このページのまとめ
- 株式移転計画書とは、株式移転を行う際に必要となる書類
- 株式移転計画書に記載するべき内容は会社法で定められている
- 株式移転計画書は印紙税は不要
- 株式移転後は新設会社の登記申請が必須
M&Aで買収を検討する方の中には、株式移転を検討している方もいるのではないでしょうか。株式移転を行うには、株式移転計画書が必要となります。
本コラムでは、株式移転計画書を作成する時期や記載事項を解説。また、株式移転を行う手順についてもご紹介します。そのほか、新株予約権を発行する場合の手続きや印紙税などについても解説します。株式移転を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
株式移転とは
株式移転とは、新たに会社を設立し、その新設会社に1社または2社以上の既存会社の全株式を移して完全親子会社関係を創設するM&A手法のひとつです。
新設会社は既存会社の全株式を取得するため、既存会社の完全親会社になります。既存会社は完全子会社です。
株式移転を実施する目的の多くは、グループ企業をホールディングス化することです。株式移転を行うことで、完全親会社は完全子会社の経営戦略に関する意思決定を管理できます。完全子会社は、さまざまな株主の意見に左右されることなく、事業運営に専念できるというメリットがあります。
単独株式移転
既存会社が1社だけで行う株式移転の場合は、単独株式移転にあたります。この場合、既存会社A社のみが新設会社C社に全株式を移して完全親子会社の関係になります。
共同株式移転
2社以上の既存会社が新設会社に株式を移すパターンは、共同株式移転と呼びます。例えば、既存会社であるA社と既存会社であるB社の全株式を、新たに設立するC社に移すという流れです。
なお、共同株式移転を行う場合は独占禁止法に抵触しないかどうかに注意が必要です。
共同株式移転の場合で、いずれか1社に係る国内売上高の合計額が200億円を超え、さらにほかのいずれかの1社に係る国内売上高の合計額が50億円を超えている場合は、公正取引委員会に届出が必要となります。
ただし、共同株式移転をしようとする会社が同一の企業結合集団に属している場合、届出は不要です。
関連記事:株式移転とは?手続きの流れやメリット、株式交換との違いなどを解説!
株式移転計画書とは
株式移転計画書は、株式移転を行う際に必要となる書類です。株式移転を実施する際に最初の手続きとして作成されます。必要事項は会社法で定められており、必要事項が記載されていなければ株式移転を実行できません。
株式移転の流れと株式移転計画書作成の時期
株式移転の大まかな流れは、以下のとおりです。
- 株式移転計画書を作成する
- 事前開示するための書類を本店に備えておく
- 株主総会を開催して株主からの承認を得る
- 債権者保護手続きや株式買取請求などの手続きを行う
- 完全親会社となる新設会社設立の登記申請を行う
以下でそれぞれ詳しく説明していきます。
1.株式移転計画書を作成する
株式移転を行う際には、株式移転計画書を作成します。会社法に基づいた必要事項を載せてください。
株式移転計画書に記載が必要な内容は、後述の「株式移転計画書に記載すべき事項」で解説します。
株式移転計画書は、専門家のサポートをもとに作成するのがおすすめです。専門家の支援を受ければ、複雑な書類作成もスムーズに進めることができます。
2.事前開示するための書類を本店に備えておく
株式移転計画書を作成したら事前開示書類を用意し、書面または電子データにて本店に備えておく必要があります。
事前開示書類は以下の最も早い日から6ヶ月間、本店に備えおくことが会社法で定められています。
- 承認決議を行う株主総会の2週間前
- 新株予約権買取請求にかかる通知または公告
- 株式買取請求にかかる株主への通知または公告
- 債権者保護手続きの通知または催告
上記の中から一番早い日を選択し、本店に備えておきましょう。
3.株主総会を開催して株主からの承認を得る
株式移転を行うには、株主総会の特別決議で承認を得ることが会社法で定められています。また、通常の株式とは権利内容が異なる種類株式を発行している場合は、それぞれの種類の株主総会の特別決議が必要となるため、注意してください。
4.債権者保護手続きや株式買取請求などの手続きを行う
新設会社が既存会社の新株予約権付社債を承継した際は、債権者保護手続きを行います。
債権者保護手続きは、債権者ごとに個別に催告し、国が発行する機関誌である官報へ公告を行います。債権者保護手続きは、会社法によって1ヶ月以上の請求期間を設けるようにが定められています。
また、買取請求された場合、請求に対応しなければなりません。買取請求できる者は、以下のとおりです。
