現在価値とは?計算プロセスや割引率の考え方・企業価値の評価プロセスを解説

2023年9月6日

現在価値とは?計算プロセスや割引率の考え方・企業価値の評価プロセスを解説

このページのまとめ

  • 現在価値(PV)とは、将来得られるキャッシュや売上を現在の価値に割り引いた金額
  • 現在価値は「PV = 将来価値 ÷(1+割引率)^年数」によって計算する
  • 割引率には、主にWACCや株主資本コストを用いる
  • 企業価値評価により、合理的な基準に沿ってM&Aの売買額を交渉できる
  • 事業計画期間のFCFや継続価値を現在価値に割り引くことで、企業価値を評価できる

現在価値とは、将来得られるキャッシュや売上(将来価値)を現在の価値に直した金額です。現在価値は、将来価値を割引率によって割り引くことで算出できます。割引率は、市場要求やリスクの大きさなどを基に決定されるもので、加重平均資本コスト(WACC)が代表的です。現在価値の考え方を応用することで、M&Aにおいて重要な企業価値を求められます。現在価値の意味や計算式、割引率の考え方を解説します。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

現在価値とは

はじめに、現在価値の意味や将来価値、正味現在価値との違いを解説します。

現在価値(Present Value)とは

現在価値(Present Value)とは、将来のタイミングにおけるキャッシュ(現金)や売上の価値を、現在における価値で評価した金額です。つまり、「将来の売上やキャッシュフローは、現在のタイミングでどれくらいの価値があるか(今手に入れた場合の金額はどのくらいか)」を表したものです。

現在価値は、「お金や資産の価値は時間の経過とともに変動する」という時間価値の考え方に基づいて算出されます。将来の売上は不確実である上に、お金の価値は金利などによって変動するため、同じ金額でも将来の獲得タイミングで価値は異なります。

たとえば、1年後に得られる120万円は、年利20%の場合における現在価値に直すと100万円となります。なぜなら、現時点で100万円を年利20%の金融商品に投資すると、1年後には120万円となるためです。

つまり、「現在100万円を投資に回す場合」と「1年後に120万円を獲得した場合」で比較すると、1年後の価値は同じとなるため、「1年後に得られる120万円」の現在価値は100万円となります。

現在価値と将来価値の違い

現在価値と密接に関係するのが「将来価値」です。

将来価値とは、現在のキャッシュフローや売上などを、将来における特定のタイミングの価値で評価した金額です。つまり、「現在の売上やキャッシュフローは、将来のタイミングでどれくらいの価値になっているのか」という考え方に基づいて計算した金額です。

前述の例では、年利20%という前提条件において、現在保有している100万円の現金は、1年後の将来価値に直すと120万円となります。100万円を1年間年利20%で運用することで、1年後には120万円になるためです。

正味現在価値と現在価値の違い

正味現在価値(Net Present Value)とは、現在価値と投資額の差額です。

正味現在価値(NPV)は、投資やプロジェクトの収益性を評価する上で重要な指標です。NPVが正の値であれば投資すべき、負の値であれば投資は避けるべきであると判断します。

たとえば、ある投資プロジェクトで得られる売上の「現在価値」が2,000万円、投資額が2,200万円の場合、正味現在価値は「2,000万円 − 2,200万円 = −200万円」となり、NPVがマイナスとなるため投資すべきではないと判断できます。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

現在価値と将来価値の計算プロセス

現在価値の計算プロセスを理解するには、将来価値(FV)とセットで理解するとわかりやすいです。この章では、現在価値と将来価値の計算プロセスについて、実際の計算例を交えて解説します。

現在価値と将来価値の計算式

現在価値の計算式

現在価値(PV)の計算式は次のとおりです。なお、”^”は「累乗」を表します。たとえば、「2^3」は2を3回掛け合わせることを表すため「2×2×2=8」となります。

PV = FV ÷(1+r)^n

※参考

  • r:割引率(金利など)
  • n:現在から数えた年数

将来価値の計算式

将来価値(FV)の計算式は次のとおりです。

FV = PV × (1+r) ^n

現在価値と将来価値の計算例

上記の計算式を使って、現在価値と将来価値を実際に計算してみましょう。

現在価値の計算例

たとえば、4年後に得られる売上(FV)が400万円、年利は10%だとします。この場合、現在価値は次の計算式で求められます。

PV = 400万円 ÷(1+0.1)^4 ≒ 273万2,054円

つまり、400万円の現在価値は約273万2,054円となります。

将来価値の計算例

次に、現在価値と同じ条件を用いて、将来価値を計算してみましょう。具体的には、273万2,054円を年利10%で4年間運用したと仮定します。この場合、将来価値は次の計算式で求められます。

FV = 2,732,054円 × (1+0.1) ^4 = 400万円(小数点以下切り捨て)

