このページのまとめ
- 友好的買収とは、売却企業と買収企業の双方が合意のうえで進められる買収を指す
- 友好的買収により、企業成長や事業拡大が効率的に進められることが期待できる
- 友好的買収の方法は、買収対象とする内容によって複数の手法から選ぶことができる
- 友好的買収の成功ポイントは、入念な準備と買収後の丁寧な統合にある
効果的な企業買収の方法について悩んでいる経営者の方も多いのではないでしょうか。トラブルなく円滑に優良企業を買収するためには、丁寧な戦略策定と入念な下準備、そして慎重な経営統合を行うことが大切です。
本記事では、友好的買収によって期待できるさまざまなメリットについて詳しく解説します。実際の買収事例を踏まえながら、買収を成功させるポイントや具体的な買収方法についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
友好的買収とは
友好的買収とは、買収対象の企業と買収をする側の企業の双方が合意のうえで行われる買収を意味します。
友好的買収では、買収対象企業の経営陣や株主と融和を図りながら、買収後の協力関係を築いていくことが重視されます。友好的買収を行う際は、買収により両社の利益の最大化や高いシナジー効果を追求できるよう戦略を考えることが大切です。
友好的買収と敵対的買収の違い
友好的買収と敵対的買収の最大の違いは、当事者間で合意がなされたうえの買収であるかどうかという点にあります。両社合意のうえでの買収であれば友好的買収、合意に至らない状態での買収であれば敵対的買収となります。
たとえば、、株式公開買付(TOBによって合意のない株式買い占めが行われ、株式の過半数を取得されることで、敵対的買収が成立してしまいます。
TOBによる敵対的買収の事例としては、2019年の伊藤忠商事株式会社による株式会社デサントの買収が挙げられます。
デサント社はスポーツウェアを専門に手掛ける大手メーカー。伊藤忠商事社はデサント社の筆頭株主として、役員の派遣や原料調達、商品企画、バリューチェーンの強化などの支援を行ってきました。ところが、デサント社の取締役会の不備やMBOの提案をきっかけに、伊藤忠商事社はデサント社との資本関係を強化し、経営体制の刷新を要求することになりました。デサント社はこれに応じず抵抗したため、伊藤忠商事社はTOBによる敵対的買収に踏み切り、2019年3月に買収が成立しています。
このように、買収先の会社が拒否をしたとしても買収が成立してしまうものが敵対的買収といえます。
伊藤忠商事株式会社「株式会社デサント株式に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」
友好的買収のメリット・デメリット
当事会社の双方が合意のうえで実施される友好的買収においても、メリットとデメリットが存在します。ここでは、友好的買収を行ううえで考慮すべきメリットとデメリットについて解説していきます。
友好的買収のメリット
友好的買収には以下のようなメリットが考えられます。
- 企業成長・事業成長が見込める
- 敵対的買収よりも成功率が高い
それぞれのメリットについて詳しくみていきましょう。
1.敵対的買収よりもシナジー効果を得やすい
友好的買収の実施により、円滑にシナジー効果を得られるというメリットが期待できます。
友好的買収においては、買い手と売り手双方の企業が協力的な関係性を維持した状態で経営統合が進められることから、互いの経営資源をうまく活用しやすくなります。
敵対的買収では、売却企業側の社内で抵抗感や反発が高まってしまうリスクがありますが、友好的に買収を進めることで、買収後の社内に連帯感や一体感が生まれやすくなります。
このように友好的買収によって社内に協力的なムードが醸成されていくことで、シナジー効果を得られやすい環境が構築されていくのです。
2.敵対的買収より成功率が高い
友好的買収は、売却企業が合意のうえで買収手続きに入るため、買収成立までのプロセスを円滑に進めやすいことから、買収が成功する確率が敵対的買収に比べて高くなります。
売却企業側の合意が得られずに一方的に進められる敵対的買収では、買収に必要な情報や重要な情報を買収企業が得られないため、デューデリジェンスをはじめとする各手続きに手間と時間を費やすことになってしまいます。
加えて敵対的買収においては、売却企業側が買収防止策を講じた場合、買収を仕掛けている最中に頓挫してしまう可能性もあるため、買収が成功する確率は友好的買収に比べて格段に低くなってしまうのです。
友好的買収のデメリット
友好的買収には以下のようなデメリットが考えられます。
- 株主の権利・利益が保護されない可能性がある
- シナジー効果が生まれない可能性がある
- 簿外債務・偶発債務・不正会計のリスクがある
それぞれのデメリットについて詳しくみていきましょう。
