このページのまとめ
- 株式譲渡は有償で、株式贈与は無償で所有株式を譲り渡すことを指す
- 譲渡側・譲受側が「個人か法人か」によってかかる税金の種類が変わる
- 譲渡制限株式の譲渡には取締役会・株主総会での承認が必要
- 株式譲渡・贈与に関する相談先には、士業やM&Aアドバイザリーがある
「株式譲渡や贈与にはどのような税金がかかる?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
株式の譲渡や贈与を行うと、状況に応じて法人税や譲渡所得税、贈与税などがかかります。
このコラムでは、株式譲渡や贈与でかかる税金の種類や計算方法について解説。また、評価額の決定方法、株式譲渡・贈与の流れ、株式譲渡・贈与に関する相談先ついてもご紹介します。
目次
株式譲渡と贈与とは
株式譲渡とは、所有している株式を対価と引き換えに第三者に譲渡することを意味します。
上場企業の株式の譲渡は資産の現金化を目的として実施することが多いですが、非上場企業の株式の譲渡の場合は会社の売却や事業承継が主な目的です。
これに対し、株式贈与は、所有している株式を対価の受け取りなしに譲り渡すことを意味します。つまり、株式の無償譲渡と同じ意味です。
具体的には、後継者である親族への生前贈与などが挙げられます。
株式譲渡と株式贈与、それぞれのメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | デメリット | |
株式譲渡 | ・事業を存続できる ・株式の譲渡対価を受け取れる ・株式の譲渡にかかる税金を抑えられる ・買い手は会社の経営権を掌握できる | ・全株式の譲渡が難しい場合がある ・不採算事業のために譲渡価格が下がることがある ・買い手は多額の資金が必要になる場合がある |
株式贈与 | ・暦年贈与の基礎控除110万円が毎年利用できる ・贈与する株の金額を少なくすれば贈与税の税率が低くなる ・株価が低い間に株を移転することが可能 ・孫などの世代にまで株を移転できる | ・定期贈与と判定されることがある ・贈与税が受贈者に課される |
それぞれメリットとデメリットがあるので、どちらが良いとは一概にはいえません。ケースに応じて方法を検討しましょう。
関連記事:株式譲渡とは?手続きの流れや注意点・メリット・デメリットなどを解説
株式譲渡にかかる税金の種類
株式譲渡にかかる税金は、譲渡側・譲受側が、個人か法人によって変わります。「誰から誰に譲渡するか」に応じて、以下4種類のケースが考えられ、発生する税金も変化します。
- 法人から法人へ譲渡する場合
- 法人から個人へ譲渡する場合
- 個人から法人へ譲渡する場合
- 個人から個人へ譲渡する場合
4つのケースごとに詳しく解説します。
1.法人から法人へ譲渡する場合
法人から法人へ譲渡する場合、売り手側・買い手側それぞれに発生する税金は、以下のとおりです。
売り手側 | 買い手側 | |
時価と同額の場合 | 法人税 | 非課税 |
時価の2分の1未満の場合 | 法人税 | 法人税 |
時価より高い場合 | 法人税 | 寄付金課税 |
法人から法人へ株式譲渡する際は、取引価格と時価との関係で納税額が変化します。
非上場株式を譲渡するケースでは「市場有価証券等以外の株式の価額の特例(法人税基本通達9-1-14)」等の規定に基づき、時価を算出することが定められています。
時価を用いて株式譲渡を行うケースでは、譲渡益に対する法人課税が売り手側に発生する一方、買い手側は非課税です。
ただし、時価よりも低い価格で株式譲渡を実施するケースでは、売り手には譲渡益に応じて法人税が課せられるだけでなく、時価と譲渡価額の差額が寄付金として処理されます。一方、買い手に対して差額の分だけ贈与が発生したとみなされ、受贈益に対する差額分に課税されます。
そして、時価を上回る価格で株式譲渡を行った場合には、売り手に譲渡益に応じて法人税が課せられ、差額については買い手に対する寄付金として処理されます。
2.法人から個人へ譲渡する場合
法人から個人へ譲渡する場合、売り手側・買い手側それぞれに発生する税金は、以下のとおりです。
売り手側 | 買い手側 | |
時価と同額の場合 | 法人税 | 非課税 |
時価の2分の1未満の場合 | 法人税 | 贈与税 |
時価より高い場合 | 法人税 | 非課税 |
