後継者育成は経営者の悩み?スムーズな事業継承を実現する手法とは

2023年8月31日

後継者育成は経営者の悩み?スムーズな事業継承を実現する手法とは

このページのまとめ

  • 企業における後継者育成は最優先課題である
  • 後継者育成は早い時期に計画的に行う必要がある
  • 後継者育成の際には後継者を補佐する人材の育成も欠かせない
  • 適任者不在時に備え、M&Aの利用は1つの方法論である

日本において、多くの経営者が抱える悩みの1つが後継者問題です。後継者候補となる人材の枯渇だけではなく、後継者育成のためのスキームを確立できていない点も、問題を悪化させている要因と言えます。将来の退任に備えて後継者候補を選定中の企業や後継者育成のノウハウを知りたいと考えている経営者や経営幹部の方に向けて、後継者育成の必要性や課題、スムーズな事業継承の方法などについて紹介します。

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企業における後継者育成とは

後継者育成は、どの業界や職域においても重要な課題と言えるでしょう。なぜなら、どんなカリスマ経営者であっても、加齢による判断力の低下や体力の衰えがあるからです。いつかは退任のタイミングが訪れることを肝に銘じておく必要があります。株主や従業員のためにも「企業を長く存続させたい」と考える経営者にとって、後継者育成は避けては通れない重要課題です。

栄枯盛衰の世の中において、未来永劫に企業を存続させるためには、現職経営者の退任後のプランが不可欠になります。中でももっとも重要なのは、さまざまな人の思いを引き継ぎながら盤石な経営を行える新しい後継者の存在です。ここからは、企業における後継者育成の必要性や課題について紹介します。

1.後継者育成の必要性

後継者育成とは、企業の経営者候補となる人材を育てることを指します。人事の専門用語では、「サクセッションプラン」と呼ばれています。後継者の座を息子や娘など親族に譲る同族経営の企業はもちろんのこと、同族経営以外の企業でも導入されている取り組みです。

では、後継者育成が順調に進まなければ、企業にはどんな未来が待っているのでしょうか。
主に下記の3つの課題に直面する恐れがあります。

  • 業績の悪化
  • 離職者の増加
  • 解散のリスク

現職の経営者が取引先やパートナーと深い信頼関係を築いていた場合、退任する際にはその関係性を上手に引き継ぐ必要があります。それが上手くいかず、各ステークホルダーから「新経営者は信頼できない」と判断されれば、企業イメージが悪化するリスクがあります。そうなると業績の悪化にもつながりかねません。

また、敏腕経営者の退任によって、企業内の求心力が低下して従業員の離職が増える事態も考えられます。特に周囲に慕われる人格者が経営のトップにいた場合、後任が同様の振る舞いを行うのは簡単なことではないでしょう。重要人材が多く離職することになれば、企業の競争力低下は避けられず、最終的には解散のリスクすら高まります。中長期的な安定した経営を行うには、手腕や人柄など経営者の求心力が問われるのです。

安定した健全経営を続ける経営者の場合、「自分が実権を握っているから安泰」と考えるかもしれません。確かに求心力のある経営者がトップに君臨している限りは、知識や経験をもとに企業運営を推進できるため安泰と言えるでしょう。しかし、人間は必ず年を取ります。敏腕経営者に病気や事故などの不測の事態が起きた際に、後継者育成が不十分だとたちまち窮地に陥る恐れがあります。強力なリーダーは、不在時によりその存在を強く実感することも珍しくありません。

万が一の事態を避けるためにも、企業では経営者が安泰のうちに後継者育成に取り組む必要があります。ただ、後継者育成にはいくつかの課題があるので、そうした現実にまずはしっかり目を向けることが大切です。

2.後継者育成の課題

後継者育成の主な課題としては、下記の3つが挙げられます。

  • そもそもの後継者候補がいない
  • 後継者育成のためのプロセスがない
  • 後継者育成を阻害する因子が存在する

同族経営の場合、経営者の子どもや親族を後継者に指名するケースも珍しくありません。しかし、近年では多様性や経営資質を重んじる観点から、血筋だけで後継者を任命しない企業も増加傾向にあります。家系で経営権を受け継ぐシステムから脱却したい同族経営の企業であれば、後継者候補探しが急務となります。しかし、現実は経営者にふさわしい人材が潤沢な企業ばかりではありません。特に中小企業では慢性的な人材不足に陥っているケースが多く、後継者選定は困難を極めます。

