M&Aの会計処理とは?仕訳やのれんの扱い方、注意点を解説

2023年12月13日

M&Aの会計処理とは?仕訳やのれんの扱い方、注意点を解説

このページのまとめ

  • M&Aでは個別会計や連結会計などで会計処理を行う
  • M&Aではバリュエーションや財務分析、終了時に会計の知識が必要になる
  • M&Aのスキームによって、仕分けや会計処理の方法が異なる
  • のれんが生じたときは20年以内に均等額ずつ償却して会計処理をする
  • 合併や事業譲渡などで計上された負ののれんは、税務上では資産調整勘定として5年間で償却する

「M&Aでどのような会計処理が必要なのだろう?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。

本コラムでは、M&Aを進めるうえで必要になる会計処理を説明します。会計処理の種類や会計基準、M&Aで会計処理が求められる場面についてもまとめました。また、事業譲渡や株式譲渡などのM&Aの手法別の会計処理も、具体的な仕訳例とともに紹介します。

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M&Aの会計処理とは?

会計とは、企業の経済的な取引や状況を記録し、開示することです。誰に開示するかによって、次の3つに分けられます。

  • 財務会計:投資家や銀行、債権者などの社外利害関係者に開示する
  • 税務会計:課税当局に開示する
  • 管理会計:経営者などの社内関係者に開示する

一般的に「会計」といえば財務会計のことです。社外利害関係者は財務会計を参考に、「投資をする」「融資をする」などの意思決定を行います。財務会計は形式によって、個別会計と連結会計に分けられます。

M&Aにおいても、社外利害関係者に見せる財務会計(個別会計、連結会計)と、課税当局に見せる税務会計が必要です。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

個別会計

個別会計とは、企業が単独で行った経済活動についての会計を指します。つまり、企業が単独で株式を取得したり事業を売却したりしたときは、個別財務諸表に記録する個別会計処理が必要です。

グループ企業が存在する場合でも、グループの会計とは別に各社が個別会計処理を行い、開示できる状態にしておきます。たとえば企業を買収した場合であれば株式取得の記録、買収された場合であれば株式売却を記録します。

連結会計

連結会計とは、グループ企業をひとつの組織として会計処理することです。グループ企業がない場合は、個別会計のみで連結会計はありません。

たとえば、株式を取得することで別企業を子会社化したときは、自社単独の個別会計処理に加えて、新子会社も含めた連結会計処理も行います。なお、子会社化する場合は、子会社の株主には資金の増加が見られます。しかし、連結会計では親会社・子会社をひとつのグループと見るため、株式の取得・売却はなかったものとして処理をする点に注意が必要です。

連結会計処理には、次の2つの考え方があります。

  • パーチェス法
  • 持分プーリング法

それぞれ詳しく解説します。

パーチェス法

パーチェス(Purchase)法とは、購入対象の価値を時価として評価する方法です。M&Aの場合なら、買い手企業は売り手企業を購入したととらえ、そのときの時価で売り手企業の資産や負債を計算し、会計処理を実施します。

また、パーチェス法では売り手企業の資産・負債は時価として計算するため、取得原価と受入純資産額の差額をのれん、もしくは負ののれんとして計上します。

持分プーリング法

後述しますが、会計基準には日本独自の基準や国際会計基準審議会が定めた国際基準などがあります。国際基準や米国基準ではパーチェス法が一般的な会計方法とされており、取得者が不明な企業結合は経済的に合理性を欠くとの考え方から、持分プーリング法は2008年に原則として廃止されました。

持分プーリング(Pooling)法とは、取引の前後の持分が継続するものとして評価する方法です。
M&Aの場合なら、買い手企業が売り手企業を合併するケースにおいては連結会計上の変化はないため、子会社となる売り手企業の資産や負債を帳簿価額で引き継ぐ会計処理を実施します。また、持分プーリング法では売り手企業の資産・負債を帳簿価額で計上するため、のれんや負ののれんは発生しません。

税務会計

税務会計とは、課税当局に提示するために実施する会計のことで、税金を計算するために実施されます。企業会計であれば法人税法に基づいて実施することが一般的です。

なお、税務会計においては、「確定決算主義」の考え方に基づき、すでに確定した情報のみで会計処理が行われます。また、税務会計によって税金という資金負担に影響するだけでなく、間違いがあると税務調査などの対象になる可能性もあるため、慎重かつ正確に実施することが必要です。

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M&Aの会計基準とは?

