バイアウト投資とは?ベンチャー投資との違いやファンドの役割について解説
2023年11月28日
このページのまとめ
- バイアウト投資とは、ファンドが企業を買収しバリューアップを図った後に売却すること
- ベンチャー投資は、経営に直接的に介入することはない点がバイアウト投資と異なる
- バイアウトファンドの目的は、高値での売却成立により、多くの差益を獲得すること
- バイアウト投資は、企業の効率的で迅速な成長促進や事業承継に有効な手法
- バイアウト投資を受ける際は、安すぎる買収価格などによるファンドとのトラブルに注意
業績不振が続く自社の経営再建を目的に、バイアウト投資を受けることを検討している経営者の方もいるのではないでしょうか。バイアウト投資を成功させるためには、投資を受けるメリットとともにファンドの役割を理解しておくことが大切です。
本記事では、バイアウト投資の特徴やメリットについて詳しく解説します。ベンチャー投資との違いやファンドに依頼する際の注意点についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
バイアウト投資とは
バイアウト投資とは、企業を買収した後、経営改善を行うことで企業価値を高め、バリューアップしたところで買収した金額よりも高い価格で売却することで差益獲得を狙う投資手法です。
バイアウト投資では、買収価格と売却価格の差が大きければ大きいほど利益が生まれます。そのため、投資を行う企業の選定においては、経営不振などの理由から企業価値が下がっている企業、なおかつ将来大きく成長しそうな事業や独自技術・ノウハウを抱えている企業などが対象となることが多いです。
ベンチャー投資とバイアウト投資の違い
買収時点で企業価値の低い企業を、買収後にバリューアップするという手法において、バイアウト投資はベンチャー投資と目的は同じです。
ただしそれぞれの手法において投資対象となる企業が異なる点が、両者の間にある大きな違いとなっています。
ベンチャー投資における投資対象は、その名のとおりベンチャー企業です。
将来有望な事業を展開している未上場の新興企業を対象にバリューアップを図り、IPOなどの形でイグジットさせて利益を獲得するのがベンチャー投資の仕組みです。
対してバイアウト投資では、企業の経営再建や財務基盤強化などの形で企業の価値そのものを高める手法であるため、対象となる企業もある程度成熟した企業となります。
このようにバイアウト投資では経営に外部の専門家などが介入し立て直しを図るのに対し、ベンチャー投資では経営に直接的に介入することはなく、資金的な支援のみにとどまる点も両者の違いといえるでしょう。
それぞれの手法で投資を行うファンドのことは、「バイアウトファンド」「ベンチャーキャピタル」と呼ばれ、いずれもPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)に含まれる投資ファンドの1種となります。
バイアウト投資とベンチャー投資の違いをまとめると、下記のようになります。
バイアウト投資 | ベンチャー投資 | |
投資対象 | ある程度成熟した企業 | ベンチャー企業 |
目的 | 経営改善などによって、企業価値を向上させたうえでの売却 | イグジットによる利益獲得 |
経営への介入度 | 外部の専門家を入れるなどして積極的に介入 | 資金的な支援が中心 |
ファンドの名称 | バイアウトファンド | ベンチャーキャピタル |
バイアウト投資が日本で増加している
日本プライベート・エクイティ協会によると、企業のバリューアップを目的とした投資を行うPEファンドの国内マーケットは、2016年以降の大規模案件の増加により拡大を続け、2022年度の案件総額は200億ドルに達しているとしています。
日本の投資マーケットにおいてPEファンドが急成長している背景には、以下のような理由が考えられます。
- 戦略的バイアウトにより、企業成長の加速化が図れることに多くの企業が気づいた
- ガバナンス強化や企業の透明性向上のためにコーポレートカーブアウトを行う大企業が増加した
- ファンドや投資家の間で、比較的短期間で高いリターンを求める動きが拡大した
バイアウト投資は、企業の競争力強化が求められる昨今において、効率良くスピーディな成長を促す起爆剤として注目を集め、そこに多くの投資マネーが流入していることが活発なPEマーケットの動きを後押ししているのです。
出典:日本プライベート・エクイティ協会「日本におけるプライベート・エクイティ市場の概観」
バイアウト投資を専門に扱うバイアウトファンドがある
バイアウト投資を専門に行う、バイアウトファンドというものが存在します。バイアウトファンドは、投資家から集めた資金を活用して対象企業のバリューアップを図り、企業価値が高まったタイミングで売却し、その売却益を投資家に還元します。
