このページのまとめ
- 垂直型M&Aとは、上流工程にある企業と下流工程にある企業のM&A
- 水平型M&Aとは、同一業種や同一業態の企業同士で行うM&A
- 垂直型M&Aのメリットは、新規事業に参入しやすい点やコスト削減ができる点
- 垂直型M&Aのデメリットは、費用がかかる点や専門性を失うリスクがある点
- 垂直型M&Aを成功させるためには、PMIの準備をしっかり行うことがポイント
M&Aを検討しているときに、「垂直型M&Aとは何?」と気になった方もいるのではないでしょうか。垂直型M&A(垂直統合)とは、上流(川上)工程にある企業と、下流(川下)工程にある企業によるM&Aのことです。
本コラムでは、垂直型M&Aの概要やメリット・デメリット、事例を紹介。また、水平型M&Aとの違いも解説します。そのほか、成功のポイントも紹介しているので、今後M&Aを予定している方はぜひ参考にしてください。
目次
垂直型M&A(垂直統合)とは?
垂直型M&A(垂直統合)とは、取引段階が異なる企業同士によるM&Aのことです。
M&Aは「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略で、主に会社の売買を指します。
垂直型M&Aの特徴や、水平型M&A(水平統合)との違いについて、ここから確認していきましょう。
上流(川上)と下流(川下)の企業の統合のこと
垂直型M&Aは、具体的に上流(川上)工程にある企業と、下流(川下)工程にある企業が統合することを指します。川上・川下は、サプライチェーン(製品の原材料・部品の調達から販売にいたるまでの流れ)の過程を川の流れにたとえた表現です。
川上は、メーカーのように消費者から離れた段階の取引を指します。それに対し、川下は販売業やサービス業のように、消費者に近い段階の取引のことです。
商品製造・卸売・販売の流れの中で、製造業を営む企業と小売業を営む企業が統合することが、垂直型M&Aの具体例として挙げられます。また、製造業を営む企業が卸売業を営む企業を買収するケースも、垂直型M&Aの具体例です。
M&Aの垂直統合と水平統合の違い
M&Aには、垂直型M&A(垂直統合)以外に水平型M&A(水平統合)も存在します。垂直統合と水平統合の主な違いは、M&Aを行う企業同士の関係性にあります。
水平型M&A(水平統合)とは、同一の取引分野で競争関係にある会社間のM&Aを指します。製造業を営む場合は別の製造業者、卸売業を営む場合は別の卸売業者、小売業を営む場合は別の小売業者と統合するのが、水平統合の具体例です。
以下の表に、M&Aの垂直統合と水平統合の違いをまとめました。
M&Aの種類 | M&Aの対象企業 |
垂直型M&A(垂直統合) | サプライチェーンの川上企業と川下企業 |
水平型M&A(水平統合) | 同じ業種・業態の企業 |
なお、垂直統合と水平統合では、目的やメリット・デメリットも異なります。
垂直型M&A(垂直統合)のメリット
垂直型M&A(垂直統合)のメリットは、以下のとおりです。
- コストを下げやすい
- 新規事業に参入できる
主にサプライチェーンを効率化させることを目的に垂直型M&Aを進めることが一般的です。
ここから、垂直型M&Aのメリットについて詳しく解説します。
コストを下げやすい
コストを下げやすい点が、垂直型M&Aを行うメリットです。
垂直型M&Aを実施する前は、サプライチェーンにある上流・下流の取引で都度マージン(利ざや)が発生します。垂直型M&Aを実施すれば、上流・下流が同一会社同士の取引となり、マージン分を考慮しなくても済むようになります。その結果、コスト抑制につながります。
たとえば、製造・卸売・小売の流れの中で製造業・卸売業・小売業が垂直型M&Aを実施すれば、今まで合計2回発生していたマージンを省けるため、大幅なコスト削減を期待できるでしょう。
コストを削減できれば、利益率の改善や競合企業との競争力アップにつながります。
新規事業に参入できる
垂直型M&Aを実施すれば、新規事業に参入できる点もメリットです。製造業と小売業、製造業と卸売業など別工程にある企業とM&Aすることで、リスクを抑えつつノウハウを手に入れて新規事業に進出できます。
また、今までと異なる工程の企業と統合を行うことで、新たな情報を手に入れられる点もメリットです。
たとえば、もともと消費者との接点が少ない製造業者でも、小売業者との垂直型M&Aを実施すれば、消費者の声を直接聞けるようになります。
消費者の声を直に聞き、ニーズをより具体的に把握すれば、商品改良や新商品開発に役立つでしょう。
垂直型M&A(垂直統合)のデメリット
垂直型M&A(垂直統合)のデメリットとして、以下の点が指摘されています。
- M&Aに費用がかかる
- 専門性が失われる可能性がある
各デメリットについて、確認していきましょう。
M&Aに費用がかかる
