M&Aの交渉を左右する提案書。書き手・読み手の視点からポイントを解説

2023年8月30日

M&Aの交渉を左右する提案書。書き手・読み手の視点からポイントを解説

このページのまとめ

  • M&Aの提案書はマッチングフェーズにて秘密保持契約を締結した上で参照される
  • 提案書は買い手が作成する企業概要書と売り手が作成する提携提案書に大別される
  • 企業概要書の目的は売り手企業が抱える不安の払拭にある
  • 提携提案書の目的は買い手企業にとって期待されるシナジーの訴求にある
  • 読み手としては定性的な側面にも意識を持って把握に努めるべきである

M&Aにおいて最適なパートナーを見つけるには互いの良さや特徴を把握しなければなりません。買い手からアプローチする場合も売り手から売り込む場合も、各々の立場に応じて適切な内容を訴求し提案することが重要です。

提案書は、交渉を手助けする重要なツールとして効果を発揮するでしょう。この記事では、売り手・買い手それぞれの立場に応じた提案書の書き方や、読み手にとってのポイントを解説します。

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M&Aにおける提案書の役割

M&Aは複数のプロセスを経て実施されますが、どの企業とマッチングして具体的な条件の交渉を進めるかは、初期段階において最も重要なポイントです。
提案書は、そのマッチング段階において用いられます。
まずはM&A全体のプロセスについてご紹介し、その中で提案書がどのような役割を担っているのかについて解説します。


M&Aのプロセス

M&Aは、M&Aを戦略として用いるかの検討も含めた戦略策定フェーズから、統合を行い期待した効果を創出するまで、主に以下のプロセスで実施されます。

  1. 戦略策定
  2. 対象先候補のリストアップ(ロングリスト・ショートリスト)
  3. マッチング
  4. 基本条件交渉(スキーム選択・トップ面談・バリュエーション・基本合意締結など)
  5. 最終条件交渉(デューデリジェンス・統合計画・最終契約締結など)
  6. クロージング
  7. 経営統合(PMI:Post Merger Integration)

M&Aを実行すると決めた段階からクロージングまでの一連のプロセスは、およそ半年から1年かかるとされています。また、その後の経営統合では、統合後100日を目安に重要な初期段階のアクションが行われ(通称100日プラン)、以降の効果創出は数年かけて実行されます。

つまり、M&Aは、単なる売買だけでなくその後の統合まで含める場合少なくとも数年を要する戦略的アクションであり、企業にとって事業の成否を左右する重要なテーマと言えるでしょう。

ただし、実際に必要になる期間は、企業の特性や環境によって大きく変動するため、あくまで参考値である点には注意してください。

また、M&Aでは、適切な買収企業を見つけて買い手側からアプローチする方法のほか、売り手側から売却先に対して自社や事業の売り込みをかける方法も存在します。いずれの場合においても、上記で紹介した基本的なプロセスは変わりません。

提案書の位置付け

提案書は、上述したM&Aのプロセスの中では主にマッチングフェーズにおいて使用されます。マッチングの目的は、売買候補企業が数社に絞られた段階で秘密保持契約(NDA:Non-disclosure agreement)を締結し、互いの情報を初期的に開示することで、本当に具体的な交渉に進むかどうかを判断することです。

相互の企業がはじめて対面する段階であるため、買い手・売り手を問わずM&Aを主導する側が、自社の状況をプレゼンし、アピールすることが基本的な流れとなります。提案書は、そのアピールにおいて重要なツールです。

近年、M&Aは業界を問わず活発化しており、多くの企業にとって戦略の選択肢として「当たり前」になりつつあります。しかしながら、日本経済新聞「成功率はわずか2割、M&Aは失敗の歴史」によると、2018年時点で日本企業におけるM&A成功率は1~2割程度であり現在までほとんど変わっていないのが現状です。

M&Aの成功率が低くなる大きな要因としては、買収完了後の統合プロセスにおける計画の不備や対応策の失敗などが挙げられます。しかし、そもそもマッチングの段階において「適切な」企業を見つけられていないことも原因です。

