事業価値とは?計算方法から事業価値向上の方法まで解説

2023年10月16日

事業価値とは?計算方法から事業価値向上の方法まで解説

このページのまとめ

  • 事業価値とは、特定の事業によって生み出される価値を金額ベースで表したもの
  • 事業価値は、将来のキャッシュフローをもとに計算するのが最も一般的
  • 事業価値の計算方法は定まったものはなく、さまざまな計算方法が考えられる
  • 事業価値を高めるためには、事業の収益性を高めることが重要である

M&Aを検討している経営者の方の多くが、事業価値の計算で悩んでいるのではないでしょうか。事業価値の意味と計算方法を理解できれば、M&Aにおいて自社の事業価値を高めることも可能です。適切に事業価値を向上できれば、有意義なM&Aを実施できるでしょう。

本記事では、事業価値の意味から算出方法、企業価値や株式価値との違いまで幅広く解説します。そのほか、事業価値を向上させるための重要なポイントも紹介するのでぜひお役立てください。

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事業価値とは

事業価値とは、その事業がどの程度の価値を生み出すのかを、金額ベースで示したものです。主に、保有する資産や負債、キャッシュを生み出す力などを合計したものが、事業価値となります。また、無形資産としてのブランド価値や特許、商標、著作権なども事業価値を決定する要素となります。

現在保有している資産や負債のほかにも、事業の成長見込みも加味して計算されることが多いです。たとえば、新製品やサービスの展開予定、市場シェアの拡大戦略などが考慮されます。

同様に、将来的なリスクも事業価値に反映されます。業界の競争環境やマクロ経済の動向、運用リスク、法律リスクなどが考慮され、最終的な事業価値が決定されます。

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企業価値・株主価値との違い

事業価値と似たような言葉に、企業価値や株主価値があります。ここでは、それぞれどのように違うのか解説します。

事業価値と企業価値の違い

企業価値とは、会社そのものの価値を金額ベースで表したものです。保有している資産や負債はすべて企業価値に含むため、預貯金や遊休資産など、非事業用資産も含めて計算されます。一方、事業価値は企業価値の一部で、事業そのもののみの価値を金額ベースで表したもののため、非事業用資産は計算に含まれません。

事業価値と企業価値の関係性は、下記の計算式で表すことができます。

企業価値=事業価値+非事業用資産

事業価値と株主価値の違い

株主価値は、企業価値から負債を差し引き、株主に帰属する価値を算出したものを指します。負債は債権者が優先的に返済を受けるため、負債を全て清算した後の株主が受け取れる価値という意味合いです。

事業価値と株主価値の関係性は、下記の計算式で表すことができます。

株主価値=事業価値+非事業用資産-負債

関連記事:企業価値とは?計算方法や高めるための4つの方法をわかりやすく解説

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事業価値を算出する方法

事業価値を算出する方法としては、以下3つの方法があります。

  • DCF法
  • 類似会社比較法
  • 時価純資産法

DCF法は、事業価値の算出方法としてよくとられる手法です。類似会社比較法は、類似する企業が見つかっている場合に、事業価値を計算するのに用います。時価純資産法は、現在の資産に着目する算出方法のため、資産の蓄積の多い老舗企業などの企業価値算定に利用されることがあります。

以下、それぞれの手法について詳しく解説します。

DCF法

DCF法(Discounted Cash Flow法)とは、将来にわたって発生するであろうキャッシュフローを、現在価値に割り引いて合計したものを、その事業の価値とみなす手法です。DCF法は、事業価値を評価するための一般的な手法であり、投資や事業の買収、企業の評価などさまざまなシーンで利用されます。

DCF法で事業価値を評価する際の基本的なステップは次のとおりです。

1.将来のフリーキャッシュフローを予測する

フリーキャッシュフローは、事業活動から生じる現金の流れで、事業の運営に必要な投資を差し引いた後の金額を指します。将来のフリーキャッシュフローを予測するには、売上成長率、利益率、資本支出などの各種の業績指標を用いて予測を立てます。事業計画を立てて事業を行っている場合は、その計画をもとに算出することが多いです。

2.割引率を算出する

割引率は、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に戻すためのレートで、その企業が直面するリスクを反映します。一般的には、企業の財務レバレッジ(負債の比率)や事業リスク(市場の競争度合いなど)を考慮して設定されます。

