このページのまとめ
- LBOは買収対象会社の信用力などを担保に買収資金を調達する買収手法の1つ
- LBOファイナンスでは少額の投資元本で企業買収を実現できる
- リターンを得られず、大きな負債を抱えるリスクもある
LBO(レバレッジド・バイアウト)とは、買収対象会社の信用力を担保に、買収資金を金融機関から借り入れて調達する買収手法の一種です。その名前の由来は、比較的少ない額の自己資金をレバレッジ(梃)として活用し、大きな額の買収を行うことにあります。この記事ではLBOで用いられるLBOファイナンスについて、メリットやリスク、スキーム、国内外の事例などを解説します。
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目次
LBOファイナンスとは
まず、LBOはM&Aにおける買収手法の1つです。企業やファンドが他社を買収する際に、自己資金だけでなく、買収対象会社の資産や将来のキャッシュフローを担保に買収資金を調達し買収を行います。この資金調達のことをLBOファイナンス(LBOローン)と呼びます。
LBOファイナンスには、シニアローン・メザニンローン・劣後社債・優先株式など、さまざまな形態があります。また、複数の関係者が異なる目的でLBOに関与するため、関係者間の利害関係は非常に複雑となり、その形態も案件によりさまざまです。
LBO・LBOファイナンスの特徴
LBOファイナンスはどのような特徴を持つのでしょうか。LBOの特徴とともに、5つのポイントを整理します。
LBOの特徴
LBOでは買収側は自己資金だけではなく、買収対象会社の信用力(資産や将来性)を利用して金融機関から買収資金を調達します。調達した資金の返済責任は買収側でなく買収対象会社にある点が大きな特徴です。従って、LBOは対象会社が現金や有価証券などの換金可能な資産を多く持っている方が実行しやすいと言えるでしょう。
これにより、次のような効果が期待できます。
- 買収側が単独で調達できないような大きな資金を調達できる。
- 買収資金を対象会社の信用力を利用して調達することができる。
このように、LBOでは買収側が投資額を減らすことができる点が特徴だといえるでしょう。買収側は投資の効率を最大化できるように、投資額を最小限に抑えることを考えるため、投資額の減額にはメリットがあります。なお、LBOファイナンスを利用して小さな投資で大きな収益が期待できることをレバレッジ効果と言います。
LBOファイナンスの特徴
LBOファイナンスの特徴としては、下記のような点が挙げられます。
買収対象会社の負債比率を高め、純資産比率を下げる
LBOファイナンスの特徴の1つは、買収対象会社の負債比率が高まり、クッション(余裕)が小さくなることです。
LBOにおいて、買収側はLBOファイナンスを活用することで多くの資金を調達します。これを返済するのは対象会社であるため、過度なLBOファイナンスは対象会社の財務状況に圧力をかけます。
そのため、ローンを提供する金融機関(LBOレンダー)にとってもリスクの高いファイナンス手法と言えるでしょう。
ノンリコースである
ノンリコースとはリコース(遡及)しないという意味で、責任範囲を限定し、それ以上には返済義務が及ばない(非遡及の)融資を指します。
LBOファイナンスで調達した資金の返済義務は買収対象会社にあり、出資者(買収側)は返済義務を負いません。つまり、買収側にとっては、リスクは出資金の範囲に限定されるという利点があります。
特別目的会社を利用する
LBOファイナンスの特徴として、SPC(Special Purpose Company:特別目的会社)を利用することがあります。
買収側は投資金額を削減するために、買収のための専用会社(SPC)を設立し、有限責任の株式出資を通じてSPCに出資します。これにより、買収に必要な最低限の資金を確保します。その上で、SPCが買収対象会社の信用力を担保にLBOファイナンスを調達します。
つまり、SPCは、買収に必要な最低限の資金を確保する目的を果たしつつ、投資金額を減少させるための重要なハブであると言えます。LBOのスキームを実現する上で、SPCの存在は非常に大きいものです。
関連記事:SPC(特別目的会社)とは?メリットデメリットやM&Aでの活用法を解説
LBOファイナンスの主要な関係者
この章では、LBOファイナンスの主要な関係者を3つのカテゴリーに分けて解説します。
買収側
大きく分けて2つのタイプがあります。1つはMBO取引などに投資したバイアウトファンド、もう1つは一般事業会社です。前者は「フィナンシャルバイヤー」、後者は「ストラテジックバイヤー」と呼ばれます。
少数ですが、対象会社の経営陣が買収側となる場合があり、LBOファイナンスでは、買収を行う会社の普通株出資者(エクイティ出資者)になります。
売却側
売却の対象となりうるのは、主に以下の4つのタイプです。
