このページのまとめ
- 会社分割とは、分割会社の事業を包括的に他社に承継する手法
- 会社分割には、吸収分割・新設分割・共同分割の大きく3つがある
- 対価を渡す先に応じて、人的分割と物的分割にも分けられる
- 会社分割は包括承継であるため、個別承継よりも手間がかからない
- 会社分割を行う際は、適格要件と税務手続きに注意が必要
会社分割とは、会社の事業の一部あるいは全部を他社に承継することです。包括承継であり、事業に関する資産や許認可、権利義務なども一緒に承継します。
本記事では、会社分割の種類や事業譲渡との違い、分割会社と承継会社から見たメリット・デメリットや、会社分割の流れなどを幅広く解説します。会社分割を使い、事業の切り離しや経営のスリム化を検討している方は必見です。
目次
会社分割とは
会社分割とは、会社が展開する事業の一部、あるいはすべての事業を他社に承継する、M&Aの手法の1つです。
会社分割では、会社を残したまま、事業や事業に関する資産、人材、権利義務、許認可などを包括的に他社に承継できます。特定の事業のみを他社に移管させるスキームと考えるとわかりやすいでしょう。会社分割は、不採算事業の切り離しや、組織のスリム化を目指す際に有効な手法です。
会社分割では、譲渡企業を分割会社、譲受企業を承継会社と呼びます。
事業を他社に承継する、という点は合併と同じです。しかし、合併では承継後に存続会社以外は消滅する一方、会社分割では、分割会社も存続するという違いがあります。
事業譲渡との違いも重要です。
会社分割 | 事業譲渡 | |
承継 | 包括承継 | 個別承継 |
対価 | 原則株式 | 金銭 |
事業譲渡では、譲渡する事業の資産や負債は個別に承継します。そのため、許認可や契約関係などはそのまま引き継がれません。また、事業譲渡は組織再編行為ではなく取引行為であるため、対価には金銭を使用します。
一方、会社分割では事業に関する資産や負債、権利義務などが包括的に承継されます。さらに、会社法における組織再編行為であるため、対価に分割会社の株式を利用できるのもポイントです。
会社分割には、既存の他社が事業を引き継ぐ吸収分割と、事業移管用に会社を新設し、新設会社が事業を引き継ぐ新設分割があります。
会社分割の種類
会社分割の主な手法は、既存企業が承継会社となる吸収分割と、新設された企業が承継会社となる新設分割です。また、複数の企業が分割会社となる共同分割も存在します。
さらに、対価を誰に支払うかに応じて、人的分割と物的分割に分けられます。株主に支払う場合は人的、会社に支払う場合は物的です。
種類ごとの特徴や違いは、以下のとおりです。
種類 | 概要 | 事業を引き受ける先 | 対価を受け取る先 | 備考 | |
吸収分割 | 人的吸収分割 | 既存企業が承継会社となり、対価を分割会社の株主に支払う | 既存の別の会社 | 分割会社の株主 | 対価として現金を用いることが可能 |
物的吸収分割 | 既存企業が承継会社となり、対価を分割会社に支払う | 分割会社 | |||
新設分割 | 人的新設分割 | 新設企業を承継会社とし、対価を分割会社の株主に支払う | 会社分割ために新設した会社 | 分割会社の株主 | 対価は株式のみ |
物的新設分割 | 新設企業を承継会社とし、対価を分割会社に支払う | 分割会社 | |||
共同分割 | 人的共同分割 | 別々の企業が同時に承継会社に事業を承継する 承継会社は、対価を分割会社の株主に支払う | 既存の別の会社 | 分割会社の株主 | 2社以上から同時に事業を引き受ける |
物的共同分割 | 別々の企業が同時に承継会社に事業を承継する 承継会社は、対価を分割会社に支払う | 分割会社 |
ここでは、会社分割の種類をそれぞれ見ていきましょう。
吸収分割
吸収分割とは、ある別の既存企業に対して、事業に関して有する資産や権利義務などを承継することです。
分割会社が不採算事業を切り離し、コア業務に注力するために活用されるケースが多く見られます。
すでに存在している企業同士で会社分割を行うため、対価に株式だけでなく、現金を用いることが可能です。
吸収分割は、対価を支払う先によって、さらに人的吸収分割と物的吸収分割の2つに分けられます。以下では、それぞれの特徴について解説します。
人的吸収分割
人的吸収分割は、吸収分割の中でも、対価を分割会社の株主に支払う会社分割のことです。
