このページのまとめ
- 事業承継とは、現オーナーが会社の経営権などを後継者に引き継ぐこと
- 事業譲渡とは、会社の事業の全部もしくは一部を譲渡すること
- 事業譲渡は売り手と買い手で譲渡対象の事業を選択できる点が事業承継と異なる
- 事業承継と事業譲渡どちらを選択するかは、置かれている状況によって判断する
「事業承継と事業譲渡の違いは何?」と気になっている方もいるのではないでしょうか?事業承継は会社を丸ごと引き渡すのに対し、事業譲渡は特定の事業を対象に譲渡する方法です。
このコラムでは、事業承継と事業譲渡の概要や、具体的な手続き方法を解説します。そのほか、事業承継と事業譲渡のメリット・デメリットも紹介します。事業の引き継ぎを検討している方は参考にしてください。
目次
事業承継と事業譲渡の違い
事業承継も事業譲渡も会社の事業を引き継ぐ方法ですが、対象などに違いがあります。違いを理解できるように、事業承継と事業譲渡の概要を確認していきましょう。
事業承継とは
事業承継とは、会社の経営権などを現経営者(オーナー)から後継者に事業を引き継ぐことです。事業承継では、経営権や後継者などの「人(経営)」、株式や資金などの「資産」、経営理念やノウハウなどの「知的資産」を引き継ぎます。
一般的に、後継者の育成には5年以上の期間がかかるため、経営者は早い段階から事業承継の準備をしておかなければなりません。
事業承継の方法は、主に以下の3つです。
- 親族内承継
- 従業員承継
- M&A
親族内承継は子どもなどの親族に経営権を引き継ぐことで、従業員承継は親族以外の従業員に引き継ぐことを指します。また、M&Aとは、親族でも従業員でもない第三者へ引き継ぐことです。
関連記事:事業承継とは?方法や税制・補助金などについても解説
事業譲渡とは
事業譲渡とは、会社の事業の全部もしくは一部を譲渡することです。事業譲渡を「事業売却」と呼ぶこともあります。
全事業を含めて丸ごと経営権を後継者に移す事業承継と異なり、事業譲渡は売り手と買い手の間で対象の事業を選べる点が特徴です。また、事業承継には後継者が欠かせないのと同様に、事業譲渡には買い手を探さなければなりません。
なお、事業譲渡もM&Aのひとつに分類されます。
関連記事:事業承継とは?成功に向けたポイント方法や進め方を解説
事業承継と事業譲渡の手続きの違い
事業承継と事業譲渡では、手続きにも違いがあります。それぞれの方法を確認していきましょう。
事業承継する方法
事業承継をする方法には「親族内承継」「従業員承継」「M&A」の3つがあります。
親族内承継
事業承継の親族内承継を選ぶ場合、主な方法は以下のとおりです。
- 生前贈与
- 相続
- 株式売買
生前贈与は、現オーナー(経営者)が生前に後継者へ株式を贈与することです。事業承継にあたって、贈与税が課されることがあります。
相続は、現オーナーが亡くなってから、親族である後継者が株式を相続する方法です。事業承継時に、相続税が課されることがあります。
株式売買は、後継者が現在のオーナーに対価を支払い、株式を取得する方法です。株式売買の場合、後継者があらかじめ資金を用意しなければなりません。
従業員承継
事業承継の従業員承継を選ぶ場合、株式売買や生前贈与などの手段をとることが一般的です。現オーナーが亡くなった際、財産の全部または一部を、遺言で後継者へ贈る遺贈を用いることもあります。
M&A
M&A(第三者への譲渡)によって事業承継をする場合、株式譲渡・株式売買によって実行することが一般的です。
事業譲渡する方法
事業譲渡する場合、売り手と買い手の間で事業譲渡契約を締結します。事業譲渡契約書に盛り込まれる内容は、主に以下のとおりです。
- 譲渡の概要
- 譲渡対価
- 譲渡日
- 対価の支払方法財産の移転手続き
- 競業避止義務
- 契約・従業員の引継ぎ
また、事業の全部を譲渡する場合や事業の重要な一部を譲渡する場合に、売り手は株式総会の決議で承認を得なければなりません。ただし、一部条件を満たす場合は株式総会の決議は不要です。
なお、株式総会の決議が不要の場合でも、事業譲渡にあたって取締役会の決議はおこなわなければなりません。
参照元:e-Gov「会社法第467条」
参照元:e-Gov「会社法第468条」
事業承継と事業譲渡のメリットを比較
事業承継と事業譲渡のメリットをそれぞれ比較していきましょう。
事業承継の3つのメリット