つまり、273万2,054円の現在価値は400万円となります。計算結果からわかるとおり、金額や年数、金利が同条件であれば、現在価値と将来価値の計算結果は一致します。

関連記事:企業価値とは?計算方法や高めるための4つの方法をわかりやすく解説

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

現在価値の計算に影響する割引率とリスクの考え方

現在価値の計算には割引率が大きく影響します。この章では、割引率の概要や種類、リスクとの関係性を解説します。

割引率とは

割引率とは、将来価値を現在価値に割り引く(換算する)ときに用いる数値です。前述の例では、将来価値を現在価値に割り引いたときに用いた金利が割引率に該当します。割引率は、投資や資金調達のリスク、時間の価値、市場の要求などに基づいて決定されます。

割引率が高いほど、将来の売上やキャッシュフローの現在価値は低くなります。たとえば、1年後に獲得できる金額が200万円だとして、割引率(年利)が1%と20%では、次のとおり現在価値は大幅に変わってきます。

  • 割引率1%:200÷(1+0.01)^1 ≒ 198万円
  • 割引率20%:200÷(1+0.2)^1 ≒ 166.7万円

現在価値の計算では「割引率をどのくらいに定めるか」が重要です。

割引率の種類

割引率として定める指標は、金利以外にも複数の種類があります。状況や計算する対象によって、最適な割引率を活用する必要があります。ここでは、代表的な割引率を2種類紹介します。

株主資本コスト(Cost of Capital)

株主資本コストとは、株主からの出資によって調達した資本にかかるコストです。株主側から見ると、投資に対する期待収益率を表します。計算では、一般的にCAPMと呼ばれる理論が用いられます。

加重平均資本コスト(WACC)

WACCとは、借入にかかるコストと株式による調達にかかるコストを加重平均した数値です。資金調達の視点で見ると、資金調達額に占める資金調達に必要なコストの割合を表します。債権者と株主双方を考慮した指標であり、DCF法による企業価値評価や事業投資の評価などに幅広く活用されています。

割引率とリスクの関係性

割引率を定める際の考え方として、リスクの大きさを反映させるものがあります。前述のとおり、割引率が高いほど現在価値は低くなる仕組みです。そのため、一般的にはハイリスクで将来価値の不確実性が高い場合には割引率を高く定める、現在価値を低く見積もることが求められます。

たとえば、M&Aが成功する可能性が低いと考えられる場合、買収後に多額の損失を被るリスクがあります。そこで割引率を高く定めると、失敗のリスクを考慮して企業価値を低く評価できます。企業価値を基に買収金額を低くすることで、M&Aが失敗した場合の損失を最小限に抑えることが可能です。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

現在価値と関係する重要な考え方

現在価値と関係性が深い重要な考え方に「キャッシュフロー」と「継続価値」があります。キャッシュフローと継続価値の概念や計算プロセスを知っておくことで、M&Aにおける企業価値算定や事業投資の意思決定を行えるようになります。

この章では、キャッシュフローと継続価値の意味や求め方を簡潔に解説します。

キャッシュフロー

キャッシュフロー(cash flow)とは、一定期間における資金の出入り・流れです。キャッシュフローは、次の計算式で算出します。

キャッシュフロー = キャッシュイン – キャッシュアウト

キャッシュインとは入ってくるお金であり、売掛金の回収時に獲得する現金などです。キャッシュアウトとは出ていくお金であり、買掛金の支払い時に受けわたす現金などが該当します。

なお、DCF法によって企業価値を評価する際には「フリーキャッシュフロー(FCF)」を計算します。FCFとは企業が自由に使える資金で、次の計算式により算出します。

FCF = 税引後営業利益 + 減価償却費 – 運転資金増加額 – 投資額

たとえば、下記の条件におけるFCFは次のとおりです。

  • 税引後営業利益:4,000万円
  • 減価償却費:1,000万円
  • 運転資金増加額:500万円
  • 投資額:1,000万円

FCF = 4,000万円 + 1,000万円 − 500万円 − 1,000万円 = 3,500万円

継続価値

継続価値(TV)とは、企業価値評価において、FCFの予測期間以降に獲得するFCFの現在価値合計を表します。ターミナルバリューとも呼ばれます。

DCF法による企業価値評価では、「1)予測可能な期間」と「2)予測できない期間」に分けて、FCFの現在価値を算定します。TVは、上記のうち2)の期間に生み出される価値の合計です。

継続価値は、次の計算式で算出します。

TV = 予測期間以降のFCF ÷ (割引率– 成長率)

