
仕訳例は以下のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
減損損失 | 800 | 減損損失累計額 | 800 |
減損損失は、損益計算書では特別損失として計上します。
ここで注意すべきポイントは、減損処理をした後に、処理の対象となった固定資産の価値が高まったような場合であっても、いったん減損処理を計上したのであれば、あとから損失を戻し入れて簿価を増加するような処理を行うことはできないことです。
減損処理を行う際の注意点
減損処理には、どのような注意点があるのかについて、減損処理によって起こる可能性のある悪影響の観点から説明します。
株価に影響する可能性がある
減損処理は、事業投資やM&Aの失敗を示す会計処理であり、緊急性が高い場合があります。単一の会計年度で大きな損失を計上することになるため、その会計年度は通常、大幅な赤字になります。
このため、財務諸表などに対する影響力が大きく、投資家、大株主からはマイナスの印象を受け、株価が一時的に下落する可能性もあります。
しかし、減損処理は財務諸表上の数値に過ぎず、十分な説明責任を果たせば、投資家などからの理解を得ることができるはずです。将来の経営ビジョンや事業計画が確実に整備されている場合、株価の下落は一時的なものとなり、深刻な問題ではありません。
翌期以降の利益が改善する可能性がある
減損処理を行った会計年度の経営成績が一時的に悪化することはやむをえません。
その一方で、減損処理によって、翌年度以降の減価償却費が減少するため、結果的には減損処理を行わなかった場合よりも、翌年度以降の利益額や利益率が大幅に向上する可能性があります。
実際に、多くの企業では減損処理が効果を発揮し、V字回復するなど、業績を大幅に改善させています。ただし、減損処理が実態としての経営改善につながるかどうかは状況により異なるため、経営陣の適切な判断と事業戦略の立案が求められます。
まとめ
減損処理は、大きな損失を財務諸表に計上させる会計処理であるため、一時的にはマイナス印象を抱かれます。しかし、長期的に見れば、経営改善につながりやすい会計処理です。
減損処理の意義とプロセスを正しく理解し、正確な情報を大株主や投資家、債権者などのステークホルダーへ説明したうえで、適切な会計処理を行いましょう。事業の現状を財務諸表に正しく表示することで、誠実な経営者であるという評価を得られるはずです。
ただし、減損処理には専門的で高度な知識が要求されます。公認会計士やM&A仲介業者などの専門家に、早期に相談して、アドバイスを受けることが肝心です。
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