イグジット戦略の意味とは?M&AやIPOによるメリットや事例を解説
2023年12月7日
このページのまとめ
- イグジット戦略とは創業者などが株式の売却や株式公開を行い利益を得る戦略
- イグジット戦略には、主に「IPO」「M&A」「MBO」の3種類がある
- 日本ではIPOを行う企業が約7割、アメリカではM&Aを行う企業が約9割
- 売却のタイミングの見極めや自社に合ったM&A仲介会社選びなどが成功の秘訣
M&AやIPOを活用したイグジット戦略に、関心をお持ちの経営者の方もいるのではないでしょうか。イグジット戦略とは、わかりやすく説明すると「出口戦略」であり、M&AやIPOで利益を得ることです。
本コラムでは、イグジット戦略の概要やメリット、注意点をまとめました。イグジット戦略の事例などもご紹介するため、ぜひ参考にしてください。
目次
イグジット戦略とは
イグジット戦略とは、ベンチャービジネスや企業再生などにおいて、創業者などが第三者に株式を売却したり、株式公開をしたりすることで利益を得るための戦略のことです。
確度の高いイグジット戦略を策定すると、金融機関などから投資回収率が高いと評価され、融資を受けやすくなることもあります。資金を確保できると、スピード感のある事業展開が図れるでしょう。
主なイグジット戦略3種類
イグジット戦略には、主に「IPO」「M&A」「MBO」の3種類があります。それぞれの特徴を解説します。
1.IPO
IPOとは「Initial Public Offering」の略語で、新規株式公開のことです。非上場企業が証券取引所に上場し、株式を一般公開することを指します。創業者は、IPOによって株式の時価と払込額面価格の差額を創業者利益として得ることが可能です。
IPOでは、通常の企業の利益や成長性を考慮した価格よりも高い株価がつくことが一般的です。そのため、創業者がその株を売却すると莫大な利益を獲得できます。
2.M&A
M&Aは、「Mergers and Acquisitions」の略語で、企業や一部の事業を第三者に売却する方法を指す言葉です。買い手ははじめから収益を生み出している企業を引き継げるため、新しくビジネスを立ち上げる必要がありません。また、既存の事業と組み合わせることで、高い相乗効果が生まれる可能性があります。一方、売却側は、事業の評価額に応じた対価を得られます。
3.MBO
MBOとは「Management Buyout」の略語で、現経営陣が、自社の株式を創業者や出資者から合計で過半数以上買い取り、支配権を獲得する方法のことです。創業者や出資者の立場からは、イグジットにあたります。
株主が多い企業では意思決定に時間を要することがほとんどですが、MBOを実施すると株主が経営陣に集中するため、意思決定を迅速に行なえます。
日米のイグジット戦略の比較
令和3年に経済産業省が公表した「大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書」によると、日本とアメリカでは、実施されるIPOとM&Aの割合に差異があります。日本ではIPOを選択する企業が約7割であるのに対し、アメリカではM&Aが約9割も占めます。それぞれ、主流となるイグジットの方法が異なることがわかるでしょう。
日本のM&Aにおける買収価格がアメリカと比較して低いことが、M&AよりもIPOが活用される一因といわれています。ただし、経営者の高齢化に伴う後継者不足の問題が増えてきていることから、日本でもM&Aの件数は増加傾向にあります。
参照元:経済産業省「大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書」
IPOによるイグジット戦略のメリット・注意点
ここからは、IPOによるイグジット戦略のメリットと注意点を解説します。
メリット
IPOによるイグジット戦略のメリットは、主に次の3点です。
- 売却後も経営に携われる
- 多くの売却収入を得られる可能性がある
- 企業の知名度が上がる
それぞれの内容を確認しましょう。
売却後も経営に携われる
IPOでは、経営者はすべての持株を売却する必要はありません。一部の株式を売却する場合、売却後も引き続き経営に携われる可能性があります。
多くの売却収入を得られる可能性がある
多くの売却収入を得られる可能性があるのも、IPOのメリットといえるでしょう。IPOを実施した企業は、上場審査の基準をクリアしたことで企業価値が向上し、株価が高騰する傾向にあります。株価高騰のタイミングを見はからって株式を売却すると、大規模な資金を調達できるでしょう。
