経営承継円滑化法とは?制度概要や手続きの流れ、利用するメリットを解説

2023年12月12日

経営承継円滑化法とは?制度概要や手続きの流れ、利用するメリットを解説

このページのまとめ

  • 経営承継円滑化法は中小企業の事業承継をスムーズにするため制定された
  • 経営承継円滑化法には減税や金融などの支援措置がある
  • 経営承継円滑化法の摘要には会社の規模や前任経営者などに条件がある
  • 経営承継円滑化法を利用する際は特例承認計画の作成や提出をする

日本では、中小企業が全企業の99.7%を占めています。そして、中小企業庁が著した「2022年版中小企業白書」によると、2020年における経営者の平均年齢は62.5歳で、大企業の平均年齢である60.3歳よりも高く、上昇傾向にあります。1978年には53歳、2010年には59歳でした。

さらに、経営者年齢の分布をみると、2015年には「65〜69歳」が最も多かったです。2000年の「50〜54歳」から比べると、高齢化が進行しています。

また、中小企業を経営している方の引退年齢の平均は、70歳程度であることから、後継者への事業承継問題が眼前に迫っていることがわかります。

日本経済を支える中小企業の事業承継をスムーズに行わせるために創設されたのが「経営承継円滑化法」です。

この記事では、経営承継円滑法について解説します。

参照元:中小企業庁「令和3年度(2021 年度)の中小企業の動向」

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経営承継円滑化法とは

日本経済の屋台骨を支えている中小企業の事業承継を円滑に進めるための支援として成立したのが「中⼩企業経営承継円滑化法」で、2008年10月に施行されました。
「中⼩企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が正式名称です。

中小企業の多くは、株主が経営者本人の場合が多く、経営者の個人資産において非上場株式を占める割合が大きい傾向です。

そのため、後継者が事業を引き継いだ時、贈与税や相続税といった税負担や遺産の遺留分の制約により、相続する資産が減少してしまいます。

その結果として、事業の承継の際には、必要な資金調達の困難さや、承継したあとの経営不安などという問題がありました。

「中⼩企業経営承継円滑化法」は、中小企業の問題に取り組み、その支援を目的として制定された法律です。

制度概要

中小企業の円滑な事業承継を支援するため、「中⼩企業経営承継円滑化法」は、制度化された頃には「事業承継税制」と「民法の特例」、「金融支援」の3つの柱で成り立っていました。

「事業承継税制」と「民法の特例」、「金融支援」を行うことにより、中小企業が円滑に事業承継を行えるように支援が実施されたのです。

なお、中⼩企業経営承継円滑化法は2018年に改正されています

制度が始まった背景

中⼩企業経営承継円滑化法が成立した背景には、日本の中小企業を取り巻く厳しい現実が関係しています。
日本における中小企業の数は、全企業の99%です。従業者数においても約70%を占めています。
しかし、2025年までに平均的な引退年齢である70歳を超える中小企業および、小規模事業者の経営者は約245万人です。
そのうちの約半数、すなわち127万人は、日本企業全体の3分の1に該当し、後継者が未定であると中小企業庁が2019年11月「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」において発表しています。

また、現状を放置した場合、これらの中小企業・小規模事業者が廃業を余儀なくされるでしょう。2025年までには、累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDP(国内総生産)が消滅するおそれがあると予測されています。

参照元:
三菱UFJ銀行「事業承継がはらむさまざまな問題 後継者へスムーズに事業を引き継ぐために取り組むべきこと」
中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」

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経営承継円滑化法による4つの支援措置

「経営承継円滑化法」には、新たに追加された1つを加えて、現在4つの支援措置があります。上述の「事業承継税制」、「民法の特例」、「金融支援」は、法令が施行された時の3本柱です。

