財務デューデリジェンスとは?目的や調査・分析のポイントを詳しく解説

2023年8月22日

財務デューデリジェンスとは?目的や調査・分析のポイントを詳しく解説

このページのまとめ

  • 財務デューデリジェンスは、M&Aに向けて売り手企業の財務状態を調査すること
  • 財務デューデリジェンスは、価格交渉や財務リスクの把握などを目的に行う
  • 財務デューデリジェンスでチェックする対象は、売上高やコスト、債務など
  • 財務デューデリジェンスは専門的な知識が必要なため、会計士などの専門家に依頼する
  • 財務デューデリジェンスを実施する際には、情報漏洩に特に注意する

M&A実施にあたって、財務デューデリジェンスの進め方について知りたいと考えている経営者の方も多いのではないでしょうか。財務デューデリジェンスは、価格交渉や将来の財務リスクを把握するために行う重要な行程です。
本記事では財務デューデリジェンスの概要や目的について詳しく解説するほか、チェックすべきポイントや具体的な流れ、注意点なども紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

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財務デューデリジェンスとは

財務デューデリジェンスとは、主にM&Aの意思決定のために、クライアントの財務・会計状況を調査することです。財務デューデリジェンスは「財務DD」と略して呼ばれることもあります。

M&Aを実施する際は、両社の間で秘密保持契約(NDA)を締結し、売り手は会社の詳細情報を開示しなければいけません。買い手は開示された資料を元に財務状況を確認して、企業価値やリスクを判断してM&Aの実行可否や買取価格を決めます。

ただし、売り手が開示する情報がすべて正しいとは限りません。渡された情報に信ぴょう性はあるのか、開示された資料を元に意思決定をして問題ないか、専門家に依頼して調査してもらいます。このときに財務面を調査することが、財務デューデリジェンスにあたります。

関連記事:デューデリジェンス(DD)とは?意味や実施の流れをわかりやすく解説

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財務デューデリジェンスの目的

財務デューデリジェンスの目的は主に以下の5つです。

  • M&Aの買取価格の交渉
  • 財務リスクの分析
  • ステークホルダーへの説明
  • 事業計画の策定
  • M&A後の経営統合計画の策定

それぞれ詳しく解説します。

M&Aの買取価格の交渉

財務デューデリジェンスの目的は、M&Aにおける適正な買取価格の交渉です。売り手企業の財政状況を綿密に調べ、もし瑕疵が見つかればその点を織り込んで買取価格を減額します。

たとえば、財務デューデリジェンスによって簿外債務が見つかった場合、このまま買収すると買収後に支払いが生じる可能性があるため、買取価格を減額し交渉することになるでしょう。そのほかにもリスクがないかを調べ、適切な買取価格にするための交渉材料にすることができます。

財務リスクの分析

財務デューデリジェンスは、売り手企業における財務上のリスク要因を把握する狙いがあります。売り手が開示する資料からは、あくまで帳簿上の数値しか分かりません。たとえば、帳簿外の負債など、詳細な財務状況は資料から判断できないので、意思決定の判断要素としては不十分です。

ほかにも、取引先との取引状況や取引先の財務状況なども調べ上げ、将来的に財務に影響すると考えられるすべての要素を洗い出していきます。たとえば、売上のほとんどが特定の取引先に偏っている場合、もし取引停止となった際には売上が急激に悪化してしまうため、大きなリスクとなります。

財務デューデリジェンスを実行することで、買収後に考えられる財務へのリスクを明らかにし、買収するかどうかの意思決定に利用します。

ステークホルダーへの説明

財務デューデリジェンスの結果は、M&Aを実施する際のステークホルダーへの説明にも使われます。ステークホルダーとは利害関係者を指し、株主や従業員、取引先、関係のある金融機関などが含まれます。

M&Aを実施して大丈夫なのかどうかはステークホルダーにとっても重要な問題であるため、財務デューデリジェンスをはじめとする詳細な企業分析結果をもって説明し、ステークホルダーに納得してもらう必要があります。

ステークホルダーとの責任を果たすためにも、財務デューデリジェンスの実施は必要不可欠です。

事業計画の策定

財務デューデリジェンスによって財務リスクを調べたあとは、事業計画を策定していくことになります。財務デューデリジェンスでは対象事業の外部環境や今後のトレンド予測を詳細に把握することができるため、事業戦略や必要な予算を策定し、実現性の高い事業計画を策定することができます。

