債務超過における会社売却 【成功のポイントや事例を解説】

2024年8月5日

債務超過における会社売却 【成功のポイントや事例を解説】

このページのまとめ

  • 債務超過とは決算書における資産と負債の差額である純資産がマイナスになること
  • 資産・負債を時価評価した後に債務超過を判断するケースもある
  • 債務超過企業でも、買い手が事業の価値を認めて引き継ぎたいと申し出る可能性がある

債務超過とは、企業の決算書における資産と負債の差額である純資産がマイナスになることです。債務超過企業の売却は困難と考えられていますが、実際には売却できることもあります。
本稿では、債務超過企業の売却と買収のメリットや、債務超過企業を売却する上での注意点について解説します。また、債務超過企業の売却を成功させるためのポイントや事例も紹介しますので、参考にしてみてくだい。

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債務超過とは? 

債務超過とは、企業の貸借対照表上の純資産がマイナスになることです。例えば、ある企業の資産が1,000万円で、負債が1,300万円の場合、債務超過の金額は300万円となります。

実質債務超過を見るケースも多い

より現実に即したものにするために、資産・負債を簿価ではなく時価で評価することもあります。なぜなら、貸借対照表上は資産が負債を上回っているものの、実質的には債務超過に陥っている企業が少なからず存在するためです。各資産や負債を時価に修正した貸借対照表のことを「実態貸借対照表」、実態貸借対照表上における負債が資産を超えている状態を「実質債務超過」と言います。

実態貸借対照表を作成する際、資産の売掛金に不良債権が発生している場合や、在庫に不良品がある場合には、それらの金額を資産から差し引くことになります。逆に、含み資産が存在する場合は、含み益の金額を資産に足します。実質債務超過も併せて確認することで、より正確に企業価値評価や買収可否の判断を行い、M&A後のトラブルや失敗を回避しやすくなります。

資産・負債を時価評価する時価純資産法については後述します。

債務超過と赤字、資金ショートとの違い

債務超過と混同しがちな概念に、赤字や資金ショートがあります。

赤字資金ショート
ある1事業年度の収益が費用を下回り、利益ではなく損失が生じている状態手元の運転資金が足りなくなる状態

例えば、ある年度の収益が1,000万円、費用が2,000万円の場合、1,000万円の赤字となります。ですが、資産が2,000万円、負債が500万円の場合には資産超過となるため、赤字ではあるものの債務超過とはなりません。また、赤字でも今後しばらくの運転資金を確保できていれば、資金ショートの状態にはなっていません。

上記の通り似て非なる概念ですので、正しく違いを理解しておきましょう。

債務超過と赤字・黒字の関連性

前述の通り、債務超過と赤字・黒字は異なる概念ですが、高い関連性があります。これは、貸借対照表に数値が反映されているためです。

貸借対照表では企業の状態が良好であっても、連続して赤字を計上し続けると資産が減少し、結果的に債務超過に陥る場合があります。また、積み重なる赤字によって資金繰りが悪化し、資金ショートの状態になる場合もあります。

なお、赤字を計上していても、資産が十分にあればすぐに債務超過に陥ることはありません。逆に、すでに債務超過の場合、黒字を計上しても債務超過が改善されないことがあります。

このように債務超過と赤字・黒字には関連性があります。

債務超過のデメリット

債務超過には、主に2つのデメリットがあります。

まず、金融機関からの新規融資が難しくなることです。金融機関は、企業を評価する際に利益だけではなく、資産状態も考慮します。債務超過の場合、相応の収益力や担保がなければ融資を受けられないことが一般的です。

また、上場企業において債務超過が1年以内に解消されない場合、東京証券取引所が規定する上場廃止の基準に該当する可能性があることもデメリットです。

これらのデメリットを解消するためには、債務超過の改善が必要です。

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債務超過企業を売却できるか? 