- 議決権を行使できない株主
- 株式移転に反対する株主
- 既存会社の新株予約権者
ただし、既存会社の新株予約権者が買取請求できるのは、以下のいずれかに該当した場合のみです。
- 完全親会社から交付される新株予約権の内容がすでに権利内容として決められた条件に合わない新株予約権者
- 株式移転を行う際に、完全親会社の新株予約権が交付されると定められているにもかかわらず、取り扱いがされない新株予約権者
株主および新株予約権者が買取請求をできる期間は、株式移転の20日前から効力が発生する前日までです。
5.完全親会社となる新設会社設立の登記申請を行う
新設会社は株式移転の効力発生日を迎えたら、登記申請を行う必要があります。会社設立の登記などを行いましょう。
既存会社は株主が移るだけなので変更登記は必要ないことがほとんどですが、例外も存在します。
新株予約権を新設会社に移す場合は、新株予約権の変更(消滅)登記が必要となります。その際の変更登記は、新設会社の登記申請と同時に行わなければならないため、注意しましょう。
株式移転計画書に記載すべき事項
株式移転計画書は、会社法の773条により記載すべき事項が定められています。必要事項は、以下のとおりです。
- 目的や商号など新設会社の基本事項
- 新設会社の定款で定める事項
- 新設会社の取締役や会計参与・監査役等の氏名
- 新設会社の株式数とその割当て等に関する事項
- 新設会社の社債等の種類、数とその割当て等に関する事項
- 新設会社の新株予約権の内容、数とその割当て等に関する事項
それぞれ詳しく解説していきます。
1.目的や商号など新設会社の基本事項
株式移転計画書には、会社法773条1項1号によって新設会社の基本事項を記載するように定められています。基本事項には、新設会社を設立する目的、商号、本店の所在地、発行可能株式総数などが含まれます。
2.新設会社の定款で定める事項
株式移転計画書には、会社法773条1項2号によって新設会社の定款で定める事項を記載するように定められています。
新設会社の定款で定める事項には、取締役会・監査役会などの機関設置の有無などが含まれています。なお、実務上は定款で定める事項を書き連ねるのではなく、株式移転計画書の別紙として添付する傾向にあります。
3.新設会社の取締役や会計参与・監査役等の氏名
株式移転計画書には、会社法773条1項3号、4号によって新設会社の取締役や会計参与・監査役等の氏名を記載するように定められています。
具体的には、下記に当てはまる場合は、それに応じて該当者の氏名を記載する必要があります。
- 新設会社が会計参与設置会社である場合は「設立時の会計参与の氏名」を記載
- 新設会社が監査役設置会社である場合は「設立時の監査役の氏名」を記載
- 新設会社が会計監査人設置会社である場合は「設立時の会計監査人の氏名」を記載
設立時に任命された者全員を記載しましょう。
4.新設会社の株式数とその割当て等に関する事項
株式移転計画書には、会社法773条1項5号、6号によって新設会社の株式数とその割当て等に関する事項を記載するように定められています。
株式移転では、既存会社の株主から保有する株式を回収し、それに代わり新設会社の新株を発行して株主に割り当てます。その株式をいくつ発行したか、もしくはその数の算定方法を記載してください。また、それに伴った資本金や資本準備金についても記載する必要があります。
また、既存会社の株主に割り当てる新株の割合も詳しく記載しましょう。一般的には、事前に作成した株式名簿に従って箇条書きで記載します。
5.新設会社の社債等の種類、数とその割当て等に関する事項
株式移転計画書には、会社法773条1項7号、8号によって新設会社の社債等の種類、数とその割当て等に関する事項を記載するように定められています。
新設会社が既存会社の株主に対して、保有する株式を回収する代わりに社債等を発行する際は、社債内容と各社債の合計金額もしくはその数の算定方法を記載しなければなりません。また、新株予約権が付いた社債を発行する場合も同様に、新株予約権と社債内容と社債の合計金額もしくはその数の算定方法を記載しましょう。
6.新設会社の新株予約権の内容、数とその割当て等に関する事項
株式移転計画書には、会社法773条1項9号、10号によって新設会社の新株予約権の内容、数とその割当て等に関する事項を記載するように定められています。
既存会社の株主が新株予約権を保有している際、新設会社は既存会社の新株予約権に代わって、新株予約権を発行する必要があります。その場合の詳細と新株予約権を既存会社にどのように割り当てたのかについて記載しましょう。
参照元:会社法「e-Gov法令検索」
株式移転計画書に印紙税は必要?
