このページのまとめ
- 譲渡制限株式とは、 会社の承認を得ないと譲渡できない株式のこと
- 株式の譲渡制限には、敵対的買収の防止などさまざまなメリットがある
- 譲渡制限株式の相続は、会社の承認なしに実施される
- 譲渡制限株主の相続では、遺産分割協議と名義書き換えが必要
- 相続人に対して会社側から「譲渡制限株式の売渡請求」することができる
自由に譲渡できない株式(譲渡制限株式)の相続が生じた際、企業はどのように対応すれば良いのでしょうか。円滑な経営の妨げになる恐れもあるので、気になっている経営者の方もいらっしゃると思います。
今回は、譲渡制限株式の相続について解説します。譲渡制限株式の相続に関する概要やメリット、注意点をご紹介します。また、譲渡制限株式の売渡請求・買取請求についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
譲渡制限株式とは
譲渡制限株式とは、株式の譲渡に制限がかけられている株式のことを指します。
株式は、原則として自由に譲渡できると会社法の第127条で定められていますが、例外的に譲渡に制限をかけることも可能です。
株式の譲渡制限は、定款に記載することで定めることができます。譲渡に際して、「株主総会や取締役会などでの承認を必要とする」といったように規定します。
譲渡制限は全ての株式に対してだけでなく、一部の株式のみにかけることも可能です。
発行株式の全てが譲渡制限株式である場合、その会社を「非公開会社(株式譲渡制限会社)」と呼びます。
譲渡制限株式を発行する5つのメリット
株式に譲渡制限を設けるメリットは、主に以下の5つです。
- 敵対的買収を防げる
- 事業承継がスムーズになる
- 取締役会や監査役の設置が不要になる
- 役員の任期を10年まで延長できる
- 株主総会の手続きが比較的簡便になる
それぞれのメリットについて、詳しく解説します。
敵対的買収を防げる
株式に譲渡制限を設けるメリットの一つは、敵対的買収を防げることです。
株式が市場に流通していると、株式購入を通じて経営権を奪取されるリスクがあります。株式に譲渡制限がかかっていれば、望まない相手に株式が渡ることはありません。
事業承継がスムーズになる
事業承継が円滑に進みやすくなることは、譲渡制限株式を発行するメリットです。
譲渡制限株式の場合、譲渡するためには承認が必要であるため、不特定多数に株式が分散しなくて済みます。また、事業承継に反対する人たちが株式を所持しないようにすることも可能です。
取締役会や監査役の設置が不要になる
譲渡制限株式会社のメリットの一つは、取締役会や監査役を置かなくてもよいことです。
株式に譲渡制限が設けられていない会社では設置義務がある一方、譲渡制限株式会社には義務付けられていません。設置しないほうが経営するにあたって都合が良いと判断した場合、置かないという選択肢もとれます。
役員の任期を10年まで延長できる
譲渡制限株式を発行するメリットには、役員の任期を延長できることが挙げられます。
取締役・会計参与の任期は通常2年、監査役は4年です。しかし、譲渡制限株式会社は定款に記載することで10年まで期間を延長できます。安定した会社経営をかなえることが可能です。
株主総会の手続きが比較的簡便になる
株式に譲渡制限を設けるメリットは、株主総会の手続きが通常よりも簡易になることです。
譲渡制限がない株式を発行している会社の場合、原則2週間前までに書面などによる通知が必要です。しかし、譲渡制限株式会社の場合は、通知は1週間前まで(条件によってはさらに短い期間)の通知で構いません。また、通知の手段についても口頭による招集が認められています。
譲渡制限株式の買取請求権が行使されることがある
株式に譲渡制限をかけていても、株主が譲渡・取引を希望するケースがあります。会社の承認があれば、譲渡制限株式の譲渡・取引も可能ですが、認められなかった場合に株主側から行使される可能性のあるのが「買取請求権」です。
株式の買取請求権とは、株主が保有する株式の買取をその会社に求めることができる権利です。買取請求された場合、企業は拒否できず、請求に応じなくてはなりません。
買取請求された場合はまとまった買い取り資金が必要になるため、常にある程度の現金を用意しておくなどして備えておくことが望ましいでしょう。
譲渡制限株式を相続する際の手続き
譲渡制限株式を相続するケースにおいて、相続人が複数存在する場合は「相続人全員の準共有状態」となります。
次に、各相続人に株式を帰属させる必要があります。そのために実施されるのが「遺産分割協議」です。遺産分割協議で得られた合意に基づいて「名義書換」の手続きを実施することで、譲渡制限株式の相続が完了します。
ここからは、譲渡制限株式の相続に必要な「遺産分割協議」「名義書換」について詳しく解説します。
遺産分割協議
遺産分割協議は、複数の相続人に対して適切かつ公正に遺産を分割するための協議です。
たとえば、預金などは法定相続分により分割されますが、株式は異なります。被相続人が経営者であった非上場会社などの場合、上場企業の株式のように換金後に分割することができません。
そこで、相続された譲渡制限株式については、遺産分割協議を通じて各相続人の株式の帰属分を決定します。
なお、話し合いが長期化するなどして遺産分割協議が完了しない場合、 譲渡制限株式は準共有状態のままですが、株主の権利を行使することは可能です。具体的には、会社法(106条)に基づき、株式の権利を行使する1人を定め、会社へ通知する必要があります。
