このページのまとめ
- 株式交換比率とは、取得株式の対価として交付する自社株式の比率のこと
- 株式交換比率は、市場株価に基づき決定されることが一般的
- 市場株価がない非上場企業の場合は、企業価値評価を行い適正な交換比率を算定する
- 株式交換比率の決定においては、プレミアムを考慮することが通例
株式交換を実施するにあたって、株式交換比率の設定について悩んでいる経営者の方も多いのではないでしょうか。株式の売却対価として買収企業の株式が交付される株式交換においては、適正な株式交換比率を設定することが大切です。
本記事では、株式交換比率の計算方法や企業価値の評価方法について詳しく解説します。株式交換比率の種類や実際に行われた株式交換事例についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
株式交換比率とは
株式交換比率とは、株式交換の対価を自社株で支払う際に、売却企業の株式1株に対して買収企業が何株の自社株を交付するかを表す比率を意味します。
買収対象である企業の株式を買収企業が取得し、その対価として買収企業の株式を交付する「株式交換」というM&A手法において用いられる重要な指標です。
関連記事:株式交換とは?実施のメリット・デメリットや事例をわかりやすく解説
市場株価に基づく株式交換比率の求め方
株式交換比率は法律によって明確に定められてはいないため、株式交換を行う企業間での協議によって決定されます。
株式交換は、買収対象企業の完全子会社化を目的に用いられるスキームであるため、交換する株式比率の算定において、親会社と子会社それぞれの企業価値が重要なポイントとなってきます。
企業価値は、大半のケースにおいて「買収企業(親会社)の株価:買収対象企業(子会社)の株価」の比率が株式交換比率のベースとなります。
たとえば、親会社の株価が1株1,000円で、子会社の株価が1株500円である場合、両社の株価の比率は「親会社の株価:子会社の株価=2:1」となります。この結果、子会社の株式1株に対して親会社は0.5株を交付することになるのです。
企業価値評価に基づく株式価値の評価方法
市場株価に基づいて求められる株式交換比率は、非上場企業の場合は市場株価が存在しないことから、株価の比率に基づく適正な交換比率を割り出すことが困難となります。
そこで非上場企業の株式交換においては、企業の価値評価スキームを活用して1株あたりの評価額を決定するというアプローチがとられます。評価額は、さまざまな要素を複合的に勘案して導き出されることから、より将来性やブランド力などを考慮した交換比率を求めることが可能です。
そのため、市場株価がある上場企業同士のM&Aにおいても、株式交換比率を求める際に企業価値評価というアプローチを取る企業も少なくありません。
ここからは、代表的な3つの企業価値の評価方法について解説していきます。
1.マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、市場における取引価格に基づき企業の価値を測る評価方法で、類似点がある企業の実際のデータを参考に価値評価を行います。
類似企業選定には大きく2つの視点が用いられ、企業規模が類似している同業種企業の株価などの市場価値を比較する類似企業比較法と、実際のM&A取引情報を比較する類似取引比較法があります。
この方法を用いるには、類似する企業の情報が公開されていることが前提となるため、類似する企業情報が見つからない場合は、マーケットアプローチで価値評価を行うことはできません。
2.コストアプローチ
コストアプローチは、財務諸表をベースに企業の価値を測る評価方法です。当該企業の実際の財務データをもとに評価を行うため、データを探す手間が不要というメリットがあります。
コストアプローチは、賃借対照表に記載されている純資産額から負債額を引いた額から減価償却などを考慮し、企業価値を算定していきます。
コストアプローチによる評価方法には、簿価を基準とする「簿価純資産法」と時価を基準とする「時価純資産法」の2つがあり、近年はより正確に企業価値を評価することができるとして時価純資産法を用いるケースが増えています。
時価純資産法の計算式は、「時価評価した資産-時価評価した負債」です。時価とは、購入時の価格(=簿価)ではなく、現在売買する場合における価格を指します。
時価評価の対象となる資産は、有価証券や土地・建物などの固定資産、売掛金、棚卸資産、退職給付債務などです。これらの資産を時価評価したうえで、合計資産から合計負債を差し引き、残った金額をその企業の価値とみなします。
3.インカムアプローチ
インカムアプローチは、将来的な利益を想定して企業の価値を測る評価方法です。
評価方法には、将来予想されるフリーキャッシュフローを想定して企業価値を評価する「DCF法」と、株式の配当金に基づき評価する「配当還元法」の2つのアプローチがあります。フリーキャッシュフローとは、企業が得た利益のうち、自由に使える現金のことを指します。営業するにあたって、必要となる投資費用などは含まれません。
DCF法は、企業の将来性を加味して企業価値を算出できる手法として、M&Aにおいて用いられるケースがよく見られます。
固定性株式交換比率と変動性株式交換比率の違い
株式交換時に適用する株式交換比率は、ある2つのタイミングのいずれかで決定されます。、どの時点のにおける比率を用いるかでによって「固定性」と「変動性」の2種類に分けることができます。
固定性株式交換比率と変動性株式交換比率には、以下のような違いがあります。
- 固定性株式交換比率:株式交換契約締結時に決定した比率を用いて、株式交換を行う
