M&Aにおける売却とは?流れや売却価格の計算方法、税金について解説

2023年8月22日

M&Aにおける売却とは?流れや売却価格の計算方法、税金について解説

このページのまとめ

  • M&Aにおける売却とは、会社や事業を第三者に譲渡すること
  • M&Aにおける売却には、売却益を得る、後継者問題を解消できるなどのメリットがある
  • M&Aでの売却価格を決めるには、DCF法を使うのが一般的
  • M&Aでの売却益にかかる税金は、スキームによって異なるので確認が必要
  • M&Aにおける売却の成功させるには、事前に企業価値を高めておくと良い

M&Aで企業や事業を売却しようと考えている経営者の方も多いでしょう。M&Aによる売却を行う際は、M&Aの目的を明確にし、スキームや候補先企業の選定を目的に合わせて合理的に行っていく必要があります。

本記事では、M&Aによる事業・会社の売却に関して詳しく解説しています。M&Aのメリット・デメリットや売却の具体的な流れ、売却価格の算出方法、成功するためのポイントも紹介しているので、参考にしてください。

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M&Aによる売却とは

M&Aにおける売却とは、会社や事業を第三者に譲り渡し、対価を得ることを指します。主なスキームとしては、株式譲渡と事業譲渡の2種類があります。

株式譲渡による売却

株式譲渡とは、経営権のある株主が過半数以上の株式を第三者に売却して、経営権を移行させる手法です。株主が変わるだけで、その他の権利や義務などに変化が生じないのが特徴です。また、引き継ぐ資産は包括的に承継されるため、株式や資産はもちろん、債券や債務なども継承の対象になります。

事業譲渡による売却

事業譲渡とは、譲受企業が持つ事業の一部もしくはすべてを売却して、その対価として譲渡先から現金を受けとるスキームです。引き継ぎたい資産・負債・契約などを細かく指定できるのが特徴です。

合併と売却の違い

M&Aでは合併という手法をとることもありますが、これは売却とは異なる点があります。
合併とは、2つ以上の会社が統合して1つの法人格となるM&A手法で、合併された会社の法人格は消滅します。売却では、経営権や所有権が移るだけなので、譲渡企業の法人格はそのまま残ります。法人格の消滅が起こるか起こらないかが、合併と売却の大きな違いとなります。

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M&Aによる売却の5つのメリット

次に、売却することにはどんなメリットがあるのかについて確認していきましょう。

M&Aによる売却の主なメリットは以下の5つになります。

  • 売却益を得ることができる
  • 後継者問題を解消できる
  • 従業員の雇用を守れる
  • ノウハウを引き継げる
  • 経営リソースを調整できる

それぞれ解説します。

売却益を得ることができる

株式や事業を売却することで、まとまった利益を得ることができるのがメリットです。M&Aでは、将来的に得られる利益を考慮して売却額を算定するため、評価によっては想定よりも大きな金額を得ることも見込めます。

また、会社や事業を運営していても利益が思うように上がらない可能性はあるため、利益が下がる前に売却してリスクヘッジすることも可能です。M&Aで売却して一定の資金を得ることによって、新たな事業に投資したり、老後の資金として活用したりすることができます。

後継者問題を解消できる

経営者の高齢化などで後継者を探している場合、M&Aを行うことで後継者を獲得することができます。後継者不足による廃業を回避できるため、事業を継続させてほしい場合は大きなメリットとなります。

従業員の雇用を守れる

事業・会社が廃業してしまうと、そこで働く従業員の雇用が失われることになりますが、売却が成功すれば、雇用を継続することができます。売却をすることで、経営者として社員に対する責任を全うできることも大きなメリットです。

ノウハウを引き継げる

M&Aで事業・会社を売却すれば、今まで培ってきたノウハウを承継することが可能です。会社が廃業してしまうと、せっかくのノウハウもどこへも引き継がれずに途絶えてしまいます。また、自社のノウハウが唯一無二の技術だった場合、譲渡先の運用次第でさらなる価値が生まれる可能性も高いでしょう。

経営リソースを調整できる

会社で複数事業を経営している場合、業績や経営状況によっては事業の取捨選択が必要になります。

赤字が続いている事業や安定した収益を上げられない事業を売却することで、採算性のある事業へリソースを集中させられるメリットがあります。

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M&Aによる売却の3つのデメリット

M&Aによる会社・事業の売却はメリットもありますが、いくつか気を付けたい点もあります。主なデメリットは、下記の3つです。

  • 顧客や取引先からの信頼を失う可能性がある
  • 社内が混乱する可能性がある
  • 経営者の今後の行動が制限されるリスクがある

それぞれ解説します。

顧客や取引先からの信頼を失う可能性がある

譲渡先企業の戦略によっては経営方針が変わる場合もあるので、新しく定められた経営方針によっては今まで信頼して取引してくれた顧客や取引先が離れてしまうケースが考えられます。

