このページのまとめ
- 中小企業の廃業理由は業績悪化や後継者問題、将来への不安などが挙げられる
- 廃業するメリットは、精神的な負担解消や関係者への悪影響の抑制など
- 廃業のデメリットは、費用がかかることや従業員の解雇、借金が残るなど
- 廃業以外の選択肢は親族内承継や親族外承継、M&Aによる事業承継の3つがある
- 廃業に関する相談先は、士業や金融機関、M&A仲介会社などがある
後継者問題や人材不足、将来に対する不安などの理由で、廃業を考える経営者は少なくありません。
しかし、廃業すると従業員や取引先に迷惑をかけたり借金が残ったりするなどのリスクがあります。
これらのリスクを回避するには、廃業以外の選択肢も検討することが必要です。
本コラムでは、中小企業の廃業理由や廃業以外の選択肢について解説します。また、中小企業経営者が廃業について相談できる相手を紹介します。
目次
全国の休業・廃業動向
株式会社帝国データバンク『全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022年)』によると、2022年における全国の休業・廃業は5万3,426件に上ることが判明しました。
過去5年間における全国の休業・廃業は、以下のとおりです。
集計年 | 年間件数 | 前年比 | 休廃業・解散率 | 倒産倍率 |
2018 | 58,519 | ▲ 2.0% | 3.99% | 7.3 倍 |
2019 | 59,225 | +1.2% | 4.02% | 7.1 倍 |
2020 | 56,103 | ▲ 5.3% | 3.83% | 7.2 倍 |
2021 | 54,709 | ▲ 2.5% | 3.76% | 9.1 倍 |
2022 | 53,426 | ▲ 2.3% | 3.66% | 8.4 倍 |
参照元:株式会社帝国データバンク『全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022年)』
物価高や過剰債務、人手不足など、企業経営を取り巻く負の影響に耐え切れなくなり、事業継続を諦める中小企業の増加が背景にあります。廃業は3年連続で減少傾向にあるものの、物価高で中小企業のあきらめが加速しているようです。
中小企業が廃業を選ぶ5つの理由
黒字でありながら、廃業を選択する中小企業が増えているのが現状です。黒字でも廃業を決断する理由には、以下の5つのようなことが考えられます。
- 事業の引継ぎに消極的になっている
- 後継者を確保できていない
- 従業員を確保できない
- 自分の代で廃業するつもりだった
- 事業の将来性に不安を感じている
それぞれの理由について詳しく解説します。
事業の引継ぎに消極的になっている
経営者が事業の引き継ぎに消極的になることが、廃業を選択する理由の一つです。特に会社が業績不振に陥ると、後継者を探すより廃業を選択する傾向にあります。経営難の会社に興味を持つM&A先は見つからないと思い込み、専門家に相談せずに廃業を決める経営者も少なくありません。
また、競争が激しい飲食店や旅行会社などのサービス業、時代の変化で需要が低迷する業種は経営が低迷することも多く、廃業につながりやすいです。
なかには、M&Aに前向きな経営者もいますが、業績不振を理由に思うように買い手が現れない事例もあります。しかし、金融機関や商工会議所、M&A仲介会社などの専門家に相談すれば、課題を解決できることも多いです。廃業を避けたいなら、専門家への相談をおすすめします。
後継者を確保できていない
近年、後継者問題を抱える経営者が増えています。企業を継いでくれる後継者がいれば、廃業ではなく、事業承継を選択することが可能です。しかし、職業選択の自由がより尊重されるようになった現代では、簡単に後継者は見つかりません。親族に後継者がいない場合は従業員から候補者を探せますが、後継者に資金負担が生じるなどの理由で引き継ぐことがかなわず、廃業を決断する経営者もいます。
日本政策金融公庫の『中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)』の調査によると、60歳以上の経営者のうち、5割超が将来的な廃業を予定していることがわかりました。
このうち後継者がいないことを理由に廃業する企業が3割に迫ります。後継者が見つからないまま経営者が高齢になると、十分な引き継ぎ時間を確保できない状況に陥ります。その結果、早い段階で廃業を決断する経営者が増えています。
参照元:日本政策金融公庫『中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)』
従業員を確保できない
経営者が廃業する理由として、従業員を確保できないことが挙げられます。会社を経営するにあたって重要なのは、人間の労働力です。人材が集まらなければ、経営は成り立ちません。特に、地方は人材不足が深刻で中小企業ほど人材が集まりにくいです。
また、国家資格など特殊技術を持つ従業員の確保が必要な企業においても、応募者が現れず、人材不足に陥るケースが見られます。日本社会は少子高齢化が急速に進んでおり、今後も人材不足の課題を抱え続けることになります。