企業が個人に株式を譲渡する場合、譲渡価格と時価との関係や、買受人が企業の取締役または従業員であるか否かなどの条件により、課せられる税金が変動します。
時価で株式譲渡を行った場合、売却者には譲渡利益に対して法人税がかかりますが、買受人には課税されません。
一方、時価より低い価格で譲渡する場合、売却者には譲渡利益に対して法人課税されます。譲渡価格と時価の差額は寄付金として取り扱われます。
買受人に課せられるのは所得税であり、買受人が企業の取締役である場合、この差額は役員報酬として扱われ損金計上されません。買受人が従業員の場合は、差額は賞与として計上されます。
価格が時価より高い場合、売却者には法人税がかかりますが、買受人には課税されません。
3.個人から法人へ譲渡する場合
個人から法人へ譲渡する場合、売り手側・買い手側それぞれに発生する税金は、以下のとおりです。
売り手側 | 買い手側 | |
時価と同額の場合 | 譲渡所得税 | 非課税 |
時価の2分の1未満の場合 | 譲渡所得税 | 法人税 |
時価より高い場合 | 譲渡所得税 | 寄付金課税 |
株式譲渡には、個人から法人への譲渡も含まれます。株式譲渡価格と時価の関係に基づき、課税される税金は変わります。
時価で株式譲渡を行うケースでは、譲渡益に対する譲渡所得税が売り手に課せられますが、買い手には課税されません。
譲渡価格が時価の2分の1未満であれば、売り手側に譲渡益に対する譲渡所得税が課せられます。譲渡価額が時価の2分の1以上の場合でも、一族会社または同族会社への株式譲渡では、譲渡所得のみなし所得に対して譲渡所得税がかかるケースがあるため、注意が必要です。
買い手には「時価と譲渡価格の差額が贈与された」とみなされ、法人税が課せられます。株式譲渡価格が時価を上回る場合、売り手には譲渡所得税が課せられるので注意してください。また、買い手には「時価と株式譲渡価格の差額分が寄付された」とみなされます。
ただし、売り手が法人の役員である場合、株式譲渡による差額分は、役員報酬として扱われ、損金の算入対象にはなりません。
4.個人から個人へ譲渡する場合
個人から個人へ譲渡する場合、売り手側・買い手側それぞれに発生する税金は、以下の通りです。
売り手側 | 買い手側 | |
時価と同額の場合 | 譲渡所得税 | 非課税 |
時価の2分の1未満の場合 | 譲渡所得税 | 贈与税 |
時価より高い場合 | 譲渡所得税 | 非課税 |
株式の個人間譲渡においては、譲渡価格が時価と異なる場合、課税される税金額が異なります。
株式譲渡価格が時価である場合は、譲渡所得に対して売主には譲渡所得税が課せられますが、購入者に課税されることはありません。
一方、譲渡価格が時価より低いケースでは、譲渡所得に対する譲渡所得税が売り主に発生し、購入者は譲渡価額と時価の差額に応じた贈与税が発生します。
さらに、譲渡価格が時価より高い場合は、売主には譲渡所得に対する譲渡所得税に加え、差額分が購入者から贈与されたとみなされ、購入者に贈与税が課せられます。一方、売主に対する課税はありません。
株式譲渡における譲渡所得税額の計算方法
譲渡所得税額の計算式は「譲渡所得×所得税・復興特別所得税・住民税の合計税率(20.315%)」です。譲渡所得については「譲渡価格-必要経費(取得費用+手数料ほか)」で算出できます。
一例として、「譲渡価格4,000万円、取得費用800万円、手数料400万円」のケースで発生する税金を計算してみましょう。
譲渡所得=譲渡価格(4,000万円)- 必要経費(取得費用800万円+手数料400万円)= 2,800万円 譲渡所得税額=譲渡所得(2,800万円)×所得税・復興特別所得税・住民税の合計税率(20.315%)= 568万8200円 |
このケースでは、譲渡所得税額は 568万8,200円になります。
贈与税に関する2つの課税制度
贈与税の課税方式には、暦年課税と相続時精算課税の2種類があります。
暦年課税とは、贈与された財産の価額を毎年計算して、その金額に応じて贈与税を課税する方式です。
暦年課税では、毎年110万円の非課税枠が設けられています。つまり、暦年課税で贈与する場合、贈与財産の価額が110万円以下であれば、贈与税は課税されません。
相続時精算課税とは、贈与された財産の価額を合計して、その金額に応じて贈与税を課税する方式です。
