このページのまとめ
- 非上場株式とは、証券取引所を通じて公開されていない株式のこと
- 株式譲渡とは、企業が保有している株式を第三者に売却することで経営権を譲渡する手法
- 非上場株式は譲渡できないイメージを持つ方もいるが、非上場株式の譲渡は可能
- 非上場株式の譲渡金額は、売り手と買い手の双方の立場からの要素を考慮し交渉で決まる
- 非上場株式の譲渡金額を税法基準と乖離した金額で売却すると想定外の課税が生じ得る
非上場株式の譲渡は、保有している非上場株式を第三者に売却することで、経営権を譲渡する手法です。非上場株式は譲渡できないのかと疑問に思う方もいるかもしれませんが、実際には非上場株式の譲渡は可能です。本稿では、非上場株式の譲渡について、メリット・デメリットや注意点、税金について詳しく解説します。非上場株式の譲渡を成功させるためのポイントを押さえましょう。
目次
非上場株式の譲渡
まず、非上場株式とはなにか、株式譲渡とはどのような手法なのかを解説します。
非上場株式とは
非上場株式とは、証券取引所を通じて公開されていない株式のことです。上場株式は一般の投資家が取引できる株式ですが、非上場株式は限られた人にしか取引が認められていません。中小企業や非上場企業の経営者や役員、親族などが所有していることが一般的です。
株式譲渡とは
株式譲渡とは、企業が保有している株式を第三者に売却することで、経営権を譲渡する手法です。株式を買収する側は、その対価として売却する企業に現金を支払います。
譲渡される株式の数によって、取得した権限が変動する点が特徴です。例えば、全株式の過半数を所持すると、会社の重要な意思決定事項を一人で決定できます。また、株式の所有率が基本的には3分の2を超えると、より強力な権限を持てるようになります。
株式譲渡は通常、非上場企業の経営権を完全に失うことが想定されている方法です。
非上場株式の譲渡は可能か
「非上場だから株式を譲渡できないのか」という疑問を持つ方もいるかもしれませんが、実際には非上場株式の譲渡は可能です。相続や事業承継以外の目的でも、非上場株式は譲渡できます。
非上場株式の譲渡が行われる理由
非上場株式の譲渡はなぜ行われるのか、その理由として主に以下の4つが考えられます。
- 事業承継
- 経営の先行き不安
- 創業者のイグジット
- 大規模な資金調達や経営ノウハウの獲得
1. 事業承継
少子高齢化により、事業承継のための後継者が見つからない企業が増えています。後継者がいなければ、廃業せざるを得ません。廃業になれば、従業員や取引先に迷惑をかけるおそれがあるため、非上場企業も事業を継続するためには他社に譲渡する必要が出てきます。
2. 経営の先行き不安
国内市場の競争激化により、非上場の中小企業は生き残りが困難な状況です。非上場の中小企業にとって経営資源が限られていることは深刻な課題となっています。この課題を解決する手段として、株式譲渡が検討されるケースがあります。
非上場株式の譲渡は、企業の存続を支えるための重要な選択肢の一つです。
3. 創業者のイグジット
創業者は基本的に、創業時に自己資金を出資しているケースが多いです。その際に保有した株式が成長によって価値が高まるため、特定のタイミングで株式を売却することで大幅な利益を得ることが可能となります。
これを一般的にイグジットと呼び、イグジットによる利益獲得を狙って創業する経営者も多く存在します。したがって、非上場株式が譲渡される目的の一つに、イグジットによる利益獲得が挙げられます。
関連記事:イグジットの意味とは?各手法のメリット・デメリットと成功ポイントを解説
4. 大規模な資金調達や経営ノウハウの獲得
スタートアップ企業が成長資金を獲得するために、投資を募って資金を調達するケースは少なくありません。
この際に銀行のように融資によって貸付を行う場合もあれば、ファンドやCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)などに出資をしてもらう場合も挙げられます。非上場株式を有するスタートアップ企業などは、出資の対価として自社の株式を譲渡する形となります。
このような出資元となるファンドやCVCは、一般的に対象企業とシナジーのあるケイパビリティや経営ノウハウを有しており、譲渡後に経営へ参画することもあります。そのため、単なる資金調達だけでなく、経営ノウハウの獲得なども期待して非上場株の株式譲渡を行うことも想定されるでしょう。
関連記事:資金調達とは?6種類の方法のメリット・デメリット、融資以外の方法を解説