ただし、実際に戦略を立てるうえでは、売り手企業のリソースやノウハウだけでなく買い手企業とのシナジーも考慮する必要があります。そのため公認会計士などの専門家の判断だけでなく、買い手企業の中で戦略を練っていく方が確実性が高まるでしょう。

M&A後の経営統合計画の策定

財務デューデリジェンスを行うことで、経営統合にどのような作業を行う必要があるか、ということも分かります。

たとえば、経理体制や帳簿付けのルールなどは会社によって違うため、買い手側の企業のやり方に合わせる作業が必要になります。統合する範囲はほかにも、会計処理や在庫管理、原価計算、管理数値など多岐にわたるため、まず何から始めるか計画を策定して確実に進めていく必要があります。

このように、財務デューデリジェンスでは売り手企業の会計管理体制を明らかにして、経営統合後のプロセスを計画するためにも行われます。

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財務デューデリジェンスでチェックすべきポイント

財務デューデリジェンスでは、損益計算書や貸借対照表を精査し、売り手企業の正常収益力を導き出します。正常収益力とは、イレギュラーを考慮せず、正常に営業した場合の収益力のことです。

チェックすべきポイントは、以下の11個です。

  1. 売上高
  2. 売上原価・製造原価
  3. 販管費
  4. 営業外損益・特別損益
  5. 売掛金・受取手形
  6. 棚卸資産
  7. 有形固定資産
  8. 事業外資産
  9. 買掛金・支払手形
  10. 借入金
  11. 簿外債務

それぞれについて、解説していきます。

1.売上高

売上高については、事業・商品・取引先などに分けて、収益構造を分析します。そのうえで、月次推移を分析することで、季節性や月次の特徴を洗い出すことが重要です。

また、売上は市場環境や買収企業の営業力にも関わってくるため、売上の増減が発生している場合には、なぜそうなっているのか要因を分析する必要があります。

リベート(仕入れ代金の一部を払い戻すこと)や売り上げの計上時期、合わせて業界ならではの取引の有無なども確認しながら買い手の特徴を分析しましょう。

2.売上原価・製造原価

売上原価は主に材料費・外注費・人件費・設備費などから構成されます。

材料費や外注費は「単価×数量」で計算することができ、それぞれの要素を月次の推移で把握する必要があります。また、特定の会社による仕入れの集中がないかをチェックし、その会社から仕入れができなくなった場合の影響を把握することが大切です。

人件費は、役員報酬の金額や、正社員とパート社員の比率などを確かめます。その後、一人あたりの人件費やその変動などを分析し、適切な人件費割合となっているかを調査します。

設備費は、償却方法・耐用年数・修繕費の発生頻度・拠点別の投資額と売り上げのバランスなどを見て、水準は妥当かを判断します。

製造業を買収する場合は、製造原価を分析し、原価の変動が収益に与える影響を把握しておくことが重要です。工場の稼働状況も確認して、生産性を分析しましょう。

3.販管費

販管費とは「販売及び一般管理費」の略で、販売費と一般管理費に分かれます。販売費にあたるのは、営業にかかる人件費や交通費、販売促進費や広告宣伝費です。一般管理費にあたるのは、オフィスの賃料・光熱費、管理部門の給料など、販売には直接関係の無い経費となります。

これらの販管費は売上に応じて変わる変動費と、売上にかかわらず発生する固定費に分類して分析を行います。また、宣伝費は企業によって過剰に費用をかけている場合もあるので、削減の余地がないかも確認しましょう。

4.営業外損益・特別損益

営業外損益・特別損益は、本業に直接関係しない損益のことです。経常的に発生しているものは、営業外損益と呼び、臨時で発生しているものは特別損益と呼ばれます。これらが営業に関する損益に含まれていないか、また発生している要因をチェックしましょう。

雑収入や雑損失には、営業に関係する損益が含まれている場合があるので、特に注意が必要です。内容をしっかりと把握して、正常収益力に含めて良いか、もしくはどの程度含めるのかを分析します。

5.売掛金・受取手形

売掛金・受取手形とは、将来的に代金を受け取る権利を持つ売上債権のことです。たとえば、自社の商品を取引先に納入する際、代金をあとで支払ってもらう場合などに売掛金や受取手形が発生します。

売掛金・受取手形で調査するのは、本当に売掛金が発生しているのか(架空計上していないか)、回収ができない売掛金はないか、という点です。売掛金が発生した日付や、売上金を現金として受け取る回転期間などを調べ、リスクがないかを確認します。