後継者候補の人材がいたとしても、育成プロセスが確立されていない課題も散見されます。経営者として求められるセンスや素質は一般社員とは異なるため、時間をかけた育成が不可欠です。いくら日常業務の遂行能力や営業力に長ける人材だったとしても、経営者としての才覚が備わっているとは限りません。経営を任せる人材の選定は困難であることを自覚したうえで、企業として真剣に育成プロセスを確立する必要があるでしょう。

職場内における後継者育成をバックアップする体制も不可欠です。特に後継者候補のモチベーションを下げる職場環境は是正する必要があります。将来的な経営者としての座に魅力を感じなくなれば、退職するリスクも高まります。経営者の資質がある人材を企業の顔として育て上げるためにも、全体意識で後継者育成に向き合うことが重要になります。たとえば、自部署に所属する優秀な人材が後継者候補に名前が挙がったとしたら、異動などを拒まずに喜んで送り出す気概も管理職層には求められるでしょう。

後継者育成は経営層だけが取り組むのではなく、企業全体が一丸となって取り組む必要があります。そのためには、経営陣が主体となって後継者育成の方針を明確にしたうえで、全社の取り組みとして実行すべきだと言えます。

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後継者育成実現のためのポイント

後継者候補となる人材には、経営の実権を握る前からさまざまな経験を積ませることが重要になります。また、スムーズな事業継承には綿密な計画が必要です。ここでは、後継者育成実現のポイントを紹介します。

1.将来を想定した早期の動き

現職の経営者が将来的な経営権の継承を前提に考えている場合は、体調不良や持病の悪化などの不測の事態が起こる前に後継者育成期間を設けることが重要です。一方で、急死や不慮の事故など、十分な後継者育成の準備期間を得られないまま、事業継承の時を迎えるケースもあります。

そうした事態に直面してから慌てても手遅れになる恐れがあるだけに、早期から後継者育成に取り組むことが求められます。現職の経営者が安泰のタイミングから後継者育成を実施することで、候補者自身に将来の企業のトップとしての自覚を芽生えさせる時間的な余裕も生まれるでしょう。候補者の意識レベルに問題があれば、周囲が正しい方向に導くためにアイデアを絞るなど必要な策を講じることもできます。また、準備期間が長ければ、候補者が適任でないと判明した場合も、代案を考える時間的余裕が生まれやすいというメリットがあります。

2.後継者候補の経営ポストへの就任

前述したように、実務を主とする従業員と、企業としての意思決定が主な経営者とでは求められる資質が異なります。後継者を育成するには、現役の経営者からの経営視点に基づいた指導が効果的です。早いうちから秘書や社長補佐として経営者の近くのポストに就任させ、経営者の仕事を間近で見せたうえで経験値を高めるやり方も1つの手法だと言えるでしょう。

経営者としての実践的な業務の本質を理解できるかどうかで、実際に経営を任せられる技量があるかの判断材料にもなり得ます。もし素質がある場合は、後継者育成プランを前倒ししてでも早期の事業継承を選択肢に入れるべきでしょう。

3.後継者候補の補佐役の人材の選定

後継者育成では、後継者をサポートする補佐役の人材選定も重要なファクターになります。優秀な経営者には、側近として優秀なサポート役が周囲を固めていることが大半であり、経営者の右腕となる補佐候補も後継者候補と同様に重要です。補佐役の選定には将来の経営陣を早い段階で固めたり、後継者の孤立を防いだりする目的もあります。

経営者をサポートする補佐役の人材にも、経営の本質に基づく知識や経験が求められます。早い時期に選定を行えば、補佐役に必要な経験値を高める機会を得やすいでしょう。また、万が一適任でなかった場合も、人材を再選定しやすくなります。

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後継者育成の手順

後継者育成実現のためのポイントを押さえたうえで、実際の後継者育成の手順についても整理しましょう。基本的には、企業としての後継者育成のスキームを確立させることがポイントです。また、後継者候補に加えて、企業としてのバックアップ体制の整備も同様に重要となります。

1.現職の経営者の方針を明文化・再定義

後継者育成の第一歩は、現職の経営者が次の世代に引き継ぎたい考えやビジョンなどを棚卸しする作業です。方針の引き継ぎが的確に行われなければ、後継者候補の人材選定がブレたり、現職経営者や企業のアイデンティティが引き継がれなかったりするリスクがあります。

企業としての将来のビジョンを明確にしたうえで、それを明文化・再定義して従業員に周知しましょう。自社内における考えやビジョンを明確にして一枚岩の組織を形成する動きを「インナーブランディング」と呼びます。企業理念や価値観を共有することで従業員の共通認識を醸成し、企業活動を安定的に進める効果が期待できます。