たとえば、A社が分割会社として、吸収分割を使ってB社に対して事業を譲渡したとします。B社は、対価としてA社の株主に株式を渡します。これが人的吸収分割であり、分割会社の株主は、承継会社の株主になるのがポイントです。
物的吸収分割
物的吸収分割は、対価を分割会社に支払う吸収分割のことです。
事業を受け継いだ対価として、承継会社が分割会社に株式か現金を渡します。株式を受け取った場合、分割会社が承継会社の株主となります。
なお、事業の買収を目的に分割を実行する場合は、現金を対価として払うことが多いです。この場合、事業譲渡と同じような効果を得られます。ただし、会社分割では、事業譲渡と異なり包括承継が可能です。
新設分割
新設分割は、新設会社が承継会社となる会社分割のことです。会社分割のために、分割会社が新しい法人を立ち上げ、そこに事業を移転させます。
たとえば、α事業とβ事業を手がけるA社が、新設分割でβ事業を譲渡する場合、A社はまずB社を立ち上げ、そこにβ事業を承継させます。その結果、α事業を保有するA社と、β事業を保有するB社が誕生します。これが新設分割です。
新設分割は、経営をスリム化させたい場合や、好調な事業により多くの資金や人員などを投下させたい場合などに役立ちます。
新設分割では、対価は株式のみであるのが特徴です。承継会社がまだ現金を持っていない状況で事業を引き継ぐためです。
新設分割も、対価を支払う先によって、さらに2つに分けられます。それぞれ見ていきましょう。
人的新設分割
人的新設分割は、新設分割の中でも、対価を分割会社の株主に支払う会社分割のことです。これによって、分割会社の株主は、分割会社と新設会社双方の株主になります。
なお、株主が直接新設会社の株式を受け取るわけではありません。分割会社が一度株式を受け取り、それを配当によって株主に渡します。
物的新設分割
物的新設分割とは、新設分割の中でも、対価を分割会社に支払う会社分割のことです。
物的新設分割では、分割会社が新設会社の株式を保有します。分割会社が新設会社のすべての株式を保有する場合は、完全な親子関係が成立するのがポイントです。
共同分割
共同分割とは、承継会社が別々の企業から同時に会社分割を受け、複数の企業が分割会社となることです。分割会社であるA社とB社が、それぞれ同時にC社に対して会社分割を実施します。複数の事業を1社に統合したい際に用いられる方法です。
共同分割も、承継会社であるC社が既存の法人か新設会社かによって、共同吸収分割と共同新設分割に分けられます。
会社分割と事業譲渡の違い
会社分割と事業譲渡は混同しやすいため、違いを理解しましょう。
事業譲渡は、事業の資産や負債、権利などを他社に買い取ってもらうことを指します。一方、会社分割は、事業や会社を分割して、他社に全て承継させることです。
両者にはさまざまな違いがあり、以下の表のようにまとめられます。
事業譲渡 | 会社分割 | |
会社法上の組織再編行為に該当するか | 該当せず | 該当 |
従業員個別の同意 | 必要 | 不要 |
許認可の承継 | 承継されない | 原則承継される |
債権者個別の事前承諾 | 必要 | 不要 |
債権者保護手続き | 会社法に定めなし | 会社法に定めあり |
契約関係の承継 | 特定承継 | 包括承継 |
簿外債務の承継 | リスクなし | リスクあり |
事業譲渡の場合は、雇用主が変わるため、実行にあたって従業員個別に同意を得なければなりません。また、許認可や契約関係などをそのまま移転させることはできず、新たに譲受会社が許認可を取得したり、契約を締結し直したりする必要があります。
対して、会社分割では包括承継が可能です。一方で、簿外債務を引き継ぐリスクもあることから、債権者保護手続きを行う必要があります。
【売り手】会社分割を行う5つのメリット
分割会社から見た、会社分割を行うメリットは以下のとおりです。
- 事業の選択と集中による経営改善が期待できる
- 税金の負担が比較的軽い
- 後継者育成にも役立つ
- 分割の手続き中も事業を継続できる
- 社内体制や株主関係を整理できる
会社分割は、不採算事業の切り離しや後継者育成、社内体制の整理など、さまざまな目的で活用できます。手続きがスムーズに進みやすく、税負担も比較的軽いため、会社分割を行うハードルが低いのもポイントです。
ここでは、分割会社から見た、会社分割を行う5つのメリットをそれぞれ解説します。