会計は、原則として社内外に提示するために実施します。特に財務会計や税務会計は社外に提示するものであることから、見やすさや理解しやすさを担保するためにも、特定の会計基準に沿って作成することが求められます。

主に用いられる会計基準は、日本基準と国際基準の2つです。それぞれについて解説します。

日本基準

日本国内で事業活動をする多くの企業では、日本の会計基準(日本基準)に基づいて会計処理が実施されています。日本基準は企業会計基準委員会が設定したもので、次の内容が含まれます。

  • 一般原則
  • 損益計算書原則
  • 貸借対照表原則

社会の変化にあわせ、企業会計基準委員会により何度か改定されてきました。常に最新の情報を入手し、正しいルールを守って会計処理を進めていきましょう。

国際基準(国際財務報告基準、IFRS)

会計の国際基準とは、国際財務報告基準(IFRS=International Financial Reporting Standards)のことで、日本を含む多くの国々で利用されています。なお、EU内の上場企業では、国際基準を用いて会計処理をすることが義務化されています。

また、日本企業であっても、EU諸国などを含む海外にグループ会社がある場合は、国際基準を用いて会計処理を行うことが一般的です。実際に、異なる基準を用いた会計処理を行うと、ダブルスタンダードを指摘されることもあるため注意してください。

ただし、アメリカでは、米国財務会計基準審議会が策定する米国基準を用いて会計処理をすることが一般的です。なお、米国基準には、財務会計基準書(Statement of Financial Accounting Standards)や、FASB解釈指針(FASB Interpretation)が含まれています。

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M&Aにおいて会計の知識が必要な場面

M&Aを遂行するにあたって、何度か会計の知識が必要になる場面があります。そのなかでも次の場面では、会計の知識がM&Aの進行を左右することがあります。

  • バリュエーション(企業価値評価)
  • 財務分析
  • M&A終了時

それぞれの場面でどのような会計を行うのか、詳しく見ていきましょう。

バリュエーション(企業価値評価)

株式譲渡などにより企業を売買するときは、対象となる企業の価値(評価額)を決めなくてはいけません。上場企業であれば発行済み株式の時価総額などによって企業価値を決められますが、非上場企業では市場で株価が決まるわけではないため、必要に応じて価値を評価することが求められます。

企業価値を評価することを「バリュエーション」と呼びます。バリュエーションにはいくつか手法がありますが、いずれの手法を用いるときにも会計処理が必要です。

財務分析

相手と独占的に交渉をするための基本合意契約を締結した後で、相手企業にどのようなリスクがあるのか精査します。この過程を「デューデリジェンス」と呼び、財務状況を調べる「財務分析」や税額や納税状況を調べる「税務分析」、係争中かどうかを調べる「法務分析」などが含まれることが一般的です。

財務分析では、貸借対照表やキャッシュフロー計算書などの財務諸表を用いて、相手企業の収益性・安全性・生産性・成長性などを客観的に分析します。これらの分析には会計処理が欠かせません。いずれもM&Aを実施するか、実施する場合はどのような条件にするかなどを決める大切な分析のため、各方面の専門家によって丁寧に実施することが必要です。

M&A終了時

M&Aにより資産が動いたときは、会計処理が必要です。たとえば株式取得により企業を買収したときや、反対に株式を売却して経営権を譲渡したときなどは、支払った金額や受け取った金額を正確に帳簿に記載し、会計処理を行います。

また、事業や企業の売却により利益を得たときは、法人税などの課税対象となることがあります。適切に税務会計を実施し、納税額を算出し、期限内の申告・納税に役立てましょう。

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【M&Aの種類別】会計処理と仕訳例

M&Aの種類によっても、会計処理の内容は異なります。代表的なM&Aの種類ごとに、譲渡側・譲受側に分けて会計処理のポイントと仕訳例を紹介します。

事業譲渡

事業譲渡とは、事業の一部もしくは全体を売却・買収する取引のことです。事業に含まれる設備や施設、人材、権利などを譲渡対象にするか個々に決められるため、柔軟な取引ができる点が特徴です。

