このページのまとめ
- 株式を取得するケースは株式投資やM&Aなど、主に5つある
- 株式取得でかかる税金は、主に所得税・法人税・住民税などがある
- 株式取得の税金は確定申告が必要
- 譲渡所得が20万円以下など一定の要件に当てはまる場合は確定申告が不要
株式取得では、税金がかかるケースが少なくありません。株式を取得する場面はさまざまで、M&Aの手法のひとつである株式譲渡、株式投資や相続などのケースがあげられます。課税される税の種類や計算方法は株式取得のプロセスや条件により変わるため、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、株式取得のさまざまなケースや株式取得にかかる税金の種類、注意したい点などを解説します。
目次
株式を取得するケースとは
株式取得はさまざまなケースで行われます。よくあるのは投資目的による取得です。値上がり時に株を売却し、譲渡益を得ることを目的とするものです。
ほかにも、M&Aによる株式譲渡では買い手企業が売り手企業から株式を取得します。また、相続・贈与でも株式取得が行われます。
ここでは、株式を取得する下記5つのケースについて解説します。
- 株式投資
- M&A
- 相続
- 贈与
- 新株予約権
それぞれの特徴をみていきましょう。
1.株式投資
投資による株式取得は、上場企業の株式を購入して企業を所有する一員(株主)になることです。株式とは会社の所有権の一部であり、会社に資金を提供した投資家に発行されます。
株式投資は、株価が安いときに株を購入し、値上がりしたときに売却して差益を獲得する投資方法です。ほかにも、会社が利益を出したときに分配される配当金を受けとれる場合もあります。会社によっては株主優待制度があり、自社製品の割引や優待券などのサービスを受けることも可能です。
2.M&A
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、企業の合併・買収のことです。合併とは2つ以上の会社がひとつになることで、買収とは会社がほかの会社を買うことを指します。
M&Aは株式譲渡の手法で行われることもあります。買い手企業が売り手企業の株式を過半数以上取得し、経営権を得ることが目的です。売り手企業は買い手企業の子会社となり、全株式の買い手企業への譲渡では完全子会社となります。
株式譲渡で経営者である個人が株式を売却した場合、売却価額が取得価格や譲渡費用の合計を超えれば売却益が発生します。売却益は譲渡所得となり、所得税や住民税の支払いが必要です。
会社の名義で株式を保有している場合は、株式を売却して得た売却益に対して法人税がかかります。
3.相続
相続で株式を取得する場合もあります。被相続人が投資目的で取得していた株式を相続人が取得する場合です。また、被相続人が会社経営者で、その所有する自社株を相続人が取得するケースもあります。
株式取得の税金を計算する際は取得価格が必要ですが、相続した上場株式の取得価格は被相続人の取得価額をそのまま引き継ぐという決まりがあります。
4.贈与
株式は贈与により取得する場合もあります。贈与とは、贈与者が無償で相手方に財産を与えることです。株式の贈与は、株式の価格によっては相続税よりも贈与税のほうが税率が低くなる場合があり、相続対策として親から子へ生前贈与されるケースも少なくありません。
また、会社経営者が事業を後継者に譲る「事業承継」により贈与されるケースがあります。贈与者の取得価額を引き継ぐことは、相続の場合と変わりません。
5.新株予約権
新株予約権とは、株式会社が発行する株式を、あらかじめ定めた条件と金額で購入できる権利です。会社の資金調達目的で発行される「社外向け発行」や、既存株主に対して所有している株式比率に応じて新株予約権を無償で割り当てる「無償割当」などがあります。
従業員や役員などの社内向けに発行する「ストックオプション制度」を導入している上場企業も少なくありません。キャッシュアウトを伴わない報酬の権利を付与することで、従業員のモチベーションを高められることがメリットです。
無償ストックオプションは「税制適格ストックオプション」と「税制非適格ストックオプション」に分類され、税金の取り扱いが異なります。
税制適格ストックオプションとは、租税特別措置法に定められた要件を満たしたストックオプションのことです。有償発行の場合と同じ扱いになり、権利行使時には課税されません。新株予約権者が、取得した株式を譲渡するときまで課税が繰り延べられます。
一方、税制非適格ストックオプションは、権利行使時と権利行使後の株式譲渡の際、それぞれに課税が行われます。
株式の取得でかかる6つの税金
株式の取得でかかる税金はおよそ下記の6種類あり、それぞれ税率や計算方法は異なります。
- 所得税
- 住民税
- 法人税
- 相続税
- 贈与税
- 寄付金課税
取得方法や、個人・法人、上場株式・非上場株式などさまざまな条件で変わるため、取得した株式について定められた正しい税金の計算方法を確認しなければなりません。
ここでは、株式取得でかかる税金の種類と特徴、計算方法などを解説します。
1.所得税