提案書は、M&Aを主導する側の情報を適切に伝えるとともに、それらを聞く側も適切な判断ができるようにするための資料として重要な役割を持ちます。

参照元:日本経済新聞「成功率はわずか2割、M&Aは失敗の歴史

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提案書の種類

マッチングフェーズにて用いられる提案書は、用途に応じて種類が異なります。それぞれの提案書について解説します。

企業概要書と提携提案書

M&Aは、買い手側から買収対象となる企業にアプローチをする方法と、売り手側から売却対象となる企業にアプローチをする方法の、大きく2つに分類されます。

提案書も同様に、アプローチ方法によって種類が異なります。
買い手側から売り手側にアプローチする際に、買い手企業の情報を伝える「企業概要書(通称IM)」と、売り手側から買い手側にアプローチする際に、売り手企業の情報を伝える「提携提案書」が存在します。、買い手側と売り手側それぞれの立場によってM&Aの目的は異なるため、提案書に含めるべき内容も当然変わってきます。

また、どちらか一方が主導の場合でも、もう一方がそれに応じて資料を提示するケースも多くあります。例えば、買い手側がM&Aを主導する際に、買い手が売り手に対して企業概要書を提示するだけでなく、売り手側からも提携提案書が提示されるケースです。

ノンネームシート

基本的にマッチングフェーズでは秘密保持契約を締結し、相互の情報の秘匿性が保護された状態で交渉を開始しますが、それよりも前の段階で、秘密保持契約を締結せずに情報の開示・やり取りが行われるケースもあります。企業が特定されないように、企業名称やサービス名などを隠した状態で資料を開示する方法です。

このような資料は「ノンネームシート」と呼ばれ、一般的には売り手側から売却の提案を行う際に用いられます。M&Aの動きを隠すことで、従業員の早期離職などを防ぐ目的があります。

ノンネームシートは、M&Aだけではなく、ベンチャーキャピタル(VC)やプライベートエクイティ(PE)のようなファンドに対して、ベンチャー企業やスタートアップが出資を依頼する際にも活用されています。

また、企業の匿名性を担保する観点から、ノンネームシートはM&A仲介会社のような第三者を通じてやり取りがなされることも特徴です。

本稿では、提案書の書き方や読み手におけるポイントにおいて本質的な違いはないと考えられるため、ノンネームシートではなく企業概要書と提携提案書に焦点を当てて解説します。
ノンネームシートについては、その前後のプロセスとなるネームクリアとあわせて、こちらの記事で詳しく解説しています。気になる方はこちらをご参照ください。

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提案書の目的とは

企業概要書と提携提案書は、提案書としての本質的な目的は同じですが、厳密には両者で異なる部分もあります。本章では、両者の違いについて解説します。

基本的な役割

提案書の本質的な目的は、次のプロセスである基本条件交渉に進むかどうかを判断するために、必要な情報を伝えることです。

基本条件交渉からは、一般的に、特定の企業と1対1でやり取りが行われます。基本条件交渉の時点で、複数あった候補企業から、1社に絞っていることが前提となります。
したがって、マッチングフェーズにおいては、複数の候補企業から適切な企業を選ばなければなりません。提案書はその判断をするための重要なインプットの役割を担います。

企業概要書の目的

企業概要書は、買い手側から売り手企業へ自社の情報を伝えるために用いられる資料です。

売り手側にとってのM&Aの狙いのひとつとして、事業を存続し成長させるということがあります。そのため、企業概要書では「この企業に自社や事業を任せて良いか」という売り手側の不安を払拭する必要があります。
このあとのフェーズでは買い手企業の情報を伝える機会があまりないため、企画概要書は売り手へアピールするための重要な資料だと言えます。

売り手側が買い手企業に期待するのは、事業の存続やさらなる成長を達成できることにほかなりません。そのため買い手側は、企業概要書において買収の企図やこれまでの実績をきちんと訴求することが重要です。