これに、2018年の改正時に「所在不明株主に関する会社法の特例」が加えられ、利用しやすさやメリットが増しました。

それぞれについて、以下で詳しく確認していきましょう。

1.税制支援

「事業承継税制」は、事業承継を行う際に係る税負担を軽減するための特例措置で、個人事業主の場合と、法人の場合との制度があります。

対象内容説明認定に必要な手続き
個人事業主個人の事業用資産に係る贈与税・相続税の納税猶予先代の経営者からの事業用資産を贈与または相続により取得時、相続税・贈与税の納税が猶予される制度。都道府県知事の認定が必要
法人非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予先代の経営者から中小企業の非上場株式などを贈与または相続により取得時、相続税・贈与税の納税が猶予される制度。都道府県知事の認定が必要

2.金融支援

事業を承継するには多くの資金が必要となります。
そこで、中小企業や個人が事業の資金を円滑に調達するための「経営承継円滑化法」には、以下の金融支援があります。

  • 信用保証による支援
  • 融資による支援

それぞれについて、表で確認しましょう。

支援の種類対象者説明
信用保証による支援中小企業・個人事業主事業承継の資金ニーズが認められると、信用保証協会の保証枠として、通常の保証枠とは別の融資が用意される。
融資による支援中小企業・個人事業主経営承継円滑化法に基づく認定後、日本政策金融公庫や沖縄振興開発金融公庫の融資制度を利用可能。

3.遺留分に関する民法の特例

遺留分とは、相続人の生活の安定や相続人間の公平性を確保するために民法で認められた最低限の相続権利です。

後継者が引き継いだ旧代表者の遺産の中で、自社株式や事業用の資産の割合が大きかった場合は、ほかの相続人の遺留分を侵害している可能性があり紛争に進展するおそれがあります。

そこで、遺留分に係る紛争のリスクを解決するため、遺留分に関する特例制度を設けて、事業承継を円滑に進めることを支援しています。

4.所在不明株主に関する会社法の特例の前提となる認定

2018年の法改正時に新たに加えられた支援です。

株主名簿に名前が記載されているものの、連絡がつかない状態となり、現在の所在が確認できない株主を「所在不明株主」と称します。
都道府県知事が、非上場の中小株式会社の事業承継のニーズが高いと認定した場合、所要の手続き後に所在不明株主に関する会社法の特例の適用を受けられます。

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経営承継円滑化法の適用要件

「中小企業経営承継円滑化法」の適用を受けるには、対象会社・先代の経営者・後継者が、それぞれ一定の要件を満たしている必要があります。

対象要件
会社要件①:中小企業者であること
要件②:従業員数が1名以上であること
要件③:総収入金額がゼロではないこと
要件④:上場会社などではないこと
要件⑤:風俗営業会社ではないこと
要件⑥:資産管理会社ではないこと
要件⑦:後継者以外の者が黄金株を保有していないこと
先代の経営者要件①:会社の代表であった
要件②:相続・贈与時に、親族で自社株式の過半数以上を保有し、筆頭株主であったこと
要件③:贈与時に代表ではない(贈与の場合)
要件④:既に事業承継税制の適⽤に係る贈与をしていないこと 
要件⑤:(株主が複数の場合)贈与後に、後継者それぞれの議決権数が10%以上であり、かつ、議決権数を贈与者よりも多く有すること
後継者要件①:相続・贈与時に後継者と親族で自社株式の過半数以上を保有し、親族の中で筆頭株主になる
要件②:会社の代表であること
要件③:18歳以上で、贈与時まで役員を3年以上務めていること(贈与の場合)
要件④:(相続の場合)相続直前に役員であり、相続してから5カ月後に代表であること

上記の表で各要件を確認してください。

参照元:国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」

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経営承継円滑化法を利用するメリット

経営承継円滑化法は、中小企業の円滑な事業承継を支援するために成立した法律なので、適用要件を順守して認定を受けることで、さまざまなメリットを受けられます。

その中でも、この法律で受けられる最大のメリットの2つについて、以下で見てみましょう。

税金の猶予・免除により資金を準備する負担がなくなる

最大のメリットは、税金の納付において猶予を受け、免除されることでしょう。

例えば、株式の評価額が高ければ高いほど相続時に発生する相続税は、評価額に比例して増え、その分納税するための財源の確保が困難になります。

場合によっては、納税のために、銀行から借金をしたり、物納で納めたりすることなども検討しなければいけません。

しかし、この法律での支援を受けることで税金の納付予定だったものを事業資金に回せるため、事業承継に係る資金の準備負担が大幅に軽減されます。

期間限定の制度であるため後継者に事業承継を促せる

経営承継円滑化法は、期間限定の特例制度であるため、早期に後継者へと事業継続を促す効果があります。

後継者を決めかねている経営者にとっても、特例承継計画は3人まで後継者候補を記載でき、期限までに特例承継計画を提出していれば、期限後に後継者候補を変更することも可能です。

