ゴールデンパラシュートとは?由来やメリット・事例を解説

2023年9月21日

ゴールデンパラシュートとは?由来やメリット・事例を解説

このページのまとめ

  • 買収防衛策とは、経営陣の同意を得ない敵対的買収を防ぐための対策
  • ゴールデンパラシュートは、多額の退職金の支払いを伴う買収防衛策
  • フランスなどを中心に、世界的にはゴールデンパラシュート規制の動きが広まっている
  • メリットとしては、敵対的買収を防止する効用がある
  • デメリットには、株主や従業員から反対されるリスクがある

ゴールデンパラシュートとは、敵対的買収によって現経営陣が退職した際に、多額の退職金を支払う買収防衛策です。経営陣にとって万が一に備えた保険となる上に、買収の意欲を減退させる効用を見込めます。一方で、従業員や株主から反対される可能性がある点には注意が必要です。
当記事では、ゴールデンパラシュートの意味や由来を解説します。また、ゴールデンパラシュートが遂行された事例や海外における動向、その他の買収防衛策も紹介します。

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敵対的買収とは

ゴールデンパラシュートの意味を理解するには、はじめに敵対的買収がどのようなものかを知っておく必要があります。敵対的買収とは、買収対象会社における経営陣の同意を得ずに買収を仕掛けることです。対義語として、経営陣の賛同を得た上で遂行する場合は「友好的買収」と呼びます。

会社法」の規定により株主会社では保有する議決権比率の割合によって行使できる権限が変わってきます。過半数や3分の2を超える議決権(≒株式)を保有することで、普通決議や特別決議を単独で実行できるため、実質的に会社の支配権を保有しているとみなせます。この仕組みにより、過半数または3分の2を超える議決権(株式)を取得することで、敵対的買収を実現できます。

敵対的買収が実現すると、会社や従業員にとって不都合な経営方針に転換するおそれがあります。特に、現経営陣にとっては支配権(≒経営権)を奪われることを意味するため、可能な限り阻止しようと動くことが一般的です。

敵対的買収を阻止するための施策を「買収防衛策」と呼び、本記事で紹介するゴールデンパラシュートもその1つです。

※参照元:e-Gov「会社法

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敵対的買収を阻止するための1施策「ゴールデンパラシュート」とは

ゴールデンパラシュートの基本的な知識を解説します。

ゴールデンパラシュートの意味

ゴールデンパラシュートとは、事前に経営陣(取締役)の退職金を極めて高く設定する買収防衛策です。退職金の額を高くすることで、買収が成立して現経営陣が解雇された場合に、莫大な退職金が支払われるようになります。

つまり、敵対的買収の成立に伴って、買収費用とは別に多額の現金が流出する事態になるため、敵対的買収者の買収意欲を減退させる効用が期待できるのです。

なお、英語では” Golden Parachute”と表記します。

ティンパラシュートとの違い

ゴールデンパラシュートと類似する用語に「ティンパラシュート」があります。どちらも買収防衛策であり、敵対的買収者の意欲を減退させる効用がある点では一致しています。ただし、退職金を受け取る対象が異なります。

ティンパラシュート(Tin Parachute)では、従業員の退職金を高額に設定することで、敵対的買収を防ぎます。また、退職金ではなく就職斡旋などの恩恵を準備するケースも含まれます。

経営陣ではなく従業員が恩恵を得る点において、ゴールデンパラシュートとは異なります。また、株主総会による承認が必要なゴールデンパラシュートと比べて、ティンパラシュートの方が簡便な手続き(取締役会による決議)で済む点も違いです。

ゴールデンパラシュートの由来

小学館「日本大百科全書(ニッポニカ)」によると、ゴールデンパラシュートという名称は、墜落する飛行機(買収される会社)から旧経営陣だけが黄金製のパラシュートで脱出する(多額の退職金を受け取って退陣する)という比喩に由来していると言われています。

ちなみに、前述したティンパラシュートは、ゴールデンパラシュートと比べると受け取る金額が少ないことから、”Tin Parachute(ブリキのパラシュート)”と呼ばれるに至ったと言われています。