事業承継の主なメリットは、以下の3つです。
- 従業員の雇用を守れる
- 手続きがわかりやすい
- 事業承継税制を利用できる
ここから詳しく解説します。
1. 従業員の雇用を守れる
従業員の雇用を維持しやすい点が、事業承継のメリットです。経営者の高齢化を理由に廃業を検討している場合でも、事業承継で会社を存続させれば、基本的に従業員の雇用を継続できます。
事業承継を引き受ける側にとっても、ノウハウや経験を有する人材をそのまま承継できる点がメリットです。その結果、コストを抑えることにもなります。
ただし、経営者が変わることについて従業員に納得してもらわなければ、スムーズな事業承継は難しいでしょう。
2. 手続きがわかりやすい
事業承継は基本的に経営者が代わるだけなので、手続きがわかりやすい点がメリットです。事業承継では、権利・義務について譲受側が個別で同意する必要がなく、会社が保有する資産や許認可などを全般的に承継できます。
社名や社風が変わらなければ、取引先からの理解も得やすいでしょう。そのため、今までと同様の取引や売上を期待できます。
3. 事業承継税制を利用できる
事業承継税制を利用できる点も、事業承継のメリットです。事業承継税制とは、円滑化法に基づく認定のもとで、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度を指します。
事業承継の親族内承継で生前贈与や相続を利用する際、贈与税や相続税がかかることが課題です。その課題を解消するのが事業承継税制です。
事業承継税制の適用により、承継時に発生する相続税や贈与税の納税猶予や免除を受けることが可能です。後継者にかかる負担を抑えられます。
なお、2027年12月31日まで、「一般措置」よりも対象株数の範囲が広くて相続税の納税猶予割合が大きい、「特例措置」を利用できます。特例措置を利用するためには、2024年3月31日までに各都道府県に特例承継計画を提出することが必要です。
参照元:国税庁「事業承継税制特集」
事業譲渡の3つのメリット
事業譲渡のメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 会社が売却益を得られる
- 特定の事業を売却できる
- 会社を引き続き経営できる
それぞれ確認していきましょう。
1. 会社が売却益を得られる
事業譲渡では、会社が事業の売却益を得られる可能性がある点がメリットです。
会社が売却益を得ることで、既存借入の返済に充てられるでしょう。売却益を元手に、新規事業を始めることもできます。
事業譲渡で多くの売却益を得るためには、対象の事業が買い手にとって魅力的なものである必要があります。より高値で売却するために、対象事業の強みを把握し、十分にアピールしましょう。
2. 特定の事業を売却できる
特定の事業を選んで売却できる点も、事業譲渡を選択するメリットです。
売り手は、不採算事業に絞って売却することが可能です。それにより、採算事業やコア事業に集中できます。また、買い手は会社が抱える負債を引き継がず、自社にとってメリットが大きいと考える事業のみを手に入れられるでしょう。
3. 会社を引き続き経営できる
事業譲渡は、特定の事業を売却する手法であるため、現オーナーは引き続き会社の経営権を保てる点がメリットです。会社が手がける全事業を売却する場合でも法人格は残るため、会社の経営権自体が失われることはありません。
由緒ある会社を経営している場合や、社名に特別な愛着がある場合など、とくに会社の存続を重視したいケースで事業譲渡は有効でしょう。
事業承継と事業譲渡の注意点やデメリットを比較
事業承継にも事業譲渡にも、デメリットは存在します。それぞれの注意点やデメリットを比較しましょう。
事業承継の注意点やデメリット
事業承継の注意点やデメリットは、以下のとおりです。
- 買い手は負債も引き継ぐ
- 後継者選定が課題になる
- 経営権を集中させる方法を考えなければならない
詳しく解説します。
買い手は負債も引き継ぐ
特定の事業のみが引き継ぐ対象になる事業譲渡と異なり、事業承継では負債も含めて会社を引き継がなければなりません。。負債がある会社を引き継ぐ場合、事業承継後に既存債務の返済に追われて資金繰りが悪化することがあります。
事業承継する際、買い手や後継者はあらかじめ対象企業の資産だけでなく、負債もチェックすることが重要です。
後継者選定が課題になる
