事業承継特別保証制度とは?要件や利用する4つのメリットを解説

2023年8月23日

事業承継特別保証制度とは?要件や利用する4つのメリットを解説

このページのまとめ

  • 事業承継特別保証制度は、事業承継時に経営者保証無しで融資を受けられる制度
  • 事業承継特別保証制度では、既存の融資も借り換えで経営者保証を解除できる
  • 事業承継特別保証制度に申し込むには、特定の要件を満たすことが必要
  • 事業承継特別保証制度は審査制であるため、対象にならない場合がある
  • 事業承継特別保証制度の問い合わせ先は、与信取引のある金融機関か信用保証協会

「事業承継特別保証制度で経営者保証はなくなるの?」など、制度の内容をお知りになりたい方も多いのではないでしょうか。
事業承継特別保証制度を活用すれば、経営者保証を負わずに済んだり、既存の融資を借り換えて経営者保証を解除できたりします。

本コラムでは、事業承継特別保証制度の概要、申し込むための要件、必要書類、問い合わせ先、注意点などを解説します。

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事業承継特別保証制度とは?

事業承継特別保証制度とは、中小企業が金融機関から経営者保証付きで融資を受けている場合、従来であれば事業承継をする後継者に引き継がれることがほとんどだった経営者保証を、後継者が負わないで済むようにするための支援制度のことです。

経営者保証とは、中小企業が行う金融機関からの借入に際し、経営者個人が連帯保証人となることを指します。事業承継特別保証制度は、経営者保証を不要とする新たな信用保証制度として、2020(令和2)年4月から運用が開始されました。

事業承継特別保証制度が設立された背景

中小企業庁金融課の資料「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」によると、独立行政法人中小企業基盤整備機構が2017(平成29)年度に行った中小企業へのアンケートでは、経営者保証の実情は以下のとおりです。

  • 借入の全部に経営者保証あり:57.4%
  • 借入の一部に経営者保証あり:29.3%
  • 経営者保証なし:13.3%

このアンケートにより、86.7%の中小企業で経営者保証を行っていることがわかりました。また、同アンケートでは、中小企業の事業承継に関する以下の実情も報告されています。

  • 後継者不在企業の22.7%は、後継者候補がいても事業承継を拒否されている状況
  • 事業承継を拒否している後継者候補の理由の一番は経営者保証(59.8%)

このように、経営者保証が中小企業の円滑な事業承継を妨げる大きな要因になっていることが明らかとなり、事業承継特別保証制度の創設となりました。

参照元:中小企業庁金融課「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について

経営者保証解除の概要

事業承継特別保証制度は、事業承継時に一定の要件(詳細は後述)を満たしている後継者に対し、経営者保証を不要とする制度です。その概要は、以下のようになっています。

  • 保証限度額:2億8,000万円(組合などの場合は4億8,000万円)
  • 担保:必要に応じて徴求
  • 保証期間 :分割返済は10年以内(据置期間1年以内)、一括返済は1年以内
  • 対象資金:事業承継時までに必要となる事業資金
  • 特例:既存の経営者保証付きプロパー融資(保証協会を通さない融資)の借り換えも可能
  • 信用保証協会の保証料率:融資額の0.45%~1.90%、ただし専門家の確認があると0.20%~1.15%に低減可能(詳細は後述)

これまで経営者保証が広く行われてきたのは、経営者保証を付けた方が融資審査に通りやすかったためです。しかし、万が一、会社が返済できなくなった場合、経営者個人が返済義務を負わねばならないのは、大きな精神的負担となってきました。今後、経営者保証の解除が進めば、事業承継を受け入れる後継者数が増えるでしょう。

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事業承継特別保証制度と経営承継円滑法の違い

2008(平成20)年、中小企業の事業承継を総合的に支援する法律として「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(通称、経営承継円滑化法)」が施行されました。その内容は以下のとおりです。

  • 事業承継税制:事業承継時の相続税・贈与税が猶予および免除される
  • 金融支援:事業承継時に経営者個人が資金を必要とする場合の特別融資制度
  • 遺留分に関する民法の特例:遺留分を起因とする紛争や自社株式および事業用資産の分散を防止する
  • 所在不明株主に関する会社法の特例:所在不明株主と認定される期間を5年から1年に短縮

上記の各事項は、いずれも都道府県知事の認定や所定の申請手続きを行うことなどが条件です。経営承継円滑化法と事業承継特別保証制度に直接的な関係はありません。ただし、どちらも、中小企業で事業承継が円滑に進むように定められた施策です。

