後継者人材バンクとは?事業承継に活かすメリットや手順などを解説
2023年10月10日
このページのまとめ
- 後継者人材バンクは後継者不在の中小企業と個人起業家をマッチングする公的サービス
- 団塊世代が引退時期を迎えるため、後継者不在問題に悩む企業が多い
- 後継者人材バンクを利用すれば、自社に適した後継者人材を紹介してもらえる
- まだ知名度がそこまで高くなく、成約実績が少ない点がデメリット
後継者がいないことにお悩みで、後継者人材バンクの詳細が気になっている経営者の方もいるのではないでしょうか。後継者人材バンクとは、後継者不在の中小企業と、事業承継で起業を希望する人材をマッチングする公的サービスのことです。
本コラムでは、後継者人材バンクの概要や事業承継に活かすメリット、利用手順などを解説します。後継者人材バンクが重要とされる理由やデメリットもお伝えするため、ぜひ参考にしてください。
目次
「後継者人材バンク」とは
後継者人材バンクとは、後継者不在の中小企業と、事業承継によって起業を希望する人材をマッチングする公的サービスのことです。運営は中小企業庁からの委託事業として設置された、各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターが行っています。
中小企業から事業承継に関する相談があった際に、名簿に登録されている事業承継を希望する個人起業家から条件に合う人材をピックアップし、紹介するサービスです。士業の専門家などになんらかの業務を依頼するケースを除き、事業承継・引継ぎ支援センターが行うサービスについては費用が発生しないことが特徴です。
後継者人材バンクが重要とされる理由
後継者人材バンクが重要とされる理由として、主に以下の3点が挙げられます。
- 後継者がいないことに悩む起業が多い
- 経営者だけでM&Aを進めることが難しい
- 起業したいと考える人を支援できる
それぞれの内容を確認していきましょう。
1.後継者がいないことに悩む企業が多い
近年、経営者に多い世代である団塊世代が引退時期を迎えるため、後継者不在問題に悩む企業が多くみられます。
帝国データバンクが公表した「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」によると、2022年の後継者不在率は57.2%でした。後継者不在率は2017年の66.5%をピークとして、それ以降は減少傾向にあるものの、依然として50%を超える企業が後継者不在の問題を抱えていることがわかります。
また、日本政策金融公庫の「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」では、60歳以上の経営者のうち60%超が将来的な廃業を予定していることが明らかになっており、廃業のうち、約3割の理由が「後継者難」です。
後継者人材バンクによる後継者がいない中小企業と個人起業家のマッチングは、中小企業の後継者不在を理由とした廃業の防止につながります。
参照元:
帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」
日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」
2.経営者だけでM&Aを進めることが難しい
経営者だけでM&Aを進めることが困難であることも、後継者人材バンクが重要とされる理由の1つです。M&Aによる事業承継は定着しつつあるものの、当事者のみでM&Aを行うのは簡単ではありません。
中小企業の経営者のほとんどは多忙であり、事業承継を決意したとしても、実行するために詳細を調べたり準備をしたりといった時間を捻出することは難しいと考えられます。また、買い手を見つけられる可能性は高くありません。さらに、仮に買い手が見つかった場合でも双方が条件に同意するまで交渉が難航したり、不利な条件を提示されたりするリスクもあるでしょう。
後継者人材バンクがサポートに入ることで、事業承継の手続きがスムーズに進みやすくなります。
3.起業したいと考える人を支援できる
起業したいと考える人を支援できるのも、後継者人材バンクが重要視される理由といえるでしょう。起業意欲があっても、資金やノウハウ不足によって踏み出せないケースもあります。また、起業できたとしても、事業が軌道に乗るまでは多くの費用や時間を要すると考えられます。
しかし、後継者人材バンクに登録して既存の事業を引き継ぐことで、起業に関するリスクを軽減することが可能です。さらに、後継者人材バンクは、起業意欲のある後継者人材の育成支援も行っています。
後継者人材バンクを利用するメリット
後継者人材バンクを利用するメリットは、主に以下の3点です。
- 自社に適した後継者とのマッチングにつながる
- 地方部の企業も活用しやすい
- 公的支援機関であり信頼できる
1つずつ解説していきます。
自社に適した後継者とのマッチングにつながる
後継者人材バンクを利用すれば、自社に適した後継者人材を紹介してもらえる可能性があります。子どもや親族、社内の人材に経営を引き継ごうとしても、意欲や適性に欠ける場合も少なくありません。
しかし、後継者人材バンクに登録されているのは、事業承継を希望している意欲ある人材です。さらに、その中から、自社の経営方針に適している後継者をマッチングしてもらえます。
地方部の企業も活用しやすい
後継者人材バンクは、地方部の企業も活用しやすく、利便性が高い点も魅力です。事業承継・引継ぎ支援センターは、全国47都道府県に設置されているため、サービスを利用するために都市部に足を運ぶ必要はありません。地方にある企業でも、最寄りの事業承継・引継ぎ支援センターを利用できます。
公的支援機関であり信頼できる
公的支援機関であるため信頼性が高いのも、後継者人材バンクのメリットです。さらに、紹介を受けた外部の専門家などに業務を依頼するケースを除き、基本的に後継者人材バンクは無料で利用することが可能です。しかし、金融機関や民間のM&A仲介会社に依頼した場合、基本的には手数料がかかります。