債務超過や赤字の会社でも、M&Aや会社売却は不可能ではありません。以下4つの方法により、債務超過企業の売却が成立しやすくなります。

  1. 債務の改善(債務超過の解消を図る)
  2. シナジー効果が見込める買い手候補を選定する
  3. 将来性や収益性を事前に向上させておく
  4. 債務超過会社に合ったM&A手法を使う

1に関しては、役員等借入金の債務免除などの手段が効果的です。2に関しては、財務状況の改善や売上増加、技術力向上などのシナジーが見込めるほど、買い手とのM&Aが成立しやすくなります。

3に関しては、「取引先や顧客リストなど、金融資産以外に他社との競争で優位性を発揮できる要素がある」もしくは「事業が属する市場自体の将来性が高いと見込まれる」ことで、売却可能性が高まります。

4に関しては、新設分割によって債務を切り離した上で株式譲渡を図ったり、DES(資本金への借入金の組み替え)を図ったりする手法が効果的です。債務超過企業の売却で用いられるM&A手法は、後ほどくわしく解説します。

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債務超過企業が売却を行う5つのメリット

債務超過企業が売却を行うメリットとしては、以下のようなものがあります。

  1. ノンコア事業を切り離せる
  2. 倒産を回避できる
  3. 事業の再生と拡大ができる
  4. 倒産の被害を軽減できる
  5. 売却益を得られる場合がある

各項目について詳しく解説します。

メリット1:ノンコア事業を切り離せる

債務超過の原因がコア事業ではなく、ノンコア事業にある場合、ノンコア事業のみを切り離して売却することで、経営資源をコア事業に集中させることができます。これにより、コア事業で得られる利益を安定・拡大し、財務の健全性を高めることにつながります。

メリット2:倒産を回避できる

会社を売却することで、倒産を回避できる可能性があります。倒産を回避できれば、従業員の雇用を保護することが可能です。また、取引先や地域経済への影響も軽減され、経営者の信用も損なわれずに済むでしょう。

特に、地域の主要な企業として知られる規模の企業は、何の対策も行わずに倒産すると、多くの従業員が仕事を失うほか、地域のサプライチェーンにも大きな影響が生じるおそれがあります。そういった意味でも、従業員や取引先などへの影響を抑えられる債務超過企業の売却には、大きな意義があると言えます。

メリット3:事業の再生と拡大ができる

単独で債務超過を解消して経営再建を達成することが困難な場合でも、買い手企業を見つけて統合を受けることで事業再生につながる可能性があります。債務超過の状態にある会社が、強固な経営基盤を持つ企業グループの傘下に入れば、さらなる事業拡大も期待できるでしょう。

メリット4:倒産の被害を軽減できる

債務超過で倒産を避けられない状況にあっても、将来性のある事業が存在する場合、その事業だけを買い手企業に売却した上で存続させることが可能です。これにより、従業員の雇用だけではなく、事業のブランド価値も一定程度は維持できます。

また、事業の売却代金を債務の弁済に充てれば、債権者も債権回収の確率を高められます。債務整理を実施する場合でも、協議や手続きを円滑に進められるため、早期に手続きを終了させることが可能です。これにより、企業価値の劣化が抑えられ、再出発しやすくなるでしょう。

メリット5:売却益を得られる場合がある

通常の会社清算であれば、すべての資産を売却した上で負債を弁済して、残った財産を株主に分配しますが、債務超過の状態で会社を廃業し、会社を清算する場合、資産を売却しても弁済のための資金が不足してしまい、債権者と協議して債務整理・破産・特別清算などの手続きを実施することがあります。この場合、株主が分配金を得ることは期待できません。

一方で、会社の売却を実施すれば、債務超過状態であっても株主が利益を得られるケースがあります。また、優良な事業だけを切り出して売却し、残りの部分を清算する場合においても、株主に利益が残るケースがあります。

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債務超過の企業を買収する3つのメリット

買い手側には、債務超過の企業を買収することで、以下のようなメリットがあります。

  1. 節税効果が得られる
  2. 買収費用を抑えられる
  3. シナジー効果を得られる

各項目について詳しく解説します。

メリット1:節税効果が得られる

赤字企業は、繰越欠損金を持っていることが一般的です。債務超過企業も、通常、多額の繰越欠損金を抱えています。キャッシュ・フローを改善して黒字に転換したあとも、繰越欠損金と利益を相殺することで、法人税の負担を軽減できる可能性があります。