遺産分割協議の結果、無事に各相続人の株式の帰属が決定したら、次に名義書換を実施します。
名義書換
名義書換にあたっては、株主名簿管理人(定款で定められた信託会社・発行元企業の担当部署など)に対して手続きを請求します。名義書換をしないうちは、個々の相続人が株主として権利を行使したり配当を受け取ったりすることができません。
相続手続きの期限は設けられていませんが、相続開始を知った日から10ヶ月以内に相続税の申告・納税が必要となるため、早めに手続きした方が良いでしょう。
譲渡制限株式の相続の名義書換においては、以下のような書類が必要です。
- 正式に検認された遺言書
- 遺産分割協議書
- 相続する全員分の印鑑証明書
- 会社で規定された書類
不備のないようにしましょう。
相続人に対する譲渡制限株式の売渡請求は可能
経営者が死亡した場合、譲渡制限株式であっても、相続人は一般承継として株式を相続します。つまり、企業側の承認なしに株式が相続されます。
しかし、株式の相続によって想定外の人物が経営に加わることは、企業にとって不都合なケースも少なくありません。
このような事態に備えて、企業は定款の規定により、相続人に対して「譲渡制限株式の売渡請求」を行うことが可能です。これは会社法第174条などに定められています。
なお、 売渡請求から20日以内に会社・株主間で協議がまとまらず、売買価格が決定しなかった場合は売渡請求が無効となります。20日以内に協議がまとまりそうにない場合は、裁判所へ価格決定の申し立てを行い、裁判所が売買価格を決定することも可能です。
譲渡制限株式の売渡請求ができる条件
相続人に対して譲渡制限株式の売渡請求をする場合、以下の条件を満たさなければなりません。
- 請求の対象が譲渡制限株式
- 売渡請求の規定が定款に定められている
- 株主総会の承認を得ている
- 剰余金の分配可能な範囲で実施される
- 相続から1年以内
特に注意しなければならないのが、会社法第176条により売渡請求には「相続が知られた日から1年以内」という期限が設けられていることです。期限が到来すると、以降は売渡請求ができなくなるため、請求の可能性がある場合は社内で早めに協議する必要があります。
売渡請求に関して定款に記載すべき内容
売渡請求を可能にするためには、あらかじめ定款に記載しておかなければなりません。定款への記載例は以下の通りです。
(相続人等への株式の売渡請求) 第□条 当社は、相続やその他一般承継による当社の株式取得者に対して、該当する株式についてを当社より売渡すことを請求ができる。 |
定款に項目を追加する際は、株主総会の特別決議での承認が必要です。
なお、定款に記載したからといって、相続人等に対して必ず売渡請求を行わなければならないわけではありません。
譲渡制限株式の相続人に対する売渡請求の方法
譲渡制限株式の売渡請求をする場合、その旨を事前に定款に定めておかなければなりません。そして、売渡請求の実施に際しては、株式総会の特別決議で承認される必要があります。
株式総会では、請求する株主の氏名と、請求する株式の数や種類を決定します。なお、会社法第175条により、この株式総会において請求対象となる株主は議決権を行使できません。
株式総会の特別決議が承認されたら、株主への通知を通じて請求し、売買価格を協議・決定します。通知を受けた相続人には売渡請求の拒否権はなく、必ず応じなければなりません。
売渡請求が可能な期間
売渡請求が可能な期間を整理すると、以下のとおりです。
- 売渡請求が可能な期間は「被相続人(経営者など)の死亡より1年以内」
- 売渡請求後に、会社と相続人などが売買価格を協議できる期間は「20日以内」
売渡請求そのものが可能な期間は、経営者などの被相続人がなくなってから1年以内です。期限の間際に請求しようとすると、株主総会の特別決議が得られず間に合わない可能性もあるため、注意してください。
株主総会で特別決議を得ていても、売買価格が決まらないまま請求日から20日が経過すると請求は無効となります。協議が難航する場合は裁判所へ申し立てましょう。
売渡請求による買取金額の範囲
売渡請求による自己株式の取得にあたっては、会社法の第461条により、買取可能な金額が「分配可能額の範囲内」に制限されています。
分配可能額とは、会社への利益を確保しつつ、銀行等の債権者や株主へ支払うことができる金額です。具体的には、「(貸借対照表の純資産における、その他資本剰余金+その他利益剰余金の合計) – (自己株式の帳簿価格+早期分配済み価額)」で算出できます。
取得資金としての分配可能額が十分でない場合は、「売渡請求を一部撤回する」「売渡請求を次期に持ち越す」などの方法があります。
まとめ
株式に譲渡制限をかけることにより株式の分散を防ぐことができ、信頼する人物のみを経営に参加させられる、敵対的買収を防止できるなどのメリットを享受できます。そのため、株式に譲渡制限をかけている企業も少なくありません。ただし、相続の場合、譲渡制限株式であっても会社の承認なしに相続される点に注意が必要です。
相続によって不利益が生じる可能性がある場合、企業は相続人に対して売渡請求することで、自社株を取得できます。ただし、期間や金額などに制限があるので、必ず前もって確認しておきましょう。
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