このページのまとめ
- 店舗売却は、設備や内装も含めた居抜きで売却するスタイルが一般的
- M&Aスキームを利用した店舗売却の方が有利な条件で成約できる可能性が高い
- M&Aによる店舗売却では、株式譲渡と事業譲渡の手法が用いられることが多い
- 高値での売却を実現するためには、査定で高評価を得ることが重要
- 店舗売却によって発生する税金は、売り手が法人か個人かによって異なる
店舗の売却について悩んでいる経営者の方も多いのではないでしょうか。できるだけ有利な条件で店舗の売却を成功させるためには、店舗の価値を高く評価してもらうことが大切です。
本記事では、店舗売却を成功させるためにおさえておくべきポイントについて詳しく解説します。高評価につながる査定ポイントやM&Aスキームで店舗売却を行うことのメリットに加え、費用や税金についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
店舗売却とは
店舗売却とは、事業者が所有する店舗や賃借している店舗を、企業や個人に売却することを指します。
賃借している店舗を売却したい場合は、店舗の貸主の許可を得ることができれば可能になります。特に、賃借店舗で運営している事業を廃業する場合において、原状復帰のためにかかる多額の費用を回避するために、店舗の設備や内装を残した居抜き物件として売却することが多くあります。
店舗売却の方法
店舗売却においては、どのような状態で店舗を売り渡すかによって、それぞれメリットとデメリットが生じます。
代表的な方法としては次の3つが挙げられるでしょう。
店舗売却のパターン | 売却する範囲 | 具体例 |
1. スケルトン | 店舗の場所のみ | 不動産業、雑貨店など |
2. 居抜き | 店舗の場所だけでなく設備や内装全般 | 美容サロン、飲食店など |
3. M&A | 店舗自体だけでなくブランドや店舗名、技術力などの無形資産も含む | チェーン店など |
以下でそれぞれの方法について詳しく解説します。
1. スケルトン状態で店舗を売却する
スケルトン物件とは、内装や設備・造作を全て解体・撤去した状態の物件を指します。
「造作(ぞうさく)」とは、現在の店舗入居者が入居時に設置したものを指し、棚やカウンターなどの家具から空調・厨房などの設備、照明、天井や壁に至るまで多岐に渡ります。居抜き物件での売却の場合は、造作もそのまま引き継がれますが、スケルトン物件での売却の場合は、造作はすべて解体・撤去しなければなりません。
そのため、スケルトン物件の売却を行う際には、売り手は原状回復コストを負うことになります。
原状回復コストがかかるデメリットが発生する一方で、売却相手をスピーディに見つけられるメリットがあります。スケルトン物件は、0からの店作りができるので購入希望者が集まりやすく、短期間かつ売り手の希望価格で売却成立の可能性が高くなるのです。
好立地で業種を問わず成功できそうな場合や、不動産業・雑貨店など、店舗設備に専門性や初期投資があまり必要とされない業種の場合に有効な売却手段と言えるでしょう。
2. 居抜きで店舗を売却する
スケルトンと異なり、内装や設備、造作も含めた売却方法を居抜きと言います。居抜き物件の売却は、売り手にとっては退去コストを大幅に削減できる点が最大のメリットとなります。
退去コストを大幅削減できる理由は、店舗の立ち退き時に義務付けられている原状回復が不要になるためです。
店舗の立ち退きに際しては、基本的に原状回復を義務付けられていることがほとんどであるため、設備の撤去や造作の解体などさまざまな費用が必要となります。しかし、居抜きでそのまま次の利用者に引き渡すことで、そういった原状回復費用が不要となるのです。
店舗設備に特殊な内装などを必要とする美容サロンや飲食店などでは居抜きが採用されやすいと言えます。
なお居抜きでは、貸主との契約内容に違反していないか確認が必要です。契約に原状回復義務が課されている場合も存在するため注意しましょう。
3. M&Aで店舗を売却する
上記のスケルトンと居抜きでの売却は、店舗の資産そのものを対象とするケースでした。しかし、店舗売却の手法はそれだけではりません。店舗の名前やブランド、従業員、技術力などの無形資産も売却するケースとして、M&Aが用いられることもあります。
M&Aでの売却は、無形資産も加える分、売却価格が高くなる可能性がある点や売却後の成長・拡大が見込める点がメリットです。
一方で、手続きが煩雑になり、時間とリソースを必要とする点がデメリットと言えるでしょう。
チェーン店などのように知名度があり高いブランド力を有している場合、顧客層をしっかりと獲得できている場合、また店舗オーナーが今後全く別の事業や引退を考えている場合などで有効な手段となります。
