子会社売却とは?メリットやデメリット、事例などについて解説

2024年3月29日

子会社売却とは?メリットやデメリット、事例などについて解説

このページのまとめ

  • 子会社売却とは、親会社が所有している子会社を第三者に売却すること
  • 子会社売却のメリットは、親会社が本業にリソースを集中できること、売却益を獲得できることなど
  • 子会社売却のデメリットは、人材・ノウハウの流出やブランド力の低下など
  • 子会社の売却益の仕訳には、「子会社株式売却損益」を使用する
  • 子会社の売却時には、株式の低額譲渡や競業避止義務、評価損の計上などに注意する

子会社の売却を行うにあたって、どのように進めるべきか悩んでいる経営者もいるでしょう。子会社を売却する場合、一般的には株式譲渡が用いられることが多いです。しかし、子会社を売却する場合は通常の株式譲渡と異なる点がいくつかあるため、注意する必要があります。

本コラムでは、子会社売却の概要、メリット・デメリット、流れなどを中心に説明します。子会社売却の全体像を理解したい場合は、ぜひこの記事を参考にしてください。

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子会社売却とは 

子会社売却とは、親会社が所有している子会社を、第三者に売却することを指します。主に、業績不振の子会社を手放す場合や親会社の経営再建をする場合に用いられることが多いです。
なお、子会社の売却では、親会社側の株主総会にて特別決議を要する場合があるので注意しましょう。

子会社とは

子会社とは、特定の会社に議決権(株式)の過半数を取得され、支配されている会社のことをいいます。この子会社は、議決権の取得割合や財務諸表との連結の有無で大きく以下の3種類に分類できます。

  • 完全子会社:親会社に議決権を100%取得されている子会社
  • 連結子会社:親会社に議決権を50%超取得されている子会社
  • 非連結子会社:親会社に議決権を50%超取得されているが、財務諸表は連結されていない子会社

なお、議決権の20%以上50%未満を取得されている会社は、一般的に「関連会社」と呼ばれます。完全に支配はされていないものの、一定の経営権を取得されているため親会社の影響力は強いです。

子会社売却を行う目的・理由

売り手企業が子会社売却を行う目的・理由には、以下のようなものが挙げられます。

  • 業績不振の子会社を手放すため
  • 子会社を手放し、親会社の経営再建を実現するため

このように、子会社売却を行う目的・理由には、親会社側または子会社側の事情が主に関係します。子会社の業績不振が続くようなら、親会社は主力事業などにリソースを集中させようと考えます。また、親会社の業績不振が生じたら、経営再建のために子会社を手放すことが検討されるでしょう。

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子会社売却のメリット・デメリット

ここでは、子会社売却を行うメリットとデメリットをそれぞれ説明します。

子会社売却をする3つのメリット

子会社売却を行うメリットは、以下のとおりです。

  1. 業績不振の子会社を切り離せる
  2. 主力事業にリソースを集中できる
  3. 子会社売却による利益を得られる

それぞれについて確認しましょう。

1.業績不振の子会社を切り離せる

子会社売却を行うことで、業績不振の子会社を切り離すことが可能です。

連結子会社が赤字を出している場合、グループ全体の業績が悪く見えてしまいます。また、子会社のキャッシュフローが悪化している場合は、親会社が補填しなければなりません。業績不振の子会社を売却することで、このような負担を軽減することができます。

2.主力事業にリソースを集中できる

子会社売却をすることで、主力事業にリソース(経営資源)を集中させられます。

子会社を運営する場合、人事や経理など、親会社と子会社の業務が重複することは多くあります。また、子会社をモニタリングしたり、業績を分析したりするためのコストも必要になるでしょう。子会社を手放すことでリソースの無駄を省けるため、主力事業に注力できるようになります。

3.子会社売却による利益を得られる

子会社売却を行うことで、企業価値に見合った一定のキャッシュを手に入れることができます。

子会社売却で手に入れたキャッシュは主力事業に投下したり、経営再建のために使えたりします。これにより主力事業を成長させられれば、より売上・収益のアップが期待できるようになります。
ただし、債務超過の子会社などを売却した場合は、十分なキャッシュが見込めないかもしれません。