厚生労働省の『一般職業紹介状況(令和5年3月分及び令和4年度分)について』によると、2022年度の有効求人倍率の平均は1.31倍で、求人数が求職者を上回る状況です。企業の採用枠数に対して応募者の数が少ないため、労働者はより良い労働条件を提示する企業を選びます。人件費や採用コストが高騰して経営が圧迫され、資金難で廃業に至る企業も少なくありません。
参照元:厚生労働省『一般職業紹介状況(令和5年3月分及び令和4年度分)について』
自分の代で廃業するつもりだった
はじめから自分の代で事業を終えるつもりだった経営者も一定数存在します。中小企業庁の『2019年版 中小企業白書』の「第3節 廃業とそれに伴う経営資源の引継ぎ」によると、経営者が事業を継続しなかった理由として、「次世代へ引き継ぐ意思がなかった」がもっとも多いことがわかりました。事業を次世代へ引き継ぐ意思がない経営者は、黒字経営でも廃業を選択します。
また、地方では連鎖的な廃業が目立ちます。周りの同業者や取引先が廃業することを機に、自社の廃業を決断することも少なくありません。地方は地域コミュニティーが発達しており、住民同士のつながりが強い傾向があり、同業者や取引先の動向が広がると連鎖的に廃業が起こることもあります。
参照元:中小企業庁『2019年版 中小企業白書』
事業の将来性に不安を感じている
廃業は経営難に陥った企業がするものと思われがちですが、黒字経営でも将来性が見込めないと判断すると、廃業を選択する経営者もいます。産業構造の変化に伴い将来的な展望が見えなくなり、廃業を決断するケースもあるでしょう。
事業の将来性に不安を覚えて廃業を選択する経営者は、後継者に大きな負担を負わせたくないと考えます。その気持ちから積極的に後継者候補を探すこともないため、廃業への道を進んでいきます。
また、赤字経営が続く企業は、金融機関からの融資が受けられなくなります。融資を受けられないと運転資金が足りず、最終的に倒産に至ることも多いです。経営状況にもよりますが、倒産といった最悪の結果を避けるために廃業を選ぶ場合もあります。
中小企業が廃業するメリット・デメリット
廃業と聞くとネガティブな印象を持ちますが、実は悪いことだけではありません。倒産に陥る前に廃業を選択することで、いくつかメリットがあるのも事実です。
ここからは、中小企業が廃業するメリットとデメリットについて詳しく解説します。
中小企業が廃業する3つのメリット
中小企業の経営者が廃業を選択するメリットとして、下記の3つが挙げられます。
- 精神的な負担を解消できる
- 廃業は破産手続きが必要ない
- 関係者への悪影響を抑えられる
それぞれの詳細は以下のとおりです。
精神的な負担を解消できる
廃業により、健康問題や将来への不安によってのしかかる精神的な不安を解消できます。
事業を存続できる事業承継でも精神的負担は減らせますが、経営を引き継ぐためには長期にわたり後継者育成や各種手続きなどに取り組まなければいけません。健康問題を理由に経営から退く場合、準備期間が長いことから、事業承継に負担を感じる経営者もいます。
また、家族や親族、従業員に事業を承継した場合でも将来への不安は解消されず、精神的な負担を抱え続ける経営者も多いです。
健康問題や将来への不安を理由に引退する経営者の場合は、事業継承より廃業のほうが精神的負担が少なくなります。
廃業は破産手続きが必要ない
廃業は企業が債務を完済すれば、通常清算の手続きにより事業を終了できます。通常清算とは、解散した会社が残した債務を全額支払うことが可能な場合にとられる清算方法です。
通常清算の手続きは、以下のとおりです。
- 株主総会での解散決議を行う
- 清算人を選任して会社を解散する
- 財産目録と貸借対照表を作成する
- 残余財産の換価と債権を回収する
- 清算人は会社の債務を支払う
- 残余財産は株主に分配する
- 決算報告書を作成し株主総会で報告する
- 清算結了の登記をする
一方、破産手続きは、裁判所への申し立てが必要です。通常清算は裁判所の関与なく債務を完済可能であるのに対し、破産は裁判所の関与により残債務を消滅させます。
関係者への悪影響を抑えられる
廃業を選択することで、取引先や顧客、従業員などの関係者への悪影響を抑えられます。
企業が破産すると、従業員の退職金や取引先への買掛金などの債務を返済できません。取引先や顧客、従業員の人生に悪影響を及ぼすこともあるでしょう。
一方、破産せざるを得ない状況に陥る前に廃業した場合、倒産に比べると関係者に迷惑がかかりません。
「関係者に迷惑をかけたくない」という思いを抱える経営者ほど、倒産に追い込まれるまで事業を継続してしまうことも多いです。しかし倒産すると関係者への迷惑が大きくなる場合もあるため、戦略的に廃業を選ぶのもひとつの方法です。
中小企業が廃業する4つのデメリット
中小企業の経営者が廃業を選択するデメリットとして、下記の4つが挙げられます。
- 連鎖的廃業のリスクがある
- 手続き費用がかかる
- 従業員の雇用を守れない
- 借金が残る場合がある
以下で詳しく解説します。
連鎖的廃業のリスクがある
債務の返済を完了できたとしても、取引先など関係者への影響がなくなるわけではありません。廃業することにより、自社と仕入れや卸しで取引がある会社に影響を及ぼす可能性があります。特に、相互関係が深いほど与える影響は大きくなり、連鎖倒産する企業が出てくる可能性があります。
手続き費用がかかる
