グリーンメーラーに対する防衛策とは?用語の意味や過去事例とともに解説
2023年10月4日
このページのまとめ
- グリーンメーラーとは、高値での売却益獲得を目的に株式の買い占めを行う人のこと
- 語源は、Greenback(米ドル紙幣)+Blackmail(脅迫状)
- 高裁四類型に該当する買収である場合、企業は無条件に買収防衛策を行使できる
- 代表的な防衛策には、ポイズンピル・パックマンディフェンス・MBOがある
グリーンメーラーによる意図しない買収を防ぐにあたって、防衛策の策定を検討している経営者の方もいるのではないでしょうか。防衛策の策定においては、グリーンメーラーの特徴や過去の事例について知ることが大切です。
本記事では、グリーンメーラーに対する防衛策について詳しく解説します。防衛策の正当性の判断基準となる高裁四類型やグリーンメーラーによるトラブル事例についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
グリーンメーラーとは
グリーンメーラーとは、上場企業の株式を買い占め、その株式を発行企業の経営陣や関係者に高値で買い戻すよう要求する人物のことを指します。
株式の買い占めと買い戻し要求を行う行為を意味するグリーンメール(Greenmail)の語尾に、「〜を行う人」を意味する「-er」をつけることで生まれた造語がグリーンメーラーです。
グリーンメールの一義的な目的は、短期間での株式の売却益獲得です。経営戦略の一環として企業や事業の合併・買収を行うM&Aとは根本的な目的が異なるため、グリーンメールはM&A手法としてはみなされません。
しかし、当初は経営権取得を目的として敵対的買収を仕掛けた投資家が、希望どおりの取引が叶わず買収に失敗した際に、グリーンメーラーとなって保有する株式の買取を要求するといったケースもあり、全くM&Aと無関係な行為とも言い切れないのです。
グリーンメーラーの語源と英語の意味
Greenmailという英単語は、米ドル紙幣を意味するGreenbackに、脅しや恐喝、脅迫状などの意味を持つBlackmailを掛け合わせることで生まれた造語です。
グリーンメールでは、株式取得者の要求に発行会社が応じない場合、望まない第三者への株式転売を行うなどの圧力をかける手段に出ることも珍しくはありません。
脅迫的な買取要求でお金(ドル紙幣)を奪い取っていくイメージから、このような行為をグリーンメール、その行為を行う個人や企業をグリーンメーラーと呼ぶようになったのです。
グリーンメーラー防衛策の高裁四類型
グリーンメーラーの標的となったとき、その株式取得の目的が定められた4つのパターンのいずれかに該当する場合において、グリーンメールを仕掛けられた企業側は無条件で買収防衛策を講じることが可能となります。
この定められた4つのパターンは高裁四類型と呼ばれ、株式の買い占めや敵対的買収を巡る裁判においても重要な判断基準となっています。
ここからは高裁四類型が誕生した背景と、該当する4つのパターンについて解説していきます。
高裁四類型が生まれた背景
高裁四類型は、2005年の株式会社ライブドアによる株式会社ニッポン放送買収を巡る泥沼訴訟がきっかけとなって生まれました。
通称ライブドア事件と呼ばれる一連の買収劇においては、ライブドア社がニッポン放送社株の過半数取得を進めていた際に、ニッポン放送社側が防衛策として講じた新株予約権発行決議に対し、ライブドア社側が行った差し止め請求が認められ、ニッポン放送社側は新株発行を断念するという結果に至っています。
このとき東京高等裁判所が、買収を仕掛けられた企業側が買収防衛策を講じることが無条件に認められる4つパターンを示し、それを軸に判決を下したことから、この4つのパターンを指す高裁四類型が買収防衛策の正当性を測る基準として用いられるようになったのです。
ちなみにライブドア事件においては、この高裁四類型に該当する事案ではないと判断されたため、差し止め請求が認められました。
高裁四類型における4つの買収パターン
高裁四類型では、買収を仕掛ける側の企業や投資家の行為とその目的によって、買収対象となった企業側が無条件で防衛策を講じることができるか否かを判断するとしています。