M&Aを実施する際には、M&Aの目的や理由、リスクについて取引先などのステークホルダーにしっかり説明する機会を設けるようにしましょう。説明を行うことで、取引先や顧客の離反を防ぐことができます。

社内が混乱する可能性がある

譲受会社と譲渡会社では、今まで築いてきた歴史や方針が大きく異なるケースもあり、企業文化の違いによって会社内でトラブルが起きる場合があります。特に会社の運営方針や労働環境が変わると、社員に混乱が生じるかもしれません。

そうならないためにも、M&Aを実施する前に双方の経営者同士で十分に話し合い、自社の企業文化をお互いにしっかり伝えることが重要です。懸念点がある場合はあらかじめ対策を考えておくのが良いでしょう。

経営者の今後の行動が制限されるリスクがある

M&Aで会社を売却すると、競業避止義務などの観点から、新しく事業を起こす場合に制限がかかることがあります。また、経営者本人としては退任するつもりであっても、先方の要望で新会社に残ることになる場合もあります。

これらは全て売却時の譲渡契約書などで規定されるため、交渉の段階から双方が納得できるように、合意点を作っておく必要があるでしょう。

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M&Aによる売却の流れ

ここからは、M&Aにおける売却の流れを説明していきます。

売却のスキームには、株式譲渡と事業譲渡の2つがありますが、前半部分でやることは概ね共通しています。そのため、まずは共通して実施する流れを解説し、違いがある部分を後半で解説します。

株式譲渡・事業譲渡で共通の流れ

M&Aによる売却の流れについて、前半部分を以下の5つに分けて解説します。

  1. 戦略策定や現状把握
  2. 譲渡先企業の選定
  3. NNやIMの送付
  4. 交渉と基本合意書の契約
  5. 譲受側によるデューデリジェンス

詳しくみていきましょう。

1.戦略策定や現状把握

M&Aに向けて、戦略策定および現状把握を行います。
金融機関やM&A仲介会社、FAなどの専門家にサポートを依頼すると、より正確な戦略策定・分析ができるのでおすすめです。

まずはM&Aを進めるにあたって戦略を策定しましょう。「なぜM&Aをするのか」「どのように進めるのか」などを明確にすることで方向性が定まり、どのようなスケジュール・流れでM&Aを進めていけば良いのかが見えてきます。

戦略を策定すると同時に、自社の現状把握も大切です。社内だけでなく社外の環境も正確に把握して、少しでも会社の価値が上がるように心がけましょう。また、収益や成長面から、すべての事業を売却するのかもしくは一部の事業を売却するのか、さらには価格なども併せて検討します。

M&Aで用いるスキームについても、株式譲渡を行うのか事業譲渡を行うのか、このタイミングで検討し始めましょう。

2.譲渡先企業の選定

戦略策定ができたら、譲渡先(買い手)企業を絞っていきます。譲渡先の選定によく使われるのが、ロングリスト・ショートリストとよばれる譲受企業の候補が複数掲載されたリストです。譲受企業を数十社リストアップしてロングリストを作り、その中で条件に当てはまる企業を絞ってショートリストを作成するのが一般的な流れです。

3.NNやIMの送付

M&Aの売却候補が決まったらNN(ノンネームシート)を作成し、金融機関やM&A仲介業者を介して、候補企業に提出しましょう。NN(ノンネームシート)とは、会社が特定されるような情報は記載せず、事業内容や売上規模などの概要を、企業名を伏せてまとめたものです。
売却先の候補企業は、まずはこのNNを見て、買収を行うかどうかを判断します。

候補先企業が買収の意向を示した場合は、秘密保持契約を結び、IM(インフォメーション・メモランダム)を相手に送付します。IM(インフォメーション・メモランダム)は、会社の沿革や事業内容、過去の財務諸表、事業計画などを詳細に記載したものです。
候補先企業はこのIMを参考にし、トップ面談や社内での検討を重ねて、M&Aの実施可否について熟考します。

