事業譲渡価格の決め方 算定方法や事業譲渡の注意点も解説

2024年8月8日

事業譲渡価格の決め方 算定方法や事業譲渡の注意点も解説

このページのまとめ

  • 事業譲渡のメリットは、売却対象を選べることや後継者問題を解消できることなど
  • 事業譲渡の算定方法は主に3つで、状況に応じて適切な手法で計算することが大切
  • 事業譲渡における算定価格は、売り手は高く、買い手は安く見積もる場合が多い
  • 事業譲渡価格は、売却事業が持つブランド力や市場シェアなどの要素によって変動する

事業譲渡を考えている経営者の中には、どれくらいで売却できるか知りたい方も多いのではないでしょうか。事業譲渡における売却金額は、事業が持つ魅力や相手との交渉の末に決定されます。

本コラムでは事業譲渡の価格の算定方法や、価格に影響を与える要因などを詳しく解説。また、事業を売却する際の注意点や、事業譲渡を行うにあたって課せられる税金についても紹介します。

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事業譲渡とは?他のM&Aの手法との違い

事業譲渡とはM&Aの手法の1つで、企業が持つ事業や関連する資産・負債を選別して売買することです。事業譲渡を行うことで、後継者問題の解決ができたり、非中核事業を売却して中核事業に経営資源を集中させたりすることができます。また、廃業を免れて従業員の雇用を確保したまま譲渡できる点も、特徴といえるでしょう。

買い手側にとっても、事業譲渡には多くの利点があります。低リスクで新規事業に参入できたり、人材や技術・ノウハウを獲得できたりすることなどがメリットです。

事業譲渡とよく似たM&Aの手法に、株式譲渡や会社分割があります。どちらも似ているようで違う取引なので、内容をしっかり理解しておきましょう。

事業譲渡とその他手法について、特徴、手続き、税金をまとめると以下の通りです。

事業譲渡株式譲渡会社分割
特徴事業や資産を選別して買い手企業に譲渡する※経営権は維持経営権(≒会社)ごと買い手企業に譲渡する特定の事業部門を丸ごと買い手企業に承継させる
手続き・特別決議による承認(原則)
・契約や資産等の個別同意・引き継ぎなど
・株主総会(または取締役会)での承認決議
・株主名簿の書き換えなど
・債権者保護手続き(原則)
・特別決議による承認(原則)
など
税金法人税等、消費税など個人株主:所得税や住民税
法人株主:法人税等
税制適格要件を満たせば非課税
※非適格の場合は法人税等が発生

事業譲渡と株式譲渡の違いは経営権移転の有無

事業譲渡と似ているM&Aの手法に、株式譲渡があります。

株式譲渡は名前の通り、株式の全部または一部を買い手企業に譲渡します。つまり経営権を含めた資産や事業が、買い手企業に移転することになります。

一方で事業譲渡の場合は、事業や資産を選別して買い手企業に対して譲渡します。事業の一部のみを譲渡するので、会社の経営権までは移転しません。このように会社の経営権も移転するのが株式譲渡、経営権は移転しないのが事業譲渡と理解しておきましょう。

事業譲渡と会社分割の違いは承継の範囲

事業譲渡と似ているM&Aの手法に会社分割がありますが、承継の範囲に違いがあります。会社分割では売り手側の譲渡する事業部門を、まるごと買い手側が承継します。買い手側は取得する事業に係るいっさいの権利を承継するため、債権者保護手続きが必要です。

一方、事業譲渡の場合は承継する資産を選別することが可能なので、譲渡事業に関する債権・債務は必ずしも買い手企業に承継されるわけではありません。その場合は債権者保護手続きは不要です。

また、事業に必要な許認可も、会社分割では引き継がれますが、事業譲渡では引き継がれません。そのため事業譲渡の場合は、買い手側が新たに許認可を取得する必要があります。

関連記事:M&Aにおける事業譲渡とは?メリット・デメリット、手続き・ポイントなどを解説

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【売り手・買い手】事業譲渡のメリットとデメリット

ここでは、事業譲渡を実施するメリットとデメリットを、売り手側・買い手側に分けて紹介します。

売り手買い手
メリット・譲渡対象資産を個別に選別可能
・後継者問題の解決
・債権者への通告・告知を最小限に抑えられる
・事業に関わる資産や人材を選別して承継可能
・債権者への通告・告知が最小限で済む
・節税効果を期待できる
デメリット・競業避止義務の影響
・株式譲渡よりも税負担が重くなる場合がある
・手続きの手間がかかる
・許認可を原則として承継できない

