このページのまとめ
- MBIとは、株式の買付け後に経営管理する手法
- 買収対象企業の経営に積極的に関与する点がMBIの特徴
- MBIとMBOには、目的や経営権の所在などに違いがある
- MBIには、企業価値の向上や主力事業への集中を図れるメリットがある
- MBIでは、経営方針の変化が悪い方向に転じる場合もあるため注意が必要
MBIとは、株式の買付けを実施した後に、経営管理を行うM&Aの手法です。経営改善によって企業価値を高め、株式の売却益を獲得する目的で行われることが一般的です。外部から優秀な経営陣が参画することで、業務管理体制の改善や主力事業への集中などを期待できます。ただし、従業員からの反発を受ける可能性がある点に注意が必要です。
この記事では、MBIの意味やMBO・TOB・LBOとの違い、スキーム、メリット・デメリットを解説します。
目次
MBI(Management Buy-In)とは
はじめに、MBIの意味や特徴を解説します。
MBIの意味
MBIとは、Management Buy-Inの頭文字をとった用語であり、買収で用いられるスキームの1つです。Managementは「経営・管理」、Buy-Inは「株の買付け」をそれぞれ意味します。各用語の意味からわかるとおり、株式の買付けを行った上で、経営管理を行う手法です。
具体的には、企業を買収した投資家が対象企業に対して、外部から経営陣を送り込み、企業価値の向上や会社の立て直しを行います。そして、企業価値が高まったタイミングでキャピタルゲイン(株式などの売却利益)の獲得を図ります。
MBIの特徴
MBIには、主に以下の3つの特徴があります。
- ファンドや金融機関が主な買い手になる
- 企業価値向上による利益獲得が主な目的となる
- 買収対象企業の経営に積極的に関与する
この章では、それぞれの特徴を具体的に解説します。
ファンドや金融機関が主な買い手となる
一般的なM&Aでは、主に事業会社や個人が買い手となります。一方でMBIでは、主に投資ファンドや金融機関が買い手となり、経営権を掌握したうえで、経営陣を外部から送り込みます。
企業価値向上による利益獲得が主な目的となる
一般的な買収は、自社事業とのシナジー創出や新規事業への進出などを主な目的とします。一方でMBIは、買収対象企業の企業価値を向上させた後に、株式の売却によってキャピタルゲイン(利益)を得ることを目的に実施します。
買収対象企業の経営に対する積極的な関与
一般的な買収では、買収後も元の経営陣に残ってもらい、引き続き事業の運営を任せるケースが多いです。一方でMBIでは、前述のとおり外部から新しい経営陣を送り込んで、戦略的に企業価値向上に向けた経営を行います。
つまり、一般的なM&Aと比較して、MBIでは買収対象企業の経営に対して積極的に関与するものであると言えます。
MBIが実施されるケース
MBIは、主に不採算事業の立て直しや、強みを活かした経営の実現、事業承継を図りたいケースで実施されます。この章では、各ケースについて詳しく解説します。
不採算事業の立て直し
不採算事業の立て直しは、MBIが実施される典型的なケースの1つです。
不採算事業を立て直すには、事業戦略の見直しや無駄なコストの削減といった取り組みが必要です。しかし、こうした取り組みを成功させるには経営に関するハイレベルな経験や知見が求められます。現時点において業績が悪い場合、経営陣を変えずに既存の価値観や戦略で上記を達成することは難しいでしょう。
外部から経験豊富で優秀な経営陣を招き入れることで、抜本的に戦略や施策を変えることにつながるため、不採算事業の業績改善を見込めます。
ブランド力や技術力といった強みを最大限に活かした経営の実現
MBIは「経営手腕のなさや優秀な経営人材の不足が理由で、強みを十分に活かしきれていない」という企業の成長を図りたいケースでも活用されます。たとえブランド力や独自の技術力などの強みを持っていても、それを最大限活用できるだけの経営手腕がなければ、収益向上や事業成長を実現することは困難です。
