このページのまとめ
- 社長年齢の高齢化が進行している
- 社長を引退する準備が進められていない会社は依然として多い
- 社長が引退準備を早くするべき理由は、資金調達や後継者育成に時間がかかることなど
- 社長引退に際して、事業承継ガイドラインを参考にしたり専門家の支援を受けたりしよう
- 社長引退について、M&A仲介会社・士業・金融機関・公的機関などに相談できる
高齢化が進む日本の経営者の中には、引退時期を検討している方もいらっしゃるかもしれません。しかし、準備に5〜10年かかる可能性があることをご存じでしょうか。
今回は、社長の引退について、平均年齢や早く準備するべき理由、具体的な準備内容をご紹介します。社長引退後の進路や円滑な引退をサポートしてくれる専門家についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
社長が引退する平均年齢
中小企業庁が公表している『2023年版「中小企業白書」』の第2部・第2章において、経営者の高齢化について言及されています。
年代別に中小企業の経営者年齢の分布を見てみると、2000年の最も多い年齢層は50~54歳です。15年後の2015年での経営者年齢のピークは65~69歳まで上昇しています。
そして最新の2022年の統計では、経営者年齢層のピークは60~64歳・65~69歳・70~74歳に分散しています。
このことから、今まで経営者として企業運営をしていた団塊世代が引退したと推測できます。また、75歳以上の経営者の割合が上昇し続けていることから、事業承継が進んでいない企業も依然として多いことが分かります。
社長が高齢になってしまう前に準備を始めて、事業承継や廃業ができるように進めましょう。
参照元:中小企業庁『2023年版「中小企業白書」』
社長が引退の準備を早めにするべき4つの理由
社長が引退準備を早く進めるべき理由は、主に以下の4つです。
- 加齢にともない経営能力が衰える
- 後継者の選定に時間がかかる
- 後継者の育成に時間を要する
- 資金調達をする必要がある
ここでは、社長が引退準備をできるかぎり早くスタートさせるべき理由を詳しく解説します。
加齢にともない経営能力が衰える
社長が引退準備を急いだほうがよいと言われる理由の一つは、経営能力が衰えていくことです。
個人差はありますが、年齢を重ねていくごとに人間の体力や判断力は鈍くなっていくことが一般的です。しかも引退をすることになった場合、通常の業務と並行して引退準備を進めることになります。
事業承継を選択しても廃業を選択しても、その準備には多くの時間と手間がかかります。気力がない状態に陥ってしまった場合、引退準備に着手するのが億劫になり、さらに先延ばしにしてしまう可能性もあるでしょう。
気力が充実している間に引退準備を進めることがおすすめです。
後継者の選定に時間がかかる
社長が引退準備を早めに始めるべき理由は、後継者選びに時間がかかるからです。
後継者の候補には、親族や従業員、社外の第三者など、さまざまな選択肢が考えられます。そして、その中から最も適した候補先を選ぶ必要があります。さらに、選んだあとも引き継ぎに必要な多くの手続きが発生します。また、役員や従業員、取引先、顧客などの会社関係者からの理解を得ることも求められます。
引退したいタイミングで準備をスタートするのではなく、余裕を持ったスケジュールを組んで引退準備を進めましょう。
後継者の育成に時間を要する
後継者の育成に時間がかかることも、社長が引退準備を早期に始めるべき理由の一つです。
後継者を選定しただけではまだ引退できません。後継者を選んだあとは、引き継ぎ後も会社経営が成り立つように後継者を育てる必要があります。
経営ノウハウは一朝一夕では身につかないため、経営者としての仕事を社長の近くで数年間見てもらったり経験させたりすることが必要です。後継者の境遇や能力を見極め、必要な育成時間を逆算し、引退準備を始めてください。
資金調達をする必要がある
社長が早めに引退準備をしたほうがよい理由に、資金調達が必要であることが挙げられます。
事業承継を行う場合、親族であれば資産を買い取る資金や相続税または贈与税などが必要です。従業員や第三者に承継するケースでは、株式を買い取るための資金も調達する必要があります。
後継者が将来的に支払うことになる資金を集められるように、社長引退を考えていることを前もって伝えてください。