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子会社売却をする3つのデメリット

子会社売却を行うデメリットは、以下のとおりです。

  1. 人材やノウハウが流出してしまう
  2. 子会社とのシナジー効果がなくなる
  3. ブランドイメージが下がる可能性がある

それぞれについて確認しましょう。

1.人材やノウハウが流出してしまう

子会社売却を行うと、人材やノウハウなどが流出することになります。

子会社売却では、基本的に従業員やノウハウなどを全て買い手企業に譲渡します。そこには手間をかけて育てた人材や、時間をかけて蓄積したノウハウなども含まれます。人材・ノウハウの流出が親会社の経営に良くない影響を与える可能性もあるので注意してください。

また、子会社を売却したことによって親会社の業績不振が疑われて、親会社に勤める従業員に不信感を与えてしまう可能性があります。その結果、従業員が離職してしまうこともあるでしょう。

2.子会社とのシナジー効果がなくなる

子会社売却によって、子会社とのシナジー効果が失われてしまうケースもあります。シナジー効果とは、2社以上の企業が協力することで得られるビジネス上の相乗効果のことです。たとえば、販路拡大による売上アップや、流通経路の最適化によるコスト削減などが挙げられます。

関連性が小さい子会社を売却する場合であれば、シナジー効果が問題となる可能性は低いです。しかし、関連性が大きい子会社の場合は、親会社の経営に良くない影響が生じてしまうでしょう。

3.ブランドイメージが下がる可能性がある

子会社売却をすることで、ブランドイメージが損なわれてしまうリスクがあります。

特に、売却する子会社がグループの中心的存在だった場合、グループ全体のブランド力の低下につながります。
また、「子会社を売却した」という事実だけでブランドイメージが下がる可能性があります。ブランドイメージが下がったことで他社にとっての利用価値が下がり、取引先に契約を切られてしまうこともあるでしょう。

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子会社売却のスキーム

子会社売却で用いられるスキームには、以下のようなものがあります。

  • 株式譲渡:売り手企業が子会社の株式を買い手企業に譲渡する手段
  • 会社分割(新設分割):子会社の事業を切り出して新法人に承継させたあと、その新法人の株式を譲渡する手段
  • 事業譲渡:子会社の事業の一部・全部を切り離し、買い手企業に譲渡する手段

ここでは、子会社売却のスキームについて詳しく説明します。

株式譲渡による子会社売却

株式譲渡とは、売り手企業の株式を買い手企業に譲渡するM&Aスキームのことです。売り手企業の株主が現金を受け取り、買い手企業に株式の一部または全部を譲渡します。

子会社売却の場合は、親会社が保有する子会社の株式を第三者に譲渡することになります。子会社売却のスキームはいくつかありますが、株式譲渡が最も一般的な手段といえるでしょう。

株式譲渡の中にもいくつか種類がありますが、子会社売却では基本的に相対取引が行われます。この理由は、子会社の多くは非上場企業であり、直接株式の売買をする必要があるからです。なお、必ずしも100%の株式を取得するとは限らず、51%以上の取得などにする場合もあります。

会社分割(新設分割)による子会社売却

会社分割とは、新法人や他法人に自社の事業を切り出して承継する組織再編手段を指します。会社分割には2種類あり、既存の会社に事業を承継する方法を「吸収分割」、新規で設立した会社に事業を承継する方法を「新設分割」と呼びます。
子会社売却に用いられる方法は、主に新設分割です。

まずは新設分割により、新たに設立した法人に子会社の事業を切り出して移行させます。そのあと、子会社の事業を引き継いだ新法人の株式を、第三者に譲渡します。これで、子会社売却の完了です。

事業譲渡による子会社売却

事業譲渡とは、事業の一部または全部を買い手企業に譲渡するM&Aスキームのことです。前述した株式譲渡や会社分割とは異なり、株式の売買ではなく、事業そのものの取引を行います。