印紙税とは、経済取引などで作成される文書に課される税金のことです。作成者が作成した書類に収入印紙を貼り付けることで納税します。
株式移転計画書は印紙税の対象とはならず、収入印紙を貼る必要はありません。その理由は、株式移転計画書は、課税対象となる文書が記載されている印紙税法別表第一に掲載されていないからです。
ただし、株式移転計画書として文書が作成されていても、印紙税の対象となる事項が定められている場合は印紙税が必要です。不動産の譲渡など、印紙税が必要な事項がある場合は注意してください。
株式移転計画書作成における2つの注意事項
株式移転計画書は、株式移転を実行するのになくてはならない重要な文書です。作成時には以下2点に注意しましょう。
- 記載事項についてあらかじめ確認しておく
- 株式移転を行う全社が共同で計画書を作成する
それぞれ詳しく説明します。
記載事項についてあらかじめ確認しておく
前述したように、株式移転計画書は会社法によって記載しなければならない内容が決められています。そのため、必要事項が欠けている場合、株式移転計画書は効力を持ちません。
そのようなことが起きないように、株式移転計画書を作成する際は、会社法で定められている必要事項をあらかじめ確認し、すべての必要事項を記載するようにしましょう。
株式移転を行う全社が共同で計画書を作成する
1社で行う単独株式移転か、2社以上で行う共同株式移転かで、株式移転計画書の作成時の手続きに違いがあります。
共同株式移転の場合は株式移転を行う全社が共同で作成する必要があると、会社法によって定められています。1社でも欠けていると、無効になるため気をつけましょう。
株式移転の実施後に行う登記申請の必要書類
既存会社が変更登記を申請する場合は、新設会社の設立登記と同時に行わなければなりません。つまり、登記申請書に新設会社と既存会社の登記を連番で記載して、管轄法務局に申請する必要があります。
ここでは、登記申請をするための必要書類をご紹介します。
新設会社の登記申請に必要な書類
新設会社の登記申請に必要な主な書類は、以下のとおりです。
- 登記申請書
- 株式移転計画書
- 定款
- 登録免許税納付用台紙
- 設立時の役員就任承諾書
- 役員の本人確認証明書
- 代表取締役の印鑑証明書
- 発起人の同意書
- 印鑑届出書
- 既存会社の株主リスト
- 資本金の計上証明書
既存会社の登記申請に必要な書類
新株予約権を発行する既存会社の登記申請に必要な書類は、以下のとおりです。
- 株式会社変更登記申請書
- 取締役会議事録(株主総会議事録又は種類株主総会議事録)
- 株主リスト
- 新株予約権又は新株予約権付社債の引受けの申込み又は会社法第224条第1項の契約を証する書面(総数引受契約を証する書面)
- 総株主の同意書
- 委任状
また新設会社と管轄法務局が異なる際は、上記の書類に加えて印鑑証明書が必要となります。
まとめ
株式移転とは、グループ企業をホールディングス化するためによく用いられるM&Aの手法の1つです。株式移転を行う際には、株式移転計画書が必要となります。株式移転計画書を作成する際は、注意事項に気をつけ、記載すべき内容を全て明記するようにしましょう。
また、株式移転を実行後は、登記申請をする必要があります。既存会社は変更登記が必要ない場合がほとんどですが、新株予約権を発行する場合は変更登記申請が必要です。変更登記申請を行う場合は、新設会社の登記申請と同時に行わなければならないため、注意しましょう。
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