4.交渉と基本合意書の契約

IMの提出・確認が終わり、候補企業から買収を進める意向が示されたら、基本合意書の契約に向けて交渉を進めていきましょう。

候補先企業が複数ある場合や、正式に意向を示した資料が欲しい場合は、候補企業から意向表明書を提出してもらうこともあります。意向表明書には、候補先企業の会社概要・買収の目的・金額・資金調達方法などが記載され、交渉時の参考資料にすることができます。

交渉により売却条件がまとまったら、候補企業と基本合意書を交わします。基本合意書とは、売却価格や売却の条件などの基本事項について、売り手と買い手が双方合意した段階で締結される書類です。事業譲渡の場合はこの段階で、譲渡する資産や負債についても合意を得ることになります。

また、独占交渉権の付与について盛り込まれるケースが多く、この基本合意書の締結によって売却先の候補企業が本格的に決定し、次のステップへと進むことができます。

5.譲受側によるデューデリジェンス

基本合意書を締結したら、譲受側企業が譲渡側企業に対してデューデリジェンス(買収監査、DD)を行います。デューデリジェンスとは、主に譲渡先企業の価格決定や経営統合プランの策定をするために行う会社の実態調査のことです。財務面や法務面、人事面、ITシステム面など、あらゆる観点で調査を実施して課題・リスクを洗い出します。

デューデリジェンスは譲渡先にとっては重要な手順です。ここで発見された会社の課題やリスクは、今後反映される譲渡契約書に反映されます。また、デューデリジェンスの結果をもとに、売却価格の交渉も行われていきます。
なお、デューデリジェンスの過程で大きなリスクが発覚した場合、M&Aが破談になってしまうこともあります。

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株式譲渡による売却の流れ

デューデリジェンス後の売却の流れは、株式譲渡の場合と事業譲渡の場合で違いがあるため、分けて解説します。

株式譲渡による売却の流れは、以下の3つです。

  1. 株式譲渡契約書の作成
  2. 取締役会・株主総会を開催する
  3. 株式譲渡契約を締結する
  4. 株主名簿を書き換える

それぞれ順番に解説します。

1.株式譲渡契約書の作成

デューデリジェンスを終えたら、株式譲渡契約書を作成します。
株式譲渡契約書に記載される内容は、譲渡する株式の種類や数、株式譲渡の対価、譲渡実行日などの基本事項のほか、内容が正しいことを示す表明保証や、違反した場合の損害賠償についても記載されます。

2.取締役会・株主総会を開催する

株式を公開していない企業の場合は、定款で株式譲渡の制限が設けられていることがほとんどです。その場合は、取締役会もしくは株主総会を行って、譲渡承認決議を行う必要があります。この際、議事録を作成し、譲渡企業へ提出する資料とします。

なお、株式譲渡に制限がない場合でも、譲渡する際は取締役会などでの承認手続きは必要になります。

3.株式譲渡契約を締結する

取締役会あるいは株主総会で承認を得ることができたら、譲渡企業と株式譲渡契約書の締結を行います。
株式譲渡契約書は最終契約書にあたるので、内容を入念に確認したうえで締結に進んでください。

4.株主名簿を書き換える

株式譲渡契約が締結されたら、実行日に株式の譲渡と対価の支払いが行われ、株式が譲渡されます。株式が無事譲渡されたら、最後に株主名義の名義書き換え手続きを行います。

株主名簿の名義の書き換えにあたっては、譲渡会社と共同して株式名義書換請求書を作成します。それをもって株主名簿の名義書き換えを行い、すべての手続きが完了します。

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事業譲渡による売却の流れ

ここからは、デューデリジェンス移行の事業譲渡による売却の流れを、以下の5つに分けて解説します。

  1. 事業譲渡契約書の作成
  2. 株主総会での特別決議
  3. 反対株主への買取請求手続き
  4. 事業譲渡契約の締結
  5. 財産などの名義変更と許認可・契約の引き継ぎの手続き

1.事業譲渡契約書の作成

デューデリジェンスが完了したら、事業譲渡契約書の作成に移ります。記載する内容については法律で決められている事項はありませんが、譲渡内容・譲渡日・譲渡対価などの具体的な条件を記載することが一般的です。

事業譲渡契約の作成にあたっては、譲渡する資産を個別に選択して決めていくため、契約書にはこれらの内容を細かく記載することになります。

2.株主総会での特別決議

事業譲渡契約を締結するには、株主総会による特別決議が必要になります。決議した内容を株主総会議事録としてまとめ、譲渡企業へ渡す資料とします。議事録には、開催日時や場所、参加者の役職・氏名、譲渡内容、譲渡先企業についてなどが記載されます。