ここでは、それぞれのパターンの具体的な内容を解説していきます。
1.グリーンメーラーが株式を取得する
株式取得を行っている相手がグリーンメーラーである場合、買収を仕掛けられた企業側は防衛策を行使することが認められます。
先述のとおり、グリーンメーラーの目的は取得した株式の高値での売却です。
防衛策はあくまで高値での買取要求に応じないために講じる策となるため、その正当性が認められます。
2.焦土化経営を買収目的としている
買収した企業の資産を他社へ売却することで、買収対象となった企業の価値を著しく低下させること(焦土化)を目的としている場合、買収対象となっている企業側で防衛策を講じることが認められます。
企業の焦土化は、株主はもちろん、当該企業の経営全体に悪影響を与えるため、焦土化目的の買収に対してはしっかりと対抗することが重要です。
3.自社の債務弁済のための原資獲得を目的としている
買収を仕掛けた側の企業や投資家が債務を抱えており、買収後に得られるであろう収益をその弁済に充てることを目的に敵対的買収を仕掛けた場合においても、仕掛けられた側の企業は防衛策を行使することができます。
弁済のための資金獲得が目的となる買収においては、買収後も高い収益性が見込める、価値の高い企業が対象となるケースが大半です。
4.資産を売却して売り抜けることを目的としている
買収した企業が保有するさまざまな資産の売却による売却益獲得を目的とした買収においても、買収対象となった企業側は無条件に防衛策を行使することが可能です。
このような売り抜け目的の買収は解体型買収と呼ばれ、グリーンメーラー同様に短期的な利益獲得が目的であり、将来的な企業価値を損なうことにつながることから、買収を仕掛けられた企業側による防衛策行使には正当性が認められます。
グリーンメーラーに対する防衛策
グリーンメーラーに対して企業側は主に3つの方法で対抗することが可能です。
ここでは、代表的な3つの防衛策について解説していきます。
ポイズンピルを行う
グリーンメールによる株式取得に対して、発行企業が新株予約権を発行・交付する買収防衛策のことをポイズンピルといいます。
ポイズンピルを行うことによって、グリーンメーラーの持株比率を低下させることができるため、敵対的買収の防衛策としても用いられることの多い代表的な防衛策です。
パックマンディフェンスを仕掛ける
買収対象となった企業が、逆にグリーンメーラーの株式を買い占めていくことをパックマンディフェンスと言います。
パックマンディフェンスはテレビゲームのパックマンから着想を得た呼び名で、防衛策というよりも、敵対的買収に対する反撃策という性格が強い手法です。
買収対象となる企業は、パックマンディフェンスによりグリーンメーラーの株式の1/4以上の株式を取得することで、買収対象企業の株式に対するグリーンメーラーの議決権を無効化することができます。
パックマンディフェンスは、グリーンメーラーが上場企業である場合においてのみ使うことのできる防衛策で、買収対象となる企業とグリーンメーラーとが互いの株式を取得し合うことで消耗戦となる可能性が高いというデメリットがあります。
MBOにより上場を廃止する
自社の株式を経営陣が買い取るMBO(Management Buyout)による上場廃止も、グリーンメーラーからの防衛策として有効に働きます。
上場企業がMBOを実施し上場廃止となることで、株式が市場に出回らなくなることから、グリーンメーラーの標的にされるというリスクを排除することができます。
グリーンメーラーによるリスクを根本からなくすことができる一方で、企業の経営において信用力の低下やガバナンスの低下などの悪影響を招く恐れがあります。
グリーンメーラーが引き起こした3つの事例
グリーンメーラーはその強行的な手法から、過去にもトラブルに発展した事例が少なくありません。
ここからは、グリーンメーラーが引き起こした代表的な3つの事例について解説していきます。
事例1.小糸製作所社
日本においてグリーンメーラーの存在が注目されるきっかけとなった事例として、1989年に起こった株式会社小糸製作所の買収が挙げられます。