【売り手】事業譲渡のメリットとデメリット

売り手企業の視点から、事業譲渡のメリットとデメリットを解説します。

事業譲渡のメリット

事業譲渡により、売り手企業は3つのメリットを期待できます。

1つ目のメリットは、譲渡対象資産を個別に選別できることです。そのため不採算部門のみを切り離したり、非中核部門を譲渡して中核事業に集中したりすることもできるでしょう。譲渡したくない不動産などの資産や、人材なども選別して残すことができます。

2つ目のメリットは、後継者不足に悩んでいる中小企業において、承継してほしい事業のみを譲渡対象にすることで後継者問題を解決できる場合があることです。廃業を回避し、従業員の雇用を維持したり、顧客や取引先に迷惑をかける事態を回避できます。

3つ目のメリットとして、債権者への通告・告知を最小限に抑えられる点が挙げられます。

事業譲渡のデメリット

一方で、以下2つのデメリットに注意が必要です。

1つ目のデメリットは、会社法による競業避止義務の定めによる影響が挙げられます。譲渡した事業と同じ事業を同一区市町村・隣接区市町村では、20年間行えなくなる点には注意しましょう。

2つ目のデメリットは、譲渡益に対して法人税が課される点です。売り手側には法人税等(法人税、法人住民税、法人事業税、地方法人税)が課され、その実効税率は概ね30〜40%です(時期や法人の状況などで変動)。一方で株式譲渡にかかる所得税・住民税等の税率は、20.315%(個人株主の場合)であり、事業譲渡では法人の場合も株式譲渡よりも税負担が大きくなる場合が多い点に注意しましょう。

【買い手】事業譲渡のメリットとデメリット

買い手企業の視点から、事業譲渡のメリットとデメリットを解説します。

事業譲渡のメリット

事業譲渡により、買い手企業は3つのメリットを期待できます。

1つ目のメリットは、事業に関わる資産や人材を選別して承継できる点にあるでしょう。事業部門をまるごと引き継ぐのでなく、譲渡企業とうまく交渉できれば自社に必要な資産のみを取捨選択して取得することができます。買収範囲が限定されることで、株式譲渡よりも投資額を抑えられる可能性があります。また、不要な資産や負債を承継しないことで、偶発債務などの簿外負債の発生リスクを減らすことも可能です。

2つ目のメリットは、譲渡企業と同様に債権者への通告・告知が最小限で済む点です。

3つ目のメリットは、節税効果を期待できる点です。事業譲渡では、買収金額に含まれるのれん(営業権)相当額を5年間にわたって償却する決まりとなっています。また、譲受した機械装置や車両運搬具などに関しても、一定期間にわたる減価償却を実施します。こうした償却分はその年度の損金として計上できるため、節税に繋がります。

事業譲渡のデメリット

一方で、2つのデメリットに注意が必要です。

1つ目のデメリットは、手続きの手間がかかることです。包括承継ではないため、従業員との労働契約や取引先との契約は再度締結し直す必要があります。譲渡する規模が大きければ大きいほど、膨大な作業になるでしょう。

2つ目のデメリットは、許認可を原則として承継できない点です。基本的に、必要な許認可は買い手側で新たに取得する必要があります。

関連記事:事業譲渡のメリットとは?手続きや税務、他のM&A手法との違いを解説

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【売り手・買い手】事業譲渡の価格に対する考え方

事業譲渡を成約させるには、価格を客観的に検証することが重要です。ここでは売り手側・買い手側、それぞれの価格に対する考え方を見ていきましょう。

【売り手】事業譲渡の価格を高く見積もる傾向にある

売り手側としては、価格を高く見積もる傾向にあります。譲渡する事業といえども、これまで苦労してきた経験があったり、設備投資も行ってきたりしているため、愛着を持っていることがあります。長く行ってきた事業であるほど思い入れが強く、つい価格を高めに設定してしまうこともあるでしょう。