垂直型M&Aを実施するにあたって、費用がかかる点がデメリットです。マージンを省いてコスト削減することを目的に垂直型M&Aを実施したにもかかわらず、M&A実施にかかるコストの方が高くつく可能性があります。
M&Aにかかる費用の具体例は、以下のとおりです。
- 買収金額(買い手の場合)
- 仲介手数料(着手金・中間報酬・成功報酬)
- デューデリジェンス実施費用(買い手の場合)
- 企業価値算定費用
- 税金
事前に垂直型M&Aにかかる費用を見積もり、メリットとどちらが大きいか検討することが大切です。また、買い手の場合はM&Aの価格が高すぎないかどうかも慎重に見極めなければなりません。
なお、仲介手数料は、依頼する会社によって異なるため、事前に料金体系を確認するようにしましょう。
専門性が失われる可能性がある
垂直型M&Aを実施することで、専門性が失われる可能性がある点もデメリットです。垂直型M&Aとともに新規事業に進出することで、自社の経営資源が分散されて今までの強みを十分に発揮できなくなることがあります。
また、コスト削減のために垂直型M&Aを実施した企業との間だけで部品を調達することにこだわると、今までより柔軟性を欠くことになります。新商品開発や製品改良の障害になるため、自社製品の競争力が弱まるでしょう。
そのほかにも、垂直型M&A実施後に、従来の取引先が離れることがある点にも注意しなければなりません。M&A対象の企業が従来の取引先と競合する場合に、今後の取引が継続できなくなるおそれがあります。
水平型M&Aのメリットとデメリット
垂直型M&Aと比較するため、ここから水平型M&Aのメリットやデメリットについて解説します。
水平型M&A(水平統合)のメリット
水平型M&Aのメリットとして、主に以下の点が挙げられます。
- ノウハウを獲得できる
- シナジー効果を期待できる
水平型M&Aを行うことによって統合相手のノウハウを獲得すれば合理化を図ることができて、コスト削減にもつながります。
シナジー効果とは、複数の企業が結びつくことにより、それぞれが単独で活動する以上の効果を発揮することです。水平型M&Aを実施して同業種の企業同士が結びつくことによって、既存事業を強化できれば、シナジー効果が生まれたことになります。
水平型M&A(水平統合)のデメリット
水平型M&Aのデメリットは主に以下の3つです。
- 優秀な人材が流出する
- 想定したシナジー効果が見込めないリスクがある
- 独占禁止法に抵触する可能性がある
水平型M&Aを実施することで、優秀な人材が流出するリスクがある点がデメリットとして指摘されています。双方の従業員が新たな社風に馴染めない、相手側企業の仕事の進め方が理解できない、そもそもM&Aに反対していたなどの理由で、退職が進むケースがあるでしょう。
また、シナジー効果を期待して水平型M&Aを実施したにもかかわらず、思うような効果を得られない可能性があります。水平型M&Aの実施にもコストがかかるため、シナジー効果が生じなければ、かえって損してしまうでしょう。
そのほか、水平型M&Aが独占禁止法に抵触することがある点に注意が必要です。独占禁止法は、事業者の公正かつ自由な競争を目的に策定された法律を指します。抵触すると判断された場合、M&Aの実施は中止になってしまいます。
上流と統合する場合と下流と統合する場合の違い
垂直型M&Aには、自社が上流と統合する場合と、下流と統合する場合があります。それぞれの特徴を確認していきましょう。
上流と統合する際の特徴
上流の企業と統合して供給元の業界に進出することを後方統合と呼びます。
上流(川上)の企業と統合すれば、競合他社との差別化につながります。とくに、入手しにくい原材料を取り扱う上流企業とM&Aした場合、他社と比べて独自色を出しやすくなるでしょう。
また、統合後は同じ企業グループ内で取引することになるため、技術やノウハウを社外に出す必要がなくなります。その結果、情報漏洩リスクの軽減につながるでしょう。
下流と統合する際の特徴
下流の企業と統合して顧客・消費者との接点を増やすM&Aを前方統合と呼びます。
下流(川下)の企業と統合することで、市場のニーズや潜在的リスクをとらえやすくなります。小売業界に進出することで、消費者の声を聞く機会が増えるためです。
垂直型M&Aを成功させるポイント
垂直型M&Aを成功させるためのポイントは、主に以下のとおりです。
- PMIの準備をしっかり行う
- 専門家に相談する
それぞれ詳しく解説します。
PMIの準備をしっかり行う
垂直型M&Aを成功させるためには、PMIの準備を入念に行うことがポイントです。PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)とは、当初計画していたM&Aによる効果を最大化するための統合プロセスを指します。
M&Aは成約がゴールではありません。PMIを怠ると、優秀な従業員の退職や顧客離れ、内部対立、業績悪化などが発生し、十分なシナジー効果を得られないリスクが高まります。