個人の所得に対して課せられる税金です。個人が株式を売却して利益を得た場合のほか、配当金を得た場合にも所得税がかかります。株式取得で利益を得た場合、一律20%(所得税15%、住民税5%)の税率で課税されます。2037年12月末まではこれに復興特別所得税が加わり、合計20.315%の税率です。税金は自分で計算を行い、確定申告により納付します。
ただし、「特定口座」を利用していれば確定申告は不要で、「NISA口座」を利用していれば、一定額までの投資は非課税になります。
参照元:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
2.住民税
個人が居住する住所地の都道府県や市町村に納める税金です。所得税と同じく、株式の売却や配当金で利益を得た場合に課せられます。
「所得割」と「均等割」の2種類があり、所得割は所得に応じて課せられます。税率は道府県民税と市町村民税を合わせて10%です。均等割は所得金額にかかわらず課せられ、税額は数千円程度になります。
参照元:総務省「個人住民税」
3.法人税
法人の所得に対してかかる税金です。正確には、法人税等として以下の4つが課せられます。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
株式取得で法人税がかかるのは、時価よりも安く株式を取得した場合、時価と取得額の差額が贈与と見なされる場合です。また、取得した株式を売却して利益を得た場合も課税されます。
法人税は1年間の損益を通算した金額が課税対象額になり、年度決算の利益額に対して課税されます。利益額を上回る損金を計上して赤字決算となれば、法人税はかかりません。
4.相続税
財産を相続した場合に課せられる税金です。基礎控除額が設定されており、次の計算式で求めます。
3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
たとえば、相続人が4人の場合は、「3,000万円+2,400万円=4,600万円」が基礎控除額になり、遺産総額が4,600万円以下であれば相続税は課税されません。
相続した人数が多ければ多いほど基礎控除が大きくなり、基礎控除額を上回った金額に相続税が課されます。税率と控除額は相続額によって変わり、税率は10〜55%です。
相続した株式を譲渡する場合も、譲渡所得に対して課税されます。相続した株式の譲渡は「取得費加算の特例」が適用になりますが、これは譲渡した株式に対応する相続税額を取得費に加算できる制度です。
取得費が増えれば譲渡所得が小さくなり、税額を抑えられます。適用するには相続税の申告期限の翌日から3年以内に株式を譲渡しなければならず、確定申告も必要です。
5.贈与税
何らかの財産を贈与された場合に課される税金です。基礎控除額は1月1日〜12月31日までの1年間で110万円とされ、110万円を超えた贈与に課税されます。
贈与税は一般贈与財産と特例贈与財産という区分に分けられており、一般贈与財産の税率は贈与された金額に応じて10〜55%です。
特例贈与財産は受贈者がその年の1月1日に18歳以上で、父母や祖父母など直系尊属から贈与された財産が該当します。特例贈与財産の税率は一般贈与財産よりも税額が低くなるよう設定されており、300万円を超える贈与であれば税額が少なくなります。
参照元:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
6.寄付金課税
法人が政治団体などに寄付をした場合、基本的に課税対象とはならず、損金に参入できます。しかし、無制限に損金参入を認めると節税対策に利用されることもあるため、一定額以上の寄付は法人税が課税される仕組みです。
損金算入限度額は資本金や所得の額により変わり、株式を寄付して損金算入限度額を超えた場合には法人税が課せられます。
個人の寄付は、寄付金控除で所得から控除する、もしくは税額控除の適用を受けるかを選択できます。
株式取得にかかる税金の注意点
株式取得で課税される税金がある場合、個人の場合でも確定申告が必要です。会社員は会社で年末調整が行われますが、株式投資や株式譲渡などで利益を得た場合、年末調整とは別に確定申告しなければなりません。
株式譲渡や贈与で適正時価よりも安く取得できた場合にも、安くなった分の差額は利益となります。課税対象となる可能性があるため、注意しましょう。
株式取得にかかる税金の注意点について、詳しく解説します。
確定申告が必要
個人の場合でも、株式取得で利益を得たときは確定申告が必要です。確定申告は1年間の所得にかかる税金を計算し、国に納めるべき税額を報告する手続きを指します。
計算期間は1月1日~12月31日までの1年間で、翌年の2月16日~3月15日のあいだに税務署に申告書類を提出します。期限日が土日や祝日の場合は、休日明けの平日が期限です。
確定申告の必要書類は確定申告書(インターネットで手続きする際は不要)と源泉徴収票、必要に応じで医療費控除の明細書などがあげられます。提出時にはマイナンバーカード、あるいはマイナンバーが掲載されている住民票の写しなどが必要です。提出方法には郵送か持参、e-taxによる電子申告があります。
税金の支払いは所得税と住民税では支払うタイミングが異なり、所得税は確定申告と同じく3月15日が期限です。
一方、住民税は、確定申告をした年の6月に自治体から通知と納付書が届くため、納付書の期限までに支払います。