6.棚卸資産

棚卸資産とは、仕入れた商品が社内に滞留している、いわゆる在庫を指します。棚卸資産の評価方法にはいくつか種類があるため、まずは棚卸資産の評価方法を確認し、評価方法の妥当性を確認します。

また、棚卸資産は販売可能性が重要であるため、資産として実在していても実際の販売価格が下がることになっていたり、過剰在庫として販売できない状態になっていたりする可能性に注意して調査しましょう。

7.有形固定資産

有形固定資産の減価償却額や過去の設備投資額などをもとに、減価償却や設備投資が適切に行われているかの把握も重要です。設備投資が適切に行われていない場合は、追加の設備投資が必要になることもあるので、事業計画に影響を及ぼします。

また、減価償却が正しく行われていない場合、特定の年度に費用が偏り正常収益力が実際よりも高く出る場合があるので、適切に行われているかの確認は非常に大切です。

8.事業外資産

事業外資産の存在も確認しましょう。事業外資産とは、事業に関係なく保有している現預金や遊休地、有価証券や出資金などを指します。

企業価値は、事業価値と事業外資産の価値を合計した額になりますが、事業外資産の額が大きい場合は、実際の企業価値よりも収益力が低くなる可能性があるため、注意しましょう。

9.買掛金・支払手形

買掛金・支払手形とは、先に商品を受け取り、代金をあとで支払う取引における債務のことです。計上漏れなどにより簿外債務となる可能性が高い項目なので、注意深くチェックすることが重要です。チェックする際は、買掛金の増減や回転期間の分析を行い、異常な取引がないかどうかを確認します。

買掛金・支払手形は運転資本に影響を及ぼし、資金繰りにまで影響があるので、月次推移も調査し、収益への影響を細かく分析することが大切です。

10.借入金

金融機関ごとに、借入金額・残高・返済方法・期限・利率などがどうなっているかを確認します。借入時の契約内容も確認し、財務制限条項が付与されていないかどうかも確認しましょう。財務制限条項とは、債務者の財政状況が決められた水準を下回った場合に、金融機関に対して即座に返済を行わなければならないことを定めた条項です。

借入金を、いつ・いくら支払う必要があるのかを把握し、リスクヘッジができるように対応しましょう。

11.簿外債務

簿外債務とは、開示された貸借対照表などの書類上だけでは把握できない情報を指します。想定外の債務を負わないためにも、確認が必須です。

簿外債務の具体例としては、未払いの残業代が挙げられます。中小企業では社員がサービス残業を行い、本来なら発生した残業代を支払っていないパターンもみられます。財務デューデリジェンスではこれが簿外債務として扱われます。また、企業が他社や個人の保証人となっている場合などでも、保証している金額を簿外債務として扱います。

そのほかにも、訴訟事件の有無や過去のクレームも、将来起こりうる偶発債務につながる可能性があるため、買取価格の調整要素となります。

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財務デューデリジェンスの流れ

財務デューデリジェンスの実務の流れは、大きく以下の6つに分けることができます。

  1. 財務デューデリジェンスを依頼する業者を決める
  2. 調査範囲を決める
  3. スケジュールを立てる
  4. 資料請求・調査を行う
  5. インタビューを行う
  6. 結果の報告とM&Aの可否の検討を行う

それぞれ詳しく解説していきます。

1.財務デューデリジェンスを依頼する業者を決める

まず初めに、財務デューデリジェンスを依頼する専門業者を決めましょう。財務デューデリジェンスは、公認会計士など専門知識のある業者や監査法人に依頼することが多いです。専門業者によって得意な業界や分野、大手向け・中小向けなど特徴が異なるので、売り手企業に合った依頼先を選択することが大切です。

また、一般的にM&Aでデューデリジェンスを行う場合、財務だけでなく法務や税務などを一緒に依頼することが多いです。それぞれ個別に依頼するとコストがかさむため、一括して対応してくれる業者に依頼するのがおすすめです。

2.調査範囲を決める

依頼する業者が決まったら、具体的な調査範囲(スコープ)を決定します。会社の規模や取引の目的によって調査範囲は異なります。すべての範囲を調査しようとすると時間もお金もかかるので、必要範囲に絞って調査するのが一般的です。

特に、中小企業は書類等が整理されていないこともあるので、すべての書類を整理することから始めると、時間をとられてしまう可能性もあります。そのため、事前に相談して調査範囲を明確にしてから、効率よく調査してもらいましょう。