1.株主の権利・利益が保護されない可能性がある
売却企業と買収企業の双方が利益を享受できる一方で、両社の株主の権利が蔑ろにされてしまったり、経済的損失を被ってしまう可能性があります。
日本の法制度は株主の保護に関する部分において、アメリカなどの諸外国に比べて未整備な部分が多く残っている一方で、国内における企業買収の事例は増加傾向にあり、その方法も多様化しています。
そのような背景から、売却企業の経営陣が自社を買収するMBO(マネジメント・バイアウト)などにおける株主の排除(スクイーズアウト)や、適切な情報開示がなされないままに買収が完了してしまうケースなどが問題視されています。
しかし2023年8月時点では、まだ企業買収における株主保護に関する法制度に目立った進展はないため、企業買収によって不利益や損失を被るリスクがあることを株主は理解しておく必要があるでしょう。
2.簿外債務・偶発債務・不正会計のリスクがある
企業買収では、優秀な人材や技術といった経営資源を獲得できるというポジティブな面がある一方で、M&Aの手法によっては、売却企業が抱える債務や負債も引き継ぐことになるというネガティブな側面が存在します。
デューデリジェンスにより実態を把握したうえで買収が実施できれば問題はないのですが、どれだけ念入りに調査を行っても、買収後に帳簿に記載されていない債務(簿外債務)の存在や不正会計が発覚する可能性をゼロにすることはできません。
他にも、商品のリコールや顧客や取引先に対する損害賠償といった将来発生するかもしれない債務(偶発債務)を負うリスクも買収企業は引き継ぐことになります。
このようなリスクをできるだけ回避するためにも、買収前のデューデリジェンスは念入りに実施することが大切なのです。
M&Aにおける友好的買収の手法
友好的買収においては、当事会社の経営状況や希望条件に応じてさまざまなM&A手法が用いられます。ここでは、友好的買収に用いられる、以下の代表的な5つのM&A手法について解説していきます。
- 株式譲渡
- 株式交換
- 株式移転
- 第三者割当増資
- 事業譲渡
それぞれの手法について詳しくみていきましょう。
1.株式譲渡
株式譲渡は、売却企業の株式を買収企業が取得するM&A手法です。
多くの場合、買収企業は経営権を行使できる過半数の株式を取得し、売却企業の経営に対する影響力を増大させます。
株式譲渡は、株式の移転という手続きのみで完了するスキームであるため、売却企業の従業員や取引先、各種契約や許認可などは特に影響を受けることなく存続します。
2.株式交換
株式交換は、売却企業の全株式を買収する対価として、買収企業の株式を売却企業に交付し、完全子会社化するM&A手法です。
売却企業は買収企業の株式を保有することになるため、一定割合以上の株式を保有することになると、親会社である買収企業の経営にも関与することができます。
3.株式移転
株式移転は、売却会社の全株式を新しく設立した会社へと移転させるM&A手法です。
株式移転では、売却企業の全株式を取得した新設会社が親会社となり、売却会社が子会社という関係になります。
共同経営という形をとるために、複数の企業が株式移転を行うというケースも見られます。
4.第三者割当増資
第三者割当増資は、企業が発行した新株を特定の第三者に引き受けてもらうことで増資を図るという方法です。
増資目的であれば取得する株式の割合はケースバイケースとなりますが、M&Aにおいて第三者割当増資が行われる場合は、大半が経営権の行使が可能な過半数の株式を引き受けます。
5.事業譲渡
事業譲渡は、企業が展開する事業の一部、または全てを買収するM&A手法です。
事業譲渡では、株式譲渡などのスキームと異なり、事業単位での売却が可能となるため、事業にかかる不動産や知的財産、許認可などの中から必要なものだけを選択して売買することができます。
友好的買収の成功事例と失敗事例
友好的買収にも、成功事例と失敗事例が存在します。
ここからは、友好的買収の成功と失敗それぞれの事例について解説していきます。
友好的買収の成功事例
友好的買収に成功した企業事例は以下の2つです。
- ソフトバンク社によるボーダフォン日本法人の買収
- 資生堂社による米Giaran社の買収
各事例の詳細をみていきましょう。
ソフトバンク社によるボーダフォン日本法人の買収
携帯キャリア大手のソフトバンク株式会社は、2006年3月に英携帯キャリア大手のボーダフォンの日本法人であるボーダフォン株式会社を買収することを発表しました。
当時ボーダフォンは世界トップシェアを誇る携帯キャリアとして急成長を遂げており、日本国内においても第3位の地位を築き、国内において順調に顧客基盤の獲得とインフラ整備を進めていました。