たとえば、予測期間以降から毎年1,000万円のFCFを生み出し、かつ成長率が2%である企業のTVは次のとおりです(割引率10%)。

TV = 1,000万円 ÷ (0.1 – 0.02) = 1億2,500万円

諸条件を考慮しないのであれば、計算結果から上記の企業は「予測期間の次年度から、事業をやめるまでの間」において1億2,500万円の価値を生み出すと言えます。ただし、計算結果は「予測期間の最終年度における継続価値」を表すため、企業価値評価においては評価タイミングの現在価値に割り引く作業が必要です。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

現在価値の考え方を応用して企業価値を評価するプロセス

ここまで解説した現在価値・将来価値の考え方を応用することで、企業価値の評価が可能となります。企業価値の意味やM&Aにおいて企業価値評価が重要である理由、DCF法による企業価値評価のプロセスを解説します。

企業価値とは

企業価値とは会、社全体の経済的な価値のことです。具体的には「企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの現在価値合計」や「株式価値(≒自己資本のみの価値)と負債価値の合計」として表されます。

なお、企業価値と似た意味の用語に「事業価値」「時価総額」「買収価格」があります。それぞれの用語と、企業価値との違いを理解することが重要です。

事業価値

事業活動から生み出される価値です。企業価値から非事業資産(事業以外の財産価値)を差し引くことで算出されます。

時価総額

株式市場における株価と発行済株式(自己株式を除く)を掛け合わせた金額です。経済産業省「企業価値と株主利益について」にあるように、株式市場が効率的である場合において、時価総額は株式価値と一致します。

※参照元:経済産業省「企業価値と株主利益について」p.1

買収価格

M&Aにおいて、売り手と買い手の交渉によって決定した会社や事業の取引金額です。交渉によって自由に決定できるものの、理論上は株式価値に相当すると考えられています。つまり、企業価値から有利子負債を差し引くことで、株式価値(≒理論上の買収価格)を算定できます。

企業価値はM&Aの売買価格算出に役立つ

M&Aの売買価格(売り手企業の売却額)は、買い手と売り手による交渉で決定します。自由に決定できるものの、売り手と買い手の間で利害が対立するため、基準となる客観的な金額がなければ交渉は平行線となるおそれがあります。

一方で、ファイナンス理論に基づいて導出した企業価値があれば、合理的な基準に沿って売り手と買い手の双方が納得できる売買額を決定しやすくなります。M&Aにおいてスムーズに交渉を進める上で、企業価値評価は重要なプロセスです。

DCF法による企業価値の評価プロセス

企業価値を評価する手法として「DCF法」があります。DCF法は、対象会社(売り手企業)の将来的な収益性を加味した上で企業価値を評価できる点がメリットです。具体的には、次の流れで企業価値を評価します。

  1. 事業計画を基準に、予測期間(数年分)のFCFを計算
  2. WACCを割引率に定めて、予測期間以降のTVを導出
  3. 各年FCFとTVを現在価値に割り引いた上で合計し、事業価値を評価
  4. 事業価値+非事業用資産」で企業価値を評価

なお、企業価値から有利子負債を差し引くことで、株式価値を算定できます。算定した株式価値を交渉時の基準とすれば、売り手と買い手の双方が納得しやすいM&Aの取引価格を決定できるでしょう。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

企業価値と資本構成の関係

資本構成とは、自己資本と負債の比率です。バリュエーションを行う際には、資本構成によって企業価値が左右される点も理解しておく必要があります。

ファイナンス理論の専門的な説明が必要となるため詳細は割愛しますが、負債比率が高い企業ほど、利息の支払いに伴う節税効果の現在価値分だけ企業価値は上昇します。

ただし実務の視点上、過度に負債を増やしすぎると倒産リスクが高まることから、原則として株主による期待収益率(株主資本コスト)は高まります。バリュエーションにおける割引率が高まるため、かえって企業価値を損なうおそれがあります。

つまり、ある一定水準までは負債比率を高めることで企業価値の上昇が期待できるものの、負債の割合が大きくなりすぎれば、企業価値の低下を招きかねません。

そのため、企業価値の観点から最適な資本構成を検討することが重要です。ただし、ファイナンス理論において最適な資本構成は証明されていないため、個々の状況(ビジネスモデルなど)に応じて検討する必要があります。

一般的には、自己資本比率が30〜50%あれば安全とされているため、この水準を目指して適度に負債を活用しましょう。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

まとめ

本稿では、現在価値の意味や計算式、企業価値の評価プロセスなどを解説しました。

現在価値は、将来価値をWACCなどの割引率で割り引くことで算出が可能です。現在価値の理論を応用すれば、DCF法による企業価値評価が可能となります。企業価値の算定によって、M&Aの取引金額を合理的な視点から検討できるでしょう。

M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、企業価値評価を熟知したコンサルタントが在籍しています。バリュエーションに加えて財務デューデリジェンスにも対応しており、M&Aのご成約まで一貫したサポートを提供することが可能です。安心かつ円滑なM&Aを実現します。ぜひレバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社のご利用をご検討ください。