提携提案書の目的

売り手側から買い手側の企業にアプローチするための提携提案書では、「売り手を買うことで買い手にどのようなメリットがあるのか」を伝えることが目的になります。

基本的に買い手企業は、対象企業・事業を買収することによる相乗効果(シナジー)の創出を目指しています。シナジーとは、単なる1+1=2ではなく、1+1=3、4…のように、さらなる付加価値が生じることです。買い手側の狙いは、買収金額を超えるシナジーを生み出すことにあります。

そのため、売り手企業にとっては、シナジーの実現に繋がる情報を訴求することが重要なポイントとなるでしょう。つまり、自社の強みやこれまでの実績、買い手企業との親和性などを伝えることが提携提案書の目的と言えます。

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企業概要書に記載すべき内容

続いて、実際に企業概要書に記載すべき内容を解説します。

記載すべき事項

前章で解説したとおり、企業概要書の主な目的は、売り手企業が抱く「買い手側に自社や事業を任せて良いか」という不安を払拭することです。そのため、企業概要書には、今回の買収における狙いや現在の実績などを中心に、下記の事項を記載しましょう。

  • 会社概要、事業内容、財務情報
  • 今後の事業方針・戦略、買収理由・背景
  • リスク・課題

特に重要な項目について、解説します。

会社概要、事業内容、財務情報

会社概要や事業内容、財務情報は、いわば会社のプロフィールです。基本的な情報を包括的に記載し、自社の全体像を伝える必要があります。

特に、事業内容や財務情報の箇所では、これまでの実績を紹介することを意識しましょう。例えば、顧客数や顧客評価、取引パートナーなど、単なる売上や利益以外の情報も付加することがポイントです。また、競争優位性など市場分析による結果も、売り手企業にとっては重要な情報となるでしょう。

ただし、実績についてはWebサイトなどで公開されているケースも多いため、提案書に多くの枚数を割く必要はありません。秘密保持契約を結んだ上での情報としては、後半部分である今後の方針や、買収理由、リスクなどを重視しましょう。

今後の事業方針・戦略、買収理由・背景

売り手側が知りたい点の1つは、買収における狙い、および買収に至った背景です。そのため買い手企業は、どのような成長戦略を描いており、そのなかでM&Aがどの位置付けであるか、なぜM&Aをしなければならないか、売り手企業に何を期待しているかを網羅的に説明する必要があります。

こうした情報は、外部からは得られないため非常に価値が高く、売り手企業としても把握しておきたいポイントです。一方、事業戦略や買収理由などは定性的な側面も大きく、提案書だけではすべて説明できないケースもあるでしょう。

そこで、プレゼンも上手く活用しながら、ポイントを明確化した上で提案書に落とし込むことを心がけてみてください。また、プレゼンと連動して提案書を作成することで、提案書という形に残る資料を用いる際に生じやすい、情報の一人歩きを回避できるメリットもあります。

リスク・課題

企業概要書には、リスクや課題についても含めることが重要です。人と人とのコミュニケーションと同様に、信頼関係を構築するには、弱みに対しても真摯に向き合う姿勢を示さなければなりません。買い手企業自身が現在抱えている課題や、今後想定されるリスクを、きちんと売り手企業にも開示することで、より強固な信頼関係を築けるでしょう。

さらに、課題やリスクへの対応策について言及することも忘れはいけません。特に、対応策の1つとして、売り手企業のM&Aを関連付けられると説得力が増します。

M&Aのプロセスにおいて、マッチングフェーズ以降は、基本的に買い手企業が売り手企業・事業の分析を行います。つまり、売り手企業が買い手側の情報を得られる機会は少なく、マッチングフェーズがほぼすべてといっても過言ではありません。
したがって、買い手企業としては、売り手側の不安を払拭するために、最大限の情報を企業概要書に含めることを意識しましょう。

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提携提案書に記載すべき内容

次に、売り手企業の情報を伝える提携提案書について、企画概要書との違いや記載すべき内容を解説します。

企業概要書との違い

売り手企業の分析は、後続のバリュエーションやデューデリジェンスなどを通じて精緻に行われるため、財務情報や事業内容に関する情報はマッチングフェーズにおいてそれほど重要ではありません。これは、企業概要書と大きく異なる点です。

