このページのまとめ
- 投資で得た利益が年間を通して20万円以上の場合には確定申告が必要
- 上場株式の譲渡による利益を源泉徴収口座以外で得た場合などは確定申告が必要
- 個人が株式譲渡で得た利益にかかる所得税率は20.315%
- 損失が出た場合、確定申告をすることで節税できるケールがある
一般的に株式投資というと、証券会社の特定口座での投資を思い浮かべることでしょう。証券会社の特定口座であれば確定申告は必要ありません。その理由は、申告不要制度があるからです。
しかし、証券会社を使わず個人が直接所有する非上場株式であれば、譲渡したときに確定申告が必要です。
この点について、個人が非上場株式の譲渡で利益を得た場合、申告不要制度を使わないときは確定申告を行えます。
なぜなら、非上場株式の譲渡によって得られた個人の所得は、総合課税ではなく、分離課税扱いされるからです。
なお、上場株式の譲渡で得た利益に関しては、あえて確定申告をすることで節税のメリットがある場合もあります。
今回の記事では、非上場株式の譲渡における申告不要制度を使わずに確定申告する方法と、課税額の計算方法などについて詳しく解説します。
目次
非上場株式の売却で利益を得たら確定申告は必要なの?
日本では法人・個人を問わず、1年間に得た収入と経費から算出される所得を申告し、その所得に応じて課される税金、すなわち、所得税を翌年の期限内に納付しなければなりません。この申告の手続きが「確定申告」です。
会社勤めの場合には、毎月の給与額から所得税分が控除され、企業が代わりに納付をしているので、確定申告をする必要は基本的にはありません。
個人の場合には、前年1年間の所得にかかる所得税を計算し、自分で申告しなければなりません。税金の申告・納付期限は、原則として当年の2月16日〜3月15日までです。
また、非上場株式を保有する個人や法人が、これらの株式を譲り渡すケースはM&Aにおいて多く見られます。この手法を「株式譲渡」といいます。
個人が非上場株式の譲渡で利益を得た場合には、確定申告の手続きが必要です。
以下で、確定申告が必要なケースと、必要ではないケースについて確認してみましょう。
参照元:
国税庁「令和3年分確定申告期の確定申告会場のお知らせ」
国税庁「株式を売却した方へ」
確定申告が必要なケース
株式譲渡を含む投資で得た利益が、年間を通して20万円以上の場合には、確定申告が必要です。
上場株式の取引は「一般口座」「(源泉徴収のない)特定口座」「(源泉徴収のある)特定口座」の3つの方法で行われます。
そのうち、上場株式の投資で確定申告が必要となるのは、「一般口座」と「(源泉徴収のない)特定口座」で株の取引をしており、利益が出た場合です。
また、上場株式と非上場株式の譲渡益を、ほかの所得と区分して、それぞれの税額を計算しなければなりません。
非上場株式の譲渡損益で確定申告を行わなければいけないケースとして、以下のものが挙げられます。
- 上場株式の譲渡による利益を源泉徴収口座以外で得た場合
- 源泉徴収のある口座の譲渡損失を、他の譲渡益から差し引く場合
- 過去3年間の譲渡損失を本年の譲渡益から差し引く場合
- 本年と過去2年の譲渡損失を翌年に繰り越す場合
- 非上場株式の譲渡を実施した場合
上場株式と非上場株式の違いを理解し、しっかりと確認しましょう。
参照元:国税庁「株式を売却した方へ」
確定申告が必要ないケース
確定申告が必要ではないケースを確認していきましょう。
以下の場合、確定申告は必要ではありません。
- 投資の利益が年間を通して20万円以下の場合
- 特定口座(源泉徴収あり)の場合
- NISA口座の場合
- 利益が確定していない場合
なお、株式投資で損失が出ている場合には、確定申告は原則的には必要ありません。
株式売却で利益を得た場合における課税の仕組み
株式を売却して得た利益は所得税法上、「株式の譲渡所得」として「分離課税」扱いされます。このため、給与所得や事業所得とは別に、売却益に基づいて所得税が計算、課税されます。
分離課税とは、所得税や住民税などの一般的な税金とは別枠で計算を行う課税方式です。この方式では、累進課税によって支払うそのほかの所得とは合算せず、個別に計算を行います。
株式譲渡で得た利益に対する課税の仕組みは、株式の取得価額と譲渡価額との差額を計算して、一定の税率をかけて計算します。計算式は、以下のとおりです。
- 株式譲渡益 = 譲渡金額-取得金額(譲渡にかかった費用を含む)
- 株式譲渡所得税 = 株式譲渡所得 × 税率