相手が買収を検討してくれる妥当な価格を算出するために、客観的な視点を持つようにしてください。

【買い手】事業譲渡の価格を抑える傾向にある

買い手側としては、価格を抑える傾向にあります。譲受する事業が今後も期待通りの利益を生み出すかどうか判断できない場合、投資効率やリスクに対する懸念が強まることから価格は低めになります。

妥当な金額よりも低い価格帯で交渉を進めた場合、相手企業に「買い叩こうとしているのではないか」と不信感を抱かれたり、他社に交渉権が移ってしまったりする恐れがあります。正しい価格算定を行い、そのような事態にならないようにしましょう。

関連記事:株式譲渡の価格の決め方は?低額譲渡と高額譲渡のポイントも解説

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事業譲渡の適正価格を知る3つの方法

事業譲渡などのM&Aを成立させるには、適正価格を明確にしておくことが重要です。適正価格を求める手法として企業価値評価(バリュエーション)があります。

企業価値評価とは、企業の価値(事業譲渡の場合は事業の価値)を評価して、適正価格を算出する方法です。企業価値を算出する方法としては、下記の3種類があります。実際に価格を算出する際には、これらの手法による価格を複数採用し、比較したうえで決定します。

  • インカムアプローチ(例:DCF法)
  • マーケットアプローチ(例:類似会社比較法)
  • コストアプローチ(例:簿価純資産法・時価純資産法)

それぞれの手法による評価方法について解説します。

1.インカムアプローチ(DCF法)

インカムアプローチは対象事業において、将来見込まれる収入や利益をもとに価格を算出する方法です。事業の収益性が価格に反映するため、将来の収益力や事業ごとの固有の特性も織り込めるのが特徴といえるでしょう。

インカムアプローチによる主な評価方法に、DCF(Discounted Cash Flow)法があります。DCF法では、将来期待できるCF(キャッシュフロー)を現在の価値に割り引いて価格を算出します。M&Aの現場では広く一般的に使われている手法です。

2.マーケットアプローチ(類似会社比較法)

マーケットアプローチは上場している類似企業の取引価格を参考にして、評価する手法です。マーケットアプローチで用いられる主な評価方法の1つは、類似会社比較法です。

類似会社比較法では、対象事業と同業種・同規模の企業の株価や財務指標をもとにして価格を算定します。

同業種・同規模の企業が存在しない場合は、価格の質に問題が生じる可能性があるので、複数の評価方法を採用する場合もあります。また、過去に行われたM&A取引の中から類似したものを選び、価格を算出する類似取引比較法という手法もあります。

3.コストアプローチ(簿価純資産法・時価純資産法)

コストアプローチは、貸借対照表の純資産をベースにして企業価値を算出する方法です。コストアプローチには主に簿価純資産法と時価純資産法の2種類の手法があります。

簿価純資産法は貸借対照表に記載されている簿価をベースに算出します。帳簿上にある数値を使用して計算するため、分かりやすく客観性がある点がメリットです。

しかし含み益・含み損がある場合、実態と乖離した結果になる恐れがあります。

時価純資産法は資産と負債を時価で評価し直して、時価での純資産をベースに算出する方法です。売掛金など時価評価するのが難しい資産は簿価を使用し、不動産など時価が容易に分かる資産のみを時価評価することが一般的です。

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事業譲渡の価格相場を算出する方法

実際の事業譲渡では、前述したバリュエーションの結果を踏まえ、買い手企業と売り手企業による交渉で価格を決定します。しかし、バリュエーションにはファイナンスの専門知識を要するため、誰でも簡単に活用できるものではありません。

そこで、中小企業による事業譲渡では、「年倍法」の結果を適正価格(≒相場)と考えるケースが多いです。

年倍法では、事業時価純資産にのれん代を加えることで価格相場を算出します。のれん代とは企業が保有するブランド力や技術、収益力などの目に見えない資産を表すものです。具体的な計算式は以下の通りです。

  • 価格相場 = 事業時価純資産 + のれん代(事業利益の2〜5年分が一般的)

純資産をベースにしたコストアプローチによるバリュエーションと、収益力をベースにしたインカムアプローチによるバリュエーションを組み合わせた算定と言えます。
事業譲渡の価格を出す手順は以下のとおりです。

  1. 事業時価純資産を算出する
  2. のれん代を算出する
  3. 「事業時価純資産+のれん代」で価格を計算する

それぞれの流れについて、詳しく解説します。

1.事業時価純資産を算出する

事業時価純資産は、「該当事業の時価資産額-該当事業の時価負債額」の計算式で算出します。貸借対照表の資産と負債は簿価で記載されているので、時価ベースに修正したうえで含み損益などを修正する必要があります。

