このページのまとめ
- タグアロングとは株主間契約などで設定される少数株主の保護を目的とする権利
- タグアロングのメリットは大株主が株式売却をしやすく少数株主も恩恵を受けられること
- タグアロングのデメリットは投資家心理を悪くすることと株主構成が変わること
- ドラッグアロングとは株主間契約で設定される大株主のイグジット戦略のフォロー
- タグアロングとドラッグアロングの共通点は格差や利害の調整をすること
「投資家からの出資も受けて会社を設立する場合、設立後の株式の扱いはどう取り決めるのだろう?」と疑問に思っている人もいるのではないでしょうか。経営陣以外の複数株主がいる会社では、株主間契約でのタグアロングとドラッグアロングの設定は欠かせないものです。本コラムでは、タグアロングとドラッグアロングの概要や条項の例文、共通点と違いなどを解説します。
目次
タグアロングとは
タグアロングとは、複数の株主がいる非上場企業において、一部の株主が自分の所有している株式を第三者に譲渡しようとするときに、ほかの株主も自分の所有する株式を同じ第三者に同一条件で譲渡できる権利のことです。
英語表記は「Tag Along」ですが、正確には「Tag Along Right」となります。「Tag-Along」を直訳すると「付き添う」や「ついて行く」です。そこから転じて、タグアロングを日本語表記する場合は、売却参加権や共同売却権といいます。
タグアロングは、株主間契約やジョイントベンチャー契約の中に条項として盛り込まれるものです。特に想定されるのは、VC(ベンチャーキャピタル)や投資家からも出資を受けて会社を設立したケースでしょう。
この場合、経営者または経営陣である株主(経営側株主)と、投資として出資した複数の株主(投資側株主)が混在しています。VCが出資している場合などは、投資側株主の方が議決権を多く持っていることもあるでしょう。したがって、株式の扱い方について定めておく株主間契約が必要になります。
タグアロングの目的と内容
ここでは、タグアロング条項を株主間契約に盛り込む目的と、条項で定めておくべき内容を解説し、最後に条項の例文も紹介します。
タグアロングの目的とは
タグアロングの目的は、少数株主の保護です。過半数や3分の2以上の議決権を有する株主が第三者に株式を譲渡した場合、残った少数の株式の価値は下落すると予想されます。あるいは、スクイーズアウト(少数株主を対象会社から排除し完全子会社化を達成する取引)などで不利な条件で排除されたり、少数の株式では譲渡交渉に応じてもらえなかったりするかもしれません。
そのような状況のときにタグアロング条項が設定されていれば、少数株主は大株主と同じ条件で所有する株式の譲渡を請求できます。大株主はそのために、株式を譲受しようとする第三者に対し、少数株主の分の株式も買い取るよう交渉・調整しなければなりません。その結果、少数株主は損をせずに済みます。
また、タグアロングで定められるのは、大株主による株式譲渡だけに限りません。50%ずつ株式を持つ株主2人がいるようなケースでも、当事者が合意すればタグアロング条項を設定できます。
ここでポイントとなるのは、自分の株式を譲渡しようとする株主は、譲渡を実行する前にその事実をほかの株主全員に通知しなければならないことです。
個々の株主が全く自由に株式を譲渡できてしまうと、株主構成が落ち着かず経営に悪影響を及ぼすでしょう。タグアロング条項があれば、株式譲渡の実行前に必ずほかの株主は通知を受けることになり、意見調整ができるのです。
タグアロングの条項内容
株主間契約にタグアロング条項を設定する場合、以下の内容を網羅しておく必要があります。
- タグアロング発動に当てはまる株式の範囲
- 株式譲渡をしようとする株主の事前通知義務
- 通知方法(文書など)
- 通知内容の規定(譲渡株式数、譲渡価額、譲渡相手、譲渡予定期日など)
- 通知後、タグアロングを申し出る期限
- タグアロングを得られる株主の特定
- タグアロングに従わねばならない株主の特定
タグアロングは法令によって定められている権利ではありません。したがって、株主間の合意によって内容が定まります。経営側株主、投資側の大株主、投資側の少数株主、それぞれ立場が違うため、合意形成はすぐには難しいかもしれません。その場合、タグアロングの主旨に則り、少数株主に配慮した合意内容にすることが望ましいでしょう。
