M&Aで社員が退職する?事業を売却する際の社員の不安や退職金などを解説
2023年8月29日
このページのまとめ
- 従業員にとってM&Aに伴う給料や労働環境の変化は、十二分に退職の理由となりうる
- 重要なことは従業員の不安を知り、買い手企業とのすり合わせを済ませておくこと
- 従業員が不安により退職しないよう、事前説明やPMIを徹底して行うことが大切
- M&Aに成功できれば、従業員の労働環境やキャリアを向上させられることも多い
- 株式譲渡では退職金は引き継がれて、事業譲渡では場合によって扱いが異なる
会社のM&A(合併買収)による売却は、従業員が退職するきっかけとなることも少なくありません。また、その際に発生する退職金について、疑問を抱えている経営者の方も多いでしょう。
本コラムでは、M&Aに伴う従業員の退職リスクやその理由、退職金の処遇、そして可能な限り従業員の退職を減らす方法について解説します。このコラムで従業員が不安を覚える要素やそれを軽減させる方法を知り、対策をしましょう。
目次
M&A後に従業員が退職するリスクがある
M&Aが上手くいかない原因の1つとして挙げられるのが、「従業員の退職」です。
実際、東京商工会議所が2021年2月に発行した「事業承継の取組と課題に関する実態アンケート報告書(P.29)」において、従業員の離職問題が浮き彫りになっています。買収における当初目的・期待効果を達成できなかった買い手企業が挙げた理由の上位3位のうちの一つが、「相手先の従業員が退職してしまった」ことです。
従業員がM&A後に退職してしまう理由とは何なのでしょうか。次の項目では、M&Aで従業員が不安を感じることについて解説します。
参照元:東京商工会議所「事業承継の取組と課題に関する実態アンケート報告書」
M&Aにおいて社員が不安に感じる5つの要素
M&Aの売り手側の社員が不安を覚える要素には、主に以下の5つが考えられます。
- 社員の待遇の変化
- 新しい会社での評価
- 人間関係の変化
- 事業の方針の変化
- 業務の手続き・システムの変化
それぞれの内容について、詳しく紹介します。
1.社員の待遇の変化
M&Aにより経営者が変わると、従業員に対する処遇に変化が生じることがあります。
給料、あるいは福利厚生といった処遇が大幅に悪化した場合や、将来性がないと従業員に判断された場合などには、会社が見切りをつけられる可能性が高くなるでしょう。
その他、転勤の可能性が上がることや役職の変更なども、従業員の退職のきっかけとなり得ます。
■退職の理由となりうる待遇の変化の例
・給与や賞与、退職金などの減少 ・残業や出勤数の増加 ・有給休暇の減少 ・福利厚生面の悪化 ・遠方への転勤やそれに伴う単身赴任の可能性の増加 ・役職の変更 ・買い手企業の従業員との格差 |
2.新しい会社での評価
M&Aにより企業の体制や規模が大きく変化した場合、従業員の評価方法や昇進の基準が変わる場合があります。
「新しい環境で、これまで思い描いていた通りに昇給や昇格が可能か」という観点は、キャリアアップに意欲的な従業員や扶養家族のいる従業員などにとっては特に重要な問題です。
3.人間関係の変化
経営者が変わることにより、仕事を取り巻く人間関係にも変化が生じます。もちろん良い方向に変わる可能性もありますが、「新しい経営者とウマが合わない」「買い手企業の社員より立場が悪く感じる」といった問題が、退職の理由となることは容易に考えられます。
4.事業の方針の変化
経営者が変わることで、事業の方針が変動することは多いです。
特にこれまでの事業方針に納得し、同じ志で働いてきた従業員ほど、「新しい経営方針についていけない」「自分には合わない」と判断して退職してしまう可能性は高くなるでしょう。
5.業務の手続き・システムの変化
M&Aが行われると、これまで行ってきた業務の手続き方法や使用するシステムが買い手企業のものに統合される可能性があります。
従業員によっては、慣れ親しんだ方法で業務を行えないことが、ストレスの原因となるかもしれません。
場合によっては手続き方法やシステムの統合が、買い手企業と売り手企業の従業員間における格差に繋がる可能性もあります。
M&Aを進めるうえで社員の不安を軽減する3つのポイント
M&Aを実施すると少なからず環境に変化が生じるので、従業員の退職リスクをゼロにすることはできません。しかしながら、相互理解や交渉によって、できる限り社員の不安を軽減することは可能です。
ここからは、M&Aに伴う従業員の不安を軽減する方法について解説します。
不安を減らすために押さえるべきポイントは下記の3つです。
- 社員が不安に感じる要素に関して説明する
- M&A後のPMIを適切に行う
- 専門家や相手企業とよく話し合う
それぞれ詳しく解説します。
1.社員が不安に感じる要素に関して説明する
従業員の不安を払拭するには、その不安要素について経営層から詳しく丁寧に説明することが重要です。
例えば給与の減少に不安を持っている従業員であれば、「M&A後にも給与体系が変化しないこと」を説明することで、いくらか安心できることでしょう。
従業員の不安を知り、それを軽減するためには、従業員の声を知るための環境づくり(面談によるヒアリング、アンケート調査など)が必要です。
その他、相手先の企業と共同で説明会を行うことなども有効といえるでしょう。
ただし、相手先との約束が固まっていない状態で希望的観測を伝えることは、実際に異なる事態になった場合にかえって信頼を損ねる原因となるのでやめましょう。確定事項になったうえで伝えてください。
2.M&A後のPMIを適切に行う
M&Aを実行した後のPMI(Post Merger Integration)、つまり売り手企業と買い手企業の統合プロセスを適切に行えるかどうかは、非常に重要なポイントです。
