M&Aファイナンスとは?目的・手法・流れや注意すべきポイントを解説
2024年1月11日
このページのまとめ
- M&AファイナンスとはM&Aの際に必要となる資金調達することを指す
- M&Aファイナンスには調達方法によってメリット・デメリットがある
- M&Aファイナンスの企業からの調達では審査が通りやすいメリットがある
- ノンリコース・ファイナンスでは自社の信用度が低くても資金調達できる
M&Aは、今や事業承継の手段として活用されており、新規事業への参入手段としてもM&Aが多く活用されています。
買い手にとってのM&Aは買収という大きな投資になるので、成功させるためには十分な投資資金の準備が重要です。
資金不足のためにM&Aが失敗に終わることを避けるため「いつ」「どこ(誰)から」「いくらくらいを」「どのような条件で」確保・調達するか、資金調達の計画を立てることが大切です。
資金調達の方法には借入金などがありますが、特にM&Aのための資金調達を「M&Aファイナンス」と言います。
本記事では、M&Aファイナンスの概要や活用目的、種類、活用手順などについて紹介します。M&Aファイナンスの活用を検討している方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
目次
M&Aファイナンスとは
M&Aは「Mergers & Acquisitions」(日本語では「合併と買収」)です。一方で、「ファイナンス」は事業を行うための資金調達を指します。つまり、M&Aの際に必要となる資金調達することを「M&Aファイナンス」といいます。
この章では、M&Aファイナンスの概要と目的について見ていきましょう。
M&Aファイナンスの概要
M&Aファイナンスは買い手の資金調達を指します。これは「買収ファイナンス」とも呼ばれ、その資金はM&Aの譲渡代金の支払いに使われます。
M&Aファイナンスの際、資金の調達方法は以下の4種類です。
- 株主からの出資(エクイティファイナンス)
- 金融機関や投資家などの外部第三者からの資金調達(デットファイナンス)
- 企業による資金調達(コーポレート・ファイナンス)
- 今後の収益力・キャッシュ・フローなどを担保にする(ノンリコース・ファイナンス)
企業買収の際のM&Aファイナンスでは、少ない自己資金を元手に投資効率を高め、外部からの資金を加えて買収する「レバレッジド・バイアウト(Leveraged Buyout、略して「LBO」)」が増えています。厳密には異なりますが、M&Aファイナンスと「LBO」は同じ意味で用いられることが多いです。
企業がM&Aファイナンスをする目的
M&Aファイナンスの目的は大きく分けて2つあり、事業目的と投資目的での活用が挙げられます。M&Aファイナンスは、投資目的の活用が一般的です。
企業がM&Aファイナンスを行う主な目的は、自社の手元の資金だけでは難しい大企業や優良な企業の買収を、M&Aを通じて実現するための資金調達です。
また、企業が成長を続ける際の既存事業の拡大や新規事業の開発に必要な資金調達のため、M&Aファイナンスは活用されます。
昨今、高齢化などの影響で後継者選びや事業承継に不安を持つ企業が増加傾向です。この背景から、事業を第三者や他社に承継する方法としてM&Aが活用されるようになり、それに伴いM&Aファイナンスも利用されています。
M&Aファイナンスにおける資金調達の方法
M&Aファイナンスにおける代表的な資金調達方法は、「コーポレート・ファイナンス」と「ノンリコース・ファイナンス」に分けられます。
2つの資金調達方法の特徴について確認していきましょう。
コーポレート・ファイナンス
コーポレート・ファイナンスとは、「企業による資金調達」であり、資金調達とその返済の主体となるのは買い手企業です。
その特徴として、資金の調達は買い手企業の信用力(与信)に基づき、通常の借入金と同様の方法で行われます。
したがって、これは通常の借入や一般的な設備投資での資金調達と同じ方法です。煩雑な手続きは不要です。
コーポレート・ファイナンスでは、調達した資金を他社の買収に使うだけでなく、自社の既存事業の拡大や新規事業の立ち上げにも活用し、企業価値を高める取り組みも行います。
コーポレート・ファイナンスのメリットとデメリットは、以下のとおりです。
項目 |
内容 |
メリット |
・自社の信用力を活用しての借り入れなので、審査が通過しやすい。 ・通常の融資と同じ方式なので、通常の利率での返済が期待できるため、コストを低く抑えられる。 ・買い手企業が担保や保証を提供すれば、より有利な(低い)金利での借入が可能。 |
デメリット |
資金調達は自社の信用力に基づくため、買収対象が信用力の高い企業であっても、資金調達可能な額や期間に変化は期待できない |