タグアロング条項の例
株主間契約のタグアロング条項で中心となる部分の例文を記載します。
当会社株主は、自己の所有する株式について第三者と譲渡交渉を行い合意に至った場合、その事実を他の株主に書面で通知しなければならない。 通知には以下の内容を必ず含めるものとする。 (譲渡株式数) (譲渡価額) (譲渡相手) (譲渡予定期日) 通知を受けた他の株主は、株式譲渡を行う株主(以下「譲渡株主」という)と同等の条件で自己が所有する株式の全部または一部を当該第三者に買取請求する権利(以下「タグアロング」という)を有する。 タグアロングの行使を希望する株主(以下「タグアロング株主」という)は、通知を受けてから30日以内に譲渡株主に申し出なければならない。 タグアロング行使の申し出を受けた譲渡株主は、当該第三者に対しタグアロング株主の株式買取の交渉を行わなければならない。 当該第三者がタグアロング株主の所有する全ての株式買取を望まない場合は、当該第三者に譲渡される株式合計数に対する譲渡株主とタグアロング株主の所有株式数割合に応じた株式数を譲渡できる。 |
最後の例文は、株式の買取者が当初合意した株式数しか買い取る気がない場合は、譲渡株主の株式数を減らし、所有比率分のタグアロング株主の株式も買い取らせる意味合いです。いずれにしても、これらの条項はあくまで例文です。それぞれの株主間の合意内容に応じた条文にするには、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
タグアロングのメリットとデメリット
少数株主を保護する仕組みであるタグアロングですが、メリットだけでなくデメリットもあります。タグアロングには、どのようなメリット、デメリットがあるのか確認しましょう。
タグアロングのメリット
タグアロングのメリットとされているのは以下の2点です。
- 大株主が大量の株式を気軽に売却しやすくなる
- 少数株主の持つ株式の流動性が高まる
それぞれのメリットについて詳しく説明します。
大株主が大量の株式を気軽に売却しやすくなる
タグアロングのメリットの1つは、大株主が大量の株式を売却したいときに、株主間調整などの手間や時間を削減できることです。手間が軽減される分、株式の売却がしやすくなります。大株主が株式を大量に売却すると、株価が下がったり少数株主がスクイーズアウト(強制排除)されたりするかもしれません。
タグアロング条項がない場合、大量に株式を売却する前に会社に相談する必要が生じるでしょう。しかし、タグアロング条項が設定されていることで、少数株主も大株主に追随して同条件で株式を売却できるため、意見調整などが不要になります。
少数株主の持つ株式の流動性が高まる
タグアロングのもう1つのメリットは、少数株主にも大株主と同等の株式を譲渡する機会・権利を提供することで、少数株主の持つ株式の流動性を高めることです。流動性が高まるということは、売却しやすくなることを意味します。少数株主でも売却をしやすいということは、個人投資家の出資意欲を高めることになり、最終的に投資家からの出資が集まりやすくなるでしょう。
タグアロングのデメリット
一般に、メリットとデメリットは表裏一体であることが多いものです。タグアロングでも、以下のようなデメリットがあります。
- 投資家に悪印象を持たれる可能性がある
- 株主構成が大きく変化する可能性がある
なぜ、タグアロングにこのようなデメリットの可能性があるのかを説明します。
投資家に悪印象を持たれる可能性がある
タグアロング条項が設定されていることで投資家が悪印象を持つ可能性が、タグアロングのデメリットとして指摘されています。つまり、タグアロング条項が株主間の合意事項としてあるということは、大株主が将来、株式を売却する意思があるという解釈ができます。
大株主が離脱する可能性があるということは、会社の将来性に不安があるとも受け取れるため、出資を検討する投資家心理に悪影響を与えるかもしれません。
株主構成が大きく変化する可能性がある
タグアロングのもう1つのデメリットとして、少数株主は大株主の株式譲渡時に一緒に株式を売却しがちであるため、株主構成が大きく変化する危険性があります。株主構成が変わることで株主の経営に対する方針や考えも変わってしまい、経営状態・内容が不安定となるおそれがあるでしょう。
ドラッグアロングとは?
