法務DD(デューデリジェンス)とは?目的や費用感、チェックリストも紹介
2023年8月21日
このページのまとめ
- 法務DDとは、主にM&Aで買い手が対象会社に関する法的リスクを洗い出す調査のこと
- 法務DDの調査項目は、株主の状況や契約の状況、訴訟問題など
- 法務DDにかかる費用相場は調査内容によって異なるが、およそ数十万円から数百万円
- 法務DD実施にあたって、資料だけで法的リスクを判断しないことに注意が必要
デューデリジェンスを進めるにあたって、「法務DDとは何?」と気になっている方もいるのではないでしょうか。法務DDとは、M&Aで対象会社が営む事業に関する法的リスクを洗い出すデューデリジェンスのことです。
本コラムでは、法務DDやデューデリジェンス業務全般の概要を紹介します。また、法務DDを実施するにあたって注意すべき点もまとめているため、今後M&Aを予定している方はぜひ参考にしてください。
目次
法務DD(デューデリジェンス)とは
法務DDとは、法的側面から問題点やリスクを調査するデューデリジェンス業務のひとつです。M&Aを実行する際、対象会社に対して法務DDを実施します。
デューデリジェンス業務について説明してから、法務DDの特徴や目的について詳しく解説します。
そもそもデューデリジェンス業務とは
デューデリジェンス(Due Diligence、買収監査)とは、投資をおこなう際に対象会社の価値やリスクなどを調査することです。略して、DDやデューデリと呼ぶこともあります。
M&Aでは、買収側(買い手)が弁護士や公認会計士、税理士などの専門家に依頼して売却側(売り手)を調査することが一般的です。M&Aを進める際は、以下のようにさまざまなデューデリジェンスを実施します。
- 法務DD(デューデリジェンス)
- 財務DD(デューデリジェンス)
- 税務DD(デューデリジェンス)
- ビジネスDD(デューデリジェンス)
- ITDD(デューデリジェンス)
- 人事DD(デューデリジェンス)
実施するデューデリジェンスは、M&Aの規模や調査に割ける予算などを鑑みて決定します。
法務DDの特徴や目的
対象会社や、対象会社が営む事業に関する法的リスクを洗い出すために必要な作業である点が、法務DDの特徴です。法務DDでは、主に以下の内容を調査します。
- 対象会社の株主関係
- 契約書(売買契約・業務委託契約・賃貸借契約など)の記載事項
- 許認可の取得
- 会社の役職員の労務
- 登記関係
- 会社の資産や負債
買い手が法務DDを実施する主な目的は、M&Aで法的問題点を把握し、あらかじめ対策を検討するためです。法務DDで判明した法的問題点の深刻度によって、買い手が買収価格を引き下げたり、M&Aを中止したりすることがあります。
法務DDの報告書に盛り込まれる内容
法務DD実施後、専門家が調査内容を報告書(レポート)にまとめて買い手に報告します。法務DDの報告書に盛り込まれるのは、対象項目に関する調査内容や、法的な観点からの状況分析・問題点の有無などです。
定型がないため、報告書式は各調査機関によって異なります。報告書に盛り込まれるボリュームもさまざまのため、有益な情報を提供する機関に依頼するようにしましょう。
関連記事:デューデリジェンス(DD)とは?意味や実施の流れをわかりやすく解説
法務DDと財務DDや税務DDとの違い
対象会社の何をチェックするかが、法務DD・財務DD・税務DDの主な違いとして挙げられます。
財務DDとは、対象会社の財務に関するリスクを調査することです。対象会社の過去の財務諸表や決算書を通じて、実態純資産や正常収益力、負債の額などを把握します。
税務DDとは、対象会社の税務(税)に関するリスクを調査することです。対象会社の過去の申告書や税務調査の資料などを通じて、申告・納税漏れで追徴課税される可能性はないかなどを確認します。
なお、法務DDは弁護士、財務DDは公認会計士、税務DDは税理士や公認会計士に依頼することが一般的です。
法務DD(デューデリジェンス)のチェックリスト
法務DD(デューデリジェンス)で調査するべきチェックリストを以下にまとめました。
- 株主・株式の状況
- 債権・債務状況
- 取引内容・契約内容
- コンプライアンス・法令遵守