後継者人材バンクは公的支援機関であるため、はじめて利用する経営者でも安心して相談できるほか、資金面の不安がある場合でも気軽に利用できるでしょう。
後継者人材バンクを利用するデメリット
後継者不在に悩む企業の経営者にとっても、事業承継によって起業を志す人材にとってもメリットの多い後継者人材バンクですが、以下のようなデメリットも存在します。
- 後継者人材バンクの実績がまだ少ない
- 個人保証債務の引継ぎが原則必要になる
順番に解説していきます。
後継者人材バンクの実績がまだ少ない
徐々に知名度が高まってきているものの、後継者人材バンクの実績がまだ少ない状況であることに注意しましょう。独立行政法人中小企業基盤整備機構の「令和3年度 事業承継・引継ぎ支援事業の実績について」によると、2021年度の成約数は53件、2014年度から8年間の累計成約数は187件でした。
2021年度の成約数は過去最高数でしたが、この数字は47都道府県に存在する事業承継・引継ぎ支援センターでの成約数の合計であり、まだそれほど多くないことがうかがえます。
個人保証債務の引継ぎが原則必要になる
後継者人材バンクを利用したケースに限りませんが、事業承継をした場合、個人保証債務は原則、後継者に引き次がれる点もデメリットといえるでしょう。
「個人保証」とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が連帯保証人になることを指します。中小企業の信用を補完できるというメリットがある一方、経営者個人の財産が取り立ての対象となるため、生活に支障をきたす可能性があります。
ただし、2014年から運用されている中小企業庁の「経営者保証に関するガイドライン」を利用することで、一定の条件を満たせば、後継者が個人保証を引き継がずに事業承継を実現することが可能です。また、先代経営者の個人保証を解除することもできます。
参照元:中小企業庁「経営者保証のガイドライン」
後継者人材バンクを利用する流れ
後継者人材バンクは、以下の流れで利用するのが一般的です。
- 創業支援機関へ相談する
- 事業承継・引継ぎ支援センターでの面談
- 後継者人材バンクへの登録
- 相手とのマッチング
- 条件交渉
- 事業承継成約
それぞれの項目について、解説していきます。事業承継・引継ぎ支援センターによって手順が異なる場合があるため、詳細は各地域の事業承継・引継ぎ支援センターにお問い合わせください。
1.創業支援機関へ相談する
事業承継を希望する個人起業家は、商工会議所や商工会などの創業支援機関に相談に行き、創業支援機関が実施する創業セミナーなどを受講のうえ、後継者人材バンクに登録の申し込みをします。
2.事業承継・引継ぎ支援センターでの面談
個人起業家からの相談を受けた創業支援機関は、後継者人材バンク登録申込書を事業承継・引継ぎ支援センターに送付します。個人起業家との面談を実施するのは、創業支援機関から後継者人材バンク登録申込書を受け取った事業承継・引継ぎ支援センターです。面談における確認ポイントは、主に以下の2点です。
- 起業意欲
- 事業承継における希望条件
また、後継者を探す中小企業経営者は、事業承継・引継ぎ支援センターなどに直接、申込書を提出します。なお、中小企業経営者の相談は、各種連携機関でも行うことが可能です。
3.後継者人材バンクへの登録
中小企業経営者は、希望条件などを含めて後継者人材バンクに会社情報を登録します。事業承継・引継ぎ支援センターで面談を受けた個人起業家も、後継者人材バンクに属性情報や希望条件などが登録され、その後は両者とも、希望条件に合った相手がマッチングされるまで待機する期間です。
4.相手とのマッチング
中小企業経営者と個人起業家のマッチングは、事業承継・引継ぎ支援センターが行います。打診の段階では相手が匿名で記載された資料を確認し、双方が面会を希望する場合、秘密保持契約の締結を行ったうえで対面での話し合いがスタートします。
5.条件交渉
事業承継に向けた条件交渉は、中小企業経営者と個人起業家の当事者のみで行うわけではありません。適宜、事業承継・引継ぎ支援センターのサポートを受けられるため、安心です。
なお、基本的に事業承継・引継ぎ支援センターのサポートは無料で受けられますが、契約書作成などで専門家に業務を依頼する際は費用が発生することが一般的です。
6.事業承継成約
中小企業経営者と個人起業家、双方の条件面の折り合いがついたら、成約の手続きに移ります。成約に際しての各種手続きも、事業承継・引継ぎ支援センターがサポートに入ります。成約手続きで実施するのは、以下の2点です。
- デューデリジェンス
- 最終契約書の締結
デューデリジェンスは、金額面の交渉に影響を及ぼす、買収などのM&Aでは欠かせないプロセスです。具体的には、売却側の企業のリスクの調査や、企業価値を評価するための情報収集や確認などを行います。
デューデリジェンスが完了し、その内容を踏まえた最終交渉で合意形成された場合、最終契約書を締結してM&Aの取り引きを完了させます。最終契約書には法的効力があることに注意しましょう。成約後も引き続き、事業承継者は事業承継・引継ぎ支援センターで経営相談などをすることが可能です。
まとめ
後継者人材バンクとは、後継者不在の中小企業と、事業承継によって起業を希望する人材をマッチングする公的サービスのことです。運営は中小企業庁からの委託事業として設置された、各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターが行っています。
後継者人材バンクは、近年、後継者不在問題に悩む企業が多いことや、経営者だけでM&Aを進めることが難しいことなどを背景に注目されつつあります。また、自社に適した後継者とのマッチングにつながる点や、地方部の企業も利用しやすい点、公的機関であるため信頼性が高い点などが魅力です。
一方、デメリットとしては、後継者人材バンクの成約実績がまだ少ないことなどが挙げられます。後継者人材バンクの知名度は徐々に高まってきているものの、登録数が限られている点に注意しましょう。
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