※参照元:小学館「日本大百科全書(ニッポニカ)」

RJRナビスコによるゴールデンパラシュート

ゴールデンパラシュートが行使された代表的な事例として、RJRナビスコをめぐる敵対的買収があげられます。RJRナビスコは、かつてアメリカ合衆国に存在した多角化企業であり、食品とたばこの事業を行っていました。

山口一臣「 R・J・レイノルズ社の衰退」によると、本件の敵対的買収は、LBOによる自社の買収を目指したF・ロス・ジョンソン氏と、投資会社であるコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)との間で起こりました。結果的には敵対的買収者であるKKRが買収合戦に勝利し、社長兼CEOであったジョンソン氏は経営権をKKRに明け渡すことになりました。

しかし、あらかじめゴールデンパラシュートの提案が承認されていたため、ジョンソン氏は退職金として約6千万ドルもの大金を手にすることに成功しています。

ゴールデンパラシュートの効力に着目すると、敵対的買収を防ぐことはできなかったものの、経営陣にとっては保険としての役割を果たしました。

※参照元:山口一臣「 R・J・レイノルズ社の衰退」P39〜45

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ゴールデンパラシュートの動向

「経営陣の自己保身」という側面が強いため、世界的にはゴールデンパラシュートを規制する動きが進んでいます。この章では、近年の諸外国におけるゴールデンパラシュートに対する動向を解説します。

スイス

SWI swissinfo.ch「スイス公共企業の役員報酬が縮小 ボーナス引き下げで」によると、スイスでは、2013年に役員報酬に上限を設ける国民発議(イニシアチブ)が国民投票にかけられました。結果として投票では否決に終わりましたが、これを機に役員の高額報酬に対する世間の目は厳しくなりました。

また、イニシアチブの一部が法律に取り込まれたことで、上場企業の役員報酬を決める際には株主の採決が必要となり、実質的にゴールデンパラシュートなどの特別待遇は禁止されるようになりました。

※参照元:SWI「スイス公共企業の役員報酬が縮小 ボーナス引き下げで

フランス

PwC Japan「フランスのゴールデンパラシュートと日本の顧問制度」によると、フランスでは、2016年11月に改定された「コーポレートガバナンス・コード」にて、役員退職金の上限を2年間の報酬とする原則が盛り込まれました。これにより、ゴールデンパラシュート自体の導入は禁止されていないものの、買収防衛策および経営陣の保身手段としての効用は非常に限定的なものとなっています。

※参照元:PwC Japan「フランスのゴールデンパラシュートと日本の顧問制度

アメリカ

アメリカでは、フランスやスイスと異なり、現時点でゴールデンパラシュートを禁止する、もしくは効用を規制する法令等はありません。

しかし、経営陣の保身が目的と考えられるゴールデンパラシュートの悪用は多発しています。たとえば日本経済新聞「金の落下傘、1日在職で34億円の退職金もらえる仕組み」によると、エネルギー関連の分野でデューク・エナジー社がプログレス・エナジーを買収した際、2012年7月に新会社のCEOに就任したビル・ジョンソン氏は、就任後わずか4時間社長室の椅子に座った後、翌日辞任し、約34億円もの退職金を受け取ったことで大きな問題となりました。

また、近年では、ワクチン製造大手モデルナのCEOであるステファン・バンセル氏が、パンデミック中に4億ドルに相当する株式を売却しつつ、自身のゴールデンパラシュートの金額を2019年と比べて100倍(約10億ドル)まで引き上げた件についても話題となりました。

こうした傾向から、今後はスイスやフランスのように、アメリカでもゴールデンパラシュートを規制する動きが活発化する可能性が考えられます。

※参照元:日本経済新聞「金の落下傘、1日在職で34億円の退職金もらえる仕組み

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買収防衛策として行うゴールデンパラシュートのメリット

ゴールデンパラシュートには、以下3つのメリットがあります。

敵対的買収者の意欲を減退させる効用がある

一般的に、敵対的買収を遂行した後は、経営方針や戦略を自らの方針に転換する目的で、現経営陣を交代させる傾向があります。
しかし、ゴールデンパラシュートの準備がされている企業の場合、経営陣を交代させることで莫大な額の退職金が会社内から流出します。つまり、実質的に買収金額が大幅に上昇してしまうため、敵対的買収者にとってM&Aを強行する魅力は低減します。