非上場株式の株式譲渡のメリット
非上場株式の株式譲渡のメリットとして、主には以下の3点が挙げられます。
- 資金調達ができる
- 税金の負担が軽減できる可能性がある
- 後継者不足の解決になる場合がある
1. 資金調達ができる
非上場株式を売却することで、資金の獲得ができます。成長が期待される企業の場合、株式は高値で取引されるケースも少なくありません。非上場株式を売却して得た資金は、新規事業や既存の別事業、または老後の資金などに活用できます。
2. 税金の負担が軽減できる可能性がある
非上場株式の売却は、相続に比べて税金負担を軽減できる場合があります。
国のHPによると、相続税は最大で55%の税率がかかる一方(国税庁「相続税の税率」)、株式譲渡は個人で20%程度(国税庁「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」)、法人で30%程度の税率が適用されます(財務省「法人課税に関する基本的な資料」)。
ただし、非上場株式の金額によっては、相続税の税率のほうが低い場合もあるため注意してください。
参照元:
国税庁「相続税の税率」
国税庁「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
財務省「法人課税に関する基本的な資料」
3. 後継者不足の解決になる場合がある
先述したとおり、経営者の後継者問題は大きな課題です。少子高齢化により、後継者を見つけることが難しくなっています。非上場株式の売却で親族以外の後継者に株式を譲渡することで、後継者問題を解決できます。
非上場株式の株式譲渡のデメリット
一方で、非上場企業の株式譲渡には以下のようなデメリットもあります。
- すべての資産や負債を引き継ぐ必要がある
- M&A成約の段階で重要な情報が明らかになることがある
- 譲渡価格が不透明で合意が困難になるおそれがある
1. すべての資産や負債を引き継ぐ必要がある
株式譲渡は株式名簿の書き換えを伴うため、会社の持つすべての資産や負債を譲渡相手が引き継ぐことになります。「この資産だけは残しておきたい」という希望があっても、株式譲渡を選択すると、その希望は叶えられないのが通常です。
また、買い手側も株式譲渡によって、簿外債務と呼ばれる訴訟や債務を抱えるリスクを引き継がなければなりません。通常、M&Aの前にはデューデリジェンスと呼ばれる詳細な調査が行われ、リスクを洗い出しますが、それでも見落としてしまうおそれがあります。
2. M&A成約の段階で重要な情報が明らかになることがある
売り手企業がM&Aの成約を優先して、重要な情報を隠す可能性があります。結果として、M&A契約後に、財務諸表に反映されていなかったり、共有されていなかったりするリスクを買い手側が発見するケースも見られます。
それによってトラブルが発生し、最悪の場合はM&A契約が破棄されたり、訴訟・賠償請求につながったりするおそれがあるでしょう。トラブルを防ぐために、売り手側は事前にリスクを洗い出し、すべての情報を隠さず共有して透明性を保つことが重要です。
3. 譲渡価格が不透明で合意が困難になるおそれがある
譲渡価格はさまざまなアプローチを用いて算定されますが、多くの非上場企業は今後の成長性が読みにくく、ベンチマーク企業も少ないため、評価が困難です。
そのため、譲渡価格には算定する側の主観や恣意性が強く反映されてしまいます。主観は売り手と買い手で異なるケースが多いことから、企業間の合意形成に時間を要することも少なくありません。
譲渡価格は売り手と買い手双方にとって非常に重要なポイントであるため、交渉は困難になる場合も多いです。
このようなケースでは、外部の中立的な専門家を用いて、客観的な視点を取り入れることが一つのポイントと言えるでしょう。ただし、専門家といってもM&Aには多くのタイプが存在するため、自社のニーズや予算に応じて適切な専門家を選定するよう留意してください。
関連記事:M&A・事業承継の専門家とは?それぞれの特徴や選ぶポイントなどを解説
非上場株式の株式譲渡の手続き
この章では非上場株式を譲渡する具体的な流れについて説明します。
非上場株式を譲渡する流れは以下の通りです。
- 少数株主がいる場合、その株式を集約する
- 株式の譲渡制限が設けられているかどうかを確認する
- 対象企業に対して承認を請求する
- 株主総会または取締役会で承認するかどうかを決める
- 法務局へ供託を行う
3の手続きで「株式譲渡承認請求書」が承認された場合と、承認されなかった場合で手続きが異なるため注意して確認をしておくと良いでしょう。