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事業承継特別保証制度を利用する4つのメリット

事業承継特別保証制度には、以下の4つのメリットがあります。

  1. 事業承継時に活用できる
  2. 経営者保証のリスクを回避できる
  3. 経営者保証がある既存の借入金も借り換えられる
  4. 一定の要件のもと保証料率が軽減される

それぞれのメリットの内容を説明します。

1.事業承継時に活用できる

事業承継特別保証制度は、事業承継の活発化を促そうとする施策であり、事業承継時にのみ効力を発揮する制度です。中小企業庁金融課の資料「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」では、2025(令和7)年の中小企業経営者を約381万人、そのうちの127万人が後継者未定と推計しています。

この数字に、上述した中小企業基盤整備機構のアンケート結果(後継者不在企業の22.7%は後継者候補が事業承継を拒否、拒否理由の59.8%は経営者保証)を組み合わせると、事業承継特別保証制度ができたことで約17万2,400人の経営者は、後継者の目途が立つことになるのです。

参照元:中小企業庁金融課「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について

2.経営者保証のリスクを回避できる

事業承継特別保証制度により、経営者保証を負わずに済むのは大きなメリットといえます。日本では、中小企業経営者と会社は一体のものと考えがちです。当たり前のように行われてきた経営者保証も、その考え方の延長上にあるのかもしれません。

しかし、経営者保証をした場合、会社が返済できなくなったら経営者が返済義務を負います。多くの場合、経営者は個人資産を会社につぎ込んでおり、余剰な資金は残っていない場合もあるでしょう。そうなると、会社も経営者個人も破産申し立てをするしか道がなくなってしまいます。

将来、このような事態が起きかねない経営者保証は、経営者個人に与える精神的プレッシャーが大きく、思い切った経営を行う足かせとなるものです。したがって、事業承継特別保証制度により経営者保証をしなくてすめば、経営にも好影響を及ぼすでしょう。

3.経営者保証がある既存の借入金も借り換えられる

事業承継特別保証制度では、新規の融資のときだけではなく、経営者保証がついているプロパー融資の借り換えも対象とできます。プロパー融資とは、信用保証協会を通さず金融機関が直接、審査を行って判断をする融資のことです。借り換え時に審査が通れば、経営者保証を外せます。

ただし、この場合、一定の制限があるので注意が必要です。制限内容は、一定の期間内に事業承継を実施した法人の場合、事業承継実施前の借入金の借り換えであることです。

4.一定の要件のもと保証料率が軽減される

事業承継特別保証制度は、各種要件を満たし所定の手続きを経て信用保証協会で認められることによって、経営者保証なしで融資が得られる制度です。したがって、信用保証協会に対し保証料の支払いが発生します。事業承継特別保証制度では、通常、信用保証協会の保証料率は融資額の0.45%〜1.90%です。

この保証料率を0.20%〜1.15%に下げられる制度もあります。中小企業活性化協議会や事業承継・引継ぎセンターなどの専門家の確認を得ることが、その条件です。従来は、事業承継・引継ぎセンターに配置された経営者保証コーディネーターが確認・支援業務をしていましたが、2023(令和5)年3月末で経営者保証コーディネーターは廃止されました。

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事業承継特別保証制度を活用の際に注意すべきポイント

詳細は次章で述べますが、事業承継特別保証制度に申し込むには、複数の要件を満たす必要があります。要件を満たしていなければ、残念ながら事業承継特別保証制度への申し込みはできません。申し込みに際しては、指定された複数の資料を作成・用意しなければなりません。その中には専門家の確認を必要とする資料もあります。

申し込み後、信用保証協会と融資を受ける金融機関の審査を通過してはじめて経営者保証無しでの融資が決まる流れです。審査に通らなければ、事業承継特別保証制度の恩恵は受けられません。また、事業承継特別保証制度では、融資額の限度設定(2億8,000万円)があります。

限度額を超える融資を希望する場合は、事業承継特別保証制度の対象にはなりません。その場合、金融機関との個別交渉となります。融資を申し込む側の経営状況や金融機関側の事情などによって、経営者保証が求められる場面も少なからずあるでしょう。

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事業承継特別保証制度の申し込み要件一覧

事業承継特別保証制度に申し込むための要件は以下のとおりです。

  • 申し込み日から3年以内の事業承継を予定し事業承継計画を策定している法人
  • または2020年1月1日から2025年3月31日までに事業承継を実施し、それから3年以内の法人
  • 資産超過である
  • EBITDA有利子負債倍率が15倍以内
  • 法人と経営者個人の財務が分離されている
  • 返済緩和中ではない
  • 与信取引のある金融機関からの申し込みである
  • 指定の添付資料を用意する(詳細は後述)

なお、融資の利率は申し込んだ金融機関所定の利率になります。

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事業承継特別保証制度を利用するには?

