M&Aが増加傾向にある理由とは?件数の推移や今後の展望なども紹介
2023年9月6日
このページのまとめ
- 日本のM&Aはコロナ禍の影響があった2020年を除き直近10年間毎年増加している
- M&Aの増加理由は中小企業の事業承継や買い手の財務状況の改善、業界再編が進行しているから
- M&Aの件数の増加に伴って、M&A仲介機関も増加している
- M&Aで事業承継する買い手のメリットは事業拡大、新規事業への参入など
- M&Aで事業承継する売り手のメリットは後継者問題の解決、ハッピーリタイアなど
M&Aを検討されている場合、最近のM&A動向がどうなっているのか知りたいという経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。日本で行われているM&Aの数は、コロナ禍の1年を除き増加傾向にあります。
本コラムでは、2013年以降10年間のM&A実施件数推移と今後の予測を紹介します。また、M&Aの目的や手法の概要、M&Aが増加している理由、M&Aで事業承継するメリットなども解説しています。
目次
M&Aとは?
M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略称です。直訳すると、Mergersは合併、Acquisitionsは買収ですが、合併などの企業組織再編行為と事業や会社そのものの売買取引の総称が、M&Aといえます。
一般にM&Aは、資本が移動する(=対価を支払う)ことで権利が移転(=事業の運営権や会社の経営権を獲得)するものです。
なお、資本は移動するものの権利は移転しない資本提携は、広義のM&Aとされています。資本提携の方法には出資や株式の持ち合い、合弁会社の設立などがあります。
M&Aを行う目的
M&Aを行う目的は、立場が違う売り手・買い手では異なります。
売り手の場合の主なM&Aの主な目的は以下のとおりです。
- 会社存続のための事業承継
- 創業者利益の獲得
後継者不在でも、M&Aによって後継者に引き継ぐことで事業承継が実現します。売却益を獲得すれば、新規事業の立ち上げや早期リタイアなどが可能です。
買い手の主なM&Aの主な目的は以下のとおりです。
- 新規事業への進出
- 業績向上
M&Aの実施によって、相手が持つ人材・設備・技術・知的財産などが獲得できます。その結果、事業の拡大や営業エリアの拡張、シェア率の向上などが望めるでしょう。
M&Aの手法
M&Aの手法を系統で大別すると以下の3つに分かれます。
- 買収
- 合併
- 会社分割
ここでは、それぞれに分類されるM&Aスキーム(手法)の概要を説明します。
買収
買収に分類されるM&Aスキームは、以下の5つです。
- 株式譲渡:対象企業の過半数の株式を買収して経営権を獲得する
- 株式交換:既存企業間において完全親子会社になる前提で対象企業の全株式を取得する
- 株式移転:新設企業が既存企業の全株式を取得して完全親子会社関係になる
- 事業譲渡:対象企業の行う事業および関連資産、権利義務などを選別して売買する
- 第三者割当増資:特定の第三者に新株を割り当てて発行する
株式譲渡では、株式の過半数以上を取得すると経営権が譲受会社に移ります。株式交換と株式移転は、会社法において組織再編行為と定められています。第三者割当増資は、出資者に株式を過半数割り当てれば買収となりますが、資本提携での少額出資の際にも用いられる手法です。
合併
合併とは、複数の企業が1社に統合されるM&Aスキームです。合併には、以下の2種類があります。
- 吸収合併:既存企業間で行われる合併
- 新設合併:新設企業が既存企業を吸収する合併
合併では、法人格が残る企業を存続会社、吸収されて統合される企業を消滅会社といいます。上述した買収の手法は売り手企業がそのまま存続するのが特徴ですが、それに対して合併は、売り手は消滅会社となり法人格が残りません。
会社分割
会社分割とは、売り手企業の事業部門を丸ごと買い手企業が引き継ぐM&Aスキームです。会社分割は、会社法により組織再編行為と定められています。会社分割は以下の2種類です。
- 吸収分割:既存企業間で行われる会社分割
- 新設分割:新設企業が買い手側となる会社分割
会社分割は、事業を売買するという点では買収の中の事業譲渡と類似して見えますが、内実は違うものです。個別承継である事業譲渡は、譲渡対象を選別できる利点はありますが、取引先との契約、従業員の労働契約、許認可などがを引き継げません。