ノンリコース・ファイナンス
ノンリコース・ファイナンスでは、買収を目的に設立された「特別目的会社」(Special Purpose Companyの訳、SPCと略します)が資金調達の主体です。
その特徴は、自社の信用力をもとに資金を調達する「コーポレート・ファイナンス」とは違い、買収される対象企業の信用力や今後の収益力、キャッシュ・フローを担保にして資金調達することです。
ノンリコース・ファイナンスのメリットとデメリットをまとめました。
項目 |
内容 |
メリット |
・買収対象となる企業の信用力で資金調達が可能。 ・自社の信用力が低い場合でも資金調達ができる。 ・買収対象となる企業の信用力や収益力次第で資金調達可能額が増加。 ・買い手企業の信用力以上の資金調達が可能になることがある。 ・SPCが有利子負債を背負うため、買収対象企業が倒産しても買い手企業に返済義務が生じない。 |
デメリット |
・コーポレート・ファイナンスと比べて金融機関の審査を通過しにくい。 ・借入後に金融機関からの厳しいモニタリングが存在する。 ・買収対象企業が倒産すると、買い手企業からの借入金が返済されない |
M&Aファイナンスの手法
次に紹介する「メザニン・ローン(メザニン・ファイナンス)」と「シニア・ローン(シニア・ファイナンス)」が、M&Aファイナンスの2つの手法です。
それぞれの手法の概要と特徴、そしてメリットとデメリットを説明しますので、確認していきましょう。
メザニン・ファイナンス
シニア・ローンで資金を調達したものの、M&Aに必要な資金が足りなかった場合、不足分を補う手法を「メザニン・ファイナンス(メザニン・ローン)」と言います。
メザニン・ファイナンスのメリット
メザニン・ファイナンスのメリットとしては以下の点があげられます。
- シニア・ローンと比べ与信審査が厳しくないため資金の調達が比較的容易
- シニア・ローンよりも債務者の義務や制限が少ない
金利が高く設定されているため、貸し手の視点では、返済が途中で滞っても高金利によりある程度回収の余裕があります。
メザニン・ファイナンスの最大のメリットは、シニア・ローンほどの厳しい与信審査がなく、資金調達が容易であることです。
メザニン・ファイナンスのデメリット
メザニン・ファイナンスにはメリットがある一方、以下のようなデメリットがあげられます。
- 貸し倒れリスクがある。
- 借入期間が長いため返済期間および利息負担が大きくなる。
メザニン・ファイナンスの最大のデメリットは、シニア・ローンよりも金利負担が大きいことです。また、金融機関にとって返済が劣後するため、シニア・ファイナンスの弁済後に財産が尽きて倒産した場合、貸し倒れリスクがあります。
シニア・ローン
シニア・ローン(シニア・ファイナンス)とは、一般的な融資と同じ仕組みを持ち、資金の調達方法は負債によるものです。メザニン・ローンよりも優先して返済されます。
これは返済までの期間が比較的短いのが特徴で、M&Aファイナンスの中でも多く活用される手法です。
他の債権に比べて返済の優先度が高いため、借り手は、調達した資金を事業投資に活用し利益を得た場合、シニア・ローンの返済を優先的に行う必要があります。
ただし、金融機関の与信審査の結果によっては、借り手が必要としている資金の目標額を達成できないこともあります。その場合、先述の「メザニン・ファイナンス」を利用して、不足する資金を調達するのが一般的です。
シニア・ローンのメリット
シニア・ローンには、以下のメリットがあります。
- リスクが低く貸し出しやすい
- 返済が滞る可能性も低い
- メザニン・ローンよりも金利の負担を抑えて資金の調達が可能
シニア・ローンの最大のメリットは、金利負担が軽いことです。また、貸し手側には厳しい与信審査やほかの負債よりも優先的な返済権利があるため、リスクが低く貸し出しやすいのもメリットです。
シニア・ローンのデメリット
シニア・ローンのデメリットとしては、以下の点があげられます。
- 信用力に応じて貸し出すため与信審査が厳しくなる
- 担保設定により借り手側に相応の信用力が求められる
- 与信審査の結果によって資金調達の希望額を満たせない可能性がある
シニア・ローンの最大のデメリットは、金融機関による与信審査の厳しさです。与信審査の厳格さは新興企業や信用履歴の乏しい企業にとって、資金調達のハードルを高くしてしまうでしょう。
M&Aファイナンスの流れ
それでは、M&Aファイナンスの手法の一つ、シニア・ローンを利用するときの手順について詳しく確認していきましょう。
下記の6つの手順に沿って、詳しく説明します。
1.インディケーション・レターを取得する
M&Aファイナンスを進める際、最初に金融機関による初期的な検討を受ける必要があります。