ただし、例外的に株主総会が不要なケースもあります。特別決議が不要となる条件は、譲受する側の企業が譲渡側の会社の株式を9割以上保有していることに加えて、事業譲渡の対象資産が純資産の5分の1未満である場合です。

3.反対株主への買取請求手続き

事業譲渡に反対する株主がいる場合、反対株主に対して株の買い取りを行います。買い取りは、反対株主が会社に対して公正価格での買取を請求することで進めていきます。

買取請求権の行使の流れは、以下のとおりです。

  1. 事業譲渡の効力が発生する日の20日前までに、発行会社が株主に対して買取請求権の通知を行う
  2. 反対株主が、株主総会前に書留などによって反対通知を送付する
  3. 反対株主が、株式総会で反対に票を投じる
  4. その後、反対株主が会社に対して買取を請求する

4.事業譲渡契約の締結

株主総会が終わったら、譲渡企業と事業譲渡契約を結びます。そして、事業譲渡契約に記載された譲渡日に、資産を譲渡し対価の支払いを受けます。資産によっては譲渡日と契約書の記載の日付がズレる可能性があるため、その際はこのタイミングで調整することになります。

5.財産などの名義変更と許認可・契約の引き継ぎの手続き

資産を譲渡したら、財産や許認可の名義変更手続きに入ります。また、同時に譲受側の役員・従業員の待遇・雇用の引継ぎも行います。

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M&Aにおける売却価格の決め方

会社や事業の売却価格は、将来生み出す利益や現在の資産価値など、さまざまな指標から算出することができます。売却価格の算出方法は、大きくわけて以下の3つがあります。

  • インカムアプローチ
  • マーケットアプローチ
  • コストアプローチ

それぞれについて解説していきます。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、企業や事業が将来生み出すキャッシュフローを算出し、割引率を用いて売却価格を計算するものです。インカムアプローチでよく使われる手法は、下記の2種類です。

  • DCF法
  • 収益還元法

それぞれ解説します。

DCF法

DCF(Discounted Cash Flow)法は、事業計画から将来のキャッシュフローを算出し、割引率をかけて売却価格を算出するもので、売却価格を決める手法の中でスタンダードなものとされています。

キャッシュフローとは、事業におけるお金の動きのことです。つまり、将来の収益や損益を予想して、どの程度利益を上げることができるかをまずは算出していきます。将来のキャッシュフローは、事業戦略や作成された予算をもとに3〜5年分ほど算出し、以降は年度ごとに1%ずつ成長するなどと仮定して、大枠を計算していきます。

続いて、算出した年度ごとのキャッシュフローに、割引率をかけていきます。割引率をかける理由は、将来受け取る利益は、現在の価値とは異なると考えられているためです。たとえば、100万円が手元にあった場合、3%の利益率で運用したとすると、1年後には103万円になります。これはつまり、「現在の視点から見た場合、将来の103万円は現在の100万円の価値と同じである」と考えることができます。そのように考えると、将来受け取る利益は年を経るごとに価値が下がっていくため、年度ごとに割引率を用いてキャッシュフローの調整を行うのです。

割引率は、負債の返済利率と株式による利回りに対して加重平均を取ることで計算します。計算式は以下のとおりです。

割引率=株式資本額×{株式資本額÷(株式資本額+負債額)}+負債額×{負債額÷(株式資本額+負債額)}

この計算で得られた割引率を用いて、将来のキャッシュフローを現在価値に置き換えた金額を計算します。現在価値の計算方法は、下記のとおりです。

現在価値=年度ごとのキャッシュフロー÷(1+割引率)^n
(nには、現在からの年数を代入する)

この計算によって現在価値に置き換えた年度ごとのキャッシュフローを割り出し、すべて合計した値が、DCF法による売却価格となります。

DCF法のメリットは、事業計画を価格に反映しやすい点や、客観的で恣意性のない売却価格を割り出せる点にあります。デメリットとしては、事業計画をもとにするため、事業計画そのものの信頼性が必要なことです。事業計画の精度が低いと、DCF法で算出した売却価格の信頼性も損なわれます。

収益還元法

収益還元法も、DCF法と同じく将来生み出される収益を算出し、現在価値に割り戻して売却価格を算出する手法です。

収益還元法では、将来の収益は過去の平均収益をもとに、毎年平均収益の額が収益として上がることを前提に計算します。また、割引率には資本還元率を使用します。資本還元率とは、市場金利の利回りに、危険率を加味して算出される指標です。危険率は、評価対象企業の規模や業種、市場環境などによって判断されます。