子会社の株式ではなく、事業を第三者に譲渡する方法です。広義の意味での「子会社売却」だといえます。
事業譲渡により子会社売却を行う場合も、一般的な事業譲渡の流れと同じです。売り手企業と買い手企業で事業譲渡に関する交渉を行い、合意に至れば譲渡となります。

関連記事:会社売却の相場や税金はどれくらい?準備からクロージングまでの流れも解説

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株式譲渡による子会社売却の流れ

株式譲渡による子会社売却は、最も一般的なスキームです。
ここでは、株式譲渡による子会社売却の流れを紹介します。

  1. 子会社売却の準備~基本合意書の締結
  2. 親会社から子会社へ株式譲渡承認の請求
  3. 子会社から親会社へ株式譲渡承認の通知
  4. 親会社と譲渡先間で株式譲渡契約の締結
  5. 子会社に対して株主名簿の書き換え請求
  6. 譲渡先に株主名簿記載事項証明書の交付

各プロセスについて詳しく解説します。

1.子会社売却の準備~基本合意書の締結

子会社売却の場合も、準備から基本合意書の締結までの流れは一般的なM&Aと同じです。子会社売却の準備から基本合意書の締結までのステップは下記のとおりです。

  1. 子会社売却の戦略策定
  2. 買い手選定(マッチング)
  3. 仲介会社やFAなどの選定
  4. ノンネームシート等の作成
  5. 秘密保持契約(NDA)の締結
  6. バリュエーション(企業価値評価)
  7. M&Aスキームの検討・策定
  8. 基本合意書の締結

基本合意書を無事に締結できたら、その後は買い手企業によるデューデリジェンスが行われます。そして、デューデリジェンスも完了したら、子会社売却のための株式譲渡契約の交渉が始まります。親会社と譲渡先との間で株式譲渡契約の交渉が開始されたら、次のステップに進むことになります。

2.親会社から子会社へ株式譲渡承認の請求

子会社売却を行う場合、親会社から子会社に対して、第三者への株式譲渡の承認を請求する手続きが必要になります。その際、一定の要件を満たしている場合は、親会社側で株主総会を開催し、承認請求をするための特別決議をとる必要があります。以下で、この流れについて詳しく確認しましょう。

臨時取締役会を開催する

親会社の臨時株主総会を招集するためには、親会社の臨時取締役会を開催する必要があります。臨時取締役会では会社法に従い、以下の事項を決議し、臨時株主総会の招集を行うことになります。

  • 株主総会の日時と場所
  • 株主総会を開催する目的事項
  • 株主総会を欠席する株主が、書面で議決権を行使できる旨
  • 株主総会を欠席する株主が、電磁的方法で議決権を行使できる旨

上記のほかに、会社法施行規則第63条に規定されている事項
臨時株主総会は定時株主総会と異なり、いつでも開催することが可能です。ただし、株主に対する招集通知は、株主総会の日の1週間前または2週間前までに行います。また、招集通知は口頭、電話、メールでもできますが、一般的には書面を使うことが多いです。

臨時株主総会を開催する

従来は、子会社の株式譲渡であれば親会社側で株式総会を開催する必要はありませんでした。しかし、子会社売却も通常の事業譲渡と同視できるため、2015年に改正会社法が施行されています。これにより、以下の条件を満たす子会社売却の場合は株主総会での特別決議が必要になりました。

  1. 親会社の総資産の5分の1超を占める子会社株式の譲渡である場合
  2. 株式譲渡により親会社の当該子会社の議決権が過半数を下回る場合

上記に該当する場合、親会社側の臨時株主総会を開催し、子会社売却に関する特別決議を行います。特別決議とは、議決権を持つ株主の過半数が出席し、その出席した株主の3分の2以上の賛成が必要な決議のことです。なお、3分の2以上の賛成が得られなければ、子会社売却は「否決」されます。

株式譲渡承認を請求する

臨時株主総会の特別決議が承認されたら、子会社に対して株式譲渡承認の請求を行います。株式譲渡承認の請求とは、株式譲渡制限会社の株式を第三者に譲渡する承認を得る請求のことです。この承認を得ることができなければ、株式の譲渡を行っても株主名簿の書き換えを請求できません。