個人が株式譲渡で得た利益にかかる所得税率は20.315%です。この内訳は、所得税および復興特別所得税が15.315%、住民税が5%となり、その合計20.315%です。
個人の場合と法人の場合では、株式譲渡益への課税の仕組みが少し違うので、分けて課税の仕組みを見ていきましょう。
個人の場合には、申告分離課税方式が適用されるため、株式譲渡益は、給与所得などのほかの所得とは区別して計算されます。さらに、上場株式と非上場株式は分離して、課税の金額を計算します。
法人の場合でも、考え方は基本的に個人の場合と同じです。
譲渡にかかった経費や、株式の取得に要した経費などは取得原価に組み入れます。
したがって、株式譲渡益の計算方法は株式譲渡益 = 譲渡金額 − (取得原価+譲渡経費)です。
また、法人の課税の仕組みは、株式譲渡で得た利益以外の損益と合算されます。そしてその合計金額に対して所得金額が算出され、29〜42%の税率で法人税や地方税等が課税されます。
参照元:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
株式売却で利益を得た場合における税金の計算方法
株式の譲渡や売却による利益の課税の仕組みは既に解説しましたが、ここでは、税金の計算方法を具体的に解説します。
1.上場株式等と一般株式等に分ける
株式売却で得た利益にかかる税金に関しては、まず、売却した株式を「上場株式等」か「一般株式等」かに分けなければなりません。
その分類の上で、分離課税方式に従い所得税を算出し、確定申告をします。
それでは、「上場株式等」と「一般株式等」の違いについて確認しましょう。
上場株式等
一般的には証券取引所に上場している株式、公募株式投資信託、そのほかの金融商品として国債や地方債、公社債、外国債券、投資信託などが含まれます。
一般株式等
一般株式等とは、上場株式等を除く非上場株式や私募株式投資信託の受益権などが該当します。
2.区分したものを申告分離課税によって計算する
「上場株式等」と「一般株式等」の譲渡益は同じ計算式を使用しますが、それぞれ別々に計算する必要があります。
上場株式と非上場株式は、それぞれ別々に譲渡損益の計算を行うことです。
計算式は、以下のとおりです。
- 上場株式等に係る譲渡益=譲渡金額 – (取得費+譲渡経費)
- 一般株式等に係る譲渡益=譲渡金額 – (取得費+譲渡経費)
別々に計算をする理由は、両者を合算して、損益通算(同一年分の利益と損失を相殺)することは認められていないからです。
つまり、上場株式等の譲渡損失は一般株式等の譲渡益から、またその逆も同様に、控除することはできません。
一般株式等に関して譲渡損失があったとしても、それを上場株式等に係る譲渡益の金額からは控除できません。
M&Aで非上場株式を売却した場合、多額の譲渡益が発生しますが、非上場株式の譲渡益と一般株式等(上場株式)の譲渡損失を相殺することができません。
3.株式売却で課税となる税金の税率
売却で得た利益に対して、指定された税率で税額を算出し、その額を申告して納税しなければなりません。
株式譲渡益の税率は個人と法人とで異なります。個人と法人の税率は異なるため、それぞれを確認しましょう。
個人の場合、個人が株式などを売却して利益を得た場合、分離課税の対象として株式などの譲渡所得となります。上場株式などであるか一般株式などであるかに関わらず、税率は同じです。
- 上場株式等の譲渡所得 × 税率 20.315% (所得税15.315% + 住民税5%)
- 一般株式等の譲渡所得 × 税率 20.315% (所得税15.315% + 住民税5%)
法人の場合、法人の株式売却益に税率をかけることはありません。他の損益と合算され、法人全体の所得が算出されます。
したがって、そのほかの所得と合算した結果得られる合計所得に応じて、29〜42%の課税率で法人税や地方税が課されます。
参照元:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
所得税、復興特別所得税、住民税の税率
株式投資において譲渡益や配当などの利益が発生した場合、それに対して所得税や住民税が課されますが、2013年から2037年12月31日までの期間、復興特別所得税も加算されます。
つまり、計算式は以下のとおりです。
譲渡益課税率は20.315%で、これは所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計です。