財務情報や事業内容よりも、複数ある買収候補企業から自社を選んでもらうための判断要素となる、想定シナジーなどの説明に重きを置くべきでしょう。

また前提として、企業概要書と同様、売却に至った背景は明らかにしておく必要があります。エグジットによる創業者のキャッシュ獲得の場合を除いて、多くのケースでは、企業・事業を売却する理由に何らかのネガティブな要素があるはずです。

後継者不足や、事業の選択と集中、事業の再生など、企業によって売却の理由はさまざまですが、買い手企業からの信頼を得るためにも、課題や戦略的な狙いについて具体的に記載しておきましょう。
その上で、買い手企業の特性も鑑みながら、想定されるシナジーに関する説明に踏み込むことが適切です。

記載すべき事項

提携提案書では「買い手企業が自社や事業を買収することでどのようなメリットがあるか」を訴求することが重要です。シナジーになり得る情報として、競争優位性や過去の実績、ノウハウやスキルなどを盛り込む必要があります。具体的な項目は以下のとおりです。

  • 会社概要
  • 事業内容
  • 今回の譲渡の背景(課題ないしは戦略的狙いなど)
  • 期待されるシナジー
  • 想定される売却価格

期待されるシナジー

シナジーは、売上アップに繋がるものと、コスト削減に繋がるものに大別されます。

前者の具体的な例としては、それぞれの強みを掛け合わせて新たなサービスを開発できることや、顧客のクロスセルが可能なことなどが挙げられます。
後者の例としては、システムの一括導入によるスケールメリットや、ノウハウの共有による業務の効率化などです。提案書には、この2種類のシナジーを区別して記載することがポイントとなります。

また、自社の視点だからこそわかる、数値化できない定性的な情報を伝えることも重要です。M&Aにおいては、事業戦略や業務だけではなく、文化や人材など、企業を構成する要素のすべてが統合されます。
なかでも、ノウハウや従業員のスキル、文化といったソフト的な要素は、外部からは判断ができず、後続のデューデリジェンスなどのプロセスでも評価することは困難です。したがって、提携提案書の段階で、売り手企業からこれらの要素を訴求することは、買い手側の意思決定を後押しする有益な情報になり得ます。

想定される売却価格

最後に、想定される売却価格についても提携提案書に記載しておくと良いでしょう。実際の売却価格は、デューデリジェンスによる買い手企業の分析および、両社の交渉を通じて最終決定がなされます。しかし、マッチングフェーズにおいても、互いの期待値に大幅な相違がないことを確認しておかなければなりません。

価格は、両社にとって非常に重要なポイントであり、合意が非常に難しい点でもあります。そのため、もし、この初期段階で期待値に大きな差異がある場合、他の企業候補を見つける方が、互いにとって効果的と言える可能性が高いためです。また、その際に、売り手企業から自社や事業の売却価格を提示できると、交渉をスムーズに進めやすくなるでしょう。

売り手企業による自社や事業の売却価格の算定は、セルサイドデューデリジェンスと呼ばれます。買い手企業が行うデューデリジェンスと同様に、外部の専門家の協力を得ながら実施されるケースもあれば、自社の経営陣によって最低限の範囲で行われるケースもあります。

いずれにしても、買い手企業による評価だけではなく、売り手企業自身も価格の規模感や算出ロジックを把握しておくことが重要です。

セルサイドデューデリジェンスを実施するメリットは、交渉がスムーズに進むことのほか、価格の底上げに繋がる点も挙げられます。売却企業や事業の情報を最もよく把握している売り手側が行うため、売却価格はより実態に即した精緻な値になるはずです。
そのため、交渉時には、買い手側に明確な根拠と合わせて提示することで、売り手の期待する価格での取引がしやすくなります。

M&Aにおける企業価格の算出は、以下3つのいずれか、または複数の組み合わせによって行われます。

  • 純資産を基に企業の現在の価値を評価するコストアプローチ
  • 類似する業種などを基に評価するマーケットアプローチ
  • 収益性などを基に企業の将来の価値を評価するインカムアプローチ