子会社の多くは非上場会社であり、非上場会社の多くが株式譲渡制限会社となっています。会社が株式に譲渡制限をかける理由は、望まない人物に株式(経営権)を取得させないためです。そのため、子会社売却をする場合、ほとんどのケースでこの株式譲渡承認の請求が必要になります。

実際にこの手続きを行う際には「株式譲渡承認請求書」という書類を作成し、子会社に送付します。株式譲渡承認請求書には、譲渡制限株式の種類や数、譲渡の相手先などを記載することになります。
譲渡先との話し合いが十分行われていれば、株式譲渡承認請求書の作成はそこまで難しくないでしょう。

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3.子会社から親会社へ株式譲渡承認の通知

親会社側で子会社売却の特別決議の承認が得られたら、株式譲渡承認請求書が送られてきます。この請求書を受け取ったら、2週間以内に親会社に対して株式譲渡の承認・不承認の通知を行わなければなりません。通常、臨時株主総会などで普通決議を行い、その後通知をすることになるでしょう。

臨時株主総会を開催する

株式譲渡承認の請求をされた場合、取締役会設置会社では取締役会が承認するかどうか判断します。
しかし子会社の場合、親会社が経営を支配するために取締役会を設置していないケースも多いです。
このような場合には子会社側の臨時株主総会を開催し、株式譲渡承認に関する普通決議を行います。

普通決議とは、議決権を持つ株主の過半数が出席し、その出席した株主の過半数の賛成が必要な決議のことです。親会社側での株主総会と異なり、特別決議ではなく普通決議による採決となります。
なお、完全子会社の株主総会では「書面決議」を採用でき、株主総会を省略することが可能です。

株式譲渡承認を通知する

臨時株主総会で株式譲渡に関する承認を得たら、親会社に対して株式譲渡承認の通知を行います。なお、2週間以内に株主に承認・不承認の通知をしなければ株式譲渡を承認したものと扱われます。

株式譲渡の承認を通知する際には、「株式譲渡承認通知書」を作成し、送付するのが一般的です。通知書の書式は請求書とほぼ同じで、譲渡制限株式の種類や数、譲渡の相手先などを記載します。この通知書の発送をもって、子会社から親会社へ株式譲渡承認の通知のステップは完了です。

4.親会社と譲渡先間で株式譲渡契約の締結

子会社から株式譲渡の承認を得られたら、親会社と譲渡先で株式譲渡契約の締結を行います。株式譲渡契約とは、株式の種類や数を決定し、所有権を移転させる株式の売買契約のことです。当事者同士がこの契約を締結することで、子会社の株式の譲渡を行うという効力が発生します。

株式譲渡契約時に作成する書類は「株式譲渡契約書」と呼ばれるものです。この契約書には合意内容、譲渡する株式の種類や数、対価の支払い方法・期限などを記載します。契約内容により記載事項は変わるため、契約書の作成は弁護士に依頼することをおすすめします。

5.子会社に対して株主名簿の書換請求

株式譲渡契約を締結したら、親会社と譲渡先の共同で子会社に株主名簿の書換請求を行います。この株主名簿の書換請求は、子会社に対して株式の移動が生じたことを伝えるために必要です。また、株主名簿の名義の書き換えをしなければ、株主は子会社や第三者に対して対抗することができません。

株主名簿の書換請求の際には、「株主名簿名義書換請求書」という書類を使うことになります。この請求書には、株式の種類や数といった株式譲渡契約で締結した内容を記載して作成します。これを子会社に対して送付することで、子会社は株主名簿の名義人の書き換えを行ってくれます。

6.譲渡先に株主名簿記載事項証明書の交付

株主名簿の書換請求を行った譲渡先は、子会社に株主名簿記載事項証明書の交付を請求します。株主名簿記載事項証明書とは、請求者が株券所有者であることを証明してくれる書類です。この請求をされた子会社は、譲渡先に対し代表取締役の署名・捺印入りの同証明書を交付します。