1.事業の選択と集中による経営改善が期待できる
会社分割を行うことで、不採算事業を切り離せるため、選択と集中による経営改善が期待できます。
事業が伸びる兆しが見えず、抜本的に経営を立て直したいという場合や、好調な事業に経営資源を集中投下させたい場合などに効果的な手段です。分割によって得られた対価を用いて、残った事業をさらに強化させるという選択肢もあります。
2.税金の負担が比較的軽い
会社分割は、税金の負担が比較的軽いのもメリットです。
事業譲渡では、取引自体や売却利益に消費税が課税されます。一方、会社分割では、資産の承継が消費税法上の課税取引に該当しないため、取引自体が消費税の課税対象になりません。
また、一定条件を満たせば適格分割とみなされ、分割会社は法人税の優遇措置を受けられます。適格要件については後述します。
このように、税金の負担を抑えたい場合には、事業譲渡よりも会社分割の方が有効といえるでしょう。
3.後継者育成にも役立つ
会社分割は、後継者育成にも役立つ手法です。
後継者候補がいる場合は、新設分割で事業を新会社に移行し、後継者候補にその事業を一任できるようにすることで、経営経験を積ませられます。その後、分割会社やグループ全体の代表として後継者を任命する、というステップを踏むことで、スムーズな事業承継が実現するでしょう。
また、経営者候補になりうる優秀な人材に子会社の代表取締役というポジションを与え、人材流出を防ぐ、という方法もあります。
4.分割の手続き中も事業を継続できる
会社分割では、分割の手続き中も事業を継続できるのがメリットです。
事業譲渡の場合は、債権者や従業員から個別に同意を得たり、契約の巻き直しや許認可の再取得などが必要だったりするため、事業の継続に影響が出る可能性が高いです。譲渡完了まで時間がかかり、経営に大きな支障をきたすこともあります。
一方、包括承継が可能な会社分割であれば、スムーズに手続きを進められます。手続き中も、分割する事業を停止することなく、承継会社に移転できるのが特長です。
5.社内体制や株主関係を整理できる
社内体制が複雑化している場合は、分割によって事業を切り離すことで、社内体制を整理できます。
また、分社化してそれぞれに株主を割り当てることで、株主関係を整理できるのもメリットです。
α事業を強化すべきと考えている株主と、β事業を強化すべきという株主に分かれ、両者が対立してしまうケースもあるでしょう。会社分割によって事業を分社化し、それぞれに株式を割り当てることで、株主関係を整理し、主張がこじれるリスクを回避できます。
【売り手】会社分割を行う2つのデメリット
一方、会社分割には以下のようなデメリットもあります。
- 株式の現金化が難しい
- イメージが低下するリスクがある
会社分割では、対価として株式が用いられるケースが多いため、現金化が難しいのは大きな難点です。また、ほかのM&Aの手法と同様に、会社分割に失敗してイメージが低下してしまうリスクもはらんでいます。
ここでは、分割会社から見た2つのデメリットを解説します。
1.株式の現金化が難しい
承継会社が非上場企業である場合、会社分割の対価として株式を受け取っても、現金化が難しいのがデメリットです。非公開株式は、公開株式に比べると市場流動性が著しく低いため、なかなか買い手が見つからないことがあります。買い手が現れなければ売却できないため、現金化に非常に時間がかかる、あるいは現金化ができないリスクが高いです。
一方、事業譲渡の場合、譲渡企業は対価として現金を受け取れます。すぐに現金を得たい場合は、事業譲渡の方が適している可能性が高いです。
2.イメージが低下するリスクがある
承継会社や分社化した会社のイメージが悪化すると、分割会社もグループ企業として見られ、イメージが低下してしまう場合があります。
会社分割は、新たな体制で事業を始めるというイメージが強いため、事業譲渡や会社売却などに比べると、イメージダウンのリスクは低いです。しかし、承継会社や新設会社の影響を受ける可能性も十分にあるため、相手探しや手続きを慎重に進めることが欠かせません。専門家の協力を仰ぎ、リスク対策を徹底して、会社分割を進めましょう。
【買い手】会社分割を行う2つのメリット
承継会社から見た、会社分割を行うメリットは以下のとおりです。
- 承継にあたって手間がかからない
- 資金を準備しなくても実行できる