これらの詳しい算出方法は、別の記事にて解説していますので参考にしてください。

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買い手側主導時における提案書の確認ポイント

ここまで、企業概要書と提携提案書について、それぞれ書き手の視点に立って記載すべき内容を紹介してきました。本章では、読み手の立場におけるポイントを解説します。

まず、買い手側がM&Aを主導する場合、すなわち企業概要書が買い手企業により作成され、それを売り手企業が判断するケースについて見ていきましょう。

前述したとおり、読み手となる売り手企業にとっては、マッチングフェーズでの交渉時が、買い手企業の情報を取得できる最後のチャンスとなります。したがって、この段階で疑問や不安な点をすべて解消できるようにしておきましょう。

売り手企業が押さえておくべきポイントは、「自社や事業をどのように守り、成長させてくれるか」「本当に任せるに信頼足り得るか」の2点です。

売り手側の経営者が買い手企業に対して最も期待するのは、売却企業や事業が成功することでしょう。成功に向けての計画がどれだけ確実なものかを判断すること、および買い手側の経営層や文化なども含めて、安心して任せておけるかを見極めることが重要です。

具体的には、買収の狙いや買収後の成長戦略、買い手企業内における今回の売却事業の位置付け、過去の実績、現状のリスクなどを押さえておく必要があります。

そのほか、経営者の人柄や経営層のスキル、ミッション・ビジョン・バリューや文化などの定性的な側面も重要です。ただし、こうした定性的な側面は、企業概要書では読み取れない部分も多々あるため、プレゼンや交渉時の雰囲気なども判断要素の1つとなります。

いずれにしても、企業概要書にて把握しきれなかった情報は、適宜質問を行い、その場ですべてが明確になるように努めることが大切です。

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売り手側主導時における提案書の確認ポイント

次に、売り手側がM&Aを主導する際に、買い手側が押さえておくべき提携提案書の読み取りポイントを紹介します。

読み手となる買い手企業にとって、「自社が買収することで、どのようなシナジーが創出されるか」の見極めが重要であることは変わりません。したがって、提携提案書を通してシナジーに繋がるポイントを押さえることは必要不可欠と言えます。

しかしながら、買い手企業としては、マッチングフェーズ以降も、バリュエーションやデューデリジェンスといったプロセスにおいて、M&A仲介会社やコンサルタントなどの第三者の協力も得ながら、買収対象企業を詳細に分析していきます。これらのプロセスにおいて統合後の計画、すなわちシナジープランが策定されるため、実はマッチングフェーズにおいて想定シナジーについてはそこまで重視しなくても問題ありません。

それよりも、マッチングフェーズでは、バリュエーションやデューデリジェンスなどでは拾いきれないソフト面の情報に注目するべきでしょう。具体的には、経営陣の経歴やパーソナリティ、自社の事業やサービスに対する想い、買い手企業に期待値、従業員のスキル、文化などの点を押さえておくことが重要です。

このようなソフト面の要素は、シナジー創出に影響するだけではなく、ディスシナジーと呼ばれる、経営統合によるマイナスな効果の把握・対策においても極めて重要となります。ディスシナジーの例としては、両社の文化が上手く噛み合わずに退職者が出てしまうことや、既存の業務プロセスが大きく異なり、かえって業務の生産性が下がることなどが挙げられます。

これらは、M&Aの成否を大きく左右する要素でありつつも、外部からの分析では把握しきれないポイントです。そのため、提携提案書に関するプレゼンの場を通して、これらの要素を把握できるような質問を投げかけることで、可能な限りリスクを回避する必要があります。

買い手が主導するケース、売り手が主導するケースのいずれにおいても、読み手の視点としては、ソフト面の要素に重きを置くことが重要なポイントと言えるでしょう。

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まとめ

本稿では、M&Aにおける前半のマッチングフェーズで重要なカギを握る提案書の目的や記載すべき内容を解説しました。

提案書には大きく企業概要書と提携提案書があり、それぞれ書き手側と読み手側が意識すべき観点は異なります。自社のM&Aの目的に応じて、適切な提案書の作成と、読み手としての判断を心がけましょう。

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