つまり、敵対的買収者の意欲を減退させることで、賛同できない買収を防げます。また、現経営陣は自らの立場を守れる上に、従業員の雇用環境や経営方針も存続できるでしょう。

経営者にとって万が一の保険となる

ゴールデンパラシュートは、あくまで買収者の意欲を減退させる買収防衛策であるため、敵対的買収を強行されるリスクは残ります。買収が成立した場合、現経営陣は解雇される可能性が高いです。

しかし、ゴールデンパラシュートの仕組みが整備されている場合、万が一経営陣から下ろされたとしても、多額の現金だけは手元に残せます。多額の退職金を元手に、新規事業を立ち上げたり、経営からリタイアして悠々自適な生活を送ったりすることが可能です。

失業保険のような役割を果たす意味で、経営陣にとって特に大きなメリットをもたらすと言えるでしょう。

比較的少ないコストで遂行可能

買収防衛策の中には、多額の費用が発生するものも少なくありません。たとえば「パックマンディフェンス」では相手企業の株式取得、「クラウンジュエル」では強みに直結している資産・事業の売却が求められます。そのため、資金不足で敵対的買収を防げなかったり、買収防衛に成功してもその後の事業継続が困難になったりするおそれがあります。

一方でゴールデンパラシュートは、自社にある資金の範囲内に退職金の支払額を抑えることが可能です。また、多額の現金や資産の支出も発生しません。そのため、他の方法と比較すると、ゴールデンパラシュートは少ないコストで遂行できると言えるでしょう。

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ゴールデンパラシュートのデメリット・注意点

ゴールデンパラシュートには、メリットがある一方でデメリットもあります。
ゴールデンパラシュートを遂行する際には、以下3つのデメリットに注意が必要です。

株主や従業員からの反発を受けやすい

ゴールデンパラシュートは経営陣に高額な退職金を支払う手法であるため、経営陣にとってはメリットがあるものの、株主や従業員に直接的なメリットはありません。そのため、導入を検討している旨を公表する際に、株主や従業員から「経営陣の自己保身である」と非難されるリスクがあります。

特に注意したいのが株主からの反対です。株主にとっては、現経営陣の存続はあまり重要ではなく、中長期的に企業価値が向上し、自らが利益を享受することを重視します。そのため、敵対的買収者の方が優秀であったり、提出してきた経営計画が優れているものであったりすると、株主が敵対的買収者の味方につく(敵対的買収を支持する)おそれがあります。

場合によっては、利益相反義務に反していると指摘されるリスクも考えられるため、導入にあたっては慎重な対応が求められるでしょう。

導入のハードルが高い

会社法第361条1項」の規定により、役員退職金を支給する際には、その金額や算定方法などに関して、株主総会の決議によって定める必要があります(定款に定めている場合を除く)。ゴールデンパラシュートは経営陣に退職金を支払うスキームであるため、法令に則って株主総会での承認を得る必要があります。

しかし、前述の通りゴールデンパラシュートの導入にあたっては、株主から反対されるリスクがあります。場合によっては、敵対的買収者を支持されることも想定されます。そのため、株主総会でゴールデンパラシュートの導入が認められる可能性は低いと言えます。

認められるには、敵対的買収者よりも中長期的に株主に対してメリットを提供する旨を提示したり、日頃から株主と良好な関係性を築いたりすることが求められるでしょう。

買収が強行された場合に経営陣の信用力が低下するおそれがある

敵対的買収が強行されると、現経営陣に対して莫大な退職金が支払われます。その結果、世間から「経営陣だけが得をした」とみなされてしまい、経営者や役員個人の信用が悪化するおそれがあります。信用力が低下すると、新しく会社を立ち上げても、資金調達や取引先の獲得が難しくなることも考えられるでしょう。

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日本の中小企業にとってゴールデンパラシュートの導入は必要?