一方、包括承継である会社分割は、全て丸ごと引き継げます(一部の事業では引き継げない許認可もあります)。
M&A件数の推移
中小企業白書によると、日本における直近10年間のM&A件数の推移は以下のとおりです。
- 2012(平成24)年:1,848件
- 2013(平成25)年:2,048件
- 2014(平成26)年:2,285件
- 2015(平成27)年:2,428件
- 2016(平成28)年:2,652件
- 2017(平成29)年:3,050件
- 2018(平成30)年:3,850件
- 2019(令和元)年:4,088件
- 2020(令和2)年:3,730件
- 2021(令和3)年:4,280件
2020年こそ、コロナ禍の影響でM&A件数は前年より減少しました。しかし、それ以外は毎年、右肩上がりでM&A件数は増加しています。
なお、この数値は上場企業などが公表したM&Aの統計です。非上場企業などが行う非公表のM&Aを含めると、実際にはもっと多くのM&Aが実施されていると推測されます。
参照元:中小企業庁「2022年版 中小企業白書(HTML版)」第1-1-90図
M&Aの件数が増加傾向にある5つの理由
現在、日本でのM&Aは増加しています。その理由には数多くのものがありますが、主要なものとして、以下の5つを取り上げました。
- 中小企業の事業承継の必要性が高まっている
- 買い手企業の財務状況が改善している
- 業界再編が進んでいる
- イグジット戦略として選ばれている
- M&A仲介機関が増加している
それぞれの背景を説明します。
中小企業の事業承継の必要性が高まっている
帝国データバンクの調査によると、国内の中小企業の後継者不在率は57.2%です。減少傾向にあるとはいえ、まだまだ高い水準であり各社の事業承継の進行が求められます。
そうした企業向けに、国もM&Aでの事業承継を推進・後押ししている状態です。近年は、事業・会社を売却することで会社を存続させる、M&Aでの事業承継が増加しています。
参照元:株式会社帝国データバンク『全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)』(2022年11月16日)
買い手企業の財務状況が改善している
2016(平成28)年1月、日本銀行はマイナス金利政策を導入しました。2023年6月現在もこの金融緩和策は維持されています。企業は金利負担が小さいため、金融機関から融資を得ることで財務状況の改善に努めてきました。その結果、M&Aの買い手側企業はM&Aに投じる資金を確保できるようになり、積極的にM&Aを実施するようになったのです。
業界再編が進んでいる
日本では、少子化による人口減少が止まりません。この現象に歯止めがかからなければ、多くの市場はシュリンクしていってしまうでしょう。そのような状況下で、事業規模やシェア拡大を狙った大手企業の業界再編を目的とするM&Aが増加しています。中小企業側も、いち早く大手の傘下に入ることで生き残りをかけ、積極的に売り手に回っています。
イグジット戦略として選ばれている
かつては、ベンチャー企業やスタートアップのイグジット戦略(投資資金の回収戦略)といえば、IPO(Initial Public Offering=新規株式公開)が主流と考えられていました。しかし、現在では、IPOよりも実現させやすいM&Aによるイグジットが注目され、実施件数が増加しています。
M&A仲介機関が増加している
M&Aの増加に伴って、専門業者であるM&A仲介会社の数も増加しています。また、現在では、以下のような機関がM&A仲介業に名乗りを上げており、M&Aに携わる業者はさらに増加している状況です。
- 銀行、信用金庫、証券会社などの金融機関
- 弁護士、税理士、公認会計士などの士業事務所
- FA(ファイナンシャルアドバイザー)や経営コンサルタント系の会社
そのほか、各都道府県に設置された公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターでは、M&Aでの事業承継を目指す中小企業経営者への支援・アドバイス業務などを行っています。
事業承継でM&Aを活用するメリット
ここでは、M&Aが増加している理由の1つとされる事業承継のためのM&Aに焦点を当てます。事業承継のために行うM&Aにおいて、その買い手と売り手が得られるであろうメリットを2つずつ抽出しました。