たとえば、資産と人材は譲渡対象に含め、負債などのそのほかのものは譲渡対象から外すなど、買い手企業・売り手企業の事情に合わせた取引ができます。事業譲渡によって売却・買収した資産は、各企業の個別会計で処理されます。

譲渡側の会計処理

売り手企業(譲渡側)は、譲渡する資産や負債を会計上の簿価から取り消す会計処理が必要です。事業譲渡は譲渡資産・負債を選択できる点が特徴でもありメリットですが、資産・負債ごとに会計処理が必要になるため、比較的手間がかかります。

たとえば、2,000万円の価値のある資産と500万円の負債を譲渡し、1,500万円の現金を受け取った場合は、以下のように仕訳します。

借方貸方
負債5,000,000円資産20,000,000円
現金15,000,000円

常に帳簿上の価格と同額で譲渡契約が成立するとは限りません。たとえば販売した製品に不具合があり、大規模なリコールを行ったとしましょう。数字では評価できませんが、社会的信用度などが下がり、譲渡先が見つかりにくく、良い条件での取引ができない可能性があります。

2,000万円の価値がある資産と500万円の負債について、1,200万円で譲渡契約が成立したとしましょう。譲渡によって損益が生じるときは、「移転損益」の勘定科目を使って帳簿に記載します。

借方貸方
負債5,000,000円資産20,000,000円
現金12,000,000円
移転損益3,000,000円

譲受側の会計処理

買い手企業(譲受側)は、譲受する資産や負債について個別会計で計上します。譲受する資産から負債を差し引いた差額(本来の資産価値)が買収対価と異なるときは、資産価値から買収対価を差し引いた差額を「のれん」として計上してください。

2,000万円の資産と500万円の負債を1,800万円で取得する場合は、以下のように仕訳ができます。

借方貸方
資産20,000,000円負債5,000,000円
のれん3,000,000円現金18,000,000円

後述しますが、のれんは一定期間内に償却します。

株式譲渡(会社譲渡)

株式譲渡とは、株式を取得・売却することで会社を売買することです。事業譲渡のように譲渡対象を個々に選択できず、会社全体を買収・売却します。そのため、株式譲渡は会社譲渡とも呼ばれます。

株式譲渡では、資産や負債のやり取りはありません。売り手企業にとっては株主の変更、買い手企業にとっては株式取得となります。買い手企業では取得した株式について、個別会計での処理が必要です。

譲渡側の会計処理

株式譲渡は、売り手企業(譲渡側)にとっては株主の変更だけを意味します。そのため、会計処理は必要ありません。買い手企業が過半数の株式を取得した場合は、買い手企業に会社の支配権が移りますが、会計処理上での手続きはありません。

譲受側の会計処理

買い手企業(譲受側)は、株式の取得について仕訳をします。株式譲渡により子会社が増えるときは、親会社での個別決算に加え、連結決算も実施します。

個別決算ではたとえば、株式取得により売り手企業を子会社化した場合の仕訳について見ていきましょう。株式の対価が5,000万円であれば、以下のように貸方に支払った対価を記録します。

借方貸方
子会社株式50,000,000円現金50,000,000円

売り手企業の純資産と株式の対価に差額があるときは、「のれん」として計上し、一定期間で均等償却しなくてはいけません。たとえば、売り手企業の資本金が30,000,000円、利益剰余金が5,000,000円だった場合なら、連結決算により以下のように資本消去の仕訳を行います。

借方貸方
資本金30,000,000円子会社株式50,000,000円
利益剰余金5,000,000円
のれん15,000,000円

単位:千円

株式交換

株式譲渡では、譲受側が株式を取得する対価(現金)を有していないときには、実現が難しくなります。子会社化する場合であれば、親会社に子会社の株式を買い取るだけの現金が必要になります。

一方、株式交換は、現金の移動なしに譲渡企業を子会社化できる手法です。子会社の企業価値に相当する金額(子会社が上場企業の場合は、発行済み株式の時価総額)の親会社の株式を子会社に与えることで、完全子会社化が可能です。

譲渡側の会計処理

株式交換では、買い手企業(譲受側)が売り手企業(譲渡側)の株主と取引を行います。そのため、譲渡側の企業にとっては株主が変更されることを意味するだけで、取引はなく、会計処理もありません。