事業承継を進めるにあたって、後継者選定が課題になります。スムーズに事業承継して事業承継するためには、適切な後継者を見つけることが必要です。
経営者には、財務・会計に関する基礎知識や、業界における経営能力などが求められます。経営者としての資質を疑われる人物を選定した場合、経営者交代について社内外からの納得を得られないことがあるでしょう。
親族や従業員に後継者候補が多ければ、選定に時間や労力がかかります。第三者に承継する場合も、M&Aの相手探しに時間を確保しなければなりません。
経営権を集中させる方法を考えなければならない
事業承継では、経営権を集中させる方法を考えなければならない点がデメリットです。後継者が決まっていても、事業承継時に株式が分散するとスムーズに経営権を移せません。
とくに、現オーナーが亡くなった際に、経営権集中の課題が発生することがあります。相続人の間で資産を公平に分担すると、株式が分散してしまいます。
現オーナーが事前に長男を後継者に指名していたとしても、遺言がなければ基本的に法定割合で相続することになります。その結果、株式を取得した経営者の兄弟にも、拒否権や支配権が与えられます。
親族内承継で経営権を集中させるためには、「生前贈与する」「遺言を検討する」などの対策が必要です。
事業譲渡の注意点やデメリット
事業譲渡の注意点やデメリットとして、以下の点が挙げられます。
- 手続きに手間がかかる
- 競業避止義務がある
- 売却益に税金がかかる
それぞれ確認していきましょう。
手続きに手間がかかる
手続きに手間や時間がかかる点が、事業譲渡のデメリットです。事業譲渡では、対象事業に関する契約や義務について、個別で相手先からの同意を得なければなりません。
関係先が多いほど、手続きに手間がかかります。事業譲渡にあたって、同意を得なければならない契約の具体例が以下のとおりです。
- 取引に関する契約
- 債権・債務
- 従業員との雇用契約
- 業務提携契約
また、売り手は株式総会や取締役会の同意が必要な点も、手間がかかる理由です。
競業避止義務がある
事業譲渡により、競業避止義務が課される点もデメリットです。
競業避止義務を課されると、事業譲渡をした会社は当事者間で別段の合意がない限り、同一の市町村区域内および隣接する市町村の区域内で、譲渡してから20年間は同一事業をできません。ただし、当事者間で合意した場合は、期間の延長や短縮が可能です。
なお、延長できる期間は30年間までです。
参照元:e-Gov「会社法第二十一条」
売却益に税金がかかる
売り手は、事業譲渡で税金がかかる可能性がある点に注意が必要です。事業を売却して譲渡益が発生した場合は、法人税が課されます。
法人税の実効税率は、30%前後です。それに対して、株式を譲渡した場合にかかる税金(所得税・復興所得税・住民税)の合計税率は20.315%のため、事業承継で会社を第三者に売却した場合よりも税金の負担は大きいでしょう。
事業承継と事業譲渡どちらを選ぶべき?
事業を引き継ぐにあたって、事業承継と事業譲渡のどちらを選択すべきかは、置かれている会社の状況によって異なります。
後継者が決まっていて、そのまま会社を引き継がせたい場合は事業承継を選択することが一般的です。一方、採算のとれない赤字事業を切り離したいなら、事業譲渡を選択するとよいでしょう。
また、いずれを選択する場合も、法的リスクや税金面で考慮しなければならないことがあるため、事前に専門家へ相談することが大切です。
まとめ
事業承継とは、会社の経営権などを現経営者(オーナー)から後継者に引き継ぐことです。事業譲渡とは、会社の事業の全部もしくは一部を譲渡することです。事業承継は経営権を含めて丸ごと会社を引き継ぐのに対し、事業譲渡は特定の事業に限定する点が違いとして挙げられます。
事業承継と事業譲渡のどちらで引き継ぐべきかは、それぞれのメリットやデメリットを比較したうえで判断することが大切です。事業承継は手続きがわかりやすい点や事業承継税制を適用できる点、事業譲渡は売却益が得られる点や特定の事業を選んで売却できる点などが主なメリットとして挙げられます。
事業承継を選択する場合も事業譲渡を選択する場合も、税金面や法的リスクを考慮したうえで進めなければなりません。あらかじめ専門家への相談を検討しましょう。
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