このページのまとめ
- 劣後ローンは、他の債権よりも返済の優先順位が低く、資本強化に活用できる
- 劣後ローンは、金融機関との取り決めや返済条件が厳しく、金利が高いデメリットがある
- 契約時には金利の交渉や償還(返済)条件の確認、他の債務への影響を考える必要がある
- 劣後ローンは、適切に活用すれば企業の成長を支える強力なツールとなる
資金調達は、ビジネスの成長や継続のための重要なステップです。しかし、従来の融資方法だけでは、多くの経営者が返済に対して求めている条件・柔軟性を満たすことが困難な場合もあります。そこで注目されているのが「劣後ローン」です。本稿では、劣後ローンの基本的な知識から、メリット・デメリット、そして実際の効果や対策について詳しく解説します。
目次
劣後ローンとは
劣後ローンとは、企業が資本融資として金融機関から受ける特殊な性質を持つローンです。その主な特徴は、返済優先度が低く、元金の一括返済が特徴であること、そして自己資本の一部と見なされることです。
これらの特性により、劣後ローンは他の一般的な借入金と異なり、財務指標の悪化を回避することが可能です。以下では、これらの特徴について解説し、なぜ劣後ローンが経営者に注目されているのかを明らかにします。
劣後ローンの定義と特徴
劣後ローンは、企業が資本融資として金融機関から受けるローンの一種です。資本融資なので負債でなく資本と見なされる借入金であり、通常の事業ローンとは異なる返済条件を持ちます。償還(返済)時に他の債権よりも優先順位が低いことから「劣後」と称されます。主に成長企業や資本基盤を強化したい中小企業が活用している点が特徴的です。
他のローンや債権との違い
劣後ローンは、他のローンや債券と比較して、主に以下の3つの特徴があります。
- 返済優先度が低い
- 元金の一括返済が特徴である
- 自己資本の一部と見なされる
返済優先度は、劣後ローンの制度上、他の債権に比べ返済が猶予されます。例えば、破産時や財務危機時に返済順位が下がります。劣後ローンは約定劣後的破産債権に該当し、破産債権は返済の4区分ある優先順返済順位が最も低い4番目です。
破産債権は返済の4区分とは、以下の4つです。
- 税金や社会保険料、給与などが該当する優先的破産債権
- 金融機関からの借入れや買掛金が該当する一般の破産債権
- 破産手続き開始後の利息や損害金が該当する劣後的破産債権
- 劣後ローンや劣後債が該当する約定劣後的破産債権
元金一括返済とは、借入期間中の返済は利息分のみで、元金は返済期日に一括返済(償還)となります。
貸借対照表では自己資本の一部と見なされます。財務状況改善のために資本を増やす目的で利用されることから、資本性劣後ローンとも呼ばれます。資本が増えているため、本来は借入金でありながら、真水の資金を確保した形式に見えます。
なぜ「劣後ローン」が経営者に注目されているのか
資本融資の拡大や事業支援を図る場合、劣後ローンを採用すれば金融機関からの信頼を得られる可能性が高まります。理由は、劣後ローンが自己資本として計上されるため、負債比率の上昇を防ぎ、財務指標が改善されると評価されるからです。この結果、「資本が増強され、財務状況の改善がみられる」と金融機関から評価されます。
また、劣後ローンを活用して資金繰りを改善するメリットは、通常のローンに比べて返済の圧迫が少なく、資金の流動性が向上する点です。流動性の向上とは、資産や資本が効率的に移動しやすい状態を作ることを指します。
以上のように、経営状態を安定化させ調達資金の容易化や成長投資を促進できることが、劣後ローンが経営者に注目される理由です。
例えば、ワタミの居酒屋事業は、新型コロナウイルスの感染拡大による時短営業などで売上げの低迷が続いていました。そこで劣後ローンを活用して財務状態を改善し、通常融資を受けることで100億円以上の借入れに成功しました。これにより、財務悪化を招くことなく、資金調達を行うことができました。
※参照元:
日本経済新聞「ワタミ、劣後ローン30億円調達 居酒屋の3割業態転換」
日本経済新聞「ワタミに資本支援100億円 政投銀、コロナ対策新制度で」
劣後ローンのメリットと実際の効果
ワタミの事例のように、100億円以上の借入れが可能になるほど、劣後ローンには経営者にとって大きな効果があります。
ここでは、劣後ローンのメリットと実際の効果について詳しくみていきましょう。
劣後ローンの主なメリット
劣後ローンの主なメリットは以下の通りです。
- 金融機関からの信頼性向上
- 資金繰り改善
- 財務指標の改善
金融機関からの信頼性向上
劣後ローンを利用することで、金融機関から信頼を得られる可能性が高まります。これは、劣後ローンが金融機関から自己資本の一部として見なされるためです。その結果、通常の融資も受けやすくなります。
資金繰り改善
劣後ローンは返済の優先順位が低いため、一時的な資金繰りの改善や、事業の成長に必要な資金を確保することが可能です。
財務指標の改善
劣後ローンは自己資本の一部として計上されます。そのため、利用しても負債が増えて自己資本比率が悪化することはありません。劣後ローンによって、自己資本比率は改善または向上します。
劣後ローンを活用した効果
劣後ローンを活用することで、以下のような効果が期待できます。
- 株式の希薄化を抑える
- 財務健全性が高まる
- 金融機関からの融資が受けやすくなる
- 債務超過の解消につながる
- 長い期間元金の返済がない