ここまで手続きが完了すれば、株式譲渡の効力が正式に発生することとなります。なお、株式譲渡から一定期間経過したあとに、買い手企業から株式譲渡に関する決済が行われます。契約内容によって異なりますが、通常は1~2ヶ月後となるので忘れずに代金を受け取りましょう。

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子会社売却をする際の仕訳と税金

ここでは、子会社売却を行った際の仕訳と税金について説明します。

子会社売却をしたときの仕訳のポイント

子会社売却を売却したときの仕訳は、単体上の場合と連結上の場合で異なります。以下で、単体会計と連結会計それぞれのポイントについて確認しておきましょう。

単体上の場合

単体上の場合、子会社の取得金額と売却金額の差額を「子会社株式売却損益」で計上します。また、仕訳自体は子会社株式や子会社株式売却損益を記載するだけのシンプルなものになるでしょう。下記はその一例です。

  • 借方:現預金○○
  • 貸方:子会社株式○○、子会社株式売却損益○○

連結上の場合

連結上の場合、子会社売却に伴い売却損益の修正が必要になります。そのため、単純な仕訳ではなく、連結消去や修正仕訳などの複雑な処理を行う必要があるでしょう。つまり、単体上の会計と異なり、利益剰余金増加高やのれんなどの勘定科目も使うことになります。例としては以下のようになります。

  • 借方:現預金○○、のれん○○、子会社株式売却損益○○
  • 貸方:子会社株式○○、利益余剰金増加高○○

子会社売却をしたときの税金のポイント

子会社売却により株式譲渡益(売却益)が発生した場合は、法人税等が課されます。このとき、法人税等の課税対象になるのは、株式譲渡益を含めた法人の所得の合計額です。

法人税等とは、法人税、法人住民税、法人事業税などを合わせたものを指します。地方税も含まれるため地域差はありますが、一般的な法人税等の税率は30~33%です。子会社売却により株式譲渡益が発生すると、その分法人税が多く課されるので注意しましょう。

もし子会社売却による法人税等が多く発生するなら、以下の節税対策を検討するのもおすすめです。

  • 親会社の年度決算が赤字のときに子会社売却を行うことで、赤字と譲渡益を相殺する
  • 子会社にある不要な資産を親会社に移動させておくことで、売却時の株式譲渡益を少なくできる

ただし、適切でない節税対策を行ってしまった場合、税務調査の際に指摘を受けてしまうリスクがあるので注意しましょう。

特に国や地域を跨ぐクロスボーダー案件では、当該国や地域の租税条約を事前に確認しておきましょう。必要に応じてその国・地域の税金や法律に詳しい専門家のアドバイスをもらうことが重要です。

また、子会社売却に伴う配当の受け取りに関しては、基本的に税金がほとんどかからないことにも留意が必要です。これは配当の多くが益金不算入として処理されるためです。

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子会社売却をした場合の株価への影響

子会社売却を行った場合、株価に影響が出る可能性は高いといえます。市場が、子会社売却が親会社にとってポジティブなことと判断すれば株価は上がるでしょう。一方、子会社売却が親会社にとってネガティブなことと判断されれば株価は下がると予想されます。

たとえば、子会社売却により株価が上がるケースと下がるケースには以下のようなものがあります。

【株価が上がる可能性があるケース】

  • 主力事業への集中が期待できるケース
  • 赤字縮小やコスト削減が期待できるケース など

【株価が下がる可能性があるケース】

  • 親会社の経営再建のための子会社売却のケース
  • 主力事業に関連する子会社の売却であったケース
  • ブランドイメージが損なわれたと判断されたケース など

株価への影響は、子会社売却そのものの事実だけでなく、売却による将来への期待値も含まれます。そのため、将来的に事業が改善する、会社が成長すると判断されればプラスの影響が期待できます。

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子会社売却をした場合の従業員の処遇

株式譲渡による子会社売却であれば、基本的に変わるのは株主だけです。子会社に勤めていた従業員は、従来どおりその会社で働き続けることができます。株式譲渡であれば労働契約が変更されることもありません。そのため、子会社売却に伴い給与や勤務時間、勤務地などが急激に変わることはないでしょう。