相続時精算課税では、2,500万円の特別控除が設けられています。つまり、相続時精算課税で贈与する場合、贈与財産の価額が2,500万円以下であれば、贈与税は課税されません。
株式贈与にかかる税金の種類
贈与税は、贈与者(贈与した人)から受贈者(贈与を受けた人)へ財産を無償で譲渡した場合に課される税金です。
株式贈与にかかる税金は、それぞれ以下のとおりです。
贈与者側 | 受贈者側 | |
法人から法人へ | 法人税 | 法人税 |
法人から個人へ | 法人税 | 所得税 |
個人から法人へ | みなし譲渡所得税 | 法人税 |
個人から個人へ | 非課税 | 贈与税 |
それぞれのパターンについて詳しくみていきましょう。
1.法人から法人へ贈与する場合
法人から法人への贈与においては、贈与者が実質的に寄付をしたとみなされ、法人課税の対象になります。
一方、受贈者には受贈益(特別利益)が発生し、会社の利益が増えることで、 法人税負担が増加するため注意してください。
2.法人から個人に贈与する場合
法人から個人への贈与においては、贈与される個人と法人の関係によって、税金の取り扱いが異なることがあります。
具体的なパターンは、以下の3つです。
- 受贈者がその法人の従業員である場合:賞与扱い
- 受贈者がその法人の役員である場合:役員賞与扱い
- 受贈者が第三者の個人である場合:寄付金扱い
従業員に対して法人が贈与するケースでは、賞与扱いとなります。賞与は給与所得に分類され、所得税が課税されます。
役員に対して法人が贈与するケースでは、役員賞与扱いとなります。従業員のケースと同じく、 役員賞与も給与所得に分類され、所得税が課税されます。
第三者の個人に対して法人が贈与するケースでは、寄付金扱いです。寄付金は一時所得に分類され、 所得税が課税されます。
3.個人から法人へ贈与する場合
個人から法人への贈与では、受贈者の利益が増加することで、 法人税負担も増加します。
一方、贈与者に対しては、事実上の譲渡(みなし譲渡)とみなされて、みなし譲渡所得税が課税されます。
なお、同族会社に対して個人が贈与すると、株主への贈与とみなされ、株主に対して贈与税がかかるケースがある点にも留意しておきましょう。
4.個人から個人へ贈与する場合
個人から個人への贈与では、贈与者は非課税となり、受贈者にのみ贈与税が発生します。
株式の贈与税率
贈与税の税率は、贈与された財産の価額に応じて、10~55%の範囲で課されます。
株式の贈与税は「(年間の譲受株式の合計額 – 基礎控除の110万円)× 税率 – 控除額」で算出できます。株式の贈与税を求めるためには、課税額に対する税率と控除額を知っておかなければなりません。
課税額に対する税率と控除額は、以下の表のとおりです。
控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | なし |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1000万円以下 | 40% | 125万円 |
1500万円以下 | 45% | 175万円 |
3000万円以下 | 50% | 250万円 |
3000万円超 | 55% | 400万円 |
一般的な贈与では、上記の表に基づいて贈与税額を算出できます。
株式譲渡における贈与税率の特例制度
2015年以降、 贈与税には以下のような特例制度(特例贈与財産)の区分も設けられました。
控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | なし |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
祖父母から孫、 父母から子供(子供・孫が成人の場合)の贈与では、上記の表に基づいて贈与税額を算出できます。
株式評価額の決定方法
株式譲渡・贈与に際しては、株式の評価額(価値)を決定する必要があります。
株式譲渡・贈与における評価額の決定方法は、上場企業の株式の場合と非上場企業の株式の場合で異なります。それぞれ違いを見ていきましょう。
上場企業の株式の場合
上場企業の株式を贈与する場合の評価額は「贈与発生日の最終価格」です。