ソフトバンク社は、ボーダフォンが構築した顧客基盤と携帯電話インフラを獲得することで、新規事業として参入した携帯電話事業を急速に成長させ、2023年においては国内第3位のシェアを誇る携帯キャリアとなるまでに成長しています。
出典元:
ヤフー株式会社「ボーダフォン株式会社の買収およびヤフー株式会社との 携帯電話事業に関する業務提携について」
総務省「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表 (令和3年度第4四半期(3月末))」
資生堂による米Giaranの買収
日本の大手化粧品メーカーである株式会社資生堂は、2017年11月に米スタートアップのGiaran,Inc(以下Giaran社)の買収を発表しました。
Giaran社は、世界的に著名な人工知能(AI)専門家であり科学者のレイモンド・フー氏によって創設された企業で、AI技術を駆使したディープラーニングや予測モデリングなどのアルゴリズム開発を行っている企業です。
資生堂社は同社の高いAI・デジタル技術を活用し、2023年に顧客の一人一人が生まれ持った肌の特徴を含むDNAを検査することによって総合的なアドバイスを行うサービス「Beauty DNA Program(ビューティ・ディーエヌエー・プログラム)」の展開を発表しています。
資生堂社が培ってきた皮膚科学研究とGiaran社の優れたAI技術との融合により、ビューティ分野における革新的なパーソナライズサービス誕生に成功しています。
出典元:株式会社資生堂「資生堂がアメリカ地域本社を通じて米国ベンチャー企業Giaran Inc.を買収 | ニュースリリース詳細」「資生堂「Beauty DNA Program」 7月21日(金)より本格展開 | ニュースリリース詳細」
友好的買収の失敗事例
友好的買収の失敗事例として、以下の2つの企業の事例を紹介します。
- キリンホールディングス社による伯スキンカリオール社の買収
- 東芝社によるウェスチングハウス社の買収
各事例の詳細をみていきましょう。
キリンホールディングス社による伯スキンカリオールの買収
大手飲料メーカーのキリンホールディングス株式会社(以下キリン社)は、2011年8月にブラジルを拠点にビール・清涼飲料事業を展開するスキンカリオール社を子会社化することを発表しました。
ブラジル国内で第2位のシェアを誇るビール事業を持つスキンカリオール社の買収により、市場拡大が見込まれるブラジル市場への参入の足がかりとなることをキリン社側は見込んでいました。
しかし買収後、ブラジル経済の低迷とビールの価格競争の激化により、スキンカリオール社はシェアを他社に奪われ赤字経営に陥っています。
キリン社は経営再建を図ったものの状況は好転せず、最終的に同事業を高収益事業にすることには限界があると判断し、スキンカリオール社(当時はブラジルキリン)を2017年にオランダの大手ビールメーカーであるハイネケン・インターナショナル社の子会社のババリア社に売却しています。
本買収の失敗においては、ブラジルの社会情勢や競合他社の動向を含む市場調査不足が原因と考えられています。
出典元:キリンホールディングス株式会社「スキンカリオール・グループの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」「2015.12.21_ブラジル子会社減損損失の発生、通期連結業績予想の修正、及び単体業績に係る関係会社株式評価損の発生に関するお知らせ」「定時株主総会 招集ご通知(P32)」
東芝社によるウェスチングハウス社の買収
株式会社東芝は、2006年2月にアメリカの大手原子力会社、ウェスチングハウス社の全株式を取得し、同社を完全子会社化したことを発表しました。
当時の東芝は、世界各地の原子力発電設備を手がけた豊富な実績を誇るウェスチングハウス社を買収することで、今後の原子力事業強化とエネルギー関連事業のグローバル展開を図り、自社のプレゼンスを高めることを目指していました。
しかしアメリカにおける原発建設のコスト増などにより、ウェスチングハウス社の経営状況は悪化の一途を辿った結果、2017年に経営破綻しています。
子会社の破綻による巨額の損失を受けた東芝は中核事業を売却せざるを得なくなり、さらには粉飾決算を行っていたことも発覚したことから、東芝本体の業績も大幅に悪化してしまいました。
本買収の失敗は、原発事業の将来性や収益性に対する経営層の過度な期待や透明性に欠ける経営体制など、さまざまな要因によって引き起こされたと考えられています。
出典元:株式会社東芝「ウェスチングハウス社株式取得による原子力事業の強化について」「ウェスチングハウス社が英国で原子力燃料事業を獲得」「当社保有のウェスチングハウス社関連資産の譲渡及び当社2018年3月末時点の株主資本の見通しについて」
友好的買収を成功させるポイント
売却企業と買収企業が合意のうえで行われる友好的買収においても、さまざまな要因が明暗を分けることにつながります。