MBIによって外部から優秀な経営陣を招き入れることで、対象企業が有する強みを最大限活かした事業戦略の策定や施策の実行が可能となります。その結果、売上拡大や中長期的な事業の成長を図ることができるでしょう。
事業承継
MBIは、後継者不足に悩む企業の事業承継を実現する手段として用いられるケースもあります。事業承継とは、会社の経営(個人の場合は事業の運営)を子供や従業員などの後継者に引き継がせることです。
親族や社内に優秀な後継者がいない場合、廃業を回避する手段としてM&Aが実施されます。MBIを行うことで、後継者不足の状況でも事業承継を実現できるだけでなく、外部から招き入れた優秀な経営陣によって企業価値の向上を目指せます。
MBIとMBOの違い
MBO(Management Buy-Out)とは、現経営陣が自社の株式(会社)を買収する手法です。たとえば、非オーナー経営者が親会社やオーナー(投資家)から株式を買い取り、会社の経営権を取得するケースが当てはまります。
この章では、MBIとMBOの違いを「目的」と「経営権の所在」という2つの観点から解説します。
目的
MBIの目的は、前述のとおり「企業価値の向上」および「それに伴うキャピタルゲインの獲得」です。
一方でMBOは、内部の経営陣が経営権を獲得し、それに伴う様々なメリットを享受する目的で活用されます。具体的には、経営権の獲得により長期的な目線での経営の実現や意思決定の迅速化、敵対的買収の防止などを実現するためにMBOを実施します。MBIとは異なり、MBOでは株式売却による利益獲得を前提とはしていない点に違いがあると言えるでしょう。
経営権の所在
MBIでは、外部の経営者や投資ファンドに経営権が移行します。つまり、買収対象企業から見ると、外部から来た経営陣が新たに経営の主導権を握ることとなります。
一方でMBOでは、外部の投資家や親会社から、会社内の経営陣に経営権が移行します。買収対象企業から見ると、経営陣が意思決定を自由に行えるようになります。経営権の所在という観点では、経営の自由度が高まるMBOは、意思決定を外部の人材が行うようになるMBIとは真逆の手法であると言えるでしょう。
上記のとおり、名称こそ似ているものの、MBIとMBOは実態が大きく異なる手法です。したがって、外部の価値観やノウハウを取り入れて抜本的に経営を変えたい場合にはMBI、自社経営陣の意向をより一層反映した経営を実現したい場合にはMBOという形で、状況や目的に応じて手法を選択することが大切です。
関連記事:MBO(マネジメント・バイアウト)とは?買収の流れやメリットなどを解説
MBIとその他買収スキームとの違い
MBIと意味を混同しがちな用語には、MBO以外にも「TOB」や「LBO」があります。MBOと同様に、手法としての目的や活用主体などは大きく異なるため、違いを理解した上で使い分けることが重要です。
この章では、MBIとTOBおよびLBOの違いを詳しく解説します。
TOBとの違い
TOBとは「Take-Over Bid」の略語であり、買収スキームの1つです。日本語では株式公開買付けとも呼ばれます。具体的には、買収対象企業における不特定多数の株主に対して、買付け予定の株式数や価格、期間を公告し、株式の買付けを呼びかける手法です。特徴として、取引市場を介さず市場外で株式を取得する点が挙げられます。
MBIとTOBには2つの点に違いがあります。
1つ目は買収の主体です。MBIでは主に投資ファンドや金融機関が企業を買収し、経営権を握ります。一方でTOBでは、買収を行う主体は基本的に同業他社や新規参入を狙う事業会社です。
2つ目は買収の目的です。前述のとおりMBIは、新しい経営陣によって企業価値を向上させた上で、株式の売却益(キャピタルゲイン)を獲得する目的で実施します。一方でTOBは、通常のM&Aと同様に、買収対象企業の株式取得によって経営権を獲得し、自社事業とのシナジー創出や経営資源の獲得などにより、自社グループ全体における事業拡大や競争力の強化を図る目的で実施します。
関連記事:TOBとは?種類やメリットデメリット、実施方法を解説!