2.後継者候補となり得る人材を選定

企業のビジョンが明確になった暁には、そのビジョンに共感し、遂行することに使命感を抱く候補者を選定しましょう。ただ、そうしたマインドの有無や実行力を確かめるのは簡単なことではないので、1人に絞り込むのではなく複数人の候補を選定するのも手法の1つです。その中から誰が適任者なのかを、時間をかけて判断していくほうがミスマッチが起こりにくいでしょう。

3.後継者育成計画を策定・事業継承を開始

複数人の候補者を選定したら、後継者育成計画を実行しましょう。候補者の適性に合わせて育成方法を検討し、育成スケジュールを立案します。育成計画を作る際には、どういった場合に候補を定めて、該当しない人材を離脱させるのかも併せて定めておきましょう。些細な失敗で離脱させる厳しい計画にするのではなく、育成することをメインに長期的な計画に基づいて現経営陣との伴走によって判断する仕組みをおすすめします。

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適任者不在の場合はM&Aも選択肢に

親族や自社の人材で後継者候補を見つけようとしても、上手くいかないケースや計画通りに進まないこともあるでしょう。そもそも後継者として適任の人材が不在の場合もあります。そうした際に備えて、代替案を用意しリスクヘッジに努めることが求められます。後継者育成は時間も労力も費用もかかる重要タスクなだけに、適任者不在の事態に備えて、選択肢の1つにM&A(Mergers and Acquisitions/企業の合併買収)を考えておきましょう。

1.M&Aをおすすめする理由1:後継者育成の必要がない

「自社に後継者候補がいない」「後継者育成を試みたものの頓挫しそう」という場合は、M&Aを視野に入れましょう。M&Aによる事業継承の最大のメリットは、後継者育成にかかる時間や労力、費用を省ける点です。M&Aによる事業継承を行えば、自社に限らず外部の幅広い人材の中から後継者候補を選定できます。選択肢が増えることに加え、後継者育成に時間を取られずに、まったく別の視点から経営に携わる人材を擁立することも可能です。

M&Aを検討する際は、M&A仲介会社に相談することをおすすめします。なぜなら客観的に後継者候補を見つけ、推薦してくれる利点があるからです。親族や会社の内部の人間には見えていない視点での経営的なアドバイスをしてくれたり、企業の発展を見据えた優秀な経営人材をあてがってくれたりすることも期待できます。

事業継承が差し迫った際に慌てないためにも、後継者育成計画を遂行しつつ同時にM&A仲介会社を活用したM&Aによる事業継承についても検討することをおすすめします。M&Aを最初から選択肢に入れておけば、想定した後継者の擁立が頓挫しそうなタイミングでM&Aによる事業継承へと切り替えることも可能です。

2.M&Aをおすすめする理由2:後継者不在でも事業継承を実現できる

M&Aによる事業継承をおすすめする2つ目の理由としては、多くの企業で後継者不在が悩みの種であることが挙げられます。そのため、後継者不在で事業継承を実現できるM&Aが非常に有益であり、効率的です。

株式会社東京商工リサーチが発表した2023年4月の「後継者難倒産」の状況を見ると、4月は2013年以降で過去最多の38件を記録。さらに、2022年の後継者不在率調査では、企業の約6割が後継者未決定の状況でした。また、2022年の経営者の平均年齢は63.02歳と上昇傾向にあります。経営者の高齢化が進むと、壮年期のように精力的な働き方ができないケースもあります。そうした中で、日々の売上や資金繰りなどに奔走していると、後継者育成や事業継承は後回しにされがちです。

今や後継者不在は珍しいことではなく、そうした状況はどの企業にも起こり得ます。そのため、後継者候補を一から探し、育成プロセスを確立することに手間や時間をかけられない場合は、M&Aによる事業継承で外部人材を次期経営者のイスに据えることが最適解となるケースもあるでしょう。

※参照元:株式会社東京商工リサーチ 「後継者難倒産

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まとめ

後継者の不在を理由に倒産する企業が増えていくと、その企業だけの問題ではなく地域経済や日本経済にも影響を及ぼしかねません。企業の永続的な発展のためにも、事業継承する後継者の存在は重要です。

スムーズな事業継承を目指すのであれば、計画的な後継者育成が必要と言えます。また、後継者育成の際には、後継者候補育成はもちろん、後継者候補の補佐役も含めた選定や育成を忘れてはいけません。後継者不足対策として、M&Aによる事業継承を選択肢の1つに入れておくと安心です。

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