親族内承継のメリットとは?3つの方法や流れ、かかる税金を解説

2023年12月13日

親族内承継のメリットとは?3つの方法や流れ、かかる税金を解説

このページのまとめ

  • 親族内承継とは、現経営者が後継者を親族の中から決める事業承継の方法
  • 親族内承継で後継者に承継する方法は、相続・生前贈与・売買による株式譲渡の主に3つ
  • 親族内承継のメリットは、関係者の理解を得やすいことや教育に時間を割けることなど
  • 親族内承継のデメリットは、親族間で揉めたり、ふさわしい人物がいなかったりする可能性があること
  • 親族内承継の成功のポイントは、早めの準備や事業承継税制の活用など

「親族内承継を予定しているけれども、どのように進めればよいか?」と気になっている方もいるのではないでしょうか。
親族内承継で後継者に承継するには、相続・生前贈与・売買による株式譲渡といった、主に3つの方法があります。

このコラムでは、親族内承継のメリットとデメリット、成功のポイントを解説します。そのほか、親族内承継を進める流れやかかる税金についても説明しているので、ぜひ参考にしてください。

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親族内承継とは

親族内承継とは、子どもや兄弟姉妹などの親族を後継者として、事業を承継することです。
血縁関係の有無に限らず、配偶者や子どもの配偶者などの親族に引き継ぐ場合も、親族内承継に分類されます。

親族内承継は事業承継の3類型のひとつです。現経営者から後継者へ事業のバトンタッチをすることを事業承継と呼びます。

親族内承継と他の事業承継の違い

事業承継には、親族内承継以外に以下の2種類があります。

  • 従業員承継(役員承継)
  • 第三者承継(M&Aなど)

後継者を誰にするかが、親族内承継と他の事業承継の主な違いです。
なお、2種類をまとめた表現が「親族外承継」です。

ここでは、従業員承継と第三者承継、それぞれの概要について説明します。

従業員承継(役員承継)

従業員承継(役員承継)とは、親族以外の従業員や役員を後継者にして事業承継することです。とくに、長年働いていた従業員であれば社風や経営方針を理解しているため、一貫性を期待できます。

従業員承継する際の方法は、内部昇格かMBO・EBOです。内部昇格の場合、株式は現経営者(オーナー)が保有したまま、従業員が代表者に就きます。

MBOやEBOは、役員や従業員が株式や事業を買収することです。MBOは経営陣が買収するのに対し、EBOは従業員が買収することを指します。

第三者承継

第三者承継とは、社外の第三者に事業承継することです。
第三者承継の方法には取引先や取引金融機関などから後継者を招く「外部招へい」と、株式や事業を社外の第三者に譲渡するM&Aがあります。

第三者承継を用いる場合、親族や社内に候補者がいなくても、後継者に引き継ぐが可能です。また、M&Aで株式譲渡する場合、現経営者は会社売却の利益を得られます。

親族内承継が事業承継に占める割合

株式会社帝国データバンクの『全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)』によると、2022年における事業承継のうち「同族承継」(親族内承継)で引き継いだ割合が34.0%で、全項目中最も高い数値でした。
しかし、前年度の数値が38.7%であったことを考慮すると急減している(- 4.7pt)ことがわかります。

それに対し、2022年の「内部昇格」(従業員や役員への承継)の割合は33.9%で、前年度と比べて2.5pt増加しました。
また、「M&Aほか」(第三者承継)の割合も増加傾向にあり、2022年は20.3%で調査開始以降初めて20%を超えた点も注目すべき点です。

なお、同じく第三者承継に該当する「外部招聘」(外部招へい)は、7.5%にとどまりました。

参照元:株式会社帝国データバンク『全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)』(2022年11月16日)

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親族内承継の3つの方法

親族内承継の方法は、主に以下の3つです。

  • 後継者が相続する
  • 後継者に生前贈与する
  • 売買で後継者へ株式譲渡する

それぞれの内容を解説します。

後継者が相続する

現経営者が健在のときには株式や事業用資産を承継せず、死後に後継者が相続する方法です。後継者が現経営者の配偶者や血族で法定相続人に該当する場合に、相続の方法で承継できます。