また、結果的に事業承継が行われなかった場合でも、ペナルティなどもありません。

さらに、後継者を求めているが資金力はないという企業からすれば、資金面での援助があることで、事業承継の成功率が高まるというメリットがあります。

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経営承継円滑化法を利用する流れ

経営承継円滑化法の「事業承継税制」を受ける際には、以下のスケジュールに沿って申請を行うことで、認定を受け、利用ができます。
流れを確認しておきましょう。

1.特例承認計画の作成と提出

まずは、「特例承認計画」を作成し、企業の後継者や、企業を承継するまでの運営や経営の見通し、承継後の5年間の事業計画などを記載します。

国税庁のWebサイトから「特例承継計画書」の様式をダウンロードして、必要事項を記載していきます。

「特例承継計画」に記入すべき項目は以下のとおりです。

  • 会社
  • 特例代表者
  • 特例後継者
  • 株式取得期間の経営計画
  • 株式等承継後の5年間の経営計画
  • 認定支援機関の名称

「特例承継計画」に関する書類は、中小企業庁のホームページからダウンロードできます。
提出にあたっては、「特例承継計画」の原本1部と写し1部のほかに、履歴事項全部証明書が必要で、返信用封筒も同封して提出しなければなりません。

「特例承継計画」は、「認定経営革新等支援機関(商工会、金融機関、税理士、弁護士など)」に提出して、経営に関して、助言や指導を受け、所見を記入してもらうことが義務付けられています。
ある程度時間がかかりますので、早めに準備しましょう。

その後、自社が籍を置く都道府県庁に「特例承認計画」を提出して申請し、認定を受けなければなりません。

また「特例承認計画」は、都道府県知事に、2024年(令和6年)3月31日までに提出し、確認を受けなければなりません。

参照元:
大阪府「経営承継円滑化法に係る認定・確認について」
中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定」

2.申請書の提出

「特例承継計画」を都道府県知事に提出し、認定されると認定書をもらえます。
認定書発行後は、都道府県庁からもらった認定書の写しと、相続税と贈与税の猶予を受けるための申請書を税務署に提出します。

3.適用開始

適用されても、無条件で運用が継続されるわけではありません。適用が開始された後にも、提出しなければならない書類があります。

これらを怠ると、納税の猶予期間が終了してしまうので、注意が必要です。
以下で、報告が必要なタイミングと書類について確認しておきましょう。

項目提出内容・義務提出先備考
適用後の5年間年次報告書都道府県庁年1回の提出が義務
継続届出税務署
適用から5年が経過実績報告都道府県庁平均で8割の雇用維持がされる
計画に関する報告書(雇用維持未達の場合)都道府県庁未達理由の記載と提出が義務
指導・助言(経営状況の悪化の場合)認定経営革新等支援機構
6年目以降継続届出書税務署3年に1回の提出

参照元:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定」

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経営承継円滑化法利用時の注意点

「経営承継円滑化法」の支援の1つである「事業承継税制」は、納税が猶予された後に免除が受けられるというメリットがあります。しかし、注意しなければいけないこともあります。