3.スケジュールを立てる

財務デューデリジェンスには、調査のほかに相手企業へのインタビューや報告会などさまざまなステップがあるため、それらを実施するスケジュールを立てます。

財務デューデリジェンスは全体で1ヶ月程度かかるのが一般的です。財務デューデリジェンスを行ってから3週間目に中間報告をもらい、その後1週間かけて追加質問をインタビューにて行い、最終報告を実施する、という流れです。

売り手企業の規模感によってスケジュールは変わってくるため、依頼した専門家とすり合わせて、スケジュール感を把握するようにしましょう。

4.資料請求・調査を行う

決定した調査範囲に基づいて必要資料リストや質問リストを売り手企業に送付し、返送された資料をもとに調査に移ります。調査にあたっては、情報漏洩を防ぐための対策を万全にしましょう。データルームと呼ばれるデューデリジェンスの関連資料を集めた部屋を用意し、入室できる関係者を限定して行うことが一般的です。

5.インタビューを行う

調査の中間結果の内容によって、売り手企業に対してインタビューを実施することがあります。インタビューは、経営陣や財務を担当している部署のマネージャーなどが対象です。資料の中の不明点や、経営戦略との矛盾点などを質問し、詳細を確認する目的で行います。

6.結果の報告とM&Aの可否の検討を行う

調査がすべて終われば、担当者による結果報告会が開かれます。結果報告会では、財務デューデリジェンスによって分析された正常収益力や発見された問題点など、幅広く報告されます。

結果報告会の内容を参考に、M&Aの可否・買取価格・条件・PMI(買収後の経営統合作業)について再度検討します。

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財務デューデリジェンスの4つの注意点

財務デューデリジェンスの際の注意点は、主に以下の4つです。

  • 情報漏洩に配慮する
  • 中小企業は特に詳細に調査する
  • 業界特有の性質に注目する
  • 他の専門家と協力して行う

それぞれ詳しく見ていきましょう。

情報漏洩に配慮する

M&Aは秘匿性の高い情報を扱うことが多く、情報漏洩には特に注意が必要です。もし情報漏洩をしたことで、売り手企業に損害を与えてしまった場合には、売り手企業から損害賠償を請求される可能性もあります。

また、売り手企業の従業員がM&Aの実施を知った場合には、会社に対して不信感を抱いたり、モチベーションが低下したりすることがあります。最悪の場合には、離職に繋がってしまうこともあるでしょう。売り手企業の取引先についても同様に、M&A実施を知ることで離反につながってしまうことがあります。

情報漏洩の影響範囲は広く、どのようなリスクにつながるか未知数であるため、特に注意が必要です。

中小企業は特に詳細に調査する

中小企業は大企業と比べて、会計処理が厳格に行われていないことが多い傾向にあります。会計処理上のミスなどにより、相手から提供された情報が間違っていることも十分あり得るでしょう。そのほか、法人税を抑えるために、恣意的に経費計上を行っている可能性も少なからず存在します。

細部まで調査し、疑問点があれば論点を明確にしてインタビューに臨むようにしましょう。

業界特有の性質に注目する

売り手企業の業界や事業内容などによって、財務デューデリジェンスの範囲が多少異なることにも注意しましょう。

たとえば、工事関連の会社には「工事進行基準」と呼ばれる、工事終了までの期間で発生した売上・経費を分散して計上する会計処理があり、これは一般的な売上計上とは異なります。

また、取り扱う商材や保有している資産の形式によって、注目すべき財務諸表上の項目が異なるケースもあります。

業界特有の会計処理方法や計上科目などを、事前に把握するようにしておきましょう。

他の専門家と協力して行う

デューデリジェンスは、財務だけでなく税務や法務と同時に行われることが多いです。そのため、問題が発生したり、影響を及ぼしそうな問題が見つかった際は、必要に応じて財務以外の専門家とも連携しながら調査を進めていくことが大切です。

財務領域で検出された問題が、他領域に大きな影響を及ぼす場合があるので、小さなことでも報連相をするように心がけましょう。

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まとめ

財務デューデリジェンスとは、買取先の企業の財務状況を調査することです。財務デューデリジェンスは、M&Aの買取価格の交渉やM&A後の経営統合作業の策定などを目的に行われます。機密情報を扱うため、情報漏洩をしないことに注意を払う必要があるでしょう。財務デューデリジェンスでは売上高やコスト、債務などを詳細に調べる必要があるため、公認会計士などの専門家に依頼することがほとんどです。もしまだM&Aの検討をしている段階であれば、財務デューデリジェンスだけでなく、M&Aを総合的にサポートする仲介業者に依頼することもおすすめです。

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