このページのまとめ
- 会社分割で不動産の移転が伴う場合、不動産取得税が課税されることがある
- 会社分割の際、不動産取得税の税率は原則4%だが軽減税率措置がある
- 会社分割で不動産取得税が非課税になる要件は分社型分割で4つ、分割型分割で5つ
- 会社分割では不動産取得税のほかに、登録免許税がかかる
「会社分割では不動産取得税がかかる?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
会社分割において不動産の移転がある場合、不動産取得税が課税されることがあります。しかし、非課税要件を満たす場合は支払い義務が発生しません。
この記事では、会社分割における不動産取得税の概要や計算方法、非課税要件について解説します。
そのほか、会社分割にともなって発生しうる登録免許税についても紹介するので参考にしてください。
目次
会社分割における不動産取得税とは
会社分割を行う際、手続きに不動産の移転が含まれていると、不動産取得税を課されます。
不動産取得税が課されるのは、不動産を取得した側です。
不動産取得税は、不動産の取得における取引が有償であったか無償であったかにかかわらず課税される税金です。
課税額の算出根拠となる課税標準額は、不自治体によって作成された固定資産課税台帳に記載された金額(取得した不動産の価格)となります。
会社分割とは
会社分割はM&Aのスキームの一種で、会社が持っている事業の一部あるいは全部を切り離し、他の法人や、新しく設立した法人に承継させる方法です。
会社分割においては、事業を分割する会社を「分割会社」、事業の分割を受ける会社を「承継会社」と呼びます。
元々存在する法人が承継会社になるケースは「吸収分割」、新しく設立した会社が承継会社になるケースは「新設分割」といいます。
また会社分割では、分割会社側が分割の対価を受け取れます。
分割会社が会社として対価を受け取るケースが「分社型分割」、分割会社の株主が受け取るケースが「分割型分割」です。
会社分割は、この「吸収分割か新設分割か」、そして「分社型分割か分割型分割か」の4種類に分けられるといえます。
会社分割には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット | デメリット |
・買収資金が不要である ・事業の一部を売買できる ・M&Aのなかで税負担が比較的軽い ・手続き関係の負担が比較的軽い ・承継会社は自社の関連事業を引き継げるためシナジー効果が出やすい | ・分割会社の債務も引き継がなくてはならない ・承継会社の株価が下落する可能性がある ・承継会社の株主構成が変化する可能性がある ・株主総会で特別決議を開催し3分の2以上の賛成を獲得しなければならない |
会社分割は、M&Aのなかでは比較的手続きがシンプルである点がメリットです。
また、事業を買い取りますが消費税の課税対象ではありません。軽い負担で組織再編ができ、早期のシナジー効果も期待できる方法です。
一方で、分割会社側に事業で債務を抱えていた場合は、承継会社が事業ごと引き継ぐなど、デメリットもあります。
メリットとデメリットを総合的に判断し、利益の出る形でM&Aに踏み切ることが重要です。
不動産取得税とは
不動産取得税は、何らかの形で不動産を取得した場合にかかってくる地方税です。
会社分割においては、分割したことによって不動産の所有権が移転する場合に課税が発生し、新しく不動産を所有する側が不動産取得税を納めます。
また、不動産取得税の課税回数は、不動産を取得したときの1回限りです。
なお、会社分割においては一定の条件を満たせば不動産取得税が非課税となるケースもあります。詳細は後述します。
不動産取得税を支払うタイミング
不動産取得税を支払うタイミングは、各自治体で違うため注意が必要です。
納税通知書が届いてから慌てないよう、税額の目安を算出し、把握しておくとよいでしょう。
不動産の移転が完了したら、まずは納税通知書が届くのを待ちます。納税通知書が到着するまでは移転から4~6ヶ月かかることが一般的です。
納税の期限は、納税通知書に記載されています。
多くの場合、納税通知書が届いてから1ヶ月前後が期限ですが、納税通知書を発行する地方自治体によって異なるため、記載内容を都度確認してください。