M&Aによる店舗売却で用いられる手法
M&Aによる店舗売却においては、株式譲渡や事業譲渡という手法が用いられるケースがよく見られます。ここでは、それぞれの手法について解説していきます。
株式譲渡
株式譲渡とは、売却企業の株式の売買によって経営権を買い手に譲り渡すというM&A手法です。
株式の保有割合が実質的な経営権を示す基準となるため、経営権を行使できる割合の株式を買い手が取得するだけで売却が完了するという、手続きの簡便さが株式譲渡の大きなメリットです。具体的な割合としては、1/2以上の株式を保有していると経営権があるとみなされます。
また、株式譲渡実施においては経営権の譲渡が主たる目的となることから、譲渡企業が雇用している従業員や取引先、各種許認可などはそのまま残るため、これまで培ってきた経営資源をスムーズに継承することができます。
事業譲渡
事業譲渡とは、ある特定の事業のみを他社に売却するというM&A手法です。
事業譲渡による店舗売却の場合、売却後も自身が経営する会社が残るという点が株式譲渡との大きな違いとなります。
事業譲渡は、不採算事業を手放すことで経営再建を図るといった事業再編目的で用いられるケースが多く見られます。
また、売却する事業にかかる人材や顧客リスト、各種契約や許認可などの資産の中から、譲渡対象とする資産を選択できるため、必要な資産は手元に残しておくことができます。
加えて、株式を持たない個人事業主であっても、事業譲渡を行うことで店舗売却を行うことができます。
株式譲渡や事業譲渡それぞれについての詳しい解説は、別の記事にて掲載しておりますのでこちらも併せてご一読ください。
関連記事:
「事業譲渡のメリットとは?手続きや税務、他のM&A手法との違いを解説」
「株式譲渡と事業譲渡の違いとは?M&A手法としてのメリット・デメリット」
店舗売却の流れ
店舗の売却はスケルトン、居抜き、M&Aの3種類が一般的であると解説しましたが、売却の流れはそれぞれの手法によって異なります。
スケルトン・居抜きでの売却の流れ
スケルトンや居抜きの形式で店舗を売却する手続きは、以下のような流れで進められていくことが一般的です。
- 業者によるヒアリング:不動産会社やM&A仲介業者による売却する店舗情報のヒアリング
- 現地査定・調査:実際の店舗を訪問し物件の状態や周辺環境を確認し、物件価格を査定
- 販売活動:マッチングプラットフォームなどを利用して購入希望者を募集
- 契約締結:売り手と購入希望者の双方が売買条件に合意したら、売買契約を締結
- 引き渡し:売却代金の支払い後に店舗が正式に引き渡され、売却プロセスが完了
売買契約の締結に際しては、売却手続きが完了した後の対応も定められるため、しっかりと双方で合意しておくことが大切です。
M&Aでの売却の流れ
一方のM&Aでは、店舗売却に限らず通常のM&Aと同様の流れを経る必要があります。従って、適切な買い手先の選定や基本合意、デューデリジェンス、最終契約というステップで進めていきましょう。
- M&Aの手法や目的・条件などの整理
- M&A仲介業者などを介した買い手候補の調査・マッチング
- 秘密保持契約の締結・基本条件交渉
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終契約の締結・クロージング
M&Aの流れについての詳細は下記記事も参考にしてみてください。
関連記事:「M&Aのフロー・流れとは?手順や進め方を解説!手続きに必要な書類も紹介」
店舗売却価格の算定方法
店舗の売却価格は、業態や業種、物件の立地や状態などを総合的に勘案して算定されるため、売却価格の目安はそれぞれ異なります。そのため、適正な売却価格がわからず条件交渉に不安を抱く方は少なくないでしょう。店舗売却のパターン別に、売却価格の算定方法を紹介します。
スケルトンの算定方法
スケルトンでの売却価格は、設備などを全て撤去するため、賃貸マンションなどと同様に、地価や市況に応じた建物・土地の残存価値で決定されます。
ただし、そもそもの店舗が賃貸で運営していた場合、権利は貸主に帰属します。店舗オーナー自身には、スケルトン売却によるリターンが基本的に発生しないことに留意が必要です。
従って、店舗オーナーが建物の所有者である場合のみ、スケルトンでの売却価格は次の計算式で算出されます。
売却店舗の評価額 = 建物の残存価値 + 土地の残存価値
居抜きの算定方法
居抜きでは、スケルトンでの価値に加えて、設備や内装などの価値も上乗せされます。ただし、建物などと同様に、店舗の机や調理器具などの設備も初期投資額から減価償却されるため、購入価格よりは目減りしていることに注意しましょう。
一方で、内装のデザインなどで多少のプレミアムを乗せられる可能性があることはポイントとなります。