メリット2:買収費用を抑えられる

事業拡大のために会社の買収を実施する場合、通常は買収対象企業が将来的に生み出す可能性のあるキャッシュ・フローをもとにして取引価格が算出されます。現在は利益を上げていない債務超過企業を買収する場合、債務超過ではない企業の買収と比べて、投資総額や買収価格を抑えられるでしょう。

メリット3:シナジー効果を得られる

シナジー効果とは、2つ以上の企業や事業が統合することで、個々の企業が単独で運営されるよりも大きな価値が生まれる相乗効果です。買い手企業と売り手企業の経営資源を組み合わせて、適切に活用できれば、事業面でのシナジー効果が生まれ、成長につながる可能性があります。販売・技術などの機能を活用したり、複数の企業が提携したり、部署間で協力したりすることで、単独で活動する場合よりも大きな効果を得られるでしょう。

例えば、自社がこれまで獲得できていなかった販路を開拓したり、売り手企業のブランド価値を引き継いだりすることが可能です。これにより、既存事業の規模拡大や売上向上が期待できます。

通常はM&A後に、売上の拡大による「売上シナジー」と、原価や販売費用などのコスト削減による「コストシナジー」の実現を目指します。シナジー効果の実現を通じて、自社の強みを強化して課題を改善し、持続的な成長(企業価値向上や独自のポジション確立など)につなげることが重要です。

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債務超過企業の会社売却の3つのスキーム(手法)

債務超過企業の会社売却のスキームは大きく3つあります。

  • 株式譲渡
  • 事業譲渡
  • 吸収分割

以下に詳しく解説します。

株式譲渡

株式譲渡は、株主が所有している株式を他の会社に譲渡する手法です。株式譲渡により、売り手企業は買い手企業の子会社となります。会社の組織はそのまま引き継がれ、資産・負債、従業員、他社との契約、許認可などは維持されます。手続きも比較的簡単です。

会社は存続しますが、財務諸表上の数字には表れない簿外債務や、将来的に発生するかもしれない偶発債務(未払い残業代など)、紛争に関連する損害賠償債務なども引き継がれる点には注意が必要です。

事業譲渡

事業譲渡とは、売り手企業が所有する事業の全部または一部(土地・建物・機械設備などの資産や負債、ノウハウ、知的財産権なども含む)を買い手企業に譲渡する手法です。

事業譲渡では、個別の資産・負債、契約、許認可などを一つずつ移転させるため、債権・債務、雇用関係などの契約関係については、債権者や従業員の同意を得て個別に切り替える必要があります。
また、不動産などの固定資産が含まれる場合には、登記手続きも必要です。さらに、許認可などは、通常、買い手企業に引き継がれず、買い手企業が新たに取得しなければなりません

事業譲渡は株式譲渡と比べて手続きが複雑となる傾向がありますが、個別の事業や資産ごとに譲渡が可能であり、事業の一部を残すこともできます。
特に買い手にとっては、特定の事業や資産のみを譲り受けることができるため、簿外債務や偶発債務のリスクを遮断しやすい利点があります。

吸収分割

吸収分割は、組織再編の手続きである会社分割の手法のひとつです。吸収分割では、会社が持つ権利義務の全部または一部を分割し、他の会社に包括的に承継させます。

会社分割では、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」によって、特定の要件を満たす場合に雇用が確保されます。また、許認可に関しても、個別の業法などにより引き継がれることがあります。

ただし、会社分割を行うには、会社法上の所定の手続きが必要です。一般的には、債権者保護手続きとして、債権者が異議を申し立てることができる期間を1カ月以上設けなければなりません。また、登記手続きも必要であり、会社分割を行った旨は履歴事項全部証明書にも記載されます。