関連記事:会社分割とは?事業譲渡との違いや実施方法、ポイントを解説
会社分割における不動産取得税の計算方法
会社分割における不動産取得税の計算方法は、以下の式であらわすことができます。
不動産取得税額=課税標準額×税率4% |
課税標準額とは、固定資産課税台帳に記載されている金額(取得した不動産の価格)のことです。
また、土地と住宅に関しては、2024年3月31日までの期間、軽減税率が適用されることが決まっています。
軽減税率が適用される場合、税率は3%となり、さらに宅地評価されている土地は正規の課税標準額の2分の1として計算が可能です。
また、建物部分は課税標準額から一定の控除金額を差し引いて税額を計算できます。「一定の控除金額」とは、新築住宅物件の場合は1,200万円です。中古の住宅物件の場合は地方自治体によって控除額が違います。
したがって軽減税率を適用した場合、新築物件が建てられた土地建物の不動産取得税は、以下の式で算出することができます。
土地部分の不動産取得税額=(課税標準額÷2)×3% 建物部分の不動産取得税額=(課税標準額-1,200万)×3% ※最終的な納税額は上記2つの合計金額です |
条件によって税率や控除額、課税標準額が変わってくるため、それぞれのケースに合わせて計算を行ってください。
会社分割の際の不動産取得税が非課税になる要件
会社分割の際、要件を満たせば不動産取得税が非課税になるケースもあります。
ここでは、会社分割において不動産取得税が非課税になる要件を紹介します。
- 分割対価要件
- 主要資産等引継要件
- 移転事業継続要件
- 従業者引継要件
- 按分型要件
非課税要件は上記の5つです。
分社型分割にあたる会社分割を行う場合は、1~4の要件をすべて満たす必要があります。
分割型分割に該当する場合は、1~5の要件をすべてを満たすと不動産取得税が非課税になります。
以下で、それぞれの非課税要件について詳しく解説します。
1.分割対価要件
会社分割を行った際に、分割会社が承継会社から事業分割・譲渡の対価を受け取ります。
このとき、対価として受け取るものを承継会社の株式だけに限定することが、不動産取得税の非課税要件です。
株式以外のものを対価とした場合は、不動産取得税の非課税要件にあてはまりません。
2.主要資産等引継要件
分割事業が保有する主要な資産と負債が承継会社に引き継がれていることが、不動産取得税の非課税要件の一つです。
資産だけでなく、負債も移転されている必要があります。
3.移転事業継続要件
会社分割では分割会社が分割事業を手放し、承継会社がこれを引き継ぎます。
不動産取得税を非課税にするためには、承継会社が事業を引き継いだ後、引き続き運営されることが必要です。
4.従業者引継要件
分割会社で当該事業に従事していた従業者のうち、約80%以上が承継会社に移籍し引き続き分割事業に従事することが、不動産取得税の非課税要件です。
「従業者」にどこまでを含むかは法人によって異なるので、定義を確認する必要があります。
5.按分型要件
按分型要件は、会社分割が分割型分割にあたる場合にのみ、満たす必要がある非課税要件です。
分割型分割では会社分割の際、承継会社から分割会社の株主へ向けて、分割の対価として承継会社の株が交付されます。
按分型要件を満たすためには、元々株主が保有していた分割会社の株数を参照し、保有割合に応じて、新たに交付する承継会社の株数を決定する方法をとることが必要です。
会社分割で不動産取得税が課税されるケース
不動産取得税が課税される会社分割のケースもあります。
不動産取得税が課税されるのは以下のようなケースです。
- 非課税要件を満たしていない場合
- 各都道府県が定める非課税要件に当てはまらない場合
- 賃貸に出している不動産を、借主に名義移転した場合
- 承継会社に名義移転した後、賃貸に出す場合
定められた非課税要件を1つでも満たしていない場合は、課税対象になります。
また、事業内容や従業者の範囲などについては各都道府県の判断によることがあるので、要件を満たしていないとみなされる可能性があります。
そのほか、企業として賃貸に出していた不動産を、会社分割を機に借主へと名義変更する場合、不動産が承継会社のものとなるわけではないので、分割事業とは無関係とみなされ課税対象となります。同様に、承継会社に名義変更したとしても、その不動産を新たに賃貸に出す場合は分割事業に用いられるわけではないため、課税対象です。