ドラッグアロングとは、複数の株主がいる非上場企業において、相当数の株式を第三者に譲渡しようとする株主が、譲渡に賛成していない他の株主に対し、自分と同一条件で同じ相手に株式を譲渡するよう強制できる権利のことです。
英語表記は「Drag-Along」ですが、正確には「Drag-Along Right」となります。「Drag-Along」を直訳すると「無理やり連れていく」や「引っ張る」です。そこから転じて、ドラッグアロングを日本語表記する場合は、強制売却権や同時売却請求権などといいます。
ドラッグアロングも、株主間契約やジョイントベンチャー契約の中に条項として盛り込まれるものです。想定されるシチュエーションも、VCや投資家からも出資を受けて会社を設立したケースになります。
ドラッグアロングの目的とは
ドラッグアロングの目的は、過半数や3分の2以上の議決権を持つ株主が、所有する株式全てを第三者に譲渡しようとする際、その第三者が当該会社の全株式を取得したい希望に応じることにあります。
株式を買収して会社の経営権を取得したい買い手(第三者)は、買収後、完全に経営をコントロールするために、全株式の取得を希望することが多いです。
少数株主が残っていてもスクイーズアウトの手法を用いれば少数株主の強制排除も可能ですが、株式の取得段階で全株式を買収できてしまえば、スクイーズアウトの手間が省けます。そのため、株式を譲渡したい大株主に対し、全株式の一括譲渡を条件として提示するのです。
このようなケースで、無事に株式譲渡が成立することを想定して設定するのが、ドラッグアロング条項となります。
ドラッグアロング条項の例
株主間契約にドラッグアロング条項を設定する場合の例文を掲示します。細かい取り決めはいくつもあるため、ここでは中心となる部分のみの例文です。
当会社株主が、自己の所有する株式を第三者に譲渡する際、以下に示すいずれかに該当する場合は、他の株主に対し、同様に当該第三者へ株式譲渡するか、経営側株主の買取りに応じるかを要求できる。 1.全株主の総議決権の3分の2以上が賛成した場合、ただし、〇年〇月〇日以降に限る 2.当会社が株式上場申請が可能であるにもかかわらず、これをしない場合 3.当会社に対する妥当な金額の買収提案があっても会社がこれに応じない場合 4.経営側株主が株主間合意書に記載された各条項のいずれかに違反した場合 5.事実と異なる内容が株主間合意書に記載されていた場合 |
なお、これはあくまでも例文です。実際に株主間契約書を作成する際は、弁護士などの専門家に相談しましょう。
ドラッグアロングにおける対価
M&Aスキーム(手法)が株式譲渡の場合、その対価は現金です。また、買い手に株式を取得させるという観点では、株式交換・株式移転・合併などのM&Aスキームもあります。株式交換、株式移転、合併の場合、対価は現金以外に買い手の自社株式、社債、新株予約権、その他の財産から選択が可能です。
株式売却を進めたい会社側は、買い手が提示する対価についてフレキシブルに対応しようとするでしょう。一方、強制的に株式を売却することになる少数株主は、換金の手間がかかるものよりも現金を望みます。どちらにするかについては、株主間契約にドラッグアロング条項を設定する交渉の際のポイントです。
ドラッグアロングの発動時期
ドラッグアロング条項の例文中で、条件1において時期を特定する例を記載しました。これは、単に議決数だけでドラッグアロングの発動が決められるようにしてしまうと、VCなどが株式3分の2以上を所有している場合、いつでも自由にドラッグアロングすることを防ぐためです。
たとえば、経営陣が5年後の上場を目指して経営を進めていても、それよりも早くドラッグアロングを発動されM&Aが強制されては、努力が報われません。VCなどの大株主が5年後の上場に同意しているようなケースでは、ドラッグアロング条項の中に発動時期の特定を盛り込んでおくべきです。
ドラッグアロングの注意点
ドラッグアロング条項は株主間契約だけではなく、ジョイントベンチャー契約やベンチャー投資契約にも設定されるものです。それらの契約には、ドラッグアロング条項と密接に関係する条項もあるため、その点に留意しながらドラッグアロング条項の内容を設定する必要があります。
ドラッグアロング条項と関連してくるものの一例としては、対価分配のみなし精算や株式譲渡の先買権などです。専門的な知識も欠かせないため、公認会計士などの専門家も交えた交渉が求められます。
タグアロングとドラッグアロングの共通点と違い
最後に、タグアロングとドラッグアロングの共通点と違いを解説します。共通点は「株主間の格差や利害の調整を行う」ことです。また、「それぞれの権利を行使できる株主の立場が違う」ことが相違点になります。それぞれの内容を確認しましょう。
格差や利害の調整という点が共通している
タグアロング、ドラッグアロングは、所有株式数が大きく異なる大株主と少数株主、また、立場が異なる投資側株主と経営側株主、これらの対立しがちな関係である両者の利害を調整したり保護したりという意図で設定されるという点は共通点といえるでしょう。
また、タグアロングとドラッグアロングは、利害を調整するためのものであるがゆえに、関係者の交渉による合意のうえでしか設定できないことも共通点といえます。
権利を行使する人で違いがある
タグアロングは、少数株主の保護という意図で設定されます。一方でドラッグアロングは、大株主のイグジット戦略のフォローという前提で設定されます。このように、タグアロングとドラッグアロングとでは、主体となる人物が異なることが相違点といえるでしょう。
また、少数株主にフォーカスしてタグアロングとドラッグアロングを比べると、タグアロングは少数株主の権利として発動するものですが、ドラッグアロングの発動は少数株主に義務を強制するものです。この点も相違点といえるでしょう。
まとめ
VCや投資家からも出資を受けて会社を設立する場合、タグアロングやドラッグアロングを設定しておかないと、後日、トラブルの発生につながるかもしれません。特に経営陣が過半数の議決権を持っていないケースでは、タグアロングやドラッグアロングの設定が、安定的に経営を続けるうえで重要な役割を持つでしょう。
ただし、タグアロング、ドラッグアロングは、あまり一般にはなじみのない用語でもあり、株主間契約などを締結する際には、専門家のアドバイスを受けるのが得策です。
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