決算書を修正する

時価純資産を算出するために、「税務会計」ベースの決算書を「企業会計」ベースに修正する必要があります。企業会計ベースに修正するためには、下記のような修正を行います。

  • 有価証券や不動産などを時価評価で修正する
  • 引当金を計上する
  • 給与を現金主義から発生主義に修正する

引当金には賞与引当金や退職給付引当金があります。各種引当金を認識して、企業会計ベースになるよう修正を加えましょう。

含み損益に対する税効果会計を検討する

保有する不動産や保険積立金に、含み損益が発生していないかを確認します。含み損益が発生する場合には、税効果会計の検討が必要です。税効果会計とは、企業会計と税務会計の間で資産・負債額に差異が生じている場合に、法人税などの金額を調整(配分)する手続きです。

過去の取引の結果、将来の税金が減る場合は繰延税金資産を、税金が増える場合は繰延税金負債を貸借対照表上に計上します。

2.のれん代を算出する

次に、のれん代を算出します。

のれん代とは、事業や企業の持つブランドや技術力、顧客、取引先などの、収益を生み出す力のことです。のれん代は事業利益の3~5年分で計算される場合が多いです。

のれん代を計算するためには、事業利益を正しく算出する必要があります。事業利益を正しく算出するには、下記のような流れで計算します。

  1. 損益計算書の正確性を確認する
  2. 正常収益力の把握に影響する要素を修正する
  3. 事業利益(修正後)を算出する
  4. 事業利益をもとに、のれん代を計算する

時価純資産にのれん代を加えた価格が譲渡価格なので、のれん代は企業価値の付加価値(プレミアム)ともいえます。

以下、事業利益およびのれん代を算出する流れを詳しく解説します。

手順1:損益計算書の正確性を確認する

大前提として、のれん代のベースとなる事業利益は、損益計算書をもとに算出します。中小企業では、損益計算書自体が会計のルールに則って作成されていない場合もあり、計算結果が不正確となるおそれがあります。

したがって、まずは会計ルールに則った損益計算書であるかどうかを確認し、必要に応じて修正を行います。

手順2:正常収益力の把握に影響する要素を修正する

M&Aでは、売り手企業の役員が退職するケースも少なくありません。この場合、退職する役員の役員報酬や保険料などの要素に関して修正を行う必要があります。

そもそも事業利益は、営業利益や経常利益をもとに算出する指標であり、その過程に役員報酬や保険料などの「販管費」を売上から差し引くプロセスがあります。退職する役員が受け取っていた過大(もしくは過小)な役員報酬や役員分の保険料をそのまま差し引くと、役員が退職した後(M&A後)の企業における収益力(営業利益や事業利益等)を正確に算出できなくなります。

そこで、収益力の把握に影響する要素は事前に修正する必要があります。具体的に想定される修正項目は下記です。

  • 役員報酬の金額を標準的な水準に直す
  • 退職する役員の保険料は控除する
  • その他(多額の接待交際費やオーナーへの地代家賃などの控除)

修正内容はケースバイケースなので、実態に応じた対応が求められます。

手順3:事業利益(修正後)を算出する

修正した内容をもとに事業利益を算出します。事業利益は、以下いずれかの計算式で算出します。

  • 事業利益 = 営業利益 + 営業外収益
  • 事業利益 = 経常利益 + 営業外費用

営業外収益は本業以外で発生した収益であり、受取利息や有価証券売却益などが該当します。営業外費用は本業以外で発生した費用であり、支払利息や有価証券売却損などが該当します。

手順4:事業利益をもとに、のれん代を計算する

最後に、事業利益の3〜5年分を合計してのれん代を計算します。基本的には、売り手企業の将来的な収益力を高く見積もりたい場合ほど、合計する年数を増やします。

3.「事業時価純資産+のれん代」で価格を計算する

最後に、1〜2のプロセスで算出した事業時価純資産とのれん代を合算し、価格の相場を計算します。たとえば事業時価純資産が4,000万円、年間事業利益が1,000万円(一定であると仮定)の場合、事業譲渡の価格は以下の通り算出されます。