企業の知名度が上がる
上場した企業は、多くの投資家や経営者から注目されることが一般的です。知名度の向上が、採用や新規取引先の開拓のほか、金融機関からの資金調達などにおいて有利に働く可能性があります。
注意点
IPOによるイグジット戦略の注意点として挙げられるのは、次の3点です。
- 準備に労力と費用がかかる
- 上場維持のための条件をクリアし続ける必要がある
- 上場後、株主への説明責任が生じる
順番にみていきましょう。
準備に労力と費用がかかる
上場のための基準を満たすには、企業の管理体制や労働条件の整備をする必要があり、労力や費用がかかります。上場にあたり、監査法人による上場直前2期間の会計監査が求められており、上場には少なくとも3年程度の準備期間を要します。さらに、監査費用なども支払わなければなりません。
上場維持のための条件をクリアし続ける必要がある
上場を維持するには、一定の基準を満たし続ける必要があります。株式市場の区分によって異なるものの、それぞれ株主数や流通株式数・比率、売買代金などの上場維持基準が定められています。
上場後、株主への説明責任が生じる
上場後は経営の透明性が求められ、株主に対しての説明責任などが生じる点も、デメリットの1つです。株主が納得できる結果を出せないと、経営陣の責任が追求される可能性もあるでしょう。
経営者の違反行為や経営判断のミスなどによって株主の権利を棄損したような場合、株主代表訴訟を起こされるリスクもあります。株主代表訴訟とは、株式会社の経営者に対し、株主が企業に代わってその経営責任を追及し、損害賠償を請求する訴訟手続のことです。
M&Aによるイグジット戦略のメリット・注意点
M&Aによるイグジット戦略のメリット・注意点も確認していきましょう。
メリット
M&Aによるイグジット戦略のメリットは、次の3点です。
- 実現まであまり時間がかからない
- 成功率が比較的高い
- 買収側企業とのシナジー効果を得られる
各メリットについて、解説します。
実現まであまり時間がかからない
M&Aは、当事者間で合意形成がされれば成立するため、あまり時間がかからない傾向にあります。IPOと異なり、企業売却にあたって管理体制や労働条件の整備などをする必要がないためです。早ければ数ヵ月程度で、イグジットまでの準備を済ませられます。
成功率が比較的高い
成功率がIPOと比較して高いのも、M&Aを用いたイグジットのメリットといえるでしょう。たとえ赤字企業であっても、買い手側が将来性や事業シナジーの効果を見込めると判断したような場合は、M&Aが実現します。
また、M&Aは着手するための準備や費用があまり必要ないため、失敗しても比較的容易に再チャレンジしやすい点も特徴です。
買収側企業とのシナジー効果を得られる
M&Aでの売却価格は、企業価値も評価として盛り込んで決定します。売却前は赤字だった場合でも、シナジー効果が見込めるような買収先であった場合、イグジットとして成立する可能性があります。
注意点
M&Aによるイグジット戦略では、以下の点に注意が必要です。
- 経営権を失う
- 希望価格では売却できない場合がある
- 経営方針や労働条件が変わる可能性がある
1つずつ解説します。
経営権を失う
株式譲渡のM&Aでは、経営権を譲り渡すため、経営者としての権利や地位を失うことがほとんどです。ただし、買い手の意向により、M&Aを実施した後も事業に関与できる場合もあります。事業から完全に離れることを回避したい場合は、事業責任者といった形で関われるよう、買い手と交渉を行うと良いでしょう。
希望価格では売却できない場合がある
M&Aにおける譲渡金額は買い手との交渉で決まるため、必ずしも希望価格で売却できるわけではない点を押さえておきましょう。また、事業価値を高める前にM&Aを行ってしまうと、利益が少なくなることもあります。しかし、専門性や革新性の高い事業であるなど、買収後の成長が大きく見込まれる場合は、高額の買値がつくこともあるでしょう。
経営方針や労働条件が変わる可能性がある
経営方針や労働条件が変わる可能性があることも、M&Aにおける注意点として挙げられるでしょう。それによって、取引先が不利益を被ったり、従業員のモチベーションが低下したりするリスクが懸念されます。M&Aによるイグジット戦略を実行する際は、取引先や従業員に与える悪影響を極力抑えられるよう、交渉を行うことが求められます。
イグジット戦略を判断する基準(クライテリア)