LBOとの違い
LBOとは「Leveraged Buyout」の略語であり、こちらも買収スキームの1つです。具体的には、買収対象企業の信用力や将来性などを担保に、銀行などから資金調達した上で買収します。特徴として、自社よりも大規模な企業の買収を図れる点や、買収自体を目的とする会社(SPC)を設立する点などが挙げられます。
LBOでは、一般的に以下のプロセスで買収を実施します。
- SPC(特別目的会社)を設立
- 金融機関から資金調達
- SPCによる対象企業の買収
- SPCと対象会社の合併
あくまでLBOは、対象企業の信用力などを担保に資金調達した上で買収する手法です。そのため、理論上はLBOとMBIを組み合わせたスキームで買収できます。たとえば対象企業の信用力を担保に買収した後に、外部から経営陣を送り込むMBIの形態をとることが考えられます。
ただし、MBIとLBOの併用には、法律や財務の専門的な知見が求められます。実際に行う場合は、M&Aアドバイザーなどの専門家に協力してもらうとよいでしょう。
関連記事:LBOとは?スキームやファイナンスの特徴、メリット・デメリットを解説!
MBIの種類
MBI(Management Buy-In)の方法は、大きく以下の3種類に分けられます。
- 買収先に対する経営者の派遣
- 買収される側による経営陣の招聘
- ファンドとの共同出資
この章では、各方法の概要を詳しく解説します。
1.買収先に対する経営者の派遣
1つ目は、買い手のファンドや金融機関が買収した企業に経営者を派遣する方法です。MBIでは最もメジャーなケースであり、買収先企業には所属していない外部の専門家や経営者が派遣されます。基本的には、派遣された経営者が自らの専門知識や経験を活かして、買収対象企業の経営改善や成長を図ります。
たとえ優れた技術などの強みを有していても、それを活かせるだけの経営手腕や知識・経験がなければ、宝の持ち腐れとなってしまいます。一方で、外部から送り込んだ経営陣が経営を主導する場合、持ち前の経営手腕や知見を発揮し、その企業が有する強みを最大限に活かしたビジネスの推進が可能となります。
2.買収される側による経営陣の招聘
2つ目は、買収される側の企業が外部の経営者や経営陣を主体的に招き入れる方法です。基本的には、市場や経済動向の変化に伴い、既存事業とは異なる事業への進出が必要となった場合に活用されます。
新規事業の領域に進出する際、既存事業で培ったノウハウや知識は通用しないケースが多いです。そのため、買収される側の経営陣が引き続き経営や事業運営を主導すると、変化に対応できないリスクが高くなります。一方で進出する事業領域に詳しい経営陣を招き入れることで、新しい視点やアイデア、ノウハウなどを活用し、スムーズに新規事業を軌道に乗せやすくなります。
この形態によるMBIを行う際には、新しい経営陣と買収対象企業の間で、事業戦略や経営ビジョンの共有、擦り合わせを行うことが求められます。
3.ファンドとの共同出資
3つ目は、ファンドと経営陣が共同で出資・買収する方法です。実績のある経営者や対象会社の経営に意欲を持つ経営者が、出資に協力してくれるファンドを探し、共同で会社を買収します。経営者側は、基本的に企業価値の向上によって利益を獲得できる企業を買収対象として選定します。
「買収先に対する経営者の派遣」と一見すると似ていますが、ファンドと共同出資する経営者は対象会社の株式を実際に保有します。つまり、外部から派遣される経営者は雇われる形で経営を行う一方で、こちらの方法ではオーナーとして経営の職務につきます。
MBIのメリット
MBIによって外部の第三者に経営権が移転することで、経営方針やビジョンの抜本的な刷新が想定されます。新しい経営方針やビジョンに転換されることで、以下の3つのメリットを期待できます。
企業価値の向上
最大のメリットは、企業価値の向上を図れる点です。前述のとおり、MBIではその事業に精通した専門家や、実績豊富な経営者などが外部から招き入れられた上で、企業価値の向上に向けて経営の指揮をとります。