1.少数株主がいる場合、その株式を集約する
株式譲渡は基本的に、対象企業の株式を100%買い手企業に譲渡するため、既存の全ての株主との合意形成が欠かせません。
したがって、保有比率が数%以下の少数株主が存在すれば、個別にやり取りを行うことになります。しかしながら、多くの少数株主とのコミュニケーションはスケジュールの遅延や合意形成へのボトルネックとなる可能性があるため、事前に株式を集約しておくことがポイントです。
また、少数株主の事前集約に時間を要してしまうことが想定される場合には、強制的に大株主が少数株主の株式を買い取ってしまうスクイーズアウトなども手段となり得ます。スクイーズアウトを行うには、事前の準備や条件の確認が不可欠となり、かつ複雑な手続きを要するため専門家を活用することをおすすめします。
関連記事:スクイーズアウトとは|方法やスキーム、事例、注意点などを紹介
2.株式の譲渡制限が設けられているかどうかを確認する
まずは、株式の譲渡制限が設けられているかどうかを確認しましょう。
株式の譲渡制限は、企業の定款に規定されています。定款に「株主総会の承認を得なければ当社の株式を取得することはできない」といった項目が含まれているかどうかをチェックします。
中小企業では、しばしば会社の乗っ取り防止や、意図しない人物に株式が渡ることを避けるために、譲渡制限が設けられます。株式の譲渡を制限することで、経営に安定性を持たせる努力が行われています。
3.対象企業に対して承認を請求する
譲渡制限株式を譲渡する際には、対象企業に対して以下の情報を提供して、当該譲渡を承認するか否かの決定を請求できます。
- 譲渡する株式の数
- 株式を譲り受ける者の氏名または名称
4.株主総会または取締役会で承認するかどうかを決める
株主総会または取締役会での承認を決める流れとしては、譲渡希望者が株式譲渡承認請求書を提出し、株式譲渡承認請求書を受け取った企業が、原則として株主総会または取締役会を開催することになります。
取締役会が設置されている会社では取締役会が、それ以外の会社では株主総会が株式譲渡承認請求書の内容について審議し、承認するか否かを決定します。この承認の決定によって、今後の手続きの流れが変わります。
「株式譲渡承認請求書」が承認された場合
ここからは、株式譲渡承認請求書が承認された場合と、承認されなかった場合で手続きが異なります。
株式譲渡承認請求書が承認された場合には、株主と譲渡先との間で「株式譲渡契約書」を締結します。株式譲渡契約書には、譲渡についての詳細な内容が記載されます。
契約書の締結後、株式の譲渡が実行されます。
株主名簿の名義書換を請求する
株主が第三者に株式を譲渡した場合は、会社に対して株主名簿の記載事項を変更してもらう必要があります。この手続きを「名義書換請求」といいます。
株主名簿の記載事項を変更するためには、株主が会社に対して請求を行わなければなりません。会社は株主からの請求を受けて株主名簿を書き換えます。
株主名簿記載事項証明書の交付
株主名簿記載事項証明書には、会社の代表取締役が署名または記名押印する必要があります。この証明書は、株主の譲渡先などに提出する際に証明書としての役割を果たします。
「株式譲渡承認請求書」が不承認の場合
株式譲渡承認請求書が不承認となった場合は譲渡できないと考える方もいるかもしれませんが、譲渡自体は可能です。株式譲渡承認請求書に記載された相手への株式譲渡が認められない場合、譲渡を希望する株主には以下の選択肢があります。
株式譲渡の承認プロセス:会社が買い取る場合
会社が株式を買い取る場合、株主総会の特別決議によって対象株式を買い取る旨と、買い取る株式の種類と数を明確に決定します。「会社法」145条1号により、会社が譲渡等承認請求者より請求を受けてから14日以内に承認拒否通知をしなければ、譲渡は成立したものとみなされます(みなし承認)。
参照元:e-Gov「会社法」145条1号
株式譲渡の承認プロセス:指定買取人が買い取る場合
指定買取人をあらかじめ定款で指定することもできます。しかし、定款に指定がない場合は、株主総会の特別決議(取締役会設置会社の場合は取締役会決議)で指定買取人を決定しなければなりません。指定買取人は、指定を受けた場合には、以下の2点を譲渡等承認請求者に通知する必要があります。
- 指定買取人として指定を受けたこと
- 買い取る対象株式の種類と数
「会社法」145条2号により、この通知を受け取った日から10日以内に指定買取人が通知をしなかった場合、譲渡は承認されたものと見なされます。