計算方法は少々複雑で、負債総額と株式の時価総額の合計値を、負債コストと株主資本コストの割合に応じて、加重平均を求めることで割引率を求めます。

たとえば、金利3%の負債が5億円、利回り9%の資本金が10億円の場合、下記のように計算します。

3%×(5億円÷15億円)+9%×(10億円÷15億円)=7%

この計算で割り出した割引率を、年度ごとのフリーキャッシュフローに乗算していきます。

3.将来のキャッシュフローを現在価値に置き換える

各期のフリーキャッシュフローを割引率で割り引いて現在価値に戻し、その合計を求めます。この合計がDCF法による事業価値となります。

DCF法の長所は、将来のキャッシュフローを直接的に評価するため、事業の真の価値を反映できる点です。一方、将来のキャッシュフローの設定にはある程度主観が介入するため、評価結果はその設定により大きく変わる可能性があります。

例題として、ある小売業者の事業価値を評価する場面を想像してみましょう。最初に、将来のフリーキャッシュフローを予測する必要があります。この企業は過去数年間にわたり年間フリーキャッシュフローが均一に増加しており、その成長率は5%とします。また、現在のフリーキャッシュフローは10億円とします。

次に割引率を設定します。企業のリスク特性、業界のリスク、市場の状況などを考慮に入れて、割引率を7%と設定したとします。

これらの数値を使って、将来5年間で得られるであろうキャッシュフローの現在価値を計算します。成長率と割引率を考慮に入れると、各年度のフリーキャッシュフローの現在価値は以下のようになります。

1年目10億円 × 1.05 ÷ 1.07 ≒ 9.81億円
2年目10億円 × 1.05^2 ÷ 1.07^2 ≒ 9.63億円
3年目10億円 × 1.05^3 ÷ 1.07^3 ≒ 9.45億円
4年目10億円 × 1.05^4 ÷ 1.07^4 ≒ 9.28億円
5年目10億円 × 1.05^5 ÷ 1.07^5 ≒ 9.12億円

これらの合計がDCFによる事業価値となります。したがって、この企業のDCF法による事業価値は約47.29億円となります(例として5年分の現在価値を計算していますが、本来は以降すべての年度の金額を合計します。現在価値はある程度のところでゼロに近似するため、増え続けることはありません)。

類似会社比較法

類似会社比較法で事業価値を算出するには、事業の利益(通常は営業利益またはEBITDA)に類似会社から算出した倍数を掛ける方法が一般的です。倍数は、業界平均、同業他社の事例、または一般的な買収取引での倍数を参考にします。

1.類似企業の財務指標から倍率を算出する

まず、対象企業に類似する上場会社の事業価値を、税引後純利益、簿価純資産、EBITDA(利払前・税引前利益)などの財務数値で割ることで、倍率を算出します。

2.事業利益に倍数を掛ける

算出した倍率に対して、対象企業の純利益または簿価純資産を掛けることで、事業価値を算出します。

たとえば、あるテクノロジー企業の事業価値を計算するケースを考えてみましょう。その企業の年間EBITDA(利払い、税金、減価償却前利益)が2億円で、その企業と似た製品を扱うテクノロジー企業のEBITDA倍率が15倍とします。

この場合、事業価値を倍率法で計算すると以下のようになります。

2億円(年間EBITDA) × 15倍(業界平均EBITDA倍率) = 30億円

従って、この企業の事業価値は30億円と評価されます。

ただし、実際の事業価値評価では、業界平均の倍率だけでなく、企業の成長率、リスク、市場環境、将来的な収益性なども考慮されるため、類似会社比較法だけを用いた評価は参考の一つとすることが重要です。

また、比較的安定した業界や成熟した事業であれば類似会社比較法が有効ですが、急速に成長する産業やスタートアップ企業など、未来の収益予測が難しい場合には、DCF法など他の評価方法を組み合わせて使うことが多いです。