すなわち「インディケーション・レター」の取得です。インディケーション・レターは、金融機関から発行される、融資金額や貸付の金利条件などが記載された資料のことです。
「インディケーション・レター」の取得に当たっては、まず、融資を金融機関に打診し守秘義務の契約を締結してください。
その後、買収を希望する企業の情報やM&Aに関する資料を金融機関に提出し、分析および検討を受けます。
買収企業と金融機関がおおまかに合意し、貸付が可能と判断されると、金融機関は融資額や金利などの条件が記載された「インディケーション・レター」を発行します。
インディケーション・レターは、あくまでも金融機関からの提案資料に過ぎず、金融機関との合意書や契約書ではないので、法的拘束力は一切ありません。また、この時点では、融資の内容もまだ確定はしていないので、注意が必要です。
インディケーション・レターを受け取ったからといって、融資が確定するわけではありません。そのM&Aファイナンスを前提に事業計画を立てていたとしても、融資が最終的に実行されない場合、M&Aが進行しないケースもあります。
インディケーション・レターの取得後、買収企業は想定するリターンを計算して、買収交渉に向け、買収方針や買収金額などの検討を行いましょう。レバレッジを使用すると、リターンは増加しますが、それに伴いリスクも高まるため、慎重な判断が求められます。
2.コミットメント・レターを取得する
インディケーション・レターの取得後は、金融機関は与信審査・判断を行うために買収される企業の概要やその買収の妥当性、M&Aを実行する際の手段や方法などについて検討し、融資条件を決定します。
そして、金融機関で融資の決裁が通れば、「コミットメント・レター」が提出されます。
コミットメント・レターとは、金融機関が融資を行うという意思を表明した書類(誓約書)です。
融資に対する金融機関の意思と、インディケーション・レターに記載のある融資の条件に加えて、以下の内容が記載されます。
- ローン契約の締結
- 融資を実行する際の諸条件
- コミットメントの有効期限
金融機関は与信審査を行った後、融資条件を決定し、コミットメント・レターを発行します。
借入を行う企業は、資金調達の不安要因が排除されることで、融資とM&Aの交渉が進行するでしょう。これにより、融資が最終的に実行されないリスクやM&Aの頓挫のリスクが低減します。
コミットメント・レターを取得した後は、「タームシート」を作成し、融資に関する合意を確認するステップへと進みます。
3.タームシートの合意を行う
先に説明したコミットメント・レターよりも、融資条件などの内容について、さらに詳細に記載した書類が「タームシート」です。
タームシートに記載される内容は、主に以下のとおりです。
- 融資の前提条件、主要要件、および細かな条件
- 表明保証
- 融資金額、金利など
タームシートは、契約書に記載すべき重要ポイントを簡潔にまとめたシートなので、契約書とはまったく別のものです。
そのため、コミットメント・レター同様に、タームシートにも法的拘束力はありません。
しかし、弁護士などの専門家との相談を経て検討・修正が行われ、金融機関と借り手側の交渉により内容が確定し、最終的に合意されます。
この段階で、記載内容が最終的なローン契約書とほぼ同じであるため、記載された内容は、基本的には遵守されます。
4. 買収契約とローン契約の締結をする
タームシートに金融機関と借入側の企業との間で合意がなされると、それをもとに、ローン契約が締結されます。ローン契約書に記載される条項は、おもに次のとおりです。
- 資金使途
- 貸付を実行する前提条件
- 弁済に関する事項
- 誓約事項
- 表明保証(契約前に確認している情報が正確であることを保証するもの)
- 期限の利益喪失事由
- 債権譲渡に関する事項
- 制約事項
- 権利調整に関する事項
金融機関と借入の企業との間でローン契約が締結されるタイミングで、M&Aの買収に関する譲渡契約書も締結されるのが一般的です。
金融機関が融資を行う理由は、融資が企業買収の資金として使用されることを前提にしているからで、M&Aが成立しない場合、融資は実行できません。
一方、買収を希望する企業にとっても、この融資がなければM&Aの実行は困難なため、ローン契約が締結されると同時に買収契約が締結されるのです。
譲渡契約書の内容が金融機関のローンの契約に影響を与えるため、譲渡契約書に記載されている内容は、金融機関と共有するようにしましょう。
5.取引 担保・保証の差し入れを行う
ローン契約と譲渡契約書が締結後、金融機関が融資を行うと、買収手続きが進行します。