会社分割には時間的な余裕や費用が必要となるため注意しましょう。

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複数のスキームを組み合わせて会社を売却する方法

債務超過企業の売却を行う主な方法として、上述した3つのスキームがありますが、複数のスキームを組み合わせる方法もあります。
具体的には、以下の2つがあります。

  • 新設分割+株式譲渡
  • 第二会社方式

それぞれについて詳しく説明します。

新設分割+株式譲渡

新設分割は、M&Aにおいて利用される会社分割の手法の一つです。新設分割では、会社が持つ権利義務の全部または一部を分割し、新たに設立される会社に包括的に承継させます。買い手企業は、買収した事業を自社に統合するのではなく、新たに設立した会社に引き継ぐことが可能です。このスキームでは、新設分割と新会社に関する株式譲渡が行われます。

事業譲渡や吸収分割の場合、買収した事業は買い手企業の一部門となりますが、新設分割を行えば買収した事業を独立した子会社として運営できます。

第二会社方式

「第二会社方式」とは、会社を売却する際に以下のような手法を使うことです。

  1. 収益性・成長性の高い事業とそれ以外の部分に分ける
  2. その事業を引き継ぐための会社(受け皿会社)を設立し、その会社の支配権を買い手企業に譲渡する
  3. 売却元の会社に残った事業は清算される

第二会社方式では、事業譲渡、吸収分割、新設分割、株式譲渡を組み合わせた手法が使用されます。収益性・成長性の高い事業は、関連会社や新設会社に事業譲渡または新設分割によって引き継がれ、受け皿となる会社、もしくは新設された会社の株式は買い手企業に譲渡されます。

収益性・成長性の高い事業の売却によって得た代金は、債務の返済に充てられることが一般的です。返済が完了しない場合は、債権者との協議を実施し、法的整理(債務整理、破産、特別清算など)が行われます。

第二会社方式は、コア事業を売却し、他の事業を清算する際に使用される手法です。コア事業の売却代金を債務の返済に充てることができ、清算の協議や手続きをスムーズに進められるでしょう。

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債務超過企業の評価と売却価格の決定方法

一般的に、M&A(合併・買収)においては、売り手企業へのバリエーション(企業評価)をもとに、交渉によって売却金額が決まります。

企業価値の評価方法

企業価値の評価方法としては、以下3つのアプローチがあります。

  • コストアプローチ
  • インカムアプローチ
  • マーケットアプローチ

それぞれについて詳しく解説します。

コストアプローチ

コストアプローチは、企業が保有している純資産や負債をもとに企業価値を評価する方法です。代表的な計算方法として、簿価純資産法や時価純資産法などがあります。現在の会社の決算書(純資産)をもとに算出されるため、当事者の理解も容易です。ただし、直近の貸借対照表の数値をもとに算出され、将来の業績(損益)は考慮されないことから、今後成長が見込まれる企業には適さないと言えます。

インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来の収益性をもとに企業価値を評価する方法です。計算方法としては、主にDCF法が用いられます。将来の業績を株価に反映できる点がメリットです。ただし、将来の業績は事業計画書にもとづいて推測されるため、楽観的な見積もりや個人の意図によって株価が大きく左右されるリスクが存在します。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、市場での取引価格をもとに評価される方法です。計算方法としては、市場価額法や類似会社比準法などがあります。
過去の事例を基準にするため客観性が高く、当事者の納得感も得やすいですが、同業他社の類似した取引事例や、適切な類似業種が見つからないケースでは使えない、または違和感のある算出結果となるおそれがあります。

債務超過企業の評価における留意点

債務超過企業の場合、純資産がマイナスになるため、コストアプローチでの評価は基本的にできません。ただし、簿価では債務超過であっても、時価では資産が負債を上回る場合には、コストアプローチを用いることができます。

時価純資産法は、貸借対照表の資産と負債を時価評価し(在庫の場合は実在性や評価の妥当性を検証して時価評価を行う)、貸借対照表に載っていない簿外の資産・負債(解約返戻金や退職給付債務など)も時価評価して算出した純資産を株式の価値とする手法です。

時価純資産法は、買い手企業が売り手企業の実態を把握するために有効な手法ですが、時価の算定にコストや時間がかかりやすいデメリットがあります。

会社の土地や建物の時価が高いと、コストアプローチによる企業評価が高くなることがあります。

また、一部の事業のみを売却する場合、その事業に関連する資産や負債のみを集計すると、純資産がプラスになることもあります(第二会社方式を用いて優良な事業のみを売却する場合など)。