劣後ローンは、新株発行による株主の所有比率低下を避けつつ資金を得る方法です。自己資本のように扱われることで会社の財務状態を良く見せ、金融機関からの信頼を得やすくします。元本は最後に一括返済のため、利息の返済を滞りなく続ける限り融資を受けることができます。
劣後ローンのデメリットと対策
劣後ローンの活用は、デメリットやリスクを理解したうえで、計画的に戦略を練りましょう。ここでは、主なデメリットやリスク、デメリットを最小限に抑える具体的な方法を紹介します。
劣後ローンの主なデメリットとリスク
劣後ローンの主なデメリットとリスクは以下の通りです。
- 金融機関との取り決めや返済条件が厳しい
- 経営上のリスクや負担の増加
- 金利が高い
金融機関との取り決めや返済条件が厳しい
劣後ローンは、制度の特性から、他の債権に比べて倒産時は返済が猶予されます。その反面、金融機関との取り決めや審査、返済条件は通常のローンよりも厳しくなるのが一般的です。
経営上のリスクや負担の増加
劣後ローンのデメリットとして、経営上のリスクや負担の増加が挙げられます。具体的には、経営状況が悪化した場合、劣後ローンの返済によりさらに財務が圧迫される可能性があります。これは、劣後ローンが他の債権よりも返済の優先順位が低いため、他の債権を全て返済した後でなければ返済できないためです。
金利が高い
劣後ローンの金利は、企業の財務状況により変動します。通常、黒字の企業では回収リスクが大きいため、金融機関は高い金利を設定することが一般的です。劣後ローンは、返済の優先順位が低いことから、金融機関が貸し出しのリスクを補償する必要性を表しています。一方、赤字の企業では、そのリスクが低くなるため、金利は比較的低く設定される傾向があります。
デメリットを最小限に抑えるための具体的な方法
デメリットを最小限に抑えるための具体的な方法は以下の通りです。
- 返済計画の見直しや交渉
- 他の金融商品との組み合わせ
- 金融機関との長期的な信頼関係の構築
返済計画の見直しや交渉
事前に金融機関との細かい取り決めを確認し、自社の財務状況と合わせて最適な返済計画を策定することが重要です。
他の金融商品との組み合わせ
劣後ローンの金利が高い場合、他の低金利の融資と組み合わせることで平均金利を下げる戦略が有効です。
金融機関との長期的な信頼関係の構築
定期的な情報提供や透明性の確保を通じて、金融機関との関係を深化させることを心がけましょう。より有利な条件の劣後ローンを獲得するチャンスが増えます。
劣後ローンの契約時の注意点
劣後ローンは通常の融資とは異なるため、注意しなければならない点があります。金利や返済条件の確認の他、既存融資に与える影響も確認しておきましょう。ここでは、劣後ローンの契約時における注意点をまとめます。
金利の交渉
劣後ローンの金利は、通常の融資とは異なり業績や内容により決まります。業績次第では毎年見直しとなります。まず、市場金利との比較や適正なレベルの確認をしましょう。同業種や同規模企業の最近の劣後ローンの平均金利を調査し、それを基に金融機関との交渉を行います。
その際、事業計画や将来性を明確にプレゼンテーションし、金利の引き下げ交渉に臨むことが重要です。他社の劣後ローン取得事例を参考にすることで有益な情報が得られるでしょう。
償還条件の確認
早期返済の条件やペナルティの存在も確認しましょう。特に、返済の自由度を高めるためには、早期返済時のペナルティを明確にすることが欠かせません。また、事業状況や収益性に応じた条件をどう選択するか、慎重に検討する必要があります。
まず、予想されるキャッシュフローをもとに、最適な返済スケジュールを組みます。その上で、連動条項や業績に基づく返済条件を精査します。業績が一定以上向上した際に利率がどれだけ上がるかや、業績が悪化した際に利率がどれだけ軽減されるかなどの条項を確認しましょう。
他の債務との関係や影響の確認
既存の債務や他の金融商品との連携を考慮することが重要です。具体的には、劣後ローンと他の融資返済スケジュールの重複、資金調達の全体的なバランスの確認です。短期・中期・長期の資金ニーズを総合的に考慮し、各種融資の組み合わせを最適化することが求められます。
他の融資の担保や保証に関する影響も考慮する必要があります。劣後ローンの取得が既存の融資の条件に影響を及ぼさないか、特に担保や保証の条件を確認することが不可欠です。なお劣後ローンは貸借対照表では「資本」に含まれ、金融機関も「資本」と見なしますが、税務・会計では「債務・借入金」として取り扱います。
新たに劣後ローンを締結するのではなく、すでにある金融機関からの借入れを「資本性ローン」に変更する場合、金融機関は法人税法上の取り扱いにより、貸倒処理が必要なことに注意しましょう。
関連記事:資金調達とは?6種類の方法のメリット・デメリット、融資以外の方法を解説
まとめ
本稿では、劣後ローンの定義、特徴、メリット、デメリット、そして契約時の注意点について解説しました。劣後ローンは、他の債権よりも返済の優先順位が低いという特性を持つ一方で、資本強化や事業支援において重要な役割を果たします。
しかし、金融機関との取り決めや返済条件の厳しさ、金利が高いといったデメリットも存在します。劣後ローンを活用する際には、これらの点を考慮し、適切な返済計画を策定することが重要です。
契約時には金利の交渉や償還条件の確認、他の債務との関係や影響を慎重に考える必要があります。
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