ただし、ある程度の時間が経ってから、労働契約の見直しが行われることはあります。子会社の業績次第ですが、減給やボーナスカット、配置転換などが行われる可能性もあるでしょう。

また、もし子会社に勤めていた従業員を整理解雇する必要がある場合は、下記の解雇要件を満たす必要があります。

  • 人員整理を行う経営上の必要性があること
  • 経営者による十分な解雇努力義務が見られること
  • 従業員の選定基準や基準の適用に合理性があること
  • 労働組合や従業員と十分な協議が行われていること
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子会社売却を行うときの5つの注意点

子会社売却を行うときには、以下のような注意点を意識する必要があります。

  1. 売却価格の算定方法
  2. 低額譲渡による課税
  3. 競業避止義務の有無
  4. キーマン条項の有無
  5. 株式売却の評価損計上の会計上と税務上での差異

子会社売却に関する注意点についてそれぞれ詳しく解説します。

1.売却価格の算定方法

子会社の多くは非上場会社であり、非上場会社の株式には市場価格が存在しません。そこで一般的には、以下のようなアプローチを用いて非上場会社の株式価格を算定します。

  • マーケットアプローチ:過去のマーケットの取引価格を参考にした算定方法
  • インカムアプローチ:子会社が生み出す将来の収益・利益を参考にした算定方法
  • コストアプローチ:子会社の資産を再取得するのに要するコストを基にした算定方法

通常、子会社売却などのM&Aでは、買い手企業が価格の算定を行うことが多いです。しかし、買い手企業に任せきりにすると、本来よりも安い価格を提示される可能性もあります。売り手企業も独自に売却価格を算定するようにし、妥当な金額で子会社の売却を行いましょう。

また、子会社特有のバリュエーションの論点としては、子会社単体での本源的な企業価値の見極めが挙げられます。子会社の事業計画のうちいくつかは、親会社のブランド力やサポートによる影響も反映されているはずです。

したがって、単純に子会社の事業計画をベースにした算定を行うと、本質的な子会社の価値と乖離する可能性が出てきてしまい、バリュエーションの算定結果が高くなってしまいます。この場合は、親会社の影響による要素を洗い出し、一定の係数などを用いてその影響分を差し引くことが必要になります。

2.低額譲渡による課税

子会社売却を行う際は、時価よりも低額で株式譲渡をする「低額譲渡」に注意する必要があります。株式譲渡が低額譲渡と判断された場合は、その金額差は「寄付金」として扱われることになります。法人の寄付金には損金算入限度額があり、一定額以上は損金対象にならないため注意しましょう。

たとえば、合計取得金額5,000万円、時価2億円の株式を、譲渡金額7,000万円で売却したとすると、以下のようになります。

  1. 本来の時価2億円で売却したとみなし、株式譲渡益は1億5000万円となる
  2. 会計上と実際の現金の動きを合わせるために、時価と譲渡金額の差額である1億3,000万円は売却先への寄付金として扱われ、寄付金における損金算入限度額を超えた金額が損金不算入となる
  3. 1億5000万円から寄付金の損金算入限度額を引いた金額に、法人税がかかる

こうした注意点も存在するため、子会社の売却価格の算定は適切に行うほうが望ましいでしょう。

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3.競業避止義務の有無

子会社売却の契約締結をする際は、競業避止義務に関する取り扱いに注意する必要があります。競業禁止義務とは、特定の者による事業活動に対して不利益になる競合行為をしない義務のことです。子会社売却の際に競合禁止義務を締結した場合、売り手は譲渡した事業と競合するような事業を再度行うことが禁止されます。
M&A後に売り手企業に競業をされると、買い手企業のメリットが減ってしまうため設けられます。

親会社の事業と子会社の事業が全く異なるなら、競業避止義務を設けても問題はないでしょう。しかし、同様の事業を行っている場合は、親会社の事業に影響が出てしまう可能性があります。そのため、子会社売却をする場合は、競業避止義務の取り扱いについて十分注意をしましょう。