関連記事:「会社売却の相場や税金はどれくらい?準備からクロージングまでの流れも解説

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債務超過企業の評価にはインカムアプローチが適している

債務超過企業では、潜在的な収益性に対する評価を最大限引き出すために、インカムアプローチによる評価が適しています。理論的な枠組みにもとづいて企業価値を評価する場合は、特にDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)が利用しやすいでしょう。

DCF法では、事業計画から将来の「フリーキャッシュフロー(FCF)」(企業が得た利益から経費を差し引いた後の現金のこと。会社が自由に使うことができるお金であり、将来の投資や配当などに活用される)を予測します。

その後、予測された将来のキャッシュ・フローを現在の価値に置き換えるために、「割引率」(将来のキャッシュ・フローの価値を現在の金額に換算するための利率。投資のリスクや時間の価値を考慮して設定される)でFCFを割り引きます。年ごとにこの計算を実施し、それらを合算することで「株主価値」を算出します。事業計画書が株価に大きな影響を与える可能性があるため、適切な評価を行うことが重要です。

一方、黒字企業の場合、直近の営業利益を将来の収益力と見なす簡易的な手法である、年買法が使われることがあります。この手法では、企業価値を「純資産+営業利益×○年」という式で評価します。ただし、年買法は非常に大まかな手法であり、理論的な根拠や具体的な裏付けはありません。

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債務超過企業を売却するうえでの4つの注意点

先述した通り、債務超過企業の売却には複数のスキームが存在します。理解が浅いと、M&A後に予期せぬトラブルに巻き込まれるリスクがあります。売却の際は、少なくとも以下4つのポイントに注意しましょう。

注意点1:適切なスキームを選択する

適切なスキームを選ぶことが重要です。例えば、事業譲渡を選択してほとんどの資産を売却したのに、負債を返済しきれないという状況は避ける必要があります。もし返済額が不足している場合は、事業譲渡ではなく株式譲渡を選択し、負債を含めて所有権を移転すべきでしょう。後悔しないように、譲渡方法を慎重に検討することが重要です。

注意点2:譲渡契約書の内容を徹底的に確認する

M&Aは、現経営者や買い手の経営者にとって重要なイベントです。金額的にも大きな取引となるため、譲渡契約書に確認漏れがあると、トラブルが発生するリスクがあります。

譲渡契約書には、受け渡し日、支払方法、金額、期日などの重要な事項が記載されています。自身で判断することが難しい場合は、専門家に相談し、自社に不利な項目がないかを確認してもらうと安心です。

注意点3:買い手企業の信用状況を確認する

買い手企業の信用状況を事前に調査することも欠かせません。もし買い手企業の信用状況が悪化している場合、株式譲渡後に買い手企業が倒産するリスクがあります。それにより、従業員や取引先などへの影響も考えられます。そのため、ある程度の基準を設けた上で、買い手企業の信用状況を確認しましょう。

注意点4:利害関係者に注意して手続きを進める

債務超過企業を売却する際には、通常以上に利害関係者に注意し、手続きを進める必要があります。その理由は3つあります。

新設分割や吸収分割の場合、債権者保護手続きが必要

新設分割や吸収分割を用いる場合に、債権者保護手続きが必要となるためです。具体的には、「会社法」第789条および第810条の規定により、債権者からの異議申し立ての受け付けや、異議に対する債務弁済、担保提供などを行う必要があります。

債権者からの理解が必要

債権者からの理解を得ないと、手続きを円滑に進められない場合があるためです。例えば売却に伴って債務整理を実施する場合、会社売却に関する債権者からの理解が不可欠です。取引をスムーズに進めるためにも、買い手だけでなく債権者との協議も重ねることで、理解獲得に努めましょう。

詐害行為と見なされるリスクがある

詐害行為と見なされるリスクがある点にも注意が必要です。詐害行為とは、債務者が債権者の利益を害することを知った上で、自らの財産を減らす行為です。前述の通り、債務超過企業の売却にあたっては、会社分割や事業譲渡によって主要事業を別法人に移すスキームをとるケースがあります。この場合、元の会社に債務のみが残されることになり、債務弁済の原資となる事業はなくなってしまいます。