参照元:e-Gov「会社法」145条2号
5.法務局へ供託を行う
株式譲渡承認請求書の承認の如何に関わらず、最後に供託を行います。
指定買取人または会社が株式の買取通知をする場合は、株式の価値に見合う金額を法務局に供託する必要があります。株式の価値に見合う金額は、会社の簿価純資産を発行済株総数で割った株価に譲渡株式数をかけて計算します。供託を証明する書面を交付し、会社は株式を買い取る旨を通知します。
譲渡等承認請求者が指定買取人または会社からの買取通知を受け取ったあと、株券発行会社の場合は所定の期間内に株券の供託をしなければ、株式会社は当該株式に係る売買契約を解除することが可能です。
非上場株式の譲渡価格の決定方法
この章では、非上場株式の譲渡価格の決定方法について解説します。
売り手と買い手の視点で金額交渉を行う
M&Aにおける株式の売却金額は、売り手企業と買い手企業の間で自由に決定されます。商品やサービスの価格決定と同様、売り手が希望する金額と買い手が希望する金額のバランスで決まっていきます。
売り手は高い価格で株式を売りたい一方、買い手は安い価格で買いたいと考えています。両者の希望金額をもとに交渉が行われ、合意に達した金額が最終的な売却金額となります。
ただし、すべて自由に決まるわけではありません。株式の売却金額は、M&Aにおける一般的なアプローチであるインカムアプローチやマーケットアプローチ、コストアプローチなどを考慮して決定されるのが通常です。
そのため、売り手と買い手の希望金額がかけ離れてしまうことは考えにくいものの、中小企業などM&A経験の少ない企業同士の場合は、金額が合わずに交渉が難航するケースもあります。
最終的な売却金額に関して、売り手と買い手の双方の立場からの要素を考慮し、交渉の過程で合意に達することになります。
M&Aにおける株式価格の算定方法
M&Aにおいて交渉のもととなる株式の価格を算定する際には、以下の方法が用いられます。
価格の査定方法 | 概要 | 算定方法例 |
1. インカムアプローチ | 対象の会社から期待される収益やキャッシュフローに注目して価値を算出する方法 | DCF法 |
2. マーケットアプローチ | 上場している同業他社との比較から価格を算出する方法 | マルチプル法 |
3. コストアプローチ | 対象会社の貸借対照表に記載されている「純資産」に注目して価値を算出する方法 | 時価純資産法 |
それぞれの具体的な計算例について、詳しく解説していきます。
DCF法
DCF法は将来のキャッシュフロー(CF)を予測し、「割引率」で現在価値に置き換えて株価を算定する方法です。
具体的な手順は以下のとおりです。
- 事業計画から将来の「フリーキャッシュフロー(FCF)」(=会社の利益)を推計
- 推計した「FCF」を「割引率」で割り引くことで、予測した将来のキャッシュフローを「現在の価値」に換算
- 2の計算をそれぞれの年で行い、それを足し合わせることで「株主価値」を算出
株価はフリーキャッシュフローや割引率によって大きく変動するため、実現可能性のある事業計画書をもとに適正に決定する必要があります。将来の業績を株価に反映できる手法であり、成長が期待される企業に向いています。
ただし、将来の業績は事業計画書をもとに推測されるため、楽観的な予測や恣意的な評価によって株価が大きく左右されるリスクがあることに留意が必要です。
マルチプル法
マルチプル法は、上場している同業他社の株価倍率(類似する上場企業の時価総額または事業価値を、税引後の純利益や簿価純資産、EBIT(利払前・税引前利益)などの財務数値で割る(除算)ことで「評価倍率」を算出)を参考にして株価を算定する方法です。
参考対象になる同業他社が非上場企業でも利用可能ですが、基本的には、実際に上場している企業の株価を基準に自社の株主価値を比較して算出します。
マルチプル法の大きなメリットは、客観性があることです。ただし、ビジネスモデルは企業ごとに異なるため、同業他社を見つけることが困難な場合もあります。
時価純資産法
時価純資産法は、会社の全資産と全負債を時価に修正したうえで純資産を算定し、株主価値を算定する手法です。
時価変動の大きな資産を持つ中小企業によく利用されます。現在の純資産を基準にしているため、納得感を得られる場合もありますが、負債が多い企業の場合は株価が過小評価される可能性があります。
簡易的に自社の価値を計算する方法