事業譲渡に比べてスムーズに手続きを完了させやすい点や、資金を用意しなくても実行できる点は、承継会社にとっては大きな魅力といえます。
ここでは、承継会社から見た、会社分割を行う2つのメリットを解説します。
1.承継にあたって手間がかからない
承継にあたって、比較的手間がかからないのは、会社分割ならではのメリットです。
会社分割は包括承継であるため、事業譲渡のような個別承継と異なり、契約承継のための個々の手続きが不要です。また、債権者から同意を得る必要がないため、承継にあたって手間がかかりません。比較的スムーズに実行できるのが特長です。
会社分割の手続きは、2ヶ月ほどで完了するケースが多いです。M&Aは基本的に半年から1年ほどかかるとされていることを考えると、会社分割は比較的スムーズに実行できるスキームであることがわかります。
ただし、新設分割の場合は会社を設立する手間が加わるため、吸収分割よりも手間や時間がかかる点に注意しましょう。また、株式総会の開催に時間がかかる場合もあるため、余裕のあるスケジュールで動くことが大切です。
2.資金を準備しなくても実行できる
会社分割は、株式を対価とするため、承継会社が資金を準備しなくても実行できるのもポイントです。
株式譲渡や事業譲渡などのスキームでM&Aを行う際は、買収資金を準備する必要があります。手元の資金のみでは足りない場合は、外部から資金を調達しなければなりません。M&Aの交渉と並行して資金調達を進めなければならないため、M&Aを行うハードルが高くなります。
一方、会社分割なら株式を対価にできるため、手元に十分な資金がなくても会社分割を実行できます。
資金不足が原因でM&Aに取り組めていなかった企業にとって、会社分割は有効な選択肢の1つです。
【買い手】会社分割を行う4つのデメリット
会社分割にはメリットもある一方で、以下のようなデメリットがある点は見逃せません。
- 負債も引き継ぐことになる
- 期待していた成果が得られない可能性がある
- 許認可の再取得が必要な場合がある
- 会社が肥大化し、固定費負担が増える
分割会社に問題はないか、会社分割を行うデメリットよりもメリットの方が大きいかなどをよく検討したうえで、会社分割を行うか決めることが大切です。
ここでは、承継会社から見た、会社分割の4つのデメリットを解説します。
1.負債も引き継ぐことになる
会社分割では、分割会社の資産だけでなく、負債も引き継がなければなりません。
特に、簿外債務や係争リスクが見つかった場合は、承継会社の経営に大きな影響をきたすリスクが高いです。また、不要な資産を引き継いでしまう可能性もあります。
包括承継であることを踏まえて、分割会社を見極めることが欠かせません。
必要な資産のみを引き継ぎたい場合は、事業譲渡を選ぶ方がよいでしょう。
2.期待していた成果が得られない可能性がある
会社分割を行っても、期待していた成果が得られない可能性がある点には注意が必要です。
会社分割の手続き自体がうまくいっても、承継に失敗してしまうリスクがあります。会社分割に反対する人材が離反してしまったり、会社が2つに分かれることにより、それぞれのサービス開発力や技術力が低下したりすることもあります。
また、株式を対価に会社分割を実行する場合、新株を発行することで1株あたりの株式価値が下落する点にも注意が必要です。企業イメージが低下し、経営に悪影響を及ぼすリスクもあります。
会社分割を成功させるためには、手続きだけでなく、その後の引き継ぎを慎重に進めることが大切です。
3.許認可の再取得が必要な場合がある
業種によっては、会社分割後に承継会社が許認可を再取得しなければならない場合があります。
会社分割では、基本的には許認可もまとめて承継できます。しかし、宅地建物取引業や建設業など、一部の業種については、許認可の再取得が必要です。また、承継はできるものの、行政庁の承認を得なければならないケースもあります。
再取得や承認手続きが必要かどうか、許認可ごとに必ず確認しましょう。
4.会社が肥大化し、固定費負担が増える
吸収分割を行うと、部門・事業が増えて会社が肥大化し、固定費の負担が増えてしまうのは難点です。
組織が拡大することにはメリットもありますが、組織体制を見直さなければ、無駄なコストが発生してしまう懸念があります。人数が増える分人件費負担も増加するため、資金繰りの見直しが必要です。