融資が実行された後、金融機関は債権回収を確実にするため、融資先企業に担保の設定や保証を求めます。担保や保証は、融資を行う金融機関が債権を回収できない場合に備える保全策です。
金融機関は、買収企業がM&Aにより取得した買収対象企業の株式を担保として設定することを求めます。また、担保や保証で債権をカバーできない場合、買収企業や買収対象企業の保有資産や有価証券などを担保として設定することもあるでしょう。
ローン債権の回収にあたり、担保権が行使される場合、買収先企業の事業価値を損ねてしまう可能性があります。そのため、事業価値を損ねることなく、金融機関との確認や交渉を通じて担保設定を行うことが重要です。
6. 債権管理・ローン返済を行う
融資が実行された後は、ローンの返済が始まります。元本の返済期日までには、元本全額を返済しなければなりません。
金融機関は、債権が完全に回収されるまでの間、資金の使途が守られているかを厳しくモニタリング(調査)をし、徹底な債務管理を実施します。
モニタリングは、ローン契約に基づき、金融機関と融資を受ける企業との間での監視活動が進められます。金融機関が実施するモニタリングの具体的な内容は、以下のとおりです。
- 財務諸表(貸借対照表・損益計算書・キャッシュ・フロー計算書など)の提出
- 定期的な財務報告
- 財務制限条項を含んだ誓約事項など、財務に影響をおよぼすできごとが発生した場合の報告要求
借入を受けた企業は、ローン契約に記載されている義務を守り、金融機関のモニタリングを受けながら、適切に債務の管理を行います。返済の最終期限までには、借り入れ元本全額の返済と利息の支払いを完了させなければなりません。
以上が、シニア・ローンの利用時の流れです。
M&Aファイナンスを活用する際の注意すべきポイント
M&Aファイナンスの活用を成功させるには、しっかりとポイントを押さえて取り組まなければ、十分な効果を得られません。どのような点に注意してM&Aファイナンスを行えばいいのか、確認していきましょう。
M&Aファイナンスを行うことが自社の利益になるか検討する
まず、M&Aファイナンスの利用を申請する前に、「本当に自社の利益となるのかどうか」を精査しましょう。
M&Aファイナンスは、買収企業が自社の判断で行うこともありますが、金融機関からの提案として受けることもあるでしょう。後者の場合、金融機関も営利企業であるため、自社の利益を優先的に考慮します。
そのため、金融機関から提案されたM&Aファイナンスの内容が、本当に自社の利益に繋がるのかを冷静に分析し、慎重に判断する必要があります。
自社の状況を把握し、現在の状況にあったM&Aの資金の調達方法を選択することが大切です。
また、金融機関から借入れを行う場合には、連帯保証が企業の代表に設定されます。
連帯保証は、企業を売却しても解消されないため、連帯保証の債務が、代表だった人に残ることになります。
さらに、自社がM&Aされたとしても、金融機関にとって貸し倒れリスクは軽減されるわけでありません。そこで、連帯保証の解消を拒否されるケースも多々あります。
売却企業の代表の連帯保証を外すための対策として、借入金の繰り上げ返済などの相談があることも考えられるので、買収企業側は前もって考慮しておくと良いでしょう。
海外企業との取引は手続きが複雑になるので注意
近年、日本企業と海外企業との間のクロスボーダーM&Aが増加傾向にあり、日本企業がM&Aファイナンスを利用して海外企業の買収を行うことも珍しくなくなりました。
海外の案件に取り組む場合、現地の法律の影響を受けるため、現地の税制や法制度、会計制度などを念入りに調査し考慮することが大切です。
海外でのM&Aは現地の法律に準じますが、日本の弁護士での対応は困難なことが多いです。
海外案件のM&Aを進める際、ローン契約や買収契約の締結時には、海外案件に詳しい公認会計士や税理士、弁護士と早めに相談しましょう。当該国の法律事務所、会計事務所または監査法人との連携も重要です。
信頼できる仲介会社に依頼する
M&Aを成功させるカギとなるのは、M&Aの経験が豊富で信頼のおける仲介会社やファイナンシャル・アドバイザーを選ぶことです。
M&Aファイナンスを依頼している金融機関から、仲介会社を紹介されるケースも多いですが慎重に検討することもなく仲介会社を決定することは避けましょう。
金融機関の紹介は、金融機関側にメリットがある仲介会社の可能性があり得ます。
いくつかの会社に相談をしてみて、M&Aの実績や業界での評判、報酬体系などもしっかりと確認した上で、総合的に判断することが大切です。
また、自社と仲介会社またはファイナンシャル・アドバイザーにおける担当者との相性も、忘れてはならない要素です。
仲介会社の選択は、自社の利益に直結する最重要事項なので、慎重に選択するようにしましょう。