復興特別所得税とは、東日本大震災の復興財源を、永続的に確保する目的で、2013年から導入された新しい税金です。
この税制下では、納税者は所得税の金額に2.1%加算した額を納税する必要があります。
譲渡益の課税において、所得税と復興特別所得税を合わせた税率は15.315%となります。
参照元:国税庁「株式・配当・利子と税」
譲渡所得の求め方
譲渡所得の算出方法は、前述のとおり、株式の譲渡金額から、取得原価と譲渡経費を差し引く形で計算します。
以上が株式譲渡益の計算方法です。
4.株式売却にかかる税金の計算を行う
それでは、個人が株式の譲渡・売却により譲渡所得を得た場合、どのように税金額を計算するのか、例を使って説明しましょう。
前提条件は以下のとおりです。
- 1株1,500円の非上場株式を1,000株取得した場合(取得費は150万円)
- 非上場株式譲渡(売却)時に500万円で譲渡
- 譲渡の委託手数料や経費などに合計で50万円
まずは、株式譲渡益、すなわち課税される所得を計算します。
株式譲渡価額500万円-(取得費150万円+経費・手数料など50万円)=300万円
株式を譲渡・売却した時点で、300万円の課税所得(譲渡益)を得たことになります。
ここで、この課税所得である300万円に対して、3つの分離課税の税率を掛け合わせ、税金額をそれぞれ算出します。
- 所得税額:300万円 × 15% = 450,000円
- 復興特別所得税額:300万円 × 0.315% = 9,450円
- 住民税額:300万円 × 5% = 150,000円
上の計算のとおり、申告する税金額は609,450円と計算されます。
株式売却で損失があっても確定申告するメリットがあるケース
株式の売却で損失が出た場合、確定申告の必要はなくても、確定申告をすると節税できるケースがあります。
どのような場合が該当するのか、詳しくご紹介していきます。
譲渡損失の繰越控除をする場合
株式投資で損失があった場合には、「損益通算」が可能なため、確定申告でこの損失を申告することで、翌年以降の利益から損失分を相殺可能です。
「損益通算」では、損失を最大で3年間繰り越せます。
このように、「損益通算」を3年間継続して繰り越せることを、「譲渡損失の繰越控除」と言います。
例えば、損失額が100万円あった場合、翌年の利益が10万円しかなければ、損益通算しても損失を残すことが可能です。この残った損失は、3年間にわたって繰り越せます。
配当控除による税金還付がある場合
配当所得については、「申告分離課税」と「総合課税」のどちらかを選んで申告可能です。
配当所得を総合課税の対象として計算する場合、「配当控除」という控除が受けられます。税率はほかの所得との合算金額で決まるため、節税効果が期待できます。
具体的には、合計所得が695万円未満の場合、配当所得を総合課税で確定申告した方が節税の効果となるでしょう。
申告分離課税を選択した場合には、先に説明したように「損益通算」が可能ですが、一方で、配当控除は適用されません。
参照元:国税庁「No.2260 所得税の税率」
所得控除がある場合
給与所得に対する所得税を計算する場合には、各種の所得控除(基礎控除、配偶者控除、生命保険控除など)が適用されます。
しかし、給与所得が少なく、給与所得では控除しきれない所得控除がある場合、確定申告をすることで株の譲渡で得た所得に対しても所得控除を適用できます。
株式売却で損失があり確定申告するとデメリットがあるケース
お伝えしたように、損益通算や損失繰越があることで、確定申告をした場合に税金を低く抑えられるケースがあります。しかし、確定申告がむしろデメリットとなるケースも存在するため、気をつけなければなりません。
どのようなケースが該当するのか、確認していきましょう。
扶養に入っている場合
株式の譲渡・売却によって損失が出た際、「譲渡損失の繰越控除」の適応を受けるために確定申告をすると、株による利益と譲渡損失は相殺できます。この点が所得として認識されると、配偶者控除や扶養控除の適用を失う可能性があり、その結果、税負担が増加する可能性があるかもしれません。したがって、扶養に入っている場合は注意が必要です。
住民税や社会保険料が増えてしまう場合
確定申告をすると所得税ではメリットがありますが、住民税のメリットはありません。
確定申告をしない場合、住民税の税率は5%となります。しかし、配当控除を受けるために総合課税で確定申告をした場合、住民税の税率は10%です。そして、その10%から配当控除の2.8%を引くと税率は7.2%となります。