つまり、債権者視点では債務弁済を期待できなくなってしまいます。この場合、「民法」の第424条の規定により、債権者から詐害行為の取り消しを裁判所に訴えられてしまうおそれがあります。請求が認められるとM&A自体が遡って無効とされるおそれがあるため、債権者の利害も考慮して売却手続きや交渉を進めなくてはいけません。

参照元:
e-Gov「会社法
e-Gov「民法

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債務超過企業が会社売却を成功させる6つのポイント

債務超過企業が会社売却を成功させるためのポイントを4つ解説します。

ポイント1:自社分析と明確な売却戦略を策定する

売却戦略は、以下の3つの方向性から選択することが一般的です。

  • ノンコア事業を切り離し、売却してコア事業を継続させる
  • 自社全体を売却する
  • コア事業を切り離し、売却して残った事業の清算を行う

自社の状況をしっかりと分析し、強みや弱み、財務状況などを明確化した上で最適な方法を選ぶことが重要です。

ポイント2:企業価値を高めておく

一般的に、収益性や将来性が見込める事業のほうがスムーズに売却できます。

事業譲渡では、一部の事業だけを選択して売買できるため、収益性や将来性の高い事業だけを売る戦略を採用することで、債務超過であっても買手企業を見つけやすくなるでしょう。

また、無形資産の価値を高めておくことも重要です。無形資産は「情報化資産」「革新的資産」「経済的競争能力」に分類され、「情報化資産」はソフトウェアやデータベースなどの情報関連の資産を指します。

「革新的資産」には、研究開発の成果物や鉱物資源の探査、著作権やライセンス、他の製品開発やデザイン、研究に関連する資産が含まれます。「経済的競争能力」は、ブランド資産(マーケティングに関連する支出)、企業独自の人材資産、組織構造(組織改革に関連する資産)などです。

債務超過の場合でも、収益性や希少性の高いノウハウ、技術、販売網などがあれば、買い手を見つけやすくなります。特に、買い手候補となる企業のニーズに合致する無形資産を保有している場合、相場を上回る価格で売却できる可能性もあります。

ポイント3:シナジー効果を発揮できる買い手企業を選ぶ

シナジー効果が見込める企業に売却を打診することも有効な戦略です。自社の事業とシナジー効果を買手企業に提案することで、債務超過であっても事業譲渡を実現できる可能性が高まります。

ポイント4:専門家に相談する

債務超過企業がM&Aによる会社売却を実施する場合、私的整理や債権カットを行ったり、自社の強みを見つけたり、企業価値を見直したりする必要があります。また、適切なタイミングで売却することも非常に重要です。

これらを独自で進めるのは難しいため、債務超過企業がM&Aによる売却を行う場合は、M&Aアドバイザーなどの専門家によるサポートを受けながら進めることをおすすめします。

ポイント5:事業の価値を客観的に評価する

債務超過企業の売却においては、売り手が気づいていなかった事業の価値を引き継ぐ側が高く評価し、成立するケースもあります。

例えば売り手の収支や財務状況、事業の規模や保有不動産などは事業の明確な特徴を示しますが、買い手側が評価するのはこれらの要素に限りません。高度な技術力や優れた取引先とのつながり、優秀な従業員、地域や業界での知名度やブランド価値、業界内でのシェア、店舗ネットワーク、特許やノウハウ、事業分野の将来性、許認可など、数々の要素が評価の対象となります。

売り手の事業が小規模である場合や、赤字や債務超過である場合でも、買い手が事業の価値を認めて「ぜひ引き継ぎたい」と申し出る可能性があることを認識しておきましょう。

ポイント6:売却を検討している場合は早めにアクションを起こす

会社売却を行う際は、できるだけ余裕のある状況でアクションを起こすことが重要なポイントです。早期に検討して実行することにより、従業員の雇用を守れるほか、地域のサプライチェーンを維持することにもつながります。