後継者が相続で親族内承継する場合、基礎控除が認められることがあるため、節税につながりやすい点がメリットです。ただし、基礎控除を考慮しても相続税が発生する場合は、一括で納付しなければならない点に注意しなければなりません。

なお、遺言を用いれば、法定相続人以外の後継者でも相続で事業承継が可能です。
遺言とは、被相続人(故人)が遺言書の作成などにより、法律の定めと異なる配分で相続させられるように決めることを指します。遺言により、会社の株式や事業用資産などの経営に関わるものを後継者に承継します。

後継者に生前贈与する

現経営者が後継者に生前贈与して、事業承継する方法です。
生前贈与とは、贈与者から財産を無償で贈るとの意思表示をされた人(受贈者)が、承諾することによって成立する契約を指します。

状況によっても異なりますが、生前贈与の場合は相続税より高くなる可能性がある点に注意が必要です。その分、生前贈与の場合は相続と異なり、段階的に財産を後継者に渡すことで一度に多額の税金が課される可能性を軽減できます。

そのほか、現経営者が健在のうちに、自分が指名した後継者に確実に承継しやすい点が、生前贈与するメリットです。

売買で後継者へ株式譲渡する

現経営者が後継者に売買で株式譲渡することで、事業承継する方法です。
株式譲渡は一般的にM&Aで用いられる方法ですが、親族内承継でも相続や生前贈与ではなく売買で承継することもあります。

株式譲渡(売買)で後継者に承継する場合、株式を購入するにあたって後継者が資金を用意しなければなりません。
そのため、相続での株式取得が可能な親子間では、あえて株式売買で事業承継するケースは多くないでしょう。

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親族内承継でかかる5つの税金

親族内承継でかかる税金は、主に相続税・贈与税・所得税・復興特別所得税・住民税です。どの方法を用いて親族内承継するかによって、かかる税金が異なります。

相続税

相続税は、相続で事業承継した後継者に対してかかる税金です。
まず課税遺産総額を出し、法定相続分で按分しましょう。
そうして各人の法定相続分による取得金額が算出されたら、以下の表を参考に税率と控除額を出します。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
1,000万円超から3,000万円以下15%50万円
3,000万円超から5,000万円以下20%200万円
5,000万円超から1億円以下30%700万円
1億円超から2億円以下40%1,700万円
2億円超から3億円以下45%2,700万円
3億円超から6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

引用元:国税庁「No.4155 相続税の税率」相続税の速算表

各人の相続税は「各人の取得金額×税率-控除額」によって計算できます。

贈与税

贈与税は、生前贈与で事業承継した後継者に対して課される税金です。
贈与税の課税方法は2つで、「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。

暦年課税の場合、基礎控除額は110万円です。1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。

また、事業承継で相続時精算課税制度を活用して生前贈与するケースもあります。相続時精算課税制度とは、2,500万円までは受贈者が贈与税を納めずに贈与を受けられる制度です。また、2024年1月1日以降に行った贈与に関しては、基礎控除110万円が取得財産価額の合計に適用されます。
ただし、贈与者が亡くなった際に、贈与財産の価額と相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税を納付しなければなりません。

所得税・復興特別所得税・住民税

所得税・復興特別所得税・住民税は、株式譲渡した株主(オーナー)に対してかかる税金です。相続や生前贈与と異なり、株式を渡した側にかかります。

国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」によると、利益を得た株主に対して課される税率は、譲渡益に対して所得税15%、住民税5%です。また、2037年までは、各年分の基準所得税額に2.1%乗じた額を復興特別所得税としてあわせて納付しなければなりません。

参照元:
国税庁「No.4152 相続税の計算」
国税庁「No.4155 相続税の税率」
国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」
国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」