ここまで読み進めて、「ゴールデンパラシュートの導入は必要なのか?」と思う方もいらっしゃるでしょう。この章では、日本国内の中小企業におけるゴールデンパラシュート導入の必要性をお伝えします。

非上場企業の敵対的買収は可能

原則として、非上場企業は株式を証券市場に流通させていないため、敵対的買収は不可能と考えている方は少なくありません。しかし、非上場企業を敵対的買収すること自体は可能です。

たとえば、相続に伴って株式が分散しているケースだと、敵対的買収者が各株主から株式を買い集めることで支配権を確保できるだけの株式を取得する可能性があります。また、コクヨが非上場企業であったぺんてるに対して敵対的買収を仕掛けた事例のように、プロキシーファイト(委任状の争奪)によっても非上場企業の買収は可能となります。

敵対的買収に対する防衛策を意識しておくことが重要

上記の通り、非上場企業でも敵対的買収を行われるリスクはあります。日本における中小企業の大多数は非上場企業であると考えられるため、買収防衛策を日頃から意識し、必要に応じて対策しておくことが求められます。特に、他社にとって魅力的な技術やノウハウを有している場合は注意が必要です。

ここで重要なのは、ゴールデンパラシュートである必要はないという点です。たとえば、新株発行によって敵対的買収を防ぐ「ポイズンピル」や、友好的な第三者に買収してもらう「ホワイトナイト」など、買収防衛策は多岐にわたります。

自社の状況に応じて、最適な買収防衛策を考えておくのがおすすめです。

※参照元:日本経済新聞「コクヨ、ぺんてるを敵対的買収方針 ぺんてる側は反発

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ゴールデンパラシュート以外の買収防衛策

ゴールデンパラシュート以外にも買収防衛策は複数あり、それぞれ特徴やメリット・デメリットは異なります。この章では、代表的な5種類の買収防衛策を紹介します。

ゴーイング・プライベート

ゴーイング・プライベートとは、上場企業が株式を非公開化する手法です。具体的には、現経営陣による株式の買収(MBO:マネジメント・バイアウト)などのスキームが用いられます。

前述の通りリスクをゼロにはできないものの、株式を公開している時と比較して、敵対的買収の難易度を大幅に高める効用を期待できます。ただし、株式譲渡や資金調達が困難となる点に注意が必要です。

焦土作戦

焦土作戦とは、社内の重要な資産や事業を第三者に売却する手法であり、クラウンジュエルとも呼ばれます。これによって企業価値を下げ、買収するメリットをなくし、敵対的買収を防ぐ効用があります。

ただし、企業価値の下落によって株主などの利害関係者から反対されるリスクがある上に、中長期的に業績への悪影響が生じるおそれがあります。

ポイズンピル

ポイズンピルとは、敵対的買収者が一定割合の株式を取得した場合に、買収者だけが行使できない条件が付された新株予約権を既存株主に無償または安い価格で交付する手法です。新株発行によって、敵対的買収者の議決権割合が低下し、買収意欲を減退させる効用が期待できます。

また、発動した場合に敵対的買収者に多大な損失が生じるおそれがあるため、事前警告としての効用も見込めます。ただし、発動した際には株式の希薄化や株価の下落が生じるリスクがあります。

黄金株

黄金株とは、保有している株主が株主総会決議などで拒否権を発動できる株式です。

友好的な株主に黄金株を与えておくことで、基本的に敵対的買収者の議案をすべて否決できるようになります。敵対的買収を防ぐ効用は大きいものの、乱用された場合には意思決定に支障をきたすおそれがあります。

また、他の株主との間でトラブルに発展するリスクがあります。

M&A

M&Aとは、他の企業や個人との間で、買収や合併を行うことです。

たとえば、敵対的買収を仕掛けられた際に、友好的な第三者(取引先など)に買収してもらう「ホワイトナイト」もM&Aによる買収防衛策の1つです。また、取引先などに第三者割当増資を行い、敵対的買収者の議決権比率を下げる施策も効果的です。

ただし、自社にとって友好的な第三者(M&Aの相手企業)を探す必要があるため、迅速に敵対的買収を防げるとは限りません。

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まとめ

本稿では、ゴールデンパラシュートの仕組みや由来、メリット・デメリットなどをお伝えしました。

敵対的買収の意欲を減退させる効用があるものの、多額の退職金を支払う仕組みから経営陣の自己保身とみなされるリスクがあります。そのため、スイスやフランスなどを中心に、世界的には規制する動きが広まっています。他の施策も含めて、自社にとって最適な買収防衛策を検討しましょう。

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