- 知的財産権
- 訴訟・紛争
- 許認可
- 環境問題
各チェック項目の概要を詳しく解説します。
1.株主・株式の状況
「株主・株式の状況」では、売り手が法律上適切に株式を所有している株主なのかをチェックします。また、株主の中に今後紛争が生じうる株主がいないかどうかも確認しなければなりません。
株式の譲渡制限の有無を確認することもポイントです。定款に譲渡制限の定めがある株式を取得する場合、買い手が経営権を得るためには取締役会や株主総会の承認を得なければなりません。
そのほか、株主が変動する可能性や、変動が議決権に及ぼす影響なども検討しましょう。
2.債権・債務状況
「債権・債務状況」では、債権の管理状況や、すでに無効になっている債権はないかなどを確認します。確認する主な内容は、以下のとおりです。
- 不動産
- 金融資産
たとえば、不動産を調査する際は、登記簿謄本などで所有権や担保状況などを確認します。
なお、簿外債務(貸借対照表に記載されていない債務)の存在は財務DDで確認することが一般的です。効率よくデューデリジェンス業務を実施するために、あらかじめ法務DDと財務DDの対象範囲を明確にしておくとよいでしょう。
3.取引内容・契約内容
「取引内容・契約内容」では、既存契約の有効性や適法性などを確認します。書面化されていない契約関係についても確認が必要です。
また、対象会社が顧客・クライアントとどのような経緯で契約を交わしているのかも確認します。取引内容によっては、M&A実施後に継続できないこともあるでしょう。とくに、対象会社の現経営者の個人的付き合いなどで契約をとっている場合、注意が必要です。
4.コンプライアンス・法令遵守
「コンプライアンス・法令遵守」では、対象会社の社内規定に問題はないか、法令に違反していることはないかなどを確認します。また、M&Aを実施する際の契約書の文面に法的問題がないかも確認しなければなりません。
「コンプライアンス・法令遵守」でチェックする主な法令や項目は、以下のとおりです。
- 反社会的勢力への関与
- 個人情報保護法
- 会社法
- 税法
- 労働関係の法令
上記以外に、業務に関する法令があれば、遵守しているかをチェックします。
5.知的財産権
「知的財産権」では、対象会社の知的財産権の管理状況を確認します。また、具体的な権利関係がどうなっているか、知的財産権の侵害はないかを把握することも重要です。
知的財産権には、以下のような権利が含まれます。
- 特許権(発明を保護する権利)
- 商標権(他社の商品やサービスと区別するための文字やマークを保護する権利)
- 著作権(文芸や音楽などの著作物を保護する権利)
特許や商標権は登録によって権利が発生するため、特許庁に備えられた「登録原簿」で権利関係を確認できます。
なお、法務DDで知的財産権をチェックする際は、弁護士だけでなく弁理士に依頼することもあるでしょう。
6.訴訟・紛争
「訴訟・紛争」では、対象会社が抱えている訴訟がないかなどを確認します。訴訟中の場合は、勝敗の見通しや損害賠償請求の見込み額を把握することも必要です。
また、今後訴訟問題に発展しうる契約がないかも確認します。訴訟になりうる主な課題は、以下のとおりです。
- 従業員に対する未払い賃金がある
- 従業員が不祥事を起こしかねない
- 顧客との間に契約違反がある
- 第三者に対して不法行為をしている
とくに、対象会社が過去に訴えられている場合、訴訟リスクが高いといえます。入念な調査を実施しましょう。
7.許認可
対象会社の事業内容によって、許認可の取得状況を把握しなければなりません。対象会社が取得していても、M&A実施後に再取得しなければならないケースがあるため、あらかじめ確認が必要です。
8.環境問題
対象会社に関連する環境問題について確認しましょう。対象会社の所有する土地が土壌汚染されていないか、廃棄物や有害物質の処理は適切におこなわれているかなどの確認が必要です。
なお、環境DD(デューデリジェンス)として、対象会社に関する環境問題を別途調査することもあります。
法務DD(デューデリジェンス)の流れ
M&Aで法務DD(デューデリジェンス)を実施する際の流れは、以下のとおりです。
- 調査スコープを絞り込む
- 資料を分析する