また、会社が肥大化して風通しが悪くなり、社内コミュニケーションがうまくいかなくなる恐れもあります。
会社分割の流れと必要な手続き
会社分割は、以下の流れで進めましょう。
- 必要書類を準備する
- 新設分割の計画書を作成する
- 取締役会の承認を得る
- 社員に事前通知する
- 債権者保護手続きを行う
- 株主総会特別決議を実施する
- 登記申請する
必要書類が多いことや、取締役会や株主総会特別決議の実施が必要なことから、余裕のあるスケジュールで進めることが大切です。
ここでは、各ステップごとに必要な準備や手続きを解説します。
1.必要書類を準備する
まずは、必要書類を準備しましょう。会社分割を行うためには、以下のような書類が必要です。
- 会社分割契約書
- 取締役会の議事録
- 事前開示書類
- 事後開示書類
ほかにも、登記申請の際に必要な書類が多数存在します。
吸収分割の登記申請では、以下のような書類が必要です。
- 会社分割契約書
- 分割会社・承継会社それぞれの株主総会議事録
- 株主リスト
- 会社分割に異議がある債権者がいないことを示す上申書
- 官報公告のコピー
また、新設分割の登記申請では、会社設立に関する書類も提出する必要があります。
- 会社分割計画書
- 分割会社の株主総会議事録
- 会社分割に異議がある債権者がいないことを示す上申書
- 官報公告のコピー
- 設立会社の定款
- 設立会社の役員の印鑑証明書
- 設立会社お役員の就任承諾書
- 設立会社の資本金が会社法の規定に則っていることを証明する書類
ほかにも書類の提出が求められることがあるため、事前に詳細を確認しましょう。
書類の準備に不安がある場合は、専門家のサポートを受けることがおすすめです。
2.新設分割の計画書を作成する
新設分割の場合は、契約書の代わりに新設分割の計画書を作成します。新設会社が承継会社になり、設立前の段階では契約書を作成できないためです。
計画書には、以下のような事項を記載します。
- 新設会社の定款に定める事項
- 新設会社の資本金額
- 設立時の取締役の氏名
- 設立時の監査役、会計監査人、会計参与の氏名(必要に応じて)
- 新設会社が承継する権利義務、資産
- 分割会社に割り当てる株式や社債に関する情報
- 新株予約権や社債の算定方法 など
作成後、取締役会の承認を得なければなりません。
3.取締役会の承認を得る
取締役会を設置している場合は、取締役会の承認を得ることが必要です。吸収分割なら契約締結前、新設分割なら計画書作成後に取締役会を実施し、承認を得ましょう。
また、取締役会の議事録も提出する必要があるため、開催日時や開催場所、出席取締役名、承認内容などを記録してください。
取締役会では、あわせて株主総会の招集についても決議しましょう。
4.社員に事前通知する
会社分割を行う旨を、社員に事前通知します。
会社分割では、事業譲渡のように、社員それぞれと雇用契約を締結し直す必要はありません。しかし、労働契約承継法の内容に従い、分割会社・承継会社の商号や実施時期、分割後の業務内容や異議を申し立てる際の手続き方法などを、事前に通知することが求められます。
株主総会特別会議を開催する2週間前の前日までに、事前通知を行いましょう。
5.債権者保護手続きを行う
会社分割では、債権者個別の同意を得る必要はないものの、債権者保護手続きは必要です。
官報公告に会社分割を実施する旨を掲載し、分割会社と承継会社それぞれの商号、所在地や、借対照表を掲載しましょう。
そして、異議のある債権者には1ヶ月以内に申し出る旨も公告し、異議を申し立てる債権者が現れた場合は、別途対応が必要です。
6.株主総会特別決議を実施する
会社分割を行うためには、株主総会特別決議を実施することが求められます。特別決議では、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を得ましょう。
その後、株主に対して通知・公告を行います。会社分割に反対する株主から株式買取請求があった場合は、公正な価格で買い取らなけばなりません。なお、買取請求権を行使できる期間は、会社分割の効力発生日の20日前から前日までです。
7.登記申請する
問題がなければ、分割契約書で規定した効力発生日に、会社分割が成立します。分割会社と承継会社は、効力発生日から2週間以内に登記申請を行いましょう。新設分割の場合は、新設会社が登記申請をした日に、効力が発生する仕組みです。