なお、競業避止義務を含む契約を締結した場合、20年間にわたり同様の事業ができなくなります。子会社売却に伴い事業領域に制限が生じてしまうリスクがある点にも注意をしておきましょう。

4.キーマン条項の有無

子会社売却の契約締結時には、キーマン条項(ロックアップ)について取り決めることもあります。キーマン条項とは、M&A成立後も一定期間はキーマンが会社に在籍し続ける取り決めのことです。キーマンに退職されると事業に影響が出るため、契約書にはキーマン条項を設けるのが一般的です。

キーマン条項に違反した場合、株式譲渡契約違反に基づく賠償金を請求されるリスクが生じます。そのため、キーマン条項を設ける際は必要性や在籍期間などをよく確認・検討する必要があります。通常は、5年程度が目安です。あまりに長いと役員・従業員の負担が重くなるため注意しましょう。

5. 株式売却の評価損計上の会計上と税務上での差異

子会社の株式を売却するには、評価損の計上の仕方にも留意が必要です。具体的には、評価損は会計上では特別損失として計上しますが、税務上では損金算入しないため計上の対象外となります。

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子会社売却の事例

本稿の最後に、子会社売却の事例を紹介します。

東芝グループ再編

東芝グループといえば、かつては代表的なグローバル企業の1つでしたが、現在は市場環境の変化や経営不振などによって、東京証券取引所への上場廃止にまで至る状況となっています。

この過程で、東芝は経営回復を目指し、選択と集中のためにいくつかの主力事業を売却してきました。代表的な事例としては以下が挙げられます。

  • 白物家電事業(2016年:東芝ライフスタイル→美的集団)
  • 医療機器事業(2016年:東芝メディカルシステムズ→キヤノン)
  • メモリ事業(2017年:東芝メモリ/現キオクシア→Pangea)
  • パソコン事業(2018年:東芝クライアントソリューション/現Dynabook→シャープ)

いずれも過去の東芝の経営を支えていた主力事業でしたが、さまざまな背景により上記の期間に他社へと売却を決定しています。

売却された事業は譲渡後、いずれも順調に回復し現在では好調を維持しています。したがって、売却対象の事業にとっては本件の子会社売却は良かったと言えるかもしれません。一方で、東芝の目線からすれば、子会社売却の判断が本当に正解だったかは議論の余地があると言えるでしょう。

参照元:日本経済新聞「東芝、美的集団と白物事業売却で最終合意

株式会社資生堂パーソナルケア事業の売却

2021年に株式会社資生堂が、TSUBAKIやSENKA、unoなど低価格帯の商品を扱うパーソナルケア事業を、投資ファンドであるCVCキャピタルパートナーズに売却した事例です。

中高価格帯の商品販売など他事業にリソースを割きたい資生堂全体の戦略に加え、パーソナルケア事業自体の今後の成長性、およびマーケティング費などの投資が必須な事業構造などを考慮して売却を決定したと推察されます。

また本件では、売却後も資生堂は35%出資という形でパーソナルケア事業に関与しており、完全に事業を売却したわけではないという点に留意が必要です。

資生堂とCVCキャピタルパートナーズ、パーソナルケア事業の三方良しの事例と言えるかもしれません。

参照元:日本経済新聞「資生堂、パーソナルケア製品の生産事業譲渡に伴う会社分割(簡易吸収分割)等について発表

トヨタ自動車株式会社によるデンソー株の一部売却

2023年にトヨタ自動車株式会社などがグループの中心子会社の1つであるデンソー株をおよそ10%売却した事例です。

トヨタ自動車だけでなく、豊田自動織機やアイシンなどもデンソー株の一部保有分を売却し、合計で10%、約6,700億円ほどの金額になると見込まれています。

背景としては、売却によって得た資金を、今後の成長戦略の柱である電気自動車やソフトウェアなどの分野に投資するためだと推測されます。また、持分比率をあえて低くし、親会社と子会社の連携を緩めることで、個社やグループ全体の競争力強化を促すことも狙いの1つと言えるでしょう。