また、廃業をする際にも費用がかかります。社長側も資金を用意しなければなりません。
かかる主な費用は登記費用や官報公告の掲載費、不動産の原状回復工事費、設備・在庫の処分費などです。
引退する社長が事業承継に向けて行うこと
社長引退後の主な選択肢は「事業承継する」「廃業する」の2つです。
ここでは、事業承継を選択したケースにおいて社長がやるべきことを紹介します。
中小企業庁が公表しており、2022年3月に改訂した『事業承継ガイドライン(第3版)』によると、事業承継に向けて必要な準備は下記の5ステップです。
- 事業承継に向けた準備の必要性の認識
- 経営状況・経営課題等の把握(見える化)
- 事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
- 事業承継計画の策定・M&A等のマッチング実施
- 事業承継の実行
各ステップについて、詳しく解説します。
1.事業承継に向けた準備の必要性の認識
「事業承継の緊急性が低い」「家庭内の問題だから」と考え、引退を先延ばしにする社長の方も少なくありません。しかし、事業承継は複雑なプロセスを踏む必要があり、計画と準備が肝要です。スキームの決定、後継者の選定・育成、従業員・取引先・金融機関との事前協議など、多くのタスクが発生します。特に後継者の育成には長い年月を要する可能性もあるため、早めに準備を開始することが大切です。
早めに準備を開始することで、事業承継に関わるプロセスを理解し、最善の計画を立てられる可能性が高まります。
事業承継は、社長が引退したあとも事業を継続する方法であり、従業員の雇用を守る手段でもあります。将来に目を向けて、準備の必要性を認識することが重要です。
2.経営状況・経営課題等の把握(見える化)
事業承継を成功させるためには、現状を把握することが重要です。そのためには、経営状況や経営課題を「見える化」する必要があります。
具体的には、自社の強み・弱みや商品力、開発力、利潤を生む仕組み、経営資源などについて、事業・資産・財務など多角的な方面から見直すことが求められます。 このような見直しにおいては「SWOT分析」などのフレームワークが役立つでしょう。
自社の状況や課題をしっかりと見える化することで、経営状況を正確に把握できます。事業承継計画の策定がスムーズに進みやすくなるでしょう。
3.事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
親族内で事業承継する場合、相続税対策に重きが置かれ、自社の成長にそぐわない手法が用いられるケースがあります。たとえば、「株価を意図的に下げる」「不要な資産を購入する」などの施策です。
しかし、事業承継は自社を成長させる良い機会です。経営者は良好な状態で事業承継できるよう、 意識を高める必要があります。
事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)の方法には、以下のようなものが挙げられます。
- 本業の競争力強化
- 経営体制の総点検
- 経営強化に資する取組
- 財務状況の改善
上記のような磨き上げを通じて自社の価値を向上させて、後継者や第三者にとって魅力的な企業を目指してください。
4.事業承継計画の策定・M&A等のマッチング実施
大別すると事業承継には、「親族内・従業員への承継」と「第三者への承継」の2種類があります。
親族内・従業員への承継
親族内・従業員への承継では、後継者を決めるのが第一歩です。後継者が決まったら、事業承継計画の策定に取り掛かります。
これまでのステップで可視化された自社の状況をもとに、事業や組織体制の方向性を検討し、 中長期的な目標を設定しましょう。
事業継承計画を策定する際の手順は以下のとおりです。
- 自社の現状分析
- 今後の環境変化の予測と対応策・課題の検討
- 事業継承の時期などを盛り込んだ事業の方向性の検討
- 具体的な目標の設定
- 円滑な事業継承に向けた課題の整理
事業承継計画の策定に際しては、信頼や協力が得られるように従業員・取引先・金融機関等との関係を考慮し、親族・後継者と共同で実施することが望ましいでしょう。
第三者への承継
親族や従業員へ事業を引き継ぐことが難しい場合、第三者への承継を検討します。そこで活用されるのが「M&A」です。