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親族内承継を進める流れ

一般的に、親族内承継を進める際の流れは、以下のとおりです。

  1. 事業承継を行う必要性を認識する
  2. 経営状況と経営上の課題を把握する
  3. 経営改善を行う
  4. 事業承継計画を策定する
  5. 後継者を決めて育成する
  6. 関係者に事業承継の理解を得る
  7. 公正証書遺言を用意する
  8. 親族内承継を実行する

事業承継計画は、後継者の能力や税金、経営状況などを考慮して策定します。滞りなく親族内承継を進められるように、時期や方法などを慎重に決定しましょう。

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親族内承継の3つのメリット

従業員承継や第三者承継ではなく、親族内承継で事業承継するメリットは以下の3つです。

  • 従業員や取引先から理解を得やすい
  • 後継者教育に時間をかけられる
  • 相続で事業承継できる

各メリットを解説します。

従業員や取引先から理解を得やすい

従業員や取引先などの関係者からの理解を得やすい点がメリットです。減少傾向にあるといえども、日本ではいまだに事業内承継のうち親族内承継の占める割合が高く、親族が会社を継ぐことが自然な流れとされています。

親族内承継で関係者に受け入れてもらえれば、取引金融機関や取引先への説明・引き継ぎもスムーズに進むでしょう。

後継者教育に時間をかけられる

後継者教育に時間をかけられる点も、親族内承継を選択するメリットです。

後継者の仕事経験にもよりますが、後継者を経営者に育て上げるまでには一般的に5〜10年かかるといわれています。早くから後継者を決めておけば、教育期間を十分に確保できます。

後継者教育の具体的な方法は、以下のとおりです。

  • 自社にはないやり方・手法を身につけるため、他社に勤務させる
  • 知識の吸収や人脈形成のため、社外セミナーなどに参加させる
  • 全体像を把握できるように、自社の要となる各部門での勤務を経験させる
  • 役員として経営に参画させる
  • 経営者としての心構えやノウハウを直接指導する

とくに子どもに引き継ぐ場合、早期に後継者を指名して経営者になるまでに長期の準備期間を確保しやすいです。引き継ぐ子どもも、教育を通じて早い段階から後継者としての自覚を持てるでしょう。

相続で事業承継できる

親族内承継であれば、相続で事業承継できる点がメリットです。相続で株式を後継者に移転すれば、所有と経営の分離を回避できる可能性が高まります。
所有と経営の分離とは、会社の所有者と経営者が異なることです。所有と経営の分離が進むと、経営者だけで意思決定できないため、今までよりスピード感が低下してしまいます。

また、相続で事業承継する場合、事業承継税制を活用できる点もポイントです。贈与税納付が猶予されたり免除されたりする可能性があります。

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親族内承継の3つのデメリット

事業承継で親族内承継の方法を用いるデメリットは、以下の3つです。

  • 親族内に後継者がいない場合がある
  • 親族の間で揉めることがある
  • 経営者にふさわしくない人物が承継することがある

それぞれ解説します。

親族内に後継者がいない場合がある

親族内承継に限定すると、親族内に該当者なしの場合に事業承継できない点がデメリットです。現経営者に子どもがいたとしても、子どもに会社を継ぐ意思がなければ親族内承継をできません。

とくに、日本では後継者不足の課題が深刻です。株式会社帝国データバンクの『全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)』によると、2022年の全国・全業種約27万社の後継者不在率は57.2%でした。5年連続で低下傾向にはありますが、依然として5割を超えるため、後継者がいない企業は多いといえるでしょう。

なお、後継者不在により親族内承継ができないため、M&Aを選択するケースもあります。

参照元:株式会社帝国データバンク『全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)』(2022月11月16日)

親族の間で揉めることがある

親族内承継をきっかけに、親子や兄弟姉妹間で揉めることがある点もデメリットです。

相続人が複数人いる場合、現経営者は後継者選びに頭を悩ませなければいけません。血族(法定相続人)の中から親族内承継の後継者を決めた場合でも、後継者以外の相続人への配慮が必要です。

仮に、遺言書を作成して法定相続人Aに全株式を相続させることにしていたとしても、納得がいかない法定相続人Bが遺留分を請求する可能性があります。遺留分とは、一定の相続人に対して法律上取得することが最低限保障されている取り分のことです。