基本的にはデューデリジェンスを通し、上記のアプローチを複数組み合わせながら、交渉によって価格を決めていくことになります。
一方で、自社で簡易的に売却価格を見積もりたい場合などに、下記の計算式が参考となります。
- 10億円規模の売却の場合:時価純資産 + 営業利益1~5年分(コストアプローチ)
- 100億円規模の売却の場合:EBITDA × 類似企業のEV/EBITDA倍率 – 純有利子負債(マーケットアプローチ)
さらに詳しい解説については、それぞれ下記の記事をご参照ください。
関連記事:
10億円以上で会社売却する方法は?年商10億の企業価値も紹介
M&Aの売却価格の目安は?算定法や買収額をアップさせる方法を解説
税法上の非上場株式の評価方式
ここまでで、M&Aにおける一般的な非上場株式の評価方法を解説しましたが、税法上の非上場株式の評価方式についても押さえておきましょう。原則的なものが2つ(類似業種比準方式・純資産価額方式)、特例的なものが1つ(配当還元方式)定められています。
税法上の評価方式も、基本的には前章のアプローチと同じ考え方に基づいています。以下は、より具体的な方法として国税庁にて定められたものと理解しておきましょう。これらのケースが採用されるのは主に相続や贈与における株式譲渡であり、M&Aなどでは前章の方式を採ることが多くなります。
国税庁が定めている評価方式は以下のとおりです。
評価方式 |
特徴 |
類似業種比準方式 |
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純資産価額方式 |
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配当還元方式 |
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以下でそれぞれの評価方式についてくわしく解説します。
類似業種比準方式
取引相場のない株式の評価方法の一つである「類似業種比準方式」は、自社の株価を算定する際に、類似する事業内容を持つ上場企業の株価を参考にします。自社の1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額の3要素(比準要素)を、類似企業のものと比較して評価します。
具体的には、類似する大企業の利益や配当が多い場合、その株価は高くなる傾向があります。以前は比準割合が配当1:利益3:純資産1でしたが、平成29年1月1日以降は配当1:利益1:純資産1に改正されました。この改正により、利益の影響が以前よりも少なくなりました。
ただし、類似業種比準方式では、単年度の損益が大きく計上される中小企業に対しては実態を反映しにくい場合があります。また、比較対象となる類似業種が近い大企業には適切な評価ができますが、中小企業では株価が実態を反映しないこともあります。
類似業種比準方式では、比較対象となる類似業種に近い大企業の株価、1株あたりの配当金額、1株あたりの利益金額、1株あたりの純資産価額を考慮します。国税庁は「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」として、通達で適宜公表しています。
純資産価額方式
同族会社の同族株主が株式を取得する場合、通常は「原則的評価方式」を用いて評価しますが、その中の一つの方法として「純資産価額方式」があります。
以下、国税庁「取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)」をもとに詳しく解説します。
純資産価額方式は、仮に会社が解散した場合に、株主に分配されるはずの正味の財産価値をもとに株価を評価します。この方法では、会社の保有する個々の資産の相続税評価額をもとに計算します。純資産価額方式は、会社の事業を継続している場合には十分に企業価値を反映できないため、上場企業の株価をもとに計算する「類似業種比準価額方式」と比べると、小規模の企業に向いています。
計算方法は次のとおりです。
まず、課税時期における評価会社が所有する各資産を相続税評価額により評価した価額の合計額(総資産価額)から、各負債を相続税評価額にもとづき評価した金額の合計額(総負債価額)を差し引き、純資産価額(1)を算出します。
次に、その純資産価額から帳簿価額の純資産を差し引くことで評価差額(2)を求め、これに37%を乗じた金額(3)(評価差額に対する法人税等相当額)を算出します。
最後に、(1)から(3)を控除して、法人税等相当額控除後の純資産価額を計算し、課税時期における発行済株式数で除して1株当たりの純資産の金額を求めます。