売却店舗の評価額 = 建物の残存価値 + 土地の残存価値 + 設備の残存価値 + 内装などでのプレミアム
M&Aの算定方法
M&Aでは上記2つの手法とは異なる方針で考えられます。通常の企業売買での考え方と同様に、将来性や現在の資産価値、類似企業との比較などを行いながら算定されますが、簡易的な計算として下記の計算式が挙げられるでしょう。
売却店舗の評価額 = 造作全般にかかった費用 + 直近3年間の営業利益の平均値 × 3
上記計算式における「造作全般にかかった費用」とは、「店舗を作るためにかかった費用」を意味します。
簡単な計算式ではありますが、比較的客観性の高い店舗の評価額を算定することができるため、業種や形態、立地などで価値の考え方は異なることに留意しつつも、参考の範囲内で利用してみてください。
ちなみにこの計算式においては、当該店舗のブランド力や集客力・収益力といった無形財産の価値は営業利益に反映されているものとして評価します。
M&Aにおける売却価格の計算には、より専門的な知識や複雑な考え方が必要となるため、興味のある方は下記の記事も併せてご参照ください。
関連記事:「M&Aにおける価格算定の方法は?適正金額を算出するアプローチ方法を紹介」
店舗売却価格の相場
10〜15坪程度の平均的な小規模店舗を売却した場合、売却価格の大体の相場は100万〜250万円程度です。その他の目安としては、坪単価の5〜10倍程度の価格を売却価格算定の基準とするケースもあります。
いずれにせよ、店舗の業種・業態・立地条件や内装設備など、様々な条件を総合的に勘案したうえで適正な売却価格が算定されるため、上記相場より高くなるケースも低くなるケースも存在します。
関連記事:会社売却の相場や税金はどれくらい?準備からクロージングまでの流れも解説
店舗売却価格の評価額アップにつながる査定ポイント
「できるだけ高い価格で店舗を売却したい」というのが、多くの売り手の正直な気持ちでしょう。
ここからは、売却価格設定において重要なプロセスとなる店舗の査定において、評価額アップにつながる査定ポイントについてパターン別に解説していきます。
スケルトンの場合の査定ポイント
スケルトンの場合、別途、貸主がいれば売却益はそもそも得ることはできませんが、店舗オーナーが所有者であれば、通常の不動産と同様、その店舗の土地や建物の良さがそのまま価格につながります。
従って、賃貸マンションなどからイメージしやすいように、土地や建物の価値を高める代表的なポイントとしては次のような点が挙げられます。
- 店舗の立地
- 物件の大きさ・形
- 築年数
居抜きの場合の査定ポイント
居抜きでは上記のスケルトンのポイントに加えて、残しておく設備や店舗の内装などの良さが高評価に寄与します。また、目で見てわかりやすい新しさやデザインはもちろんのこと、レイアウトや配置などの変更のしやすさもポイントとなるでしょう。
- 設備の利便性や新しさ
- 内装のデザイン
- 設備や店舗構造の変更しやすさ
M&Aの場合の査定ポイント
M&Aでは上記のような店舗そのものの価値に加えて、企業・事業としての価値が問われることになります。
M&Aにおける売却価格の算定式にもあったように、営業利益などの企業の財務情報も重要ですし、従業員のスキルやノウハウなどの無形資産、企業としての健全性や安定性につながるリスクの小ささもポイントになるでしょう。
- 財務状況
- 事業の成長性・将来性
- 業種・市場
- 従業員のスキル
- 技術力・ノウハウ
- 訴訟などのリスクの小ささ
店舗売却の注意点
店舗の売却においては評価額を高めることに焦点を当てがちですが、いくつかの注意点があることも忘れてはなりません。
押さえておきたい注意点としては次の4点が挙げられるでしょう。
- 事前に必要書類を揃えておく
- 契約書関連
- 登記簿謄本
- 設備一覧
- 店舗の間取り図
- リース品やレンタル品がある場合は買い手への引き継ぎ、または解約手数料や残債の支払いを行う
- 備品の不具合などをなくしておく
- 店舗を借りている場合は賃貸借契約上の解約予告日を確認しておく
必要書類の準備や解約日の確認など基本的なことも含まれますが、見落としやすい点としては設備や備品の取り扱いが挙げられます。
リース品やレンタル品が含まれる場合は、そもそもの売却対象から外れる可能性がありますし、売却対象となる場合でも、その契約の引き継ぎ事項などを確認しておく必要があります。また、当然のことながら設備や備品などに不具合がないか確認しておくことに留意しましょう。
店舗売却にかかる費用
店舗売却では、各種手続きを進めていく中でいくつかの費用が発生します。ここでは、店舗売却する際に発生する代表的な3つの費用について解説していきます。
仲介手数料