そのため、友好的買収を成功させるためには以下のようなポイントに注意して買収を進めていくことが大切です。
- 買収目的を明確にする
- 企業価値を適正に評価する
- 慎重・丁寧にデューデリジェンスを実施する
- PMI(経営統合)に注力する
- 現実的な経営戦略を策定する
それぞれのポイントについて詳しくみていきましょう。
1.買収目的を明確にする
買収目的が曖昧な状態で買収交渉を始めてしまうと、買収後に意図しない結果を招くことにつながります。
「なぜ買収が必要なのか?」「買収によってどのような効果を得たいのか?」という部分を明確にしたうえで買収対象となる企業の選定や買収方法の決定に進まなければ、期待するようなシナジー効果を得ることができず、誤った相手を買収してしまう可能性が高くなります。
自社の目的を達成するために適した相手と適した方法で買収を進めるためには、まず目的の明確化からスタートすることが重要です。
2.企業価値を適正に評価する
先述の買収失敗事例からも見て取れるように、買収対象とする企業の価値を見誤ってしまうと、大きな損失を招く結果となりかねません。
財務諸表上の数字や株価だけを頼りに企業価値を評価してしまうと、簿外債務や偶発負債、不正会計などのリスクに気付けないまま、買収してしまうおそれがあります。
表面的な高評価や風評に煽られて過大評価してしまうことのないよう、買収対象とする企業の価値評価は慎重に行うことが大切です。
3.慎重・丁寧にデューデリジェンスを実施する
買収対象企業の財務状況やコンプライアンスを調査するデューデリジェンスは、買収の結果を大きく左右する重要なプロセスです。
デューデリジェンスでは、買収対象企業の現在の経営状況だけでなく、将来的な業績見通しやリスクなども多角的に調査するため、ここでの調査が不十分に終わってしまうと、潜在的リスクを見逃したまま買収を進めてしまう可能性が高くなります。
デューデリジェンスでは、調査する対象や範囲を企業側で設定することができるため、買収を進めるうえで重要度の高い項目から優先順位をつけて、慎重に調査を行うようにしましょう。
4.PMI(経営統合)に注力する
M&A成立後に行う経営統合のプロセスを意味するPMI(Post Merger Integration)は、買収後のポジティブなシナジー効果を生むうえで重要性の高いプロセスです。
友好的買収のデメリットとしてもあげたとおり、買収後に期待したシナジー効果が得られない場合の大きな理由には、円滑な経営統合に失敗していることが考えられます。
企業買収は、売却企業と買収企業双方の社内にさまざまな影響を及ぼし、ともすれば従業員の間で混乱や軋轢、反発が生まれてしまうリスクをはらんでいます。
統合を阻害する要因を排除し、スムーズに経営統合を進めるためには、阻害要素を丁寧に分析し理解を深めながら、双方の企業同士が良好な関係性を築くことができる環境を整備することが重要です。
計画的かつ友好的にPMIを進めていくことで企業成長や事業拡大の促進につながるため、買収後の統合計画もしっかりと策定しておきましょう。
5.現実的な経営戦略を策定する
買収に失敗する企業事例の傾向をみてみると、事前に策定している経営戦略が楽観的で現実味に欠けていたことが失敗の原因として挙げられます。
買収は本来、企業が自社の成長や事業拡大を目指すうえで抱えている何らかの課題を解決するために経営戦略の一環として実施されるものです。
そのため、経営戦略策定の段階で、現実的な数字やデータを根拠として買収に関わるさまざまな要因の分析や買収による期待値の設定を行うことが大切です。
「買収すればなんとかなるだろう」という楽観的な気持ちで戦略策定を進めてしまうと、買収後に期待した効果が得られず、逆に損失を生む結果となってしまうおそれもあるため注意しましょう。
まとめ
友好的買収は、売却企業と買収企業の双方が合意のうえで進められることから、リスクが少なく、ウィンウィンな効果が期待できるという印象を与えてしまいがちです。
丁寧なデューデリジェンスや経営統合を実施することで、当事会社の双方にとってポジティブな効果を生み出すことができた成功事例が多い一方で、楽観的に買収戦略を進めてしまったことにより大きな損失を被ることになった失敗事例も少なくはありません。
友好的買収を成功させるためには、以下の点に注意して進めていくとよいでしょう。
- 現実的な経営戦略を策定する
- 買収を行う目的を明確にする
- 目的に適した買収対象企業を選定する
- 目的に適した買収方法を選ぶ
- 買収相手となる企業の価値評価を丁寧に行う
- 重要項目を優先して慎重なデューデリジェンスを行う
- 計画的かつ友好的にPMIを実施する
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