- 経営者や従業員と面談する
- 問題点を検討して報告書を作成する
それぞれの内容を紹介します。
1.調査スコープを絞り込む
法務DDを進めるにあたって、調査対象や調査項目、調査期間などの調査スコープを絞り込みます。
調査対象とは、M&A対象グループのうち、どの会社を調査するかです。海外進出している場合は、海外子会社を含めるかも判断しなければなりません。
調査項目とは、チェックリストで紹介した項目のうち、どれを中心に調査するかです。膨大になる場合は、優先順位や重要度に応じて実施する調査項目を判断します。
調査期間とは、資料をいつまで遡って調査するかです。細かな調査が必要な項目は、長めの期間で調査します。
さらに、誰に法務DDを依頼するかなど、調査体制の検討も必要です。
2.資料を分析する
調査スコープを絞り込み、調査対象が整ったら、資料を分析します。分析にあたって、事前に対象企業に対して資料請求をすることが必要です。
M&A価格の下落につながりかねないため、売り手は自社のネガティブな情報を自発的に提供しようとしないでしょう。リスクを見逃さないために、買い手は専門家の意見を聞いて漏れなく資料請求することが重要です。
資料が揃ったら、定めた調査スコープをもとにして分析します。
3.経営者や従業員と面談する
分析結果が出たら、対象会社の経営者や従業員と面談します。面談は、分析時に感じた疑問点を解消したり、対象会社の事業内容をより深く理解したりするために重要な作業です。
対象会社の経営者との面談をマネジメントインタビューと呼びます。とくに経営者個人への依存度が高い会社ほど、マネジメントインタビューが大切です。
なお、面談前後に現地調査を実施する場合もあります。
4.問題点を検討して報告書を作成する
提供された資料の分析結果や面談内容に基づき、法律上の問題点を検討します。法律上の問題点が見つかった場合、それに対する対策を練らなければなりません。
最終的に、専門家チームが問題点などを整理して報告書(レポート)にまとめ、依頼者である買い手に提出します。報告書は、中間報告と最終報告の2段階に分けて提出することが一般的です。
買い手は、専門家から法務DDをはじめとするデューデリジェンスの報告を受けてから、M&Aの可否や条件を決定します。
法務DD(デューデリジェンス)にかかる費用
法務DDを依頼する際にかかる費用は、対象会社の規模によって異なります。法務DD相場のひとつの目安は、数十万円から数百万円です。
費用が予算を超える場合は、調査対象や調査項目、調査期間などの調査スコープを再検討しなければなりません。ただし、必要不可欠な項目もあるため、まずは信頼できる専門家に相談しましょう。
法務DD(デューデリジェンス)で注意すること
法務DDを実施するにあたって、いくつか注意しなければならない点があります。
まず、対象会社から得た情報を漏洩しないようにしましょう。万が一情報漏洩してしまうと信頼を失いM&A交渉が破談になったり、損害賠償請求されたりする可能性があります。
また、対象会社から提出された資料だけで法的リスクの有無を判断しないこともポイントです。対象会社は売却価格の下落を懸念し、有利な情報しか提供しない可能性があります。法的リスクを確認するために、マネジメントインタビューなどの内容も考慮しなければなりません。
さらに、M&Aの可否を判断する際は、法務DD以外のデューデリジェンスも実施することが大切です。M&Aを成功させるため、わからないことは曖昧にせず、早めに専門家に相談するようにしましょう。
まとめ
法務DDとは、M&Aで対象会社が営む事業に関する法的リスクを洗い出すデューデリジェンス業務のことです。法務DDの依頼を受けた弁護士などの専門家が、対象会社が抱える法的リスクなどについて調査し、結果をまとめて買い手に報告します。法務DDでチェックする項目は、株主・株式の状況、債権・債務状況、取引内容・契約内容などさまざまです。
法務DDをはじめとするデューデリジェンス業務では、注意すべき点がいくつかあります。そのため、信頼できる専門家に相談することがM&A成功につながるでしょう。
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