現経営者は、自分が亡くなった後に後継者が遺留分請求されないように、別の相続人にも株券以外の十分な財産を遺すなどの配慮をする必要があります。

経営者にふさわしくない人物が承継することがある

現経営者の親族というだけで選定すると、経営者の資質や意欲を持たない人物が承継する可能性がある点がデメリットです。親族内承継は関係者からの理解を得やすい方法といえども、評判の悪い人物が就任すると従業員や取引先からの反感を買うことがあります。

その結果、従業員のモチベーション低下や退職を招いてしまうことがあります。また、後継者を支持する勢力と反発する勢力に分かれ、社内で権力闘争にまで発展することもあるかもしれません。
そのほか経営者の能力の欠如などの理由で、事業承継後に会社が業績不振に陥ることもあるでしょう。

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親族内承継を成功させる4つのポイント

親族内承継を成功させる主なポイントは、以下の4つです。

  • 早めに準備する
  • 後継者候補の親族に事前に説明する
  • トラブルを避けるため遺言書を作成しておく
  • 事業承継税制の活用を検討する

それぞれの概要を解説します。

早めに準備する

さまざまな選択肢を検討できるように、早めに準備することがポイントです。
早めに準備しておけば、相続だけでなく、生前贈与や売買による方法を検討できます。
それに対し、準備が遅れて現経営者が亡くなり、相続で親族内承継することになると、株式が分散する可能性が高いです。
先送りにせず、できるかぎり早めに事業承継の準備に着手しましょう。

後継者候補に事前に説明する

後継者候補が複数人存在する場合は、あらかじめ丁寧に事情を説明することがポイントです。
また、着実に事業を成長させられる人材に継がせるため、明確な選考基準を決めて、候補者全員に共有しておきましょう。

遺言書を作成しておく

現経営者の死後にトラブルになるリスクを軽減するため、遺言書を作成することがポイントです。遺言書を作成しておけば、後継者に株式や事業用資産を集中させやすくなります。

遺言書の主な作成方法は、自筆証書遺言や公正証書遺言などです。公証人が関与する公正証書遺言は、自筆証書遺言と比べて手間や費用はかかりますが、その分無効になる可能性が低い点が主なメリットとして挙げられます。

事業承継税制の活用を検討する

相続や生前贈与で親族内承継する場合、事業承継税制の活用を検討しましょう。
事業承継税制の「法人版事業承継税制」とは、後継者(受贈者・相続人)が対象の株式を相続や生前贈与で取得した際に、一定の要件のもとで相続税・贈与税の納税を猶予できる制度です。後継者の死亡などにより、相続税・贈与税の納税が免除されることもあります。

事業承継税制を活用して納税が猶予されれば、スムーズに事業承継できるでしょう。

参照元:国税庁「法人版事業承継税制」

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まとめ

親族内承継とは、現経営者が子どもや兄弟姉妹などの親族の中から後継者を選ぶ事業承継の方法です。親族内承継で後継者に承継させる主な方法として、相続・生前贈与・売買による株式譲渡が挙げられます。

親族内承継を成功させるための主なポイントは、後継者候補の親族に事前に説明しておくことや、遺言書を作成しておくことです。また、親族内承継の方法によって、相続税や贈与税などがかかる点に注意しましょう。

親族内承継の主なメリットは、従業員や取引先から理解されやすい点や、後継者教育に時間をかけられる点などです。
一方、後継者候補者が複数いるときには揉める可能性があることや、経営者の器がない人物に経営権が渡ってしまう恐れがあることは、親族内承継の主なデメリットです。
また、親族内に後継者となってくれる人物がいない場合、親族内承継はできません。別の方法を検討する必要があります。

後継者不在のケースにおける解決策のひとつが、M&Aによる事業承継です。M&A(エムアンドエー)とは「Mergers and Acquisitions」(合併と買収)の略で、主に会社売買のことを指します。M&Aによる承継を選択すれば、幅広い候補者の中から承継先を選ぶことが可能です。

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