収益還元法のメリットは、DCF法よりも計算方法が簡単であることが挙げられますが、その分精度が低くなることがデメリットになります。

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マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、市場で確認できる他社の企業価値を基準として、売却価格を算出する手法です。代表的なものは、下記の3種類があります。

  • 市場株価法
  • 類似会社比較法(マルチプル法)
  • 類似取引比較法

それぞれ解説します。

市場株価法

市場株価法は、過去1ヶ月や6ヶ月などの期間で区切った市場の平均株価を算出し、自社株の数をかけて売却価格を割り出す方法です。

市場株価法のメリットは、市場の株価をもとにするため、株価算出の客観性が高いことにあります。
デメリットは、この手法が適用できるのは、上場企業に限られることです。また、株価の乱高下など異常値が見られる場合は、その点を考慮する必要があります。

類似会社比較法

類似企業比較法はマルチプル法とも呼ばれ、類似企業の経営指標から倍率を割り出し、自社の財務指標に乗じることで売却価格を導き出す手法です。

類似企業比較法による計算方法は以下のとおりです。

  1. 類似する上場会社の時価総額に対し、税引き後利益などの財務数値で割り、倍率を求める
  2. 得られた倍率を、自社の純利益に乗じることで、売却価格を算出する

上記の計算は企業の売却価格を算出するものですが、事業の売却価格を算出する場合は、時価総額の部分を事業価値に置き換えることで算出できます。また、倍率を求める際の財務数値は、利益に限らず、簿価純資産・EBIT(利払前・税引前利益)などでも代用可能です。

類似取引比較法

類似取引比較法では、過去の類似企業のM&Aにおける取引金額をもとに、売却価格を算出する手法です。類似会社比較法と同じく、取引金額をいずれかの財務指標で割ることで倍率を求め、対応する自社の財務指標に倍率を乗じることで、売却価格を求めることができます。

類似会社比較法や類似取引比較法のメリットは、公開されている上場企業の指標や事例などをもとにするため、手軽に行える点にあります。デメリットは、類似する上場企業や事例が見つからない場合、この手法が取れないことです。

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コストアプローチ

コストアプローチとは、対象企業の純資産や負債をもとに、売却価格を算出する手法です。代表的なコストアプローチの手法には、以下の2種類があります。

  • 簿価純資産法
  • 時価純資産法

それぞれ解説します。

簿価純資産法

簿価純資産法とは、帳簿上の資産の合計をそのまま売却価格としてみなす方法です。ですが、簿価の金額は時価の金額とかけ離れることが多いため、この方式でそのまま売却価格を割り出すことは、あまりありません。

時価純資産法

代わりによく用いられるのが、時価純資産法です。時価純資産法は、保有している資産を時価に置き換え、負債額を控除した額を売却価格とする方法です。

時価純資産法のメリットは、簿価純資産法よりも実態に近い価格が出せることと、資産を時価に置き換えるだけなので簡単に計算できることにあります。デメリットは、将来の収益を売却価格に反映できないという点が挙げられます。

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M&Aの売却にかかる税金

M&Aの売却にかかる税金は、選択したスキームによって異なります。

ここでは、M&Aの売却にかかる税金を株式譲渡と事業譲渡に分けて紹介します。株式譲渡と事業譲渡、さらに株式譲渡では個人と法人でも税率や計算方法が異なるので、チェックしておきましょう。

株式譲渡にかかる税金

株式譲渡とは会社で保有する株式を売却する手法です。株式譲渡による税金は、譲渡益にかかるので、基本的に売却する側にのみ発生します。
株式譲渡は個人か法人かによって課税制度が異なりますので、詳しく解説していきます。

個人

株式譲渡において個人の場合にかかる税金は、所得税・復興特別所得税・住民税です。
株式の譲渡益(譲渡所得)に対して、20.315%の税金が課されます。課税対象となる譲渡益は、株式譲渡価格から、株式を取得した際の必要経費(取得費)を引いて計算します。

税金の内訳は、所得税が15%、住民税が5%、それらに加えて2013年から2037年までの期間に限定され徴収される復興特別所得税として、所得税に対して2.1%を乗じた金額がプラスされます。これらの税率を合計すると、20.315%の税金が課されることになることを覚えておきましょう。