店舗売却を行うにあたって不動産会社やM&Aの仲介会社を利用している場合は、仲介手数料の支払いが発生します。
一般的な不動産売買においては、宅地建物取引業法(以下、宅建法)によって不動産会社に支払う仲介手数料が定められています。
しかし、2023年8月時点では、居抜き店舗の売却にかかる仲介手数料は宅建法の対象とはならず、手数料に関する法制度も未整備であるため、業者ごとに独自に仲介手数料を設定しているのが現状です。そのため業者によって仲介手数料の価格にばらつきがあるものの、一般的には「売買価格の10%程度」を手数料の目安とするとよいでしょう。
また、M&A仲介会社を利用する場合、仲介会社では相談料・着手金・中間金・デューデリジェンス費用・成功報酬費用といった様々な手数料が発生します。
ただし全ての仲介会社において必ず上記手数料が発生するわけではありません。完全成功報酬型というスタイルで、M&Aが成立するまで一切の料金が発生せず、成立時に売却価格の何割かを手数料としてまとめて支払うという料金体系を設けている会社も多く存在します。
承諾料
賃貸物件の店舗を運営している事業者が店舗売却を行う場合、物件のオーナーに承諾料の支払いを求められることがあります。テナントとして店舗を運営している事業者は、店舗と一緒に店内の設備も売却することを、オーナーに事前に承諾してもらわなければ、売却手続きに入ることはできません。
承諾料に関しては、法律で定められている費用ではないため、あくまで双方の合意のうえに発生するものとなりますが、請求された場合には支払うことが通例となっています。価格は、店舗の売却価格の10%程度を目安としておくと良いでしょう。
税金
店舗を売却した際に得られる売却益は、課税対象となります。ただし、売却した事業者が法人か個人かによって、課せられる税金の種類が異なってきます。
売り手が法人の場合
店舗売却を行ったのが法人である場合、売却益はその他損益に加算されて、法人税と事業税の課税対象となります。
年間所得額に応じて、法人税と事業税の税率は異なるため、売却益を含めた所得額を確認しておくことが大切です。
加えて、売買契約締結の際に契約書に印紙を貼付して納める印紙税も忘れないようにしましょう。
印紙税は、店舗の売却価格に応じて以下のように変動します。
100万円以下:500円
500万円以下:1,000円
1,000万円以下:5,000円
5,000万円以下:10,000円
1億円以下:30,000円
5億円以下:60,000円
印紙の貼り忘れが発覚すると、本来支払うべき印紙税額の3倍の額を過怠税として納めることになるため、注意が必要です。
売り手が個人の場合
店舗売却を個人が行った場合、売却益は「譲渡所得」として所得税と住民税の課税対象となります。ただし店舗売却においては、店舗物件や土地の売却益と備品や什器などの売却益それぞれに対して異なる課税方法が適用となります。
備品・什器などの資産の売却益は、給与所得などと合算した所得額に応じて累進課税で税率を決定するようになります。物件や土地の売却益は、譲渡所得として扱われ、分離課税として単体で所得税と住民税の計算が行われます。
譲渡所得税に適用される税率は、店舗の所有期間に応じて以下のように変動します。
- 所有期間が5年超:所得税15%+住民税5%
- 所有期間が5年以下:所得税30%+住民税15%
ただし譲渡所得とは、店舗の売却価格ではなく、店舗の利益から店舗の取得にかかった費用と譲渡にかかった費用とを差し引いた額を指すため、譲渡所得と売却価格を混同しないようにしましょう。
M&Aをはじめとする売却時の税金については非常に高度な知識と専門性を要するため、税理士などの専門家との連携が不可欠です。より詳しい内容は下記記事にて解説していますので、併せてご参照ください。
関連記事:「会社売却時の税金は?節税対策やM&Aでの法人売却のメリットも解説」
まとめ
店舗売却は、M&Aのスキームを利用して行うことで、売却対象とする資産や売却後の選択肢の幅が広がるだけでなく、より高値での売却が実現する可能性が高くなります。これは、物件や内装設備などの有形資産の評価に加え、M&Aでは店舗のブランドや人材、これまで培ってきたノウハウなどの無形資産も売却価格に反映されるためです。
店舗売却を成功させるためには多角的な視点から店舗や運営会社を査定・評価し、現在の経営状況や経営課題、今後のビジョンなども勘案したうえで、希望する売却スタイルを戦略的に決めていくことがポイントです。有利な条件での売却を進めるための戦略策定から実行、各種手続きにおいては、豊富な専門知識や取引経験が有利に働く場面も多いことから、専門家にサポートを依頼することをおすすめします。
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