参照元:日本経済新聞「トヨタ、EV投資を優先 デンソー株を一部売却

米ゼロックスによる富士ゼロックスの売却

2019年に発表された米ゼロックスによる子会社売却の事例です。米ゼロックスは、子会社である富士ゼロックスを、富士フィルムホールディングスに売却しました。本件は最終的に約2,500億円の売却で合意しましたが、経緯は複雑でした。

富士フィルム側は当初、米ゼロックス本体を買収しようと交渉していたものの破談になってしまい、関係修復のために子会社の富士ゼロックスの買収に至ったと言われています。また、米ゼロックス側は、売却によって得た資金を米ヒューレット・パッカードの買収に用いる計画でしたが、こちらの買収も破談に終わっています。

したがって、両社の思惑が期待どおりにいかなかった事例と言えるでしょう。その後、富士ゼロックスは2021年に富士フィルムビジネスイノベーションへと社名を変更し、ゼロックスとの技術提携も終了しています。

参照元:日本経済新聞「米ゼロックス、富士ゼロ株の売却完了 2500億円で

株式会社西友によるファミリーマートの売却

1998年に株式会社西友がファミリーマートを伊藤忠商事に売却した事例です。西友の親会社であるセゾングループが持つ不良債権を圧縮し、グループ経営の立て直しをはかる目的で主力事業であったファミリーマートを売却しました。

そこからの伊藤忠商事によるファミリーマートの成長は周知の通りですが、当時の西友にとって本当に売却が正しい決断であったかどうかは、意見が分かれるところでしょう。

またセゾングループは、西友のプライベートブランドとして誕生した現在の無印良品も、同時期にスピンオフしています。無印良品は良品計画として現在の高成長を遂げるに至っているため、こちらも西友の子会社売却の決断については疑問が残るかもしれません。

参照元:日本経済新聞「ファミマ、セゾンと決別 消える「無印」ドンキ色じわり

パーソルホールディングス株式会社による保育事業の売却

最後に、2019年に人材会社大手パーソルホールディングス株式会社が、保育事業を株式会社ポピンズホールディングス(現ポピンズ)に売却した事例を紹介します。本件は、保育系の人材紹介事業などを営む子会社テンプスタッフ・ウィッシュを、保育園運営などを行うポピンズへ事業譲渡したケースです。

パーソルは人材紹介・派遣事業の1領域として運営していたウィッシュを保育事業として捉えたときに、保育業界における他社への売却が適切だと判断したと推察されます。売却によってパーソルは事業の選択と集中、および資金の獲得が実現し、ウィッシュはより親和性の高い保育系の事業会社の傘下となりました。また、買い手となるポピンズも保育事業の強化につながるというメリットがあり、三方良しの事例と言えるでしょう。

実際に現在もウィッシュはポピンズにおける主力事業の1つとして運営されていることから、結果的に本件は各社にとって成功だったと言えるかもしれません。

参照元:日本経済新聞「不足の保育士、M&Aで確保 ポピンズが同業買収

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まとめ

子会社売却とは、親会社が所有している子会社を第三者に売却することです。業績不振の子会社を手放したり、主力事業にリソースを集中したりするために、行われることが多くあります。子会社売却のスキームには、株式譲渡・会社分割・事業譲渡の3つがあり、株式譲渡を用いることが一般的です。
子会社を売却したことで得られる利益は、「子会社株式売却損益」で仕分けします。連結子会社の場合は、売却益を計上するだけでなく、会計上の連結消去や修正仕訳などの複雑な処理を行う必要があるので、注意してください。

また最後の事例で紹介したように、子会社売却に至る各社の背景や実施方法はさまざまです。ひとえに売却といっても、何を目的とし、どういったスキームで誰に売却するかは、戦略的で慎重な判断が必要と言えるでしょう。

このように、子会社を売却する際には、M&Aや会計についての専門的な知識が必要不可欠です。もし子会社売却を進めるにあたって不安がある場合は、専門家に相談することを検討してみても良いでしょう。

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