譲受側の会計処理

買い手企業にとっては、自社の株式を対価として売り手企業の株式を取得したことになります。そのため、取得した株式についての会計処理が必要です。

ただし、株式の価値は企業によって異なるため、交換した株式の数量だけでなく交換比率も明記しましょう。

たとえば子会社の全株式100万株を、親会社の株式2万株と交換する場合なら、子会社株式50株=親会社株式1株となり、交換比率は1:0.02です。親会社の株式が1株=1,000円とすると、1,000円×2万株=2,000万円の資本増加となります。資本金と資本剰余金の割合は1:1とすると、次のように仕訳ができます。

借方貸方
子会社株式20,000,000円資本金10,000,000円
資本剰余金10,000,000円

また、連結決算も必要です。以下のように、子会社株式と資本を相殺する資本消去仕訳を行います。

借方貸方
資本金10,000,000円子会社株式20,000,000円
資本剰余金10,000,000円

株式移転

株式移転とは、新しい企業を作り、既存企業を移転する手法です。たとえば、ホールディングス化してグループ会社を作るときに活用されます。持株会社を新しく作り、その持株会社が発行体となって株式を発行し、子会社となる各企業が保有する株式と交換します。

株式移転も、株式交換と同じく譲受側に現金がなくても実施できる手法です。子会社株式に見合う新設会社の株式を発行すれば良いだけのため、負担が少ないといえます。また、株式移転後も各企業は別法人として活動するため、早急に経営統合を行う必要がなく、社内の混乱も回避できます。

譲渡側の会計処理

譲渡側企業にとっては、株主が変更されることを意味します。資本のやり取りはないため、会計処理はありません。

譲受側の会計処理

譲受側企業(新設会社)にとっては、自社株式を対価として、子会社株式が増加したことを意味します。たとえば、A社とB社の2社を子会社とするために、株式移転を実施したとしましょう。

A社には交換比率4:1(新設会社の株式1株=子会社株式4株)で新設会社の株式を100万株移転し、B社には交換比率2:1(新設会社の株式1株=子会社株式2株)で、新設会社の株式を50万株移転したとします。

新設会社の株式が1株=40万円であれば、A社からは4,000万円、B社からは2,000万円の資本を受け取ったと考えられます。資本金と資本剰余金の比率が1:1なら、以下のように仕訳をしてください。

借方貸方
子会社株式(A社)40,000,000円資本金30,000,000円
子会社株式(B社)20,000,000円資本剰余金30,000,000円

株式移転は、ホールディングスにとっては子会社の増加を意味します。個別会計をするだけでなく、子会社の財務諸表と合算したうえで連結会計も必要です。以下のように、子会社の株式と資本金を相殺する仕訳を計上しておきましょう。

借方貸方
資本金30,000,000円子会社株式(A社)40,000,000円
資本剰余金30,000,000円子会社株式(B社)20,000,000円

会社分割

会社分割とは、会社の持つ事業部門をそのまま切り出して分割し、他社に移転するM&Aの手法です。移転先として新しい企業をつくるときは「新設分割」、すでに存在する企業に移転するときは「吸収分割」と呼びます。

新設分割では、切り出した事業に特化した新設会社がつくられ、移転元会社は新設会社の株式を受け取ります。一方、吸収分割は、既存の企業に事業を移動させ、移転先企業から移転元企業へ対価が支払われる分割方法です。なお、対価は現金である必要はなく、株式交付などの形で支払われることもあります。

譲渡側の会計処理

会社分割では、売り手企業(譲渡側)は自社の資産・負債を譲渡したことを示す仕訳が必要です。たとえば、新設分割の場合について考えてみましょう。2,000万円の資産と500万円の負債を有する事業を、子会社として新設した会社に移転した場合なら、以下のように仕訳ができます。

借方貸方
負債5,000,000円資産20,000,000円
子会社株式15,000,000円

譲受側の会計処理

買い手企業(譲受側)では、売り手企業の一部を引き受けて自社株式を発行することになるため、個別会計上で会計処理が必要です。

たとえば、グループ会社として作られた新設会社が、2,000万円の資産と500万円の負債のある事業を譲り受けた場合には、以下のように仕訳ができます。資産と負債の差は、資本金として貸方に計上してください。

