このページのまとめ
- 優先株は、投資家が一部の内容で優先的な地位を得られる株式
- 参加型・非参加型・制限参加型の3種類があり、それぞれ累積・非累積型に分けられる
- 優先株を発行することで、議決権に影響を与えずに資金調達できる点がメリット
- 優先株の発行には、定款の変更など手間がかかる点に注意
- 議決権の範囲に気をつけることが、発行時のポイントのひとつ
「自社で優先株を発行すべきだろうか?」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。優先株を発行すれば、議決権に影響を与えずに、資金調達できる点が主なメリットです。
本コラムでは、優先株発行のメリットとデメリットや、発行する際に考慮すべきことを解説しています。また、優先株の種類や普通株との違いも解説しているので、優先株の概要を知りたい方も参考にしてください。
目次
優先株とはどのような株式のこと?
優先株(式)とは、投資家が一部の内容で優先的な地位を得られる株式のことです。ここでは、優先株の特徴について詳しく解説します。
優先株の特徴
優先株は、普通株式に比べて「剰余金の配当」や「残余財産の分配」において優先的に受け取れるようになっている点が特徴です。とくに、ベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップに投資する際に、優先株が発行されることがあります。
なお、剰余金の配当とは、決算で確定した繰越利益剰余金などを分配することです。また、残余財産の分配とは、会社の解散後に債権回収や債務弁済を経て残った財産(残余財産)を株主の間で分配することを指します。
優先株と普通株の違い
普通株とは、通常、投資家の間で売買されている株式のことです。優先株は、「剰余金の配当」や「残余財産の分配」で優先して配当(分配)を受け取れる分、議決権は一般的に制限される点が普通株との違いです。
なお、普通株と権利の内容が異なる株式のことを種類株式と呼ぶことがあります。種類株式には内容の異なる9種類の株式があり、優先株もそのひとつです。
優先株の種類
ここから、優先株の種類とその特徴を解説します。
1. 参加型優先株式
参加型優先株式とは、優先株式として決められた配当に加え、普通株式の配当も受けられる優先株です。会社の清算時に、残余財産の分配を優先して受けたのち、普通株主に分配した後の財産をさらに分配されることがある点も特徴として挙げられます。
仮に、会社の清算額が2,000万円、優先株を保有しているのが自分だけの場合、優先分配権200万円を持っていればまず200万円を受け取れます。保有比率が30%であれば、参加型だと540万円{(2,000万円 – 200万円) × 30%}をさらに受け取り可能です。その結果、今回のケースでは分配合計が740万円(200万円 + 540万円)になるでしょう。
参加型優先株式は、より多くの分配を期待できる株式といえます。ただし、一般的に非参加型優先株式より取得にかかるコストが高くなりやすい点に注意が必要です。
2. 非参加型優先株式
非参加型優先株式とは、優先配当のみを受けられ、普通株の配当を受けられない優先株です。また、会社を清算する際も、残余財産の優先的な分配しか受けられません。
先ほどの計算と同じ例(会社の清算額が2,000万円・優先配分権200万円・保有比率30%)で考えると、非参加型優先株式で受け取る分配合計は200万円のみです。いくら保有比率が30%であっても追加で分配は受け取れません。
計算例からわかるように、基本的に参加型優先株式よりも非参加型優先株式の方が、受け取る配当・分配は少なくなるでしょう。その分、コストは安い傾向にあります。
優先配当はあくまで先に受け取れる配当で、金額が普通株の配当より多いとは限りません。非参加型優先株式は普通株の配当を受け取れないため、普通株の配当よりも受け取る額が少なくなる可能性もあります。
配当状況を考慮して、非参加型優先株式から普通株への保有変更を検討することもあるでしょう。今回のケースでも、清算時に非参加型優先株式では分配合計は200万円のみですが、普通株であれば600万円(2,000万円 × 30%)を受け取れます。
3. 制限参加型優先株式
制限参加型優先株式とは、参加型優先株式と非参加型優先株式の間に位置付けられる優先株のことです。制限参加型優先株式を持っていれば、優先配分額が支払われた後に制限された範囲内で普通株の配当も受けられます。
以下の例で、制限参加型の受け取り分配額を計算してみましょう。制限以外の部分は、参加型の条件と同じです。
- 会社の清算額が2,000万円
- 優先配分権200万円(優先株を保有しているのは自分だけ)
- 保有比率30%
- 優先配分権2倍までの制限
まず、2,000万円のうち、優先分の200万円を受け取ります。続いて、保有比率30%のため本来540万円を受け取り可能ですが、制限参加型で「優先配分権2倍までの制限」がかけられているため、実際に受け取れるのは400万円(200万円 × 2倍)までです。合計で600万円(200万円 + 400万円)分配されます。
つまり、制限参加型優先株式は、一般的に受け取れる配当が非参加型優先株式より多く、参加型優先株式よりも少ない点が特徴です。計算例の分配合計額も、参加型は740万円・制限型は600万円・非参加型は400万円と、傾斜がついています。
なお、制限の範囲は、普通配当の額に対する比率などで算出します。
4. 累積型優先株式・非累積型優先株式
参加型・非参加型・制限参加型と異なる類型として、累積型や非累積型があります。
累積型優先株式とは、所定の優先配当金が全額支払われなかった場合に、不足分が翌期以降に繰り越される優先株です。それに対して非累積型優先株式は、所定の優先配当金が全額支払われなかった場合に不足分を繰り越せない優先株を指します。