優秀な経営陣が経営を行うことで、会社が保有する強みを最大限活かして事業を行えるようになり、買収前と比較して企業価値の大幅なアップが期待されます。特に、経営手腕が原因で人材やノウハウなどのリソースを有効活用できていない企業において、MBIによる買収は大きな効果を発揮するでしょう。
主力事業への集中
経営再建を図る際には、不採算事業の切り離しや主力事業に対するリソースの集中が必要となる場合があります。しかし、こうした経営戦略の実行には専門的な知識やノウハウが求められるため、業績が悪化している会社が自力で実現することは難しいと考えられます。
MBIに伴い、外部から経営再建の実績が豊富な経営者を招き入れることができれば、事業ポートフォリオや事業別の業績、保有する経営資源などを基に、効果的に事業の選択と集中を図ることを期待できます。経営資源を成長性や収益性の高い主力事業に集中させることで、会社全体の競争力アップにつながるでしょう。
業務管理体制の改善
マネジメントや業務改善の経験が豊富な経営陣を招き入れることで、業務管理体制の改善を図れます。
具体的には、業務プロセスや組織の効率化、統合、合理化の推進により、業務の生産性や効率性の向上を図ります。それにより、コスト削減やリソースの最適配分などの実現を期待できます。また、新たな組織文化の導入や経営陣によるリーダーシップの発揮により、責任の所在の明確化や従業員のモチベーション向上にも期待できるでしょう。
業務管理体制を様々な角度から改善していくことで、単なる業績や企業価値の向上だけでなく、持続的な成長の促進を見込めます。
MBIのデメリットおよび注意点
メリットの多いMBIですが、一方でデメリット(注意点)もあります。デメリットを把握せずにMBIを実施すると、想定外の事態に陥ったり、期待していた買収のメリットを得られなかったりするおそれがあります。
この章では、MBIのデメリット・注意点を2つ解説します。
経営方針の変化が悪い方向に転じる可能性がある
経営方針の転換は前述のとおり大きなメリットをもたらす場合もあれば、悪い影響をもたらす場合もあります。
たとえば、新たな経営者や経営陣が買収対象企業の内部情報や市場、ビジネスモデルに詳しくない場合、意思決定や戦略の立案において誤った決定を下すおそれがあります。その結果、業績や事業の成長性がかえって悪化することになり得ます。また、新たな経営者や経営陣が買収前の状況や事情を正しく把握せずに、過度な変革やリストラクチャリングを行う事態も想定されるでしょう。
上記のリスクを軽減するには、買収対象企業におけるビジネスモデルや市場、リソースなどの理解が重要です。
従業員からの反発を受けるおそれがある
MBIによって経営方針や組織風土などが変化すると、従業員にも多大な影響を与えます。たとえば新たな経営陣が組織や文化を理解せず、過度な変革やリストラクチャリングを行う場合、従業員がこれまでと異なる働き方に不満を感じてしまい、モチベーションの低下や離職を招く可能性があります。
特に、外部から招き入れられた経営陣が従業員とのコミュニケーションや情報共有を怠ると、不信感や不満はより一層生じやすくなるでしょう。モチベーションの低下や離職が生じると、買収した会社の業務を円滑に進めにくくなり、業績低下を招くと考えられます。業績が低下する結果、買収に費やした資金を回収できなくなるリスクも高まります。
上記のリスクを軽減するには、従業員との関係構築や買収対象企業の文化や働き方の理解を徹底することが求められるでしょう。
まとめ
本稿では、MBIによる買収の特徴やMBOとの違い、種類、メリット・デメリットを解説しました。
MBIは、目的や経営権の所在などの点でMBOと大きく異なる手法です。不採算事業の立て直しや事業承継などの場面で用いられるMBIでは、企業価値の向上や業務管理体制の改善を図れます。ただし、従業員からの反発を受けたり、経営方針の変化が悪い方向に影響したりするリスクもあります。従業員とのコミュニケーションを徹底するなどして、デメリットが顕在化しないように注意しましょう。
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