分割会社と承継会社で共同して作成しなければならない提出書類もあるため、両社で協力しながら、すみやかに登記申請を完了させましょう。登記完了後、登記事項証明書が発行されます。
適格分割のための要件
適格分割とは、税務上の一定の要件を満たして行う会社分割のことです。この要件のことを適格要件といい、分割を実施する会社間の関係性によって適格要件は異なります。
適格分割が適用される場合、資産を帳簿価額で引き継ぐことができるのがメリットです。
一方、適格要件を満たさない会社分割のことを、非適格分割といいます。非適格分割では、資産を時価で引き継ぐ必要があります。さらに、法人税やみなし配当の課税義務も生じるため、適格要件を満たした上で会社分割を実行するのがおすすめです。
以下では、適格分割のための要件を紹介します。
100%親子会社である場合
分割会社と承継会社が100%親子会社である場合は、以下の要件を満たす必要があります。
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両者の支配関係が強ければ強いほど、適格要件を満たすハードルが低いのが特徴です。
株式所有率が50%超~100%未満の支配関係にある場合
株式所有率が50%超~100%未満の支配関係にある場合は、上記に加え、さらに以下の要件を満たさなければなりません。
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また、前提として、株式所有率が50%超えの状態を継続する必要があります。
完全な親子関係である場合に比べて、満たすべき要件が増えるのがポイントです。
支配関係がない場合
支配関係がない企業間が共同事業として行う会社分割では、上記に加え、さらに以下の要件も満たさなければなりません。
(以下、いずれか)
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このケースでは、適格分割とみなされるハードルが高いため、要件を満たしているか、細かくチェックすることが大切です。
また、平成29年度の税制改正によって、スピンオフという項目が追加されました。スピンオフとは、新設分割のスキームを用いて自社の事業を切り離し、独立した承継会社に事業を移転させることです。
スピンオフにおける適格要件は、以下のとおりです。
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スピンオフで適格分割と認められるためには、上記のように多くの要件を満たす必要があります。
会社分割における税務処理の3つのポイント
ここでは、会社分割において理解しておきたい、税務処理の3つのポイントを解説します。
- 繰越欠損金は引き継げない
- 資本金の額などに応じて法人税が変動する
- 不動産を承継する場合は不動産所得税がかかる
会社分割では、税務処理が煩雑になる可能性がある点には注意が必要です。税務処理のポイントを押さえ、適切な処理を行いましょう。
以下では、各ポイントについて解説します。
1.繰越欠損金は引き継げない
会社分割では、原則として分割会社の繰越欠損金を引き継ぐことは認められていません。繰越欠損金の引き継ぎを認めると、承継会社が節税のために、分割会社の繰越欠損金を損金に算入する可能性があるためです。
ただし、吸収分割の場合は、条件によって既存の繰越欠損金を引き続き利用できる場合があります。
また、分割会社は、引き続き繰越欠損金を利用できます。
2.資本金の額などに応じて法人税が変動する
法人事業税や法人住民税は、資本金の額など(資本金、資本準備金、会社分割によって移転された資産や負債)によって変動します。そのため、会社分割を行って承継会社の資本が増えれば、その分法人税が高くなるリスクがある点には注意が必要です。
法人税の増加について懸念がある場合は、専門家に相談し、アドバイスをもらいましょう。
3.不動産を承継する場合は不動産所得税がかかる
会社分割で不動産を承継する場合、基本的には不動産所得税も課税されます。
ただし、以下の条件をすべて満たす場合は、例外として不動産所得税が課税されません。
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会社分割の事例3選
最後に、会社分割を実施して成功した事例を3つ取り上げます。