- 非コア部門(子会社など)を売却する一般事業会社
- MBO(経営陣による買収)などで買収した会社を売却し、投資を回収するバイアウトファンド
- 事業承継に伴い株式を売却するオーナー経営者
- 事業再生案件などで困難な状況にあり、資産の一部を売却する事業会社
LBOファイナンス提供者
買収資金を貸付ける金融機関やファンドが当てはまります。LBOレンダーとも呼ばれます。基本的に、買収側からの依頼に基づき、(担保付きの)返済優先順位が最も高いシニアローンを取り扱います。また、シニアローンとエクイティの中間に位置し、劣後債や優先株式などを扱うメザニン投資家も存在します。
LBOファイナンスを利用するメリット
この章ではLBOファイナンスを利用するメリットについて、関係者それぞれの観点から説明します。
買収側のメリット:少額での買収が可能
先述したように、少ない自己資金で大規模な買収が可能となる点です。レバレッジ効果により、内部収益率(IRR)の向上を図ることができます。
売却側のメリット:高額での株価売却
売り手側は株式を高値で売却することができる点がメリットです。一般的に、LBOファイナンスによる買収ではTOB(株式公開買付)が行われますが、TOBは、通常、市場価格に上乗せしたプレミアム価格で実施されます。
LBOファイナンス提供者のメリット:高金利での貸し付け
LBOファイナンスを提供する金融機関の最大のメリットとして、高金利での貸し付けが挙げられます。LBOファイナンスは金融機関にとってリスクが伴うハイリスクハイリターンの手法であるためです。
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LBOファイナンスのリスク
次に、LBOファイナンスを利用する際のリスクについてそれぞれの観点から説明します。
買収側のリスク:信用力低下の可能性
LBOファイナンスにおける買収側の最大のリスクは、信用を損なう可能性があることです。
LBOファイナンスでは返済義務は売却側にあり、買収側のリスクは自己資本の損失程度です。リスクが低いように感じるかもしれませんが、LBOが失敗した場合、計画性のない買収が行われたとして、社会的信用や評判を大きく損ねる点に注意が必要です。
売却側のリスク:事業の制約により返済が厳しくなる可能性
LBOは金融機関にとって高いリスクが伴うため、通常の融資よりも手続きが煩雑で金利も高くなる傾向があります。また、LBOファイナンス(LBOローン)では財務・事業に関する「コベナンツ」と呼ばれる契約条件が設けられることがあります。これにより、経営の自由度が制限される可能性があることに注意が必要です。
さらに、LBOでは最終的に売却側が借入金を返済するため、キャッシュフローが圧迫されかねません。収益力が低下した場合、資金繰りが厳しくなる可能性や、返済を優先するために本来必要な投資ができなくなる可能性があります。これらのリスクを考慮して取り組む必要があるでしょう。
LBOファイナンス提供者のリスク:回収不能となる可能性
LBOファイナンスにおける金融機関の最大のリスクは、回収不能となるケースがあることです。金融機関は買収対象会社の信用力を担保に融資を行っているため、事業計画が上手くいかなかった場合、資金を回収できなくなるリスクがあります。
LBOファイナンスを活用した買収実行の流れ
この章ではLBOファイナンスを活用した買収実行の流れを説明します。
1.特別目的会社(SPC)の設立
SPC(Special Purpose Company)と言われる特別目的会社は、特定の目的のために設立される法人です。金融機関や買収側の法人が設立し、特定の資産や債権を保有・管理する役割を担います。M&A(合併・買収)では、合併・買収の目的で使用する資産のために設立されます。
LBOにおいては買収側がSPCに出資し、買収資金の調達・管理はSPCが行う形態が一般的です。これにより、買収のための資金調達や資産の保有・管理を効率的に行うことができます。
2.買収資金の調達
買収側によってSPCが設立されると、M&Aの買収資金を調達するために金融機関から融資を受けることができます。SPC自体は返済に充てる資産を持っていないため、代わりに買収対象会社の資産や将来のキャッシュフローを担保とします。
これがLBOファイナンスです。金融機関は融資を行う前に対象会社の返済能力を評価、確認します。そのため、LBOを検討する際には、対象会社が将来的に安定的な収益を生み出す可能性が高いことが前提となります。
3.買収の実行
資金調達に成功したら、次はSPCがその資金を使って対象会社を買収します。株式の取得には、通常はTOB(株式公開買い付け)が使用されます。一般的にTOBは割高な価格となるため、LBOファイナンスは買収対象会社の株主にも利益をもたらすと言えるでしょう。
4.SPCと買収対象会社の合併