  • 価格相場 = 4,000万円 + 1,000万円 × 3〜5年 = 7,000万円〜9,000万円

上記の価格やバリュエーションの結果などをベースに、実際の事業譲渡価格を検討する流れとなります。

関連記事:事業譲渡の仕訳・会計処理方法は?のれんや税務処理もわかりやすく解説 

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事業譲渡を行う際の6つの注意点

事業譲渡を行う際には、下記の6つの注意点があります。

  1. 交渉時は客観的かつ冷静に判断する
  2. 承継には従業員の同意が必要
  3. 借入先の金融機関の同意が必要
  4. 事業譲渡には税金が発生する
  5. 許認可を考慮して計画を立てる
  6. 免責登記の実施有無を明確化する

各注意点について、詳しく解説します。

1.交渉時は客観的かつ冷静に判断する

交渉の際には客観的かつ冷静に判断しましょう。事業譲渡の価格は、売り手と買い手の合意によって決まります。そのため、価格交渉の場は事業譲渡を成功させるためにとても重要なポイントです。

交渉時には相手の提示した金額をそのまま承諾するのではなく、自社側で算定した価格と比較して検討しましょう。複数の算定方法を用いて計算していれば、価格を客観的にチェックするための判断材料になります。

また、あらかじめ妥協点を決めておくと良いでしょう。希望価格と妥協点となる価格を定めておけば、冷静さを欠かずに判断を下せます。

2.承継には従業員の同意が必要

事業譲渡では、権利関係が包括的に承継されるわけではありません。そのため事業を譲渡しても、従業員との雇用契約がそのまま引き継がれる訳ではありません。売り手と買い手で合意して事業譲渡が成立した場合でも、買い手企業が雇用を承継するには従業員の同意が必要になります。買い手企業は新しい雇用契約についてきちんと説明したうえで、契約を結び直す必要があります。

3.借入先の金融機関の同意が必要

事業譲渡を行う際には、借入先の金融機関の同意が必要になる場合もあります。

譲渡する事業に紐づいている借入を外したい場合は、債権者である金融機関の同意が必要です。債権者の同意がなくても取引は成立しますが、後で訴えられて譲渡契約が取り消される場合もあるので注意しましょう。

4.事業譲渡には税金が発生する

事業譲渡の際には、税金にも注意が必要です。

事業譲渡の税金といえば売り手の売却益に対するイメージが強いですが、買い手にも発生する場合があります。

たとえば、譲渡対象に消費税の課税資産が含まれている場合は、買い手企業が消費税を負担する必要があります。消費税は譲渡対価の支払いと同時に売り手に対して払う必要があるので、買い手側は事前に資金繰りを確認しておく必要があるでしょう。

また、見落としがちな税金として印紙税が挙げられます。国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」により、事業譲渡契約書の締結では、例外的なケース(譲渡金額が1万円未満)を除いて、取引金額に基づいた印紙税を支払う必要があります。

参照元:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで

5.許認可を考慮して計画を立てる

前述の通り、事業譲渡では原則として許認可を引き継ぐことはできず、買い手側で新しく許認可を申請・取得しなくてはいけません。したがって、許認可の取得可能性や所要時間などを考慮して、M&Aの相手探しやスケジュール検討などを行うことが重要です。

6.免責登記の実施有無を明確化する

会社法」第22条第1項の規定により、事業譲渡後に売り手企業の商号を継続的に使用する場合、買い手企業は売り手企業の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うことが原則とされています。ただし、同第2項の規定により、事業譲渡後に遅滞なく、本店所在地において売り手企業の債務を弁済する責任を負わない旨の登記(免責登記)を行なった場合には、前項の規定が適用されずに済むとされています。