トヨタ自動車株式会社の系列会社であった小糸製作所社の株式買い占めを行ったのは、アメリカの有名投資家ブーン・ピケンズ氏で、同氏はトヨタ自動車社による小糸製作所株社の高額買取を目的とし、グリーンメールを実施しました。
当時、閉鎖的だった日本の株式市場や企業構造に突然外国人投資家が乗り込んできたという強烈なインパクトを与えた本件は、官庁や法曹界を含む日本社会全体を巻き込んだ大騒動に発展し、日本企業が外国人投資家と初めて真剣に対峙した有名事例となっています。
結局、国を挙げての攻防はピケンズ氏の撤退により幕を閉じましたが、日本企業がグローバルスタンダードに基づく経営戦略やガバナンス強化に取り組むようになる大きな転機となりました。
事例2.ブルドックソース社
ソース会社のブルドックソース株式会社は、2007年にアメリカの投資会社スティール・パートナーズ社から敵対的TOBを仕掛けられました。
その後ブルドックソース社が発表した敵対的買収防衛策(ポイズンピル)に対し、スティール・パートナーズ社が差し止め請求を行ったものの、先述の高裁四類型によりグリーンメーラーと認められたため差し止めは棄却され、ポイズンピルが行使されています。
本件はライブドア事件をきっかけに導入された新たな判断基準である高裁四類型に基づく判例として注目を集めると同時に、改めて海外のグリーンメーラーやアクティビスト、投資ファンドの影響力が増大している現実を日本企業が認識した事例となっています。
事例3.芝浦機械社(旧東芝機械社)
2020年1月、旧村上ファンド系投資ファンドである株式会社シティインデックスイレブンスは、芝浦機械株式会社(旧東芝機械株式会社)に対し、株式の44%取得を目指す敵対的TOBを仕掛けています。
芝浦機械社はポイズンピルによる買収防衛策を発表し、臨時株式総会にて防衛策が可決されたことを受け、シティインデックスイレブンス社はTOBを撤回し事態は終結しています。
本買収の目的としてシティインデックスイレブンス社は、経営権の取得を挙げているものの、具体的な経営方針等が明示されなかったこと、そして、芝浦機械社に対して保有株式の高値での買取打診があったことが報じられ、同社をグリーンメーラーとする見方が強まりました。
本件は、それまで日本企業において一般的であった平時型の買収防衛策よりも、実際に買収が発生してから防衛策を導入する有事型の買収防衛策の必要性が高まっていく発端となった事例としても有名です。
本件を皮切りに、2021年以降、敵対的TOBの増加と比例するように有事型買収防衛策の事案は急増しており、その一方でもともと社内に設けていた平時型買収防衛策導入の中止を選択する企業が増加するという動きが顕著になっています。
まとめ
グリーンメーラーは、短期的な売却益獲得を目的として、株式発行企業の経営陣や関係者に対し、買い占めた株式を高値で買い取るよう要求する個人や企業のことを指します。その強行的な進め方によって、グリーンメーラーはトラブルとなりやすく、これまでもさまざまな訴訟に発展した事例を確認することができます。すべての上場企業はグリーンメーラーの標的となるリスクを抱えていることから、日ごろからグリーンメーラーはもちろん敵対的買収に対する防衛策を準備しておくことが大切です。
防衛策には、平時型と有事型の2つがあり、近年は有事型防衛策の事案が増加していることから、いつグリーンメールや敵対的TOBの対象となっても速やかに対応できるようにしておくことが企業には求められています。また、防衛策の策定や実際に買収が発生した際の各種手続きの進め方や判断基準に関しては、ケースバイケースで適切な形で対応する必要があるため、企業買収や株式取引に長けた専門家のサポートを受けることをおすすめします。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社では、企業買収や投資において高い専門性を誇るコンサルタントが、企業買収・売却や株式買取に対して、スムーズな進行をサポート致します。料金体系は完全成功報酬型ですので、M&Aのご成約まで無料でご利用いただけます(譲受会社のみ中間金あり)。無料相談も承っておりますので、M&Aをご検討の際にはぜひお気軽にお問い合わせください。