SPCが買収対象会社の株式を取得すると、SPCは親会社となり、最終的に対象会社とSPCが合併することになります。対象会社が元々は上場企業であった場合、非上場にすることで、他の投資会社や競合企業からのM&A攻撃を防ぐことができます。
LBOファイナンスにおいてリファイナンスをする理由
リファイナンスとは一般的には借り換えを意味し、リスク低減のために行われます。LBOの場合、買収対象会社の既存借入金の返済にあたります。SPCは、LBOレンダーの融資を受けてリファイナンスを実施します。この章では、LBOファイナンスにおいてリファイナンスが多く実施される理由について説明します。
既存借入金に起因する理由
リファイナンスをする理由の1つは、既存の借入金そのものに関連しています。
金融機関からの借入金には、株主が変更された場合に借入金を返済する必要があるという条項が含まれている場合があります。このような条項は「チェンジオブコントロール条項」と呼ばれ、株主(または実質的なオーナーや親会社)が変更されると借入金の返済が求められることを意味します。
既存の借入金にこのような条項が付いている場合、特定目的会社(SPC)が対象会社の株式を取得すると、つまり株主がSPCに替わると対象会社は借入金を返済する必要が生じ、SPCがリファイナンスを実施することになります。
LBOファイナンスに起因する理由
リファイナンスをする理由の2つ目は、LBOファイナンスに関連しています。LBOファイナンス(LBOローン)を調達する際には、LBOレンダーである金融機関から、買収対象会社の全資産に対する担保設定を求められることが一般的です。
この要求に応じるために、対象会社は既存の借入金に関連する担保をすべて解除しなければなりません。しかし、担保を解除するためには既存の借入金を返済する必要があります。
つまり、LBOレンダーから全資産を担保に求められることで、対象会社は既存の借入金を返済する必要が生じるということです。この場合もSPCがリファイナンスを実施します。つまり、いずれの場合も、SPCはリファイナンスの額も含めて調達する必要があります。
LBOファイナンス活用のポイント
LBOは成功すれば高い利益を得ることができますが、その反面、失敗するリスクも高いと言えます。LBOファイナンスを活用する際は、いくつかの注意点を押さえることが重要です。
債務超過の回避
LBOファイナンスでは買収対象会社が返済責任を負うため、返済不能になるとLBOで手に入れた事業が失われてしまいます。返済不能を避けるためには、慎重に手続きを進めることが重要です。
コストの見通し
LBOファイナンスでは株式の取得はTOBで行われることが多く、関連コストを見積もることが比較的容易です。しかし、敵対的TOBの場合、対象会社が防衛策を取ることで予期せぬコストが発生する可能性も視野に入れておきましょう。
LBOの事例
ここでは、LBOの事例を紹介します。
ソフトバンクによるボーダフォン買収
2006年4月、ソフトバンクが1兆7,500億円でボーダフォンの日本法人を買収しました。
ソフトバンクはボーダフォンの設備を利用して携帯電話市場に参入しました。買収により、ソフトバンクは成熟した携帯電話のインフラ、サービス、ブランドを手に入れ、迅速な事業展開の足掛かりとしました。
当時の携帯電話業界の動向を把握していたソフトバンクにとって、ボーダフォンの買収は新規参入を計画する上で重要な戦略だったと言えるでしょう。
※参照元:ソフトバンク株式会社『ボーダフォン買収完了に関するお知らせ』
リップルウッド・ホールディングスによる日本テレコムの買収
2003年10月、アメリカの投資会社であるリップルウッド・ホールディングスが、イギリスのボーダフォン・グループ傘下の日本テレコムホールディングスで固定電話部門を扱っていた日本テレコムに対し、約2,613億円でLBOを実施しました。
リップルウッドは、自社の経営陣を送り込み、事業の立て直しを図りながら、日本の通信市場でデータ通信分野を拡大することを目指しました。日本テレコムホールディングスは、LBOによって固定電話部門を売却し、ボーダフォンの経営に集中。携帯電話事業を強化しました。
その後、リップルウッドは2014年に日本テレコムをソフトバンクに売却しました。
参照元:CNET Japan『リップルウッドHD、2613億円で日本テレコムを買収』
まとめ
本稿では、LBOファイナンスについて、流れやメリットやリスクについて解説しました。
LBOファイナンスを利用すれば大規模な資金調達が可能なため、レバレッジ効果が期待でき、少ない資産でもM&Aを実施することが可能です。ただし、リターンを得られず、大きな負債を抱えるリスクもあります。リスクを理解し、適切な対策を講じる必要があります。
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