イグジット戦略には、いくつかの方法が存在します。IPOとM&Aのどちらを選択するかなどの判断基準(クライテリア)としては、以下の5点が挙げられるでしょう。
- 自社のみで成長することは可能か
- 早期にイグジットを実現したいか
- 資金調達が必要か
- 経営権を持ち続けたいか
- 企業の知名度を高めたいか
1つずつ解説していきます。
1.自社のみで成長することは可能か
自社のみの成長が見込めるかどうかは、イグジット戦略の方法の選択基準の1つになり得ます。自社のみではこれ以上の成長が難しいような場合、M&Aを実行することで買い手側企業とのシナジー効果が起きる可能性があります。
2.早期にイグジットを実現したいか
早期にイグジットを実現したい場合は、M&Aを検討しましょう。IPOを選択すると上場までの準備に時間がかかりますが、M&Aは相手さえ見つかれば、比較的早期にイグジットを実現できます。
3.資金調達が必要か
IPOの場合、新たに株式を発行し、資金調達することが可能です。上場することで不特定多数の人が自社の株式を購入する可能性が生まれるため、市場からの資金調達が見込めます。資金調達が必要な企業は、IPOの実施を検討しましょう。
4.経営権を持ち続けたいか
M&Aを選択すると、通常はすべての株式を売却することになるため、経営に携わり続けることは困難です。一方、IPOは、必ずしもすべての株式を売却する必要はありません。経営権を持ち続けることを希望する場合は、IPOを選択することをおすすめします。
5.企業の知名度を高めたいか
企業の知名度を高めたい場合は、IPOを選択するとよいでしょう。IPOは未公開株を新規に株式市場に公開し、不特定多数の投資家に向けて売り出すことを指します。それにより、多くの投資家や経営者から注目される可能性が高くなるでしょう。M&Aは子会社化されるケースが多いため、知名度を高めるという意味ではIPOのほうが適しています。
イグジット戦略を成功させるポイント
イグジット戦略を成功させるポイントは、主に次の5つです。
- 高値で売却できるタイミングを見極める
- 売却金額や時期などのゴールを明確にする
- シナジー効果が見込める買い手側企業を選ぶ
- イグジット方法について多くの選択肢を持つ
- 業種や企業規模に合ったM&A仲介会社などを選ぶ
順番に解説していきます。
1.高値で売却できるタイミングを見極める
イグジット戦略を成功させるには、自社を高値で売却できるタイミングを見極めることが不可欠です。業績が好調な時期や、自社に対する市場の期待が高い時期に売却するように意識しましょう。また、できるだけ市場環境が良好なタイミングを選ぶこともポイントです。市場環境が良好なときは、それ以外のときと比べ、高い取引価格になる可能性があります。
良いタイミングを逃すと買い手側企業が限られてしまい、期待する金額での売却も困難になるでしょう。少しでも有利な状況で取引ができるように、積極的に情報収集をすることが大切です。
2.売却金額や時期などのゴールを明確にする
売却金額や時期などのゴールを明確にしておくことも、イグジット戦略を成功させるためには重要です。ゴールを明確にしておかないと、状況に流されてしまい、本意ではない形で売却することになる可能性もあります。
またイグジットの対価はどの程度を想定するか、イグジット後も経営に携わりたいかなど、譲れない条件を整理しておくと、イグジットの方法を絞り込みやすくなります。
3.シナジー効果が見込める買い手側企業を選ぶ
M&Aでのイグジット戦略を有利に進めるには、シナジー効果を見込める買い手側企業を選ぶことも欠かせません。M&Aによる相乗効果が見込まれる場合は、売却価格が上乗せされる場合があるため、高値で売却できる可能性があります。
4.イグジット方法について多くの選択肢を持つ
イグジット方法について、なるべく多くの選択肢を持つことも重要です。情報収集が不十分な段階で、IPOとM&Aのどちらを選択するか絞り込んでしまうことは避けましょう。自社にとってのベストな判断ができなくなる場合があります。
また、上場していない企業がM&Aで大企業の子会社となり、その後IPOを目指す「2段階イグジット」も注目されつつあります。IPOとM&A、さらに2段階イグジットなど、複数の選択肢があることを押さえたうえで、適切な方法を選択しましょう。
5.業種や企業規模に合ったM&A仲介会社などを選ぶ