M&Aファイナンスを活用した企業の事例
M&Aファイナンスを活用してきた3社を紹介します。
ライブドア
2005年、日本の業界は、ライブドアによるフジテレビジョンへの買収試みで大いに賑わいました。
ライブドアは、フジテレビジョンの親会社として存在するニッポン放送に目を付け、LBOの手法を活用し、経営権の奪取を狙います。特に、29.5%のニッポン放送株を時間外取引で大量に取得し、先に保有していた分とあわせて、総計35%の株式を手中にしました。これにより、ライブドアはニッポン放送の筆頭株主となります。
これに対し、ニッポン放送はフジテレビに新株予約権の発行を発表し、自社の防御策を打ち出しました。しかし、ライブドアはこの新株予約権の発行を違法とし、仮処分の申請を行い、認められます。
とはいえ、ライブドアの資金は尽き、フジテレビ株の取得が一時停止となってしまいます。その後、双方が和解し、ライブドアは持っていたニッポン放送株をすべてフジテレビに譲渡しました。ニッポン放送はその後、TOBを用いて上場廃止となり、フジテレビとの株式交換を経て、フジテレビの完全子会社となります。
この事例から、ライブドアはフジテレビの経営権を実質的に取得しようとしましたが、結果的には失敗し、フジテレビは持株会社「フジ・メディア・ホールディングス」へと移行しました。そしてニッポン放送は、この持株会社の完全子会社となったのです。
この事例は、M&Aファイナンスの手法とその影響を具体的に示すものとして、歴史的に注目されました。
この事例では、結果的にM&Aファイナンスは実行されませんでした。
セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスは、セブンーイレブン・ジャパンや百貨店のイトーヨーカドー、セブンイレブン金融機関という金融事業も展開しています。
セブン&アイ・ホールディングスの成長の背景には、M&Aの戦略が大きく影響しています。
2005年11月、セブンーイレブン・ジャパンはアメリカの「7-Eleven,Inc」を買収して完全子会社化しました。この「7-Eleven, Inc」は、1927年に創業したサウスランド社の前身として知られています。サウスランド社は1960年代に急速に成長しましたが、1980年代に入り、小売業界の競争が激化し、1989年に経営破綻を迎えました。
しかし、この時、イトーヨーカドーと提携していたサウスランド社は、「IYGホールディングス社」を共同で設立しました。これにより、アメリカのセブンイレブンを完全子会社化することに成功します。このようなM&Aの活動を通じて、セブン&アイ・ホールディングスはそのビジネス領域を大きく拡大し、国内外でのリーダーシップを築いてきました。
セブンイレブンは成熟したコンビニ業界のトップ企業です。しかし、競争が激しい中での成長を続けるため、セブン&アイは「オムニチャネル戦略」を採用します。2006年に、1311億円で百貨店「西武&そごう」の65.45%の株式を買収し、合計11社を完全子会社化しました。これにより、高級商品の顧客層を獲得します。2007年には、「ロフト」の株式を99億7500万円で追加取得し、出資比率を35.7%から70.7%に増やしました。さらに、北米では多数のコンビニやスーパーをM&Aで買収しており、これらの取引には金融機関のM&Aファイナンスが使用されているとされます。
昭和電工
昭和電工は2020年3月に、約1兆円の大型案件で日立化成をTOB(株式公開買い付け)により買収し、話題となります。当時、日立化成の時価総額は昭和電工の約2倍で、「小が大を飲む買収」と評価されます。買収資金は、みずほ金融機関や日本政策投資金融機関からの大量の融資により調達しました。
このM&Aの成功は、昭和電工の財務基盤の強さ、双方の企業の友好的な関係、および予想されるシナジー効果の大きさに起因するとされています。今後、昭和電工は日立化成のコア事業とのシナジーを活かして、さらなる成長を目指す、M&Aファイナンスの成功事例と言えるでしょう。
まとめ
ファイナンスは、難しいと感じるかもしれませんが、紹介した手法と調達方法を理解することで、レバレッジを最大限に活用し、自社の資金力以上のM&Aを実現する有効な手段となります。
M&Aを通じて、自社の強みだけでなく、買収対象企業の強みも取り入れられます。このシナジー効果によって、自社の成長や発展を早期かつ効率的に実現することが可能です。
M&Aファイナンスを活用する際には、専門的な知識が必須です。早めに信頼性の高いM&A仲介会社や、ファイナンシャル・アドバイザーに相談すると良いでしょう。
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