「贈与発生日」とは贈与で財産を取得した日にちのことです。一方、「最終価格」とは贈与発生日の市場における最終的な取引価格を意味します。
ただし、以下3つよりも贈与発生日の最終価格が高い場合は、以下3つから最も低い価格を選び、計算してください。
- 課税時期の月の毎日の最終価格の月平均
- 課税時期の前月の毎日の最終価格の月平均
- 課税時期の前々月の毎日の最終価格の月平均
上場株式の価額は、評価明細書を参考にすることが可能です。
非上場企業の株式の場合
非上場企業の株式には上場企業における株価のような評価基準は存在しません。
そこで 以下のような方法を用いて、 株式の評価額を決定します。
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
- 配当還元方式
それぞれの評価方法について説明します。
類似業種比準方式
類似業種比準方式は、対象企業の財務データや業績を、同じ業界や類似業種のほかの上場企業のデータと比較する評価方法です。市場における相対的な評価手法であり、市場価値や株価などの情報を反映させる点が特徴といえるでしょう。
比較対象が上場企業であるため、規模の大きな会社で主に使われる手法です。 規模の小さな会社の評価には向いていません。
純資産価額方式
純資産価格方式は、企業の資産から負債を差し引いた純資産の算定を行い、純資産価値を企業の価値として考える評価方法です。
中小企業などの比較的規模の小さな会社で主に使われます。規模の大きな会社の評価には向いていません。
配当還元方式
配当還元方式は、企業の将来の配当を基にした企業価値の評価方法です。具体的には、将来の配当を現在価値に割り引いて算出し、それを企業の評価とします。
少数株主の株式価値を算定するときによく活用されます。また、土地保有特定会社・株式保有特定会社の場合は企業規模に限らず、 配当還元方式の評価方法を採用します。
株式の贈与税の納税猶予制度
非上場株式の贈与税には特例制度があります。「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等」という制度です。この制度は通称「法人版事業承継税制」とも呼ばれます。
法人版事業承継税制は、贈与課税が事業承継の障害となることを防ぎ、中小企業のスムーズな事業承継を支援する目的で設けられた制度です。
受贈者にあたる非上場企業の後継者が「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(通称「円滑法」)の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与によって取得する場合、贈与税の納税が猶予されます。また、後継者が亡くなった際などには猶予された贈与税の納税が免除されます。
参照元:国税庁「法人版事業承継税制」
株式譲渡・贈与の流れ
株式譲渡・贈与の流れについて、以下で簡単に確認しておきましょう。
- 株式譲渡制限を確認する
- 株式譲渡承認を受ける
- 取締役会・株主総会で承認を受ける
- 株式譲渡契約を締結する
- 株主名義を変更する
譲渡あるいは贈与対象の株式に譲渡制限がかけられている場合、譲渡承認の請求手続きを実施し、取締役会・株主総会で承認を受ける必要があります。
株式譲渡・贈与に関する相談先
株式譲渡・贈与に関する主な相談先は、以下の通りです。
- 税理士:株式譲渡・贈与にかかる税金についてアドバイスが受けられる
- 弁護士:株式譲渡・贈与におけるトラブル防止や、 トラブル時のスムーズな解決が期待できる
- M&Aアドバイザリー:M&Aにおける株式の譲渡・贈与についてトータルに相談できる
M&Aアドバイザリーは、M&Aにおいて企業や個人をサポートする専門家です。豊富な経験・知識に基づき、株式譲渡・贈与を含むさまざまなスキームにおいて、M&Aの成功を後押しします。
まとめ
株式譲渡や株式の贈与は個人間・法人間だけではなく、個人と法人の間で行われるケースがあります。それぞれのケースで発生する税金の種類が異なるため、株式譲渡・贈与の際には税金の取り扱いや想定される税金の額についても確認しておくことが重要です。その際には、士業やM&Aアドバイザリーなどの専門家にサポートを受けると良いでしょう。
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