この方法で「評価差額に対する法人税相当額」を控除するのは、会社を清算する場合に含み益が顕在化して所得が生じるためです。
この所得には約37%の法人税等が課税されるため、1株当たりの純資産価額の算出に際しては、時価としての相続税評価額による純資産価額と決算書に計上されている取得価額にもとづいた帳簿価額の差額(含み益)に対して、清算時の法人税等相当額を考慮することになります。
参照元:国税庁「取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)」
配当還元方式
特例的評価方式の一つに「配当還元方式」があります。この方式では、過去2年間の平均配当金額を10%の利率で還元して、株式の元本となる価額を求めます。
国税庁「取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)」によると、配当還元方式は、同族株主以外の株主や同族株主のうち一定の少数株式所有者が取得した株式に対して、会社の規模にかかわらず特例的な評価方法を用いて評価を行います。
過去の配当金の実績をもとに、将来的な利益を考慮せずに元本の価額を算出します。
具体的には、過去2年間の平均配当金額を合計し、それに10%の利率をかけて還元します。この還元額が株式の元本の価額です。配当還元方式では、将来の業績を考慮せず、過去の配当実績をもとに評価を行うため、一定の株主に対して公平な評価を提供できます。
参照元:国税庁「取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)」
関連記事:非上場株式の評価方法や評価が必要となるケースとは|国税庁が示す方式を中心に解説
原則的評価方式とは?非上場株式の評価方法を詳しく解説
非上場株式の譲渡益の税金
この章では、非上場株式の譲渡益の税金について解説します。
個人の場合
国税庁「譲渡した株式等の取得費」によると、通常の事業活動で得た収入とは独立して税金が課されます。株式譲渡を行った場合、課税される税金の種類は株主の身分によって異なります。
一般的な非上場企業では、経営者が株式を保有することが多いです。個人が株主の場合、株式譲渡による所得税及び復興所得税(15.315%)と住民税(5%)が課税されます。
株式譲渡による所得は、「譲渡価格」から「譲渡費用」および「取得費」を差し引いたものとなります。
総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+譲渡費用)=株式等に係る譲渡所得等の金額
- 譲渡費用:株式譲渡にかかった費用、例えば消費税やM&Aアドバイザリーへの手数料など
- 取得費:株式を最初に取得した際の費用。明確な取得費が分からない場合は売却価格の5%として計算可(国税庁)
税額は、所得税と住民税の合計で、譲渡所得に対して20.315%が課税されます。これらの譲渡所得については、株式譲渡が行われた翌年の確定申告期間に確定申告を行い、所得税を支払います。住民税は後日、市町村役場から納付書が送られてくるため、内容に沿って納税します。
参照元:国税庁「譲渡した株式等の取得費」
法人の場合
株主が法人の場合、個人のケースとは異なる税金が課されることに注意してください。株式譲渡によって得た譲渡益に対して、法人税などが課税されます。会社側に課される譲渡益は、前述した譲渡所得と同様に算出できます。ただし、売却価格の5%を取得費とする概算取得費の適用はできません。
法人税率は、企業ごとに異なる税率が適用されます。
譲渡益 = 売却価格 − (譲渡費用 + 取得費)
税額 = 譲渡益 × 法人税率
法人税は、会社の決算月によって申告および納税のタイミングが異なるため、通常の法人税の申告および納税のスケジュールに従って手続きを行いましょう。
非上場株式の譲渡時の課税について知っておくべきこと
非上場株式を譲渡する際、売却した収益には所得税などのさまざまな税金が課されます。
課税について特に注意すべきなのが、「時価」や「売却先(法人か個人か)」を考慮する必要があることです。
時価もしくは、やや時価よりも低い価格で売却する場合は特に問題ありません。
しかし、時価よりも著しく低い価格(時価の2分の1以下)もしくは時価よりも高い価格で株式譲渡を行う場合は、課税される所得や税金の算出方法が異なるため注意が必要です。
専門的な分野であり、細かいルールがあるため、株式譲渡を実施する際には専門家の意見を参考にすることをおすすめします。