バイアウトファンドでは、買収後の経営統合作業(PMI)をハンズオンで行う点が大きな特徴となっています。
ハンズオンとは、積極的に買収企業の経営に関与することを意味します。ファンドが買収した場合はファンドの担当者や協力関係にある外部の専門家が、企業が買収した場合は買い手側企業の社長や経営陣が、買収企業の経営改善を牽引しバリューアップを図ります。
ファンドによるバイアウト投資の流れ
ここからはファンドによるバイアウト投資が行われる流れについて、プロセスごとに解説していきます。
バイアウト投資の基本的な流れは以下の通りとなり、基本的には通常のM&Aを行う流れと同じです。
- 買収候補の選定・交渉打診
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終契約書の締結
- ハンズオンによるPMIの実施
- 売却
- 売却益を出資者に配分
先述の通り「ハンズオンによるPMI実施」というプロセスがある点がバイアウトファンドによる買収の特徴となります。
バイアウト投資を受けるメリット
バイアウト投資の対象企業としてファンドからの支援を受けることによって、対象企業側はさまざまなメリットが享受できます。
ここでは代表的な4つのメリットについて解説していきます。
イグジットの機会が生まれる
バイアウトファンドからの投資を受けることで、対象企業にとってはイグジットが実現する可能性が高くなります。
イグジットとは投資回収のことを指すM&A用語で、債務超過や経営不振に陥っている企業がM&Aによってイグジットできることは、まずあり得ません。
しかしバイアウトファンドは、将来的な売却を前提に企業を買収するため、もともとは赤字企業であったとしても、バイアウトによりイグジットできる可能性が高くなるのです。
事業承継ができる
後継者不在に悩む経営者にとって、バイアウトファンドは一時的な会社の引き継ぎ相手としても機能します。
大半のバイアウトファンドでは、事業承継を目的としたバイアウトも行っており、ファンドによるバリューアップが完了した後に後継者やほかの企業に売却することで、通常のM&Aよりも高い売却価格での事業承継が実現することが期待できます。
スピーディに事業再生を進められる
展開している事業が伸び悩み企業成長が鈍化しているとき、バイアウトはそのような状況を打破する有効な手段となります。
バイアウトファンドにより派遣される、企業経営や財務、展開している事業に関する高い専門知識やノウハウを持った人々が直接経営に関与するため、スピーディに事業再生を進めていくことができるのです。
加えて、バイアウトファンドからは資金面での支援も受けられるため、社内リソースだけでは業績回復を達成することが難しい状況下にある企業でも、経営の立て直しを図ることができます。
カーブアウトが行える
バイアウトファンドが組織再編のためにカーブアウトすることを選択した場合、対象企業はそれまで抱えていた不採算事業を切り離すことができます。
企業が一部の事業や子会社を切り離し、新会社として独立させることで事業成長を図る手法である「カーブアウト」は、事業を切り出す側の親会社にもメリットが大きい経営戦略の1つです。
まず、カーブアウトにより不採算事業を切り離すことで、中核事業に社内のリソースをより多く集中することができるようになり、事業ポートフォリオの改善が期待できます。
その一方で、切り離した事業を展開する新会社では、バイアウトファンドから派遣されたエキスパートたちが立て直しを図り、企業価値を高めた後に高値で売却することが可能です。
関連記事:バイアウトのすべて〜目的からメリット・デメリット、事例まで解説〜
バイアウト投資を受けるデメリット
バイアウト投資にはいくつものメリットがある一方で、理解しておくべきデメリットも存在しています。
ここからは、バイアウト投資を受けることで考えられる3つのデメリットについて解説していきます。
企業価値を安く見積られるおそれがある
バイアウトファンドの目的は、安く買収した企業を高値で売却し、より多くの差益を獲得することにあるため、本来の企業価値よりも安い買収価格が提示されるおそれがあります。
債務超過や業績不振が続いている経営状態にあったとしても、特許取得技術などの優れた独自ノウハウや高いブランド価値は、企業の価値評価に反映されるべき要素ですので、場合によっては市場相場よりも高値での売却も可能になるかもしれません。
多くのファンドは正当な企業価値の評価に基づき買収価格を算定しますが、中には適正な買収価格よりも安く買い取ろうとするファンドも存在していることには注意が必要です。
企業価値の評価は、さまざまな要素を掛け合わせて行うため高い専門知識や実績が求められる難しいプロセスです。しかし、「自社の財産がどのくらいに値するのか」また「評価に影響を与える財産は何なのか」といった点をあらかじめ確認しておくことで、このようなリスクは回避することができるでしょう。
経営方針が変わりやすい