免責登記の有無によって、事業譲渡後のトラブルが発生するリスクが変わってくるため、あらかじめ明確化しておくことが大切です。

参照元:e-Gov「会社法」第二十二条第1,2項

関連記事:事業譲渡の従業員への影響は?社員が転籍を拒否するときの対応も解説

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【売り手・買い手】事業譲渡に課せられる税金

事業譲渡を行う際には、売り手にも買い手にも税金が課せられます。そのため、資金繰りを組む場合には、税金も考慮する必要があります。

ここでは、売り手と買い手それぞれに課せられる税金について紹介します。

【売り手】事業譲渡に課せられる税金

売り手側にかかる税金は、法人税です。法人に課税される税金には主に下記の4種類があります。

  • 法人税
  • 法人住民税
  • 法人事業税
  • 地方法人税

法人税は、法人の利益(課税所得)全体に対して課税されます。

譲渡益を計上した場合でも、他の事業によるマイナスが大きく、損益通算した結果赤字になった場合は、課税されません。

【買い手】事業譲渡に課せられる税金

買い手側に課せられる税金としては、下記があります。

  • 消費税
  • 不動産取得税
  • 登録免許税

消費税は、譲渡資産に消費税の課税資産が含まれていると発生します。消費税の課税対象には、下記のようなものがあります。

  • 有形固定資産(土地を除く)
  • 無形固定資産
  • 棚卸資産
  • のれん代(営業権)

不動産取得税と登録免許税は、譲渡資産の中に不動産が含まれている場合に発生します。事業譲渡は包括的な権利承継ではないため、新しく不動産を購入した場合と同様に課税されます。

なお、国税庁「課税文書の作成時期及び作成者」の規定により、前述した印紙税は課税文書(事業譲渡契約書)の作成者が納税義務を負うとされています。

参照元:国税庁「課税文書の作成時期及び作成者

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事業譲渡の価格を左右する主な5つの要素

事業譲渡の価格に影響を与える主な要素は、次の5つです。

  1. ブランド力
  2. マーケットシェア
  3. 取引先や顧客リスト
  4. 従業員のノウハウや技術
  5. 知的財産権

それぞれの要素について、詳しく解説していきます。

1.ブランド力

ブランド力は、無形資産の1つです。無形資産は事業譲渡によるシナジーを最大化させる要因であり、譲渡価格に対する影響が大きい要素といえます。

ブランド力は一朝一夕で築き上げることが難しいものであるため、事業譲渡によって手に入れる価値があると認められる可能性が高いです。ブランドのネームバリューやファンを一挙に獲得できることは、買い手にとって魅力的に映るでしょう。

2.マーケットシェア

広いマーケットシェアは、買い手にとって魅力的な要素です。市場におけるシェアが高ければ、安定的に利益を生み出す可能性が高くなります。また、市場拡大の恩恵も受けやすくなります。将来的なキャッシュフローの成長を訴求しやすいことから、売却価格が高くなる傾向にあります。

3.取引先や顧客リスト

優良な取引先や顧客リストを保有している場合、事業譲渡価格が高くなる傾向があります。優良な取引先・顧客リストを持っているということは、事業の安定性に繋がります。事業価格にポジティブな影響があるでしょう。

シナジー効果も期待できます。たとえば、商品開発力に定評のある買い手が、強い顧客基盤を持つ売り手を買収すれば、より高いシナジーが生まれるでしょう。

4.従業員のノウハウや技術

従業員が保有するノウハウ・技術も、事業譲渡の価格を左右する要素です。高度なノウハウや技術を持っている優秀な人材がいる事業は、価格が高まる傾向にあります。従業員が持つ能力の高さや希少性によって、事業譲渡の価格も変動するでしょう。

5.知的財産権

知的財産権には、特許権や商標権、意匠権、実用新案権などがあります。独自の技術やデザインなどの知的財産権を持っている場合、独占的に利益を生み出せるため、事業譲渡の価格が高まるでしょう。

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まとめ

事業譲渡とは、事業の一部あるいは全部を選別して売却する、M&Aの手法の一種です。事業を譲渡する側のメリットには、赤字事業を切り離せることやコア事業に専念できること、後継者問題を解決できることなどが挙げられます。事業を買う側のメリットは、欲しい事業・資産のみを選択して買収できることや負債を引き継がずに済むことなどです。

事業譲渡の価格に影響を及ぼす主な要素は、ブランド力・マーケットシェア・取引先や顧客リスト・従業員が持つノウハウや技術・知的財産権です。これらの要素において、買い手側にとって魅力的なものを保有している事業であれば、売却価格は高まることが期待できるでしょう。

適切な事業譲渡価格で取引するためには、売り手側も買い手側も自ら価値算定をすることが大切です。事業譲渡の価格を算定する方法は、大きく分けるとインカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチの3つです。状況に合った算定方法を用いたり、複数の算定方法を使って総合的に判断したりすることで、納得のいく価格交渉に役立てましょう。