給与面を含む従業員の労働環境や企業方針のすり合わせを適切に行えたなら、新しい環境であっても従業員が抱える不安を軽減させることができます。
特に売り手企業の経営者が、しばらく買い手企業に在籍し、直接サポートや引継ぎを行う方法やその過程は、従業員の心理面においても業務面においても有効です。
3.専門家や相手企業とよく話し合う
M&Aは通常、仲介会社と相手企業(買い手)と相談・交渉を行いながら進めます。
面談やアンケート調査などにより、従業員が抱える不安を確認できたなら、可能な限り、仲介会社のコンサルタントや相手方企業と条件のすり合わせを行ってください。M&Aの準備段階で、従業員が抱える不安を減らしていきましょう。
M&Aによる社員への3つのメリット
準備が不十分だと従業員に不安をもたらす可能性はあるものの、上手く進められれば従業員の生活状況やキャリアが大幅に向上する可能性もあります。
ここからは、M&Aによってもたらされる、従業員のメリットについて解説します。メリットは主に3つです。
- 基本的には継続して雇用される
- 大きな企業のグループ社員として働ける
- 新たなキャリアにつながる可能性がある
それぞれのメリットの詳細を以下で確認していきましょう。
1.基本的には継続して雇用される
中小企業がM&Aを行う場合、従業員の雇用は継続されることが一般的です。
2021年に中小企業庁が公開した資料によると、M&Aにおける売り手側の目的として「事業の承継」の次に挙げられていたのが「従業員の雇用の維持」でした。
もしも現在の業績で、これまで通り従業員を雇用していくことが難しいという状況であっても、M&Aによって売却を行うことで従業員の生活を守れる可能性があります。
引用元:中小企業庁「中⼩企業の事業承継・M&Aの推進に向けた取組について 〜中⼩M&Aの意義と⽀援策〜(P.6)」
また、同じく2021年に中小企業庁が公開した資料「中小M&Aの意義」においては、M&Aを実施した企業の82.1%が、従業員をすべて雇用継続させていると分かります。
引用元:中小企業庁「中小M&Aの意義(P.5)」
ただし有給休暇や退職金などに関する詳細についてはそのまま引き継がれない可能性もあるので、買い手企業と事前に話し合っておきましょう。
参照元:中小企業庁「中⼩企業の事業承継・M&Aの推進に向けた取組について 〜中⼩M&Aの意義と⽀援策〜」
中小企業庁「中小M&Aの意義」
2.大きな企業のグループ社員として働ける
M&Aの買い手となる企業は、売り手企業よりも大きな規模であることが一般的です。
特に買い手企業が大企業や上場企業であった場合、給与を含む労働環境が改善されたり、社会的ステータスが向上する可能性は高いです。
また、所属する企業やグループの規模が大きくなるということは、倒産の可能性が低くなるという安心感にも繋がります。
3.新たなキャリアにつながる可能性がある
買い手の企業の規模や取り扱う業種によっては、従業員がこれまでに経験のない業務に挑戦することで、素質を伸ばせたり、仕事の幅を広げられたりする可能性があります。
特にチャレンジ精神の強い従業員であれば、M&Aの実施がキャリア向上や才能を開花させるきっかけとなるかもしれません。
M&Aで社員が退職してしまう場合の退職金について
M&Aに成功した場合であっても、「どうしても環境の変化についていけない」という従業員が発生する可能性は否めません。
ここからは、M&Aをきっかけに社員が退職してしまう場合の退職金について、簡単に解説します。
M&Aによる退職は自己都合になるか
退職の理由がM&Aのみであれば、原則として会社都合退職の理由となることはありません。
「M&Aにより先行きに漠然とした不安を感じた」「新しい経営者と相性が合わず、上手くやっていけない」といった場合の退職は、自己都合退職扱いとなります。
ただし、M&Aにより勤務地が非常に遠くなってしまったり、労働条件が大幅に悪化したりした場合などについては、その限りではありません。会社都合による退職と判断されることもあるでしょう。
M&Aの手法で退職金は変化するのか
退職金に関する取り決めは、一般に買い手企業の規定に基づくものとなります。
そのため具体的な条件については、M&Aの過程ですり合わせを進めておくことが必要です。
ただし会社の資産や経営権をすべて譲渡する「株式譲渡(会社売却)」であれば、退職金関連を含む雇用契約も、そのまま引き継がれることが一般的です。雇用契約が引き継がれ、退職扱いとならない場合、M&Aのタイミングで退職金が発生することはないでしょう。
その一方で事業の一部を譲渡する「事業譲渡」の場合、いったん雇用契約が解消されることから、売り手企業が従業員に対し退職金を支払う場合もあります。また、買い手側の企業が退職金の制度を引き継ぐパターンもあります。
まとめ
M&Aを実施した際、準備が十分でないと従業員が不安を覚えて退職してしまう恐れがあります。従業員が不安を感じる要素には待遇・評価方法の悪化や取り巻く環境の変化などが挙げられます。
M&Aで従業員が退職することを防ぐためには、抱える不安を軽減させることが大切です。従業員に対する説明を丁寧に行ったり、M&A実施後の統合プロセスを適切に実施したりしてください。また、M&Aの準備・交渉段階で専門家や相手の企業と入念に話し合いをして、不安要素をあらかじめ取り除くことも重要です。
従業員にとっても、M&Aの実施は多くのメリットがあります。相手が大きな企業であれば、傘下に入ることで安定して働くことが可能です。また、M&Aによる業務内容の変化が新たな挑戦のきっかけとなり、キャリアアップを叶える従業員もいるでしょう。
M&Aが成功すれば、会社だけでなく従業員にとってもポジティブな効果があります。退職リスクを減らし、M&Aを成功させましょう。
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