バイアウトファンドが買収した企業の経営は、ファンドから派遣された人々が主体となって改革・改善を進めていくため、従来の経営方針から大きく会社の方向性が変わる可能性があります。
ファンドとしては、できるだけ短期間で企業価値を高めて売却したいという思いがあるため、ときには対象企業の経営者や従業員が強行的と感じるような形でハンズオンが進むことも考えられます。
そのため、ハンズオンによるバリューアップは、元々の経営陣との間にズレや軋轢が生じやすいという側面を持っていることをあらかじめ理解しておくことが、円滑なバイアウトを進めるうえでは大切なポイントです。
経営権を失う可能性がある
バイアウトファンドにより企業価値が向上した企業が売却される際、M&Aの手法によっては元の経営者が持っていた経営権を手放さなければならなくなる可能性があります。
企業の売却に際しては、第三者が対象企業の株式を経営権を行使できる割合で保有することになります。
元の経営者が経営権を握ったままM&Aが行われることはまずあり得ないので、経営者自身が自社の再建後も経営者として残りたい場合、バイアウト投資を受けることは得策ではないと考えられます。
バイアウトが進められていく中で経営権を巡るトラブルに発展しないためにも、この点については慎重に検討したうえで、ファンドへ投資を依頼することをおすすめします。
バイアウト投資成功のためにおさえておくべき3つのポイント
バイアウト投資では、成功させるためにおさえておくべき3つのポイントがあります。
- バイアウトを前提として経営戦略を立てる
- 自社の評価価値を把握する
- バイアウトの専門家のサポートを受ける
それぞれのポイントについて詳しくみていきましょう。
バイアウトを前提として経営戦略を立てる
起業時や起業からなるべく早い段階で、将来的なバイアウトを想定した経営戦略を実施していくことで、有利にバイアウトする準備を着実に進めることができます。
これはバイアウト投資の対象となる会社の価値が、過去と未来の双方向に対し長期的な視点で評価されることから、コツコツと企業価値を高めておくことで、いざバイアウトされるときに高い価値がある会社だと評価されやすくなるためです。
バイアウトする具体的なタイミングが決まっていないとしても、日ごろから企業価値を高める経営を意識して進めておくことで市場評価や収益性が高まり、その積み重ねの結果としてバイアウト時に高評価を獲得することができます。
自社の企業価値を正しく把握する
自社の企業価値を正しく把握しておくことは、正当な価格での買収の実現につながります。
先述のとおり、一部のファンドやM&A仲介会社によっては、不当に安い価格で買収されてしまう可能性があるためです。
企業の価値はさまざまな視点を用いた複合的な評価によって決まるため、評価対象となるポイントや自社の強み・弱みなど、客観的にみた自社の価値と評価軸を把握することで、計画的にバイアウトの準備を進めることができます。
そして、買収額を決定するときにも、提示額の正当性をある程度検証することができ、不利益な取引を回避することができます。
バイアウトの専門家のサポートを受ける
バイアウト投資では、対象となる会社の価値評価やクロージングまでの具体的なスケジューリングと戦略策定など、M&Aだけでなく投資や経営などに関する幅広い知見と経験が求められる場面が多くあるため、専門家のサポートを受けながら進めていくことをおすすめします。
先述のバイアウトファンドが、直接的に経営改善と企業価値向上に関与して高い売却益を獲得することを目的としたバイアウトのエキスパート集団であるのに対し、M&A仲介会社は、M&Aの専門家ならではの視点から適宜進行をサポートしてくれる実践的なコンサルタント集団です。
いずれにせよ、信頼できる有力なパートナーを獲得することによりバイアウト投資はさらに成功に近づくため、一度相談してみるとよいでしょう。
まとめ
バイアウト投資は、バイアウトファンドが直接的に買収した企業の経営に関与して、事業再生・経営再建を図ることから、効率的かつ迅速なバリューアップが期待できる投資手法です。
投資を受ける企業にとっては事業承継や企業成長の加速化などの数々のメリットが期待できる一方で、外部の人間によるハンズオンや売却方法を巡っては、対象企業側の意向にそぐわない形で進んでいく可能性もゼロではありません。
バイアウトファンドには投資した企業の売却による利益の獲得が一義的な目的であり、ボランティアで企業のバリューアップをしているのではないということは、投資を受ける企業側もしっかりと理解しておくことが、バイアウトを成功に導く大きな鍵となります。
そのためバイアウト投資を受けることを検討している場合は、まず専門家に相談し、自身の意向や希望条件を伝えたうえでバイアウト投資が適切な選択肢であるか否かを検討することをおすすめします。
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