PMIでは、業務面と意識面で統合を図ります。業務面とは、業務プロセスや情報システム、経理などです。意識面とは、従業員同士の相互理解や企業文化の統合を指します。
M&Aにかけた手間・費用を無駄にしないためにも、PMIの準備をしっかりと行い、正しく実行しましょう。
専門家に相談する
専門家に相談することも、垂直型M&Aの成功のポイントです。M&Aでは、デューデリジェンスやPMI、企業価値評価などの過程でさまざまな専門的知識が必要となります。専門家を頼ることで、M&Aのプロセスを円滑に進められるようになるでしょう。
また、専門家に相談すれば、自社にとってどのM&Aスキームが適切なのかについてもアドバイスしてくれます。
M&Aについて相談できる専門家は主に以下のとおりです。
- 弁護士
- 公認会計士
- 税理士
- M&A仲介会社・アドバイザリー
弁護士は法務デューデリジェンス、公認会計士は財務デューデリジェンス、税理士は税務デューデリジェンスを相談する際に役立ちます。デューデリジェンスとは、対象企業の価値やリスクを専門家の立場で調査することです。
M&A仲介会社・M&Aアドバイザリーは、M&Aの手続きや交渉をサポートします。M&Aを専門として支援業務を行っているため、M&Aにまつわるあらゆる相談事に乗ってくれます。
M&A仲介会社が売り手と買い手の間に立ってサポートするのに対し、M&Aアドバイザリーはどちらか一方をサポートする点が主な違いです。
垂直型M&A・水平型M&Aの事例
垂直型M&A(垂直統合)や水平型M&A(水平統合)の事例は、いくつも存在します。今回は、IT業界における垂直型M&Aの事例や、コンビニ業界の水平型M&A事例を紹介します。
垂直型M&A(垂直統合)した企業の事例
ZホールディングスとLINEの経営統合完了は、垂直型M&Aの事例のひとつといえるでしょう。2021年3月1日に、Yahoo! JAPANを運営するヤフーをはじめ、さまざまな企業を傘下に置くZホールディングスが、メッセンジャーサービスを手がけるLINEとの統合を完了しました。
情報関連サービスはYahoo! JAPAN、コミュニケーション関連サービスはLINEが担うことになります。統合により国内で提供するサービスは200超、国内総利用者数は3億超、国内総クライアント数は約1,500万、自治体との総連携案件数は3,000超となったとのことです。
なお、2023年2月には、Zホールディングス・ヤフー・LINEの3社による合併を発表しています。
参照元:Zホールディングス「ZホールディングスとLINEの経営統合が完了」
参照元:Zホールディングス「当社ならびに完全子会社である LINE(株)およびヤフー(株)を中心とした合併方針決定のお知らせ 」
水平型M&A(水平統合)した企業の事例
ファミリーマートとユニーグループホールディングスの経営統合は、水平型M&Aの事例です。2016年9月に、コンビニチェーンのファミリーマートと、同じくコンビニチェーンのサークルKサンクスを傘下に置く、ユニーグループホールディングスが経営統合を完了しました。
以降、「サークルK」「サンクス」から「ファミリーマート」へのブランド転換を進め(合計約5,000店)、2018年11月30日にブランド統合が完了しています。今後は、スケールメリットを活かしてさらに高品質なサービスや商品を提供していくとのことです。
参照元:ファミリーマート「世界でも類を見ない約5,000店のブランド転換を全社一丸で実施!
サークルK・サンクスからファミリーマートへのブランド統合完了へ~「One FamilyMart」として、これからも地域に密着した店舗づくりを進めてまいります~」
まとめ
垂直型M&Aとは、上流(川上)工程にある企業と、下流(川下)工程にある企業が統合することです。
垂直型M&Aを実施することでシナジー効果を期待できます。コストダウンが図れたり、新規事業への参入の足掛かりを手に入れたりできるでしょう。ただし、垂直型M&Aを行うことによって発生する費用や専門性を失うリスクに注意が必要です。
垂直型M&Aで十分なシナジー効果を発揮するためには、PMIが欠かせません。入念な準備を行い、適切にPMIを実施しましょう。
垂直型M&Aの手続きやPMIの実施にはさまざまな専門的知識が問われます。あらかじめ専門家に相談すれば、垂直型M&Aをスムーズに進行しやすくなります。相談は無料で受け付けている支援機関も多いので、まずは問い合わせてみましょう。
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レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、各領域に特化した専門コンサルタントが在籍しており、一貫したサポートを提供することが可能です。
料金体系は基本的にM&A成約まで料金が発生しない完全成功報酬型です(中間金のみ買い手企業様よりいただいています)。ぜひお気軽にご相談ください。