- 税法基準と乖離した金額で売却した場合の課税
- 非上場株式を時価の2分の1以下で譲渡する場合の課税
- 非上場株式を時価以上で譲渡する場合の課税
- 非上場株式の譲渡における確定申告
代表的な観点として上記の4つが挙げられるため、それぞれ詳しく解説します。
税法基準と乖離した金額で売却した場合の課税
M&Aにおける株価は、通常売り手と買い手の交渉などで決まります。しかし、親族内での譲渡などで、一般常識から外れた金額で取引が行われると、税法と大きく乖離してしまう場合があります。
第三者間の取引では問題がなくても、税法上の適正な金額との差異が生じると、贈与税などが発生する可能性があります。税法上では公平性と納税者の平等の観点から、財産の移転による所得に対して適正な金額(時価)で移転する必要があると考えられているためです。
税法上では金額の妥当性を担保することが難しいため、一定のルールを定めることで税法上の時価として処理しています。一定のルールで計算された金額と乖離が生じると、みなし譲渡やみなし相続などの課税が発生する可能性がある点に注意しましょう。
非上場株式を時価の2分の1以下で譲渡する場合の課税
非上場株式の株式譲渡では、時価よりも安く価格を設定して売却することも可能です。ただし、時価の2分の1以下の価格で譲渡する場合、課税に注意する必要があります。時価よりも安く価格を設定することで所得を減らし、税金を抑えられるイメージがあるかもしれませんが、実際には課税額が増えるケースが多くあります。以下で具体的に説明します。
非上場株式の譲渡(個人から個人)
個人同士で非上場株式を売買する場合は、基本的に適正時価にて取引されたものとして扱われます。しかし、非上場株式を時価の2分の1以下で譲渡する場合、贈与とみなされる可能性が高くなります。贈与とみなされると、贈与税が課税されるため注意が必要です。
非上場株式の譲渡(個人から法人)
個人が購入した非上場株式を法人に売却した場合、売却した株式の価額が時価の2分の1未満であれば、個人は時価で売却したときと同じ課税が発生します。一方、購入した法人は、時価と購入価額の差額が利益として扱われ、その分が課税対象となります。
非上場株式を時価以上で譲渡する場合の課税
非上場株式を時価以上で譲渡する場合について説明します。
非上場株式の譲渡(個人から個人)
株式の個人への譲渡では、譲渡価格が時価を上回る部分に贈与税が課税されます。そして、時価から取得価格を差し引いた部分には所得税が課税されます。
たとえば、非上場株式の時価が10,000円で取得価格が3,000円の場合、13,000円で非上場株式を譲渡(会社の売却代金)したとします。この場合、譲渡価格が時価である10,000円を上回るため、差額の3,000円が贈与税の対象となります。
譲渡価格:13,000円 – 時価:10,000円 = 贈与税の対象:3,000円
一方で、譲渡所得は時価から取得価格を差し引いた部分となり、以下のように計算されます。
譲渡所得:時価(10,000円) – 取得価格(3,000円) = 譲渡所得(7,000円)
この7,000円が所得税の対象です。
非上場株式の譲渡(個人から法人)
法人に対する株式譲渡でも、基本的には個人の場合と同様です。ただし、法人に売却する際、譲渡価格が時価を上回る場合には、贈与税ではなく所得税が課税されることに留意してください。
非上場株式の譲渡における確定申告
基本的に非上場株式を譲渡した場合には確定申告が必要となりますが、申告をする判断基準は20万円以上の利益が出たかどうかになります。
課税分の計算をした上で、それらが適切かどうかを判断するためにも忘れないようにしましょう。また、利益ではなく損失が出てしまった場合には、確定申告を行うことで節税にもなり得るので欠かさないようにしてください。
関連記事:非上場株式の譲渡で利益が出たら確定申告は必要?計算方法や売却時の注意点を解説
まとめ
非上場企業の株式譲渡が実施される理由として後継者不足などが挙げられます。非上場企業の株式譲渡は、上場企業とは手続きの内容が異なるため、M&Aを行うと予期しない問題が生じるおそれがあります。
非上場株式の株価算定や譲渡所得の計算プロセスは非常に複雑であり、非上場会社が株式譲渡を自力で実施することは困難でしょう。そのため、経験豊富な仲介業者や専門家に支援を求めることが重要です。
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