借方貸方
資産20,000,000円負債5,000,000円
資本金15,000,000円

合併

合併とは、複数の企業をひとつにまとめるためのM&Aの手法です。売り手企業はすべての資産・負債を手放し、買い手企業はそれらをまとめて購入します。

合併には、合併用の新設会社を作る「新設合併」と、既存企業に吸収されることでひとつにまとめる「吸収合併」の2つの種類があります。いずれの種類でも売り手企業は消滅し、買い手企業のみ存続する点に注意が必要です。

なお、一般的な企業買収・売却では、買収された方の企業の法人格は残りますが、合併では残りません。M&Aの後も企業として活動をする場合は、合併のスキームは選択肢から外しておきましょう。

合併のメリットとしては、シナジー効果が生まれやすいことが挙げられます。企業間の垣根を払い、ひとつの企業体として事業を進めていくことで、各企業が持つノウハウや技術などを活かし、相乗効果が生まれることがあります。また、消滅会社の権利などもそのまま買い手企業に移るため、事業が停滞せず、スピード感のある経営が可能です。

譲渡側の会計処理

新設合併・吸収合併のいずれの合併においても、売り手企業は消滅します。そのため、合併後に会計処理はできません。

ただし、合併直前のタイミングで、個別会計として財務諸表を作成することが必要です。2,000万円の現金資産と500万円の負債がある企業が、合併の対価として1,700万円に相当する存続会社(買い手企業)の株式を受け取った場合は、以下のように仕訳ができます。なお、現金と負債の差額を超えて受け取った金額は、「のれん」として計上します。

借方貸方
現金20,000,000円負債5,000,000円
のれん2,000,000円資本金17,000,000円

譲受側の会計処理

存続会社(買い手企業)は、消滅会社(売り手企業)を時価評価したうえで会計処理を行います。売り手企業の資産と負債の差額よりも高価格で買収した場合は「のれん」として計上し、一定期間内に償却します。

たとえば、2,000万円の資産と500万円の負債のある会社を2,500万円で買収した場合は、以下のように仕訳をしてください。

借方貸方
資産20,000,000円負債5,000,000円
のれん10,000,000円現金25,000,000円

第三者割当増資

第三者割当増資とは、新株を発行して、特定の第三者に交付することです。新株を発行した会社にとっては、発行した新株の価格に相当する金額が増資分となるため、資金調達の手法として活用されます。また、発行する新株の数を新株を含めた発行済み株式総数の2分の1以上にすると、株式を受け取った第三者企業は新株発行会社の親会社となります。

第三者割当増資は、新株発行会社にとっては資金調達の手段です。金融機関などから融資を受けるのとは異なり返済義務がないため、資金調達後に資金繰りが悪化しにくいメリットがあります。また、増資分の資本金が増えるため、金融機関や取引先からの信用を得やすくなるのもメリットです。

そのため、事業拡大や新規事業を始めるときなどに第三者割当増資を活用することがあります。

譲渡側の会計処理

譲渡側、つまり新株発行会社は、増資額についての会計処理を行います。なお、増資額については、全額を資本金とするのではなく、一部を資本準備金として処理することが一般的です。資本金が1億円を超えると法人税の課税率が高くなるため、一部を資本準備金として仕訳することにより、節税できることがあります。ただし、資本準備金として仕訳ができるのは、払込額の2分の1に限られます。

たとえば、新株を1万株発行し、1株=1,000円で第三者に交付したとしましょう。得られた現金資産のうち2分の1を資本準備金として仕訳をした場合であれば、以下のように仕訳ができます。

借方貸方
現金10,000,000円資本金5,000,000円
資本準備金5,000,000円

譲受側の会計処理

譲受側、つまり新株を受け取った会社にとっては、出資を意味します。そのため、株式を取得したことについての仕訳が必要です。

なお、借方の勘定科目は、取得した株式の持分比率によって異なります。譲渡側企業の発行済み株式総数(新株を含む)の2分の1以上を取得する場合なら「子会社株式」、2分の1に満たないものの関係会社であるときは「関係会社株式」、純粋に投資目的なら「投資有価証券」の勘定科目を使います。

譲渡側が発行した新株1万株を1株=2,000円で購入した場合の仕訳は、以下のとおりです。ただし、会社間には特別な関係がなく、投資目的で購入した場合を想定しています。

借方貸方
投資有価証券20,000,000円普通預金20,000,000円
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M&Aでの「のれん」の扱い方