- 変動性株式交換比率:株式交換契約締結時に交換比率を決定せずに、株式交換の効力発生日の直近の一定期間における株価に基づいた交換比率を用いて、株式交換を行う
株式交換比率の決定は株価変動の影響を受けやすいためことから、どのタイミングの株価を基準とするして株式交換を行うかでによって、株式交換を行う両企業それぞれに異なるメリット・デメリットが生じます。
固定性株式交換比率のメリット・デメリット
固定性株式交換比率を用いる場合、買収企業は交換比率と交換する株式の数をあらかじめ決定しておくことで、その後の株価変動による株式の希薄化リスクを抑えることができます。
その反面、子会社化した企業の株式の取得対価が株式交換の効力発生日まで確定しないため、買収企業にとっては効力発生日までのれんの計上額を確定することができないというデメリットが生まれます。
一方、買収され完全子会社となる企業にとっては、株式交換契約の締結を発表することで買収企業の株価が上昇すれば、その値上がり益を享受することができます。
しかし株式交換の効力発生日までの間に買収会社の株価が変動する可能性が高いことから、もしも下落した場合はダイレクトに取得対価にも影響が及ぶという点がデメリットとなります。
変動性株式交換比率のメリット・デメリット
変動性株式交換比率を用いることにより、買収企業は契約締結時にのれんの計上額を確定することができるというメリットが生まれます。
一方で、自社の株式を何株交付するかが効力発生日まで確定しないため、株式の希薄化リスクが高まることになってしまいます。
完全子会社化される企業にとっては、変動性株式交換比率を用いることで効力発生日までの間に生じる株価の変動リスクを回避することができます。
その反面、株式交換契約締結による値上がり益は得られないという点がデメリットとなります。
株式交換比率にプレミアム支払いを考慮するケースも
株式交換において、買収価格と評価額に生じた差額のことを「プレミアム」と呼びます。企業価値算定の際に評価しにくいノウハウなどの無形財産の対価としてプレミアムを支払うケースが多く、株主とのトラブル回避のためにも通例となっています。
株式交換比率を決定する際に、プレミアムを考慮して比率を決めるケースもあります。その場合、株価の30〜40%がプレミアムとして考慮される額の目安となります。例えば、市場株価が500円の場合、プレミアムを考慮した金額である650〜700円を当該企業の株価として、株式交換比率を決めていくという具合で進められます。
株式交換における交換比率の事例
ここからは実際に株式交換を行った3つの企業事例をもとに、どのくらいの株式交換比率でM&Aが成立したかをみていきましょう。
トヨタ自動車とダイハツ工業の株式交換
トヨタ自動車株式会社は、2016年8月1日付でダイハツ工業株式会社との株式交換を実施し、同社を完全子会社化しています。
その際の株式交換比率は「トヨタ自動車:ダイハツ工業=1:0.26」とされ、ダイハツ工業の株式1株に対し、トヨタ自動車の株式が0.26株が交付される形で株式交換が成立しました。
トヨタ自動車は、世界的な需要拡大が見込まれる小型自動車の開発・製造体制をダイハツ工業と一元化することによる競争力の強化を目的に、本株式交換を実施しています。
参照元:ダイハツ工業株式会社「トヨタ自動車株式会社によるダイハツ工業株式会社の株式交換による 完全子会社化に関するお知らせ」
パナソニックと三洋電機の株式交換
パナソニック株式会社は、2011年4月1日付で三洋電機株式会社との株式交換を実施し、同社を完全子会社化しています。
株式交換比率は「パナソニック:三洋電機=1:0.115」とされ、三洋電機の株式1株に対し、パナソニックの株式0.115株が交付される形で株式交換が成立しました。
パナソニックは事業再編の一環として、事業部門集約によるコスト削減や増販効果による増収益を目指すことを目的に本株式交換を実施しています。
参考元:パナソニック株式会社「パナソニック株式会社による三洋電機株式会社の 株式交換による完全子会社化に関するお知らせ」
三菱化学と日本化成の株式交換
株式会社三菱ケミカルホールディングスの完全子会社である三菱化学株式会社は、2017年1月1日付にて同社の連結子会社である日本化成株式会社との株式交換を実施し、日本化成を完全子会社化しています。
株式交換比率は「三菱ケミカルHD:日本化成=1:0.21」とされ、日本化成の株式1株に対し、三菱ケミカルHDの株式0.21株が交付される形で、株式交換が成立しました。
三菱ケミカルホールディングスは、グループ企業が持つ経営資源の最適配分を図ることにより、競争力・収益力の向上を目指すことを目的として本株式交換を実施しています。
出典元:株式会社三菱ケミカルホールディングス「三菱化学株式会社による日本化成株式会社の株式交換による完全子会社化に関するお知らせ」
まとめ
株式交換において、株式交換比率の決定はM&Aの成功を左右する重要なプロセスです。正確な企業価値の評価や適切なタイミングでの交換比率を用いること、またプレミアムを考慮することで公平性の高い株式交換が実現します。
株式交換比率の決定には、多角的に企業価値を評価するプロセスが発生するため、取引経験や専門知識が必要となる場面に多く直面します。不適切な比率で株式交換を実施してしまうと、結果的に不利な条件で完全子会社化が進められてしまうことから、専門知識を持ったプロフェッショナルにサポートを仰ぎながら進めていくことをおすすめします。
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