廃業をするには手続きに諸費用がかかります。たとえば、オフィスや店舗を借りている企業の場合、退去時に原状回復費用がかかるでしょう。商品を扱う企業は、在庫を処分する際に費用が発生します。そのほかにも解散登記や官報公告費用をはじめ、司法書士や税理士など専門家への依頼費用もかかります。
従業員の雇用を守れない
廃業すると会社が消滅するため、従業員を雇用することができません。従業員の働く場所がなくなるため、従業員の人生に大きな影響を与える場合があります。
廃業に伴う従業員の解雇は精神的な負担が大きく、頭を悩ます経営者も少なくありません。
借金が残る場合がある
廃業すると借金が残り、返済に追われる場合があります。廃業後に借金が残るかどうかは、個人保証の有無が関係します。廃業後に個人保証のある負債が残った場合、保証人である代表者に返済義務が生じます。
借金の返済に苦労する場合は、個人保証を減免できる「経営者保証免除特例制度」の活用をおすすめします。
参照元:日本政策金融公庫「経営者保証免除特例制度」
中小企業の経営者がとれる廃業以外の3つの選択肢
中小企業の経営者が選べる廃業以外の選択肢には、次のようなものが挙げられます。
- 親族への事業承継
- 従業員や役員など親族以外への事業承継
- M&Aを利用した事業承継
3つの選択肢について詳しく解説します。
親族への事業承継
経営者の親族を跡継ぎにする「親族内承継」があります。
親族内承継のメリットは、事業承継の準備期間を確保しやすいことです。早い段階から親族が後継者になることがわかれば、教育と育成に十分な準備期間を確保できます。
また、後継者が経営者の親族であれば、従業員や取引先から受け入れてもらいやすく、協力や理解を得やすいのも利点です。
従業員や役員など親族以外への事業承継
従業員や役員など、親族以外に事業を承継する方法が「親族外承継」です。
親族外承継を選択するメリットは、後継者候補の選択肢が増えたり、経営の一貫性を維持しやすかったりすることが挙げられます。
ただし、株主の理解を得られなかったり従業員の離職につながったりするリスクがあるため、慎重に進めることが必要です。
M&Aを利用した事業承継
資金力のある外部の第三者に会社を譲り渡す方法も選択可能です。M&Aを利用した事業承継を行います。
メリットは選択するスキームによって異なりますが、創業者利益が得られることや経営ノウハウを持った人を後継者にできること、個人保証の解除などです。
ただし、M&Aを成功させるためには専門的な知識が求められます。M&Aに詳しい人物が自社内にいない場合は、専門家を頼る必要があるでしょう。
中小企業経営者が廃業について相談できる相手
廃業の相談先には、次のようなものがあります。
- 税理士や弁護士などの士業
- 取引のある金融機関
- 商工会や商工会議所
- よろず支援拠点
- M&A仲介会社などの専門家
それぞれの相談先について詳しく解説します。
税理士や弁護士などの士業
廃業の相談先として、税理士や弁護士などの士業があります。資産が多く残る廃業であれば、税理士に相談するのがおすすめです。節税方法を教えてもらえるため、手元に多くのお金を残せます。
負債が残る廃業であれば、弁護士に相談してください。今何をすべきか具体的なアドバイスを受けられるため、適切な対応をとることができます。精神的な負担も軽減されるでしょう。
取引のある金融機関
金融機関では、資金力や情報力を活かした廃業支援を提供しています。取引のある金融機関であれば自社の財務状況も把握しており、それに応じた適切な対応をしてもらえます。
また、廃業手続きに必要な運転資金や従業員の退職金資金などに関する融資の相談を行うことも可能です。債務整理の不安がある場合にも頼れる相談先になります。
商工会や商工会議所
廃業の相談先として、商工会や商工会議所があります。各施設には経営安定特別相談事業を設置していて、廃業を未然に防ぐためのアドバイスを弁護士や公認会計士などの専門家から受けられます。
回復の見込みがある企業は倒産を回避する具体的な方法を提案してくれます。回復の見込みがない企業は、円滑な債務整理ができるように支援してくれます。
よろず支援拠点
よろず支援拠点は、経営に関する専門的なアドバイスを行う機関です。各都道府県に設置されており、無料で相談を受けています。廃業に関すること以外にも資金調達や販路拡大などのアドバイスも受けられるため、不安定な収益を安定させたい経営者にもおすすめです。
M&A仲介会社などの専門家
廃業を検討しているものの、存続できるなら企業を残したいと考える経営者もいるでしょう。
事業承継を検討したい場合は、M&A仲介会社に相談しましょう。
M&A仲介会社は、売り手と買い手の間に立ち、中立的な支援を行う会社です。専門家の視点から、M&Aに関するアドバイスを受けられます。
まとめ
人材不足や将来性の不安、後継者問題など、さまざまな理由で廃業を決断する経営者は少なくありません。特に、近年は物価高の影響で中小企業のあきらめが加速しているのが現状です。しかし事業を継続させたいのであれば、廃業以外の選択肢も検討しましょう。親族内承継や親族外承継、M&Aによる事業承継の選択肢があります。
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