つまり、確定申告をすることで税負担がかえって増えてしまいます。これは、住民税の所得額をもとに社会保険料が算出されているからです。
参照元:
国税庁「株式・配当・利子と税」
国税庁「住民税」
上場株式等の売却において注意すべきポイント
これまで上場・非上場を問わず、株式の譲渡・売却の際に、確定申告を行うことのメリットやデメリットについて確認してきました。
それでは、上場株式などを売却する際の注意点について解説しましょう。
特定口座と一般口座の違い
上場している株式の購入や売却のためには、証券会社に証券口座を開設する必要があります。その際には、「特定口座」と「一般口座」のどちらかを選択することになります。
「特定口座」とは、証券会社に開設できる口座の一種で、証券会社が1年間の株式取引の損益を計算し、取引報告書を作成してくれます。
「一般口座」とは、1年間の株式取引の売買損益を、自分で計算して確定申告をしなければなりません。
特定口座には、「源泉徴収の有無」の選択があり、それに応じて確定申告の必要性が変わります。
源泉徴収ありと源泉徴収なしの違い
「特定口座」では、「源泉徴収あり」か「源泉徴収なし」のいずれかを選びます。
この2つの違いは、確定申告を誰がするのかという点です。
「源泉徴収あり」の場合、証券会社が自分に代わって税金の計算と確定申告納税を行います。一方「源泉徴収なし」の場合、証券会社が作成した年間取引報告書を活用して自分で確定申告をします。
配当金への課税
株式の配当金は源泉徴収の際に税金が徴収されるので、通常、確定申告の必要はありません。しかし、確定申告で、「総合課税」か「申告分離課税」かを選択できます。
「総合課税」で確定申告を行う場合、配当控除の適用を受けられます。一方、「申告分離課税」で確定申告する場合、損益通算の適用が可能です。
NISA・つみたてNISAは譲渡所得が非課税になる
NISA(少額投資非課税制度)や積み立てNISAの場合には、譲渡益や配当金は非課税なので、確定申告の必要はありません。
しかし、損失が出た場合、それは認識されず、上場株式などの譲渡での損失に対して「損益通算」や「繰越控除」の適用が受けられないデメリットがあります。
参照元:金融庁「つみたてNISAの概要」
一般株式等の売却において注意すべきポイント
非上場の株式である一般株式等を売却する際、どのような点に注意すべきか?以下では、その注意点について解説します。
相続・贈与と売却における税金計算の違い
個人が「株式譲渡(売却)」を行う場合には、所得税が課されます。
一方、譲渡ではなく「相続」の場合には相続税が課され、「贈与」の場合には贈与税が課されます。
税金の種類に応じて計算方法が異なり、その結果大きな違いが出るでしょう。
株式譲渡の所得税の税率は、一律で20.315%です。
一方、相続税や贈与税での場合、課税対象金額に応じて税率が10〜55%で異なります。
したがって、「相続」や「贈与」の金額が大きければ大きいほど、譲渡(売却)の税率よりも、税金が高く課されることになります。
株式取得費用がわからないと計算ができない
株式譲渡所得を計算するには、その株式を取得した際の取得費が分からないと計算できません。
しかし、取得した時期が古すぎて取得費が分からない場合や、計算に困るケースもあります。
取得費に関して、売却価格の5%を相当とみなすことが許容されています。
時価とかけ離れた価額で売却すると税金問題が生じる
非上場の一般株式などでは、証券取引所を通さずに、売り手と買い手の交渉により、売買価格が確定できます。
しかし、当事者同士で非上場株式の時価を無視して勝手に売却価額を決めてしまうと、課税の公平性の観点から問題が生じるでしょう。
非上場株式を時価と大きくかけ離れた金額で売却した場合、実際の売却代金と時価の差額に対して、受け取った側に贈与税が課されます。
まとめ
株式の譲渡や売却など、株式の取引に関する税金の計算は、お伝えしてきたように非常に複雑です。
上場か非上場か、株式の種類や、上場している場合の証券口座の違いなどにより、確定申告をするべきかどうかが異なるでしょう。
さらに、確定申告が不要な場合でも、確定申告をしたほうが得の場合もあります。
株式の取引にかかる税金について、不明な点やお悩みがある場合には、税理士にできる限り早めに相談することをおすすめします。
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