ここでは、事業承継保障制度を利用するにあたって、準備に欠かせない情報を紹介します。

  • 事業承継特別保証制度の問い合わせ先
  • 事業承継特別保証制度の利用に必要な書類

手違いがないように内容を押さえておきましょう。

事業承継特別保証制度の問い合わせ先

事業承継特別保証制度の問い合わせ先は、融資を申し込もうとする金融機関、または信用保証協会です。金融機関は、すでに与信取引のあるところに限られます。

信用保証協会は全国に組織があります。都道府県ごとに本店があり、さらに支店がありますが、支店数は各都道府県で異なっています。信用保証協会の本店および各支店で担当エリアが異なりますので、以下のリンク先からご確認ください。

参考先:お近くの信用保証協会一覧

事業承継特別保証制度の利用に必要な書類

事業承継特別保証制度の申し込みにあたっては、以下の書類を用意する必要があります。

  • 信用保証協会所定の申込書
  • 事業承継計画書
  • 財務要件等確認書

また、場合によっては以下の書類も必要です。

  • 借換債務等確認書
  • 他行借換依頼書兼確認書
  • ガバナンス体制の整備に関するチェックシート

借換債務等確認書は、申込金融機関の借入金を借り換える場合に必要です。他行借換依頼書兼確認書は、申込金融機関以外からの借入金を借り換える場合に必要な書類になります。ガバナンス体制の整備に関するチェックシートは、専門家による確認を得て保証料率の割引を申し込む場合に必要です。

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事業継承時の経営者保証解除における2つの支援

ここでは、事業承継時に経営者保証解除を目指す経営者および後継者を支援する国の施策を紹介します。

  1. 経営者保証ガイドライン
  2. 専門家による支援

それぞれ、どのような支援内容なのかを確認しましょう。

1.経営者保証ガイドライン

経営者保証ガイドラインとは、国が金融機関に対し、できるだけ経営者保証無しで中小企業への融資を実施するよう求めた指針のことです。2014(平成26)年2月から導入されました。そして、事業承継特別保証制度とタイミングを合わせる形で、2020年4月から「事業承継時に焦点を当てた特則」が加えられています。

特則では、先代経営者と後継者の両方に経営者保証を求める二重徴求を原則禁止とし、どうしても二重徴求する場合には、先代経営者と後継者が十分納得できるまで説明する義務を課すなどの施策が盛り込まれました。

2.専門家による支援

事業承継特別保証制度の申し込み時に必要となる資料のうち、「事業承継計画書」は事業承継・引継ぎ支援センターが確認します。また、「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」は中小企業活性化協議会が確認業務の担当です。中小企業活性化協議会は、中小企業の収益力改善支援を通して経営者保証解除につながることを目指します。

経営者保証解除に向けた金融機関との交渉支援は、認定経営革新等支援機関による経営改善計画策定支援事業に含まれることになりました。認定経営革新等支援機関とは、中小企業に対して専門性の高い支援事業を行うことができる機関として中小企業庁が認定したものです。以下のリンク先から検索できます。

参考先:認定経営革新等支援機関検索システム

認定経営革新等支援機関に認定されているのは、主に士業事務所、金融機関、商工会、商工会議所、経営コンサルタントなどです。また、M&Aによる事業承継を検討する場合は、M&A仲介会社も相談先として有望でしょう。

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まとめ

事業承継特別保証制度は、事業承継前後において経営者保証無しで融資を受けられる制度です。既存の融資の借り換えにより、経営者保証の解除もできます。ただし、審査があるため、誰でも無条件で利用できるわけではありません。それでも、経営者保証を嫌って後継者になることを拒否されていた中小企業にとって、事業承継特別保証制度は大きな助けとなるでしょう。

また、後継者が見つからない場合の事業承継の手段としてM&Aがあります。昨今は、法人だけでなく、中小企業を事業承継して起業を目指す個人も現れており、M&Aの買い手の幅が広がってきました。M&Aによる事業承継を検討する場合は、M&A仲介会社などの専門家に相談するのが得策です。

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レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。専門的な知識・経験が豊富な各コンサルタントは、事業承継のためのM&Aにおいても、それぞれの会社様に適したアドバイス・サポートを提供できます。

料金体系は、M&Aのご成約時にのみ料金が発生する完全成功報酬型なので、M&Aのご成約まで費用は発生しません(買い手企業様のみ中間金が発生します)。
随時、無料相談をお受けしておりますので、M&Aによる事業承継などをご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。