時価純資産法

時価純資産法は、企業の事業価値を算出するための方法の1つです。この方法は企業の資産と負債を評価し、その差分(純資産)を事業価値とするアプローチです。

企業の事業価値を評価する際の基本的なステップは次のとおりです。

1.資産と負債の時価総額を算出する

まずは、企業が所有する資産や負債を時価評価に置き換えます。時価評価の対象となるのは、売掛金・受取手形、棚卸資産、有価証券、賞与引当金、退職給与引当金などです。

時価評価に置き換えたら、すべての資産と負債をそれぞれ合計し、総資産額と総負債額を求めます。

2.資産の時価総額から負債の時価総額を引く

総資産から総負債を差し引いた金額が純資産となります。この純資産が企業の価値とされます。

時価純資産法の利点は、具体的な数値に基づいて企業価値を算出するため、客観性が担保される点にあります。また、企業が破綻した場合の清算価値を知ることができるため、リスク評価にも有用です。

しかし、このアプローチには欠点もあります。最も大きな問題点は、企業の将来の収益力や成長性を考慮に入れていないことです。資産の価値は時とともに変動するもので、特に無形資産の評価は計算する人によって主観的になる可能性があります。そのため、資産ベースアプローチはあくまで企業価値評価の一手段と捉え、他の評価方法と組み合わせて使用することが大切です。

以下では、純資産法(資産ベースアプローチ)による事業価値算出の具体例を説明していきましょう。たとえば、ある製造業の企業Aがあります。企業Aの財務データは以下のようなものだとしましょう。

総資産総負債
時価評価前5億円(棚卸資産2000万円、有価証券1000万円)2億円(賞与引当金3000万円、未払金1000万円)
時価評価後5億2,000万円(棚卸資産3000万円、有価証券2000万円)1億9,000万円(賞与引当金2000万円、未払金1000万円)

これらのデータから、企業Aの純資産(総資産 – 総負債)は3億3,000万円と計算できます。

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事業価値を高める方法

事業価値を高めるための戦略として、一般的には、以下のような戦略が考えられます。​

収益性を改善させる

収益性を改善するための戦略は多岐にわたります。まず、顧客に対しマーケティングを強化することで売上を増やすことができます。たとえば、デジタルマーケティングを導入したり、ターゲット顧客に合わせたパーソナライズされたコンテンツを提供したりすることが考えられます。また、価格戦略の見直しも有効な手段であり、価格設定を最適化することで収益性を向上させることが可能です。

一方、コスト削減による収益性の改善も重要です。業務プロセスの改善や自動化、外部のサプライヤーとの契約の見直しを行うことによって、コスト削減できる見込みがあります。

利益を多く確保できる可能性はないか、今一度戦略やコスト構造を見直すことが大切です。

投資効率を高める

事業に不要な資産がある場合は、売却し投資に充て、投資効率を高めることも重要です。

事業の成長と収益性の向上のためには、事業投資を通じて新しい技術を導入することが不可欠です。具体的には、新製品開発への投資や、生産効率を向上させるための技術改良などがあります。

これらの投資を行うために、無駄な資産を有効活用することがおすすめです。

ブランド力を強化する

ブランド力など、無形資産を有効活用し、事業価値を高める手段もあります。

ブランド力を強化するためには、質の高い商品やサービスを提供し、顧客満足度を高めることが重要です。たとえば、アップルのような企業は、一貫した品質と優れたデザインで高いブランド評価を維持しています。

また、マーケティング戦略によってブランドイメージを強化することも重要です。SNSを活用したプロモーションや、CSR活動を通じたブランドの社会的価値の向上などが考えられます。これらの戦略を通じて、ブランドの認知度と信頼性を高め、事業価値を向上させることが可能です。

これらの戦略は、企業の具体的な状況や目標に応じて、適切に選択・組み合わせる必要があります。また、一貫性のある戦略を持続的に実行することで、長期的な事業価値の向上を達成することが可能です。

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まとめ

事業価値とは、事業がどれだけの価値を生み出しているのかを測定するための重要な指標です。事業価値が高いということは、事業が生み出しているキャッシュが高いことを意味しています。事業価値は、企業価値や株主価値とは異なり、事業そのものから生み出される将来キャッシュフローをベースとして計算するのが一般的です。ただし、事業価値の計算方法は定まっているわけではないので、その計算方法の意味と限界を理解しておくことが大切です。

事業価値の計算結果には、将来キャッシュフローが大きな影響を与えるので、それを高めるためには、将来キャッシュフロー(事業の収益性)を高めなければなりません。もしM&Aを検討していて、事業価値の計算や事業価値を高める方法について頭を悩ませているのなら、M&Aの専門家に相談することをおすすめします。

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