- ソフトバンク
- 楽天
- ワークスアプリケーションズ
会社分割の種類や分割に至った背景などを紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
1.ソフトバンク
ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)は、2020年10月、アニメ専門コンテンツ配信サービスである「アニメ放題」を株式会社U-NEXT(以下、U-NEXT)に承継させました。ソフトバンクを分割会社、U-NEXTを承継会社とする吸収分割です。対価として、株式ではなく、2億5,000万円の金銭が交付されました。
ソフトバンクは、経営効率化を図るため構造改革を進めていました。その一環として、もともと協業パートナーとして「アニメ放題」の運営を行っていたU-NEXTに、事業を承継した、という事例です。
U-NEXTは、アニメ作品に関する調達や企画・配信等の運営ノウハウを有しています。U-NEXTに「アニメ放題」事業を移管することで、ソフトバンクが持つ経営資源の効率化とともに、事業の強化や提供価値の拡大が実現する見込みです。
参照元:ソフトバンク「会社分割(簡易吸収分割)に関するお知らせ」
2.楽天
楽天グループ株式会社(以下、楽天)は、2023年11月、楽天ペイ事業と楽天ポイント事業を、連結子会社の楽天ペイメント株式会社(以下、楽天ペイメント)に承継させました。また、楽天ペイメントの全株式を、同連結子会社である楽天カード株式会社(以下、楽天カード)に移管しています。
この会社分割は、楽天を分割会社、楽天ペイメントを承継会社とする吸収分割です。対価として、楽天ペイメントが楽天に対し、普通株式16,500株を発行して割り当てます。
再編後、楽天カードは楽天の連結子会社として、楽天ペイメントと楽天インシュアランスHD株式会社を傘下に抱える企業となりました。
この会社分割および再編は、楽天ペイメントとの協業体制を強化し、グループ内でさらなるシナジー効果を発揮するために実行したそうです。楽天は、国内外で70以上のサービスを提供し、独自の「楽天エコシステム(経済圏)」を形成しています。この組織再編により、楽天ペイメントとの協業体制が一層強化され、楽天エコシステムの拡大に向けた戦略立案が可能になるとしています。
参照元:楽天「会社分割(簡易吸収分割)による当社連結子会社への事業承継及びフィンテック子会社における株式交付によるグループ内組織再編に関するお知らせ」
3.ワークスアプリケーションズ
株式会社ワークスアプリケーションズ(以下、ワークスアプリケーションズ)は、20219年8月、HR領域に関連する事業と関連子会社を、新設会社に承継させました。同時に、ベインキャピタルが運営管理するSPC(特別目的会社)に、新設会社の全発行済株式を譲渡しています。
この新設分割かつ譲渡は、これまでワークスアプリケーションズが成長させてきたHR事業を、ベインキャピタルが持つ豊富な知見を活かし、さらに拡大させることを目的に実行されました。
また、新設会社の代表取締役にはワークスアプリケーションズの創業経営者である石川芳郎氏が就任しました。従来の企業文化や理念の継承を前提に、持続的な成長を目指す方針です。
参照元:ワークスアプリケーションズ「会社分割(吸収分割)及び 新設会社株式の譲渡に関するお知らせ」
まとめ
会社分割とは、事業の一部、あるいは全部に関する資産や権利義務、許認可などを、包括的に他社に承継する方法です。すでに存在する他社に分割する吸収分割と、新設会社に分割する新設分割の大きく2つがあります。また、対価を分割会社の株主に渡す場合は人的分割、分割会社自体に渡す場合は物的分割となり、種類ごとの特徴を理解することが大切です。
会社分割は、事業の切り離しによる経営のスリム化が実現する、税負担を抑えられる、包括承継で手続き負担が小さい、買収資金を準備する必要がないなど、分割会社・承継会社双方とってメリットが大きいです。一方、対価の現金化が難しい、承継会社が負債や不要な資産を引き継ぐ可能性がある点など、デメリットもあります。メリットとデメリットをよく比較検討し、一つひとつの手続きに不備がないよう、慎重に進めることがポイントです。
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