会社分割で不動産取得税の非課税を申請する書類
会社分割で不動産取得税の非課税を申請するためには、さまざまな書類が必要です。
ここでは非課税申請のために必要な書類をリスト形式で紹介します。
必要な提出書類 | 書類の概要 |
不動産取得税非課税申告書 | 不動産取得税を非課税とする旨を申請するための申請書です。該当する不動産について、用途や明細などを記載し、非課税の理由を申告します。 |
分割について承認または同意があったことを証する書類(分割会社の株主総会議事録や取締役会議事録など) | 分割会社の側で、会社分割にあたり相応の承認・同意が得られていることを証明する書類です。 |
分割計画書 | 新設分割の場合に用意する書類です。会社分割の内容が記されています。 |
分割契約書 | 吸収分割の場合に用意する書類です。会社分割の内容が記されています。 |
履歴事項全部証明書 | 分割会社と承継会社双方の、法務局における会社情報の登録書類です。 |
定款 | 分割会社と承継会社、双方の定款(会社の基本情報、規則などを掲載した書類)です。 |
分割法人から承継する権利義務に関する事項について確認できる書類(貸借対照表や承継権利義務明細表など) | 分割会社から承継会社へ、資産が移転していることが明確に分かる書類です。 |
分割事業にかかる従業員の中で分割承継法人に従事する人数が確認できる書類(雇用契約書や従業員名簿など) | 従業員の80%以上が承継会社における事業に引き継がれているかを確認できる書類です。 |
提出書類は原本ではなく、写しでも構いません。
ただし場合によっては原本を確認されることや、追加書類の提出を求められることがあります。
会社分割で不動産を取得する際は登録免許税もかかる
会社分割における不動産取得にあたっては、不動産取得税のほかに登録免許税がかかります。
登録免許税とは、登記に伴って支払うことが義務付けられている国税です。
不動産に限らず、資産の権利に何らかの移転・変更があった場合に登録免許税が課されます。
会社分割において発生する登録免許税は、法人登記と不動産登記の2種類です。
それぞれについて解説します。
法人登記でかかる登録免許税
会社分割では、法人登記にあたって登録免許税がかかります。
法人登記は承継会社と分割会社、どちらの立場であっても必要です。
それぞれにかかる登録免許税は以下のとおりです。
登録免許税 | 補足 | |
分割会社 | 一律3万円 | – |
吸収分割の承継会社 | ・資本金の増加がない場合は3万円 ・資本金の増加がある場合は「増加分の資本金額×0.7%」 | 資本金の増加がある場合も、計算の結果が3万円未満であれば3万円 |
新設分割の新設会社(承継会社) | 「新設会社の資本金額×0.7%」 | 計算の結果が3万円未満であれば3万円 |
分割会社側が支払う法人登記の登録免許税は一律3万円と定められています。
一方、承継会社および新設会社が納める法人登記の登録免許税は変動する可能性があります。
法人登記でかかる登録免許税の計算例
たとえば、承継会社の資本金が会社分割の吸収分割によって1,000万円増加した場合、登録免許税の計算は以下のとおりです。
1,000万×0.7%=7万
したがってこの場合、7万円が登録免許税となります。
不動産登記でかかる登録免許税
会社分割において不動産の移転がともなうケースでは不動産登記が必要になり、登録免許税がかかります。
税率は、不動産の固定資産税評価額の2%と定められています。
不動産登記でかかる登録免許税の計算例
たとえば、移転した不動産の固定資産税評価額が1,000万円だった場合、登録免許税の計算は以下のとおりです。
1,000万×2%=20万
したがってこの場合、20万円が登録免許税となります。
まとめ
会社分割で不動産の移転があった場合、不動産取得税がかかることを想定しておきましょう。
ただし不動産取得税に関しては、非課税要件に該当すれば不要になります。
自社が行う会社分割が要件を満たしているのかどうか確認しましょう。また、要件を満たしている場合はこのコラムを参考にして必要書類を準備し、提出してください。
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