株式の取得価額が不明な場合は確認すること
確定申告で申告するのは株式取得の利益から株式の購入費用、株式を売却したときの手数料や諸費用を差し引いた金額です。取得価額は証券会社が株式取得時に発行している取引報告書で確認できます。
取引報告書が手元にない場合、証券会社に問い合わせれば確認が可能です。証券会社では「顧客勘定元帳」という法定で義務付けられている帳簿を保管しているため、請求すれば取得金額を確認できます。
確定申告不要の特例
株式取得で利益を得たら必ず確定申告しなければならないわけではなく、確定申告不要の特例があります。
まず、譲渡所得が20万円以下など一定の要件に当てはまる場合は確定申告の必要がありません。証券会社の特定口座を選んでいる場合も確定申告は不要です。
ここでは、確定申告不要の特例について詳しくみていきましょう。
譲渡所得が20万円以下
株式取得で確定申告が必要になるのは、所得が20万円を超える場合です。20万円以下の場合は申告の必要がありません。ただし、所得が20万円以下でも、給与の収入が2,000万円を超える場合は確定申告が必要であり、その際は株式で得た利益の申告も必要です。
また、不要になるのはあくまで確定申告による所得税の申告で、居住地の自治体には住民税を申告をしなければなりません。
参照元:国税庁「確定申告が必要な方」
特定口座で源泉徴収ありを選択している
前にもお伝えしたように、株式投資で証券会社の特定口座を利用していた場合は確定申告が不要です。証券会社の口座は一般口座と特定口座から選ぶことができます。
特定口座は株式の譲渡利益に関する申告・納税手続きを簡素化するために導入された制度です。特定口座を利用して上場株式を譲渡した場合、証券会社が1年分の損益を取りまとめた「特定口座年間取引報告書」を作成し、翌年の1月末までに交付します。
特定口座はさらに「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」に分かれ、「源泉徴収あり」を選べば証券会社が顧客に代わって納税を行うため、確定申告は不要です。
「源泉徴収なし」の場合は自分で確定申告をしなければなりませんが、証券会社が発行した「特定口座年間取引報告書」の数字があるため、自分で計算する必要がありません。手間なく確定申告ができます。
特定口座の「源泉徴収あり」を選んでいても、自分で確定申告をした方がメリットがある場合があります。
医療費控除など還付を受けられる場合がそのひとつです。また、株式の売却により損失が出ている場合、「上場株式等の譲渡損失に係る損益通算及び繰越控除」という特例により、損失の金額を該当年分の「上場株式等に係る配当所得等の金額」と相殺する損益通算ができます。
損益通算してもまだ損失が残る場合、損失の金額を翌年以後3年間にわたり上場株式の譲渡利益・上場株式の配当と相殺する繰越控除もできます。これら損益通算と繰越控除の適用を受けるには、確定申告が必要です。
なお、特定口座の源泉徴収ありを選ぶ場合、利益が20万円以下の場合も税金が徴収されます。本来は申告の必要がない税金が徴収される可能性があることも考慮して選ぶとよいでしょう。
NISA口座のみを利用している
少額投資非課税制度のNISAのみを利用している場合も、確定申告の必要がありません。NISAとは、毎年一定金額の範囲内で購入した株式等から得られる利益が非課税になる制度です。
2024年からは新しいNISAの制度が始まり、「つみたて投資枠」は年間120万円まで、「成長投資枠」は年間240万円までの非課税枠となります。両方合わせ、生涯の非課税枠は1,800万円です。
NISA口座のみを利用した株式取得・売却で得た利益であれば、確定申告は不要です。
譲渡益が出た場合に非課税になるというメリットはありますが、損失が出た場合に損益通算や繰越控除はできません。デメリットもあることは把握しておきましょう。
年間で得た利益が配当金のみ
年間で得た利益が株式を保有している間に取得した配当金のみである場合も、確定申告は不要です。配当金は受け取る際、所得税等が源泉徴収されているためです。
しかし、確定申告することで配当控除を受けられるため、場合によっては申告することで税金が還付される可能性もあります。
配当控除では、
(剰余金の配当等に係る配当所得×10%)+(証券投資信託の収益の分配金に係る配当所得×5%)
が控除されます。
配当所得は20.315%が源泉徴収されているため、
- 20.315%+10%(配当控除)=30.315%
よりも低い税率で税金を納めている場合は申告にメリットがあるといえるでしょう。30.315%よりも低い税率になるのは、課税総所得金額が900万円以下の場合です。
まとめ
株式取得の種類はさまざまで、取得を通して利益を得た場合は税金が課せられます。個人の場合は所得税と住民税、法人の場合は法人税等の支払いが必要です。相続や贈与で取得した場合は、それぞれ相続税、贈与税が課される場合があります。
個人の場合は一定の要件に該当しない限り確定申告が必要であり、決められた期間内に申告しなければなりません。
ただし、確定申告には特例があり、所得が20万円以下の場合や特定口座を利用しているなどの場合は不要です。
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