M&Aのプロセスは複雑なので、自社のみで実施することは困難です。M&Aコンサルティング会社やM&A仲介機関のサポートを受けながら進めていきましょう。
M&Aに際しては、引き継ぎの範囲・社名を残すかどうか・従業員の雇用を維持するかどうかなどを含め、売却条件を明確にしなければなりません。
専門家のサポートを受けながら、 売却条件に合致する買い手企業とのマッチングおよびM&Aを成功させましょう。
5.事業承継の実行
これまでのステップをクリアしたら、事業継承の実行に移ります。実行に際しては、法的手続きや税務上の課題が出てくることもあるため、専門家と連携しながら進めることが大切です。
事業承継は基本的に事業継承計画書に沿って進めます。しかし、状況に応じて柔軟にブラッシュアップ・修正することも必要です。適宜見直しを行いましょう。
参照元:中小企業庁『事業承継ガイドライン(第3版)』
引退する社長が廃業に向けて行うこと
廃業前に可能なかぎり事業継続の可能性を模索し、見える化・磨き上げを実施しても事業継承が難しいと判断した際には、廃業に向けて動き始めましょう。債務超過による倒産などに陥らないよう、着実に準備を進める必要があります。
早い段階で債務整理を進めるとともに、廃業資金の確保、関係者(従業員・取引先・金融機関等)への説明を実施してください。
参照元:中小企業庁『事業承継ガイドライン(第3版)』
社長の引退後の主な進路
社長引退後は、ご自身が望む進路を選択できます。セカンドライフとして家族との時間を大切にしたり、趣味に打ち込んだりすることも可能です。
一方、 会社のサポート役に回る方法や、起業や外部企業への転職を通じて社会に関わり続ける方法もあります。
会長職・相談役に就く
社長引退後は「名誉顧問」「名誉会長」といった会長職に就任する方も少なくありません。
会長職は新たな経営者の相談役です。メリットは自身が創業した会社に携わり続けられる点や役員報酬が得られる点などです。
一方、相談役の範疇を超えて口を出しすぎた場合、経営に悪影響を与えるリスクがあります。
起業する
起業は、前の会社ではできなかった事業がある場合などに検討する選択肢の一つです。
新しいチャレンジができる点はメリットですが、倒産リスクがあることや、後々に事業承継・廃業の問題に再び向き合わなければならない点はデメリットです。
他企業に勤める
他企業に勤める選択肢もあります。近年では高齢者(シルバー人材)の雇用が積極的に実施されているため、ご自身に合った働き先が見つかる可能性もあるでしょう。
新しい環境や人とのつながりが得られる点はメリットです。ただし、社長時代と同レベルの収入はほとんど期待できません。
社長引退に関して相談できる8つの専門家
社長の引退を円滑に進めるためには、早い段階で綿密な計画を立てることが重要です。しかし、特に事業承継を選択する場合、複雑で多岐にわたる問題を含むため、自力で解決するのは困難です。
そこで、以下のような専門家に相談し、サポートを受けるのがおすすめです。
- M&Aコンサルティング会社
- M&A仲介会社
- 士業(税理士・弁護士・中小企業診断士などの専門家)
- 金融機関
- 商工会議所
- 同業種組合
- 認定経営革新等支援機関
- 公的な支援機関
サポートの内容やかかる費用は支援機関によってさまざまなので、特徴を比較して自分に合ったサービスを選びましょう。
まとめ
社長の引退後、廃業ではなく事業承継を選択する場合、後継者の育成・引き継ぎも含めて5〜10年の準備期間が必要となるケースが少なくありません。
経済産業省は準備開始の目安を60歳と発表しており、すでに60歳に達している場合は早めに専門家へ相談するのが賢明です。
60歳未満の社長の方も「自分にはまだ関係ない」とは思わずに、一度相談してみましょう。早い段階で相談をすることによって、より良い選択肢が増える可能性があります。
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家族・親族に後継者がいらっしゃらない場合には、M&Aを検討することがおすすめです。最良の外部後継者のマッチングからご成約までしっかりと伴走いたします。M&Aの各ステップに専門性の高いコンサルタントを配置しており、円満な事業承継・社長引退の実現を目指します。
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