M&Aの会計処理においては、以下をのれんとして計上します。

のれん=買収価額-売り手企業の純資産の時価評価額

のれんは、会計基準によって扱いが異なります。日本基準と国際基準におけるのれんの扱い方、また、税務処理との関係について見ていきましょう。

日本基準の会計処理における「のれん」

日本基準の会計処理では、のれんは20年以内に均等額ずつ償却処理しなくてはいけません。なお、償却期間は20年以内であれば、企業が任意に決められます。

日本基準では、減損の兆候がない限りは毎年同額ずつ償却されるため、実務上の負担が少ないというメリットがあります。しかし、のれん自体は超過収益力を示しますが、規則的に償却されることで営業利益にマイナスの影響が出る点には注意が必要です。

ただし、M&Aのスキームによって、のれんの償却額が計上される財務諸表が異なります。たとえば、事業譲渡や合併などのスキームでM&Aを実施したときは、のれんの償却額は単体財務諸表で計上されることが一般的です。一方、株式交換や株式譲渡などのスキームでM&Aを実施したときには、単体財務諸表上では株式取得として表記されるため、のれんの償却額は連結財務諸表のなかで計上されます。

国際基準の会計処理における「のれん」

国際基準を用いて会計処理をするときは、のれんは償却処理できません。また、米国基準でも同様で、のれんの償却処理は不可能です。

国際基準や米国基準では、のれんが生じたときは毎年のれんの価値を評価することが求められます。のれんの価値が著しく低下したときには、まとめて減損処理を行います。

国際基準では毎年償却する必要がないため、利益にマイナスの影響を及ぼさない点はメリットです。しかし、毎年減損テストを実施してのれんの価値を評価する必要があるため、日本基準と比べると実務上の負担が大きくなってしまいます。

税務処理と「のれん」

法人税を計算するときは、基本的には会社単体で税務処理を行います。そのため、事業譲渡や合併のように個別で会計処理を行うときにはのれんが影響しますが、株式交換や株式譲渡のように連結財務諸表において会計処理を行う場合には、のれんは影響しません。

事業譲渡や合併により計上されたのれんは、「資産調整勘定」として5年間で償却して税務処理を行います。負ののれんについても同様で、「資産調整勘定」として5年間で償却処理を行います。

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M&Aの会計における注意点

M&Aにかかわる会計では、譲渡側と譲受側で注意したい点が異なります。会計はM&Aによる利益や納税額にも影響を及ぼすため、注意点を押さえて適切に実施していきましょう。

譲渡側の注意点

譲渡側は、会計の際に次の点に注意が必要です。

  • 妥当性の高いバリュエーションを実施する
  • 粉飾決算・逆粉飾決算に注意する

各注意点について解説します。

妥当性の高いバリュエーションを実施する

M&Aを実施するとき、売り手企業はまず自社の価値を適切に評価(バリュエーション)しなくてはいけません。非上場企業であれば発行済み株式の時価総額で価値を図れないため、より慎重なバリュエーションが求められます。

高い企業価値に設定することで、買い手企業から受け取れる現金が増え、利益が増えることもあります。しかし、やみくもに高い価格に設定すると、バリュエーションの妥当性が低いと判断され、M&Aが成立しない可能性もあるでしょう。また、M&Aが成立したとしても、買い手企業の利益喪失につながり、公正な取引とはいえません。

妥当性の高いバリュエーションを実施するためにも、次の2つに注目して会計を進めてください。

  • 引当金:将来的に発生すると思われる費用を当期の貸借対照表に「負債」として繰り入れる金額
  • 減損:資産価値が帳簿価額よりも大幅に低下したときに行う会計処理

引当金・減損のいずれも、企業価値評価を下げるために活用できます。しかし、企業価値を下げたくないからといって、将来的に発生する費用を相手企業に伝えないことや減損処理をしないことは、バリュエーションの妥当性を低めるだけでなく企業としての信頼も失う行為です。

そもそもM&Aは、売り手企業と買い手企業の利害が対立する取引です。売り手企業は「少しでも高く売りたい」と考え、買い手企業は「少しでも安く買いたい」と考えるため、自社の都合だけを主張すると、取引そのものが成り立ちません。お互いが納得できるM&Aを実施するためにも、誠実かつ正直なバリュエーションを実施しましょう。