法人

株式譲渡において法人が納める税金は、法人税です。
法人が株式を譲渡した場合、法人全体の所得と合算し、所得に対して約30%の法人税が課税されます。法人税は、法人の規模・法人所得によって税率が変動するので確認しておきましょう。

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事業譲渡にかかる税金

事業譲渡の場合、売り手にかかる税金は法人税と消費税です。売主は会社になるため、会社に対して法人税・消費税が課せられます。

法人税

事業譲渡にかかる法人税は、事業譲渡売却益を計算してほかの所得と合わせて計算されます。この譲渡益と本業の利益を合算した利益に対して、約30%の法人税が課されることになります。

消費税

消費税の場合は、譲受側の負担になりますが、納付するのは譲渡側です。消費税は土地以外の有形固定資産や在庫などに課されることになります。

また、土地や有価証券、債権などは非課税資産になるため、消費税を払う必要はありません。

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M&Aによる売却を成功させる2つのポイント

M&Aによる売却を成功させるためのポイントは、以下の2つです。

  • 企業価値を高める
  • 自社を高く評価してくれる譲渡先を探す

詳しく見ていきましょう。

企業価値を高める

M&Aで事業・会社を高く売却するためには、企業価値を高める必要があります。企業価値を高める方法は、以下の3つです。

  • 利益率を上げる
  • 財務を改善させる
  • 無形資産を使った成長戦略を策定する

それぞれ解説します。

利益率を上げる

利益率を上げることができれば、収益を稼ぐ体制が整っている証拠になるので、企業価値が上がります。また、売上自体を高めずとも、必要経費を減らすことで利益率を上げることができます。無駄なコストがないか見直すことも大切です。

財務を改善させる

負債比率を減らすことで財務の安全性をアピールでき、売却価格の向上につながるでしょう。負債比率を改善させ、財務の改善を行うことでも企業価値を高めることができます。負債比率とは、自己資本に対する、銀行からの借入金などの他人資本の割合のことです。

負債比率は、300%以下であれば健全とみなされることが多いようです。300%以上になると、財務の健全性が疑問視され、売却価格の減額につながるおそれがあります。

また、負債比率は業種によって適正とされる値が異なるので、注意してください。中小企業実態基本調査報告書によると、資本を借入することが多い宿泊業や飲食サービス業では、平均500%程度になることが多く、情報通信業では負債比率は平均70〜80%に留まっています。

自社の産業の負債比率の相場と見比べて、負債比率が高いようであれば、比率を減らすことができないか検討することをおすすめします。

参照元:中小企業庁「中小企業実態基本調査報告書(p38)

無形資産を使った成長戦略を策定する

自社ならではの無形資産を把握・活用することで、企業価値を高めることができます。無形資産とは、「目に見えない資産」のことです。会社が持つ特許やブランド、ノウハウ、データベース、従業員のスキルやエンゲージメントなどがそれにあたります。

無形資産を利用した成長戦略を描くことができれば候補企業へのアピールにもなるため、今一度自社の強みを生かした戦略がとれないか、見直すことが大切です。

自社を高く評価してくれる譲渡先(買い手)を探す

M&Aにおいては相手企業との相性も大切です。自社の事業とシナジー効果を生むことができそうな企業を探しましょう。相手に良いM&Aだと思ってもらうことができれば、高い評価に結びつきます。

M&Aにおけるシナジー効果とは、2つ以上の会社が組み合わさったとき、単純に足し算したときよりも大きな成果を上げられる状態を指します。たとえば、自社が開発している商品を販売するにあたり、相手企業の流通網を利用して販売先を広げられるケースや、自社が抱える顧客が相手先の商品の販売ターゲットだったりするケースなどにおいて、シナジー効果が生まれます。

候補先の事業をくまなくチェックして、どのようなシナジーが生まれるかを見定めることが大切です。

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まとめ

M&Aにおける売却とは、企業や事業を第三者に譲渡し、対価を得ることを指します。まとまった資金を得られたり、後継者を見つけられたりするメリットがありますが、慎重に進めなければ取引先や従業員からの信頼を損ねる可能性があります。売却を行う際は、まずは売却の目的や戦略を定めることから始めるのが大切です。

売却価格を求めるにはさまざまな手法があり、なかでもインカムアプローチにおけるDCF方が利用されることが多いです。売却価格を上げるには、自社の企業価値を高める方法が有効ですが、売却益が高くなるにつれ、売却益に対する税金も高くなっていくので、注意してください。M&Aで売却を行うには、このような幅広い知識が必要になるため、実施する際はM&Aの専門家に相談して行うことがおすすめです。

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