また、売り手側の経営者自身にとっては、手元に残る譲渡対価(代金)の額が増えるケースもあるでしょう。事業全体を継続できない場合でも、一部の事業を早期に譲渡すれば、経営を継続できる可能性もあります。
しかし、判断や行動が遅れることで廃業費用すら捻出できない状況に陥るケースもあります。家族や従業員、取引先などに迷惑をかけないためにも、経営者は早期に判断し、適切な対応を見極めましょう。

希望する引き継ぎ先とのマッチングには、数カ月から1年程度の期間がかかると予想されます。より良い引き継ぎ先企業と出会うためにも、早期に判断して行動を起こすことが重要です。まずは、専門家に相談することから始めると良いでしょう。

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債務超過企業による売却事例

最後に、債務超過企業による売却事例を3件紹介します。債務超過企業のM&Aを検討している方は参考にしてください。

株式会社ブランジスタゲームによる株式会社ネクシィーズへの株式譲渡

当事者ブランジスタゲーム:マーケティング事業
ネクシィーズ:エンベデッド・ファイナンス事業など
手法株式譲渡
売却が成立した要因買い手企業(売り手企業の親会社)によるグループ再編のニーズに合致したこと

2019年4月、株式会社ブランジスタは、連結子会社である株式会社ブランジスタゲームの保有全株式(議決権割合は95.7%)を、親会社の子会社である株式会社ネクシィーズに売却しました。買い手企業は、グループ再編の一環としてブランジスタゲームのM&Aを行いました。譲渡価格は1円ながらも、売り手企業は債務超過である子会社の売却に成功しました。

参照元:株式会社ブランジスタ「連結子会社の異動(株式譲渡)及び特別利益の発生に関するお知らせ

株式会社クリエ・ジャパンによる合同会社みやびマネージメントへの株式譲渡

当事者クリエ・ジャパン:Webサービス、ITソリューション事業など
みやびマネージメント:投資業や経営コンサルタント業など
手法株式譲渡
売却が成立した要因売り手企業が有するテクノロジーの優位性が買い手企業に評価されたこと

2022年10月、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社は、100%子会社である株式会社クリエ・ジャパンの保有全株式を、合同会社みやびマネージメントに売却しました。売り手企業グループは、事業の選択と集中を図る一環で、債務超過であるクリエ・ジャパンを売却しました。買い手企業から売り手企業が有する技術の優位性が評価されたことにより、債務超過でありながら200万円での売却に成功しました。

参照元:アジャイルメディア・ネットワーク株式会社「連結子会社に対する債権放棄及び特別損失の計上並びに同連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ

セノー株式会社による事業再生

当事者セノー:学校や公共体育館に対するスポーツ関連器具の製造や販売、保守点検サービス
企業再生支援機構:中小企業に対する事業再生の支援
手法第二会社方式
売却が成立した要因売り手企業の高い公共性を有する事業について、存続させる必要性を買い手企業が認めたため

2010年、セノー株式会社は事業再生の一環として、株式会社企業再生支援機構に対して株式の売却を実施しました。売り手企業が、地域におけるスポーツ振興の重要なインフラとして高い公共性を有している事業を行なっていたため、企業再生支援機構による支援が決定・実施されました。

第二会社方式のスキームで実施された事業再生は、2012年まで実施されました。結果的には、一定の目処が立ったことや債務弁済が完了したことから、事業再生は一定の成功を収めたと言えるでしょう。本件の事業再生に関しては、4億円の出資や最大1.5億円の債務保証が併せて実施されました。

※参照元:
株式会社企業再生支援機構「セノー株式会社等に対する支援決定について
株式会社企業再生支援機構「再生支援案件 事例集
株式会社企業再生支援機構「セノー株式会社等に対する再生支援の完了について

関連記事:「債務超過とは?意味や貸借対照表の見方・原因・対策を解説

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まとめ

本記事では、債務超過企業の売却と買収のメリットや、債務超過企業を売却する上での注意点について解説しました。債務超過企業の売却は困難と考えられていますが、実際には売却できることもあります。債務超過企業の売却を独自に進めることは非常に難しいため、まずは専門家に相談しましょう。

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