粉飾決算・逆粉飾決算に注意する

粉飾決算とは、実際の決算状況よりも良いように見せかける決算書を作成することです。たとえば債務を減らす、売上高を過大に計上する、仕入れ値を過少に計上するなどにより、実際よりも経営状況が優れているように見せかけます。

粉飾決算をすると、企業価値を高く見積もれるだけでなく、デューデリジェンスでも評価を受けやすくなります。しかし、粉飾決算であることが判明すると、本来の財務状況に従った評価しか受けられないばかりか相手企業に対して不信感を与え、M&A自体が成立しなくなることもあるでしょう。

また、逆粉飾決算にも注意が必要です。逆粉飾決算とは実際の決算状況よりも悪く見せかける決算書を作成することです。たとえば債務を増やす、売上高を過少に計上する、仕入れ値を過大に計上するなどにより、実際よりも経営状況が厳しいように見せかけます。

逆粉飾決算は、主に税務会計においてみられます。実際よりも決算状況を悪く申告することで、税額を減らすことが目的です。逆粉飾決算は脱税行為ととられることもあるため、注意してください。

また、逆粉飾決算をしていることがデューデリジェンスなどのタイミングで発覚すると、相手企業に対して不信感を与え、M&Aが成立しなくなることもあります。

譲受側の注意点

譲受側は、会計の際に次の点に注意が必要です。

  • 多面的に財務分析を実施する
  • 子会社が増えたときは連結会計処理が必要
  • シナジー効果が得られる体制を作る

それぞれの注意点について見ていきましょう。

多面的に財務分析を実施する

より確度の高いデューデリジェンスを実施するためにも、財務分析を多面的に行うことが大切です。次の4つのポイントに注目し、相手企業の財務状況をより正確に把握していきましょう。

  • 収益性
  • 生産性
  • 安全性
  • 成長性

それぞれのポイントを解説します。

収益性

収益性とは、相手企業の買収によりどの程度の収益が得られるかという観点です。相手企業が年に10億を生み出す企業であっても、自社事業とのシナジー効果が得られるならば、さらに多くの収益を見込めます。財務分析を丁寧に行うことで、収益力を客観的に数値化しておきましょう。

生産性

生産性は、相手企業が過去に生産した価値を分析することで確認できます。生産効率が高ければ無駄のない経営ができていると判断できますが、反対に生産効率が低いときは、改善点も見つけておきましょう。

安全性

安全性とは、相手企業の支払い能力にどの程度の余力があるのかという観点です。綱渡り状態の経営をしている企業であれば、支払い能力の余力は低いと考えられるだけでなく、隠れた負債などが潜んでいるかもしれません。財務諸表を精査して、想定されうるリスクを洗い出しておくことが必要です。

成長性

成長性とは、過去数年分の決算から将来性を分析・判断することを指します。ビジネスモデルや経営効率、生産効率などの要素も重要ですが、ニーズのある業界かどうかといった外的な要素の分析も必要です。

子会社が増えたときは連結会計処理が必要

株式譲渡や株式交換などのスキームでM&Aを実施すると、子会社が増えることになります。取引が生じた各社の個別会計をするのはもちろんのこと、グループ全体の連結会計も必要になります。

なお、上場企業においては、子会社が増えたときなどには連結財務諸表を開示しなくてはいけません。また、連結会計処理をすることで、グループ全体の経営状態をより具体的に把握できるようになります。

会計基準に合わせて適切にのれんを処理する

のれんが発生したときは、会計基準に合わせた処理をすることが必要です。日本基準を用いるのであれば、20年以内に均等額を償却処理しましょう。M&A投資額を回収できない場合は、減損処理を行います。

一方、国際基準か米国基準で会計を行う場合は、のれんは償却処理をしません。毎年、のれんの価値を評価し、価値が著しく低下したときにはまとめて減損処理を行います。

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まとめ

M&Aを実施するときには、譲渡側・譲受側の双方において会計の知識が必要です。自社や相手企業の価値を見積もるときや、相手企業の経営状況を正確に把握するときにも、会計の知識なくては正確な分析ができません。

また、M&A完了後には会計処理も必要になることがあります。M&Aの手法によって会計処理が異なるため、正しく理解しておくことが必要です。

会計処理は、用いる会計基準やのれんの有無などによっても異なります。正しく会計処理を行うためにも、M&Aと会計の知識・経験が豊富な専門家のサポートを受けることを検討してください。

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