ここでは、「事業承継税制」を活用する時の注意点について確認します。

支援が打ち切りになる場合もある

適用が開始されたのちも、納税が猶予されている最初の5年間は、毎年「年次報告書」や「継続届出書」の提出が必要です。

適用開始から5年経過した後は、3年に1度、税務署へ「継続届出書」を提出しなければなりません。

もし提出を怠った場合や適用要件に沿わなくなった場合は、支援が打ち切られ、猶予期間は終了となり、納税が必要となります。

届出書の提出の時期をしっかりと管理することが重要です。

相談可能な専門家が少ない

「事業承継税制」は申請手続きが複雑で、適用前と適用後にも提出書類が必要となるなど、すべきことが多数あります。

そのため、個人でこの制度を利用するのは困難で、基本的には専門家への相談が必要です。その際、知識と経験が豊富で、信頼できる専門家に相談しなければなりません。

専門家を選ぶ手間がかかり、また、専門家への依頼料が高額になる可能性もあります。
そのため、この制度を活用する際は、納税額と利用にかかる諸費用を比較してメリットが得られるのかどうかを、事前に確認する必要があるでしょう。

しかし、対応できる専門家が少ないというのが現状です。また、税理士の多くがこの制度のサポートに消極的です。

相続税に強い税理士で、信頼できる方をできる限り早く選んで、サポートを依頼するように心掛けましょう。

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経営承継円滑化法と会社法特例

「会社法特例」とは、2021年の6月に「経営承継円滑化法」が改正され、従来からあった3つの支援措置に、新たに加えられた4つ目の措置で、同年8月2日に施行されました。

ここでは、この「会社法特例」について、さらに詳しく紹介します。

参照元:中小企業庁「経営承継円滑化法による支援」

会社法特例の概要

株主名簿に名前等の記載はあるものの、連絡が取れなくなり、所在が不明となっている株主のことを「所在不明株主」といいます。

所在不明の株主が5年間通知を受けず、配当も受けていない場合、株式会社はその株を売却・競売できます。

ただ、「5年」という期間の長さが、事業の承継を行う際には、大きなハードルになっているという問題点もありました。

この点を踏まえ、非上場の中小企業のうち一定要件を満たし都道府県知事の認定を受けた株式会社は、この「5年」の期間を「1年」に短縮する「会社法特例」の適用を受けられるようになりました。

参照元:中小企業庁「経営承継円滑化法の概要」

会社法特例適用の要件

「会社法特例」の適用を受けるには、中小企業者である株式会社が、以下の要件を満たす必要があります。

  • 経営困難要件
  • 円滑承継困難要件

要件の詳細や具体例、注意点を表で確認していきましょう。

項目名詳細具体例/注記
経営困難要件代表者が継続的な経営に困難・代表者の年齢が60歳超
・代表者の日常業務に支障の健康状態
・その他の事情
・役員や幹部の病気・事故
・外部環境の変化、業績の悪化(新型コロナ含む)
注: 上記に非該当でも総合的判断で認定可
円滑承継困難要件・一定数の株主が所在不明
・後継者への承継が困難
・所在不明株主の議決権数の割合
・後継者の有無、事業承継手法で定められる

会社法特例における手続きの流れ

会社法特例の手続きの流れは、以下のとおりです。

  1. 所在不明株主への通知などの不到達、配当金未受領の期間が1年以上継続している
  2. 都道府県知事の認定(認定の有効期限は原則2年)
  3. 会社法特例における異議申述手続
  4. 会社法198条1項における異議申述手続
  5. 裁判所への売却許可の申立て、許可
  6. 株式買取りなどの手続

裁判所への手続上、所在不明な株主への通知や催告が到達しなかった事実を証明するには、一般的には株主総会の招集通知と返戻封筒を提出することが求められます。

そこで、株主総会の招集手続きを適切に行い、返戻封筒をしっかりと保管しておきましょう。

また、「会社法特例」の対象となる株式は「市場価格のない株式」であり、そのため裁判所に第三者による「株価鑑定書」を提出し、買取価格の相当性を明らかにする必要があります。

裁判所から認められる株価評価には専門性が求められるため、専門の公認会計士や税理士などに相談することをおすすめします。

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まとめ

お伝えしてきたように、「経営承継円滑化法」では幅広く支援策を講じており、上手く活用すれば事業の承継を円滑に行えます。

事業承継を予定している中小企業の経営者の方は、公認会計士や税理士などの専門家にできる限り早く相談することをおすすめします。ぜひ活用を検討してください。

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