リスクの軽減につながるため、投資家にとっては累積型優先株式を持っている方が有利でしょう。
会社側にとっての優先株のメリット・デメリット
会社が優先株を発行するメリットとデメリットを紹介します。
会社が優先株を発行するメリット
優先株を発行すると、議決権を分散させずに資金を調達できる点がメリットです。一般的に、優先株発行にあたって議決権を制限するため、議決権の希薄化を抑えつつ必要な額を資金調達できます。
希薄化とは、新株を発行により1株あたりの価値や権利が低下することです。議決権を制限していれば、優先株を発行しても権利に変更はありません。
会社が優先株を発行するデメリット
優先株の発行にあたって、手間がかかる点が会社側のデメリットです。
まず、対象の種類株式の内容を定款で定めるために、定款を変更しなければなりません。また、新株を発行したことを登記に反映させるために変更登記申請が必要です。
そのほか、優先株を発行することで、資金繰りが厳しいイメージを持たれかねない点がデメリットとして指摘されることもあります。
投資家にとって優先株のメリット・デメリット
投資家にとって優先株のメリットとデメリットが何かを、説明します。
優先株を取得するメリット
優先株のうち参加型優先株式や制限参加型優先株式の場合、配当金を二重で受け取れる点が投資家にとってのメリットです。普通株を保有している場合よりも高配当を期待できます。
また、優先株を持っていれば、優先的に配当や分配を受けられるため、投資対象企業の経営状態が悪化した際のリスク対策になる点もメリットでしょう。
優先株を取得するデメリット
優先株は一般株と比べて売買できる機会が少なく、流動性が低い点がデメリットです。投資対象の企業が好調で、株価が上昇している局面でも売却チャンスを逃す可能性があります。そのため、キャピタルゲインよりもインカムゲインを狙う場合に向いている株式といえるでしょう。
また、議決権を制限されている可能性が高い点もデメリットです。経営に参加することも想定しているのであれば、普通株を取得した方がよいでしょう。
企業が優先株の発行時に考慮すべきこと
企業が優先株を発行するにあたって考慮しなければならない点は、以下のとおりです。
- 配当率や配当の受取・分配方法を株主と話し合う
- 議決権の範囲に気をつける
- 優先株から普通株に転換する際に注意する
- 今後の資金調達方法も考えておく
それぞれの内容を詳しく解説します。
配当率や配当の受取・分配方法を株主と話し合う
優先株を発行するにあたって、配当率・配当の受取・分配方法などを株主と話し合うようにしましょう。あらかじめルールを定めておかなければ、配当コストがかさみ資金調達したにもかかわらず経営に余裕がなくなります。
配当率は、普通株の3〜10%の上乗せで設定することが一般的です。また、配当率は通常1年ごとに定めます。
議決権の範囲に気をつける
優先株を発行する際、議決権の範囲にも気をつけるようにしましょう。
優先株は種類株式の一部のため、発行後は種類株主総会を開くことになります。種類株主総会とは、ある種類の株式を保有している株主だけが参加する株主総会のことです(会社法第2条第14項)。
優先株で決議できる事項(議決権)を広げすぎると、経営がスムーズに進められない可能性があります。また、議決権を狭めすぎると優先株を保有する株主の反発を受けるため、双方が納得できる部分で折り合いをつけることが大切です。
参照元:e-Gov「会社法第二条十四」
優先株から普通株に転換する際に注意する
優先株から普通株に転換する場合は、条件に注意しましょう。普通株に転換されると議決権が変動するため、どの条件で認めるかしっかりと考えておくことが大切です。
なお、上場する際に、一般的には優先株をすべて普通株に転換します。なぜなら、優先株と普通株が混在していると時価総額の妥当性を判断しにくくなるためです。
今後の資金調達方法も考えておく
今後の資金調達方法を考えてから、優先株を発行するようにしましょう。
一度優先株を発行すると、資金調達方法が狭まる可能性があります。なぜなら、優先株を発行することで企業価値が向上して株価が上昇することで取得コストが上昇するため、普通株を取得しようとする投資家が減る可能性があるためです。
このような事態を考慮し、普通株以外の資金調達方法(金融機関からの融資など)を検討しなければなりません。
日本で優先株を発行した事例
茶製品や清涼飲料水メーカーとして知られる、伊藤園が優先株を発行した事例を紹介します。
伊藤園は、2007年9月に東京証券取引所第一部(現プライム市場)に上場した際に、普通株式を保有していた株主に対して、普通株式1株につき0.3株の割合で優先株式の無償割り当てを実施しました。
伊藤園の公式ホームページによると、優先株の保有により普通株式に対して「1.25倍の配当額」や、株主優待品などを受け取れるとのことです。ただし、株主総会における議決権は与えられていません。
参照元:伊藤園「優先株について」
まとめ
優先株とは、投資家が一部の内容で優先的な地位を得られる株式のことです。優先株には、参加型・非参加型・制限参加型の3種類があります。
優先株を発行することで、議決権に影響を与えを分散せずに資金調達できる点が企業にとってのメリットです。ただし、定款の変更などで手間がかかる点に注意しましょう
企業が優先株の発行時に考慮すべきことのひとつが、議決権の範囲です。優先株で議決権を広げすぎると、経営をスムーズに進められないでしょう。
なお、優先株は、M&Aで売却益を株主に優先的に分配する際に用いられることもあります。M&Aとは、「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略で、主に会社売買のことです。優先株やM&Aには専門的な知識が求められるため、あらかじめ専門家に相談しましょう。
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