M&Aでイグジット戦略を成功させるには、自社と同じような業種や事業規模の企業のM&Aを得意とする、M&A仲介会社やコンサルティング会社などを選びましょう。企業の強みや特徴などを理解してもらいやすく、自社に合った売却先を選定してもらえるでしょう。
イグジット戦略の事例5選
ここからは、イグジット戦略の事例をご紹介します。
IPO
IPOを用いたイグジット事例として「楽天銀行」「クラシコム」「スカイマーク」の3社のケースを確認していきましょう。
1.楽天銀行
楽天銀行は、2023年4月に東証プライム市場に上場を果たし、屈指の大型IPOとして注目を集めました。楽天銀行は上場によって、より自律的な経営視点と成長戦略を遂行できること、独自の資金調達を含めたさまざまな成長および財務戦略を検討することが可能になるとしています。
参照元:楽天銀行株式会社「東京証券取引所プライム市場への新規上場に関するお知らせ」
2.クラシコム
北欧家具のECサイト「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコムは、2022年8月5日、東京証券取引所のグロース市場に上場しました。同社の代表取締役である青木氏は、創業17年目というタイミングで、今後も長く企業を継続させていくために、上場という選択肢を選んだと語っています。
参照元:北欧、暮らしの道具店「【お客さまへ】株式会社クラシコムが東証グロース市場に上場しました。これからも宜しくお願いいたします!」
3.スカイマーク
航空会社のスカイマークは、2022年に東証グロース市場に上場しました。2015年1月に経営破綻した後、民事再生を進めて同3月の上場廃止となり、約6年半ぶりの再上場となりました。
参照元:スカイマーク株式会社「東京証券取引所グロース市場への新規上場に関するお知らせ」
M&A
M&Aによるイグジット事例(買い手企業側から見て子会社化の事例)として、「パナソニック」「メルカリ」が行ったM&Aをご紹介します。
1.Cerevo
2018年4月2日、電機メーカーのパナソニック株式会社は、ネット家電ベンチャー企業である株式会社Cerevoの子会社で、ハードウェアを開発・製造する「株式会社Shiftall」を子会社化しました。パナソニック株式会社は、株式会社Cerevoのノウハウを継承した株式会社Shiftallを子会社化することで、デジタル時代にマッチした顧客価値の提供を目指しています。
参照元:株式会社Cerevo「Cerevo、子会社をパナソニックへ売却」
2.ザワット
フリマアプリを運営する株式会社メルカリは、2017年2月17日付で、スマホ向けのフリマアプリを開発・運営するザワット株式会社を子会社化しました。株式会社メルカリによるザワット株式会社の子会社化は、Eコマース分野のさらなる発展・拡大を主な目的としています。
参照元:株式会社メルカリ「メルカリ、『スマオク』を運営するザワット株式会社を買収」
まとめ
イグジットは「出口戦略」とも呼ばれ、ベンチャービジネスや企業の再生においてM&AやIPOで利益を得ることを指します。IPOとは「Initial Public Offering」の略語で、新規株式公開のことです。一方、M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略語で、企業や一部の事業を第三者に売却する方法のことです。
IPOによるイグジット戦略におけるメリットとしては、売却後も経営に携われることや多くの売却収入を得られる可能性があること、企業の知名度が上がることなどが挙げられます。しかし、準備に労力と費用がかかる点や上場維持のための条件をクリアし続ける必要がある点などに注意が必要といえるでしょう。
M&Aによるイグジット戦略のメリットは、実現まであまり時間がかからない、成功率が比較的高い点などです。一方、経営者は経営権を失うこと、希望価格では売却できない場合があることがデメリットです。
自社のみで成長することは可能か、早期にイグジットを実現したいか、経営権を持ち続けたいかなどの判断基準にもとづき、IPOとM&Aのどちらを選択すべきかを検討しましょう。
また、イグジット戦略を成功させるには、高値で売却できるタイミングを見極める、業種や企業規模に合ったM&A仲介会社などを選択するなどがポイントとなります。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
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