- 買い手のメリット:事業拡大
- 買い手のメリット:新規事業への参入
- 売り手のメリット:後継者問題の解決
- 売り手のメリット:ハッピーリタイア
上記のメリットは代表的なものですが、各社の状況により、これら以外にも多くのメリットがあります。
買い手のメリット:事業拡大
M&Aの買い手が同業者を買収した場合、事業規模の拡大が図れます。営業エリアが広がる、店舗数が増加する、人材が獲得できる、新たな設備や機械を導入できる、知的財産を獲得できるなど、業績および企業価値向上につながるでしょう。また、スケールメリットを得ることでコストダウンも図れます。
買い手のメリット:新規事業への参入
M&Aの買い手が異業種を買収した場合、即座に新規事業への参入が可能です。コア事業の関連事業への参入であれば、事業領域の拡張や製造、サービスなどの一元化などが図れます。全くの異業種への参入であれば、経営の多角化が実現し、倒産リスクの低減を実現できるでしょう。
売り手のメリット:後継者問題の解決
後継者不在の中小企業であっても、M&Aにより買い手が後継者(新たな経営者)となって事業承継が実現します。後継者不在のまま経営者が引退時期を迎えれば、会社は廃業せざるを得ません。仮に廃業となれば、従業員は職を失い、取引先にも迷惑がかかることになり、地域経済にダメージを与えるでしょう。M&Aで事業承継が実現し会社が存続すれば、それらを回避できます。
売り手のメリット:ハッピーリタイア
M&Aによる事業承継で、経営者はハッピーリタイアできるでしょう。事業譲渡、第三者割当増資を除く他のM&Aスキームは、包括承継です。包括承継のM&Aでは、基本的に会社の債務も買い手に移転します。それにより、経営者個人が負っている融資の連帯保証や、個人資産の担保差入などは、全て解消されるでしょう。同時に売却益も得られて生活資金にゆとりが得られます。
今後のM&A市場の予測
最後に、今後の日本におけるM&Aの動向を考えてみましょう。
- 事業承継のためのM&A
- 企業の成長を目的としたM&A
- クロスボーダーM&A
以上の3つの観点で今後のM&A動向を予測します。
事業承継のためのM&Aが増加
帝国データバンクの調査によると、M&Aによる事業承継の増加傾向は明らかです。少子化により、有力な後継者候補である経営者の子どもが減少していくならば、今後もM&Aによる事業承継の増加は続くでしょう。
また、中小企業庁では、2021年に「中小M&A推進計画」を定めています。このような国からのM&A推進も、M&Aによる事業承継の増加に拍車を掛けるはずです。
参照元:株式会社帝国データバンク『全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)』(2022年11月16日)
企業の成長を目的としたM&Aが増加
日本の多くの産業は成熟期にあるとされ、生き残りをかけた企業間の競争は厳しいものです。その活路を開く手段として、M&Aを用いるケースが増加しています。M&Aのメリットの1つは、手間や時間をかけずに事業や会社を取得できることです。
単独で事業をしていては何年もかかったり、場合によっては失敗に終わったりするのと比べ、M&Aでは適切な相手先を見つけることで戦略を実現できます。そのため、今後も企業成長のためにM&Aを行う会社は増えていくでしょう。
クロスボーダーM&A(国際間M&A)が増加
日本では少子化による人口減少によって、各市場の縮小が予測されています。事業や企業の成長を考えた場合、国内市場だけで争うのではなく、海外市場に進出するのは有力な手立てです。したがって、海外の企業と行うクロスボーダーM&Aの増加は大いに予測されます。
また、日本企業の持つ技術やアイデア、サービスなどに関心を持つ国外の企業も増加しており、外国企業が買い手となるM&Aの増加もあり得ます。
まとめ
近年、M&Aの手法やメリットなどが広く認知されつつあり、大企業だけでなく中小企業や小規模事業者でもM&Aが活用されるようになりました。その結果、日本におけるM&Aの実施件数は毎年のように増加しています。
その中でも特に注目されるものの1つが、後継者不在の中小企業が、事業承継のために行うM&Aです。廃業を免れられるM&Aは、今後も活用の機会を増加させるでしょう。
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